ケーススタディ米国 大停電は電力自由化の後に来る
電力自由化をやれば、電気は安くなり、原発はゼロになり、再エネは自由に参入できるので原発の代替になれる、そう反原発運動と構造改革派は主張しています。
経済産業省は、電力10社の発電・送配電・小売の事業部門を分離分割して、電気料金規制を全廃したりする電力全面自由化を進めています。
開放される電力市場は7.5兆円やで!参ったかぁ、どや、すごいビジネスチャンスやろう(←なぜか河内弁)、というのが、今や電力自由化派になった自民党の言い分のようです。
- 家庭でも電力会社を選べるようになります。
- どんな電気を使うか、自分で決められるようになります。
- 電気代を少しでも安く。
- 我慢の節電から、ライフスタイルに合わせた節電へ。
- 企業にとっても電気の選択肢が増えます。
- 60年ぶりの抜本改革は地域に新しい産業を創出し、雇用を生み出します。
- 新しい電気事業者のチャンスが膨らみます。
- 消費者目線の電力ビジネスも広がります。
これを読むと、どうもこの「電力システム改革」は、「電源選択の自由」と新規ビジネスチャンスが売り物のようです。
では、その電力自由化失敗の宝庫、米国の場合を検証してみましょう。
米国では、時代背景として、インフラの自由化が驀進中でした。
航空、鉄道、通信といった産業での規制緩和・自由化が価格の低下や市場の拡大をもたらしたと総括されて、次は電気事業の自由化だというのが、当時の米国の自然な流れだったようです。
そこにレーガノミックスの信奉者で、構造改革派のグレイ・デービス・カリフォルニア州知事が、電力自由化に元気よく手を上げたわけです。
そして州知事の大号令で、人口3400万、GDP比15%、ITや航空宇宙機産業などの先端産業を有する米国最大の州のカリフォルニアは、先陣を切って1998年4月に電力市場の完全自由化をスタートさせました。
(図 エネルギー未来技術フォーラム 「電力自由化時代の電気事業」)
では、そのカリフォルニア州の電力自由化を検証してみましょう。カリフォルニア州のケースには、電力自由化以後、必ず発生しそうなことがたっぷり詰まっています。
カリフォルニア州は、電力自由化からわずか2年たらずの2000年に、大規模ブラックアウト(停電)を引き起こしています。
そして以後、1年間に渡って慢性的電力不足と計画停電を続けて、カリフォルニア州社会と経済に大打撃を与えました。
ちなみにわが国の、東日本大震災における電気の復旧は、50%復旧まで1日、90%まで4日間でした。
おそらく、この規模の災害で世界最速でしょう。いかに堅牢な発送電構造を持っているかわかります。
それはさておき、大震災があったわけでもないのに、米国の大停電の原因はこのようなものでした。
電力自由化は、うたい文句では、自由化により、新たな発電所が建設され、発電所間の競争が激化し、電力の値段が下がり、サービスが向上するはずでした。 特に再エネ発電所が期待されていました。
しかしその「はず」は、現実にはなりませんでした。今までと違って、州政府と、電力会社が長い時間をかけて建設計画を煮詰めるのではなく、全部それを民間に丸投げしたからです。
ところが、丸投げされた方の民間は、電力供給義務から解放されています。今まで電力の安定供給こそが至上命題だったのが、自社の都合で出来るように変わったのです。
ここが電力自由化の最大のポイントです。今までと違って、電力会社は地域独占を放棄する代わりに、電力を送ろうと送るまいと自由になってしまうのです。
第2に、再エネ導入を電力自由化の縛りにすると、発電コストの上昇によって、発電業者の忌避が起きることです。
これがどんな恐ろしいことなのか、カリフォルニア市民たちも、すぐに気がつくことになります。
カリフォルニア州は、環境意識が高い州です。そのために環境負荷の少ない電源を、電力会社に一定割合で購入することを義務づけていました。
また、発電所も他の州より厳しい環境基準が設けられていました。
すると、このような州が定める高コストの再エネや、環境設置基準を嫌って、発電所の経営をあきらめる業者が続出しました。
これは、小売りが自由化されなかったために、利益が出るどころか逆ザヤになってしまったためです。
また、発電業者はライセンスだけ持って、余剰電力市場から電気を購入する道を選びました。
カリフォルニア州ならば、オレゴン州からの雪解け水の水力発電を買うということにしていたのですが、運悪く2000年冬のオレゴン州、ワシントン州の降雪量が例年をはるかに下回って、翌年の余剰電力市場が逼迫してしまったのです。
すると、当然のこととして発電量は減少していきます。そこに、あろうことか空前のITバブルがカリフォルニアを襲って、重要が急増したのですからたまりません。
しかも悪いときには悪いことが重なるもので、2000年夏は猛暑が襲い、天然ガスの輸入までもが高値になる始末です。
ここに恐ろしいばかりの、電力の需給ギャップが生じたわけです。
はい、ここで3番目の電力自由化失敗のポイントが出ました。
電力自由化という電源インフラをイヤでも不安定にするような手術は、電力事情が悪い時にやるな、ということです。
次に4番目として、当時のカリフォルニアのように、ITバブルの好景気で電力需要が急増している時には、絶対に避けろ、ということです。
これは、原発ゼロのためにギリギリで電力供給をしている状況であり、ようやく2万円台につけるような景気回復の芽が強くなった、現在の日本の状況と酷似しています。
こんな時期に大手術をすると、カリフォルニア大停電のようになる可能性がある、ということです。手術成功、患者重体、という悪い冗談のようなことになりかねません。
そして、ここにとんでもない悪徳会社が現れました。あの悪名高きエンロン社です。
名前からしてハリウッド映画に出でくる悪徳会社みたいですが、実際ハリウッドは電力危機でエライ眼にあったので、ほんとうに関係あるのかもしれませんね(笑)。
エンロン社は、電力業界の盲点を突いて映画もどきの悪事に走りました。
それについては長くなりそうなので、次回に。
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コメント
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私は基本ナンでも自由化に賛成なのですが、実際上
では現在の形の電力の自由化はダメだと思います。
管理人さんが詳しく書いておられる通りなのですが、
根本的に自由化とは名ばかりで、余計な中間業者が
増えるだけ、彼等の利益分を消費者が割を食う形に
されているからです。
いかに安全・効率的に発電・配電できるかがキモで
あり、電力技術もない事実上のペーパーカンパニー
ばかりが参入しても、余計なコストが増すだけです。
他人に損させて自分が得するあのマゴさんの、政治
を利用したいつものやりかたですわ。自分で政商だ
って言ってるし。w
物流を担う道路網を自由化でき難いように、電流を
担う電線網も自由化が難しい。イニシャル・ランニ
ング費用が莫大で、インフラの権利関係も複雑だし、
ライフラインも担っている。自由競争で財政苦しい
民間には手に負えなくなる時が出てくる。エンロン
のようなサギ会社も出てくる。
かと言って、私は現況の電力会社をそのまま温存
するのにも賛成出来かねます。質はそのままにして、
価格を下げる余地を残しているのに、競争があまり
ない独占企業群だから努力していないように見える
からです。(原発騒ぎは別にして)
電力体制のトレードオフについて、後記事で触れら
れんことを楽しみにしています。
投稿: アホンダラ | 2015年5月20日 (水) 15時56分