オスプレイ・ゼロリスク論のくだらなさ
どうしていつもいつも、同じ発想になるのでしょうか。またまた、飽きもせずにオスプレイです。
配備前は「殺人機」、なかなか落ちてくれないので「低周波公害」、期待を裏切って静かなので「ノグチゲラが死んだ」、まったくたいした粘着性です。
しかし、ドリームズ カム トゥルー(笑)。
地元2紙はよほど落ちてほしかったらしいとみえて、ハワイで落ちた時は、感涙にむせびながら琉球新報に至っては号外まで出しています。
これだけは断言できますが、米軍輸送機が一機落ちたくらいで号外まで出す新聞社は、世界広しといえどここだけです。一瞬、琉新の社屋にでも落ちたのかと思いましたよ。
まずは、琉新が「大喜び」している事故についてですが、一か月ほど前の4月17日、ハワイで訓練中の米海兵隊MV-22オスプレイがオアフ島ベローズ空軍基地で着陸に失敗して大破し、乗員22名中1名が死亡したというものです。
オスプレイが事故を起こしたのは3年ぶりです。琉新はこれで「殺人機」のお墨付きを得たどばかりに、反基地闘争の燃料に投下したかったのでしょう。
翁長氏は沖縄に落ちたわけでもないのに、待ってましたとばかりに飛行停止の声を上げていますか、あいにく米軍は至って冷静です。
(写真 思わぬ敵失に、こみ上げる笑いをこらえて飛行停止、配備撤回を要求する翁長氏。この後ハワイに行った時には、墜落現場を見に行った)
問題は、これがこのオスプレイ固有の欠陥によるものか、あるいは、そうではない別の原因、たとえばもっともよくあるのは今回も原因だと見られている操縦ミスの可能性です。
もし前者ならば、米軍は即刻、世界中で飛行する約200機以上の同型機を飛行停止措置にしたはずです。 米軍の対応はこうです。
「在沖米海兵隊は19日、普天間飛行場の垂直離着陸型輸送機MV22オスプレイの飛行を中止せず、訓練などを続行した」(沖タイ5月30日)。
オスプレイは安い機体ではありません。一機が86億円(米国調達価格)もする高価なものです。
もし、ほんとうに機体の構造的欠陥が疑われるのなら、米軍は即時に全機を飛行停止にしたことでしょう。
墜落の状況は、事故当時撮影された映像からこのようなものだと言われています。
①通常は高度2mていどでいったん空中停止してから、ふわっと降りるものが、そのままストンと降りた。
②ヘリでいうオートローテーションのような状態で降りたために、機体が大破し、その際に発火した。
オートローテーションとは、防衛省によれば、このようなものです。
※「別添4:MV-22オスプレイ オートローテーションについて」PDF:266KB)
■ MV-22のオートローテーション
○ MV-22は、空力によってローターの回転数を一定に保つこと等により揚力を得て、
機体の姿勢及び定められた速度を維持しつつ着陸地点に向けて降下し、着陸直前に機首を上
げて速度を制御し、機体を水平状態として着陸する手段が確立している。
○ ただし、オートローテーション中の降下率は他の回転翼機より高い。
- 降下率は最大で4000~5000fpm(毎秒約20~25m)
※ 機体総重量、密度高度の影響等により変動する。
○ 他の大型回転翼機同様、オートローテーションによる着陸時、機体を損傷
する可能性があり、実機での訓練に替えて高性能シミュレータを用いてオ
ートローテーション訓練を実施
噛み砕いて説明します。オートローテーションとは、空中でエンジン・ストップした場合、いわばパラシュート降下するように、落ちる速度を緩めながらふわっと降りる技術です。
これはヘリ独特の非常着陸手段です。この技術を使えば、小型ヘリや中型ヘリは問題なく着地できます。
しかし、問題は大型ヘリやオスプレイなどでは、オートローテーションで降りると、自らの重量で機体が破壊されてしまいます。
ですから、自衛隊でも、小型機のUH1やUH60では実際に訓練しますが、大型のUH47などではシュミレータでやるのみです。現実にやると壊れちゃいますからね。
これはなにもオスプレイに限ったことてはなく、かつて普天間で運用していたCH46や、CH53といった大型ヘリでも同じです。
かつてのオスプレイ反対騒ぎでも、盛んにオスプレイがオートローテーションできないことがまるで欠陥機の証拠であるかのように言われましたが、当時、反対運動をしている人たちの頭の上を飛んでいたCH46、CH53も同じだったのです。(写真 オスプレイ反対運動の先頭に立つ翁長知事と稲嶺市長。この反戦首長コンビはこの時期あたりから生れた。この時期の赤ゼッケンはまだ翁長氏にはチグハグだが、やがて似合いすぎてくる)
