集団的自衛権?そんなものは55年前に締結している
安全保障法制の関連法案が議論されています。
なんともわからない審議が続いていて、国会とは謎かけをして遊んだり、あるいは子供の押しくら饅頭で委員長の頸椎をへし折って暴れる場所なんだろうか、と思ってしまいます。
そのとおり、目的は手段を合理化するのだと、長妻代表代行はこう言っています。
「民主党の長妻昭代表代行は14日のフジテレビ番組「新報道2001」で、同党議員が12日に衆院厚生労働委員会の渡辺博道委員長(自民)の入室を実力行使で阻止し、議事を妨害したことに関し、「数の力でほとんど議論なしに採決するときに野党がお行儀よく座り、『不十分だが、いいか』と見過ごし、法律をドンドン通すことが国益にかなうのか」と述べ、暴力による妨害を正当化した」(産経6月14日)
おいおい、長妻さん、それは「革命の論理」というんですよ。民主主義は詰まるところ「数の力」です。「暴力の力」ではないんです。
「お行儀よく座って」いられないなら、国会議員を辞して、プラカードを持って外で騒ぐことです。国会は言論の場です。勘違いしないように。
どうでもいいですが、自民が謝罪して「正常化」したそうです。暴行を受けた自民が謝ったんだってさ(爆笑)。
しかしこの荒れぶりに、議論のあり所が埋没してしまい、何をやっているのかがわかる国民のほうが少なくなってしまいました。
(写真 厚生労働委員長につかみかかって首をヘシ折ろうとする民主党議員たち。しかも事前に計画している指令文書が見つかってしまっている。もはや懲罰ではなく、暴行傷害罪で裁かれるべきだ)
確かに、このケースはどうだ、このケースはどうだなどと、大枠から議論しないで、奥の細道ばかり議論したあげく、今度はとうとう「違憲」論議になってしまったのはには、さすがの私も呆れて失笑しました。
しかも官僚に人選を丸投げした、自民党のオーンゴールときていますから恥の上塗りです。
(写真 東京新聞6月4日。皆さん有名な護憲反安保論者。集団的自衛権にも朝日で一貫して反対していた人もいる。こんな人を呼べばこう答えるに決まっている)
憲法神学者までが飛び出してきては、現実的判断など吹っ飛びます。彼ら憲法神学者にとって、自衛隊やPKOすらすら一切合切が「違憲」なのですから、そもそもこの人種に聞くほうが野暮というものです。
昨日もこのお方たちは、こんなボルテージの上がったことを言っています。
「憲法学者の長谷部恭男早大教授と小林節慶大名誉教授は15日、日本記者クラブで記者会見し、集団的自衛権の行使を可能とする安全保障関連法案について「憲法違反」との見解を重ねて示した。この中で、小林氏は「憲法を無視した政治を行おうとする以上、独裁の始まりだ」と安倍政権を痛烈に批判した」(時事6月15日)
「独裁」ですか。さすが概念規定に厳密な学者の皆さんです。ということは「独裁者」の推薦でいそいそと国会にやって来た長谷部教授など、さしずめ独裁者の下回りですかな。
それはさておき、ひと頃の抵抗野党だった社会党に酷似してきた民主党は、ひたすらつまらない質問や、自説の演説、はたまた審議拒否で時間潰しをして、会期切れに追い込む遅滞戦術を続けています。
この人たちが政権党だったんですからねぇ。うちの国も懐が深いもんです(苦笑)。
あ、すいません。あまりにつまらない国会審議なので皮肉っぽくなってしまいました。
こうなっては今期成立はかなり難しいでしょう。今期成立はあきらめて、憲法があるかぎり、わが国は既に結んだ条約すら履行できない国なんだということを、率直に認めたほうがいいでしょう。
え、私何か変なことを言いましたか?私は「既に結んだ条約すら履行できない国」と言っただけです。
新安全保障法法制が、まるで新しい次元になるようなことをマスコミは言っていますが、ウソです。
2014年5月にオバマ大統領が来日した時のことを、思い出して下さい。その時オバマ氏は、こう言いましたね。
「日本の安全保障に対する米国のコミットメントは絶対的であり、日米安保条約第5条は尖閣諸島を含む日本の施政権下にあるすべての領域を対象としている」
Our treaty commitment to Japan's security is absolute, and Article 5 covers all territories under Japan's administration, including the Senkaku Islands.
では、このオバマ氏が「米国は単に条約(第5条)を適用しているにすぎない」と言った、日米安全保障条約第5条とは、いかなる条約なのでしょうか。
実は、第5条は外務省の「主要規定の解釈」の中でも「中核的な規定」とされている部分です。
※参考資料 外務省「規定の解釈」
※ 安全保障条約全文http://www5b.biglobe.ne.jp/~USPinfom/anpo1.htm
■日米安全保障条約 第五条
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
ARTICLE V
Each Party recognizes that an armed attack against either Party in the territories under the administration of Japan would be dangerous to its own peace and safety and declares that it would act to meet the common danger in accordance with its constitutional provisions and processes.
