呉越同舟・電力自由化4つの流れとは
電力自由化を唱える人たちには、大きく三つの流れがあります。
まず表看板は、飯田哲也さんのような反原発派の皆さんの流れです。
原発をゼロにするためには、再エネを替わりにするしかない。今はその市場がない。
その理由は、電力会社の垂直統合しているので割り込みが難しいからだ。ではこれを、バラバラにしていくために電力自由化だ、というものです。
「垂直統合」は横文字でインテグレーションと呼びます。川上の発電から、途中の送電を経て、川下の小売りまで、一貫してひとつの電力会社が仕切って運営することてす。
とりあえず、再エネの屁タレぶりは触れませんが、上図は、飯田氏が滋賀県知事のオバさんと作った未来の党の工程表です。
未来の党が政権党になっていたら、原発の運転をすべて中止し、それによって生じる損害を「交付国債」で国が補填するということになっています。
これは東電だけではなく、全国の電力会社を東電と同じ破産状態にするということです。
その廃炉コストは、電力10社の合計では50基の原発の資産価値、約3兆2000億円がゼロ。廃炉費用は約1兆2000億円、計4兆4000億円の損失がでます(経済産業省試算による)
また、これにより電力10社の純資産5兆9000億円の7割超が失われ、4社は3年で債務超過になり倒産し、それを交付国債で補填すると、東電と同じようにすべての電力会社が国家管理になるという恐ろしいシナリオです。
国有会社同士でどのような競争が成立するのか、私にはさっぱり分かりませんが(苦笑)。ま、実施していたら、その時点で日本は滅亡していたでしょうね。
それはともかく、脱原発には発送電分離など電力システム改革の集中的断行が必須だと、飯田氏たちは考えていたのです。
たぶん、この「卒原発」工程表に強い影響を与えたのが、経済産業省内の改革官僚の流れです。
実は日本では、小泉改革時代に、経産省の改革官僚たちが「電力システム改革」という電力自由化を検討してきました。
これが、経産省本流から受け入れられずにいったんはポシャり、再度復活したのが、震災の直後でした。
またもや福島事故がらみです。いかにこの大天災が、ショックドクトリンの絶好の実験場だったかわかります。
そのきっかけを作ったのが、当時まだ現職キャリア官僚だった古賀茂明氏の作った古賀ペーパーでした。
古賀氏は、電力の専門家ではありませんでしたが、東電破綻処理の提案書として書いた「古賀ペーパー」にも、東電解体・電力自由化が賠償のスキームの原資として骨格となっています。
なぜ、震災後だったかと言えば、この震災が本来は、原賠法第3条1項にある「異常な天災による免責」事由に該当するのですが、国の責任を認めたくない菅政権が、なにがなんでも東電だけに責任を負わせるために画策した中から、復活したからです。
枝野経産大臣が言ったように、「事故原因は一義的に東電にある」のだから、東電は資産を切り売りして賠償しろというわけで、そのために文科省に、「異常な天災とは隕石の落下のことである」などと馬鹿なことを言わせています。
わけないでしょう。隕石しか「異常な天災」に認められないなら、誰が原子力などを運用しますかって、バカバカしい(爆)。
そこまでして責任回避をしていた菅政権と、電力会社側の落し所が、「原子力損害賠償支援機構」だったのです。
東電に連座して他の電力会社も資金を拠出し、そこに政府も金を出して「賠償機構」という受け皿を作るという、有体に言えばトンネル会社作りでした。
古賀ペーパーは、煎じ詰めれば、事後法を作って東電ひとりに賠償を押しつけ、東電を解体して発送電分離、つまりアンバンデリング(分割)を実施しろというものです。 この古賀ペーパには、東電の解体について、持ち株会社にしろとか、発電所ごとに独立させて売り払えとか、事細かな構想が盛り込まれていています。
それをアンバンデリングと呼びます。今日は横文字が多くて、すいません。
アンバンドリングとは、束ねられたものをほぐす、ていどの意味ですが、電力においては、EUを中心にした電力産業の再編による、競争環境の整備を進めるために取られた手法を指します。
発送電の各部門を切り離し、地域独占も止めて、新たなビジネスチャンスを作れば、経済が活性化されるというものです。
そして、このような電力自由化は市場の自由化に資するとしています。古賀氏の本音はここなのです。
彼は、現職官僚でありながら、これを霞が関や永田町にもバラまき、大きな影響を与えたと言います。
もちろん現職官僚がやることではなく、自分の主張が通らないと場外乱闘に持ち込む古賀氏の悪い癖は、この頃から健在だったわけです。
さて、もうひとつの流れが、国際投資ファンドたちでした。彼ら国際投資ファンドは、大震災をきっかけにして突然に開いた日本の電力市場という巨大な獲物に色めきました。
今まで、頑強に開放を拒んできた日本の電力市場を、なんとバラバラにして、二束三文で転売できる千載一遇のチャンスが巡ってきたのです。
この腐肉をあさるスカベンジャーたちは、弱った獲物である日本の電力会社に食らいつき、しゃぶり尽くすために殺到します。
さて、このようなx人たちの努力のかいあってか、2013年2月、「電力システム改革専門委員会」(委員長・伊藤元重・東大大学院教授)が報告書を出しています。
ちなみに、伊藤元重教授は、有名な増税・財政健全化・自由化論者です。
それによれば、2020年までをめどに、広域系統運用機関の創設や送配電部門の法的分離などを3段階で進めるとしています。
(http://diamond.jp/articles/-/50199)
かくして、天ボケぎみの反原発派、欲望ギタギタのハゲタカ共、そして古賀氏たち改革官僚たちの相乗りによる呉越同舟の電力自由化が始まったわけです。
このアンバンデリングはドイツをモデルにしていました。
前置きが長くなりましたが、次回は、電力自由化の母国のドイツを見ます。
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