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2015年7月

2015年7月31日 (金)

山本太郎議員の抱腹質問

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ほんとうに山本太郎議員って、面白い奴ですね。 

前からそう思っていましたが、今回の国会質問を聞いて、内田樹先生ふうにいえば「反知性主義」も、とうとうここまできたかと失笑しました。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150730-00000005-jct-soci 

山本議員は国会で、こう質問しています。

「(北朝鮮、中国、ロシアが弾道ミサイルで原発を狙ったとして)今回の法案、中身、仮定や想定を元にされてないですか?」「都合のいいときだけ想定や仮定を連発しておいて、国防上ターゲットになりうる核施設に関しての想定、仮定できかねますって、これどんだけご都合主義ですか」(J-CASTニュース 7月30日)

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 (写真 国会で追及する山本議員。暑いんだから握り拳を上げんなよ。「二代目辻本」の襲名も近い。支援団体のコワイ人たちとはうまくやってるかい) 

この人、「国際紛争については軍事力でなく外交力で対処すべきだなどと自党の対案を述べた」(同)そうですが、原発に弾道ミサイル撃ってくるような国と、どうして「外交交渉で対処」できるんでしょうかね(爆笑)。

まぁいいか、どうせ深く考えちゃいないんだから。

この山本太郎議員のシッチャカメッチャカの質問は、中露北が発射する弾道ミサイルの脅威も、原発の安全性も、同じ器でワーワーやるっていう手法で、こういうタチの悪いやり口をアジ演説と呼びます。 

シールズのお兄さんたちが、国会前の宣伝カーの上でやっている奴ですね。 

山本議員は、「ほーら、答えられないだろう」と大喜びしていたみたいだが、まぁそりゃ、まともな大人だったら答えられないよ。 

呆れたことには、「ツイッターや山本氏のフェイスブックには、賛辞も相次いでおり、「分かりやすくていい質問!」「国防上の弱点を指摘したものでみごとだ」「そもそも原発を抱えて戦争なんてあり得ない」といった声が書き込まれた」、そうです。類は友を呼ぶ、か。

田中規制委員長なんかは、まじめな学者だから、「その時の原発の放射性物質の蓄積状況次第で・・・」なんて答えていましたが、「それは国防上の問題なんで、わたしゃ知らん」と言い返せばいいだけです。 

首相も答えにくいでしょう。だって、北の弾道ミサイルの脅威なんて、はっきり言って、ほぼゼロですからね。 

ただし、「ない」と言えば、待ってましたとばかりに、今の集団的自衛権がらみで、じゃあやっぱり日米安保条約なんていらないんだと短絡するアホが出ますからね。

そうすると、審議の迷路にまた踏み込みかねない。だから答えるのが難しいのです。

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安倍氏は答えにくいでしょうから、私が代わって言っておきましょう。現実的には、「川内原発に北のミサイルが当たる」可能性はありません。

なぜかと言えば、たしかにi北の弾道ミサイルの射程内には入っていますが(上図参照)、北に当てるだけの精密誘導技術がないからです。

世界の底辺技術国の北朝鮮の弾道ミサイルは、600㎞以上飛んだ後に、照準点とズレる距離がなんと50㎞です。 

1996年に台湾総督選挙で、中国が発射したM9ミサイルは、短射程にもかかわらず、500mハズれていました。 

北朝鮮の弾道ミサイル誘導技術は、中国よりはるかに劣っているとみられていますから、たぶん川内原発を狙えば、錦江湾あたりに落ちてくると思われます。、 

確率論として、数百発撃って一発くらい近くに落ちるていどです。 

え、中露はどうなんだって。はい、そんなマネする確率は限りなくゼロです。 

北朝鮮は、金正恩という、頭の部品が間違って組み立てられてしまった人が独裁者していますから、まったくないとは言えませんが、中露がこんな原発を弾道ミサイルで狙うという頭のネジがはずれた行為をすること自体、確率ゼロです。  

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 (図 中国原発の設置状況 レコード・チャイナより) 

というのは、中国の原発はすべて沿海部に集中しています。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2013/06/post-3aba.html 

また原発新規建設数は69基であり、そのうち約4割を占める24基が中国に集中しています。こんな国が、他国の原発を弾道弾ミサイルで攻撃できますか(失笑)。

常識で考えてほしい。山本議員は、現状で原発ゼロのわが国ではなく、中国に対してこそ反原発運動をすべきなんですよ。

中国で事故ったら、北九州と北陸、東北一帯が偏西風で被りますからね。

話を戻します。中国の原発が沿岸に集中していることは、海からの攻撃に極めて脆弱だということです。もう狙ってくれ、といわんばかりです。 

おそらく米海軍のトマホーク巡航ミサイルにとって、建屋に当てるのは赤子の手をひねるようなものです。 

ではなぜ、こんな場所に設置して平気なのかといえば、米国がそんな攻撃を仕掛けるのは、自分が同じことをやった場合に限られると踏んでいるからです。 

ですから逆に言えば、中国が他国の原発を弾道ミサイルで狙うなんてことは、絶対にやるはずがありません。 

やるとすれば、もっとスマートにハッキングくらいは考えているでしょうか。これまた、サイバーセキュリティは重要ですが、別次元の問題です。 

山本議員が分かっていないのは、核や弾道ミサイルというオモチャは、「使えない兵器」なのです。 

使った場合の相手国と、その同盟国(日本の場合は米国ですが)の核報復を覚悟せねばならず、それは現代においては即、全面戦争となるからです。 

米国の「核のカサ」によって日本は守られており、中露は共に米国の戦略ミサイル原潜の報復ターゲットになっていることをよく理解しています。 

もし、中国が東風などを撃てば、リアルタイムで弾道ミサイル警戒衛星に捕捉され、遅くとも数時間後には、中国近海から飛翔してくる米国の潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)の姿を見ることになります。 

それだけの覚悟があるなら試してみればいいというのが、国際政治です。

米国は、ただしその場合、その発射ボタンに手をかけた国は、100%滅びますよ、その覚悟があるんですね、と問うています。 

だから、核兵器やそれを運搬する弾道ミサイルは政治的脅迫には使えても、現実の武器にはなりえないのです。 

さらに付け加えれば、万が一この北の暴れん坊将軍様が、暑さのあまり発作的にぶっ放したりしたら危ないので、PAC3という弾道ミサイル防衛(MD)で、そんな気にならないように保険をかけています。 

ちなみに、2012年4月に、北朝鮮が東シナ海に弾道ミサイルを発射すると予告した時に、政府は自衛隊のPAC3を、沖縄に配備しようとしました。 

すると、地元2紙はなんと書いたと思います。 

「このままだと、日米一体となった沖縄の軍事要塞化が進むのではないか、との懸念が強い。沖縄に対するこれ以上の軍事強化は沖縄の為にならない。それは負担軽減の流れに逆行する。標的になる不安を高める」(沖タイ 2012年4月4日) 

スゴイですね。現状の沖縄に配備した装備では、弾道ミサイルに対応できず、沖縄県民を守れないから、PAC3搭載イージス艦とPAC3を緊急配備したのです。 

それを「沖縄の軍事要塞化をすすめる」ときたもんだ。もう、イッちゃってるね。 

これでほんとうに、島に弾道ミサイルが落下して犠牲者が出たりすれば、今度は「日本政府は県民を守らなかった」とやるんでしょうね。

2012033117561847d(写真 沖縄平和センターのPAC3配備反対デモ。「オレたちを守るなぁ」という世界一珍しいデモ。オスプレイなら攻撃的性格もないわけでもないからわからないでもないが、PAC3は純粋な防御兵器だ。自分を「守るな」とは正気を疑う)

それはさておき、山本議員の質問にまともに政府が答えなかったのは、こう答えるしかなかったからです。ま、もっとも思っていても、実行できませんけどね。

「山本議員のご質問にお答えします。

議員がご懸念の、北の弾道ミサイルの原発に対する攻撃があった場合の避難についてですが、現行の避難計画と大きな相違はありません。

しかし,山本議員のご懸念の想定に対してましては、さっそく各原発周辺にMD基地を設置すると同時に、常にPAC3搭載イージスを配備する検討に入りたいと思います。
つきましては、応分の防衛費の増額を覚悟ください。

また、弾道ミサイルと並んで、原発に対するゲリラ・コマンドによる攪乱的な攻撃が予想されますので、各原発に警察対テロ特殊部隊SATの分遣隊を常駐させたいと考えます。

同時に、市民の姿をして原発を破壊する破壊工作者が発生することが十分に考えられます。
そのために、今まで過激なテロ活動をした経歴のある過激派団体に対して、これを未然に封じ込めるために、新たな法整備を検討いたします。

そして、さらに大きな視点から今後、他国との共同行動の無制限化、自衛のための相手国の攻撃、空爆と策源地敵領土への侵攻、海上交通網の無制限の共同護衛等が必須となってまいります。

山本議員のご懸念を払拭すべく、このような検討を急ぎたいと考える次第でございます。
以上、山本議員の深いご理解と、力強いご支援に深く感謝いたす次第でございます」

2015年7月30日 (木)

行政の裁量権を濫用しているのは翁長氏の方だ

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今回の第三者委員会の「瑕疵あり」という答申は、一体法的には何を意味するんだろう、素朴に考えてしまいました。これは、先の砂利条例の時にも同じです。 

前の行政が決定した裁量を、後の行政が取り消すということを翁長知事はしているわけです。 

まぁ、一種の「革命」みたいなもんです。当然ですが、日本は法治国家なので、ちゃぶ台返しは御法度です。そういう人治主義は、隣の国でやって下さい。 

しかし、翁長氏は県民相手に出来る、やると言っているわけです。

賛成反対は別にして、へー、こういうことが出来るんだというのが、おおかたの国民の感慨じゃないですかね。 

もし法的にできるとしたら、行政法上で争うしかありません。

B8xo5pmcqaafbxf(写真 琉球新報2015年1月27日)

行政訴訟法には行政の裁量権について、こんな一項があります。 

■行政事件訴訟法
(裁量処分の取消し)
30条 行政庁の裁量処分については、裁量権の範囲をこえ又はその濫用があつた場合に限り、裁判所は、その処分を取り消すことができる。 

翁長知事が使っている行政法の根拠はこの条項です。仲井真知事が「行政庁の裁量処分についてその濫用があった」と言いたいわけです。 

しかし、ここで押えておかねばならないのは、この「裁量権の濫用」の判断基準は何かということです。 

何をして、「裁量権の範囲」と定め、何をして「濫用」と呼ぶのか、です。 

公有水面の埋め立ては、法的には「環境保護」という範疇に属します。実は、この環境というジャンルは、憲法上の規定がなく、一種の社会権のように考えられています。 

社会権とは、「基本的人権の一つで、社会を生きていく上で人間が 人間らしく生きるための権利。生存権、教育を受ける権利」とされています。 

はい、また出てきましたね。あの憲法第13条、及び第25条です。困ったときの13条(笑)。 

これは先だっての砂利条例もおなじて、あくまでも前の行政の「裁量権の濫用」に引っかけてやりたいのなら、シンプルに「環境保護」一本槍でいくしかないのです。 

言い換えるなら、「政治」のような不純物を持ちこんじゃダメよ、ということです。さもないと、逆に自分のほうが「行政の裁量権の濫用」を問われかねないからです。 

たとえば、こういう表現をした場合、翁長陣営のほうにブーメランが飛んできます。 

東京新聞7月13日

「沖縄県議会で十三日、米軍普天間(ふてんま)飛行場(宜野湾(ぎのわん)市)の移設先、名護市辺野古(へのこ)沿岸部の埋め立てに使う土砂の県外からの搬入を規制する条例が自民党などを除く賛成多数で可決、成立した。十一月一日に施行される。土砂搬入を無条件で禁じる効力はないが、移設作業に遅れが出る可能性がある。辺野古移設阻止を掲げる翁長雄志(おながたけし)知事を側面支援する狙いだ

つまり、東京新聞は正直にこの砂利条例は「翁長知事への側面支援」という政治目的のために作ったんだ、と告白してしまったことになります。 

正直はいいことですが、アホです。 

おそらくこの東京新聞の記者は、「翁長知事への側面支援」をするために書いたのでしょうが、ブーメランになりました。 

まぁ、この記者が書こうと書くまいと、とっくにみんなが知っていてやっていることなわけですが、翁長氏と沖縄地元紙がしーっ黙っていようね、と黙約していたことを、東京新聞は「王様の耳はロバの耳」とやっちゃったわけです。 

As20150716001102_comml(写真 答申を渡される翁長知事。自分で作って、自分で答申をもらうという一人二役)

さて、ご承知でしょうが、翁長氏が作った第三者委員会のヒアリング内容の要旨か暴露されています。
※辺野古未公表議事録の要旨(産経2015年.7月.20日 )http://www.sankei.com/politics/news/150720/plt1507200004-n1.html 

この第三者委員会はあくまでも知事の私的諮問機関なので、内容は公開されていません。 

こんな重要なことを、まったくの密室でグジャグジャと「私的に」やっていたわけですが、一貫して権職員は瑕疵を認めていません。 

ヒアリングの一幕を覗いてみましょう。 

当真氏「環境保全などで知事が提出した意見をどういう形で検討したか」
職員「5百数十件の意見を出し、意見に対する防衛省の見解ということで全部示されている。知事意見を受けて補正した部分がどうなっているかはすべてチェックした」
当真氏「防衛省の見解をチェックした。それでもう全部OK、500をクリアしたから大丈夫と。そこで出ていないものは問題ないという判断だったのか」
職員「約9カ月、(埋め立て)申請書の内容を詳細に調べ、関係部局にも意見を照会した。意図的にわれわれにミスがあるかのような言い方をされることは心外だ。審査の結果、環境保全上の支障を見つけられなかったというのが現状だ」
【オスプレイ】
桜井氏「オスプレイの騒音は離着陸に加え、訓練時も問題はないか視野に入れていなかったか」
職員「那覇空港第2滑走路建設でも(空港を使用する)自衛隊機が訓練をする場所の騒音は申請書の予測評価に含まれていなかった」
桜井氏「そのとおりだが、県民の観点からそれではいかがなものかなと思う。それは見解の相違なのでそこまでにする」(太字は引用者)

当真氏や桜井氏が、環境保護問題を具体的に詰めているのではないことがわかります。

もし、法的瑕疵を追及したいのなら、この申請された500項目もあるといわれる工事の環境保全項目すべてに対して、委員会の徹底的に再調査がなされるべきです。

しかし、第三者委員会の委員たちはそれを怠っています。というか、そんな事務能力は彼らにありはしないし、依頼者の翁長知事が早く早くとせき立てるので、そんな時間的余裕すらなかったのです。

なんという杜撰さ!呆れたテーゲー!

これに対して、携わった職員たちは、「9か月も専門の職員がかかりきりで精査したのだ。百数十県の質問書を提出している、その結果に基づいた結果だ」と真正面から答えています。

予断をもった委員の質問に対して、職員も負けじと、「意図的にわれわれのミスがあるかのように言われるのは心外だ」とやり返しています。

県職員は県を代表して、県の見解を述べているだけで、それを県の行政責任者であるはずの翁長知事が「私的」に雇った連中に、「ミスがあるだろう」とやられれば誰でも怒りたくもなります。 

さて、このやりとりの最後の部分の桜井氏の発言に、ご注目ください。非を認めない職員に苛立った桜井氏はこう言っています。 

「県民の観点からそれではいかがなものかなと思う」 

馬脚が現れましたね。ここで桜井氏が言う「県民の観点」とは、流行語大賞候補にもなりそうな「民意」と称するものです。 

これについて、桜井氏自身の解説を聞いてみましょう。
※メールマガジンオルタ第133号(2015.1.20)辺野古新基地容認すれば永久基地化 

「名護市長選に始まり、知事選を経て衆院選に至るまで昨年の一連の選挙で繰り返し示された辺野古反対の民意にある。辺野古新基地の建設を容認するならば、沖縄は永久基地化する。それに対して県民は明確にNOという意思表示をしたのだ」 

この辺野古基地を作れば「永久基地化するから、県民がノーいう意思表示をしたのだ」と書いています。 つまり、ここで桜井氏が言う「県民の観点」とは「永久基地化にノーという声」なのです。

これは、環境保護とどのように関係があるのでしょうか?

もちろん関係ないことであって、この委員会でそれを言えば「法的瑕疵」を問うべき委員会の自己否定になってしまうことに気がついたからこそ、桜井氏は慌てて「見解の相違だ」と逃げたのです。

「永久基地化」とは、左翼運動家特有の表現ですが、別に基地は永久にそこにあるわけではありません。 

おそらく、アジア情勢次第で、海兵隊は出て行く可能性が高いのです。今、南シナ海や東シナ海で中国の軍事膨張が激しいために、沖縄に居ざるを得ないというだけの話しです。 

そもそも海兵隊の基地に被せられている「キャンプ〇〇」のキャンプとは、リクレーションのキャンプと一緒で、文字どおり「一時的な駐留場所」を意味しています。 

その意味で、私はこんな一時的駐留場所に大枚の税金を投じて、埋め立てまですることには批判的です。

もっとスマートなやり方は、いくらでもありましたが、こうまでこじれて、政治的対決案件になったために、もう本土政府も後に引けなくなったのです。。 

それはさておき、桜井委員は法的瑕疵ではなく、政治的理由で「いかがなものかと思う」と述べているわけです。 

つまり、翁長氏は政治目的のために、弾三者委員会を作り、それに沿って委員は政治目的の判断を下したことになります。 

これは、誰もが思うとおり翁長氏の「政治行為」であって、「行政の裁量権の逸脱と濫用」を問われるべきは、むしろ翁長氏の方なことを示しています。 

2015年7月29日 (水)

元本部町民さんにお答えして 翁長氏の承認取り消し裁判の「次の一手」に注目

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元本部町民さんからコメントを頂戴しました。 

「翁長知事が移設反対を叫んび 得られる利権とは、具体的になんでしょうか?    週刊誌にもネットでも沖縄基地構造がこれ程、書かれたならば復興予算の値上げは これから先、無いと思うのですが、 実際5%削減されていますし、どうなんでしょうか?
何故この質問をしたかというと、普天間固定化になると辺野古の埋め立て工事や普天間基地の移転、解体、その跡地の開発工事など、 巨大な利権が無くなってしまいますが翁長知事や後援会の金秀グループはそれでも良いと思ってるのでしょうか?
ずいぶん前の記事で管理人さんが書かれていた記事で翁長知事は平気でオール沖縄を裏切りますと書いていましたが、 落とし所を見極めてると理解して、よろしいでしょうか」
 

落し所かぁ・・・、むずかしいなぁ。今はないでしょうね。

簡単にはコメント欄でお答えしておきましたが、こ質問そのものにはとらわれず、少し考えていきます。

あたりまえですが、翁長氏という人物は、ジャイアンほど単純ではありません。彼の真の姿は外面からだけでは理解できないからです。 

私は翁長氏は、外面で見せる左翼まがいの強硬な反基地の姿勢と、内心では大きな乖離があると思っています。 

翁長氏という政治家はキメラです。戦後沖縄という風土の歪みが生み出した、頭は保守、身体は左翼というモンスターです。 

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(写真 翁長氏の当選風景 右手に呉屋氏、ひとりおいて有名な左翼運動家の糸数慶子氏。なんとも不気味な光景。これを「オール沖縄」と呼ぶらしい)

ですから、彼の言動は分裂しています。 

知事選勝利後、真っ先に翁長氏がやったのは、自分の利権構造の強化のために、呉屋氏の金秀グループや平良氏のかりゆしグループなどに多くの利権を分配したことでした。 

これが彼の「保守政治家」、(正確に言えば、彼の場合は理念なしのただの利権屋ですが)いわば本能とでもいうべき「頭」の部分です。 

翁長氏が派手な本土政府との「闘争」の裏で、内政でやったことは露骨な縁故資本主義そのものでした。

縁故資本主義とは聞き慣れない言葉ですが、政府や官僚に食い込んだ企業が、その密接な関係を利用して利権を引くことです。

開発途上国や中国ではありふれた景色ですが、この沖縄もまさにその典型です。この縁故資本主義が成立する絶対条件は、自由な報道の不在です。

沖縄は沖タイ、琉新、共に揃って強烈な翁長支持で、彼に不利益なことは一行も報道しません。

これが、翁長ブロックのやりたい放題の利権独占の放置に繋がりました。

保守の人たちは沖縄メディアをただ「反日」とだけ呼びますが、それでは不十分です。この沖縄県の、共産国家を思わすメディアの一元化がもたらす弊害に着目すべきでしょう。

As20141117001139_comml(写真 自宅で、満足げに沖縄タイムスを読む翁長氏。自宅では沖タイをとっているみたい)

翁長氏の論功報償はあまりに露骨で、あまりに広範囲に渡るものでした。主だったものだけで以下です。

第1弾は、知事選選対の大幹部である平良朝敬氏を沖縄コンベンションビューロー(OCVC)の会長に指名して、沖縄観光業界の元締めに仕立て上げました。  

第2弾は、選対本部長の金秀・呉屋氏に、巨額の振興予算が投入される予定のMICE(会議・研修・催事の大型複合施設)の利権を与えました。  

第3弾は、(時系列的にはこれか最初ですが)沖縄都市モノレール(第3セクター)の社長に金秀バイオ副会長の美里義雅氏。  

第4弾は、沖縄物産公社社長には、翁長陣営の重鎮で、落選したものの沖縄市市長選に出馬した島袋芳敬氏に与えました。 

まだまだこんなものじゃありませんが、とまれ、このような大きな利権シフトが生じたのです。 

これが呉屋・金秀G、平良・かりゆしGなどが、辺野古建設などに今や特にこだわらなくてもいい、大きな理由となっています。

ただし、金秀は埋め立て以外ならば基地建設需要には今までどおりに応じており、シュアブの駐車場建設も受注しているしたたかさを見せています。 

かりゆしGに至っては観光業ですから、基地にそもそも依存していないために、移転がなくなっても痛くもかゆくもありません。

彼らは、南北鉄道建設や、MICE、さらにはUSJ沖縄、カジノなどの、非基地依存投資で十分に潤うと考えているはずです。 

翁長雄志さん

(写真 まるで左翼のいでたちの翁長氏。このころはまだ違和感があったが、いまやまったくなくなった)

一方で、翁長氏の動向は、彼が「身体」としている革新陣営の利害によっても支配されています。 

この利害もまた明瞭です。それは、「基地を作らせない」ということそのものを、政治的利益にすることです。 

沖縄左翼陣営の中核部分は、島のエリートにして、税金で飯を喰っている公務員の官公労と沖教組だからです。 

彼らの階層だけが、復帰以降「本土並」を実現し、国家公務員レベルの賃金と労働条件を実現し、もっとも豊かで、もっとも安定した階級です。 

そのひと握りのエリートが、辺野古移設反対運動の主役だったことが、問題をこじらせてきました。 

彼らと、彼らが本土から呼び寄せた過激な左翼活動家たちが、現地住民を押し退けて闘争の主体となってしまったことが、このようなこじれた原因になっています。

彼らの念頭には解決などなく、ひたすらこじらせることこそが勝利なのです。

Ph201(写真 辺野古カヌー軍団。ほぼ全員が、県外からの左翼運動家たちによって占められれている。彼らには「解決」なとという言葉はない。ひたすら暴れることのみが、沖縄革新に期待されている唯一のことだ。ただし、これもマスコミにかかると、「抗議する住民たち」となる)

皮肉にも、沖縄革新陣営は闘争のターゲットである「基地」がなくなることを心底恐れています。 

もし、普天間基地が彼らのスローガンどおり撤去された場合、彼らは存在理由を喪失します。 

あくまで左翼という人種は、戦う目標があって、運動しているからこそ資金が集まり、組織が維持されるのです。 

沖縄官公労も、普天間基地という闘争課題がなくなれば、全国の反基地闘争の憧れのスターダムから転がり落ち、闘争の「聖地」の座を譲らねばならなくなります。 

そうなったら、公務員と教師という島のエリートたちの互助組織、という本質のみがいやでもバレてしまい、ただの田舎役人の組合という本質をさらけ出してしまいます。

それは困る、絶対に避けたい、これが彼ら革新の本音です。 

橋龍ポマードが、普天間移設を決めた時の官公労の慌てふためいた姿は、いまでも語り種になっているほどです。 

「撤去阻止」とも言えず、かといって「橋龍ありがとう」とも言えず、そこで考えた苦肉のスローガンが「新基地反対」という訳の分からないスローガンだったのです(苦笑)。 

C03fd54ab89f16c3cae932(写真 一斉にプラカードを出す反基地運動家たち。そうとうに気持ちが悪いと一般国民は思うが、当人たちにはわからない。新基地という表現の矛盾にも気がつかない。というか気がついても、今さら取り消せない)

このように、翁長氏を支えるこのふたつのブロック、即ち呉屋金秀・平良かりゆしGのブロック、そして公務員労組・革新政党フロックのふたつは、共に辺野古移設に限っていえば、工事中止となっても困らない仕組みになっています。 

つまり、翁長氏が言う、「金はいらないから基地を持って帰ってくれ」というような過激な言動は辺野古移転のみにおいては、額面どおりなのです。 

そして「沖縄差別」を叫ぶ沖縄ナショナリズムこそが、このふたつの本来相反する利害ブロックの接着剤でした。

本来はあさましいばかりに違うこの両ブロックの利害対立を、「基地のない沖縄」、あるいは「沖縄人自決」という沖縄民族主義で覆い隠すことが、この翁長陣営の策略だったわけです。

13_01_23ss(写真 「オスプレイ配備は沖縄差別」だそうだが、ならば横田配備は東京差別なのか。もう「沖縄差別」の大安売りなのが、沖縄マスコミ。沖縄差別を叫んで、沖縄ナショナリズムを煽らないと、翁長ブロックはもたない)

しかし、だからといって、翁長氏は決して全米軍基地の撤去などということを言い出すことはありえません。 

それは、製造業が乏しく、観光と基地収入が主力の沖縄県の乏しい自主財源では、自治体として生存できないことは明白だからです。 

そのような基地全廃を実現してしまった場合、今のギリシャと同じように、待っているのは、身丈にあった財政規模にまで財政収縮する緊縮財政です。 

具体的予想されるのは、各種の補助金の撤廃、公共事業費の大幅カット、公務員の削減、福祉の縮小、県法人税の値上げなどです。 

Img_c50f2cff28290f90d2b636938d6fd6c(写真 チプラス・ギリシャ首相。結局、緊縮案を呑んだが、これは国民投票で勝利したという背景があったからだ。もし、翁長氏がこのまま突っ走る気ならチプラスのやり方は、大いに参考になるだろう)

ちなみに、私か「琉球独立」がありえないと思うのは、この自主財源3割という現実を、提唱者たちが都合よく忘れてファンタジーしているからです。 

琉球独立派にご忠告したいのですが、沖縄が独立したいのならば、米軍基地というカードは国際カードなのですから大事に温存すべきです。

軽々に全廃などしたら、米国、即ち国際社会の認知が得られなくなりますよ。琉米安保条約を結ぶような清濁合わせ呑む交渉力がないと、分離独立なんてできません。

おっと待てよ、中国の冊封国に戻る気だからいいのか。米軍基地撤去は手土産になるもんね(爆)。

閑話休題。ご質問にあった翁長氏が「落し所を考えている」かどうかを判断するには、彼が承認取り消しの「次の一手」に何を持ってくるかだと思って見ています。 

翁長氏は承認取り消しまでは、確実に実行するでしょう。これにより、本土政府とは法廷での係争関係に入ります。 

多少の振興予算の減額は覚悟の上でしょう。しかし、そんなものはジャブにすぎません。

ご質問には 「復興予算の値上げは これから先無い」とおっしゃられていましたが、私は変化しないと見ています。

それは、基地という政治的資産を握っている以上、本土政府は大きなカウンターパンチを出せないからです。

仮に翁長ブロックに勝てる勢力があれば話は違います。本土政府はそちらを「次の一手」にするでしょう。

しかし、残念ながら、現状では翁長ブロックに代替する可能性のある政治勢力が見当たりません。

沖縄県において、翁長ブロック+革新ブロックの勢力に対抗する可能性を持つのは、唯一自民党沖縄県連のみですが、今、沖縄自民は戦後最大の存立の危機に見舞われています。 

いうまでもなく翁長ショックの後遺症です。翁長氏が事実上、沖縄自民の大黒柱だったのは、残念ながら事実だったからです。

来年の参院選で沖縄自民が惨敗した場合、沖縄保守勢力は致命的な状況に立ち至ることでしょう。 

本土政府はこれを冷静に観察しています。もちろん、党としては沖縄自民へのテコ入れを強力に行なうでしょうが、政府としては違います。

政府は、大局的に見て、現実政治としては好むと好まざるとに関わらず、翁長県政との共存を考えねばならないからです。

このような状況で、本土政府が振興予算の減額という荒療治に踏み切る可能性は限りなく少ない、と翁長氏は見ているてしょう。

つまり、この翁長氏に替わりうる保守勢力の不在こそが、翁長氏の過激な言動の余裕を支えているわけです。 

そして、今後を占う意味で重要なことは、承認取り消し訴訟をめぐる裁判の行方と、翁長ブロックの「次の一手」です。 

翁長ブロックが勝訴すれば、移転は事実上不可能となります。逆に負ければ、法的にはこれ以上の対抗手段はなくなります。

今回の杜撰な第三者委員会の経過をみれば、翁長氏が負けそうな気がしますが、溝口裁判官みたいな人も地裁には大勢いますから、なんともいえません。

となると、翁長ブロックの「次の一手」は、もう県民投票しか残されていないはずです。

ただし、これに踏み切った場合、本土政府とは今のような、なぁなぁの関係に修復することは、完全に不可能な非和解関係となります。

そこで、彼がその前に落し所を探るのかどうか・・・、落とし所次第によっては左翼ブロックなどはお荷物でしかないでしょう。

そのていどには、彼は政界のクソリアリストです。ただ、それは、今ではありません。

おそらく翁長氏は、革新でもなく、保守でもない、自分の完全に支配できる第3の「翁長党」を作りたいはずです。

それはきわめて沖縄ナショナリズム色が強い、「自治権要求」を掲げるような政党になるでしょう。

そのためには、彼の息のかかった経済人、政界人を今の数倍以上に膨らませてねばなりません。

経済人には更なる利権、革新系には更なる本土政府との対決が必要です。2期8年は欲しいところです。

いずれにしても、この男の今後を見るには、まだ時間がかかります。承認取り消し訴訟の結果の「次の手」次第です。

これでお答えになったでしょうか。いいご質問をありがとうございます。

2015年7月28日 (火)

寓話 南の島のジャイアン君

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ある南の島の小学校に、ジャイアン君という坊やがいました。坊やといっても柄は大人並、腕力では誰もかないません。 

あまり大きな声ではいえませんが、趣味は銭集めと弱い者イジメです。 

もちろんジャイアン君にも言い分があって、「小遣い銭を巻き上げたけど、そいつのやりたいことをかなえてやったろ、オレ、いいことしているんだ。オレこそドラエモンだ」、というのが彼の生活と意見でした。 

そんな彼はクラスの中で、取り巻きのコマスリたちの子分を作り、ブイブイ言わしていました。 

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ところが、こんなジャイアン君にも、かなわない奴がひとりいたんです。それは、クラスいちばんの秀才、しかもクラス委員のマイカナ君でした。

マイカナ君は見た目はヒョロヒョロでしたが、実行力があって、誠実にクラスをよくする仕事を仕上げていくので、クラスの人望があったんです。 

仕方なくジャイアン君は、マイカナ君の舎弟をするはめになってしまいました。

舎弟はつらいもの。マイカナ君のクラス委員選挙まで率先してやらなきゃならなかったのです。 

子分たちのワル共からは年中、「ジャイアン兄貴のほうかずっとカッコよくて強いのに、なぜあんなヒョロヒョロの野郎に頭が上がんねぇの。兄貴がクラス委員やるべきだよな」と馬鹿にされます。屈辱ですね。 

ジャイアン君は、表面はマイカナ君に尻尾を振っても内心、「いつの日か見ていやがれ、あいつの次のクラス委員は、この俺様だ。その時には、思う存分、クラス全員から小遣い銭巻き上げて、クラス委員会費もオレの思うように使いまくるんだ。ゲーセン借り切ってやるゾぉ」、なんて秘かに燃えていました。 

実は、今までジャイアン君がマイカナ君に尻尾を振っていたのは、マイカナ君から「撲の次はキミだよ」と言われていたからです。 

すっかりその気になっていたジャイアン君でしたが、次の学期のクラス委員会選挙でマイカナ君はジャイアン君にこう言いました。

「ごめん、今度キミを推薦しようと思ったんだけど、ダメになりそうなんだ。ほら、あの学校から頼まれていたクラスの池の一部を埋めて学校の施設を作る計画、もめているだろう。ボクは仕方がないと思ってるんだけど、いまでもハンタイする子も多いよね。だから、あるていどめどが立つまでボクがやってから、きみに引き継ぎたいんだよ。分かってくれよ」 

これを聞いたジャイアン君はカンカンになりました。「なんのために今まで、こんな青ビョータンの舎弟になっていたんだ、第一、もうオレだって卒業だから、次はねぇっだろう」ってね。 

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で、ジャイアン君は、子分のワルたちと一緒になって、今までマイカナ君と対立していた埋めたて計画反対だった子どもたちも入れて、「埋め立てハンタイ・オール6年3組」を作ったのです。

今までいじめっ子の敵だと思っていたジャイアン君が急に味方になったので、反マイカナ派の子たちは大喜びしました。

「うわーい、これでマイカナ派を追っ払えるぞ。そしたらオレたちの天下だァ~い」

これには反マイカナ派の学級新聞も大喜びで、応援団になってくれました。 

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もちろんジャイアン君には反マイカマ派に天下を取らせる気なんかなくて、自分の独裁をしたかっただけです。利用できるものは利用する。これがジャイアン流なのです。

そして見事当選。マイカナ君は、この心労もあって、持病が悪化して入院してしまいました。 

さて、邪魔者がひとりもいなくなって、天下晴れてクラスのボスになったジャイアン君がまずやったのは、今までの舎弟たちを全員クラスのいろいろな委員に任命したことでした。

もちろん、甘い汁をすすらせるためですが、これに悪ガキの舎弟たちは大喜びでブイブイいわせました。

いままで一の子分だったダケヤ君などは、副委員長に大出世していばりまくりっています。

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そして次にやったのは、マイカナ君がやったクラス委員の仕事を全部潰すことでした。 

一番もめていた学級の池の埋め立ては、「マイカナ委員長の悪行を暴く」と言って、自分の息のかかった子供ばかり集めて特別委員会を勝手に作って、「マイカナのやったことは全部デタラメだった。だからチャラだ。こいつらに調べさせる」と言い出しました。 

さぁ、困りましたね。だって、もう学校の計画ではとっくに決まった約束事なんですからねぇ。

驚いた学校は、「ねぇきみたち、そりゃ困るよ。決まったことなんだからね」と言いましたが、ジャイアン君は聞き入れません。

「オレはクラスで選ばれた委員なんだから、いちばんえらいんだ。なんでもできるんだぞ。先公は黙ってろ!」と言いだす始末です。

さぁ、この南の島の6年3組はどうなって行くのでしょうか(音楽高まる)。

こんなジャイアン君のやり方を正しいなんて、島の学校の先生は教えないで下さいね。

こんな方法があたり前になれば、子供たちは学校や社会のルールなんか、「勝ちさえすれば、いくらでも破れる」、と勘違いするように育ってしまいますから。

先生に怒られたら、「ここにおわすは民意サマだ。頭が高い。下がれおろ!」と言ってやればオーケーです。

このように、南の島のジャイアン君のやり方は、18禁なのです。 

あ~、くたびれた。わたしゃ、絵本作者にはなれんわ(笑)。 

※お断り 後半は長いのでカットして、明日加筆して掲載することにします。いつもすいません。

 

2015年7月27日 (月)

翁長知事特製 怪しい「第三者委員会」の中身とは

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翁長知事が作った、辺野古移転についての第三者委員会の答申が出ました。予想どおり前知事の事務手続きに「法的瑕疵あり」というものです。 

「米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設先、名護市辺野古沿岸部の埋め立てを承認した前知事の判断の是非を検証する沖縄県の有識者委員会は16日、埋め立て承認手続きに『法律的な瑕疵(欠陥)が認められる』と指摘する報告書を翁長雄志知事に提出した。
 翁長氏が政府への対抗策の『本丸』と位置付ける承認取り消しに8月中にも踏み切る公算が大きくなった。辺野古移設阻止を掲げる翁長氏は、報告書を『精査した上で、承認の取り消しも含めて対応を慎重に検討したい』と語った。
 承認の効力が失われれば政府は辺野古移設を続行できなくなるため、沖縄防衛局は法的な対抗措置を取るとみられる。(共同 2015年7月16日)

これで翁長氏は、承認取り消しの根拠を得たとして、国に承認取り消しを通知するようです。 

10a46b3de2b8679cbfff1deb1551c72a(写真 沖縄タイムス7月17日 クリックすると大きくなります)

この答申内容自体については、特に驚く要素はありません。

そもそも翁長氏が、承認取り消しのために作った政治的な「第三者委員会」なのですから、当然すぎるほど当然で、「法的瑕疵なし」などと言われたら、かえってびっくりします(笑)。 

Plt1507200005p1(写真 答申なるものを「依頼者」に渡す大城浩弁護士)

 この移転問題に関する、「第三者委員会」なるものの目的は、ふたつです。 

ひとつは、「環境保全への十分な配慮」があるかとうか、そしてふたつめに「国土利用上、適正で合理的」といった埋め立て承認基準に適合しているかについての、法的再検証を加えるというものです。 

中心的な人物は二人。委員長を務める元沖縄県弁護士会会長・大城浩氏と、沖縄大名誉教授・桜井国俊氏です。 

まず例によって、この再検証をしたという、「第三者委員会」(「有識者会議」)という組織の定義を押えておきましょう。 

「第三者委員会とは 、 利害をもつ当事者とは関係の無い第三者による委員会のことで、不祥事 などの問題が発覚した場合に、疑惑告発者と疑惑対象者の双方に関係の無い第三者が 、疑惑調査などを担うこと」 

実は、この大城委員長も属する日弁連には、第三者委員会ガイドラインなるものがあります。
第三者ガイドラインを作った久保利、國廣、斉藤の3弁護士に聞く - 法と ... 