さて、あいかわらず「危険機を配備するのは沖縄差別だ」と叫ぶ地元紙に対してのブリーフィングを、米海兵隊がしました。
沖タイの記事がふるっています。
「宜野湾市の米軍普天間飛行場でMV22オスプレイの安全管理を担当する海兵隊のクリストファー・デマース少佐は10日、同飛行場で日本記者クラブ取材団と会見し、ハワイで5月に死者2人を出したオスプレイ着陸失敗事故に関し「残念ながらこのような事故は完全には避けることはできない」と述べた。個別の事故に関連し、海兵隊の担当者が、事故を容認すると受け取れるような発言をするのは珍しい。
(略)
安全性に関し「沖縄の人々の懸念があることは理解している」としつつ、「飛行手順は懸念を最小限にするために作られた。(オスプレイの飛行で)特別な技術は要らない」との認識を示した」(沖タイ2015年6月11日 写真同じ)
地元2紙は、米軍が説明をしないと怒り、してもまともに耳を傾けず、体験搭乗を用意すれば、今度は「試験搭乗すると配備を容認したことになる」というわけのわからないことを言って拒否するメディアですから、ハナっからゼロリスク論満開です。
(写真 オスプレイはミサゴのこと。猛禽類で、垂直に飛ぶ姿が似ているのでつけられた)
私は、もしオスプレイ無事故神話を喧伝する人があれば、それは違うだろうと思っていますし、逆に沖縄メディアのようなオスプレイ・ゼロリスク論もまた、間違いだと思っています。
というのは、この両者は一見真逆に見えますが、ひとつのありえない<ゼロ仮定>から生えた二本の奇妙な樹のようなものだからです。
一方は「事故は起きるはずがない」と言い、方や「少しのリスクもあってはならない」としていても、発想の根は一緒だからです。
今回説明に当たった海兵隊のオスプレイのパイロットが、「残念ながらこのような事故は完全には避けることはできない」と述べたのは、まったく技術者としてあたりまえのことを言ったまでです。
それを鬼の首でも獲ったように、「海兵隊の担当者が、事故を容認すると受け取れるような発言をするのは珍しい」と書くほうが、世界的には「珍しい」のです。
沖タイさん、「容認」もなにも事故というのは「起きる可能性は常にある」ことを前提にしているのですよ。だから、それを様々な方法でなくして、ゼロに近づけているわけです。
たとえば、自動車を例にとります。車の衝突事故はありえます。
「いやうちの車に限ってありえない。だから、高硬度のキャビン構造も、傷害防止構造もいらない。いや、シートベルトもエアバックも不要だ」と言ったら、型式認定認可がおりませんよね。
逆に、ノーリスク論者のように、「少しでもリスクがあるうちは、運用はまかりならん」なんて言っていたら、科学技術は一歩も進化しません。
ですから、工学系の専門家は、「必ず事故は起きる」ことを大前提にして、最小限リスクにとどめるために各種の安全措置を講じます。
ところが、マスメディアの記者たちのように、悪い意味での文科系の人たちは、これが許せません。
「絶対安全」というありえないことを要求し、少しでも「事故の可能性はあります」などといえば、今回の沖タイのように待ってましたとばかりに、「事故容認」と書き立てます。
こんなオールオアナッシング的考えは、安全工学を知らない人が言うことです。
まったく困った人たちです。繰り返しますが、「事故はあり得る」のです。
だから事故は確率論で考えるべきで、そのための指標として事故率があるのです。事故率とは事故回数を10万飛行時間で割ったものです。
この10万飛行時間は、同機種トータルしたものです。またグラフ右隅にある「クラスA」とは、被害金額が200万ドル、もしくはしほぺう、全身不随などを引き起こしたシビアな場合です。
通常は事故率はこの「クラスA」で判断しますが、日本のメディアはオスプレイに限って、「クラスC」といった整備員が翼の上で滑ってころんだような事故までカウントして水ぶくれさせて報じました。そんなにオスプレイが憎いのかぁ(涙)。
(図 防衛省 図の左端にH53が見え、9番目にはH46が位置するのがわかる)
というのは、H60などは、軍馬扱いなので星の数ほど世界中を飛行していて、まだわずか200機強しか飛んでいないオフプレイとは、単純に事故の回数で比較ができないからです。
こういう言い方をするとエキサイトする人が出るでしょうが、3年間に1機落ちたていどでは、事故率の格段の差がでないために、上図の米軍全機種の事故率の表はそのまま有効です。
むしろ問題なのは、上図の事故率トップにあるH53で、老朽化によって極めて危険な状況だとわかります。CH53は、例の普天間の横にある大学構内に落ちた機体です。