今の安全保障法制は、日米安保の新次元だとよく言われていますが、それは間違いなことに気がつかれましたか。
この日米安全保障条約が結ばれた半世紀以上前の1960年に、わが国は「いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言」してしまっているのです。
これって、集団的自衛権じゃないのですか。 そうです、「いずれか一方に対する武力攻撃」とは、今まさに国会で審議されている集団的自衛権そのものに該当します。
具体的には、共通の危機に対処するために行動している米国艦船が攻撃を受けた場合に、一緒に反撃できる、とわが国は既に条約に書き込んで「宣言」までしているのです。
おそらくこの条約を見るだけで、諸外国は日本が既に集団的自衛権行使を含む条約を結んでいる以上、当然その権利を行使しているのだ、と解釈しています。
(写真 どうやら脳内「15年安保闘争」らしいです。といっても、70年安保を知っている私たち世代にはショボイけど)
その上、わが国は、米国に広大な基地を提供し、しかもそれは米国にとって海外最大の戦略的拠点なのですから、諸外国は当然、これの防衛上、集団的自衛権を行使しているに違いない、と認識しているはずてす。
そりゃそうでしょう。米軍基地からは、朝鮮戦争、ベトナム戦争、そして湾岸戦争、イラク戦争、対テロ戦争の度ごとに、大量の米軍が出撃しており、それを日本は一貫して容認してきたのです。
ただし、行く先は問わないとか、いったん第三国に出てから戦地に行ったみたいな、姑息ないい訳をしていましたがね。
この米軍が日米共同の危機に対処している真っ最中に攻撃を受けて、自衛隊は「オレアメちゃんが沈んでも知らもんね」と見殺しにするなんて、諸外国は軍事の常識としてありえないと思うはずです。
まぁ、ホントにやったら条約うんぬんの前に、人間失格です。
日本人が、「いえいえ、権利はありますが、行使できないのです」などと言おうものなら、「ではなぜ行使できもしないことを、履行義務が生じる国際条約のしかも前文に書き込んだのだ」と突っ込まれます。
あげく、「そうやって、自衛隊は猫かぶって、いきなり撃ってくるんだろう。コス辛い奴らめ」などと、中国や北朝鮮が思っていてもいささかも不思議ではありません。
(写真 横田基地に翻る日米国旗と国連軍旗。国連に司令部を提供しておいて、集団的自衛権はあるが持てないという不思議の国ニッポン)
困った日本は、こう答えてきました。「これは日本に対してだけの個別の攻撃に対しての条約なんです」。
しかし、気の毒にも日米安全保障条約には、こうはっきりとその位置づけを前文に書き込んでいます。
■日米安全保障条約 前文
(略)両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、よって、次のとおり協定する。(略)
はい、このとおりです。ここでは集団的自衛権を持っていることを「確認」した上で、両国が「極東における国際平和の維持」のために、この条約を作ったんだと書いています。
極東ですぞ。東アジアは当然のこととして、それに付随する海域まで「犯意」として指している条約を55年前に締結しているんですよ。
前文を裏書きして、第6条にはこうあります。
■第六条:
日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリ力合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。(略)
ARTICLE VI
For the purpose of contributing to the security of Japan and the maintenance of international peace and security in the Far East, the United States of America is granted the use by its land, air and naval forces of facilities and areas in Japan.
ここまで55年前に書いておいて、今更「持っているが使えない」とか、「違憲です」とはどの口が言うのかです。さぞかし、諸外国は腹を抱えて笑っていることでしょう。
(中国人風刺画家の唐辛子氏のものだというが、詳しいことは不明。しかしまぁこのとおりであるhttp://www.newsweekjapan.jp/newsroom/2014/12/post-282_1.php)
今、国会でやっているしょーもない議論は、55年前に国会で徹底的にやっておくべきでした。
それを今更蒸し返して、「持っているが使えない」などという目先の言葉遊びでゴマかし、中国の台頭と軍事膨張という国の安全保障の根幹が揺らぐような軍事的非常事態を前にして、今度はこれはできるが、これはできないというボジティブリスト議論を延々とやっているのです。
開いた口が塞がりません。こんなことひとつ決まらないなら、国会招致した憲法神学者のご託宣のとおり、日米安保は廃棄、PKOは中止、いや自衛隊そのものもいっそう解体してしまいましょう。
そのほうがスッキリします。
« オスプレイ・ゼロリスク論のくだらなさ | トップページ | 9条の国の警察的軍隊 »
民主党はハッキリと中韓の党ですから、その意味では
彼等の行動は論理的にも正しい。この党が一時は政権
を盗り、いまでも日本人の支持者がいるのですから、
いったい自民党はどんだけダラシ無いんだ?wと思い
ます。
今のままでは、自衛隊の現場が心配です。中韓が攻め
てきた時、自衛隊の第一任務は事実上まっ先に殺され
ることです。先制攻撃できない自衛隊が戦闘を開始し
ようとすると、まず自分達が死ななければなりません。
上官「貴様、なんでもいいから死んでこい!」の命令
に「アホ!せんかん大和とちゃうぞー」と士気はメロ
メロです。
米軍が攻撃を終えて帰還途中に敵の攻撃を受け始めて
も、見ゴロシにしなければなりません。なにがどう同盟
国なのかイミフです。
上官「米軍には関わるなよ。殺られろ米軍!原爆投下
のウラミじゃー」の命令に「アホ!共同行動をとらない
と、前線の俺達も死んじゃうじゃん」と統制はメロメロ
です。
たしかに、原発も自衛隊もヤメた方がスッキリします。
ついでに、日本国も無くなればさらにスッキリします。
投稿: アホンダラ | 2015年6月16日 (火) 16時12分
中韓が攻めてくるなんて本気ですか?