これは、企業ガバナンスで不祥事が続いたために、第三者委員会が雨後の筍のようにできて、その中には手心が加わった答申もそうとうにまれていたからです。 

特に、公認会計士ではなく、企業弁護士が委員長をするケースが多く、答申次第では企業価値が激減するために、明らかに告発されている企業に手心を加える答申のテースか目立ったようです。

それについて、日弁連ガイドライン委員会の弁護士自ら、こう述べています。 

「なぜこのガイドラインが必要かというところで考えたように、日本の弁護士たちというのは、だれか依頼者がいて、カネをくれた人が依頼者で、カネをくれた人にもっとも忠実に弁護をすることが弁護士の忠実義務であると思ってらっしゃる」

なるほど、弁護士というのは、いかにも法の正義の執行者という顔をしていますが、ホントはそうではなくて、ただの「カネをくれた人」である依頼者の利害代理人でしかないのです。

ですから、その体質を反省していない人物が、「第三者委員」にはなりにくいのです。なんせ日弁連が自分で言っているのですから、間違いないところでしょう(笑)。 

この弁護士の忠犬根性、もとい、「忠実義務」によって,弁護士は被告人の利益と権利のために最善を尽くす義務を持つために、ある意味、もっとも依頼人の利害から離れたことはしにくい職業なのです。

すなわち、この世の中でもっとも「第三者委員」に不適格な職種があるとしたら、それは弁護士なのです。 

ここが法の執行者としての検事、あるいは裁判官と、本質的に弁護士が異なる点です。 

そして、そんな弁護士が、忠実義務の体質のまま、第三者委員会を支配して答申すれば、「カネをくれた依頼人」の思うとおりのものができてしまう、これじゃあいくらなんでも「第三者」とは言えないだろうと、日弁連ガイドライン委員会は考えているわけです。

では改めて、この翁長知事が作った「第三者委員会」なるものの、中心的な人物を見てみましょう。

中心人物は元沖縄県弁護士会会長・當真良明氏です。まさに、第三者委員会と依頼人の癒着構造が発生しやすい温床の構図です。

當真弁護士を中心に据えた段階で、第三者委員会が必須とするはずの公平性、透明性に陰りが出たわけです。 

というのは、まず當真氏が依頼人、つまり翁長知事に対しての「忠実義務」を持つ弁護士だからです。

しかも、狭い島内に生きる県内在住者です。

前知事のした事務手続きに対しての法的再検証を謳うならば、法曹でも検事などの人物を当てるべきなのはいうまでもないことです。なんなら公認会計士でもかまいません。

事実、朝日新聞は、誤報問題で作った第三者委員会に元検事を当てています。

今回も公平・公正を期するなら、利害が絡まる沖縄県在住の人物ではなく、むしろ本土の検事経験者などに依頼すべきでした。

その上この當真氏は、既に自らが先頭に立って、とうに依頼人である翁長氏と同じ反対の旗幟を鮮明にしている人物でした。 

沖縄弁護士会は2014年1月15日、知事の埋め立て承認に強く反対する会長声明を発表しています。

声明をとりまとめて、自分の会長名で発表したのが、他ならぬ当時・沖縄弁護士会の会長であった當真氏でした。 

Photo(写真 反対声明を出す沖縄弁護士会。琉球朝日放送)

この當真会長名で出された反対声明には、こうあります。
 

「仲井眞知事の埋め立て承認の判断が、これまで過重な基地負担を強いられてきた沖縄の現状を十分に配慮しているか疑問だと指摘。また、事業周辺区域の生活環境や自然環境の保全についても、公有水面埋立法に該当性があるか『重大な疑義が有る』と述べました。
當真良明会長は「県内における新たな基地建設は憲法の精神に反する重大な人権問題であり」「公有水面埋立承認という判断に対し、改めて強い反対の意を表明するものである」と話しています」」(琉球朝日放送2014年1月15日)

http://www.qab.co.jp/news/2014011548976.html 

ご覧のように、翁長氏と寸分違わぬ考えです。

つまり、既に當真氏は翁長氏とまったく同一の結論をあらかじめ持っていながら、第三者委員会のトップに任命されたわけです。

いや逆に、同じ意見の持ち主だからこそ、任命されたのでしょうがね(苦笑)。このどこが「第三者」の客観性だというのでしょうか。

「依頼人への忠実義務」を持つ弁護士で、しかも翁長知事と同じ考えを既に公表している人物を選んで、第三者委員会の委員長に任命したというわけです。

これのどこが、「第三者」委員会と呼べるでしょうか?

まるで、サッカーチームのオーナーが自ら審判を雇い、その審判にゴールに弾を蹴り込むように依頼するような、まるっきりの八百長試合です。

このような第三者委員会を世間では、「カイライ」、あるいは、「お手盛り」と呼びます。

すなわち、それ自体コンプライアンス義務違反の疑いが濃厚な「第三者委員会」には、権威はおろか答申する資格そのものすら欠落しているのです。

このようなものに公費を費やしてよいとは、とうてい私には思えません。

この翁長知事の第三者委員会は疑惑のテンコ盛り状態ですので、もう少し続けます。

                        ~~~~~~

■追記 全労連の車を借りたから、シールズ=民青・、在日、というあのサイトを引用した自民党議員のツイッターが炎上しているようです。まぁ、書かれた相手があの 日本最悪のイエローペイパー「日刊ゲンダイ」だから、勲章かもしれないけどね。

このシールズの男子学生はこう言っています。
「いい大人が学生に向かって侮蔑的な差別発言を吐くなんてどうかしてます。全労連さんから車を借りたのは事実ですが、それはたまたま車が空いていたから」
まぁ、私が想像していたより、スマートじゃないが、こんなもんでしょう。

しかし、ばかだなぁ。だから、言ったろう。あんな証拠薄弱なことを根拠にすんなって。バカじゃないか。つまんない上げ足の取り合いはヤメロって。

シールズなんか相手にするなって。いま大事なのはしっかりと安全保障について考えることです。
ただでさえ枝葉にハマっている議論を、これ以上混乱させては反対派やマスコミの思うつぼじゃないですか。

シールズをそんなに叩きたいなら、「共産党」でオシマイにしておきなさい。こう言ってもまちがいじゃないんですから。シールズが否定したら、赤旗一面で毎日でていまよすよね、って言っておけばよろしい。

ともかく、くだらないことで騒がないで下さい。
それじゃなくても、暑いんだから。論議を深化させること!
それに集中せよ!

2015年7月26日 (日)

日曜写真館 ちょっとした極楽気分

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2015年7月25日 (土)

土曜雑感 右も左も真っ暗でござんす

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「シールズが全労連の宣伝カーを使っているから共産党系だ」、という「情報」がネット界で流布されています。 

私も「依存症の独り言」さんなどで見ています。
http://banmakoto.air-nifty.com/blues/ 

実は私たちブロッガーからすれば、こういう書き方は楽ちんなんです。

だって、論証も資料集めも要りませんから、テキトーにそれらしい「情報」を見つくろって、あらかじめあった結論にくっつければいいだけです。 

このネットの記事では、共産党系全労連の宣伝カーを使った、シールズのデモの中に男組(※)メンバーらしき男や過激派系の人物がいた、だからシールズは「民青+過激派+在日+チンピラ連合」だと決めつけています。 ※在特会に対するカウンター組織

これって、典型的な印象操作の手法じゃありませんか。

印象操作とは定義しておけばこういうことを指します。 

「あることに対して、断定的な口調で自己の判断を提示し、それがあたかも「一般的」であるかのような印象を読み手に与える、という文章表現上の一技術」 

ね、よくマスコミで多用されているでしょう。言い切らないが、かぎりなく匂わせる画像を多用して、断定的ナレーションをくっつけて一定の方向に世論を導こうとするやり口です。 

この場合、全労連が使っていた宣伝カーを、シールズが使っていたということを唯一の証拠にしています。 

もし、このことでシールズに取材すれば、こう答えるでしょう。以下、もちろん架空です。 

シールズ女学生広報担当(M学院大学国際学部 仲間由紀江さん似) 

702d4f4d35f393d5c929b380811b5437(仲間さん、こんな所で使ってすいません。シールズが、可愛い子ばかりを写真に写る場所に出してくるのは有名なもんで、つい)

「はい、全労連の宣伝カーの件ですね。いくつかご質問がきております。
ご承知のように、私たちシールズはお手許にございます資料3の結成趣意書にありますように、『枠組みを超えたリベラルの団体の結集』を目指しております。
趣意書の理念に沿って、同じ安倍政権の強権政治と闘う仲間の全労連さんのご好意でお借りしました。もちろん貸借料はお支払いしております。なにか不都合がございますでしょうか(きっとして質問者を見返す)」
 

「次に参加者の中に、過激派の人たちがいたという件ですね。
はい、大変に当惑しております(眉根を寄せる)
一部で、まるでニセ左翼暴力集団(←この言い方だけでお里がバレる)と、シールズを結びつけられて迷惑をしております。
デモ参加者は多数なので、チェックしておりません。そのようなことは警察の検問行為になります。自由と民主主義を守る私たちがするべきことではないと思っております。
ですから、仮にそのような人たちが混じっていても、排除できませんし、排除する意志も御座いません。
私たちの統制にしたがって抗議行動を平和的にやっていただけるなら、来るものは拒まず、がモットーでございます。
このようなわけですから、仮にデモや集会の写真に、そのような人が写り込んでいてもなんの不思議もありません」

「在日チンピラですか。まず、『在日』という言い方自体が、排外主義・差別主義に満ちた悪意ある表現です。
百歩譲って、もしそれが、有田先生にご尽力戴いている排外主義との闘いに参加している方がただとすれば、その方たちがデモにきて、なんの不都合があるのでしょうか。
『在日』という言い方自体が、大変に問題ある差別的表現で、使われるほうの品性を疑います。
もしそれが『在日韓国人』を指すならば、いっそう在日韓国人はデモ参加してはいけないとでもおっしゃるのでしょうか。それこそ憲法違反ではないでしょうか」

「民主青年同盟(←なぜかフルネームでいいたがる)についてのご質問ですが、それに属している方もおられるとは聞きますが、確認しておりません。
仮に、いらしたとしても、あくまでもシールズはさきほど申し上げましたように「枠組みを超えたリベラル勢力を結集する」開かれた団体ですので、ノープロブレムだと考えます」

チャンチャン♪ 

ね、あちらが クレバーなら、こう答えちゃうんですよ。 

5b3a09ees(写真 シールズのデモ。ね、可愛い女の子ばかりをフロントに出しているでしょう。大学も明学、青学などのミッション系を中心にしているように見せかけて、いわゆる学生運動の老舗のワセダ、ホーセイなどをはずしている巧みさ。うまいねぇ。これにマスコミはコロっといきました)

で、このように回答されたら、質問したほうが恥をかきます。だから、レッテル貼りしてもダメ、返り討ちにあうのが関の山です。 

このような印象報道は実はアチラの専売特許だったんですよ。特定秘密法の時に、朝日は大キャンペーンを張ったのですが、こういうかんじです。 

もはや世界記憶遺産に登録申請したいような殿堂入りモノです。

「防衛産業で働くB男がA子と大学の同窓会で再会した。酔ったB男は『あまり知られていない話だけど』といって、数年前に北朝鮮が発射したミサイルが途中で失速して海に落ちたが、『もし失速していなかったらこの辺に落ちていたかも』という情報を暴露。
A子がブログで書き込み、ある防衛マニアかミサイルの飛ぶコースを推測してネットで拡散した。翌月、捜査機関が二人を訪ねて来た。B男は業務で知った秘密を漏らした疑い、A子は漏洩をそそのかした疑いだった」 (2013年12月6日)

この記事のキモはむしろイラストにあって、そこには思わせぶりに「有罪!」という字がデカデカと踊っているのですから、さぁお立ち会い! 

もちろん、本文には「逮捕される」も、ましてや「有罪」もありません。これが味噌です。ただ「捜査機関が訪れた」と記してあって、そこで寸止めです。逮捕まで書くとまるっきりの誤報だもんね(苦笑)。

そもそも、特定秘密法は、防衛省や製造に携わった関係者に対しての秘密保全義務に罰則規定を設けただけのもので、世界中どこの国にもあるものです。

たかだかミサイルの弾道を予測したらパクられるようなもんじゃありません。それを、「同窓会」だとか、「ネットでの拡散」とか、市民の身近な例に引き寄せて、恐怖を煽っています。

この手法は、民主党が今回の安保法制審議で、「徴兵制が来る」とやって、国民に身近な恐怖を煽ろうとした手口に通じます。実に卑劣です。

「ネット」も「同窓会」も、特定秘密法案にはなんの関係もありません(あたりまえだ)。

それをあたかも特定秘密法で、国が気に食わないことを言えば逮捕されて罰せられる、という恐怖を植えつける素材として持ち出します。

典型的な印象操作による歪曲報道野やり口ですが、これは<恐怖>を担保にしているだけに効くんだなぁ。

これに煽られたのか、リベラル文化人までが、「物言えぬ憲兵政治が戻って来る」と騒いだのですから、なんともかとも。

0b901139(写真 「プロメテウスの罠」を大々的に賛美する朝日新聞。2011年から2年間ていどは朝日の「良心の証」のような存在だったが、執筆記者が吉田調書でズッコケて、今や歪曲報道の殿堂入りに)

こういう書き方は朝日のオハコで、『プロメテウスの罠』でも使われています。 

たとえば、有名な町田の主婦の子供が「鼻血を出した」件などは、こういう書き方をしています。こちらも歪曲報道の殿堂入り記事です。

「有馬理恵(39)のケース。6歳になる男の子が原発事故後、様子がおかしい。4カ月の間に鼻血が10回以上出た。30分近くも止まらず、シーツが真っ赤になった。(中略)
原発事故後、子どもたちの体調に明らかな変化はありませんか」。すると5時間後、有馬のもとに43の事例が届いた。いずれも、鼻血や下痢、口内炎などを訴えていた。(中略)
こうした症状が原発事故と関係があるかどうかは不明だ。首都圏で内部被曝というのは心配しすぎではないかという声もある。しかし、母親たちの不安感は相当に深刻だ。たとえば埼玉県東松山市のある母親グループのメンバーは、各自がそれぞれ線量計を持ち歩いている」(朝日新聞2011年12月2日 太字引用者)

まず衝撃的な、「子供が放射能の影響で鼻血」という事例をぶつけて、読者を<恐怖>の前にひれ伏させます。 

ちなみに、この有森氏という女性はただの主婦ではなく、共産党系の女優で、集団的自衛権反対演劇などをしているプロの運動家です。 

こういうタイプの人物を、なんの注釈もなく登場させ、デマの発信源とするのが、朝日です。

それはさておき、記事は「町田という遠隔地にも子供に放射能が原因で鼻血が出た」というショックで思考停止に追い込んだ後に、「放射能の恐怖でお母さんたちがパニックになっている、東京都下まで放射能被害が及んでいる、子供がバタバタ倒れている」という印象を植えつけます。

もはや報道というよりアジビラですが、実に巧みです。

これと同じ手法は雁屋哲氏が、『美味しんぼ』で使い、こちらは失敗しました。

Photo_2(写真 「美味しんぼ・福島の真実」より。「鼻血が出た。放射能のせいだと訴える井戸川元町長。この人の鼻血は埼玉に逃げてもまだ止まらないようで、写真まで公開してバッチイ。当然のこととして、このマンガにも出てくる松岡医師のようなヘンな人しか、それを被曝とは結びつけていない。この大阪瓦礫焼却と鼻血の関係も、デタラメであることが完全に証明されている)

具体的病名も提示されなければ、医師の所見も「心理的なもんでしょうね」ていどのあいまいなものです。

全部ただの「印象」です。無関係な事例を、先入観とイデオロギーで接着しているだけです。

あのね、朝日と雁屋さん、、子供は年中鼻血くらい出すの。首都圏で募れば43件くらい簡単に集まるの。

これはこのブログで徹底的に書いたことですが、仮に放射能と鼻血が関連があるなら一時に高線量を浴びた急性被曝だけなのです。 

こんなことは少し放射線防護学を勉強すれば、すぐにわかることです。

しかし、これでいいのです。なぜなら、これらの情報の目的は、恐怖を植えつけて自分の意志に従わせることだからです。  

もちろん、朝日の記者自身もそれがありえないことを医師から取材しているはずで、ちゃんと言い訳を紛れ込ましています。  

記事中には巧みに、「関係があるかどうかは不明だ」、あるいは「心配しすぎではないか」と批判を受けた場合の逃げ道を作って、後から「あれはそのような人が出たという客観報道にすぎません」と、いざ追及された場合には逃げられるように、非常口も作ってあります。 

つまり、悪い意味での「プロの仕事」なのですから、余計に悪質です。

こういう、本来無関係な事柄を主観でくっつけて、自らの主観の方向に「角度をつける」報道を印象報道と呼びます。

どうしてこんな飛ばし記事が新聞協会賞なんかに選ばれるのでしょか。まぁ、新聞協会会長は朝日新聞社長でしたけど(笑)。 

もちろん事故から9か月しかたたない当時の状況で、大新聞にこのような書き方をされたら、情報を持たない一般読者は、「放射能の影響で子供を中心に健康被害がどんどん拡がっている。大変だ!子供を守れ!」という気分にさせられます。

そして朝日の思惑どおり、母親たちの脱原発サークルか大量に生れる結果につながっていったわけです。

雁屋氏のほうは、だいぶ情報が出揃ってからの時期だったから袋叩きにあいましたが、『美味しんぼ』が出たのが2011年夏あたりだったら、巨大な負のインパクトを与えたことでしょう。

ちなみに、この「プロメテウスの罠」を書いた木村英昭記者と宮崎知記者は、後に吉田所長調書を手に入れて、「所長命令に違反して所員は大部分逃亡していた」というヨタ記事に仕立て上げ、その嘘がバレて、記者生命を失っただけではなく、社長と朝日まで道連れにしています。

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(写真 謝罪会見する朝日木村社長。この後に第三者委員会で厳しい指摘があったが、いまもなおその報道姿勢には変化がない。いやむしろ、いっそうひどくなっている)

このような無関係、ないしは無関係かもしれない情報を、自分の主観で強引につなげて自分の説を強調する印象操作が、いかにメディア自身にとっても毒になったかわかるでしょう。

このような印象操作に基づく印象報道を、徹底的にメディア・リテラシーしてきたのが私たちブロガーたちでした。

もし、これらの朝日の歪曲報道に対して、ネット界から発信されるカウンターがなければ、一昔のように嘘が嘘のまま歴史的事実となっていったことでしょう。

思えば、慰安婦問題が流布される1990年代初期に、いまのようにネット言論が盛んならば、慰安婦虚報はここまで世界に拡がることはなかったはずです。

私も微力ながら、このリテラシーに参加できたことを、ささやかな誇りにしています。

そのネット界の低調ぶりは、今回の安保法制で感じています。安全保障という分野のせいか、まともな論説が少ないのです。

その上、左翼陣営がシールズというニューファッションで来ているのに、あいも変わらず、「在日」がどうたら、「反日」がこうたらと、うんざりです。

「隠語了解圏」の中に閉じ籠もり、「在日」「反日」などというスラングが通じる狭い仲間うちの世界だけでオダを上げて溜飲を下げています。

ここに出てきた「在日「反日」」という表現自体も、かつては一部の在日韓国人の行き過ぎた反日的言動に対する批判から始まっていますが、いまでは気に食わない発言はみんなひっくるめて「在日」「反日」とレッテル貼りするようになってしまいました。 

「安倍さんが戦場に行けよ」みたいな、たわいのないことを言った芸人までもが、「在日吉本」などとやられるんですから、もはや言葉の大安売りです。

確かにどうしようもない反日的言辞を弄する者はいますが、こういう言葉はやがて出てくる本命のために大事にとっておこうね。

景気よくバラまくんじゃないよ、国の空気悪くなるから。

左側には、左翼陣営とマスコミの低レベルな反安倍プロパガンダがあり、右側にはこれまたくだらない「在日」というレッテル貼りがあるという具合では、今の泥沼の安保法制議論が深まるはずもありません。 

私から見れば、どっちも同じ穴のムジナ。左右の違いがあっても同じ思考パターンだからです。 

どうしようもなく不毛です。もう少しまともに安全保障論議を深化させないと、この国はマジに滅びますよ。

左が低劣だと、それに応じて保守も劣化してしまうんでしょうか。保守系ブログの皆さん、ダークサイドに落ちないでね。

ああ、右も左も真っ暗でござんす。

2015年7月24日 (金)

安保審議の幕間に起きた中国の海洋プラットフォーム建設の意味とは

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中国という国は、確かに神秘の国です。あの国の4千年の歴史の知恵は、なぜかくも深く、訳が分からないのでしょうか。 

思えば1998年、中国は台湾で初めて実施されようとした総統の直接選挙に対して、李登輝氏が選出されることを阻止するために、第2砲兵(※弾道ミサイル部隊)に命じて「東風」などの中距離射程のミサイルを多数発射しました。 

結果は真逆に転じました。台湾はこの露骨な恫喝に対して国民的な団結を促し、李登輝氏は再選されてしまいました。 

しかも、米国は第7艦隊のインデペンデンスの空母戦闘群を入れて、さらには中東に展開していたニミッツまで急遽呼び寄せるという対抗手段に出たために、中国にとってとんだ藪蛇となったというおまけ付きです。 

今回、わが国か集団的自衛権審議で、本来焦点化すべき中国の軍事膨張を、政権党が外交的配慮から口にできないことをいいことに、野党とマスコミは焦点ボケに精出してきました。 

審議前半がホルムズ海峡がどーたら、後半が違憲だからこーたらと、中国の「ち」の字も出てこない不思議な「時間よ止まれ」といった空気が日本中に蔓延したのは、記憶に新しいことです。 

このように、本来リアルな安全保障論議がなされるべき審議が、護教神学による信仰告白に堕しようとした時に、当の中国が、「オレのこと、忘れてない」とばかりに登場なされたわけです(笑)。 

まことに素晴らしいタイミング。しかも衆院での退屈な審議がいったん終了し(どうせ、また衆院に返ってきますが)、参院に舞台を移した間合いを狙い済ましたかのように、中国は日中境界線に、海洋プラットフォームを16基、たちまち増設してしまいました。 

ここは長年の係争海域で、共同開発していこうね、ということで手打ちがなされた地域です。 

中国の海洋プラットフォームが作られた場所を確認しておきます。中間線ぎりぎりでの中国側です。 東シナ海のど真ん中と言ってよい場所です。

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 日本政府はただちに抗議声明を出しました。

「中谷元(げん)防衛相は10日の衆院平和安全法制特別委員会で、中国が東シナ海に建設している新たな海洋プラットホームが軍事拠点化される可能性に言及し、日本の安全保障にとって新たな脅威になるとの認識を示した。
東シナ海のガス田開発をめぐり、中国が平成25年6月以降、日中中間線の中国側海域でプラットホームの建設を拡大しており、中谷氏は「(中国が)安全保障の観点から利用する可能性は考えられる」と述べた。
 中谷氏は軍事転用されるケースとして「プラットホームにレーダーを配備する可能性がある」と指摘。その上で「東シナ海における中国の監視、警戒能力が向上し、自衛隊の活動がこれまでより把握される可能性があると考えている」と説明した。
 安倍晋三首相は特別委で「一方的な開発を進めていることについて中国に強く抗議している」と強調。菅義偉(すが・よしひで)官房長官も記者会見で「中国側の動きを注視し、引き続き警戒監視をしっかり行っていきたい」と牽制(けんせい)した」(産経7月15日)
 

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中国外務省報道局長・陸慷は22日、日本政府が中国による東シナ海のガス田開発の写真を公開したことについてこう述べています。 

「日本のやり方は対立を作り出している。東シナ海での協力や対話に明らかに役立たない。ガス田開発は全く正当で合法だ」 

冗談は寝てから言え。このような係争地域に、日本との事前教義なしにプラットフォームを作ること自体が外交的挑発で、しかもこの海洋プラットフォームは、軍事的性格すら帯びています。 

中谷防衛相が指摘するとおり、このプラットフォームの地理的位置は、今までの中国レーダーが届かなかった海域をフォローするものです。 

なぜでしょうか。その理由を知るために、ちょっと時間を巻き戻します。 

中国国防部は2013年11月に、突然防空識別圏(ADIZ)を、日本領土の尖閣諸島上空にかけてきました。 

防空識別圏とは、領空に飛んできた航空機が敵か味方かを文字どおり「識別」するために領空の外に設けられるものです。

これは領空と違って勝手に設定できますが、それはただの目印のようなもので、そこに入ったからと言って撃墜などしたら国際法違反です。

ところが中国は、フライトプランを提出していない航空機は、原則として「敵機」とし撃墜すると宣言しました。 

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 この中国の措置は、国際法と常識に反する異様な行動として、国際社会で警戒感を呼びました。 

そりゃそうでしょう。防空識別圏に入っただけでは、別に中国に行くとは限らないからです。台湾に行くかもしれないし、ベトナムにやタイに行くかもしれません。 

それをいちいち勝手に自分が設定した防空識別圏を通過するだけで撃墜するとは、非常識もいいところです。 

いわば「排他的経済水域(EEZ)は自分の領海だ、出て行け」というのと同じ理屈で、これは現に中国が南シナ海でヤリまくっていることと同じことの、空域バージョンです。 

さて、これだけで中国には問題がアリアリなのですが、更に面白いと言ってはなんですが、奇怪な現象が起きました。

実は、中国が自分が勝手に設けた防空識別圏を、まったく管理できていないことがバレてしまったのです。 

このチャイナ製防空識別圏など認めていない米空軍、海軍機や空自機は、今までどおりに「侵入」したのですが、「落す」と宣言したはずの中国空軍機のお出迎えはありませんでした。 

それでわかったのが、どうやら中国空軍には、この空域を識別するレーダー監視能力が欠落しているという笑劇の事実でした。 

レーダー波は直進しかしません。地平線に沿って曲がってくれるようなシャレたまねは無理です。 

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ですから、レーダー基地はかならず遠くを監視するために、山の上などの高い位置に設置します。

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ところが、中国沿岸部には高い標高の山がないのです(気の毒)。そのために、せっかく尖閣諸島に防空識別圏を設けても、高度3300m以下の航空機を識別できないわけてす。 

では、日米のように空中警戒管制機(AWACS)を飛ばせばいいではないかと思いますが、残念無念なことに、中国のそれはなんちゃってAWACSでした。

探知能力が絶対的に不足しているために、仮に飛ばしてもスクランブルできないことは目に見えているために、中国軍は恥を忍んでいたようです。

といわうわけで、中国は、レーダーを東シナ海のど真ん中に設置したくてしたくてたまらなかったわけです。

尖閣を奪取したい理由は、先日少し書きましたが、もうひとつの理由は尖閣の山のてっぺんにレーダー基地を作ることなのです。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/post-1dbe.html

尖閣諸島の魚釣島は、高363 mあり、レーダー基地を設置するのにうってつけの地形です。

ここにレーダーサイトを設置すれば、東シナ海全域をカバーでき、東シナ海一帯の空域を「中国の空」とすることのための、大きな足掛かりになります。

今は沖縄の航空基地をスクランブルしてくる空自機や、嘉手納の米空軍機を中国は捕捉不可能でしたが、このプラットフォームをレーダー基地化することで、飛び立った瞬間にキャッチされてしまうことでしょう。

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現状のようにレーダー監視すらできない状況で中国空軍機を尖閣空域に侵攻させても、地上レーダーの支援が不可能では話になりません。

この「レーダーの空白」を解決するために、今回中国がしたのが、この日中中間線ギリギリの海洋プラットフォーム上にレーダーを設置するしか手段はありません。

この日中中間線ガス田について、中国は2008年の時点までは、外交部主導で進んでいましたが、野田政権の国有化をきっかけにして、軍部が建設の計画を握りました。

これは、野田の国有化への中国世論の反発が余りに強いために(反日暴動までおきましたよね)、日中の共同開発の条約化が座礁してしまったからです。

これを奇貨としてプラットフォーム建設の主導権を握った中国軍部にとっては、天然資源開発は二の次のことであって、この軍事利用を真剣に考えてきました。

それがこの海洋プラットフォームの「要塞化」です。

かくして、日中中間線ガス田開発は、経済問題から、外交・軍師問題へと性格を変えようとしています。

それもよりによって、わが国の安保法制の議論の真っ最中に。

日本政府は太平楽な違憲論議に埋没せずに、しっかりとこの危機の現実を国民に訴えるべきです。

まさに、集団自衛権の必要性を説く教材のような事件を、中国が提供してくれたのですから。

2015年7月23日 (木)

安保法制審議をめぐる、国会内外の奇妙な風景

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よく第9条を、「戦争放棄した平和憲法」という人がいます。この認識は、ほとんど日本人の常識と化していて、今回のような護憲論争になると、がぜん頭をもたげます。

まるで、9条を傷つけると、即座に戦争にでもなるようてす。 

「タレントのラサール石井さんは16日、国会前で行われた反対デモに参加してきたという。その後、ラサールさんのツイッターには反発する声が届いたらしく、19日には
「国会前に行っただけで『あっちの人か』『サヨクか』『組織と繋がってるのか』とかうるせえわ。報道見てじっとしていられず自分の意志で一人で行った人は沢山いるはず。演劇仲間はみんな行った。悪いけどスマホの前でウダウダしてるあんたらと違って俺達世代は身体の芯から人間の作りが違うんだ!」(J-cast7月21日) 
 http://www.j-cast.com/2015/07/21240757.html

20150717222234oaspd5写真 「9条を守れ」と叫ぶ首相官邸前のデモ隊。「ウォーイズオバー」やピースマークなんて、私たちがやっていた70年代反戦運動のまんまパクリだ。進歩しないなぁ) 

はぁ、なんともすごいね、石井さん。「芯から人間の作りが違う」ですか。 

私はこの石井氏のような、まるでデモ参加者が、選ばれたエリートで、悪辣な政府と戦って遅れた大衆を「国民主権」に導いている、そういう思い上がった意識そのものに虫酸が走ります。 

反体制を気取った裏返しのエリート意識が、全身からプンプン匂ってくるようです。 

デモという行為をなにか特別な人格の発露と考えて、悩んだり、ためらったりする人を高見から怒鳴りつけているのですから、まったくたまったもんじゃありません。 

自分はデモに行くことでなにか高尚なことでもしていると錯覚し、今、首相官邸前で歴史を作っているんだ、朝日新聞風に言えば「国民主権を作るのはこのデモ参加者たちだ」、というむず痒くなるような選良意識が、石井氏などにこう言わせる底にあります。 

私からみれば、石井氏が小馬鹿にする、デモ隊に特定の左翼政党の影をみて、「スマホの前でうだうだする」人のほうが、よほどまともな判断力をもっているように思えます。 

だって、そのとおりだからです。首相官邸前抗議行動の中心にいるのは、労組とSEALDsです。 

日やTBSは巧みに赤旗が映り込む映像をカットしていますが、行ってみれば赤旗だらけなのはすぐにわかることです。

20150717d3(写真 赤旗一杯の反安保デモ。過激派系動労千葉や日教組の旗が見える。皆さん、かなりのご高齢で、マスコミには若者ばかり写るが、このような人たちが大部分のようだ)、

このSEALDsは、シールズと読むらしいのですが、末尾に小文字でsをつけるところまで、米海軍特殊部隊NAVY SEALsの名のパクリだというのも、なんかオシャレでバカ(笑)。 

これが「憲法を守れ!全国青年学生統一行動」みたいな左翼臭ムンムンのネーミングだったら、これほどブレークしなかったよね(苦笑)。ザブトン一枚。 

それはさておき、このシールズは、「自由で民主的な日本を守るための、学生による緊急アクションです。担い手は10代から 20代前半の若い世代です。私たちは思考し、そして行動する」そうです。
SEALDs

建前は「従来の政治的枠組み超えたリベラル勢力の結集」を目指し、自発的青年学生を中心とした大衆組織ということです。

このシールズを核にして、石井氏のような「自分の意志でデモに行った人」が「従来の枠組みを越えて」集まるという構造なんだ、と言いたいようです。 

ちょっと考えてみましょう。

数万人規模の抗議行動を実施するためには、左翼政党の組織力が不可欠です。先日、10万人が国会前に集まって抗議行動をしたと報じられていました。 

まぁ、10万人は例によっての「10倍吹かしの法則」に従えば実数は1万人前後だったと思いますが、それでもこれだけの規模の集会、デモを組織するには大変な組織力か要ります。 

まずは、センターとなる事務局を置き、そこに事務局員を恒常的に貼り付け、多くの準備のための会議を開き、無数の指示を与え、メガホン、チラシやプラカードなどの小物や街宣車を準備し、指揮・統制するための多くのリーダーを養成せねば、この規模の集会は動きません。

これにどれだけの金がかかるか想像してください。 そしてこの財源はどこから来るのでしょうか?