米軍はこれを早く交替させたかったこともあって、安全のためにオスプレイの配備を急いだといういきさつもあります。それも、反基地運動家にかかると「強行配備」だそうです(ため息)。
どうしてこう悪く悪く解釈するんでしょうか。
(写真 オスプレイ配備は「沖縄差別だ」と叫ぶ琉球新報 2013年1月23日。こんな「沖縄差別論」はかつてはなかったが、本土の部落解放同盟との交流から教えられたと言われている。このように定義不明の「差別論」が、かえって沖縄問題の解決を遠ざけている)
このように反対運動が、完全なゼロリスクを求めて騒いだケースに、原発問題がありました。どうなったでしょうか。
反対運動される電力会社側は、「いや可能性はゼロではありません」などというと発言すれば、今回の普天間の海兵隊のように、「事故を容認するのか。とんでもない奴らだ」と糾弾されてしまいました。
そのために長年に渡って、「絶対に安全です。隕石が当たる確率より低いくらいです」などという馬鹿丸出しなことを言い出す始末になりました。
結果、原子力ではセキュリティ対策が、かえってなおざりにされてしまったということが、福島事故の遠因になってしまいました。
原発は最悪シナリオを作らなかったために、全電源停止という事態をありえないとして想定していませんでした。
避難訓練もおざなりで、避難計画すら策定されなかったために、福島事故では、もっとも線量が高い地域に逃げ込むということすら起きています。
非常時の情報発信は混乱を極めていて、時にはSPEEDIのように隠蔽されました。この不信が巨大な放射能恐怖の風聞を生み、風評被害を引き起しました。
このような事態を引き起こさないためには、「事故を容認するのか」などという政治利用的発想をしないで、「事故はありえる」ことを前提にせねばなりません。
さて近々、オスプレイの空軍型が横田基地にも配備されます。
空軍型のほうが海兵隊型より事故率は高いのですが、横田では「東京差別だ」などという声は、今のところ共産党からも上がっていないようです。
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ゼロリスクを叫ぶ人達って、本件でも原発・ソーラーでもそうですが、それに伴って発生する別のリスクを無視しているか、酷い時にはわざと呼び込んでいるくらいですからね。
新聞なりニュースなり、そういうことを邪推(笑)しながら読まないと簡単に騙されますね。
投稿: プー | 2015年6月15日 (月) 09時03分
普天間配備のネパールで墜落したUH-1Yヴェノムについては誰も騒がない。
このヘリコプターのネットで拾った事故情報を羅列します。
2011年7月、アメリカで訓練中に墜落1名死亡。
2012年2月、アメリカで訓練中にスーパーコブラと衝突し6名死亡、コブラは1名死亡。
2015年1月、アメリカで訓練中に墜落2名死亡。
2015年5月、ネパールで救援活動中に墜落8名死亡。
大きさは違いますがオスプレイ並みかと思います。
しかし事故が起きようが起きまいが、オスプレイだけが槍玉にあがるんですよね。
横田や立川のゲート前ではオスプレイ反対、基地反対、ヘリコプター飛ばすな、人殺しの道具だとやってるのを年に一回くらい見かけます。(回数はもっとあるのかもしれませんが)
今のところ普天間や辺野古のような騒ぎは起きていません。
マスコミが意図してオスプレイのリスクを訴えてるのは明白ですね。
投稿: 多摩っ子 | 2015年6月15日 (月) 15時28分
防衛省の資料はインチキだらけです。
http://note.chiebukuro.yahoo.co.jp/detail/n295987
オートローテーションについても
オートローテーションは、一定以上のスピードがあることが必要ですが、
普天間基地に着陸するときのヘリモードのスピードでは、オートローテーションは不可能です。
防衛省の資料の120kt毎時というスピードは、ヘリモードのほぼ最大速度です。
実際の運用は、そんな高速でヘリモードでは飛びません。
ヘリモードのときは高度も低いので、オートローテーションは、ほぼ理論上だけのものになります。
たぶん、そんなシュミレータ訓練もしていません。やるだけむだです。
実際の運用において、ヘリモードのときにエンジン停止したら墜落するのみです。
投稿: Mets | 2015年10月22日 (木) 20時18分
こんなのありました
"Jim, whatever you do, just don't volunteer to fly the damn thing."
投稿: nori | 2017年9月10日 (日) 02時11分