沖縄問題やTPPは、広いアジアの視野で見ねばわからない
翁長氏の訪中に対しての、中国共産党準機関紙「環球時報」(2015年4月14日)の記事です。
「中国のアジアとの運命共同体の理念や一帯一路構想、そしてアジアインフラ投資銀行の設立は多くの国の支持を受けつつあるが、日本では様々な複雑な理由により、中国の平和的理念が歪曲、あるいは無視されている。
それに対して沖縄は、中国の主張を比較的容易に受け入れることができる」
この環球時報の記事の中で、「一帯一路」とAIIBが出てくることに注目してください。
(漫画 ニューズウィーク)
「一帯一路構想」はAIIBとセットになった、昨今中国がひんぱんに使用している戦略用語です。
「一帯一路」とは、アジア「一帯」の、「一路」、つまりシーレーンや、陸の「シルクロード」を共有する諸国、ていどの意味です。
異常な海洋膨張を繰り返して、不安定化させている元凶の中国ですが、AIIBは、「一帯一路」であるアジア諸国に対して、資金を注いで、経済の力を借りて、「外国勢力の手を借りずアジア自身の力で紛争を解決する」ことを目的にする、と言っています。
「外国勢力」とは、説明の必要もないでしょうが、米国を指します。
この表現は、よく北朝鮮が「外国勢力なき朝鮮半島の平和」というような言い方をして、韓国からの米軍撤退を要求する場合に使う表現です。
ここでは中国は、日米同盟を基軸とする自由主義陣営に対抗して米軍を追い出し、中華帝国がアジア圏唯一の覇権国になるのだ、と言っているわけです。
ですから、AIIBは、表向きはインフラ投資ですが、その背景には軍事力が担保されています。
事実、米国のアジア・ピボット(回帰)で、米国に対して駐留を要請したフィリピンは、AIIB参加と共に、TPPを脱退しています。
また、ベトナムもまた中国に招待された共産党総書記が、「外国勢力抜きでAIIB参加国同士で南シナ海問題を解決しよう」と持ちかけられ、快諾しています。
この両国が、いままでいかに激烈な中国の海洋膨張にさらされて、米国に対して救援を求めてきたのかをみると、嘘のような出来事です。
このように、中国は「一帯一路」のアジア諸国を、経済力を武器にして、中華帝国圏に取り込むことに利用しているのです。
言うまでもなくわが国は、米国と協調してADB(アジア開発銀行)を作って、AIIBと緊張関係を持っていますので、その日本からこのような時期に翁長氏がノコノコと中国に出かけて、李克強と面談するということ自体、非常に政治的行動です。
ま、彼は分かってやっているんでしょうが。
このように沖縄問題は、本土と沖縄だけの視野で見ていては、絶対に理解できず、アジア全体の政治力学を視野に入れて判断すべきなのです。
さて、オバマ大統領は4月27日、ウォール・ストリート・ジャーナルとのインタビューに応じてこう述べています。
抜粋します。
「環太平洋経済連携協定(TPP)を成立させられなければ中国に経済的な隙間に入り込む余地を与えることになる。
われわれがルールを作らなければ、中国が(アジア)地域でルールを確立してしまう。そうなれば米国の企業や農業は締め出される。それは米国の雇用喪失を意味する。
中国には成功してもらいたい。中国には平和的な発展を望んでいる。それが世界にとっても良いことだろう。
ただ、米国をはじめすべての国が競争できるルールであることを確実にしたい。中国がその規模を利用し、われわれを不利な立場に追い込むようなルールの下で(アジア)地域の国に対して影響力を持って欲しくない」
この中でオバマは、TPP交渉当初には持っていなかった対中国という視点を前面に押し出しています。
これはAIIBが、経済力の力で今までの交易上の国際ルールーを変更し、人民元決済と中国流ルールに置き換えようとしていることに対する危機感の現れです。
TPP交渉初期には想定していなかったAIIBが登場した以上、それとの関係でTPPも考えねばなりません。
私も従来の、「TPPは日本の安全保障と無関係だ」という主張を修正することにします。
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AIIB抗争ぶち上げからの首相訪米・TPP交渉ですからね・・・
AIIBのバスは発車できないと思っています。
肝腎の出資側の日米が参加しないからです。
しかし昨日だか、中国の出資比率が3割以下と発表がありました。
中韓で5割超と言っていた当初に比べて相当弱気です。
もしかして、もう2押しした上で日米が参加もありではないかと?
日米で4割、ガバナンスと透明性の確保が条件です。
別に参加しなくてもADBの倍プッシュで解決ですが・・・
それよりも沖縄ですね。
翁長・李会談は、AIIBによる大規模投資、普天間基地利権も吹き飛ばすような景気の良い話が出たのではないかと危惧します。
投稿: プー | 2015年5月17日 (日) 06時41分
初めてコメントいたします。
私も民主党政権時にはTPPに反対の立場でした。
TPPと安全保障をリンクさせるかどうかは野田政権でも議論の俎上には乗っており、民主党にTPPと安全保障を議論させるのは危険であると判断したが故です。
今は違います。甘利大臣には頑張って欲しい。少しでも我が国に有利なように・・・。
沖縄については、、、もう少し時間が必要でしょう。鳩山政権がめちゃくちゃに壊した沖縄の政治状況は、はっきり言って不毛の荒野に近いものです。
失望してアナーキズムに流れた県民の政治感覚が元に戻るには、もうひと波乱くらいはありそうに思います。
投稿: まほろば | 2015年5月17日 (日) 14時10分