また、地方や学園でビラを撒き、集会や勉強会を組織して拡大活動するなどは、仕事のある一般人にはとうていできることではありません。 

それができるのは、唯一、学生活動家と専従スタッフを多数抱えた左翼政党とその青年組織に限定されます。

共産党は、この事務局の中枢を握って実権を掌握し、代表には無党派の文化人などをダミーで出しておきます。

見外目には、共産党とは無関係なものに見せるためですが、このようにして、労組や大衆団体の事務局を握ることで、共産党は実質的にこれを支配下に置きます。

そしてこのシールズのような大衆組織に浸透している共産党員たちは、党員以外には素顔を見せません。

互いにそ知らぬ顔をしながら、裏で別途に党員だけの会議を開き、上部組織の共産党組織の指令をもらって行動しています。

その共産党組織はピラミッド型の指令系統を持っており、このような大規模な闘争は最終的には党中央委員会常任幹部会が直接に指導しているはずです。

なんだか、まるでタマネギの皮むきのようですが、このようにどんどん「大衆団体」の皮を剥いでいけば、結局一握りの共産党幹部に行きつくというわけです。

今回はこの偽装すらしないで、代表格の学生はいずれも民青(※共産党の下部組織)の構成員のようです。昔と違って、人的余裕がないようですね、共産党さん。

なぜ、私がこんなことを知っているかと言えば、10代から20代にかけての10年間、共産党を身近で濃厚に観察する機会があったからにすぎません。

つまり、はっきり言えば、いまの日本において日本共産党だけしか、大規模な反政府集会を組織する能力を持っていないのです。 

彼らこそ、この首相官邸前抗議行動の裏の演出家で、彼らの舞台セッティング、演出、振り付けに従って、集まった人々はシュプレヒコールをし、怒りをぶつけているのです。

私は日本共産党という政党の良さも悪さも知っているつもりですが、どうしてもなじめないのが、この自らの姿を隠して、「大衆」を操るような陰謀家的政治姿勢です。

これは、彼らが長きに渡って暴力的革命路線を歩んだために、官憲の弾圧によって地下政党化し、この「非合法革命党」という時代錯誤な体質が骨の蘂まで染みついてしまったようです。

六全協後に、合法政党として再建されてからも、この陰湿な体質には変化がありませんでした。

この悪しき陰謀家的性格が治らない限り、彼らがほんとうの国民政党になる日は来ないのかもしれません。

このようなことは、少し運動に関わればすぐに見えてくることですが、朝日は相変わらず「名もなき一般人が自発的に集まり戦っている。その先頭に立つのはシールズのような良心的学生たちだ」、と報じています。 

どうやら、朝日は60年安保闘争以来の、<共産党+朝日+反体制学生団体>という古典的構図の再来で、安倍政権打倒を狙っているようです。

かつての全学連の代わりに、今はシールズという横文字団体がいるというだけの違いです。 

これに乗ったのが、「シールズ人気」にあやかりたい枝野幹事長率いる民主党でした。 

枝野氏は、民主党内でももっとも左にブレている人ですが、彼は陳情団に対して、「今回の主役は国民の声と安倍首相との戦いであり、我々は主役ではない」とまで言い切っています。 

野党第1党の矜持もなにもない発言ですが、おそらくは本音のはずです。今の民主党に出来るのは、ただの審議の遅れを作る遅滞戦術しかないからです。 

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(写真 16日夕、衆院本会議で安保関連法案が可決されたのを受け行なわれた抗議活動で演説する民主党の枝野幸男幹事長。こんな人物が、東日本大震災の時の幹事長だったのだから、日本はよく潰れなかったものだ) 

枝野氏は世代的に60年安保どころか、70年安保すら知らないでしょうが、60年安保で反安保デモが、やがて「岸倒せ」に代わり、そして岸氏の渋谷の私邸にまで押しかけては「岸殺せ!」と叫んだことを、何かで知ったのでしょう。

ちなみに、この時の岸氏の私邸には幼き日の晋三少年がいて、一緒に「アンポハンタイ」と邸内を練り歩いたそうです。岸氏は笑って見ていたとか。

枝野氏の目論見は、全野党共闘で足並みを揃えて院内で徹底抗戦する姿を国民にアピールし、それに呼応して万余のデモ隊が国会を包囲し、採決に当たっては、一斉に国会の内外で「安倍倒せ!」とシュプレッヒコールをあげる。

これを倒閣につなげ、9条改釈改憲をめぐっての是非を総選挙で問い、これに勝利して第2次民主党政権を作る、まぁこのあたりが枝野氏の思い描く戦略のようです。

しかし、これが成功すれば、共産党には大きな借りができるわけですから、第2次民主党内閣は色濃く共産党色が滲むことでしょう。

まぁ気の毒ですが、彼の思惑どおりになる可能性は極めて低いのが救いですが。

 

2015年7月22日 (水)

樋口裁判官に第9条差し止め命令を出してもらおう

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私が今回の安保法制論議で、やや驚いたのは、憲法学者3人の「意見」発言がそろった瞬間に、審議の潮目が替わってしまったことです。 

この「三賢者」の絶大な逆噴射効果で、今まで長期政権がスケジュール化したと思われていた安倍政権に不安定化の兆しか走ったことにも、少々驚かされました。 

私には、安倍氏の祖父・岸元首相が安保と引き換えに辞任した故事とオーバーラップして、真昼の幽霊を見たような気分とでも言ったらいいのでしょうか。 

この3名が言っていることの内容には触れる必要がないでしょう。失礼ながら、耳にタコができるほど聞き飽きた護憲論にすぎなかったからです。 

護憲論は憲法体系を絶対のものとして、その法体系の整合性と秩序世界を、社会の最上位に置こうとする教条です。

いわばギリスト教神学における、「護教神学」(※)に酷似しており、この美しい法秩序の変更は厳しく異端審問にかけられます。
 キリスト教神学一部門。非難攻撃に対しキリスト教真理弁護弁証することを目的とする。

この憲法学者たちの言うことを聞いていると、神父の祈祷か、賛美歌でも聞くような不思議な恍惚感が湧いてくるのは、そのためです。 

ああ、この人たちがいちばん怒っている最大の理由は、薄汚い穢れに満ちた現実が、この美しい信仰体系の秩序と調和を破壊するからだなと、秘かに思ったほどです。 

この人たちにとって、1947年から実に68年間、途中に冷戦終了という大転換をはさみながらも、一貫して護持してきた憲法というガラス細工の世界が、キラキラと輝きながら崩壊していく悪夢に苛まれているのでしょうか。

20150604180656sdpfo4(写真 国会に呼ばれた憲法学者の皆さん。憲法学者が大部分違憲だから反対。一方、国際政治学者のほぼ全員が賛成。「学者1万人反対署名」のうち、全員が専門外。学者でも、専門外は一般人と変わらないていどの知識しかない)

実はそもそも、この護教体系の中核に位置する<第9条>には、根本的な教義上の矛盾がありました。 

それは、<第9条>を、字義どおり解釈すれば、日本は丸裸となり、一切の自己を守る術を喪失するからです。 

あまりにも有名な条文ですが、もう一度しっかり読んでみましょう。実にスゴイことが書かれています。

第9条    日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2  前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。
 

改めて読むと、よく護憲派が言うように一般的な平和を謳い上げた「戦争放棄」ではなく、正確に言えば「軍隊放棄」、゛言い換えれば防衛放棄条項です。

褒めてあげれば世界遺産にしたいくらいにラジカルということになるのでしょうが、法律の文言というより、敬虔な宗教者の祈りの一節みたいです。 

まぁ、公平に見て、自分の国の民を守ることを拒否するのを、憲法で宣言しているようなものですから、究極の無責任大賞でしょう。

これは一般的に他国にもよくある、「対外紛争解決の手段としての戦争否認」とは本質的に異なっています。

同じ敗戦国のイタリアをみます。
戦争放棄・軍隊不保持を掲げる国々の憲法

イタリア共和国憲法 第11条
イタリアは他国民の自由に対する攻撃の手段としての、および『国際紛争を解決する手段としての戦争を放棄し』、他国と同等の条件のもとで、国家間の平和と正義を保証する体制に必要ならば主権の制限に同意し、この目的を持つ国際組織を促進し、かつ助成する。

しかし、軍隊の不所持まで憲法で規定しているのは゛わが国だけです。

ご丁寧にも、「陸海空軍、その他」と廃止対象を名指ししていますから、三軍だけではなく、「その他」、つまり準軍隊である国境警備隊(わが国では海保)や治安維持目的の警察軍までも廃止しろと書いてあるわけです。

ちなみに、護憲派の大好きなコスタリカすら、国境警備隊と警察軍は所持しています。、

ではこの「陸海空軍、その他を廃し、交戦権を否認する」ことを現実に実行した場合、わが国はどのようになったでしょうか。選択肢はふたつしかありません。 

ひとつは、異民族国家の侵略に対していかなる免疫防御も持たない赤子のような存在となり、滅亡するか、異民族支配を受けることです。 

ふたつめは、それを防ぐ手だてとして、他国の軍隊にすべてを任せてしまった完全な保護国になることです。 

つまり、前者のように敵対的異民族支配下に置かれるか、あるいは、後者のように寛容な異民族支配下に置かれるか、の違いでしかありません。

実際に、この軍隊放棄条項を作った当時のGHQは、日本を真剣に後者の立場のまま据え置き、米国の準州扱いすると考えていたフシがあります。

A0074049_1735936(写真 プエルトリコ。米国の準州。正式には「米国自治連邦区」。大統領選挙権と下院の採決権はない。知事は選べる。課税義務はない。もちろん軍隊は持たない。こういう国になりたいのなら、9条を死守するのもいいかもしれない) 

そのような民族は、もはや自前の国家を有しているとは言えないでしょう。 

このような国家を持たない民族がたどった道は、歴史が教えています。 

ポーランドは3回に渡って3つの国に分割され、独立を取り戻したのは第1次対戦のあとでした。

しかし、その後もまたヒトラーとスターリン密約で分割され、戦後は長きに渡ってソ連の従属下で呻吟し続けました。 

ソ連崩壊後、ポーランドが積極的にNATO・EC加盟を熱望したのは、このような歴史があったからです。 

それはさておき、自国の独立を放棄せよと命じているのが、<第9条>の本質的性格だということを押えておいたほうが良いでしょう。 

ならば、他の憲法条項と<第9条>は、どのように整合するのでしょうか。 

6e5ba1780db2109fd61c3eb686f5379c(写真 樋口裁判官)

実はしません。ここで、私のような法律の素人よりも、脱原発派から救世主のように迎えられている福井地裁樋口裁判官にご登場願いましょう。 

福井地裁樋口裁判官は、再稼働仮処分命令で法的根拠としたのは、憲法第13条及び第25条でした。

では、憲法第13条、及び第25条をみてみます。 

第13条は、人権カタログの総括的条項で、14条以下の宗教、思想、信条の自由などを保護の前文となっている条項です。

第25条は生存権と呼ばれています。

いずれも、国が国民に保障した最大の権利です。逆に言えば、憲法が「国への命令書」であるなら、憲法は国に対して「国民の生命を守れ」と命じているわけです。

第13条 すべて国民は、個人として尊重される。生命、自由及び幸福追求に対する国民の権利については、公共の福祉に反しない限り、立法その他の国政の上で、最大の尊重を必要とする。
第25条 すべて国民は、健康で文化的な最低限度の生活を営む権利を有する。

 この13条と25条の解説を、他ならぬ樋口裁判官から説明してもらうといたしましょう。

大飯判決で、樋口氏はこう述べています。

「個人の生命、身体、精神及び生活に関する利益は、各人の人格に本質的なものであって、その総体が人格権であるということができる。人格権は憲法上の権利であり(13条、25条)、また人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない
したがって、この人格権とりわけ生命を守り生活を維持するという人格権の根幹部分に対する具体的侵害のおそれがあるときは、人格権そのものに基づいて侵害行為の差止めを請求できることになる」

(大飯裁判樋口判決文 太字引用者)

樋口裁判官は、第13条と第25条が謳う「人格権」は、「人の生命を基礎とするものであるがゆえに、我が国の法制下においてはこれを超える価値を他に見出すことはできない」としています。

「人の生命を越える価値はないのだ。これはわが国法制化で最優位とされるものだ」と、憲法は言っていると樋口氏は解釈します。

ではひるがえって、第9条はどうでしょうか。

国が国民を守る正当防衛すら禁じています。いわば、「国民は殺されそうになったら、殺されるがままになればいい。国民の生命を国は守らない」と言ってのけているに等しいわけです。 

これは明らかに、生命の価値を「わが国法制化においてはこれを越える価値を見いだせない」(樋口判決文)とした第13条、第25条に違反します。

平たく言えば、「死んで花見が咲くものか。生きていてこその平和なんだ」というわけです。

つまり、憲法第9条は、憲法第13条及び第25条違反であり、「生命尊重」条項が憲法の上位概念である以上、第9条は違憲なのです。

ぜひ、まともに国に命を守ってほしい国民は、樋口裁判官に゛第9条差し止め命令を出してもらわねばなりません(もちろん冗談です)。

あ、その前に名古屋家裁から最高裁に転勤せにゃならんか(笑)。 

 

2015年7月21日 (火)

ロシアの手口を学んで、日米安保を強化せよ

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反米親露保守宣言という人から奇怪なコメントが来ていますので、答えておきます。 

コメントを抜粋します。 

「神奈川県民の多くは鳩山由紀夫さんのイラン・クリミア訪問に肯定的でロシア・イランの力を借りて米軍基地を消すことに肯定的である。
国防だって日本、ロシア、北朝鮮、イランと連携して兵器開発に力を入れれば良い。
ロシアならアメリカよりも素晴らしい兵器がありますから」
 

いったい鳩山氏のウクライナ訪問を神奈川県民か支持しているなんて、どこで聞いたんですかね(笑)。 

神奈川が反米で、横田が親米の牙城ですって、もうつまらない冗談もいいかげんにしてほしいものです。 

具体的な調査ソースを示してください。そんなものは、ただの脳内電波にすぎません。 

たしかに神奈川の厚木基地周辺にも、米国を憎悪する人はいますが、たとえば爆音規制同盟(爆同)の共産党の人たちです。 

うちの母も爆同に入ったら、すぐに赤旗を勧められたので、よく知っています。

おかげで、我が家は数年間、赤旗をとるはめになり、私は中高と朝日新聞と赤旗で育ちました。そのせいか、私はすくすくと反戦少年に(涙)。 

それはさておき、問題はこの人が、露のウクライナ侵攻を完全に肯定していることです。 

肯定どころか、「露、イラン、北朝鮮と連携せよ」とまで言うに至っては、なんじゃこりゃという妄想の類なのでとりあえず無視します。 

ウクライナ問題について、私はかなり長いシリーズを書きました。 

わが国に入ってくる情報の圧倒的大部分が欧米経由で、それも米国が情報元でした。反米的パイアスのかかった情報まで含めて米国発信なのですから、苦笑してしまいました。 

こんな中で、私が重視したのは、情報ソース不明なものはロイターなどの通信社が同様の内容を報じた場合のみ書くか、さもなくば言い逃れようもない証拠が開示された場合には伝えるという姿勢でした。 

たとえば、クーデター直後に、ヌーランド国務次官補と、ネオナチのスボボダ代表・チャフニボクや、暫定政権首相ヤツェニュクが一緒に写真(下写真参照)や、同じくヌーランドかバイエイト在ウクライナ大使と、暫定政権の人事を決めているとしか取れないYouTubにアップされた電話の盗聴記録は、信じるに値するものとして扱いました。 

nuland in ukraine

(写真 ヌーランド国務次官補とウクライナ新政権のネオナチの皆さん。ネオナチと言っても、日本のように嫌いな相手をファシストと罵るレッテリングと訳が違って、西ウクライナのそれは正真正銘のネオナチ。この政権発足時にどうしてヌーランドがいたのか、なんのためかは未だ公表されていない)

とうぜんのこととして、このような秘密情報の漏洩は、ロシアの情報機関、おそらくSVR(対外情報庁・KGBの後身)の仕事でしょうが、一般紙が載せられない情報でありながら、重要な米国の関与の証拠として扱いました。 

この流出情報を見てしまっては、この非合法的手段で政権を奪った暫定政権なるものの背後に米国がいることは、誰も疑いえないと感じたはずです。 

私は、素人考えだとお断りしておきますが、このウクライナ政変の原作者は、非軍事的秘密工作が好きなオバマとメルケルの共作だと思っています。 

このような欧米の支援を受けた西ウクライナのネオナチが、古都キエフを焼き討ちにせんばかりにして暴力的に打倒した新政権などは、正統性そのものに疑問符がつくものだと思っています。 

1d626471写真 クリミアのウクライナ海軍基地を制圧したロシア兵。部隊マークも国籍マークも装着しておらず、覆面までしている異様さ。後に、車両からロシア正規軍と確認された。この後、東ウクライナにも大量のロシア軍が浸透し、ロシア民兵と共同作戦し、事実上東ウクライナをロシア属領とした)

また、ECの膨張に対しても、露はかねてから、「東欧圏に関してはEC・NATOの加盟を許容するが、旧ソ連領については勘弁してくれ」という信号を発し続けていました。 

それを一方的に破られたと感じたので、プーチンはこのウクライナ侵攻という挙に出たわけです。 

私はこの動機自体については、限定的ですが、同情的です。 

しかし、プーチンが現実に取ったクリミア併合と、東ウクライナに対する浸透攻撃は到底許容できません。 

これは、主権国家に対して、住民投票の「民意」を背景にすれば、併合まで突き進むことが可能であることを、国際社会に教えてしまいました。 

この方法自体は、特に珍しいものではなく、古典的な共産主義勢力の政権転覆の新バージョンにすぎません。

ソ連時代にKGB将校だったプーチンは、ソ連再興を夢見ているといわれていますが、当然、この外部からの政権転覆を研究し尽くしています。 

かつては、反政府親露勢力に反政府闘争を激化させて、臨時革命政府を樹立させ、それを一方的に承認し、このカイライ新政権に介入要請を出させて侵攻するというのが、オーソドックスなやり方でした。 

今は、欧州の広い地域がNATOの集団安全保障体制下にありますから、この手が使えなくなって、そこであくまで住民の民主主義的手続きを装った「民意」を背景にして、侵攻するという手段に転じたのです。 

さて、これにもっとも興味を持って、しっかりと学習したのが露の「同盟国」中国でした。 

たぶん、中国は露と同盟を結びながら、尖閣のみならず、沖縄全域にまで手を伸ばすことを政治スケジュールに入れています。

その理由は、そのうち詳しく書こうと思いますが、第1に、中華帝国膨張の領土的野心がひとつ、第2に、尖閣諸島を取ることによって、東シナ海の内海化(※支配的水域のこと)が図れ、さらには第3として、中国が念願としていた太平洋進出のための水路が開けることです。

そして、さらに尖閣奪取を足掛かりとして、今まで長い間に渡って、目の上のたんこぶであった沖縄奪取の手がかりになるからです。

ただし、沖縄県もまた、日米安保体制下の集団的ディフェンスで守られているという大きな障害があるわけです。

日米安保下の沖縄米軍基地があるために、中国は太平洋に進出することはおろか、「神聖な領土」である台湾にすら侵攻できないでいます。

この日米の硬いガードをどうやったら取り除けるか、中国は真剣に考えたはずです。

一石二鳥の方法がありました。沖縄県の中に、親中勢力を扶植して、内部から切り崩すことです。

20141118132028(写真 当選挨拶をする翁長氏。確かに「歴史の1ページが開いた」)

まず、沖縄県に馬英九のような親中派カイライ首長の翁長知事を作るのが第一歩でした。

その時に、大事なことは沖縄ナショナリズムを、煽りに煽ることです。

というのは、対立軸を今までの沖縄県と本土政府としてしまっては、結局、問題が解決すれば元の鞘に納まってしまいます。

それは当然です。なにせ、沖縄県民も本土人も同じ日本民族なのですから。

13_01_09ss(写真 琉球新報13年1月9日 もう毎日のように、米軍基地反対運動と、米兵犯罪が紙面に踊り、「沖縄差別」を呼号する。沖縄には全国紙はないために、県民は好き嫌いは別にこれを毎日読まされることになる)

そこで、「沖縄人」というエスニックと、「日本人」というエスニックの民族対立を人工的に作り出す必要があります。

そこで考案されたのが、虐げられた「沖縄原住民」と、差別し暴虐の限りを尽くす支配者「日本人」という二項対立の図式です。

この図式では、本土人は、琉球王国という理想の平和国家を破壊し、皇民化教育で洗脳して戦争の捨て石にし、戦後もまた親分の米国に尻尾を振って、再び沖縄を捨てて米軍基地を押しつけた、卑劣な悪玉としてだけ描かれます。

これが「沖縄差別」イデオロギーです。

ところで現在、翁長氏は第三者委員会に否認を出させました。これで準備は終了しました。

砂利条例や、アンカーなどでゴネたのは、この第三者委員会に否認答申を出させるまでの時間稼ぎにすぎなかったのです。

翁長氏は、この否認答申で法的根拠は得たとして、次は仮処分申請、そして次は県民投票とたて続けに波状攻撃をしかけて来るでしょう。

この移転をめぐる県民投票が、天王山となります。これは既に与那国の陸自配備で実施済みですから、技術的にはまったく問題なくできてしまいます。

法的根拠はありませんので、拘束力はありませんが、それは条例を作って、なんとかあるように見せかけます。

20150222213554sdf(写真 与那国の住民投票。沖縄本島から南西の離島には自衛隊は駐屯せずに、防衛の巨大な空白となっている。与那国に監視のための小部隊を置くのさえ、このような住民投票が必要だった。法的拘束力はないが、いきすぎた民主主義だという声も、県内に強い)

その先は、クリミア方式どおりならこうなります。

いきなりの中国への併合ではなく、いったん一国二制度というクッションを置きます。それは「琉球自治県」という日本国の特区にしたほうが、彼らに有利だからです。

親中派勢力の主力は、自治労、沖教組を中心とした公務員労組の官公労です。

仮にいきなり分離・独立をすれば、3割以下の自主財源しかない「琉球共和国」は財政的に持ちません。

公務員と公共事業の大幅削減、年金・福祉などの一時凍結・切り下げ、そして消費税と法人税の増税をしないことには、深刻な財政危機に見舞われます。

これは私が勝手にそう思うのではなく、今回、ギリシャが呑んだ緊縮要求を参考にしています。

ユーロに加盟していたことで、国力以上の福祉・厚生を得ていたギリシャと沖縄は、一部に大変によく似た構造を内部にもっているからです。

思えば、公務員天国、製造業の弱体、観光中心の産業構造、左翼が強い政治構造など、思えばいくつも似た性質があるのです。

沖縄県はユーロの代わりに、基地を引き受ける見返りとして、本土からの累積10兆円の振興予算で、県の経済力以上の財源を得ていました。

「沖縄差別だ」と叫びながら、もっともうまい汁を吸っていたのは、一般県民ではなく島のエリートの官公労だったのです。彼らが自分の特権を放棄するわけがありません。

ですから、官公労の階層的利害からいっても、いきなりの「独立」は危険すぎるのです。

したがって、本土政府には今までどおり財源で依存する「沖縄特区」としつつ、外面は一国の如くふるまう、これか一国二制度のうま味です。

そしてやがて・・・、時期は読めませんが、ある時期を狙って再び住民直接投票によって、正式に日本からの分離・独立を決めて、香港のように一国二制度による中国への新たな帰属を決します。

P5399351a919524058(写真 香港の雨傘革命。中国は、一国二制度を定めた英国との約束を破り、行政責任者を全人代で選ぶことに一方的に決めた。そのために、香港の民主主義を守るために、多くの青年が立ち上がって闘った。放水を避けるために雨傘をさしたことから「雨傘革命」の名が生れた。運動の現在は、厳しい冬の時代を迎えている)

そして更に数十年後、「琉球共和国」は、大量の中国系移民によって、社会・経済と政治のことごとくを支配され、独自の首長を選出する権利すらも奪われて、中国全人代の決めた「総督」を戴くことになるのでしょう。

これが、中国を甘く見て、「琉球民族の独立」を夢見た者たちの末路です。

以上、私が書いたことは、すべて単なる夢想ではありません。中露がクリミアと香港で現実にやった手口を、そのままモデル化したにすぎません。

「ロシアの力を借りて、米軍基地をなくせ」ですって。冗談ではない。真逆です。「ロシアの手口を学んで、日米安保を強化せよ」です。

2015年7月20日 (月)

衆院平和特別委における岡本行夫氏の参考人発言

053
今の日本と米国は、先日の私の記事の表現を使えば、「ハブ&スポーク」の関係にあります。
ですから、米国を中心軸として、日本やオーストラリア、アジア諸国が同盟を結ぶという関係になります。

米国が、有事の際のアジア域内への「戦力投射能力」(昨日の説明を読んでね)を持ち、同盟国は特定の分野の防衛に専念します。

日本の場合は、防空、対潜水艦戦、掃海が得意技でした。このような片務的な関係になることで、防衛費を低く抑えています。 

もし、アジアに米国のプレゼンスがなく、現在の中国の極端な軍事膨張を迎えた場合、わが国だけで、真正面からそれを引き受けねばなりません。

その場合、コメントに書かれていたような、増税につながりかねないような軍備増強バイアスがかかるのですが、この日米同盟のおかげで、なんとか凌げています。 

というのは、逆立ちしても、中国は第7艦隊+海自連合に、技術的にも、物量的にも勝てる道理がないからです。

海軍は一種の伝統芸です。マトモな海軍を作るためには、数世紀かかります。日米もたっぷり1世紀以上かけています。

この中で、艦艇の操作だけではなく、乗員の規律や練度を上げ、国と国の公海上でのつき合い方や、諸外国の港を訪問して、国際法や外交を習熟してきました。

チャイナ・ネイビーはたかだかこの10年、金が有り余って中華帝国を夢見て作ったようなシロモノです。

ですから、公海上で、戦争挑発行為を行なって、諸外国から顰蹙を買っています。レーダー照射事件など、記憶に新しいですね。

あれが、自衛隊でなく、米国やロシアだったら、即戦争勃発のところでした。

そういうことの自覚がない、素人に毛の生えたような成金ネイビーが、勝てるほど世の中は甘くないのです。 

とはいえ、それは十全に対抗できた場合で、この間の審議であきらかのように、わが国はいまだ安全保障面では「半主権国家」状態にあります。

何度も書いていますが、自分の国をまともに守れず、危険から国際社会を守ることにも十全に関われないのが、わが国です。

したがって、そのあまりに不合理な政治的制約から、日米同盟は、チャイナに対して実力を出し切れないおそれが濃厚です。

まぁ、だからなんとかして、ご迷惑をかけないように、というのが今回の安保法制だったわけです。 

日本は今後防衛装備を増やすということもさることながら(私は消極的ですが)、通常の国際標準の「軍隊」ができるていどのことはできる自衛隊にしていかねば、逆に装備だけが肥大するという逆立ちしたことになっていきます。

まぁ、そのために改憲ということになるわけですが、私も今回の審議で、憲法学者が潮目のイニシャチブを握る様をみていると、やはりこの国は憲法から変えないとダメなのか~と、考え込んでしまいました。 

正直、共同行動をしている同盟国の軍隊を守るていどのことを変えるのに、改憲動議-国民投票という大がかりなことをせねばならないということは、大変に憂鬱です。

私のイメージでは改憲はかなり先でもよかったのですが、そうともいえないような・・・。
なんともわじわじとする気分です。まぁ国会審議の後半戦にぬるく注目しましょう。

小川和久氏と同じく、国会の参考人招致での、外交評論家岡本行夫氏の発言録です。

大変に広い視野で教えられるものがあるので、全文を転載いたしました。
読みやすくするために改行を施してあります。

※追記 沖縄のことで書かねばならないことがたくさんあるのですが、安保審議との関係で書けないまま来てしまいました。沖縄問題に戻ってほしいとのお声も頂いていますが、しばらくお待ち下さい。ごめんなさい。

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Smile
■衆院平和安全法制特別委員会 安全保障関連法案の中央公聴会
2015年7月13日
■岡本行夫
 

本委員会が私の意見を聞いてくださることを大変、光栄に存じます。まず平和安全法制のうち、集団的自衛権の議論に関して一言申し上げます。内閣法制局が作りました1972(昭和47)年政府見解はすべての集団自衛権を他国に加えられた武力攻撃を阻止する権利と定義しました。

つまり日本国土を直接守る個別的自衛権以外の武力行使は、すべてが他国を守るための行為であり、従って憲法違反だとされたわけです。しかし、このいささか荒っぽい区分けを持ってしては、日本は1980年ごろから変容した国際情勢に対応できなくなりました。 

 日本と日本人を守るための集団的自衛権というものの存在を認めなかったためであります。

例えば多数の日本船に外国船が混じった船団があります。それを海上自衛隊が守ることは相手が国または国に準ずる組織であれば、集団的自衛権の行為に当たりますが、この海上自衛隊の行動は他国を守る行為なのでしょうか。 

 例えばこの委員会およびその他の場所で何人もの元法制局長官の方々が、今回の平和安全保障法制は違憲であり、撤回すべきだと発言しておられますが、私はむしろ国際安全保障環境の変化をみれば、行政府の部局である法制局が直接的な国土防衛は以外はすべて黒と判断してきたことが果たして海外で日本人の生命と財産を守るために適切だったのかどうかを考え直す時期だと思うのです。 

 どのように国際環境が変化してきたのでしょうか。政府見解が出された1972年は可能性の低い米ソの軍事衝突さえ起きなければ、日本人の生命や財産が海外で危険に脅かされる事態をほとんど考えなくてもよい時代でした。

しかし、その後、情勢は激変しました。北朝鮮の核ミサイル開発や中国の膨張主義などもありますが、日本にとって生命線である中東方面からのシーレーンをめぐる情勢を考えただけでも、その変化はただちに分かります。 

 1979年にイラン革命が、1980年からはその後9年間続くイラン・イラク戦争が始まり、それ以降、ペルシャ湾情勢は危険を伴うものに変化しました。湾内の民間船舶にイランのミサイルが発射され、無数の浮遊機雷が設置されていた時期もありました。 

 ホルムズ海峡を通ってインド洋に出れば、アフガニスタンのタリバンが麻薬と武器を輸送するルートです。マラッカ海峡を通って日本に向かえば、その先は中国が支配しようとしている南シナ海が広がっています。

一方、欧州からスエズ運河、バグエルマンデグ海峡を経てアラビア海に出る日本の船舶はソマリア海賊が待ち受けるアラビア海峡を通ります。2000年以降でもソマリア海賊の襲撃は1000回を超え、4000人を超える人質が取られました。 

2ef7ef027a2ca60861abe3d2e5425169(写真 ソマリア海域の海賊。今はISの影響下にあるといわれる)

 この膨大な海域で日本人の生命と船舶を守ることは日本単独では無理です。日本の護衛艦は1990年代には60隻ありましたが、予算上の理由で現在47隻にまで削減されています。このわずかな護衛艦で2600隻の商船隊を守ることはできません。

日本は各国の海軍と共同しての護衛であります。海賊からの商船隊護衛を考えれば、分かると思います。自衛隊の護衛艦は派遣依頼、今年の5月までに663隻の日本の民間船舶を護衛しましたが、同時に2900隻以上の外国船舶を護衛し、海賊の襲撃から守ってきているのであります。日本人にとっての誇りです。 

 そして、他国の海軍も外国と日本船舶を一緒に護衛しています。現在、海上自衛隊がやっていることは海賊対処法に基づく警察行為でありますが、相手が国または国に準ずる組織に変われば、自衛隊の行動は集団的自衛権に変わりますから護衛任務から離れなければならなくなります。

Img_1(写真 ソマリア海域でタンカーを護衛する海自艦艇。その習熟した技量と、誠実な対応で、各国海軍で最高の評価を得ているが、ここでもまた集団的自衛権の制約で苦しんでいる。また近年、予算削減で手が廻らない事態も急増している)

