政府は脅威の「目的語」を明確にしろ
安倍政権の安保法制審議の限界は、今のような議案説明をしてしまうかぎり、国民は何が論点なのかわからなくなっていることにあります。
今の安全保障法制の審議はまるで、木を見て森を見ない議論です。
賛成か反対か、憲法違反か否かという結論から議論が始まっていて、そして「殺す側にも、殺される側にもなりたくない」とか、「戦争のできる国にさせない」「アベヒトラー」といった感情的な煽りに終始しています。
「戦争法制」という言い方に至っては、戦争からわが国を守るための安全保障議論をしているのだからあたり前です。
たぶんまた、わが国が海外侵略するとでも言いたいのでしょうが、こういう言い方をしているかぎりまともな議論にはなりません。
わからなくなる原因は、国会の議論がどうして「今」この法を整備するのか、という「目的語」の部分を意識的に欠落させているからです。
野党は、「自衛隊は他国の領域でも戦うのか」「どのようなケースで集団的自衛権を行使するのか」、といったように何に対してという「目的語」をあえて落として、何をするのかという「述語」のみを質問しています。
(写真 民主党広報委員会撮影 国会デモで演説する長妻代表代行。民主党は、この国会前デモをする人たちだけが国民であると思っているのか)
一方、政府も同じように、これに対して「日本海で邦人輸送中の米艦が攻撃されたら」といったように、何の脅威によって「邦人輸送中なのか」といった肝心のことをあえて落として答弁しています。
またその脅威を具体的に語らないために、「力による現状変更を認めない」というような、国際会議では通用しても、国民への説明としてはなんのことやら分からない抽象的説明に終わっています。
(写真 国際軍事専門誌IHSジェーンズ・ディフェンス・ウイークリーがこの3月21日に公表した南沙諸島・ファイアリー・クロス礁の衛星写真)
もちろん、私たちはその脅威が何なのか、はっきりと分りかけているはです。
にもかかわらず、ハリーポッター物語の「名前を言ってはいけないあの人」よろしく、名指しすると刺激してしまうことを恐れて、与野党とも「たられば論」に終始しているのです。
私が代わってはっきりと明示しましょう。
この安保法の整備は、尖閣諸島と、南シナ海における膨張主義的な中国の軍事活動と、核兵器と弾道ミサイルの開発を進める北朝鮮の軍事的脅威に対応しています。
政府はこれを明示すると、中国を刺激するのを慮ってか、わざわざわかりにくい表現をした結果、野党の枝葉末節論に巻き込まれ、さらには絶対やってはいけない憲法神学論議にまで発展して、どんどんと本質から逸れて行くばかりです。
これを見て、 マスコミは大喜びして、国会議論をただしい情報で切り分けることをせずに、「市民団体」のアジビラのような紙面づくりにいそしんでいます。
そのために、野党の言う「巻き込まれ論」が真実味を帯びて、まるで自衛隊が米軍を助けて中東で戦争するとなどというファンタジーが一人歩きしてしまっています。
今、わが国がこのような法整備をする必然は、何も米軍の尻を追いかけて地球の裏側で戦争しに行くためではなく、日本が目の前で直面している現実的脅威に基づいています。
離島防衛のためのグレーゾーン対処や、米艦船への共同反撃などはまさにこれです。
昨日の党首討論でも、岡田氏はよほどの馬鹿ではないかきり、それは分かっていたはずです。
しかし、ひとこと「中国と北朝鮮こそが脅威である」と言ってしまえば、この中国と北朝鮮の軍事的脅威にわが国が単独で対処できるはずもないのを分かっているはずです。
北朝鮮の弾道ミサイルに対しては、海自と共同で展開している米海軍のイージス艦が、今この時間も警戒に当たっています。
(写真 2013年4月13日。北朝鮮テッポドン弾道ミサイル発射時の、警戒任務に就いた各国イージス艦の位置。日本3隻、米国7隻、韓国2隻。これは集団的自衛権ではないのだろうか)
中国の脅威に至っては、もっと大枠の南シナ海や東シナ海における、米軍のプレゼンス(存在感)そのものが前提です。
つまり、とっくの昔にわが国は集団的自衛権の中にビルトインされていて、それでわが国を防衛しているのです。
岡田氏がこれを知らないはずがありません。知っているので、脅威をはっきりと語ると、「個別的自衛権以外はすべて違憲」という自説を否定してしまうからこそ、「主語」を沈黙しているのでしょう。
ただの政局狙いなら、コメントする価値もありません。国家の安全保障を政局の具にするのは、絶対にしてはならない政治家の戒めなはずです。
しかし、たぶん政局なのでしょうね。ここまで空論を吐き続けられるのは、攻め口がなかった安倍政権を潰せるという野心あってのことなのでしょう。
さもなくば、言っていることがああまで共産党と一緒のはずがありません。
そして同じ野党でも、共産党とは異なって代案を要求されることに怯えています。
岡田氏はかつてインド洋給油に対してデモをしかけましたが、外相を経験しながら今なお反戦デモが代案だと思っているとしたら、なんとも言いようがありません。
彼の親中スタンスは有名ですが、それと現実の脅威を一緒にしてはいけません。
安倍氏が明示しないのは、昨日国会で言うとおり、「こういうことを言えば政策の中身をさらすことになる」ということです。
これは国の政策オプションを狭めるという意味では正しくもあり、国民向けのメッセージとしては間違っているとも言えます。
このようなワジワジとした国会議論をよそに、現実だけがどんどんと進んでいっています。
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北朝鮮なら別に配慮しなくても良いのに、というか、今はそういう役割しかない、と思っているのですが。
拉致被害者の件があるから非難できない、とかなのでしょうか??
投稿: プー | 2015年6月18日 (木) 11時45分
愚かな私には彼らが何を議論しているのかわかりません。
主な対象が中国や北朝鮮・ロシアであることは理解できます、これに加え海外派遣先で武力衝突があれば自衛隊も武器を取り応戦するんでしょうね。
投稿: 多摩っ子 | 2015年6月18日 (木) 14時34分
原発関連の記事を検索していてこのサイトにたどり着きました。私も沖縄は知人がおり年に数回行くので、興味深く読ませていただいています。荒らし被害などもあり大変かと思いますが、これからも沖縄発の正論に期待しています。本日のタイトルも全くもってその通りです。
投稿: Harry | 2015年6月21日 (日) 19時21分