投稿: | 2015年6月16日 (火) 21時53分
韓国は中国の尻馬に乗るだけですが、中国は間違いなく今の体制なら尖閣狙って来ますね。アメリカの顔色伺いながら。で、国内の親派使って国内撹乱てのが現状だと思うけどな。名無しさん。
投稿: 一宮崎人 | 2015年6月16日 (火) 22時08分
本気ですよ。
ですが自分は、「しっかり備えれば攻めてこない」という考えです。
それとも、抑止力というものを肌身で感じるような人生経験をしてこなかった幸せな方でしょうか。
あと、「攻めてくる」は、正規戦とは限りません。
日本人を拉致する、島を占領することも「攻めてくる」に含まれますよ。
投稿: プー | 2015年6月16日 (火) 22時12分
私の生まれる前からこんな条約が既にあったんですね、勉強になります(^_^;)
今回の民主党の行動は国民の反感を買う結果になったと思います。
中国が尖閣諸島を奪いにくる可能性は高い、韓国は共食い整備・不良品納入やらで軍備がボロボロなので他国を攻める力無し。
横田基地に飛来する航空機写真のサイトさんです、厚木に比べたら静かなもんですね。
興味ある方はご覧ください。
http://app.m-cocolog.jp/t/typecast/648370/545665
投稿: 多摩っ子 | 2015年6月17日 (水) 12時00分
名無しさん。
意図などは関係無い。能力に備えよ。
これ、軍事の常識ね。
例えば友好的だった隣国で政変が起こって政府や軍部が暴走する可能性くらいは常に考えておく必用があります。
だからこそ、『同盟』という手段を取るのが外交です。
投稿: 山形 | 2015年6月17日 (水) 12時30分
基本的に、長谷川幸洋さんの受け売りだと思いますが・・・。
第五条について、
「日本国の施政の下にある領域における」と「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」の部分は無視ですか?
「日本国の施政の下にある領域」での武力攻撃なら個別的自衛権の問題ですし、それも「自国の憲法上の規定及び手続に従つて」なされなければならないはずですが。
前文について、
「個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し」
個別的「又は」集団的自衛権と書いてありますが・・・。「且つ」ではありませんよね。日本の個別的自衛権とアメリカの集団的自衛権のこととも読めると思いますが。そして、あなたが紹介した見解のように集団的自衛権を持っていても「行使出来る」とはどこにも書いていませんが。
「両国が極東における国際の平和及び安全の維持」
日本の防衛自体それに役立つと思いますが。
第六条について、
「極東における国際の平和及び安全の維持」
これについては前文同様、日本の防衛自体が極東の安全に関わることの確認とも読めると思いますが。
投稿: | 2015年7月31日 (金) 08時02分
名無しさん。ハンドルネーム入れて下さい。識別別できません。
長谷川さん以外にも、多くの国際政治学者が言っているよ。長谷川さんが言ったのは後の方。知ったかぶりしなさんな。
それに私は過去ログ読めば分るとおり、TPPの時から安保第5条の分析は書いています。※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/post-e0a4.html
もう3年前かな。今更、長谷川さんをパクったもないもんだ。無礼な。
使えるとは書いていない。ばかなことを言うな。すでに使っているじゃねぇか。
朝鮮戦争やベトナム戦争で基地を貸していたのはどこの国だよ。あれは集団的自衛権とはいわないのか。
よくも悪しくも、日本は米国との同盟関係の中で集団的自衛権を行使してきた。その厳然たる事実の上に、今の日本がある。
その戦争がよかったか、悪かったかという解釈や、法制局がこう言ったという法解釈とは別次元で「行使してきた」のだ。眼をそらすな。
投稿: 管理人 | 2015年7月31日 (金) 09時31分