イスラム国と称するISILは国に準ずる組織であると思います。彼らの勢いは減っていません。考えてほしいのです。海上自衛隊が襲撃してきた海賊を撃退した後に、ISILを襲撃したらどうなるのか。現在の法制では海上自衛隊は拱手、傍観しなければなりません。どう考えてもおかしい。 

 弱い海賊に対してすら護衛艦を出動させて警護しているのに、より強大な襲撃者が現れれば、どうぞご自由に道を空けるのでしょうか。

この法制に反対する人々がここのところをどう考えているのか分かりません。国際護衛艦隊は仮定の議論ではありません。

1987年、イランの攻撃から湾内の商船隊を守るための国際護衛艦隊が組織され、日本も参加を要請されましたが、政府見解に縛られる日本は、護衛対象の7割が日本関係船舶であったにもかかわらず、参加は集団的自衛権の行使にあたるとして断りました。

その結果、米国、英国、フランスなどの艦隊は日本船の護衛に当たりました。陸上においても内戦やテロが激増しています。 

 ISILは後藤健二さんと湯川遥菜さんを残虐に殺害した後、これから日本国民を、場所を問わずに殺戮(さつりく)すると宣言したのは、記憶に新しいところです。

テロからの邦人保護については警察が対応すべきケースも多いと思いますが、自衛隊が日本人を保護しなければならない可能性が増しています。

集団的自衛権の限定的容認には日本の存立危機事態といういささか大仰な表紙が付いておりますけれども、実際的に集団的自衛権が行使される可能性があるのは、海外での日本人の人命と財産を保護するケースだと思います。

この意味で立派な責任政党が集団的自衛権は他国の戦争に参加することですとの誤ったキャンペーンを国民にしていることは残念であります。 

Plt1507190016p1(写真 16日夕、衆院本会議で安保関連法案が可決されたのを受け行なわれた抗議活動で演説する民主党の枝野幸男幹事長。この審議で、民主党が、社民党や共産党と変わらぬ安全保障意識しかないことが暴露されてしまった。産経より)

 この法制は日米安保体制は日本の安全を守る上で、最も重要な仕組みである日米安保体制を強くするものでもあります。

日米安保体制は日米両国の相互信頼の上に成り立っています。このようなことがありました。

2001年の9・11テロ(米中枢同時テロ)の際、全世界に展開する米軍にテロリストが攻撃するとの可能性があるとの情報があり、横須賀(神奈川県)の米第7艦隊も速やかに硫黄島海域に退避することになりました。

そのとき米国は交通量が多い東京湾を迅速に航行しなければならないので、海上自衛隊が先導してくれないかとの要請がありました。 

 根拠法規を持たない海上自衛隊は苦肉の策として、当時の防衛庁設置法第5条の所掌事務の遂行の調査および研究ができるとの項目を援用し、米艦隊の退避行動を調査するという理由を付けて調査しました。

それも日本の領海内だけでした。しかし、こうして第7艦隊の先導をして南下した日本の護衛艦の姿は繰り返し、米国のテレビで放映され、米国民の大きな感動を呼んだ。

自衛隊の現場はこのような苦労をしながら、抑止力の維持を図ってきました。今回の法制の下では、自衛隊の護衛艦が堂々と米艦隊が護衛して領海の外まで搬送することが可能になります。 

 再び本旨に戻ります。世界が助け合っているときに日本がわれ関せずという態度を取ることは、すなわち日本人の命と財産を守る負担は他の国に押しつけるということを意味します。

現在の世界では宗教や民族、国家間の対立は先鋭化し、ISILのような暴力的な準国家組織が主権国家の連合軍を持ってしてすら、制圧することができないほど勢力を伸ばしている。その中で日本が一国で日本人の生命と財産を守ることは不可能です。 

 1994年、イエメンの内戦で96人の日本人観光客が孤立したとき、救ってくれたのはドイツ、フランス、イタリアの軍隊でした。2000年からだけでも総計238人の日本人が11カ国の軍用機や艦船などで救出されてきました。

1985年3月、イラン・イラク戦争でイランの首都のテヘランが危機になり、日本人215人が孤立しましたが、日本の民間航空機は危険だからといってテヘランまで飛んでくれませんでした。それを救ってくれたのはトルコでした。

トルコ政府は救出に派遣した2機のうち1機を日本人救出に当て、そのために乗れなくなってしまった何百人かのトルコ人を陸路で脱出させたのです。 

Tsubasat1(写真 航空会社やパイロットは救出を熱望したが、政府が許さなかった。トルコ政府が、自国民を後回しにして、わが国民の救出にしてくれた。そのため、トルコ国民は自力で陸路から脱出した。ほんとうに有り難く、そして恥ずかしい)

 日本では報道されませんでしたが、2004年4月、日本の30万トンのタンカーの「高鈴」がイラクのバスラ港沖で原油を積んでいた際に自爆テロボートに襲われた。そのときに身をていして守ってくれたのは、3人の米海軍軍人と沿岸警備隊員でした。

彼らは日本のタンカーを守って死に、本国には幼い子供を抱えた家族が残された。みんながみんなを守りあっているのです。 

 先週、私はイラクにおりました。ISILとの戦いの前線から40キロのところに首都を持つクルド人地区を訪れて話をしました。クルドの人々が「私たちが多くの犠牲を出して、ISILと戦っているのは、自分たちのためだけではない。世界の安全のためです」と語っていました。

著名な憲法学者の方が先般の本委員会で平和安全法制が通れば日本はイスラムグループの敵となり、現在、キリスト教国だけで起きているテロが東京で起こることになると陳述していましたが、ISILのテロをキリスト教国家にだけ向けさせておけばよいということでは良いという話ではありません。 

Iraq(写真 IS軍団。参考人証言でも岡本氏が言うように、彼らと関わらない。戦わないことが日本国民の安全を守ることだという倒錯した考えが、護憲派には根強い。まるで砂丘に頭を突っ込んで、何も見ないことで安全だと思っているダチョウのようだ)

 国際社会はお互い助け合っていかなければ生きていけないのです。あえて申しますが、安全保障や対外関係に携わる公務員にとってリスクは不可避でございます。

だからこそ、多くの日本政府や援助関係機関の職員が命をかけて危険地域で活動してきた。別の著名な憲法学者の方は、「外務官僚には自衛隊に入隊を義務づけて、危険地域を体験させよ」と主張しております。 

 そうすれば自衛隊を危険地域に送る法律は作らないだろうと。こうした現実を無視した違憲によって反対論が主導されているのは、不幸なことだと思う。

Kolia(写真 対テロ作戦における、日本のインド洋給油に反対する野党時代の民主党。社民党と並んで、岡田勝也現代表の姿も見える。彼らは政権を獲得すると、直ちにインド洋給油活動を打ち切った。岡田氏は、自民党にいたこともあるが、80年代から90年代にかけての自民党が、いかにダメな政党だったのかがわかる)

事実は逆だ。危険だから自衛隊を派遣できないとされるバグダッドには二十数名の外交官が大使館に住み着いて必死でイラクの復興のために今日も走り回っています。

すでに2名の外務省職員が尊い命をテロリストに奪われましたが、彼らはひるむことなくバグダッドに踏みとどまり、今も職務も全うしている。 

 この関連で法案とは関係ありませんが、一つ申し上げさせてください。バグダッドに置かれた各国大使館のうち主要国をふくむ24カ国の大使館には武官が駐在し、軍同士でしか行われない情報交換を活発に行っている。

しかし、日本の大使館には1名の武官駐在していない。もちろん防衛省や自衛隊が腰が引けているわけではない。危険な地域には自衛官は派遣しないという政治的に作り出された方針のためだ。 

 本来は武官をバグダッドの日本大使館に常駐させることは日本自身の安全に必要な情報を得るために必要なことです。実現に向けての支援をお願いしたい。

最後にもう一言だけ申し上げたい。この平和安全法制の大きな意義は、外敵の暴力から身を守り合う仲間のコミュニティーに日本も参加すること、そしてそのために十分な訓練を受け、装備を有している自衛隊が今日も危機の最前線で働いている公務員と協力して、日本人の命と財産を守れることを信じる。 

 自衛隊員がそのための強い使命感を持っていることを知っている。皆様のご判断は決定的に重要だ。日本がこれまで各国の善意と犠牲の上に、日本人の生命と財産を守ってもらえる。それを良しとしてきたこの国のあり方を転換できるかどうかの歴史的な分岐点にいるからだと思う。

ありがとうございました。 

2015年7月19日 (日)

日曜雑感 日本には他国への「侵攻能力」などない

036
コメント欄の議論について、いちおう私の意見も書き添えておきます。 

結論から言えば、現在の自衛隊には他国への侵攻能力はありません。それは、戦力を外国に投入する能力がないからです。

その能力のことを専門用語で、戦力投射能力といいますが、戦力投射能力(パワープロジェクション)とは、俗に言う他国への「攻撃能力」、あるいは外征能力のことです。

もっとあからさまに言えば、他国への侵略能力のことです。

侵攻する国に、多数の兵員と武器弾薬を送り込む能力、あるいは、核ミサイルを撃ち込む能力です。

細かく見ていきましょう。「侵攻」兵器として、国際的に認知されている兵器は以下です。

●戦力投射能力として、国際常識上分類される兵器
①原子力空母とイージス艦、攻撃型原潜によって作られている空母打撃群
②戦略ミサイル原潜。核ミサイル登載
③C17やC5など戦略大型輸送機
④強襲揚陸艦
⑤大陸間弾道弾(ICBM)・長距離大型爆撃機(共に核兵器登載可能)
⑥海兵隊
⑦空軍の攻撃機、電子戦機、空中警戒管制機などで作る打撃群(ストライクパッケージ)

①を有しているのは、米国、フランス、英国。中国、インドは保有しているが能力不足。ロシアも同じ。日本と韓国、ヨーロッパ諸国などはイージスのみ。
②を有しているのは、米国、フランス、英、中国、ロシア
③を有しているのは、米国、ロシア
④を有しているのは、米国、フランス
⑤を有しているのは、米国、ロシア、中国、英国、フランス
⑥は多くの国で持つが、本格的な遠征打撃群は、米国のみ。近いものはロシア、中国、海兵隊の元祖英国。
⑦を有するのは、米国、英国、NATO。他の国も個別には保有するが能力不足

すべてがP5(常任理事5ヶ国)で、いずれも外征型軍隊です。それ故、彼ら同士の衝突で国連が機能しなくなっています。 

ただし、山形さんが言っているように、①~⑦までのいずれか一隻だけもっている、一発だけある、オレは一機買ったというのでは、「戦力」としては国際的には認知されません。

戦力はあくまで一定数なければ、現実に機能しないのです。

たとえば空母打撃群なら3セット必要です。作戦航海-休養・修理-訓練航海と3ツのフェーズで回転させないと、艦も乗員ももたないからです。

したがって、中国のなんちゃって空母・遼寧は、今のところ、打撃群もどきにすぎません。 

また、すべての兵器に言えることですが、これが攻撃用、これが防衛用という区分けはナンセンスです。

たとえばもっとも普遍的な武器であるライフル銃は、攻撃にも防衛にも使えます。

なんのことはない、武器はつまるところ、使う政治家の問題で、どちらにも使えてしまうのです。

ただし一般的に見て、①②⑤⑦は「攻撃力」に強く傾いていて、他には使い道がないとは言えるでしょう。

Bandx7xceaatxrb(写真 米海軍空母打撃群。こういうのを言葉の正確な意味で「空母」と呼ぶ。いかに多くの艦船群によってなりたつのかわかる。人員も約7000人に登る。米国はこれをなんと12セット持っているのだから、むしろ呆れる。ただし予算不足で、稼働しているのは3セット)

日本の場合、①から⑦まで、その全部に欠けていますし、その意志も能力もありません。持っているのはイージスだけです。

頂いたコメントに、「侵略に転用できる兵器には抵抗感がある」とのことでしたが、そういう言い方をするなら、先にも言いましたが、小銃も侵略に転用できます。

要は、運用思想(ドクトリン)、すなわち政治の問題なのです。

もし本気で外征型軍隊を作る気なら、改憲して、国防予算を今の5倍ていどにするしかありません。

当然、そのための財政的手当てのために、増税を図らねばなりませんから、消費税を20%、30%にして、またデフレに戻りたい人だけが夢想してください。

かつての帝国海軍は、国家予算の6割をつぎ込んでいました。予算を独り占めにしたために、国民は貧しく、陸軍は常に海軍を憎悪していました。

現代において、そのような「攻撃力」を持つ意味はまったくありませんし、そもそもこんなことをしないために、日米同盟があるのです。 

ですから、日米安保フンサイなどという共産党は、実は隠れ軍国主義者なのではないかと、私はにらんでいます(笑)。

B0177792_1613423護衛艦「いずも」

どうもこの全通甲板があるだけで、右も左も幻想を持つよう ですが、単に離島防衛と対潜水艦作戦用に特化した艦種にすぎません。

三橋貴明氏は戦艦大和より大きいと喜んでいましたが、艦艇は長さではなく、排水量で比較するのです。

このていどの常識しかない人に、「空母が欲しい」などと言ってほしくはありません。

また朝日は「大戦中の空母より大きい」と書いて、「軍国主義の足音」を聞いたようですが、現代の艦上機は、当時のものよりはるかに大きいので比較すること自体がナンセンスです。

「いずも」がヘリ空母だろうと、F35Bが運用できる可能性があろうと、本質的にこの戦力投射能力として見た場合、まったく無意味です。

「いずも」、「ひゅうが」、「いせ」などの全通甲板を持つ艦は、あくまで対潜水艦作戦と、離島防衛にのみ特化した艦種にすぎません。

全通甲板というのは聞き慣れない言葉ですが、、艦艇の上が真っ平な飛行甲板を持つ艦艇のことで、航空機やヘリが離発着できます。

今、建設中の水陸機動団も、離島防衛以外に考えていませんし、それ以上の能力もありません。

第一、たった3000~4000人の規模で、侵略しにいったら100%返り討ちに合います(苦笑)。

そもそも、航空優勢(制空権)がない地域に、「海兵隊」という軽武装の軍を送り込んでも、フルボッコにされるだけです。

ですから、米海兵隊は、電子戦機を含む航空機、強襲揚陸艦、オスプレイなどというフルセットを独自に保有しています。

ややっこしく見えるのは、外見的には自衛隊に、空母、海兵隊、強襲揚陸艦という、「戦力投射能力」セットがあるように見える装備が一部にあることです。

繰り返しますが、わが国には、他国に侵攻する能力は皆無です。「侵略」にはまったく役不足で、せいぜい離島防衛ていどに限定的に使える程度の能力です。

仮に「いずも」にF35Bを登載してもせいぜい数機ですから、そのようなものは離島防衛の時の、警戒・支援任務ていどに使えるだけにすぎません。

アジア諸国の専門家は、それを理解しています。自衛隊も「いずも」と命名した時に、「かが」「あかぎ」などを選ばなかったのは、他の艦種からの転用空母という誤解を与えたくなかったからと言われています。

そのくらい、自衛隊は慎重にしているのです。海上自衛隊は、対潜水艦能力・潜水艦戦、そして掃海だけが世界一で、あとはないに等しい片務的構成になっています。

これは、米第7艦隊とセットになって、機能するのが前提だからです。

全自衛隊でみると、空自も防空だけに特化し、陸自は今まで離島防衛能力すら遠征能力と批判されるのをおそれて、有していませんでした。

これが原因で、悪く言いたい人には右も左も揃って「米国に従属的」と批判しますが、他国への攻撃能力など持たないのが国是ですから、当然のことです。

憲法うんぬんの前に、私はそれでいいと思っています。

といっても中韓はうるさいことこの上もありません。韓国など自衛艦旗をナチスの旗と同じと、もう天文学的にパーなことを言う始末です(爆)。

そういいながら、自分は北朝鮮に対する防衛にはいらない強襲揚陸艦の「独島」(なんつう挑発的ネーミング)を保有しているのですから、笑ってしまいます。

財政破綻しているのに空母も欲しいそうです。何に使うつもりでしょう。大丈夫ですか、この国の脳味噌。そうとうに腐っています。

中韓とも、自分のことは棚に上げて、日本を「軍国主義」呼ばわりするのは止めてほしいものですが、中国は分かっていて騒いでおり、韓国は分からないで騒いでいるみたいです。

国内の左の人も中韓に呼応して、「いずも」などの「空母」を持って軍国主義に戻ろうとしているとプロパガンダしています。

それも同じく、日米安保体制下でわが国だけが、特出して「侵略」が可能だという幻想があるからですが、先日書いたように、集団的自衛権下では政治的にも、物理的にも不可能なことを勉強していないから言えることにすぎません。

もっと勉強してください。

あ~、軍事ブログみたいになってきたぁ(悲鳴)。

※お断り 当初、タイトルに「攻撃力」という表現を使いましたが、やや漠然としているので、「他国への侵攻能力」と書き直しました。

 

日曜写真館 蠱惑的な花たち

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2015年7月18日 (土)

安全保障についてリアルな議論をしませんか

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昨日の記事は、私が自分のミスで落してしまって、焦って生煮えの記事を出してしまいました。もうしわけありません。 

将来的、それもこの20年から30年ていどの時間尺で、アジアをネットする集団安保体制を構想していくことを書いたつもりでしたが、日本の内情はとてもそんな段階とはかけ離れています。 

長い間、まともな安全保障の議論をしてこなかった毒が、賛成する側にも反対する側にも廻ってしまっている部分があります。 

小川和久氏が参考人発言で、国会審議を「枝葉に始まり、枝葉に終わる」と評していましたが、まったくそのとおりです。 

もっとも重要なことが、まったく語られていません。 

たとえば、ひんぱんに登場したのが 「歯止め」論です。まるで、自衛隊は「歯止め」という鎖につないでおかないと、狂犬のようにそこら中に噛みつく危険な存在のようです。 

狂犬どころか、にわかに信じがたい話ですが、今の日本において、仮に沖縄県の領空を中国の爆撃機が侵犯した場合、まったく阻止する手段がありません。 

いや、スクランブルをかけているだろうと、国民は思いますが、奮闘している自衛隊の皆さんにはもうしわけない表現ですが、あれはいわば一種の<殺陣>(たて)のようなものです。 

初めから、こう斬ってかかるのを、こう受け止めて、こう流して・・・みたいな、既定の枠内の約束事があって初めて成り立つスタイルです。 

ですから、相手が想定外のことをしたら、まったくこの<殺陣>は成り立ちません。 

現実にこのような事件が起きています。ケーススタディします。
対ソ連軍領空侵犯機警告射撃事件 - Wikipedia 

このソ連機はベトナムのカムラン湾基地から発進したバジャー爆撃機の編隊で、南西方面から侵入し、なんと堂々と沖縄本島上空に侵入し、米軍基地上空を横切っています。 

この際に、自衛隊史上初の警告射撃が実施されました。 

400pxokinawakenchizu(図 沖縄周辺地図。ウイキによる)

・発生地点 - 鹿児島県沖永良部島徳之島付近上空~沖縄本島上空
・発生時刻 -
1987年(昭和62年)12月9日午前11時41分
・午前10時45分頃-
航空自衛隊那覇基地第302飛行隊所属のF-4EJ戦闘機2機(編隊長:1番機前席のA一等空尉)が緊急発進(スクランブル)、その後も2次・3次隊として4機が離陸。
・ソ連機に見えるよう空自機が翼を振る、視覚信号により「退去」を指示。
・午前11時10分頃 - バジャー1機を除く3機は、
宮古島南方を通過後に北上。別の空自機2機が追跡、別の2機は上空待機。
・午前11時20分頃 - バジャー1機が北へ転進、
沖縄本島へ接近。
・A一尉が
南西航空混成団司令に警告射撃の許可を求め、警告射撃命令が下る。
・午前11時24分30秒 - ソ連機が
領空内沖縄本島上空へ侵入。米軍・空自基地上空も通過。
・同時時刻-
20mm機関砲にて、1回目の信号射撃による警告。視覚信号にて「着陸」を指示。
・午前11時31分30秒 - ソ連機が領空外へ。
・午前11時41分30秒 - ソ連機が領空内
沖永良部島徳之島上空へ侵入。
・20mm機関砲にて、2回目の信号射撃による警告。
・午前11時45分45秒 - ソ連機が領空外へ。

後に、米軍機も発進しており、自衛隊機上空で監視していたとが分かっています。おそらくは、自衛隊機が対応不可能になった場合に備えていたのだと思われます。 

自衛隊は、徳之島上空で領空侵犯を発見してから本島上空に到達するまで、実に延々35分間の間、領空侵犯するにまかせています。 

そしてなんと驚くべきことに、本島中部の米軍基地上空を通過させてしまっています。

その際に、さすがに日本側も政府の許可を得て、初めて警告射撃を実施しています。 

警告射撃とは、実弾と信号弾を相手に当たらない場所に発射するものですが、このソ連機はそれすら無視して、その後も悠々と飛行し続けて、いったん抜けた後に、またもや徳之島方向から侵入しました。

結局、当時の中曽根首相は防衛出動を下しませんでした。 

日本の「抑止」の実態を見極めるために、ソ連はこのような挑発行為をしたのだと思われますが、まったく舐められたものです。

国際法上は、このように警告射撃すら従わない国籍不明機は撃墜することができます。というか、むしろ今後も同じことをさせないためにすべきです。 

逆な場合、たとえばサハリン上空の基地上空を自衛隊機が横切ろうものなら、問答無用で撃墜されても文句はいえません。実際は、そのはるか手前で落されているでしょうが。 

皆さん、これが私たちの生きる日本という国です。上空を侵犯した爆撃機に通過されてもなにもできない国、それがわが祖国です。

View0016093833(写真 領空侵犯をしている中国空軍H6爆撃機。今日の記事に出たソ連のバジャーのコピー)

これが中国機だった場合どうでしょうか。彼らの領土意識によれば、沖縄県は彼らの領土であって、彼らの領空です。
 

不法に侵入しているのは、自衛隊機の方だと考えています。 

私は冗談を言っているのではありません。彼らはひんぱんに沖縄県石垣市尖閣諸島周辺で、わが国の海保に対して退去警告を発しています。 

そしてわが国の領空に防空識別圏(ADIZ)を勝手に設けました。

R83371
もし、この侵犯した中国機が自衛隊機に対して「直ちに退去しなさい。しない場合は撃墜する」と、私たち日本人から見れば逆ギレのような「警告」を発しながら侵犯して、本島上空を横切ったら、どのように日本政府は対応するのでしょうか。 

しかも、彼らの領空侵犯する機体の大部分は爆撃機で、その爆弾倉に対空ミサイルや爆弾を登載している可能性があります。 

まずは、那覇の現地司令部から自衛隊司令部にいき、政府からの警告射撃が許可されたとします。

しかし、警告射撃をしても、このソ連機のようにまったくそ知らぬ顔で、まっしぐらに那覇と嘉手納基地上空に向っているとします。

さぁ、これから先にどのようなシナリオになるでしょうか。三択です。

①国際法に則り、警告射撃をしても聞かない以上、撃墜する。
②警告しても言うことを聞かないのだから、なすすべがない。
③防衛出動を命じて、撃墜する。

答え。②です。まぁ、たてまえとしては③でしょうが、相当に無理です。

艦船の侵犯と違って、航空機は高速なために領空侵犯を確認し、スクランブルをかけて無視された場合、防衛出動の要請をしたとしても、わずか数十分の時間的余裕しかありません。

その間に自衛隊南西司令部から横田の空自司令部を経て防衛省に行き、さらに官邸に達し、その上ここが難関ですが、閣僚全員の了解までもが必要です。

今回の法整備で閣僚了解は電話でもいいという「迅速化」(どこが?)が図られましたが、おそらく秘書が対応し、先生をつかまえ、その先生が見つからない場合などがあれば、数十分などあっという間に経過してしまいます。

それに、もし公明党の国交相が反対したらどうしますか。ひとりの反対で防衛出動は出せないのです。

その場合、安倍氏はこの閣僚を解任して、自分か兼務する形て了解を取るしかないわけですが、そんなことをしている間に、この侵犯機の爆弾倉が開く可能性のほうが高いでしょう。

このように、日本の防衛は非現実的な、<殺陣>の精神で覆われています。

今の安保法制の議論で、もっとも欠けていたのはこのリアリズムです。

議論においても、野党が国にするのは「歯止め」だけで、現実の国際情勢や、日本の防衛の現場のことなどまったく念頭にない質問を連発しました。

また、答える首相も、正気を疑うような答えをしまくりました。

なにか国民に誤解があるようですが、法律的な「武力行使の要件」が整えば、すぐさま武力行使しなければならないということではありません。

安全保障は、おそらくはひとつの状況に対して数十とおりも答えがあるシナリオで、最悪のジョカーと遭遇した場合にでも、対応できるように考えねばなりません。

だから選択肢の幅を広く取らないと、しょっちゅう「想定外」となりかねません。そのために武力行使の幅を現実に則したものにしていかないと、現実には対応ができなくなります。

現実には、政府の判断が優先するのはあたりまえですが、それすら「閣僚一致」「国会承認」といった「歯止め」をかけています。

日本の安全保障議論に致命的に欠けているのは、「歯止め」でもなく立憲精神でもなく、この「政治の判断」の極度の遅さと、リアリティの欠落です。

今回これで「改解釈憲はしない」というようなことを安倍氏は答弁していましたが、今日、取り上げたポジティブリストの矛盾は、今後放棄してしてしまうつもりなのでしょうか。

政府が目指す方向は、国際的標準にわが国の安全保障を持っていきたいということで理解できるのですが、逆に「歯止め」を増やしてしまったような気さえします。

野党側に至っては、前世紀の遺物のような法手続き論や違憲論、そして地域の限定論に終始しました。

よくこの出来の悪い中学生レベルの水準で、3年間も政権を運営したものです。

今、必要なことは、このような低調な安全保障論議を政治家だけに任せるのではなく、国民自らが、自分の国を守るということを真剣に考えることです。

頭上を核搭載の中国爆撃機に侵入されても、手も足もでないのがわが国なのですから。

 

2015年7月17日 (金)

集団的自衛権の先を見つめた議論をしたい

012
びっくりしたことには、記事がアップした瞬間に消えました。原因不明です。復元できません。文章って生もので、同じことは書けないんです。

ああ、オレの3時間をかえしてくれぇ・・!オレの人生ってなんなんだぁ(オーバーな)。

というわけで、前にお蔵入りした記事を取り出してアップします。これを編集してまとめるつもりだったので、ゴタゴタしていますが、お許しを。

                     ~~~~~~~

集団的自衛権の議論が煮詰まってきたようですが、かんじんの本質的議論に届いていません。 

枝葉末節の「こうなった場合はどうだ」という状況論と、そしてお定まりの9条論です。こうなるとはある程度思っていましたが、こうも退行現象丸出しだとは・・・。 

特に違憲論が、完全に議論の潮目を変えてしまいました。 しかし、9条は13条・25条の「生命・自由・幸福追及の権利」違反です。つまり違憲は9条のほうです。

今日はそのことを論証した記事を書いたつもりでしたが、消えました(号泣)。

それはともかく、個別的自衛権か、集団的かとか、地球の裏側までついていくのかとか、その範囲はどこまでとかなどといった観念的議論は、私にはどうでもいいことで、ほとんど無意味なものだと思っています。 

なぜなら、自衛権に個別も集団的も本来なく、そんなカテゴライズをしているのは唯一日本のみの現象であって、そのような「神様も聞いていない神学論争」にふけっているのは、世界広しといえども日本だけだからです。 

日米安全保障条約第5条には、何度も見たように(※欄外関連記事参照)既に集団的自衛権は書き込まれており、それを締結しながら国内的理由から行使しなかっただけにすぎません。 

もし安全保障の組み方が一国のテーマに上がるとすれば、米国、ロシア、中国、インドなどの核保有国のように一国単独で安全保障が可能なのか、あるいはヨーロッパのような地域の多くの国と集団的安全保障体制を組むのかに別れることです。 

結論から言えば、わが国はいうまでもなく前者ではない以上、後者の地域的集団的安全保障体制を目指していかねばなりません。 

このことによって、今反対派から批判されている「米軍について地球の裏側で戦うのか」といったような、狭く米国の利害との関係のみで視点を固定させる必然がなくなります。 

さて、よく外交・軍事分野で使われる言葉に「抑止力」という言葉かあります。簡単にいえば「思い止まらせる力」のことです。  

戦争をしかけられるのを防ぐ力のことだと、一般的には解釈されています。しかし、もうひとつ別の意味もあります。  

その反対に、「自国が戦争をしかけることを思い止まらせる力」のことです。 

イヤな言い方をすれば、「ビンの蓋」論です。日本が戦前のよう突出しないように、押し込めておくという意味で、米国の一部で使われ続けてきました。 

私は、集団的自衛権を持つことによって、戦前型の世界を敵に廻して戦ってしまい、結局国を滅ぼした悲劇を再現することがなくなるのではないかと思っています。 

大戦の反省から、世界にはいくつもの戦争を未然で防止する仕組みができました。そのひとつが、国連憲章で謳われている集団的自衛権です。 

反対派の人たちにはなにか深い誤解があるようですが、集団的自衛権は、戦争を防止する仕組みであって、戦争を仕掛ける仕組みではありません。  


G2400611(図 NATO構成国家のカテゴリー。加盟国、加盟招請国、申請国の三つがあるのがわかる)

NATO諸国は、一国の侵略に対して加盟国全体で対処するという自動介入条項を持つと同時に、加盟国が勝手に侵略することも不可能な「共同制裁」の仕組みも持っています。
 

私は、このNATOが今の時代のもっとも完成された集団的安全保障システムだと思っています。  

ドイツは55年とかなり早い段階に加盟し、ドイツが三度欧州を戦火にさらすことがないことを周辺国に「誓約」をしました。  

外務省HPによればNATOはこのような任務をもつとされています。

NATOの任務
・「集団防衛」、「危機管理」及び「協調的安全保障」がNATOの中核的任務。
・NATOは、いかなる国も敵とはせず、加盟国の領土及び国民の防衛が最大の責務。

集団的防衛に関しては、NATOがある限り、その加盟国に対する攻撃は加盟国全体への攻撃と見なされます。

NATO条約第5条
「NATO締結国(1カ国でも複数国でも)に対する武力攻撃は全締結国に対する攻撃と見なし、そのような武力攻撃に対して全締結国は、北大西洋地域の安全保障を回復し維持するために必要と認められる、軍事力の使用を含んだ行動を直ちに取って被攻撃国を援助する」

条約締結国に対する武力攻撃は、国連憲章第51条に言う集団的自衛権の行使が明文で規定されています。  

逆に、この条項は、加盟国の一国が勝手な侵略をした場合、同様に加盟国の「地域の安全保障を回復し、維持するための必要な軍事力」の制裁を受けることになります。

ここがNATO条約第5条のキモなのです。

つまりかつてナチス・ドイツのように一国の利害で戦争を開始することは、NATOすべての国をあらかじめ敵にすることである以上、第4帝国を作ることは軍事的には不可能なのです。

まぁ、だからドイツはEC・ユーロという、「経済の第4帝国」を作ったわけですがね。

このように、集団的自衛権を持つことは大きな防衛上の抑止力であると同時に、「縛り」のための抑止力でもあるのです。  

次に「協調的安全保障」(cooperative security)は、冷戦終結後にNATOのミッションに加えられた最も新しい安全保障概念です。  

冷戦後は米ソが核兵器を大量に抱え込んで、互いに核のMAD(相互確証破壊)という文字通りマッドな仕組みでにらみ合っていました。  

冷戦以降この仕組みは大きく変化します。  

米ソの親分のタガからはずれた世界には、民族紛争、宗教紛争、領土紛争、麻薬取引、兵器の拡散、飢餓などの問題がいっせいに噴出しました。  

このような問題に対処するには、かつてのような国家間軍事同盟では難しく、国境を越えた広い地域での包括的な協力する仕組みが必要になったのです。  

一方、アジアにおいては中国との冷戦期以来の構造がなくなったわけではないために、「ハブ&スポーク」と呼ばれる米国と各国が各個に結びついた二国間同盟が残されています。 

Network1図 ハブ&スポーク型と交流型モデル。今の日米同盟や東南アジア諸国と米国の安保条約はこのタイプ。アセアンフォーラムは交流型。いずれも集団安保ではない)

その意味で、日本の集団的自衛権が認められたとしても、欧州のような集団安全保障体制は構築されていないことになります。  

これが、今の集団的自衛権論議でかまびすしく叫ばれている「米国の戦争」に巻き込まれるのではないかという疑念を、反対派に持たせている原因です。  

ところで、アジアにおいて唯一、このNATOに似た協調的集団安全保障システムを持つ国家連合があります。  

それが1994年にASEANによって、東アジアの安全保障協議の場としてASEAN地域フォーラム(ASEAN Regional Forum. ・ARF)です。  

Arf1

残念ながら、ASEANをベースにした発展途上国、新興国連合のためにさまざまな制約があって限界はありますが、このASEAN地域フォーラムこそが、今、アジアに唯一存在する協調的安全保障体制なのです。  

私は、日米同盟、米豪同盟、米韓同盟などの二国間同盟をこのようなASEAN地域フォーラムとリンクさせて再編することが、アジア地域での平和を維持しつつ「米国の戦争に巻き込まれる」不安を解消する道ではないかと思っています。

ただし、現状では上図で分るように、米国、北朝鮮まで包括する仕組みなために、たんなる「ミニ国連」となってしまっています。

とはいえ、現実にアジア地域における唯一のテーブルであることは間違いないことで、これをもっと実のあるコレクティブ・ディフェンスにしたいものです。

あ、今、あえて横文字使いました。「集団的」と「安保」と聞いただけでアレルギーを起す人が多そうですから(笑)。

それはともかく、今後、このテーブルを中国の海洋膨張、北の核に対応する、有効な集団安保システムにどのようにして組み替えていくのかが、課題でしょう。

わが国としては、まずはしっかりと安保条約第5条の集団的自衛権を習熟してから、日米同盟をさらに一歩進めてアジア・オセアニア諸国との協調的安全保障に進んだらどうでしょうか。  

日米安保強化でおしまいではなく、その先を見通した議論をすることで、「護憲か否か」といったカビか生えたイデオロギー対立の言論空間にはまらず、より柔軟で現実に則した安全保障論議が出来ると思います。  

またそのことによって、米国の戦争に巻き込まれることを抑止し、あるいは日本が単独でかつてのような戦争が出来ない「縛りの抑止力」を持つことができるのではないでしょうか。 

しかし現実には、アジアにおいては、欧州のような共通の宗教、政治体制、価値観の共有があるわけでもなく、軍備も貧弱です。 

この間の中国の何かに憑かれたような軍事的進出の前に、海軍力どころか満足な沿岸警備艇すら足りないのが現状です。 

6a950ecd(写真 フィリピン海軍哨戒艇。日本野巡視船ていどの大きさの艦艇もない。アキノ大統領が来日した折りに、、日本に巡視船、哨戒機などの供与を要請していった)

これがネックで、現実のARFはNATOにはるか及ばないレベルで、一国ずつ個別撃破されるようにして、中国の露骨な膨張政策に浸食されていっています。 

本来、域内で中軸となるべき自由主義先進国は日本だけといっていい状況にもかかわらず、そのわが国もごの体たらくで、未だ「個別的自衛権か、集団的か、その線引きは」などという不毛な議論に止まっているような状況です。 

その本質的原因は、わが国の政治が米国のみとの安全保障にのみ足を取られて、「その先」に視線を伸ばしていないからです。 

ARF(名称は変わるでしょうが)が日本、オセアニア地域も含み、米国とリンクするNATOのような新たなアジアにおける包括的地域安全保障体制を構想すべき時期が始まっているのではないでしょうか。  

何も変えないことが平和なのではなく、どこをどのように変えたら、もっと侵し、侵されない地域平和体制が出来るのか、具体的に考えていくべき時です。

 

※関連記事
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/post-e0a4.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-4732.html
http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-7303.html  

 ※参考資料 「東アジアの安全保障と多国間協力」 参議院特別調査室松井一彦

2015年7月16日 (木)

小川和久参考人の証言

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委員会採決が終わったようですが、抗議集会に2万人だそうです。

先日14日夜には日比谷野音で、同じく2万人と主催者側発表でした。

野音のキャパは3千人強です。実は、ほぼ6倍の人たちが、折り重なっていたんですね(笑)。さぞかし下の人、重かったでしょう。

C675d763e1e820f3e3f4a2f3fb790d00(写真 日比谷野音の反対集会。2万人参加というと、この見える人、ひとりあたり5人も埋まっていることになる。重いだろうな。あるいは、場外に1万7千人いたのかもしれない。真相は謎だ)

主催者発表6倍の法則が仮に成り立つとすれば、今回もだいたい3千人前後だったのではないでしょうか。

かつての70年安保を知る私には、ひどく牧歌的風景に思えます。私の世代は、60年安保なんか、国会前に11万人集まったぞ、と自慢されていました。

ま、昔から左翼陣営は平気で10倍、20倍していましたが(苦笑)、実際に、昔はそのていどの実力はあったんです。衰えたものです。

ところで、国会内といえば惨憺たるあり様です。

下の国会議員は、本分の審議を拒否し、テレビカメラに向けて「市民団体」よろしくプラカードを掲げています。

バッカじゃなかろか。この議員たちがどっちを向いて仕事をしているのか、よくわかります。

Cj7e2fnukae0cxl(写真 講義する野党議員。しかし、その前に、委員長が「賛成の方は起立願います」と言ってから、起立して委員長席に駆け寄ったために、とうぜん起立と見なされて「起立多数で可決」になってしまったという。ちなみに、民主党政権は3年間で実に21回の強行採決をしている)

民主党は反対を言っているものの、、最後まで党内で集団的自衛権についての賛否が見事に二分しました。

党内すらまとめ上げられないのでは、勝つ負ける以前の問題です。この党派、安全保障とか、外交などに統一した綱領が欠落しているという致命的欠陥を、また露にしました。

ともかく対案ひとつ出せないんだから、しょーもない。やっと出た「対案」が、辻本氏の「徴兵制が来る」だったのには大笑いしました。

結局、失礼ながら、民主党の今回の審議で唯一記憶に残るのは、この「徴兵制が来る」という妄想的発言だけというのは、余りに哀しいですね。

徴兵制など、政府は念頭の片隅にもありませんし、そもそも集団的自衛権とはなんの関わりもないことです。

なんの関係もないことの恐怖を煽って、この法制の本質に迫った議論をしないのですから、野党というより、国民政党として失格です。

20150704161509b14写真 民主党安保法制反対パンフ。あまりにバカなので党内で異論があったが、枝野幹事長の「内容がいい」のひとことで絵柄だけ替えて復活した模様。今どき、徴兵制をしている主要国は一国もありません)

さて、本日は、専門家の意見を聞いてみましょう。たまにはいいでしょう。大変にバランスのとれた知見です。

小川氏のご意見の、「枝葉から始まって、枝葉で終わる」「日本でしか通用しない議論」「現状では中国の特殊部隊が上陸した場合、警察・海保の特殊部隊は1時間で皆殺しになる」・・・、まさに同感です。

この間、私が訴えてきたこととまったく同じです。

文字起こしに感謝します。なお、引用元の太字、色分けは普通の字に戻してあります。ttp://blog.goo.ne.jp/apita_21/e/a831563181669b15cc1d65d3a98e8593

                :;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+:;;;:+*+

■小川和久参考人の証言
於 安保法制 参考人質疑 平和安全特別委員会
時 平成27年7月1日

14357516460001
「私は昨年7月の閣議決定を支持する立場からお話いたします。
 まず日本の安全保障、あるいは平和主義に関する議論と言うものは、日本国憲法と国連憲章と日米安保条約を同時に合わせ読み、その整合性のもとに進められなきゃいけない。
 単に憲法の枝葉について議論していても、これは日本国憲法前文の精神に背反する問題であると言うことは申し上げざるを得ない。
 その視点から言いますと昨年7月1日の閣議決定も、現在行われている議論も、憲法に反する部分はございません。
 

 何故かと言えば日本国憲法は国連憲章のいずれの条文も否定しておりません。
 また日本国憲法は日米安保条約のいずれの条文も否定しておりません。

 条約を結ぶと言うことは日本国憲法に反していれば、これは結べないわけであります。
 その中で我々は、この集団的自衛権の議論と言うのを整理しなければいけない立場であります。

 よく「解釈改憲」などと言う、言い方がありますけれども、昨年7月の閣議決定と言うものは、
 その「解釈改憲」というような考え方から見ても、殆ど抵触しないようなレベルのものであります。
 過去において憲法解釈がドラスティックに変えられたと言うのは、昭和29年12月保安隊が自衛隊になる時です。
 これはそれまでの吉田首相の見解とは全く異なる。
 そういうところで解釈が変えられた。
 

 これについても国民の過半数は「許容範囲内にある」という受け止め方をして、これを認めたわけであります。
 そこから見れば昨年7月1日の閣議決定、この憲法解釈の変更と言うものは、やはりそこに該当しないという考え方であります。

 そういう中で私は2番目に申し上げたいのは、安倍政権はこれまでの日本的な議論を整理し、日本国の安全を確立しようとしている。
 その点において「高く評価する」という話なんです。
 これはですね、「自民党がいい」「共産党がいい」という話でも無いし、「安倍さんがいい」「安倍さんが悪い」という話でもないんです。
 安倍さんがやっていること、そのことを国家国民の立場で考えたとき、必要なことを粛々と進めている。
 粛々と、と言うと、上から目線だと言うご指摘もありましたけれども、とにかく淡々と進めている。
 そういう話で御座います。
 

 とにかく日本的な議論は枝葉から始まって枝葉で終わる傾向がある。日本でしか通用しない議論を日本国民に向けて、言い訳のように繰り返している。
 そこから生じる問題について議論が行われると言うことはあんまり御座いません。 

 そういう中でですね、戦後我が国はアメリカに安全保障面で「もたれ掛る」格好で来ました。
 これはアメリカに守ってもらってる、のとは違うんですが、やはり「もたれ掛る」格好でした。
 で、ひたすら経済的な発展を追求してきた。
 それはそれでいいんですけれども、アメリカとの同盟関係を前提とする場合にも、
 やはり国家としての安全保障に関する枠組みと言うものは、それなりに構築してこなければいけなかった。
 

 ところがその部分も放置してきた。
 だから安倍さんはやはり、これからお話いたしますように、同盟関係を結ぶ以上集団的自衛権の行使と言うものについては、
 きちんと向き合わなければいけない、ということで行使を限定的ではありますが「容認」したわけであります。
 

 で、これはですね、私共の立場で言いますと、ほんとに戦略の基本を言ってるんです。
 古代中国の戦略の書「孫子」というのがあります。
 孫子の様々な言葉の中で有名なものを1つ。
「巧遅は拙速に如かず」というのがあります。
 つまり、どんな時間をかけて丁寧に仕上げたものでもタイミングを逸してしまったらなんの価値もない
 

 孫子は元々戦争の教科書です。
 今はビジネスの教科書にも使えるようなものです。
 最も優先しなければいけない目標を迅速に達成をする。
 当然、雑な部分は残ります。
 しかし一番大事なのは国家国民にとって「安全」ですから、安全を確保するための枠組みを素早く作る。
 その安全の枠組みの中で時間をかけてやり残した部分を丁寧に仕上げていく、これが法律制度の議論であります。
 

 だから今、国会で行われている議論と言うのは、時間をたっぷりかけてやっている。
 その意味では賛成反対を超えて高く評価を申し上げたいと思っている。
 ですからやはり、世界に通用するレベルの議論に、その辺を持って行って頂きたい、そう思うわけであります。
 で、とにかくこの集団的自衛権についても日本的な議論を整理しようと言うのが私の立場なんです。
 

 よくですね、マスコミの皆さんには失礼な言い方をして嫌われているんですが、
「小川さんは集団的自衛権に賛成ですね?」そこから来るんですね。
 で、「賛成ですか、反対ですか」って来る。
 何のために「賛成するか、反対するか」という前提が無いんです。
どこに行っても。 

 国家国民の安全を図るための選択肢は、例えば防衛力整備一つとっても、選択肢は現実的に2つしか無い。
 片方を選べばこれは集団的自衛権の行使と言うのは前提条件になる。
 片方を選べば集団的自衛権なんて言葉を使わなくて済むようになる。
 どっちなのですか?って話なんです。
 

 だから集団的自衛権の言葉なんて使いたくなければ、同盟関係を解消すればいい。
 そして独自に防衛力を整備すればいい。
 ただ実務家の立場で申し上げますと、今のレベルの安全を独力で実現しようとすれば、やはり大変な負担に耐える覚悟が必要だ。
 これは防衛大学校の2人の教授が3年前に試算をしたものが本に出ております。

 これは今のレベルの安全を日米同盟抜きにやろうとした場合、年間の防衛費は大体23兆円くらいかかるとなっている。
 これにいろんな問題が加わってくるわけでありますか、それ1年で済むわけじゃないんです。
 10年20年とやり続ける中で、防衛費を圧縮できるかどうかの段階に差し掛かる。
 その間の負担に耐える覚悟が日本国民にあるのか?ありません。
 

 とにかくそれくらいの負担をね、腹くくって受け入れるような国民性であれば、昭和30年くらいまでにやってるんじゃないですか。
 日本人はですね、頭いいですからとにかく経済的な発展を追求するために日米同盟を使おうとしてきた。
 そうであればもう1つの選択肢、日米同盟を活用するというのがいいし、これが現実的だということを申し上げたい。
 

 日米同盟は5兆円未満の防衛費のほぼ枠内で維持されている。
 アメリカと言う国が世界最高の能力を持っている国である。
 その国との同盟関係は、やはり世界最高の安全をもたらしてくれている。
 費用対効果に優れている、という話なんです。
 

 そういう中でですね「アメリカの属国みたいだ!」って、これは日本人が悪いんです。
 これから申し上げますようにアメリカから見て最も対等に近い唯一の同盟国は日本なんです。
 ところが日本の議論が、学会もマスコミも国会も含めて一般論で終始している結果、アメリカに負い目を感じるような格好になっている。

 これが問題なんです。
 とにかく属国のようにみられないで、アメリカからも1目も2目も置かれるような格好で日本の安全を確保し、平和主義を追求していく上でも日米同盟というのは、極めて良い選択肢だと思います。

 ただその場合、同盟関係を選ぶと言うのは相互防衛が前提であります。
 相互防衛というのは、集団的自衛権の行使が前提になるということなんです。
 ただですね、個別的自衛権は自分の国の安全を自分の国の軍隊で守る権利。
 集団的自衛権は自分の国の安全を同盟国などの軍事力で守る権利。
 いずれも自分の国の安全が先なんですよ?!
 退嬰だとかね、他の国の戦争だとかいうことをね、言ってますが、自分の国の安全なくして他の国の戦争に手を貸すなんてことはあり得ない。
 

 もう1つ日本の議論が一般論で終始しているのは、とにかく同じような姿かたちの軍事力を日本があたかも持ってるかのような錯覚のもとに、
 アメリカを助けにいけないのは肩身が狭い、なんて言う。
 しかしね納税者の立場で考えてください。
 とにかく日本の軍事力と言うのはドイツと同じで、戦後、再軍備の過程で連合国に規制をされてきている。
 だから自立できない構造なんです。
 だから国家的な戦力投射能力は逆立ちしても出てこないんですよ。
 

 外国を軍事力で席巻しようとしても出来ないんです。
 だから日本が同盟関係の中でアメリカに「あてにしてもらっていいよ」と言うことが出来るのは、
 日本列島と言う戦略的根拠地を提供し、日本周辺が戦争状態でない場合には自衛隊で守っていると言う役割分担なんです。
 日本列島に何か所米軍基地がありますか?公表されてますよ?
 84か所。
 あと自衛隊が使っていいとされている日米共同使用施設は50か所。
 134か所が日本列島に乗っており、アフリカ南端の喜望峰までの範囲で行動する米軍を支えている。
 

 これ会社に例えるとですね、本社機能が置かれているんです。
 アメリカは他の同盟国は支店か営業所のレベルなんです。
 で、日本の代わりを出来る国が無い。
 だからアメリカは一貫して日本でナショナリズムが頭をもたげて、日米同盟を解消することに対してずっと懸念をしてきている。
 

 これ外交文書が機密扱い解除されたの見りゃ一目瞭然じゃないですか。
 その辺をね、アメリカから見ても最も対等に近いという同盟国であるということが、非対称的であるけれども明らかなんです。
 アメリカ側と話をしていても、それを否定したり反論受けたことはありません。
 それを我々は税金の使い道について、きちんと見ているかどうかの話なんです。
 

 それをわからずに国会の質問が、どこが何をされたかわかりませんが、耳で聞こえてきたのを見て「あれ?」と思った。
 アメリカを攻撃している国が日本を攻撃していない。日本を攻撃しないと言ってる。
 その時でも集団的自衛権を行使するのか?という質問が聞こえてきました。

 これは一般論ではそう言うこと言えるんです。
 でも税金の使い道について国会議員として責任を持っていれば、アメリカの戦略的根拠地、本社機能が置かれている日本列島を攻撃しないで、
 アメリカを攻撃する、ということは無いんです。
 だからそう言う議論は1回整理して頂く。時間をかけて議論する中でやって頂きたいと思っております。
 

 そういう中で例えば日米同盟と言うのは、世界最高レベルの安全を日本に提供していると言うことで言えば、抑止力としてこれに勝るものは無い。
 そういう中で例えば東シナ海についても、中国は極めて抑制的に動いている。
 南シナ海とは戦略的に差別化している。
 これ中国の将軍たちが私に言うくらいです。
「気を使ってるんですからわかってください」。
 

 だからこれ、尖閣諸島で領海侵犯している中国の公船、白い船も、これ1隻の例外もなく固定武装なし。
 武装しないんです、スッポンポンなんですよ。
 だからその辺はきちんとわかったほうがいい。

 そういう中で抑止力と言うと「沖縄の海兵隊は抑止力じゃない」とかね、いろいろ言うけれども、沖縄の海兵隊、地上部隊は尖閣諸島、あるいは台湾海峡有事において、中国が行使しうる現実的な"斬首戦"というのがあります。
 首を切り落とす。
 弾頭攻撃、キャビテーションって言うんですが、弾道ミサイルなどて台湾の政治経済軍事の中枢を叩いておいて、混乱の中で傀儡政権を樹立する。
それを半日か1日でやってのける。
 そしてそこに国連は常任理事国、中国の拒否権発動もあって介入できない。
 国際社会が介入できない中で、台湾国内で内戦状態が生まれ、既成事実化していく。
 

 それに対する唯一の抑止力は沖縄海兵隊なんです。
 1000人の地上部隊しか1時に投入できませんけども、これは早い場合では2時間で中国軍とぶつかります。
 この1000人とぶつかることはアメリカ合衆国との全面戦争を意味するから、中国はためらわざるを得ない。「ためらわせるから」抑止力なんですよ。
 だから今の議論をきちんと進めていく中で、日本の抑止力と言うのは格段に向上すると申し上げていいと思います。
 

 そういう中で「歯止め」の問題が常に気にされますが、法律で歯止めをかけると言うのは当然、国家としてあっていいんです。
 ただそういう中で私はもうちょっと大枠の話をします。
 

 歯止めと言えるのは国連憲章であり、集団的自衛権であり、自衛隊の戦力投射能力無き軍事力である。
 これ全部歯止めなんです。
 国連憲章はですね、とにかく国連憲章の精神と齟齬をきたすような行動を米軍が取る時には、やはりそれを抑制させる、というような機能があります。
 それを使う国があるかどうかという話なんです。

 集団的自衛権もそうです。
 例えばドイツは西ドイツの時代、再軍備する時に、集団的自衛権が行使されている中でしか個別的自衛権の行使をしてはならないと封じられた。
 一貫してその状態。
 つまりある国が単独で個別的自衛権を行使することに対する歯止めになっているんです。

 これはアメリカも例外ではありません。
 湾岸危機の時、アメリカのベーカー国務長官は同盟国など説得して回った。
 同盟国、全部Noですよ。値切るんです。とにかく半値くらいまで値切って協力をする。
 アメリカは単独行動に近い格好で軍事力行使したかったけども、それの半分以下の軍事力行使しか出来ていないと言える。
 この「歯止め」。
 

 先ほど来から申し上げましたように、海を渡って外国を軍事力で席巻することのできない構造の自衛隊。
 これも歯止めであります。
 だから「後方支援」ということがいろいろ議論となりますけども、出来ること、出来ないこと、があって、
 出来ないことの方が圧倒的に多いんです。軍事組織として。
 それも歯止めの1つであることをご認識頂きたい。
 

 最後に申し上げておきたいのは、日本でしか通用しない議論から生まれてくる法律や制度で、自衛隊、海上保安庁、警察の手足を縛らないでほしい。彼らがむきあわなきゃいけない相手はフリーハンドなんです。
 
 
 だからグレーゾーン事態で海上保安庁と警察の特殊部隊、全部かき集めて投入しても、10人から20人の向こうの特殊部隊に向き合った場合、1時間で全員死にます。

その辺をちゃんとわかった上で議論を進めて頂きたい」

2015年7月15日 (水)

首相よ、安保法制の意味を率直に語れ

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不毛なままに衆院採決が来てしまいました。
 

石破さんが、今頃になって記者会見で正論を吐いています。 

「(安全保障関連法案の審議をめぐり)国民の理解が進んでいるかどうかは、報道各社の世論調査の通りで、まだ進んでいるとは言えないと思う。あの数字を見て、「国民の理解が進んできた」と言い切る自信が、私にはあまりない。
 なぜなのかと考えた時、物事が極めて抽象的でリアルに考えにくいということがある。理解が進まないことに「報道が悪い」と八つ当たり的なことを言っても仕方がない。私たちもきちんと語る努力が十分ではなかったという反省がある。
 衆院でいつ採決があるか(分からないが)、その後にも参院審議がある。法案成立まで、総理や担当大臣に任せておけばいいということじゃなく、自分の選挙区できちんと説明出来ているか、我が党の議員は心しなければならない。(朝日7月14日)
 

石破さん、採決前日の今頃になって、あなたの口から聞きたくはない台詞ですね。そもそもあなたが矢面に立ってやるべきだったんじゃありませんか。 

かつて有事法案を作ったのも、通したのも石破さんですし、集団的自衛権の本まで書いて、党内で勉強会までしたのも彼です。

おそらく自民党内で、というより、政界でもっとも安全保障法制に精通しているのはこの人です その知見は、なまじの専門家を凌駕していると言われています。

さて今回、なるほどあなたが言うように、「国民の理解が進んだとは言えない」状況です。 

いやまったく「国民の理解」は、ぜんぜんダメでしょう。 

ならばなぜ、「理解が及ぶような」出し方の説明戦略を組まなかったのでしょうか。 

安倍氏から、防衛法制担当大臣を要請されながら、些細な考えの違いを楯にとって、それを固辞したのはあなたです。 

集団的自衛権には改憲が必須だというのが持論の中谷氏は、改憲なくして現状解釈の変更をする今の法整備には不適任でした。 

このような危うい改釈改憲ロジックは、彼のような自衛官上がりの実直なタイプには無理なのです。野党は、執拗にそこを突いてきました。 

そもそも政権側に大きな説明戦略がないために、場当たり的になっていました。 

6bc98130(写真 領海侵犯をした中国海警と並走する海保。この時に、中国は海保に、「貴船は領海侵犯をしている。直ちに出て行きなさい」と応答した。このような光景は日常茶飯事である。こんな図々しい行為を働くのは世界でも中露だけだが、さすがにロシアもここまではしない。この写真の状況で、中国が発砲した場合、自衛艦がそばにいても救援できない)

最大の失敗は、中国を名指ししなかったことです。国民は、中国の膨張の脅威を肌身で感じつつあります。 

まともな感性を持っていれば、余りにも当然で、今非常に危うい所でかろうじて防いでいるというのが、国民にもわかりかけてきたところです。 

しかし、それをこともあろうホルムズ海峡などという、どーでもいいとは言いませんが、今切実に危機とされる地域ではない地名をあげて、しかも掃海などという、これまた「まぁこれも過去やったよね」ていどの活動を説明モデルに持ってきたのには、私すら驚きました。 

これは、中国と名指しすると、これから予定されていると聞く日中首脳会談を直撃するという配慮でもあったからでしょうか。

ならば、どちらかひとつを政権は選ぶべきでした。日中首脳会談なのか、安保法制なのか、どちらかに腰を定めるべきだったのです。 

安保法制を選ぶのなら、これは中国の脅威に対して、遅れていた法整備を彌縫策ながらすることで、中国を「仮想敵」と名指しすることになります。

中国は、待ってましたとばかりに、「戦勝70周年」にからませて、「日本軍国主義復活の野望」なんたらと激怒したふりをするでしょう。

日中首脳会談は、当然のこととして流れます。仕方がないですね。 

日中外交関係の正常化は、当分諦めることです。どちらもなどというのは、虫が良すぎます。

考えようによっては、強くでると引っ込むというのが中国という国ですから、案外面白い展開になるかもしれませんしね。 

それはさておき、第2に、存立危機事態の例示が広すぎました。

石油の禁輸事態を説明したかと思えば、米艦に脱出した邦人が乗っていたらといった答弁をします。

もちろん野党の攪乱戦術に対応して迷路に迷い込んでしまったという側面もあるのですが、このように様々なシナリオを同列で語れば、国民にはその軽重が何がなんだか分からなくなくなります。 

いうまでもなく、南シナ海から東シナ海を経て運ばれて来るオイルルートを遮断される事態の方が、国家の存立危機事態に決まっています。 

Cj9xhdbvaaexu9p(図 日本のオイルシーレーン。まさに世界の危険地帯の真ん中を通っているのがわかる)

半島有事の際の邦人保護は、それ自体が大きなテーマですが、これは別途に法体制を作らねばならないことで、集団的自衛権論議に持ち出すと、混乱を招きます。 

というのは、半島有事では当該国の韓国が、自衛隊の邦人保護を確実に認めないことがわかりきっているからです。

だから、米国人と共に米軍に救助してもらおう、ということになるわけですが、米国の優先救助対象は当然のこととして、米国人が第1位、以下アングロサクソン国家が続くのは、野党に指摘されるまでもなく、常識です。 

ならば、もっと米国と詰めてから答弁しろよ、と私も失笑しました。 

米艦が攻撃されたことに対して自衛隊が防衛するのは、このような複雑な問題をはらむ邦人保護といった事態のためではありません。 

620b3a0d(写真 リムパックにおいて艦隊を組む海自の「みょうこう」、米海軍の」「パンテレーエフ」「エセックス」。このような風景が、南シナ海、東シナ海で展開されつつある。このような写真の状況で、米艦艇が攻撃を受けた場合、自衛艦が反撃すると、わが国の法律では、最高死刑に処せられる)

想定できる事態は、公海上での共同警備行動を行なっていた場合に、米艦艇が攻撃を受けて、自衛艦かそれを援護できる立場にありながら、現況では座視するしかないという法規制があるからです。 

もし、米艦艇を救える立場にありながらわが国が見捨てれば、その瞬間、日米同盟は崩壊します。 

どこに目の前で攻撃を受けている友軍を見捨てる、バカヤローな同盟国がいますか。

米国は民主国家です。国民の感情が国政を支配します。燃える米艦艇と、近くで黙って眺めているだけの自衛艦がCNNで流れた瞬間、米国民は激昂するでしょう。

これは、もはや人間性のモラルの問題なのです。 

いくら、わが国が米国の世界戦略インフラを一身でになっていたとしても、米国民はそんな高度な軍事知識は知りません。連邦議員ですら多くは知らないのですら、あたりまえです。

米国民の99%は、米国がわが国を一方的に「守ってやっている」と信じています。

「守られている」はずの日本がそばにいて助けないだと、ふざけるな、という国民感情は当然すぎるほど当然でしょう。

かくして、日米同盟は破綻の淵に立たされることになります。

この日米両国による公海上での共同警備行動は、南シナ海、東シナ海で行なわれているし、今後その密度を高めねばなりません。

その場合、中国との軍事衝突もなしとは言えないわけです。その事態の際に、現況では対処できない、だから今、法整備が必要だったのてす。

改憲のための地ならしという解説を玄人筋がよくしますが、それもないとは言いませんが、まずそれが今回のテーマではありません。

では、現況の法制下ではどうなるか、考えてみましょう。

おそらくこの場合、自衛艦艦長は個人の判断で超法規で支援を試みるでしょう。

なぜなら、自衛艦隊司令部の法務官は、間違いなく「捨ておけ」と指令するに決まっているからです。 

Tky200402150189(写真 サマーワキャンプでオランダ軍と給食を共にする派遣隊員たち。陸自が砂漠のど真ん中なのに森林迷彩を着ているのは、逆に他国軍の中にあって目立たせるため。こんなことまで配慮せにゃならなかったのが哀しい)

それが現行法解釈だからです。現実に同じことは、かつてのイラクのサマーワキャンプでも生じています。 

隣に陣地を作っていたオランダ軍に攻撃が仕掛けられた場合、自衛隊指揮官は黙って見ていたでしょうか。 

おそらくは、独断でオランダ軍を救助したはずです。そして、テロリストを撃退したが、相手方に戦死者が出たとします。 

その指揮官は本国に召還されて解任の上に、現行法制下では殺人罪で刑事裁判にかけられます。 

ちなみに、この時の指揮官は佐藤正久議員ですが、彼は苦しい現場指揮官の心情をこう述べています。

「(自衛隊を警護していたオランダ軍が攻撃を受ければ)情報収集の名目で現場に駆けつけ、あえて巻き込まれようと思った。
巻き込まれない限りは(武器使用が可能な)正当防衛、緊急避難の状況はつくれない。普通に考えて手を差し伸べるべきだという時は(警護に)行ったと思う。
(その結果)日本の法律で裁かれるのであれば喜んで裁かれてやろう」(東京新聞2007年8月17日)

いざという場合、オランダ軍に駆けつけて、我が身で弾丸を受けることで、やっと反撃できる・・・。すさまじい覚悟です。

こういう苦悩を現場指揮官に強いていることこそが、異常なのです。

佐藤氏は、こんな正直なことを言ったために日弁連の弁護士たちから、「派遣決定を超えた行動」「文民統制無視」と批判されました。

弁護士とは、皆、このように法律ロボットのように血の通わぬような人達ばかりなのでしょうか。 

11(写真 開始された自衛隊の南シナ海での哨戒活動)

このような実体から離れた法律は、既にその存在意味を失っています。

現実を変えるか、法律を変えるかしかありませんが、今までは法律に現実を合わせてつじつま合わせをしていただけのことです。 

そのひずみは、当然のこととして、現場の指揮官にすべて被せられて、知らぬ顔をしてきたのが歴代政府だったわけです。 

このような厳しい判断を現場に押しつけて、場当たり的に対応させるということこそが、法治国家としてやってはならないことのはずではありませんか。 

反対派は立憲主義うんぬんと言うなら、こういう事態を長期に渡って恒常的に続けてきた現状をどう考えるのでしょうか。

反対派がしているのは、法解釈の機械的適用でしかありません。

そもそも、本来、現行安保法制を改正することなく、1992年以降、自衛隊の海外派遣に応じてきたことの方が異常でした。

その臭いものに蓋的な姑息な政府対応が、今になって、中国の膨張政策によって通用しなくなったにすぎません。

こんなことはPKO法案とワンセットで前世紀に処理しておくへきでした。それを今になって、眼前の危機となってやっと重い御輿が上がった、それがわが国の現状です。

おそらく強行採決となって、あさっての新聞やテレビは、安倍政権を袋叩きする記事で埋めつくされるでしょう。支持率も急落するでしょう。

朝日の1面など、今から目に浮かびます。

「平和への祈り届かず。暴走する安倍政権。泣き崩れる市民たち。識者団体一斉に強く批判。踏みにじられた立憲主義」

まぁ、てなところでしょうか(笑)。

仕方がない。説明戦術の失敗を引きずったまま、ここまできてしまったのですから、安倍さんは甘受するしかないですね。

次は参院の番です。また同じ轍を踏むのではなく、安倍氏は説明する相手は野党議員なんぞではなく、国民だということをはっきり自覚したほうがいいでしょう。

安倍さんは、国民を愚者扱いにするのではなく、しっかりと説明するべきです。

ぜひ、分かりやすい言葉で、的確な例示をして、今の国際環境の下で日米同盟は必要であって、それを正常に機能させるためにはこの法改正が絶対に必要なことなのだと、率直に語って頂きたいものです。

2015年7月14日 (火)

国民の主権はデモでもたらされる、だって?

016
昨日、日本人の安全保障についての<甘え>
ということを、お話しました。 

そうしたら、というわけでもないのでしょうが、朝日新聞「天声人語」(7月12日)の木霊が返ってきました。

「安保関連法案に反対する大規模な抗議行動が始まった▼催したのは都内の大学生らによる「SEALDs(シールズ)」だ。日本語では「自由と民主主義のための学生緊急行動」。会場の歩道を埋め尽くす顔には高齢者も子連れの家族も。「若者がんばれじゃなくて、全世代で集まれよ!」。彼らの呼びかけ通りの壮観である▼「勝手に決めるな。憲法守れ」。激しいコールが国権の最高機関の堅牢な建築にこだまする。法案は憲法違反と多くの専門家が指摘しても、政権与党は耳を貸さず、近く採決の構えを見せる。抗議行動への参加者は増え続ける。(略)人々が主権者である社会は、選挙によってではなく、デモによってもたらされる、と。その流れは枯れることなく今に続く▼国会前に立ちながら、目配せという言葉をふと思い浮かべた。「危ないね」という思いを伝え合う、それぞれの目配せ。このさりげない連帯は強まりこそすれ、と感じる」

懐かしの朝日節です。 

若者も年配者も、炎天下で汗を流して、戦っているんだぁ、政府、この声を聞けぇ、というわけです。 

あの朝日さん、今マスコミに人気のSEALDsはただの「若者」じゃなくて、しっかり色のついた共産党系の大衆団体ですが、ま、いいか、朝日は分かって書いているんだもんな(苦笑)。 

私も、炎天下の仕事で熱中症になりそうですが、励ましてくんないのね(笑)。デモをするって働くってことより、もっとずっと高貴で価値かある行為なんですねェ(棒)。 

なにせありがたくも、「主権者のある社会はデモによってもたらされる」そうです(笑)。デモ・デモクラシー、略してデモ・デモですね。 

デモに行かない人は、「国民が主権者である社会」作りに貢献していないんだな。けしからんぞ(爆)。

ならば天声人語さん、70年安保は何をもたらしたんでしょうかね。たぶん書いている記者は、その世代のはずです。 

3fa02d2b2195c190b662fc90729cba6b(写真 70年安保闘争のジグザグデモの風景。文字どおり地面が揺れたが、社会は揺れなかった。残したのは暴力闘争で傷ついた多くの学生と、部長の居酒屋での若き日の武勇伝だけだった) 

70年安保闘争のデモは、一見巨大な祝祭日のようでした。今の首相官邸前デモなど、一大学ていどの集会規模です。 

しかし、その宴が閉じた後に何が到来したのでしょう。20歳前の青年だった当時の私は、自分の眼でそれを眼に焼き付けています。 

それは、爆弾と内ゲバ、そして粛清による大量の死という惨劇でした。 

天声人語さん、あの時もマスコミ、特に朝日は煽りましたね、覚えていますか。 

様々な人々が自然に寄り集まり、徒党を組まず、自らの意思決定において参加するというキレイゴトだけを報じて、実はその裏の党派の存在をあえて報じませんでした。 

実は、70年安保闘争は、党争でもありました。共産党と反共産党の諸派との文字通り血で血を洗う党争だったのです。 

彼らはいたるところで激しく衝突し、ひとつの学園紛争の主導権をめぐって、何百人という学生たちが手製の武器を作って乱闘を繰り返しました。 

彼らは敵対陣営の学生を「捕虜」にすると、凄絶な拷問まで加えたのです。 その結果、百人を越える死者と、それを倍する植物人間が発生しました。

B0174791_1184558(写真 東大紛争の内ゲバ。右の黄色のヘルメットが共産党・民青の「軍団」。樫のこん棒で武装している。彼らは本来の敵であるはずの権力よりも、仲間に対して激しい憎悪を燃やした) 

彼らは建前上は、「誰でも参加できる」と謳っていましたが、実体は真逆でした。闘争の指導部はいつのまにか、ひと握りの共産主義を信奉する「革命党」の人たちによって握られていたのです。 

指導部に座った「革命党」の学生は、一般の学生たちを「ホコリ」と呼んで憚りませんでした。闘争が沈滞化すれば飛び散っていく塵芥のような奴らというわけです。 

そのために、彼らは間口は広く誰でも入れるような大衆組織を作り、その中で一本釣をしたのです。 

彼らは一本釣りのために、雑多な考えをもった人々を教条のふるいにかけて抽出していきました。

抽出されたのは、ドグマの結晶を信じる人たちです。

この結晶化された人達は、別の考えや立場を認めません。正しい方針を持っているのは自分だけで、なぜなら自分だけが正義なのですから。 

そしてなぜ正義かといえば、自分は正しい方針を持っているからだ、という同義反復の世界でひたすら煮詰まっていきます。 

ですから、同じ反対の意志を持っていたとしても、そのやり方が違ったり、別な立場で考えようとする人たちは、皆、一括りに「敵」にしていきました。

 

2015030901_01_1b(写真 脱原発集会。一斉に同じプラカードを掲げる人たち。脱原発にはいろいろなアプローチがあってよさそうなものだが、なぜか一色である。こういうのを語義本来の意味で、「ファシズム」(全体主義)というのではないだろうか) 

私は近年、この風景を脱原発運動でみています。 

山本太郎氏はこう述べています。

「脱原発派だけどTPP賛成というのは嘘つき」「TPP推進派は『向こう』に行ってくれたらいい。逆に『こちら』の空気を醸し出しながら中立を装うのが一番怖い。それでは第2、第3の自民党だ」(、「ニューズウィーク」(2014年2月11日号同) 、

このような傾向に対して、再エネの指導者だった飯田哲也氏はこう警告しています。

「挙げ句の果てに運動の『セクト化』が進み、互いを罵る悪循環に陥った。まるで革命を目指しながら、内部分裂と暴力で崩壊した連合赤軍のようだ」
『最初はみんな熱く盛り上がるが、熱が冷めて自分たちが少数派になるにつれ、運動が純化し極論に寄ってしまう』」 (ニューズウィーク2014年2月11日号)

あるいは、福島県出身の社会学者・関沼博氏の表現を使えば、もっと手厳しいこのような表現もあります。

「あたかも宗教紛争のようだ」(同)
「脱原発派科学者の筆頭だった飯田でさえ自然エネルギーの穏やかな転換をとなえただけで隠れ推進派として攻撃される」(同)
「事故当時は女子中学生で、運動参加者から脱原発アイドルと呼ばれる藤波心も『なぜか原発推進派』と批判されたことがある。『こだわりすぎて自分の活動に酔いしれるだけでは原発はなくならない』と藤波は指摘する」(同)

ここで出てくる藤波氏というのは、当時脱原発アイドルだった藤波心さんですが、気の毒ですが、あなたを誹謗した人たちは、「原発はなくならない」ということなどということは、とうに折り込み済みなはずです。  

なぜなら、原発がなくならない限り運動対象は不滅だからです。 

原発がなくならない以上、永遠に脱原発運動も組織も存在する理由があり、運動の中心にいる左翼政党はそれによって党勢拡大の手段にできると思っているからです。  

もし、本気で原発をなくしたいのなら、デモなどするより、原子力に替わるエネルギー源の開発のための研究を真面目にしたほうが、よほど現実的なはずです。 

そして、その代替エネルギーが実用化するまで、暫定的に安全性を規制委員会から認められた少数の原発を稼働してつないでいくというのが、現実的な選択なはずです。 

しかし、この脱原発運動家たちは、本気で原発をなくすつもりがないとみえて、街頭で「再稼働反対」と叫ぶことが、ただひとつの脱原発の道だと信じているようです。 

20150712175637asodpi (写真 安保法制反対の共産党系のデモ)

そして、自分ひとりが叫ぶだけならまだしも、徒党を組んで、時間をかけても本気で原発をなくそうと考えるような人間たちは「向こう側」であり、結局「原発推進派」であって、つまりは「敵」・打倒対象にしてしまいます。 

山本氏の言うような基準にあてはまるのはごく一部の左翼政党活動家か、その支持者だけに限られるはずですが、それでいいのです。 

なぜなら、むしろそういう人を選別し、自党派に加入させるために運動をしているのですからです。

仮にあなたがSEALDsのデモに参加すれば、そのデモの先には少数者の学習会が待ち構えており、やがて赤旗を講読するようになり、そして数か月たてばあなたは、「民主青年同盟加入のしおり」を貰えることでしょう。

失礼ながら、いわば反安保デモは、共産党や過激派の商圏拡大を兼ねたリクルート営業なのです。

さて、今回の安保法制もそうですが、誰しも戦争がイヤなのに決まっています。

ではどうしたら平和を保てるのか、今の難しい国際情勢でいかにして平和で暮らしていけるのかを考えようとしています。

そのときに「違憲だから反対」みたいなことを言われても困ります。そういう前に、いくらでも考えるべきことがあるはずです。 

世界はどう動いているのか、世界の国々はどういうやり方でそれに対処しているのか、様々なケーススタディをしていかねば、自分の住む国の安全保障など語れないはずです。

しかし、なまじ具体案など示せば、「向こう側」=敵の土俵上で相撲を取らざるをえないことを恐怖しています。

だから、実現不可能なことしか共産党は「対案」として出しません。

いわく、「日本をコスタリカにしろ」とか、「中国も入れた東アジア協力機構をつくれ」というようなしょーもない空論を述べているだけです。

これでは議論になりません。空論相手では話にならないからです。 

少し勉強すれば、人口1億3千万人の国が、人口457万で静岡県より少し大きいくらいのコスタリカのまねをしたら滅ぶに決まっていますし、そもそも、コスタリカは米国と安保同盟を結んでいるから、軍隊を持たずに済んでいるです。

また、ハトさんの東アジア共同体にすら無関心だった中国が、こんな東アジア協力なんじゃら機構に乗ってくるはずもありません。

いや,第一、この安保法制って、中国の脅威にどう対処するのかがテーマじゃなかったっけか(爆)。

ああ、反論するだけでアホクサ~。

今回も、本来は、現実のフィールドで政策論争として争わなければならないはずの安保法制のテーマが、またもや不毛な祝祭日で終わりそうです。

民主主義は自らの力を誇示するようなデモなどからは生れません。真面目な事実に即した討論から生れるのです。

2015年7月13日 (月)

世界の現状から激しくズレている日本の安保法制論議

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今の日本の安保法制の議論は、根深い甘えによって支配されています。

それは自国と地域の安全保障を視野からはずすことが、「平和」だとする戦後日本独特の錯覚から生じています。 

戦後70年、日本という国は、いままでまともな安全保障政策の国民的議論を周到に避け続けてきました。 

ではあの巨大な60年や70年安保闘争はなんだったんだ、という声が上がりそうですが、安保政策の議論を振り返る上では無意味です。

Img_1(写真 60年安保闘争。当時は10年おきの改訂だったために、次は70年に起きた。今は一方的通告による廃止が可能な形の自動延長方式。私の思春期から青年時代は安保闘争一色だった。たぶん百回以上はデモに行っているが、この私も含めて安保条約なんか読んだ奴はひとりもいない)

あの安保闘争を経験した世代に聞いてもらえればわかりますが、最大時には1日で数十万人を動員したこのふたつの反対デモの渦中で、日米安保条約をまともに読んだ人間は皆無に近かったはずです。

あれはアンポの衣を被った反政府デモでしかなかったのです。 

これは今も同じです。首相官邸前でミニ安保反対闘争をしている人達の中に、集団的自衛権は既に日米安保条約に書き込まれいるのを知っている人が何人いるでしょうか。 

もし「違憲」を叫ぶなら、それは安保条約と自衛隊そのものまで否定することになり、戦後の安全保障構造の全否定につながるのですが、分かっていて「違憲」を叫んでいるのでしょうか。

ですから、私はついこう言ってしまいます。「違憲」だって?なにを今さら。 

戦後一貫して、「改釈改憲」で憲法をごまかし続けてきたのは、いったいどこの誰でしたか。それはわが国の国民ではありませんか。 

そもそも自衛隊という「警察の権能しか持たない軍隊のようなもの」を作ったのは、憲法9条第2項で陸海空軍の所持を禁じられていたからでした。 

そしてなんとか「改釈改憲」の結果、ひねり出した自衛隊を、憲法の枠内だと強弁するために、「自衛権の限定」を課しました。 

これがポジティブリストや海外派遣の禁止という、警察官職務執行法の概念で軍隊を縛るという歪みでした。 

また、国際社会で生き残るために、米国との同盟関係を結びましたが、これも軍事同盟である以上、その中に「相互防衛」という責務が盛り込まれていました。 

それが日米安保前文、及び第5条、第6条です。

日米安全保障条約 前文
(略)両国が国際連合憲章に定める個別的又は集団的自衛の固有の権利を有していることを確認し、両国が極東における国際の平和及び安全の維持に共通の関心を有することを考慮し、相互協力及び安全保障条約を締結することを決意し、よって、次のとおり協定する。(略)
第五条 
各締約国は、日本国の施政の下にある領域における、いずれか一方に対する武力攻撃が、自国の平和及び安全を危うくするものであることを認め、自国の憲法上の規定及び手続に従つて共通の危険に対処するように行動することを宣言する。
■第六条
 日本国の安全に寄与し、並びに極東における国際の平和及び安全の維持に寄与するため、アメリ力合衆国は、その陸軍、空軍及び海軍が日本国において施設及び区域を使用することを許される。(略)

さていかがでしょうか。読み違えようもありませんね。この三つの条項を、日本国民は知らない人のほうが大多数なはずです。 

ここには1960年6月23日に米国との間で、「相互に相手国への攻撃が自国に対する危機だと認識してこの条約を締結した」と書いてあります。 

さらには、前文では明確に「国連憲章で個別的または集団的自衛権を有していることを確認」していると、だめ押しのようにきっちり宣言しているのです。

これを書き込んだのは岸信介首相、つまり安倍氏の祖父ですが、彼は、それまでの米国は日本に基地を自由に置けるが、日本を防衛する義務を持たないという不平等条約を、このように書き換えることで日本に有利に修正したのです。 

この時に岸が米国を納得させるために使ったロジックが、それから55年たっても、あるの、ないのと騒いでいるこの集団的自衛権です。

今さらそれを「違憲」をいうのなら、日米安保は日本に米軍基地を提供するだけの不平等のままでよかったのか、ということになります。 

だから野党は集団的自衛権に反対するならば、安保を改訂以前の不平等状態に戻すか、さらに遡って日米同盟自体を否定せよ、ということになります。 

「いや、歯止めをかけてきたのは9条だ」と、憲法学者や共産党は言うかもしれません。 

ならばこう言い換えましょう。戦後の安全保障法制の歴史は、9条を骨抜きにしようとする改解改憲勢力と、それを制限・限定しようとする平和護憲勢力との間の戦いの歴史だった、と。

ですから今回もまた本質的議論にならない以上、いままでどおりの改釈改憲と制限・限定論との争いにすぎません。 

そこで、今回出てきた制限・限定論の論理が、古色蒼然たる地理的限定論と後方支援限定論だったのには、正直、失笑しました。

またですか。半世紀の間の時間はどこに行ったんでしょう。まったく進歩していませんね。 

この地理的限定論と、後方支援限定論は共に、今の国際情勢下でどのような変化が起きているのか、まったく理解しないから言える空論にすぎません。 

現代戦は、冷戦期の大国間の正面戦はほぼないと考えられています。

それはまず、核戦争の恐怖によって大国間の戦争がありえなくなったこと、第2に、冷戦崩壊とともに起きた独裁政権の崩壊によって、タガがはずれたように吹き出した宗教紛争と民族紛争が一般化してしまったからです。 

その典型が、対テロ戦争と呼ばれるイラク・アフガン戦争でした。 

ここには前線と後方の区別がなく、戦闘員と非戦闘員の区別もなく、したがって危険地帯と安全地帯の区別すらも消滅しました。 

Ied_baghdad_from_munitions(写真 イラクにおける路肩爆弾。手製信管を砲弾に取り付けて、携帯で信号を送る。市街地をパトロール中の米軍はこれに苦しめられた。Wikipedia)

イラク戦争における4千人もの米兵の戦死者の大部分は、イラク正規軍との戦闘によるものではなく、テロリストによって市街地の路上に仕掛けられた手製爆弾によるものでした。 

また、ロシアのクリミア侵攻や、東ウクライナでの戦法は、国籍マークを外した軍隊の浸透でした。 

20140302100849d93(写真 ウクライナ領内におけるロシア軍。国籍マークを取り、顔を隠している。いうまでもなく、ハーグ陸戦条約違反)

「浸透」とは、気がつかないうちに領土を犯され、気がついた時には制圧されているということを指します。 

中国もまた、同様の戦法を好みます。中国は、漁民を装った特殊部隊を浸透させ、いつのまにか陣取った岩礁を埋め立てて巨大な軍事基地を作ってしまう方法をとってきました。

D0044584_1042129(写真 中国漁船団。漁民の中に大量の特殊部隊員や民兵を紛れ込ませるのが常道。いうまでもなくハーグ陸戦条約違反だが、この中露が拒否権つき常任理事国であるために、国連は機能マヒになってしまった)

そして今、もっとも熾烈な戦闘空間は、米中間の電子上のサイバー戦争てす。 サイバー戦争に至っては、前線もクソもあったもんじゃありません。

このように、現代における<戦争>そのものの形態が、大きく変化している時代に、地理的限定論や、後方支援限定論は、その意味自体を失っています。 

そしてさらに、安保条約が締結された冷戦期と決定的に異なるのは、米国の力の衰退と中国の勃興、北朝鮮の核武装化です。 

これらすべての現象が、20世紀末から21世紀に入って立て続けに起きた国際軍事環境の変化と、軍事革命といわれるものです。

れらの脅威に対して国際社会は、防衛力の集団化で対抗しようとしています。 

具体的には、指揮・情報・命令系統をひとつにさせて、ひとつのユニットとしてまとまった単位で行動します。 

日本国内で考えられているように、ここまでが多国籍軍、ここからが後方支援の自衛隊という線引き自体がもはやナンセンスなのです。 

もし、自衛隊が、後方支援のみと限定して、他国の軍隊は「違憲」だから守らないというなら、そんなものは来ないでくれ、邪魔で危険なだけだと国際社会は判断するでしょう。 

日本が海外派遣でかろうじてやっていけたのは、自衛隊の現場力が世界トップクラスだっただけにすぎません。

Kt_top4(写真 ジブチにおける国際海賊対処活動。自衛隊は現在その国際部隊の指揮官をしているが、指揮官の国が集団的自衛権がないために、同僚が撃たれても反撃できない。こういう限定下で自衛隊は長年活動し続けて、国際的評価は高い。今まで犠牲がでなかったのが奇跡だ。なお、帰還した自衛隊員に自殺者が多いというのはまったくのデマ。東京新聞も誤報を認めた)

このように、一国の防衛は既にひとつの国だけで完結できるものではなく、同盟国や国際社会との共同が前提となっています。 

その意味でも、個別的自衛権がどーたら、集団的自衛権がこーたらとしか言えないような憲法学者に、安全保障の行く末を判断させるようなわが国の議論自体を、国際社会は理解できないでしょう。

これらの変化を踏まえて、安保法制は議論されるべきですが、現状はご覧のとおりです。 

本来的に人間は保守的な存在です。変化を嫌い、変わることを拒否します。人の集まりの国もそうです。 

今の国民を支配している「気分」はひとことでいえば、「よくわかんないから、えらい憲法学者先生のいうことを聞いてりゃ間違いないでしょう」というていどです。 

このような安全保障の岐路に、国際関係論学者に聞くな゛らまだしも、こともあろうに文献の陰で昼寝をし、半世紀前の講義ノートで商売しているような憲法学者に判断を預けるという態度、それが日本人の甘えなのです。

吉田茂は、サンフランシスコ条約締結に対して反対した東大総長・南原繁に、こう言ったそうです。 

「きみ、世界でもっとも遅れている所を知っているかい」 

南原が「アフリカでしょう」というのを聞いて、吉田は、例のブルドック顔でこう答えたそうです。 

「それは、きみの頭の中だ」

同じことを、吉田は国民にも言いたかったのかもしれません。

2015年7月12日 (日)

日曜写真館 クレマチス イン パープル

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2015年7月11日 (土)

集団安保体制 ドイツのアフガン派兵の場合

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集団的自衛権(right to collective defense; right to collective defence )と、集団的安全保障体制(collective security)は違います。 

どっちも同じ「集団的」(collective )という名がかぶっていますから、誤解しないでね。 

まったく違う別な概念というわけではなく、「自衛権」のほうは権利で、「体制」のほうはそれを維持していくシステムのことです。 

この初歩的混同を、朝日新聞は2014年6月15日の朝日の一面でやらかしています。 

ここには、アフガニスタンに派遣されているNATOのドイツ軍人の犠牲者をデカデカと報じて、「後方支援でも犠牲者がでる。どこでも戦場だ」と書いています。
※http://www.asahi.com/articles/ASG6G0Q6BG6FUCVL036.html 

安倍晋三首相は日本が集団的自衛権を使えるようにするため、行使を限定することで公明党の理解を求め、閣議決定する構えでいる。限定するという手法で実際に歯止めが利くのかどうか。集団的自衛権をめぐる海外の事例のうち、ドイツの経緯を追った。
1990年代に
専守防衛の方針を変更し、安倍首相がやろうとしている解釈改憲の手法で北大西洋条約機構NATO)の域外派兵に乗り出したドイツは、昨年10月に撤退したアフガニスタンに絡んで計55人の犠牲者を出した。アフガンでは後方支援に限定した派兵だったが、戦闘に巻き込まれた死亡例が6割あった。
「後方での治安維持や復興支援のはずが、毎日のように戦闘に巻き込まれた。当初の想定と実態が次第にかけ離れていった」
 

これについては早い段階から小川和久氏などが批判していましたが、それから約一年遅れで日本報道検証機構も取り上げています。
※http://bylines.news.yahoo.co.jp/yanaihitofumi/20150701-00047160/ 

「朝日が4月に新設したパブリックエディター(PE)の小島慶子氏が、ドイツ軍の「集団的自衛権の事例」について報じた昨年6月15日付記事を取り上げ、「適切な説明を省き、集団的自衛権の行使で死者が出たと印象付けようとしたと読者に不信感を持たれて当然」と論評した。この2つのケースは共通の問題点を浮き彫りにしている。読者に自ら判断してもらうために正確な情報を提供するのではなく、読者がメディアと同じ意見に導かれるよう都合よく情報を提供しようとする報道姿勢である」  

朝日の誤報は、集団的自衛権と集団安全保障体制の混同ですが、記事にこだわらずにこの違いを押えておきましょう。

Img_0(写真 ISAFに参加したドイツ連邦軍。朝日はここでは絶対に「ドイツに学べ」と言わない)

NATOは2001年9月1日の米国同時多発テロを受け、て、翌月の10月2日にこれはNATO条約第5条に該当すると決議しました。 

はい、思い出して下さい。これがNATO第5条です。一昨日取り上げましたね。 

●NATO条約第5条
「NATO締結国(1カ国でも複数国でも)に対する武力攻撃は全締結国に対する攻撃と見なし、そのような武力攻撃に対して全締結国は、北大西洋地域の安全保障を回復し維持するために必要と認められる、軍事力の使用を含んだ行動を直ちに取って被攻撃国を援助する」

NATOには、書き忘れていましたが、米国も加わっています。それは現実に仮想敵であるロシアとの軍事衝突になった場合、ヨーロッパ各国軍の力だけでは防ぎきれないからです。 

この第5条は、別名「自動介入条項」と呼ばれていて、一国に対する攻撃に対して、全加盟国は個別的あるいは集団的自衛権を行使して、攻撃を受けた締結国を援助する」責務を課しています。

まさに9.11は、米本土中枢が攻撃されたわけですから、この「締結国が攻撃を受けた」状況そのものだったわけです。 

つまり、米国に対しての攻撃は、地球の軍事力の半分を占める米国+ヨーロッパNATO加盟国軍を敵に回すことを意味します。 

そこまて深刻な事態に発展すると、当時ビンラディンは考えていたのか、いささか怪しいものです。

過激な個人の集合体にすぎないテロリスト集団はともかく、いつでも米本土を核攻撃できると豪語している中国は、このことをしっかりと肝に銘じたほうがいいでしょう。

安易に米国空母や日本の基米軍地を標的にすると、NATOまでも敵に回す可能性があります。

まぁ日本の米軍基地の場合は、あくまでも理論的に敷衍した場合にすぎません。現実には空母はともかくとして、在日米軍基地については、例の「距離の法則」が発揮されるでしょう。

それはさておき、NATOの加盟国であるドイツもまた、自動的に第5条に基づいて派兵することを決定しました。

541531881(写真 フィッシャー副首相。彼は緑の党の集会で裏切り者と罵られ、ペンキを投げつけられて失明しかかったこともある。もしこの時、彼が党内左派のいうがままにアフガン派兵を拒否した場合、ドイツはNATOから脱退勧告を受け、それは同時に戦後積み上げてきた、ヨーロッパ社会への復帰を破壊したことだろう)

当時のドイツ首相はドイツ社民党のゲルハルト・シュナイダーでした。そして副首相は、なんと連立を組んでいだ緑の党のヨシュカ・フィッシャーでした。

緑の党はご承知のように、グリーンピースにならぶような過激な反戦・反核団体でした。

フィッシャーは、政権参加に当たって、それまで「反戦・反核」を掲げて左翼反体制色が強かった緑の党を、現実主義的な路線にリニューアルします。

野党にいて反体制を気取っているだけでは、政策が現実化しないからです。 

彼は積極的に脱原発政策を推進すると同時に、現実主義的外交がなければドイツが欧州域内で生存できないこともよく理解していました。 

彼の理想を持ったリアリズムは、私に響くものがあります。

もし、緑の党がなければドイツの脱原発政策はなく、緑の党に彼がいなかったら、緑の党は未だに小さな過激環境党派でしかなかったでしょう。  

シュナイダーとフィッシャーは共に頑固な社会主義者でしたが、同時に優れた現実主義政治家だったわけです。 

ここが、ヨーロッパの社会民主主義者と、日本の社会民主主義政党との大きな差です。 

日本の社会民主主義は、国家の統治そのものを否定してしまうために、国家が国際社会で与えられている責務も、簡単に「違憲」のひとことで切り捨ててしまっています。 

脱原発集会には「オスプレイ阻止」のプラカードがひるがえり、集団的自衛権論議をすれば「9条を守れ」で終了してしまっています。

2015051301_01_1(写真 9条を守れと叫ぶ人たち。もはや理屈ぬきの宗教的感情のようだ。この中からは゛ひとりのフィッシャーもうまれないだろう)

これでは、永久の批判者、永遠の野党には成り得ても、現実に政権をとった場合は、あの民主党政権のようなていたらくになります。 

話を戻します。ドイツは直ちに条約に従って、ドイツ連邦陸軍特殊戦団(KSK)という最精鋭部隊をアフガンに派遣しました。 

ドイツ連邦軍は、「国際治安支援部隊」(ISAF)に参加し、、2001年10月から02年3月にかけて、アフガン南部の偵察・監視作戦「コスクフォースKバー」、アルカイダ軍との「トラブラの戦い」、「アナコンダ作戦」という厳しい戦闘に従軍しています。

O0400020313058032796(写真 アルカイダとみられるグループ。彼らの他慰撫分は覆面をして顔を隠す。覆面をとればただの一般市民とに変身して、ISAFの兵士たちを背後から襲った)

ここまでの犠牲を支払ったのは、ドイツ連邦軍にとって戦後初めての海外派遣であったともさることながら、当初は後方地域の治安維持任務で、そこでの後方支援活動は安全だと思われていたからです。

しかし、現実にはこのようなテロリスト相手の戦闘においては前線と後方との区別がないケースが多く、むしろ彼らは好んで比較的守りの弱いと思われる後方部隊を集中的に攻撃しました。

結果、その備えを欠いていたドイツ連邦軍に大きな損害が出てしまったわけです。 

朝日が報じているのは、この間の戦闘での犠牲者のことで、当然、集団的安全保障体制にもとづいての犠牲者でした。

これを、安倍政権の集団的自衛権とからめて批判したかったために、これをあえて混同してみせたわけです。

朝日がこのような意図的歪曲をしなければ、アフガン戦争の当否から始まって、ゲリラ勢力と戦う場合の非対象性(※)、後方と前線の区別のつかなさ、そのようて地域への海外派兵の問題点、集団的安全保障の持つ難しさなど、総括すべき点は多いと思われます。

※非対称性とは、ある政治的目的を持って、国家の軍事力や警察力に正面から対抗しないで、 防備の手薄な場所や人を対象にした暴力のこと。

しかし、この朝日ような「角度をかけて」情緒を煽る記事に仕立て上げると、それらの苦い教訓がすべて無駄になってしまいます。

もちろん今、安倍政権がやろうとしている集団的自衛権の限定的行使は、このNATOの集団安保のはるか手前の法整備にすぎません。朝日のような、「おとうさんは帰ってこない」的な記事にすると、この集団安保の厳しさは理解できないでしょう。

私はいまの日本人のように、60年余の長きに渡って「9条」の麻薬的効果に浸りきって安逸を享受することに馴れた民族に、このNATOのような集団安保は無理に思えます。

まずはしっかりと集団的自衛権で学ぶコストを支払い、その間にその先を考えるべきでしょう。

安全保障には単独であろうと、集団的であろうと、はたまた集団安保であっても、それぞれ異なったコストと犠牲が要求され、それを無視して構想するのは空論にすぎません。

2015年7月10日 (金)

巻き込まれるのか、捨てられるのか?

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今の安保法制審議にすっぽりと欠けているのは、「はて、いったい集団的安全保障ってなんだろう」という本質的な議論です。 

ここをスルーして、リスクが増えるの、減るのといった、範囲はどこまでだなどと枝葉の議論からやっているのですから、国民にはすこぶる解りにくいことになります。 

これは法案を出した政府側にも問題があります。 限定的行使という制約のために、妙に具体的なシナリオを幾つも出してしまっいました。これが仇になりました。

野党側は待ってましたとばかりに、「これからハズれたらどうなる」とか、「自衛隊員のリスクが高まる」とかいう、しょーもない議論に持ち込みました。 

その範囲をめぐってホルムズ海峡がどーたらとか、「地球の裏側まで米軍について行くのか」みたいな、今、そこにある脅威とは無関係な議論の迷路に入ったあげく、とうとう真打ちの登場。

 とうとう出たぁ、9条(笑)。

ああ、脱力。これを船田センセがオウンゴール。先行きが混迷したところに、大西センセの「報道統制」放言でまたまたオウンゴール。 

早く本筋に戻してほしいと思いますが、相当に厳しそうです。 

こと、こういう法整備になると異様に頭がキレるゲルちゃんに、防衛大臣をやらせるべきでしたね。 

さて、脅威はアレコレと並べるとかえって分からなくなります。「地球の裏側の脅威」などは、とりあえず無視してよいのです。

As20140301003215_comm(写真 ウクライナにおけるロシア軍。非常に問題だが、日本にできることは限られている) 

たとえば、日本にとってロシア黒海艦隊がいくら強力であろうとも、これを脅威とは呼びません。なぜなら、遠いからです。 

ウクライナ紛争はヨーロッパの平和の均衡を破壊するので、大変に危険ですが、日本にとっては、これも「遠い」ので、とりあえず脅威とはなりえません。 

ホルムズ海峡などの中東も、原油輸送という意味では重要ですが、本来はとりあえず考えなくていい距離です。 

アフリカに至っては、現地駐在員の安全ということには留意する必要がありますが、国連警察活動(PKO)以上に関わりを持つべきではありません。 

逆にヨーロッパの側から見てみしまょう。 

彼らからすれば、中国が南シナ海に軍事要塞を作ろうとどうしようと、それが自分にはね返ってこない限り、それを<脅威>とは呼ばないでしょう。 

だから、つい最近までフランスは平気で中国に最新兵器を売りまくっていましたし、ドイツも同じです。 

あ、この両国は武器輸出大国ですからね、念のため。 というか、世界の工業国で、武器輸出を間えなかったのは、日本ただ一国でした。

このように近いか遠いかという<距離>は、安全保障を考える上で、大変に重要な物差しなのです。 これは人間関係と同じです。

国境を隔てて、ひとつ隣が野望むき出しの強国だったりすれば、相当にコワイ。 

気がつくとロシアのように、東ウクライナに国境など無視して戦車部隊を入れてみたり、地上部をジワっと浸透させたりします。 

海も同じで、気がつくと、隣の強国が海を埋め立てて、要衝に軍事基地を作っていたりします。 

さて、近年わが国は、中国の台頭によって、近距離の<脅威>の真正面に立たされることになりました。 

国会審議では、外交的配慮から名指しできないために、それを逆手にとられて「海外でも戦争できる国になる」という方角に話がそれていってしまったようですが、日本の脅威とはいうまでもなく中国の海洋における大膨張政策です。

「地球の裏側」ではありません。どうしてこう分かりきったことを、ダラダラと議論せにゃならんのか・・・(ため息)。

では、この緊張が高まるアジアにおいて、どのようなアジア全域の安全保障体制があるのでしょうか。

残念ですが、NATOのような集団的安全保障は存在しません。ここが決定的に、昨日お話したヨーロッパ地域と、アジア地域が決定的に違うところです。

もし中国がヨーロッパ圏にあって、同じことをした場合、速やかにNATO軍による警戒レベルを引き上げられて、強い警告がなされることでしょうが、ないためにやりたい放題です。

020107(写真 1979年、中国の一方的な侵攻によって始まった中越戦争。一カ月で中国が敗退した)

まずは、中国の建国以来の周辺国への侵略の歴史をみてみきます。

■1949年建国後の中国が引き起こした戦争・紛争一覧
・1949年 中華民国との
古寧頭戦役登歩島の戦い
・1949年 ウイグル侵攻
・1950年 チベット侵攻
・1950年~53年 朝鮮戦争
・1958年 中華民国領の金門島砲撃事件
・1959年 チベット蜂起を武力鎮圧
・1962年 チベットからインドに侵攻して中印戦争
・1966年~1977年文化大革命・虐殺者数8000万人(ワシントンポスト紙による)
・1969年 中ソ国境紛争(ダマンスキー島事件)
・1974年 南ベトナム西沙諸島(パラセル諸島)を制圧(西沙海戦)
・1979年 ベトナムに侵攻して中越戦争
・1984年 第2次中越戦争(中越国境紛争)
・1988年 ベトナム支配下のジョンソン南礁を制圧(南沙海戦)
・2012年~現在 フィリピンと南シナ海・中沙諸島のスカボロー礁領有権紛争
・2012年~現在 西沙諸島(パラセル諸島)でベトナムと領有権紛争
・2010年~現在 東シナ海尖閣諸島で日本と領有権紛争

とんど戦争をしなかった年はなかったほどで、東西南北、四方八方に軍事膨張し続けています。

とうとう陸上部では進出する場所がなくなって、海洋に出張ってきたのが、近年の特徴です。

しかし、集団安保体制=「みんなの安保」がないアジア地域では、弱小国がそれぞれ別個に対応せざるをえませんでした。

そのために、それぞれ果敢に反撃しているものの、実力の差はいかんともしがたい状況です。

ですから、アジアはNATOの代わりに米国の<プレゼンス>を見せつけることで、なんとかしのいできました。

プレゼンス(presence)とは聞き慣れない言葉でしょうか、「存在感」程度の意味です。そこにいてくれないと、その地域の力関係にポカっと穴があいてしまうという「存在感」のことです。

たとえば、米海軍の空母ジョージ・ワシントンは、ただ漫然とアジア地域を遊泳しているのではなく、アジア・インド洋に<いる>ことで「オレはここにいるぞ。いじめをする奴には、オレが容赦しないぞ」と無言で言っているわけです。

実際に、この空母一隻の打撃力だけで、東南アジア諸国が丸ごとかかってもかないません。

そういう米国の<プレゼンス>がなくなると、一体どうなるでしょうか。

実例がたくさんあります。

たとえば1972年、当時の南ベトナムはパラセルル諸島を、中国に奪われました。

中国はベトナムから米軍が地上撤退して、米国にベトナム近海の海域に関与する意思がないことを見計らって、これを強奪しています。

Yjimage(写真 南ベトナムは戦闘機、軍艦まで派遣する中国軍に激しく抵抗した。中国軍と戦う南ベトナム軍)

また南沙諸島のミスチーフ礁は、1995年から中国が占拠していますが、これは、1992年から米軍がフィリピンから撤退したのを見計らって奪取し、そのまま居すわって軍事基地を建設しています。

Artificialislandinthesouthchinasea2(写真 ミスチーフ礁。中国の軍事基地が進んでいる)

フィリピンは、いまでは死ぬほど後悔していますが、一時の反米民族主義に溺れて、米軍のクラーク空軍基地と、スービック海軍基地を追い出してしまったからです。

このような悲惨な事態になって、新たに米比相互防衛条約を締結したようてすが、なにぶん「失われた20年」は大きかったようです。

同じく、南沙諸島のファイアリー・クロス礁も、1988年に中国がベトナムから武力奪取したものです。

今や3000メートル級の滑走路と、水深の深い港を建設中で、既に南沙諸島で最大級の軍事基地にまで成長しています。

Fieryreef5_0(写真 軍事基地化が進むファイアリー・クロス礁)
http://zerohedgejapan.blog.jp/archives/2015-04-18.html

これは米国がベトナムと、過去に激しい戦争をした関係上で、しっかりした友好関係を結べなかった隙を、中国に狙われたのです。

これらの事例は、いずれも米国との安全保障が空白か、あるいは、事実上機能していない状況下で、中国の膨張と進出を許してしまったケースです。

このように、アジアにおいては、今の日本の野党のように、「米国の戦争に巻き込まれる」心配などしている国は皆無で、むしろ積極的に米国を巻き込みたい、「お願い、巻き込んでちょうだい」という状況なのです。

ではひるがえって、同じ東シナ海で中国と対峙しているはずの日本が、どうして今のところ中国の公船の恒常的侵入と領海・領空侵犯程度で済んでいるのでしょうか。

それは、日米同盟に基づいて、沖縄に強力な米軍基地があり、さらに本土に第7艦隊が恒常的に存在しているからです。

そしてこれらは、単に日本の安全保障だけではなく、アジア全域を視野に入れています。

その見返りに、わが国は米国の<プレゼンス>の恩恵を既にたっぷりと受けているわけで、その意味ではわが国は集団的自衛権をとうに行使しているといってもいいのです。

ですから、今さら「巻き込む、巻き込まれる」という議論は、非現実的なのです。

よく沖縄の反基地運動家の皆さんは、「米軍がいるからミサイルが飛んでくる」という表現をしますが、逆です。

中国が安易にミサイルを打ち込ませないために米軍がいるのであって、そのために日米同盟が存在しているのです。

米国は自国だけで充足できるに足る大陸国家で、いつでも金食い虫で小うるさい国々を見捨てて、ミーイズムのヒッキーに戻ることも可能です。

実際にオバマはその傾向が強く、共和党側にもティパーティ系の大統領候補は、常に海外紛争への関与の停止を主張しています。いわゆるモンロー主義(一国孤立主義)への回帰です。

どうも勘違いがあるようですが、米国は自国の利害が消滅したと判断すれば、容赦なく日米同盟を一年前の通告で一方的に廃棄できるのです。

日本は冷戦期に日米安保体制を作ったせいで、日米同盟が永遠に続くと錯覚しています。

ですから、憲法との整合性だけを追及していればよいと考えて、9条や集団的自衛権不行使、非核三原則などの、「巻き込まれない」政策一本で世渡りしてきました。

しかし冷戦はとうの昔に終了し、米国がモンロー主義に回帰するそぶりを見せている今、日本はむしろ「捨てられる怖れ」を心配したほうがいいのではないでしょうか。

巻き込む、巻き込まれないというのは、その都度リアルに判断すればいいだけのことで、距離を念頭に置いて、脅威をリアルに測っていけばいいだけのことです。

わが国は盲目的に「地球の裏側」まで米国に着いていくほど馬鹿ではないし、その都度判断を議論していければいいだけの話ではないでしょうか。

日本は、巻き込まれる心配より、米国に呆れられて捨てられる心配をするほうがいいのかもしれませんし、その両者のバランスをとるというのが、元来の同盟という存在なのです。

2015年7月 9日 (木)

2度にわたる大戦の反省から生れた、NATOという叡知

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ひとを阿呆と怒鳴るだけの、訳の分からないコメントがきていましたね。「金は渋るのに、命を差し出せ」、いったいなんのこっちゃね。おっと、ナニワ弁が移る(苦笑)。 

罵られた私のほうに意味わからなけりゃ、仕方がないでしょうに(笑)。今の安保法制審議って、だいたいこういう感情論のレベルです。 

情緒的に「命」だとか、「平和」あるいは「悪」という倫理表現が飛び出しきて、そこで止まってしまいます。

寂聴さんのような宗教家や、宮崎駿さんのような芸術家が言うならまだしも、野党第一党がこれでは実りある議論になりません。

政府をネオナチだとか、悪とか呼んでしまえば、もう議論の余地がないですもんねぇ(ため息)。

さて、戦争というものは、人類最古の病気のようなものだと、私は考えています。善悪を問う前に、「病という現象」なのです。 

良い悪いという倫理で断じる前に、どのような時に「戦争という病の現象」に罹るのか、どうやったら病から身を守れるのか、考えておくべきでしょう。 

それも、病になってからでは遅いので、健康な時に治療法や対処方法考えておきましょう、というだけです。 

こういう時に、「病を研究するから病になるんだ。それを考えるのも悪だから、許さん」と言われたら、医学などそもそも成り立ちませんもんね。 

いろいろな防ぎ方かあります。世界中でどんな方法で防疫しているのか、知るのも大事です。 

そのひとつの方法にNATOというヨーロッパ方式があって、他の地域でもこのようなものができればいいのになぁ、と世界中から羨ましがられています。 

というのは、ヨーロッパは戦争の歴史だと言えるくらい、戦争と侵略ばかりしてきました。 いわば戦争のプロなのです。

えんえんと百年間も戦争をやってみたり、プロテスタントを殺しまくって国民を半分にしてみたり、同じ土地を取ったり取られたりしてみたりした結果、ヨーロッパには戦争文化とか戦争経済という独特の概念が生れたくらいです。 

今の国際法のほとんども、ヨーロッパの戦争が余りに悲惨で無節操だったために、条約を作ってなんとかしようというところから生れました。

しかし、いくら国際法を作っても、戦争はなくなりませんでした。

38072035_3(写真 パリ不戦条約。1928年、米英独仏伊露日など65ヶ国が署名した。「戦争の違法化」に功績があったとされるが、署名国をみればわかるようにどの国もまったく遵守していないどころか、10年たたずして第2次大戦が起きている。米国は、終戦直後に日本に対してこの自国すら守らなかったこの条約を与えた。日本は天皇条項と取引で呑まざるを得なかった)

また、パリ不戦条約のように「戦争をなくす」と誓い合っても、すぐに反故にされました。

このような不戦の誓いは、理念は美しいのですか、世界すべての国が同じ理想を持っていないと実効性がありません。

ある強国が、「オレ、知らんもんね」と言ってしまうと、まったく無意味な存在になってしまうのです。

ちなみにこのパリ不戦条約が、9条の原型です。9条も同じで、第二項のようなものをすべての国が持っていれば有効でしょうが、持っているのがうちの国だけだとたちまち空文化してしまいます。

ぜひ、日本共産党の皆様には、「中国に9条を!」という運動をお願いしたいものです。

それはさておき、この2度にわたる大戦は、別名、総力戦といって国土全域や国民全員が戦争に巻き込まれるようになると、数百万人の単位で非戦闘員の一般市民が亡くなるような悲劇が続発してしまいました。 

この2度に渡る悲惨な大戦の総括と反省から生れたのが、NATOです。 

この2回の大戦の主役は、ドイツでした。1度目は巻き込まれたという言い訳もできますが、2度目は確信犯でした。

戦勝国には、ドイツの戦後処理を誤ると、第2世界大戦のように、3回目が起きるという深刻な心配がありました。 

そして3回目は世界核戦争です。人類は冗談ごとではなく、滅亡してしまうかもしれません。 

ソ連のワルシャワ条約軍の軍事侵攻の脅威に対抗しつつ、ドイツに二度と戦争をさせないためにはどうしたらいいのだろう、そう、西ヨーロッパ諸国は真剣に悩みました。 

800pxtruman_signing_north_atlantic_(写真 1949年3月4日゛北大西洋条約の締結式。ドイツはこの締結式にはいないが、55年という初期から加入している。さぞかし周辺国はほっとしたことだろう英版Wikipedia)

侵略国のドイツを弱らせてしまえばいい、というのが第1次大戦の終わった後の考え方でした。賠償金を死ぬほど取って立ち直れなくしてしまえ、ということを考えました。 

しかし、それによってドイツ国民は極度に疲弊し、物価1万5千倍というハイパーインフレさえ起きてしまって、これに対する国民の恨みつらみからナチスという悪霊が生れてきます。 

そこで、第2次大戦後には、こんな無茶な苛めをしないで、むしろヨーロッパ社会の重要な一員として迎え入れようという考え方に大転換しました。 

ところで、よく安全保障を考える時に、<抑止力>( deterrent)という概念が出てきますね。 

平和運動家の人たちの中には、「抑止力は戦争準備だから戦争になる」と短絡する人がいますが、ほんとうにそうなのでしょうか。 

まず<抑止力>の元来の意味は「戦争をしかけられるのを防ぐ力」のことだと、一般的には解釈されていました。今の日本の抑止論議も、その範疇でしか議論していないようです。 

しかし、それだけだと<抑止力>という概念の半分しか知ったことにはなりません。 

実は、<抑止力>は「仕掛けられるのを防ぐ」だけではなく、「自国が戦争をしかけることを思い止まらせる力」のことでもあるのです。 

たとえば、ヨーロッパの場合、仮にヒトラーのようなスーパー誇大妄想狂が現れて、世界支配を真剣にやろうと企てても、できない仕組みを作ることを考えました。

これが、集団安保体制(collective security)です。

集団的自衛権という今日本で話題になっている概念は、元来はこの一部でしかありませんでしたが、それだけ取り出して議論するのは、日本には憲法という特殊事情があるからてす。

Nato2002summit(写真 NATO理事会。常任理事国ロシア、中国の拒否権乱発で、空洞化した安保理より、実効性がある議論はこのテーブルでなされる)

それはともかく、世界では大戦直後に、ふたつの巨大な国際機構が誕生しました。ひとつは国連で、もうひとつはNATOでした。

NATOは、ふたつの側面をもっています。

まずひとつめは、「みんなで守る」機能ですが、今日はこちらから行きましょう。

Natoflags_44712798_nato_afp466(写真 NATO軍の式典風景。犬猿の仲のトルコとギリシャが並んでいる。ギリシャはトルコに400年間も支配されていて、1830年に独立戦争を戦って独立した。その後も祖国回復戦争を継続したという因縁の仲。放っておいたら、また戦争をしかねない関係だが、NATOに入っている以上やりたくてもできない)

簡単に言えば、ある国が他国領土を侵犯したり、他国民を殺したりした場合に、そんな勝手なことをさせない仕組みです。

ひとつの加盟国に対しての侵略には、全部の加盟国が一丸となってお相手いたす、というわけです。これはこわい。

NATO諸国は、一国の侵略に対して加盟国全体で対処するという自動介入条項を持っています。 これが有名な北大西洋条約第5条です。

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●NATO条約第5条
NATO締結国(1カ国でも複数国でも)に対する武力攻撃は全締結国に対する攻撃と見なし、そのような武力攻撃に対して全締結国は、北大西洋地域の安全保障を回復し維持するために必要と認められる、軍事力の使用を含んだ行動を直ちに取って被攻撃国を援助する

条約締結国に対する武力攻撃は、国連憲章第51条に言う集団的自衛権の行使が明文で規定されているのです。

そしてこの5条を含むNATO全体は、このような任務を持つとされています。(外務省HPによる)

●NATOの任務
・「集団防衛」、「危機管理」及び「協調的安全保障」がNATOの中核的任務。
・NATOは、いかなる国も敵とはせず、加盟国の領土及び国民の防衛が最大の責務

ですから、NATOに加盟している限り、その加盟国に対する攻撃は、同時に加盟国全体への攻撃と見なされるわけてす。

だからこそ、ロシアはポーランド、ハンガリーという旧ワルシャワ条約諸国がNATOに加盟したことに強い衝撃を受けているのですし、ここでまたウクライナまでNATOに加盟する事態をなんとしても阻止したかったのです。

 

2015年7月 8日 (水)

ギリシャ離脱を阻む二重三重の縛りとは

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昨日の記事で、国民投票でのチプラス政権「勝利」以後の、ギリシャの行く末を考えてみました。 

基本的にシナリオは、3プラス1です。 

①シナリオ1・・・ユーロ脱退⇒独自通貨・ドラクマに復帰⇒ユーロ諸国の支援打ち切り⇒財政破綻の爆発⇒銀行業務凍結などの国内経済・社会の大混乱⇒ドラクマ大暴落⇒競争力回復 

②シナリオ2・・・デフォールトしながらユーロ残留⇒緊縮財政要求をはねつけてのユーロからの支援取り付け⇒返済が不可能なので債務は増大する一方⇒「恒常的デフォールト」状態の日常化 

③シナリオ3・・・ユーロ離脱・EC残留⇒「みんなの通貨」(共同通貨)のユーロからは離脱し、ECの枠組みには残留 

④プラス1シナリオ・・・港湾・空港、鉄道などの国有財産売却を担保にして、ロシア・中国から支援を受け入れる 

Img_8294ac28e749bc2035da97e83cb55bc(写真 メルケルに怒られるチプラス。しかし、こんなていどめげるタマではないのはこの顔でわかる。しかしメルケルさん怒るのはわかるが、こんな男でも一国の首相だ。指さしちゃまずいだろう)

国民投票の前には、ユーロ側の「ユーロ残留・緊縮財政受け入れ」プランがありましたが、これは自動消滅しかかっています。 

もっともユーロ側は、粘り強く提案し続けるでしょうが、国民投票の「民意」のお墨付き貰ったチプラスが、もはやイエスというはずがありませんから、シナリオからはずしました。 

①は常識的なコースで、普通はどこの国でも、ここに至ったらこう考えるでしょう。このドラクマ回帰をすれば、今までのようにかなりの確率で債権は圧縮可能です。 

ただし、これは一種の劇薬・取り扱い注意な方法で、銀行凍結、社会保障制度の壊滅、失業者の爆発的増大などの劇症が出ます。 

今まで口当たりのいいことしか言ってこなかった大衆迎合主義の社会主義政権が、この劇症に耐えられるか、です。 

Img_667492ded417ebb7083e450e6355052(写真  勝利を喜ぶギリシャ国民。苦々しくドイツ国民は眺めていただろう。彼らからすればこの恩知らずだ)

では②のデフォールトしても残留はどうでしょうか。腹がたつほと虫がいいのですが、これがチプラスの狙いです。 

いわば金正恩ばりの、瀬戸際戦術のギリシャ・バージョンといえるでしょう。 

「わしら潰れっぞ。ユーロも巻き込んでやる。ワ、ハハ。そうなったらおのれらもヤバイやろ。ざまぁさらせ。ほなら、早く金貸せや、オラオラ」(河内弁で)という脅しです。

これにユーロが屈すると、今年中にあと2回も残されている債務期限もなんのそのです。 

しかしこの方法は、今度はユーロ側の方のドイツ、フランスなどの国内政治がキレる可能性があります。 

この2国は温度差はあるものの、「支援疲れ」が極点に達しつつあり、国内の富がギリシャの底抜けの樽に、これ以上無制限に注がれることを嫌悪しています。 

実際、欧州議会では移民排除・支援拒否を掲げる極右勢力の台頭がめざましく、安易なギリシャへの妥協は、自分の政権の墓穴を掘る可能性が出てきました。 

③のユーロ離脱、EC残留は、一見ありゃ、これ別だったの、という疑問を持つ方もいらっしゃるでしょうが、はい、別なのです。(欄外参照) 

ヨーロッパ地域には3種類の共同体制があります。 

ひとつめが大枠としてのEC(ヨーロッパ共同体)です。簡単にいえば、ヒト・モノ・カネの自由な往来を実現するために誕生した枠組みです。 

域内は、労働者の自由往来、無関税、そして統一の共同通貨ユーロで運営されています。 

ふたつめが、ECの「みんなの通貨」の部分がユーロです。ECを「ひとつの国」と見立ててECB(ヨーロッパ中央銀行)が、一括して仕切ります。 

ただし、ユーロに入るか入らないかは各国の自由意志ですし、審査基準もそれなりに厳しいものがあります。 

たぶん今のわが国だと厳しいかもね(苦笑)。ギリシャが入ってるだろうって。そう、二重帳簿作って、ごまかして入ったんです(爆)。 

英国やスウェーデンなどは、国内で独自の財政政策の余地を残しておくために、ユーロには未加盟です。 

Natoplanes1(写真  NATO加盟各国空軍のデモ飛行 )

そして三番目が、ECの集団安全保障部門、いわば「みんなの安保」です。これがNATO(北大西洋条約)です。 

これは加盟国に対する攻撃は、すべての国に対する攻撃と考えて対応します。逆に、一国が侵略をしたとすれば、他の加盟国の制裁が待っています。 

そのうちゆっくり論じようと思いますが、私はこのNATOの集団安全保障体制こそが、現代で最も進んだ「犯し犯されない」という平和を維持する最良の手段だと思っています。 

わが国では、その議論の百歩前で、「戦争は悪です」「集団的自衛権は違憲です」「徴兵制が来る」というレベルで止まっているんですから、幼稚すぎて話になりません。

NATOが大学なら、日本の論議レベルは保育園児並です。 

それはさておき、このようにヨーロッパ諸国には、経済的・社会的、そして安全保障体制の共同のインフラが二重三重に張りめぐらされているわけです。

2012061511144756(写真  ギリシャ独自通貨ドラクマ。少年少女は見たこともないかもしれない。絵柄はゼウスだそうで大変に重厚なデザインだが、実はただの紙切れ予備軍にすぎない。いままでこの札でさんざんデフォールトして紙屑にしたために、国民に尻をふかせないためにゼウスの絵柄にした。今回から絵柄をメルケルに替えて、拭きやすくするという噂もある。ウソ) 

というわけで、シナリオに戻ります。この③ユーロ離脱・ドラクマ回帰・EC残留は、①と②の妥協点です。 

いわば渋い大人のセレクトという奴ですが、なにせ相手はおこちゃまのチプラスです。「なんだ、結局①と一緒じゃん」と考えることでしょう。 

しかも、この方法だと、④のロシア・中国との二股外交という手段が使えなくなります。 

というのは、ロシア・中国、なかでもロシアは支援に際して、EC脱退、できるならNATOも脱退することを希望するはずだからです。 

④の外道シナリオは、ユーロ脱退だけては可能になりません。次にECを抜け、そしてさらにNATOすらも脱退せねばダメなのです。

これには、ギリシャ軍部が断固反対するでしょう。NATO装備のギリシャ軍は、脱退した瞬間、部品供給がストップして鉄屑の山になるからです。

ギリシャ軍部と右派は、国を二分する力を持っていますから、これを強行すると、第2次内戦になる可能性もあります。

しかし、チプラスがコミュニストだと知っているオバマは、「ギリシャをECから脱退させるな」と発言しています。

これはズバリ、ギリシャのEC脱退がNATO脱退とシンクロしてしまう可能性があるからです。

それを押してチプラスがやるなら、もはやギリシャ危機はヨーロッパ地域のみならず、自由主義社会全体の問題にまで発展していくことになるでしょう。

 

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2015年7月 7日 (火)

ギリシャに残された3ツの選択肢

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コリアの主張について書こうかと思いましたが、結局やめました。頭が痛くなるからです。 

「愛国心とは、ならず者の最後の避難所だ」という言葉があるそうですが、ここまで主張が徹頭徹尾、虚妄を虚妄て塗り固めたという事例も珍しいのではないでしょうか。

軍艦島を「アウシュビッツ強制収容所」と呼び、そこで強制連行で連れてこられた朝鮮人が奴隷として酷使されていたなどというのですから、イっちゃっているとしか思えません。B級スプラッタムービの見すぎじゃないですか。

まさに根も葉もない混じり気のない嘘です。これなら慰安婦問題のほうが、根はないが葉はある嘘なぶん多少ましでした。

その上、日本は土壇場で、後ろから袈裟懸けに斬りつけられたわけで、これまた、これほどまでの詐欺的外交にはなかなかお目にかかれません。 

ここまでひどい嘘と裏切りを目の当たりにすると、クールダウンの時間を頂戴したいと思います。 

News2532984_6(写真 勝利に沸くアテネ市民。いまの「勝利」は明日の地獄なのだが・・・)

さて話を転じてギリシャです。ご存じのとおりチプラス政権が「勝利」しました。もっと拮抗するかと思いましたが、想像以上の圧勝です。 

チプロス政権は、ひとことでいえば,骨の髄までの大衆迎合主義政権です。何一つ解決策を出さず、要求だけを口にするだけの政権にすぎません。 

幼稚で無責任でありながら、狡猾です。対案は皆無で、ただ国民の感情を煽り立てているだけにすぎません。 

これとよく似た政治指導者が、東アジアに浮かぶ島の首長にいたよなぁ(笑)。 

一方ドイツが押しつける緊縮財政も相当に問題で、今、ギリシャが陥っている極端なデフレ状況時に、緊縮財政をしたら、どのような結果になるのかわかりそうなものです。

まぁ、分からないからこそ財政再建原理主義者なのですが。 これまた、東アジアに浮かぶ国の財務省にいっぱいいたなぁ(苦笑)。

いわば貧血で体力が残っていない重病患者に、さらなる節食と運動を要求するようなものです。 

景気を浮揚させねば、財政再建は不可能なはずなのに、緊縮財政による賃金カット、年金の切り下げ、税制改革などという消費者負担だけで、なんとかしようというのですから、初めから無理があります。 

たしかに、ギリシャは国力以上の豊かな暮らしをしていたことは事実ですし、それが勤勉を徳目とする、北の民族の怒りを買っていたことも事実です。

だからといって短期間の極端な緊縮財政は国民生活への負荷が大きすぎるのです。これまた、別の意味での感情論です。

これでは、ハッキリ言って国は残って、国民は死にます。そんな処方箋は間違っているのです。

Dly1502240026f1(写真 ギリシャ・バルファキス財務相。ゲーム理論が専門の経済学者でもある。いちおう辞任したということになっているが、本気で辞めたと思うお人好しはいない。ちなみにギリシャ女性の人気者だそうだ)

かといって、景気を浮揚させる財政政策を独自に取れないというユーロ・システムの本質的欠陥から、こうとでもするしかなかったというのも一面の事実です。 

つまりは、2010年以降、完全な財政破綻を来していたギリシャに対して、よせばいいのに金を貸し込んでいたヨーロッパ各国の銀行団を救済する目的で、ズルズルと引っ張っているうちにツケの満期が来てしまったわけてす。 

ですから、ユーロの改革要求とは、自分たちの国の債権者たちの救済が真の目的で、ギリシャ国民がどうなろうと知ったことか、というのがアレクシス・チプラスの言い分であって、それもまた事実なのです。

ユーロの誤りは、余りに短い期間に、余りに極端な緊縮財政を命じたために、国民生活の打撃を過少に評価していました。

ユーロが要求したのは、ギリシャのプライマリーバランス(基礎的財政収支)のGDP比率をセロから、いきなり3年後の18年までに3.5%の黒字にするという無茶なものでした。

英国フィナンシャルタイムズ(7月1日)は、「これを達成するには、GDP比で7%に相当する資金を調達する一方で経済規模を10%縮小させるような財政政策手段が必要になる」としています。

とうぜんこのような現金はギリシャの国庫にはありませんし、7%の経済成長などもっと無理です。

どうやって緊縮財政で内需を拡大しろっつうんだ、無理ぬかせ、というのがギリシャの言い分でした

国民の年金や公務員賃金のカットと公務員数の削減、消費増税と税金の捕捉強化という、国民の財布を直撃するメニューばかりがズラ~と並ぶことになります。

かくして、若者の失業者は路頭にあふれ、老齢者の自殺者が急増しました。

Img_2056f19f0f95de2f4b5e4adf77db11f(写真 勝利に酔う少女たち。こういうのを見るとなにが「勝利」なのか、複雑な心境になる。フィナンシャルタイムズ7月5日)

本来、ギリシャが独立通貨を持っていたならば、財政政策による為替レートの切り下げが可能でした。

アテネの造幣局の輪転機をフル回転させて、ドラクマを刷りまくることです。この方法は米国FRBも日銀も採用している一般的な経済政策です。

これによってドラクマ安に導き、アテネ・エーゲ海クルーズ大特価セールを実現するという経済再建策も可能だったかもしれません。

現実に、かつてギリシャは過去200年間で2年に1回くらい、デフォルトを起こしてきたという倒産・夜逃げのベテランです。

しかしそのたびごとにドラクマが投げ売られて暴落する結果、対外債務が縮小するという肉を斬って骨を断つ、ならぬ、肉を切らせて骨を残すという脅威のサバイバル術で泳ぎ渡ってきました。

いい子の皆さん、マネしないように。IMFから借りた金でそれをやると、韓国の「IMF危機」の時のように、徹底的に「国内改革」をやられちゃいますからね。

今、世界の金融界のリストでギリシャは、「恒常的デフォールト状態(国)」と表記されています。http://www.world401.com/saiken/default.html

今回「みんなの通貨」になってしまったために、その奥の手が使えないのです。ですから、このようなギリシャにはそれなりの対応があったはずです。

たとえば、メルケルの女子寮の寮母のような厳しい緊縮財政要求だけで攻めるのではなく、経済再建できるまで一定期間、緊縮を猶予し、経済成長をなまぬるく見守るという手段もあったはずです。

しかし、メルケルが求めたのは景気浮揚によらない財政再建オンリーでした。これでは断食療法をやれと言っているに等しくなります。

ちなみに、これと同じ考えの持ち主が、わが国の財務省官僚です。

これに対するギリシャ国民の既得権防衛衝動が、この大衆迎合主義のチプラス政権を生み出したのです。

しかし一方で、ユーロが栄えたのは、南のギリシャと、北のドイツが、貿易上の凸凹関係にうまくハマったからでもあったのも事実です。

これがユーロの原動力であり、かつ、他の経済圏には知られたくない恥部でした。

ですから、ギリシャが沈没してしまえば、ドイツもさすがに潰れるということはありえないものの、厳しい状況になるのは目に見えていました。

だから、ダラダラと貸し込んで、とうとう7月5日を迎えたわけです。

20150629oyt1i50004l図 今後のギリシャのハードル。あと2週間で次の債務の期限,そして翌月にはまた新たな期限がくる。3連続デフォールトをゆるすほど、ユーロは甘くないだろう)

今後についてフィナンシャタイムズ(同)はこう述べています。

「1つは、正真正銘のユーロ圏離脱である。ギリシャ政府は新しい通貨を導入し、ギリシャの法律に基づく契約すべてを新通貨建てに切り替える。
 新通貨のユーロに対する価値は、間違いなく急落する。どの程度下落するかは、政府が作る政策と制度(特に中央銀行の統治)次第だろう」

「2つ目の展開は、政府が支払い不能になりながらもユーロ圏に残留するというものだ。 論理的にはあり得ることだ。銀行システムについては、保険がかかっていない負債を株式に転換することで資本を増強できるだろう。技術的には実行可能だと思われる。ただ、民間の富には大きな負のショックをもたらすだろう」

チプラス政権は、「民意」を背景にして、後者の方法に進む可能性は残されています。ただし、これも相当に厳しいハードルだと思われます。

ただし、フィナンシャルタイムズがあえて書かなかった、3番目の方法があることはあります。

それは先日ご紹介した、ロシアと中国に国有財産の港湾や空港を売り払って租借地として、それを担保として資金援助してもらうという隠球です。

チプロスはかなり真剣に、ロシアや中国と水面下で手を組む動きを見せています。

これは、コミュニスト同士の相性の良さからなのかどうか知りませんが、ヨーロッパ全域の安全保障の根幹に関わります。

ギリシャ国民の皆さん、どうかこの方法だけはおとりにならないように。

2015年7月 6日 (月)

速報 軍艦島世界遺産登録 第2の河野談話の誕生

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韓国が凱歌を上げています。

「【ソウル=藤本欣也】韓国メディアは5日、「日本、強制労働を認定」(聯合ニュース)と報道するなど、韓国政府としては今回、歴史問題で譲歩しない姿勢を国内向けに強くアピールできたと考えている。
尹炳世(ユン・ビョンセ)外相は同日、「『歴史的事実はそのまま反映されなければならない』という原則を貫徹し、韓日両国が大きな対立を避けて対話により問題を解決できた」などと成果を挙げた。」(産経7月6日)

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「日韓の調整で最後までもめたのは、施設の一部で戦時中に朝鮮半島出身者の「強制労働」が行われたことを韓国が明確にしようとした点だ。5日の登録決定を受けた演説で、日本の佐藤地ユネスコ代表部大使は「日本が徴用政策を実施していたことについて理解できるような措置を講じる」と述べ、韓国側の主張に一定の配慮を示した」(時事7月6日) 

「世界遺産への登録が決まったあと、日本の佐藤地ユネスコ大使は『1940年代に一部の施設で大勢の朝鮮半島の人々などが意に反して厳しい環境下で労働を強いられた』としたうえで、『この犠牲者のことを忘れないようにする情報センターの設置など、適切な措置を取る用意がある』と述べました」(NHK7月6日 太字引用者)

今回の徴用工に対する表現は、またもや「意に反して強いられた」です。

かつて河野談話において不用意に使った「意に反して」という文言で、政府が「広義の強制連行」を認めてしまったのとまったく同じ文言です。

「勤労挺身隊」や「徴用」という、一定の年齢層に対して課せられた戦時の国民の義務が、暴力的強制連行と歪曲された慰安婦問題の構図まで酷似しています。

河野談話と比較してみましょう。

「慰安婦の募集については、軍の要請を受けた業者が主としてこれに当たったが、その場合も、甘言、強圧による等、本人たちの意思に反して集められた事例が数多くあり、更に、官憲等が直接これに加担したことがあったこも明らかになった」(太字引用者)
http://www.mofa.go.jp/mofaj/area/taisen/kono.html

まさに第2の河野談話の誕生です。

Img15319_15070602sato1(写真 審議会場の日本代表団)

さてそうでしょうか。ボンの投票会場における韓国代表の発言はこうです。
WoW!Korea 7月6日http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20150706-00000000-wow-int 

「(略)日本政府は、技術的・専門的見地から下された国際記念物遺跡協議会の勧告を尊重します。特に、その『解釈戦略(interpretive strategy)』を発展させていくことで、日本は同戦略が『各施設の全体の歴史を理解する』ことができるようにしてほしい、との勧告を忠実に反映しています。
より具体的には、日本は、1940年代にいくつかの施設で多くの韓国人と他の国民が、本人の意思に反して動員され、過酷な条件下で強制的に労働し、第二次世界大戦当時、日本政府も徴用政策を実施したという事実を理解できるようにする措置を取る準備ができています。
日本はインフォメーションセンターの設置など、被害者の記念のための適切な措置を『解釈戦略』に含める準備ができています。

日本政府は、議長と世界遺産委員国と、このプロセスに参加したすべての方々に、この遺産の『卓越した普遍的価値』を理解してくださって、登録のために親切に協力してくださったことで、深い感謝の言葉を申し上げます」(太字引用者)

「登録に協力する」どころではなく、まったく従来通りに主張を繰り返し、ほんの最後に言い訳ていどに「登録に協力してくれたことに感謝」していると付け足しているだけです。

欺瞞もいい加減にしてほしい。賛成ならば、すんなりと百済に対して賛成演説をした日本のように祝福すればいいだけです。

しかし、韓国代表団はあくまでも、「強制的に徴用した史実を理解できる施設を作ることを日本政府も認めた」ことが、賛成した前提だと言っています。

20140408_235677(写真 軍艦島。当時珍しかった高層アパート群が建ち並ぶ。劇場もあり、当時日本で最高の福利厚生施設を持っていた。給料も別格に高かったために、希望者が殺到した)

おそらく、前日の突然の韓国サイドの強制連行」非難に遭遇して、外務官僚は、「ここで持ち越しになれば、来年は日本委員がいなくなる、大変だぁ。経歴に傷がつく」と周章狼狽して、「意に反して」という文言で妥協を図ったのでしょう。

おそらく後に間違いなく、「広義の強制連行」と必ず言われる素地を作ってしまうことになることを外務官僚は 気がつかないのでしょうか。

いうまでもなく、徴用令は、日本人に対しても等しく施行された動員令で、いかなる強制性もありませんでした。

給料は一般より高く支払われていたし、当時の軍艦島は希望者が殺到するほど福利厚生施設が充実していました。

これで今や、この問題は言葉づらだけで新たに作られる軍艦島の記念施設に、「強制性」を入れるかどうかだけの問題ではなくなりました。

日韓外相会談の「約束」どおりならば、韓国も納得して妥協したという外務省の言い分も通るでしょう。

それは、国際社会に対して、最終的に韓国が自説の「強制連行」を引き下げたことを意味するからです。

しかし、韓国に最終投票会場でこのように言わせた後での登録となれば、まったく意味するものは違います。

それは、あくまでも日本が韓国の言い分を一方的に呑んで、軍艦島で「強制連行」があったという意志表示だと国際社会は理解するでしょう。

また韓国は、運動期間中には、軍艦島をなんと「アウシュビッツ」に例えていたことがわかりました。 

「関係者によると、韓国側は委員会でも激しいロビー活動を展開。「軍艦島」の通称で知られる端島炭坑(長崎市)をナチス・ドイツによるアウシュビッツ強制収容所と比較して、他国に理解を訴えたという」)産経7月6日)

Cjkflxiusaasevs_2(写真 韓国の反対運動パンフ)

またテレ朝は、韓国のロビー活動をこう伝えています。 

「明治日本の産業革命遺産」の世界遺産への登録に韓国などが反対している問題で、韓国が投票権を持つ国に渡した反対を要請する文書をANNが独自に入手しました。
 今回、入手した韓国側の文書は英語で書かれていて、投票権を持つ21カ国のうち17カ国に先月渡されたものです。
そこにはまず、日本が申請しているうちの7施設で、約5万8000人の韓国人が強制労働させられたことが紹介されています。
さらに、「この場所で、多くの韓国人が愛する家族のもとに戻ることができずに命を失いました。
強制労働と人権蹂躙(じゅうりん)の現場がまるで何事もなかったかのように世界遺産に登録されれば、まだ生存している被害者らが再び苦痛を受ける悲劇になります」などと書かれています。
そして、文章の最後は「正義が実現できるように韓国への支持を要請します」と結ばれています。
 一方、日本政府の内部文書によりますと、これまで投票権を持つ国のうち、日本の支持を表明しているのは12カ国にとどまり、登録決定に必要な3分の2の支持に届いていないことが明らかになっています。
投票国との交渉に関わる韓国政府関係者は「すでに12カ国が日本を支持したというのも疑問だ。
投票国の間には『韓国の主張の仕方のほうが合理的だ』という声が広がっている」と話しています」

http://news.tv-asahi.co.jp/news_international/articles/000052109.html 

 一方、日本は、韓国から足元を見られていました。韓国の反対を聞いた、日本代表団の声です。

「日本は『外相会談で握手したが詰め切らないまま、ふたを開けてみたらこうなったということだ』。日韓議員連盟関係者は4日夜、日本にとって「誤算」となった展開についてこう分析した。外務省関係者は「日本としては誠意を尽くしてきたのに』と嘆いた」
「5日の審査前には、『延期は最悪だ』と述べる日本政府関係者もいた。世界遺産の登録は全会一致で決まらなければ投票になる場合があり、来年は委員国に韓国が残る一方、日本が外れるからだ」(産経7月5日)。

つまり日本は、土壇場の投票会場に行くまで韓国側の動きを知らず、ユン外相との「妥協案」なるものを信じていたということになります。

そもそも、例によってお公家さん揃いの外務当局には、危機感が薄く、韓国の動きを知って動き始めたのが、この5月でした。

5月から慌てて、「危機感を募らせた日本政府は、外務省や内閣府などの副大臣、政務官らを世界遺産委員会の委員国に派遣し、多数派工作を始めた。同時に韓国側との妥協点を見いだすため、2度の外務省局長級協議を実施」(同)したというのです。

韓国はそのはるか以前から、ロビー活動をしていて、MERSの大流行をほったらかしにしてまでパク大統領が南米訪問をして、根回しに余念がありませんでした。

Wor15042521000032p1(写真 南米チリで演説する朴大統領。点滴を受けながら反日を布教してまわったというすごい執念。そのくらいの熱心さで経済対策やマーズ対策をしてほしい。4月22日ロイター)

そして「政府は杉山晋輔外務審議官を韓国に派遣して調整させた上で、6月21日の岸田文雄外相と尹炳世(ユンビョンセ)外相による日韓外相会談で一気に実質合意へと動いた」(同)わけてす。

おそらく、この岸田外相と韓国外務当局との詰めが信じがたいほど甘かったと思います。

000048384(写真 岸田-ユン外相会談。いったいなんの合意をしたのでしょうか)

通常の国家間交渉では「互いに協力し合う」という言葉は、相手国と自国が望むものをそれぞれ妥協して手にすることを意味するからです。

和の国の民である日本国民は、この私を含めてそう思ったものです。

そもそもこんなユン・ビョンセ訪日時の「約束」さえなければ、この登録はいつもの「対立」の延長で終わったことでしょう。

「ああ、またいつもの年中行事だな。投票で決着をつけるしかないのかな。そうしたらいいじゃない」、と。

日本側は外相会談における「合意」で、韓国が賛成票を投じるだろうと信じたのですが、これはあくまでも相手が「普通の国際常識を備えた国」の場合でした。

そして、うかつにも韓国がフツーの国ではないことを失念していました(苦笑)。

韓国にとっての対日外交とは、騙してもかまわない、どんな汚い手段を使ってもいい謀略戦の一形態にすぎないようです。

かくして、韓国は望みの,日本の国際的名誉の毀損に成功しました。 

しかし韓国にとって、この結果は高くつくでしょう。

なぜなら私のような中間派の日本国民の多くを、韓国を嫌悪する立場に追い込んだからです。

今週のどこかで出る世論調査を見たいものですが、嫌韓派が激増していることでしょう。

そして韓国さん、あらかじめ言っておきますが、、日本人はおとなしい民族ですが、いったん怒らせるとかなりしつこいですよ。

私たち日本人は、「愚直」という言葉が美徳として使われるほど誠実という徳目を好みますから、いったん裏切られたと知った時の怒りは倍返しになってそちらに返っていくことでしょう。

さて、改めて韓国さんに聞いてみたいものです。今、この経済も社会も外交もどん底の韓国にとって、日本を完全に敵にすることが果たして得策なのでしょうか、と。

今後、韓国経済に何が起きようと、わが国は笑って聞き流すことでしょう。

冬季五輪の支援ですって?わ、はは、ご冗談を。

韓国有事においては、米軍の韓国への出撃のための基地使用の拒否カードをちらつかせるでしょう。

その時は必ず言ってやりたいものです。「集団的自衛権は憲法で禁じられていますからねぇ」と(爆笑)。

ま、政府がそれをしようとすれば、国民の強い抵抗に遭遇することになるのは確かでしょうね。

政府はどうか知りませんが、日本国民は韓国を、まともに相手にするのさえ馬鹿馬鹿しい、「国家もどき」として認識しました。

この秋に予定されていたと聞く首脳会談は、この状況では日本国民がそれを許さないかもしれません。

それにつけても、日本という国の度し難いナイーブさよ。

日本は、このような世界遺産登録を捨てでも、原則を守るべきでした。別稿に回しますが、軍艦島はいかなる意味でも、「アウシュビッツ」ではありません。

これは慰安婦問題より、はるかに簡単に証明できることです。

しかし、日本政府はそれを国際社会に訴えないまま、また慰安婦問題と同じ轍を踏んでしまいました。

つい先日、韓国最高裁は三菱重工業の徴用に対しての賠償を命じる判決を出しました。これで、日本は軍艦島での強制性を認めたこととなり、訴訟が山ほど降ってくるでしょう。

日本にとっても軍艦島は高くつくことになりました。第2の河野談話を出すくらいなら、世界遺産がひとつ増えたことなど、まったくめでたくもなんともありません。

■お断り アップした後に、追加情報を挿入し、タイトルも変更しました。

■追記 ギリシャの国民投票はノーだそうです(爆笑)。もうどうすんのかね。世界遺産問題がなければ、これを記事にするつもりでした。やれやれ。

2015年7月 5日 (日)

日曜雑感 中国には統一戦略なんかないのかもしれない

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今週は仕事がすさまじい忙しさで(まだ現役ですぜ)、今日はなにやら頭からシューッとケムがでているような気分です。

しかし、我ながら、今週はミスタイプの山。今頃になってセッセと直しています。とほほの気分です。

すいません。忙しいのはいいわけにならないのは十分承知の上ですが、でもこういう所に出ちゃうんですね。

最近、とみに新聞は読まなくなりました。テレビのニュースも最低限にしています。イライラするからです。

沖縄で沖タイが1週間一面トップで言論統制反対をブチ上げたりとか、那覇で数百人が抗議集会なんて読むと、朝からゲソっとします。

必ずしもその主張の内容自体でもなく(もちろん異議ありですが)、その執拗さです。蒸し蒸しするんだから、ほどほどにしてね、という気分。

私が知っているウチナンチューたちは、サバサバした陽気な連中ばかりでしたが・・・。

沖縄を考えると正直、気が重い。ああ、いかん。

頂戴した島酒を飲んで元気つけて、と言いたいところですが、ただ今、禁酒中でした(涙)。

ところで、昨日記事を書いていて、中国の「21世紀の海のシルクロード」という壮大な戦略と、ギリシャ危機をリンクさせてみました。

自分で言うのもナンですが、鵜呑みにしないでください。

もちろん、中国がこのような戦略らしきものを持っているのは確かです。

ただし、だからといって、中国中南海奥の院で、「ムフフ、おぬし悪じゃのう」とか言いながら共産党要人たちがこう決めたというわけでもなさそうです。

というのは、中国という国の特徴は、右手と左手が別々なことをして、放っておくと右手と左手が大喧嘩を始めるという楽しさです。

左手は米国と宥和しようとして米国防長官を呼ぶと、右手はスティルス機の実験を目の前でやってのけて、おまけにそれを中国首脳が知らなかったという大爆笑の事件もありました。

あるいは、首脳がインドに訪問するや、中国軍が国境から侵入して小競り合いをするなんて、普通の国ではありえません。

こういうことは、党が軍を統制できていないということを表しています。

もちろん軍は命令が至上なはずですが、その命令系統自体の各所に、首脳部を困らせてやろうと考える集団が大勢潜んでいるわけです。

ま、だから、軍の独走による偶発戦争には注意せねばなりませんが。

確かに、古の孫子なんぞを紐解くと、100年単位の企みなどがゾロゾロと出てきます。

では、実際、このようにやっているのかといえば怪しいもので、孫子などの哲学は確かにあっても、それを具現化する大枠の外交・軍事戦略がないか、あるいはあってもグチャグチャなことです。

その理由は、中国においては、実は国内政治の延長でしか外交戦略を考えていないからです。

ですから、外から見ればドドンっという巨大な国家も、その内実はこのこのくぬくぬとばかりに各種勢力が文字通り生存を賭けて闘争しまくっています。

まさに現在進行形の習近平の汚職取り締まりなど、党争そのもので、これはかつての自民の内部抗争など可愛いものです。

ですから、習近平の意志は必ずしもダイレクトに軍事・外交に反映されません。必ず、カウンターで反対のことをしでかす奴が党にも軍にもうじゃうじゃいるからです。

そういうふうに割り引いて南シナ海や尖閣のことを、捉えたほうがいいと思います。

もし、翁長さんが、中国に行って、「オレには中国要人のパイプがある。那覇の中国公使館のあいつとは昵懇だ」なんて思っていて、独立に突っ走ると、あら不思議。

翌日にはその「要人」が、家族ごど労働改造所へと消えていたりすることになりますので、十分お気をつけくださいね。

■追記 韓国が世界文化遺産で、約束を破って反対に転じたそうです(爆笑)。
さすがはコリア!これで首脳会談もお流れですね。

それにしても、外相同士の政府間の約束する反故にするとはいい度胸です。世界にコリアの異常性を訴える結果になりました。
私は特にあの国は嫌いでも好きでもなかったのですが、これであの国を愛することができれば、そうとうにヘン。

日曜写真館 蓮の夏

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2015年7月 4日 (土)

倒産寸前のギリシャに食い込む中露の企み

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明日、ギリシャの国民投票が行なわれます。こまで煮詰まると、そんなにたくさんの選択肢があってたまるものではありません。 

ひとつは、チプラス首相が呼びかけている「ノー」です。チプラスさんは、例によってすこぶる強気で、「これで信任が得られれば、ユーロの債権鬼と十分に戦えるぜ」と言っていますが、根拠は不明です。 

0ec5e0e6(写真 応援に手を振るチプラス首相。チプラスは高校生時代から一貫して頑固な過激左翼活動家だった。欧米帝国主義からの解放という信念は一貫している。それ故、中露と相性がいい。こういう時期には、必ず左右の極端な政治家か登場する)

常識的に考えれば、これは自殺行為です。今までも再三煮え湯を呑まされている債権団は、これで「終わった」と考えて、その次のステップに行くはずです。

「ECB(欧州中央銀行)が、たっぷりと保有するギリシャ国債がデフォルト(債務不履行)に陥り、ECBはギリシャの銀行が支払い能力を失ったと判断するだろう。そうなると、銀行再開の道は2つしかない。旧通貨ドラクマの復活か、預金者の資金を一部没収して銀行資本に転換することだ。
その結果、銀行は閉鎖されたままになる。現時点で預金者は1日に60
ユーロの引き出しを許されているが、あと1週間もすれば現金は完全に底を突くだろう。
現実的には、政府は恐らくドラクマ路線を選ぶだろう。状況は混迷し、何年にも及ぶ法廷手続きを要するだろう。
経済は崩壊する。店頭では資金不足が露わになるだろう。だれもが現金での支払いを要求し、手に入れた現金は蓄えこむ。消費は急減する。企業は納入業者への支払いに行き詰まり、破綻する。ギリシャの最も重要な産業である観光業は、外国人のキャンセルが相次ぎ打撃を被る」(ロイター7月3日)
 

まぁ、以上が平均的な欧州各国の見方です。 

EUの「気分」を思い出して下さい。くたくたなんです。「もう一ユーロも出したくない、いい加減にせぇや、国民にこれ以上の負担を頼めるかって。自分の政権が倒れるわ」、これかECの空気です。

ECにできるとすれば、ドラクマに戻ってグチャグチャになったギリシャに対する「人道援助」くらいでしょうね。 

いいですか、EUが抱えている難題はギリシャだけではないのです。 

ウクライナを忘れてはいませんか。最近、停戦合意ができて少し内戦が鎮静化したので多くの日本人は一件落着か、と思っているようてす。 

とんでもありません。2月に結ばれた停戦合意の前に、ロシア軍と東ウクライナのカイライ軍はドネツク州の要衝デバリツェボを軍事的に征服してしまいました。 

R(写真 デバリツェボウを制圧した東ウクライナ民兵。ロイー2月18日)

「[キエフ 17日 ロイター] - ウクライナ国防省は17日、東部ドネツク州デバリツェボの一部地域を親
ロシア派が政府軍から奪ったと明らかにした。双方の間で市街戦が行われているとも説明した」(ロイター2月18日)

これで、ウクライナは事実上、西を実効支配するウクライナ政府と、東部を実効支配する親ロシア勢力によって二分されたまま、固定化されようとしています。 

プーチンの狙いは明確です。しょぼい東ウクライナなんかを領有したいからではなく、ましてや反露派の巣である西ウクライナを欲しいわけではありません。

ウクライナを分断して不安定化させて゛絶対にEU加盟をさせないことです。 

ウクライナがそれで経済がよくなった、西側の企業もどんどん来たね、ではプーチンのメンツが立ちません。 

ロシアかさんざん今まで金を貸したり、天然ガスをタダ同然でくれてやったり(実際には大量に盗まれていましたが)した恩を仇で返しやがって、ふざけるな、このファシスト野郎、というのがプーチンの本音です。 

ロシアは大国であることが出来なくなってしまいます。ですから、常に軍事的に揺さぶりをかけて、ウクライナが常に不安定化していることが大事なのです。 

だから、プーチンさんは平気で他国に軍を浸透させて、そこにカイライ政府を樹立させる工作をします。 

ですから、先日の記事で述べたように、これに危機感を持ったメルケルさんが、わざわざ日本に来て安倍さんから支援を取り付けたのです。 

安倍さんは1500億円の支援を約束し、ウクライナ現地に飛んで、そこからG7に向うというパーフォーマンスまで演じて見せました。 

ここまでやってくれれば、メルケルさんとしても本心はイヤなはずですが、日本の「特殊事情」を認めないわけにはいきませんでした。 

こうして日本は、北方四島返還交渉をするために、プーチンさんを日本に呼ぶことを、国際社会に認めさせたのです。 

外交にフリーライド(ただ乗り)なしとはよく言ったものです。国際社会では、常に貸し借りをしながら安定を保っているのです。 

さて、話を戻してギリシャです。実はここにもロシアと中国の触手が伸びていました。 

ロシアは、チプラス首相をペテルスブルクに呼んで、下にもおかないおもてなしをしました。 

そして渡した玉手箱には天然ガスのパイプライン計画が入っていました。これはかつてウクライナに対してとった手段とまったく同じで、ロシアは市場価格より安く提供することで、援助とします。 

逆に、ギリシャがナマを言えば、さっさとコックを締めてしまうことができるという、大変に使い勝手のいい「武器」なのです。 

Dd4000326f6abf7eb5d4427f48c4616f(写真 ペテルスブルク会談。まるで兄弟仁義みたい。チプラスかどこまでも着いていくぜ、と言ってそう)

一方、ロシアと「世界嫌われ者兄弟」の固い契りを結んだ中国も、しっかりとギリシャに食い込んでいます。 

「【北京=矢板明夫】欧州を訪問中の中国の李克強首相は29日、ブリュッセルで記者会見し、ギリシャ財政危機について、「ギリシャがユーロ圏に留まることができるか否かは、国際金融の安定と経済復興に関わる問題だ。中国は建設的な役割を果たす用意がある」と述べ、ギリシャ問題に積極的に関与する姿勢を示した。中国は、ギリシャを手がかりに欧州での存在感の拡大を狙っている」(産経6月30日)

2014年6月19日に、李克強がギリシャを電撃訪問しました。 

だいたいあの男が行くのは不純な動機です(笑)。李は、習政権のビジネス担当のような役割をしています。 

中国の武器を売るか、そこに商売の拠点を作るか、エネルギーや資源を買い占めるか、が目的です。 

ギリシャに対しては、約50億ドル規模の貿易・投資協定を締結することに合意しました。 

一時、ギリシャ政府が今回の2000億円をポンっと建て替えてやるぜ、と言ったとか言わないとかで、ギリシャ政府と中国政府の発表が食い違いましたが、いちおう中国は否定しています。 

「[北京 11日 ロイター] - 中国外務省は11日、同国がギリシャに支援を申し出たとするギリシャ政府高官発言について、支援の話は知らない、と述べた。(ロイター6月11日) 

しかしまぁ、たぶんそれに近いことを中国は言ったんでしょう。 

中国は、約1カ月後の7月13日に、習近平がギリシャ訪問し、さらに両国は15年を「海洋協力年」と決め、今春、北京とアテネで祝賀イベントを同時開催するそうです。 

このように中国の首脳があいついで訪問するのは、大変に異例なことです。

ここで中国が、「海洋協力年」と言っていることにご注意ください。 

22638df4(写真 ピレウス港。大規模なコンテナ埠頭基地であり、エーゲ海クルーズの拠点でもある)

ギリシャの二大産業は観光と海運です。今のケネディ大使の母親の夫になったオナシスなんて大富豪かいたでしょう。 

海運をのぞいたら、パルテノン神殿しか残らないというのが、今のギリシャです。 

そしてこの海運だけが、ギリシャで唯一の成長産業です。その中心地がピレウス港で、そして李が訪問したのもこのピレウス港です。 

133424947_14033134159001n(写真 新華社アテネ6月21日 ギリシャ訪問中の中國の李克強総理は現地時間20日午前、同國のサマラス首相と共にピレウス港の中國遠洋運輸集団(コスコ)が運営するコンテナふ頭を視察した) 

ここに既に中国は、専用コンテナ埠頭を持っています。 

コンテナの取扱量で世界6位を誇る中国営コスコ・グループ(中国遠洋運輸集団)は、2008年に49億ユーロを投資して35年の運営権を獲得して、さらに資本も51%所有していますから、いわば現代版の租借地といえるかもしれません。 

ピレウス港は今や観光が落ち込んで火の消えたようなアテネと違って、活況を呈しているそうです。 

中国はここに物流拠点を構えることで、中国との海運輸送を、今のオランダ・ロッテルダム港、ドイツ・ハンブルク港経由より10日間以上短縮できるとみています。 

また、ピレウス港だけでは止まらず、アテネ国際空港、鉄道網、クレタ島の空港などの国有財産にも眼をつけています。 

チプラス首相は、今後国有財産の投げ売りを始める予定でいますから、中国がギリシャの港湾、鉄道、空港などを爆買いするとみられています。 

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このように、中国はギリシャ危機につけ込んで、「21世紀の海のシルクロード」構想における、ヨーロッパ側ターミナルを作ろうとしていると考えられています。

しかし、かつてのシルクロードが香料と共に火薬の原料を運んでいたように、中国の意図は軍事進出も視野に入っています。

大航海時代のスペイン・ポルトガルよろしく、中国の算盤は後ろからの軍事展開が追いかけてきます。

おそらく、中国海軍はスプラトリー諸島の要塞化が終われば、宿敵のインドを海から包囲し、さらにアフリカ東海岸から、中東、地中海へと覇権を拡大していくのでしょう。

その終点が、このギリシャなのです。そして、ここを拠点として、ロシア黒海艦隊と合流し、地中海へと触手を伸ばす、これが習近平のいう「中国の夢」なのです。

長くなりましたので、今回はこれまでにしましょう。 

2015年7月 3日 (金)

ギリシャが強気でいられるわけ ロシア

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シプロス首相は、国民に向けて国民投票での否認を呼びかけました。

またギリシャ財務相が、「もう国の輪転機を壊したからドラクマ札は刷れねぇぞ、諦めてさっさと支援するきゃねぇっしょっ」とスゴんでいます。

「【アテネ時事】ギリシャのバルファキス財務相は2日、国内にはユーロに代わる紙幣を印刷する輪転機がなく、「通貨を発券する能力はない」と説明した。オーストラリアのABC放送での発言として、AFP通信が報じた」(7月2日時事通信)

一方ユーロ側は、「ふざけんじゃねぇ国民投票なんて、欧州議会の基準を満たしていないから無効だ」と怒っています。

「【ブリュッセル】ギリシャが5日に実施する国民投票に対し、予告期間が短すぎて欧州の基準を満たしていないと欧州評議会が警告する一方、投票の対象となる文書の翻訳に間違いがあるとメディアが指摘するなど、厳しい監視の目が注がれている」ウォールストリート・ジャーナル7月2日)

ギリシャのユーロ離脱(Grexitと寸詰めて呼びますが)、輪転機なんてもんじゃなくで、実際やるとなると大変です。

読み込み済みとはいえ、南欧への連鎖は計り知れないものがあり、ユーロシステム全体の根幹にかかわるかもしれません。

むしろ、余裕をこいているのは、ギリシャかもしれません。

Greece2thumb450x27962804_2(写真 苦境を楽しむチプラス首相とバルファキス財務相。この御両人は午後は昼寝と余暇に当てているという。ウソ。しかしドイツ人がムっとなるワンショットではある。ノーネクタイだが、別に夏だからというわけではなく、年中、どこに行くのもこのカッコ。ユーロに金借りに行くのも一緒。素敵との女性の応援も多い)

このギリシャの妙な余裕はなんでしょうか。理由は簡単。保険をかけてあるからです。

まずは、ギリシャとその周辺地域の地図を見て下さい。

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ギリシャは西の端に見えますが、ギリシャが、トルコと並んで黒海に蓋をする位置にあるのが見えるでしょう。

その黒海には、地図東端に、そうあのクリミア半島があります。半島突端にあるのが、ロシアが軍事介入して、世界中の嫌われ者になることも辞せず死守したセヴァストポリ軍港が見えます。

この軍港を、ロシア最大の黒海艦隊は母港としています。ここから、エーゲ海を抜けて地中海に出張って、ヨーロッパににらみを効かせるのがロシアの軍事戦略です。

Img_0(写真 セヴァストポリ軍港のロシア黒海艦隊)

そもそもギリシャは歴史的に、ゲルマン(ドイツ)とスラブ(ロシア)の狭間で生きてきました。

もう少し大きなヨーロッパ地図を見てみましょう。

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アテネ-ベルリン間の距離は2400キロ、アテネ-モスクワ間がく3000キロです。みごとドンピシャで真ん中に位置するのがわかります。

ヨーロッパ大陸の二大勢力であるドイツとロシアという覇権国家に挟まったギリシャは、それ故にぐるりを海で囲まれたわが国が味わったことがない苦労をしました。

ある時は、どちらかの勢力の侵攻ルートに位置し、ある時は緩衝地帯にされました。通り道か、ブロック塀ですから、日本人のようなナイーブな天然ボケでいられるはずがありません。

「友愛」なんて言っていたら国が滅びます。現実に、近代までのギリシャ史は亡国の歴史でした。

ようやくトルコから独立したものの、第二次世界大戦中はドイツとイタリア(真横ですね)に軍事侵攻され、二度もはねのけたが敗北して占領され、やっと戦争が終わってホッとしたと思えば、今度は内戦に陥りました。

しかも、内戦は片や共産側には ユーゴスラビアとロシアがつき、片や自由主義陣営側には英国と米国がつきました。

まさに絵に描いたような代理戦争です。単純にギリシャが可哀相と思ってはいけませんよ。

お互いに自分と親和性のある勢力を国内紛争に呼び込んだともいえるのです。その意味で、大国が巻「き込まれた」とも言えます。

この構図は朝鮮戦争にも通じる性格で、朝鮮戦争は金日成の野望から始まっています。小国のしたたかさというと褒めすぎで、狡猾さと言ってやるべきでしょう。

内戦の結果は、共産側がスターリンの誤った軍事指導によって壊滅しています。

その結果、ギリシャはNATOに属し、ロシアの柔らかい下腹である黒海の入り口を塞ぐ「ブロック塀」の役割を果たして、その見返りとして、国力以上の軍隊と、これまた国力をはるかに越える社会保障を外国の援助で与えて貰えることになったわけです。

ただし、国内には共産勢力が根強く残り続け、社会主義政権も誕生させています。今のシプラス政権は、その中でも最も左寄りと言われているようです。

このようにして、経済はユーロ、軍事面はNATOに属しながらも、ギリシャはしっかりと「保険」をかけるだけの担保を残していたのです。

その保険の相手は、いうまでもなくロシアです。

2015年1月に急進左派連合が政権を獲得するやいなや、ロシアに積極的に接近を開始しました。

これは、ひとつには心理的当てつけです。厳格な女教師よろしく緊縮財政を迫るメルケル・ドイツに対して、「いいもん。プーチンさんは優しくしてくれるし」という所を見せたかったのです。

ガキか、と思いますが、あんがい国家外交というのは、こういうメンタルな要素が抜ききれないのですよ。

というわけで、今や、ギリシャとロシアは蜜月です。

As20150620000315_comm(写真 215年4月8日。ペテルスブルクで会談するシプロス首相とプーチン大統領。相性がよさそうだ)

今年の4月には、シプララス首相はペテルスプルクで、プーチンと会談し、天然ガスパイプラインについて合意を得ています。

「[モスクワ 8日 ロイター] - ギリシャのチプラス首相は8日、訪問先のモスクワでロシアプーチン大統領と会談し、ロシアによる提携強化に向けた確約を取り付けた。
ただ、両首脳ともにギリシャは
ロシアに金融支援を要請していないと言明。プーチン大統領は欧州連合(EU)の対ロシア制裁への対抗措置の一環として導入している農産品の禁輸措置について、ギリシャのみを例外として解除しない方針を示した。
クレムリンでチプラス首相との共同記者会見に臨んだ
プーチン大統領は、「ギリシャ側から支援要請の話は出なかった」とする一方、「エネルギー部門を含む経済のさまざまな分野での協力について協議した」と述べた。
両首脳が協議した提携案件の1つが、
ロシア産天然ガスを黒海経由でトルコに供給するパイプライン、「ターキッシュストリーム(TS)」をギリシャまで延長する計画。
チプラス首相はこれについて、「トルコとの国境から天然ガスをギリシャ本土に運ぶパイプラインの建設事業に関心を持っている」と述べた。

プーチン大統領はまた、協議されているエネルギー関連プロジェクトにロシアが融資することも考えられると指摘。ロシア企業がギリシャの民営化プログラムに関心を寄せる可能性もあると述べた」(ロイター2015年4月8日)

このように公然ともっともドイツか嫌がるプーチン・ロシアにすり寄り、両天秤をかけて有利にことを運ぼうとしています。

なにか既視感があるなぁと思ったら、クネさんの二股外交にそっくりですが、地政学的に似た位置にあるからでしょうか。

それはさておき、チプラスはこのプーチン会談で、国有資産をロシアに売却すること念頭において貸付を要請したと言われています。

ロシアからのパイプラインを通して、安く天然ガスが貰うことも手筈が整ったようです。

そして、なによりユーロからの脱退とj同時にNATOからも脱退し、ギリシャに港を貸して、ロシアのグリミア占領を助けるという仰天のシナリオも、あながち否定できない様相になってきました。

いずれにせよ、ギリシャからすればどちらにつこうとどうでもいいと内心思っているはずで、今後もいっそう露骨にロシアカードを使っていくことになるでしょう。 

2015年7月 2日 (木)

改めてメルケルさん訪日の理由を考えてみよう

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メルケルさんがこの3月に日本に来ました。なにをしに来たのか、正直なところよく分からなかったと思いませんでしたか。 

前回来たのが2008年の福田康夫首相の洞爺湖サミットの時ですから、なんと7年ぶりです。 

これほど来なかったのは、メルケルさんがおそらく世界で間違いなく最も忙しい政治指導者であることです。 

ご存じのように東にウクライナ、南にギリシャ、そしてその後を追いそうな西のスペインに囲まれています。 

忙しいのに、わざわざ懸案がない日本に来るのはなんででしょう。え、中国には毎年来ているって。 

メルケルさんが中国に行くのは、VWの中国進出のような純粋なビジネスです。

ですから、商売上のうまみがない、いやむしろ、世界で最も張り合っているライバルの日本に来る必要がなかったのです。 

となるとビジネスではありません。この時、メルケルさんは、日本に非常に気をつかっていました。 

韓国は、尊敬してやまないメルケルさんに「過去に向き合え」という発言をしてもらいたくて、手ぐすね引いて待っていました。 

日本のマスコミ連中も、来た意図などそっちのけで、憎きアベを叱ってほしくて、そんな誘導質問ばかりしていたものです。

Omerkelfacebook(写真 来日したメルケル首相。ハフィントンプレス3月16日)

メルケルさんが案の定、講演の会場を朝日新聞ホールに選んだ時には、私もありゃりゃと思ったものです。 

よもや、歴史認識を批判するために7年ぶりに来るわけがないので、おやおやと思ったことをおぼえています。 

「9日の講演では、第2次大戦が終結した45年5月8日を「ナチスの暴虐からの解放の日だった」とするいわゆる「ワイツゼッカー・テーゼ」を表明した上で、「苦しみを欧州へ、世界へと広げたのが我が国であったにもかかわらず、和解の手が差しのべられたことを決して忘れない。まだ若いドイツ連邦共和国に多くの信頼が寄せられたことは幸運だった。こうしてのみ、ドイツは国際社会への道のりを開くことができた」とだけ述べ、フランスをはじめとする周辺国の善意をことさら強調してみせた。
従来、ドイツの政治階層は、戦後のドイツは近隣国との和解の努力を積み重ねてきたと自画自賛するのが常なのだが、メルケル演説ではそうしたくだりは鳴りを潜め、周辺国から和解の手が差しのべられたという謙虚な歴史観が披露され、日本を刺激しない配慮が施されていた」(ハフィントン・ポスト3月16日)

 そしてこれまた案の定、韓国サイドから「日本は過去を直視すべきだ」とメルケルさんが述べたという報道が上がった時には、電光石火で駐日ドイツ大使が否定しました。
※関連記事 http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/03/post-1314.html

つまり、この講演記録を冷静に吟味して読めば、常日頃のドイツ人が胸を張る、「ナチスの犯罪を清算したドイツはエラかった」ではなく、むしろ「ウチが侵略した国々の皆さん、優しく受け入れてくれてありがとうね」というニュアンスです。

いわば、戦後の国際秩序がメルケル講演の肝なのです。 

このメルケルさんの発言の微妙な変化は、安倍さんとの親密なパートナーシップにも現れていました。 

クネさんは、失神せんばかりに羨ましかったでありましょう(どうでもいいですが)。 

今回のG7でも、議長国のメルケルさんは、徹底して安倍氏に花を持たせています。 

というか、メルケルさんが「今後の世界は、オバマの米国がアテにならないから、日独でガンバルっきゃないわよ」と言っているようにも聞こえました。 

この変化は、大変に重要です。 

20140301114000rosiagunn(写真 2014年3月。クリミアに侵攻したロシア軍。この後に住民投票を強行し、分離独立させ、ロシア領に編入してしまった。そして東ウクライナ2州でも同じ手を使って、ロシア軍を浸透させた。これと似た方法は、沖縄で中国がとる可能性があるのでご注意)

ひとつには、なんと言っても、ウクライナ問題です。

ロシアがウクライナに軍事侵攻し、クリミア半島と東ウクライナを簒奪したという事件は、あらためて「他国に軍事侵入することは国際秩序の破壊だ」という、新たな国際原則を確立しました。 

この旗振りをしたのが、他ならぬメルケルさんです。

そして、今アジアにおいて、ロシアと同盟関係を持ち、南シナ海や東シナ海で公然と軍事膨張を続けているのが、中国です。

ドイツと日本は、このロシアと中国の軍事膨張を阻止するというテーマにおいて、完全に一致した利害を持つのです。

メルケルさんは、ウクライナに対する経済支援を安倍さんに要請したと思います。

これは、いくら中国が重要なビジネスパートナーだからといって、習近平に持っていけるテーマではありません。

「他国への軍事侵入は許されない。ウクライナのために支援をして下さい」とメルケルさんが習に言ったとしましょう。

習は、「ウクライナにロシアが介入している明確な証拠がない」とかなんとか言って、拒否するはずです。

結局、世界で価値観を共有する主要国で、しかも経済援助が可能で、しかもそれを出せるだけの強い政権基盤を持つなのは日本しかないのです。

安倍さんはこれに応えて、直ちにウクライナ支援を打ち出しました。そして、ウクライナ支援でG7をまとめる約束もしました。

C03fd54ab89f16e0c4d926(写真 6月6日 安倍首相ウクライナ訪問。ポロシェンコ大統領との儀仗兵閲兵式典。ポロシェンコはそうとうに問題あるキャラだか、そんなことを言っている場合ではなくなった)

在日ウクライナ大使館は、こうプレスリリースしています。
ウクライナに最大1500億円支援 日本 - 大使館のニュース・新着情報

「ウクライナ支援については,同国の経済安定化のためG7が一致団結していくことを確認し,日本として,最大で1500億円(約15億ドル)の支援を行うことを表明した。日本の支援に対して,多くの国々から高い評価を得た」

そして先だってのウクライナ訪問で、現地においてウクライナ政府にそれを申し出ています。

ウクライナに貸した金は戻ってきません。そのことは日本国民は肝に銘じるべきです。これは国際秩序維持に対するコスト分担なのです。

メルケルさんは、ウクライナと南シナ海・東シナ海で、世界秩序が崩壊しかかっているという強い危機感を持っています。

そして、今までそれを欧米で支えてきたのですが、この秩序維持のための財源が枯渇しているとも思っています。

いや、正確には金自体はあるにはあるのですが、ギリシャの終わりなき垂れ流し支援によって、すっかりドイツ国民を先頭にして、ヨーロッパ人全体が嫌気が差してしまったのです。

米国も一緒で、特にオバマになってからというもの、すっかり内向きのヒッキー状態です。

2014032301203107f(写真 米国史上類例のない存在感の薄さ。G7でも「え、いたんだっけ」状態)

つまり、世界秩序の柱だった米国とヨーロッパがすっかり、支援疲れでくたびれ果ててしまったのです。

今やヨーロッパ各国は、「そんな底が抜けた桶に水を注ぎ続けるより、自分の国の福祉や雇用をどうにかしろや」という「気分」になってしまっています。

となると、今の世界を見渡して日本以外に、「自由社会」「市場経済」という価値観が一致して、国際秩序維持に力を貸してくれそうな国ってどこかありますか。

というわけで、今回のギリシャ危機に対しての西欧の「気分」は、まさに厭戦気分といったところです。

「ああ、もううんざりだ、もういいや~。勝手にしやがれ」、という悲鳴に似た空気です。

といっても、ユーロシステムにいかに本質的欠陥があろうとなんだろうと、ガラガラと積み木崩しをするわけにはいきませんから、なんらかの支援をすることになるでしょう。

その時に、またもやメルケルさんからすがられるのは、わが国しか残っていないということは考えておいたほうがよさそうです。

 

2015年7月 1日 (水)

ドイツとギリシャの切るに切れない関係とは

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ギリシアは、IMFの債務不履行になりそうな寸前に新たな支援を申し入れたそうです。 
※追記 拒否されたようです

「欧州連合(EU)の対ギリシャ金融支援が欧州中央時間の1日午前0時(日本時間1日午前7時)で失効するのを前に、EU側とギリシャ政府は30日、失効の回避に向けてぎりぎりの調整を続けた。ギリシャは2年間の新たな支援と債務負担の削減を提案、ユーロ圏の財務相は同日夜(日本時間1日未明)に緊急の電話会合を開くことを決めた」(産経7月1日)

 IMFは、5日に予定されている、ギリシャの国民投票までは、デフォールトを宣言しないと見られています。 

たぶん私は国民投票がどちらに出ようと、膠着した状況が続くと思っています。 

というのは、ユーロ・システムは生ぬるい風呂みたいなもので、お湯が熱くなれば、死なない程度の支援を与え、水になりそうなら、緊縮財政要求でお湯を沸かすという繰り返しをしているからです。 

結果、ユーロは常に不安定で、ほかの国際決済通貨のドルや円に対して安値を維持できるからです。 

Ntsiprasmerkellarge570(写真 メルケルとチプラス。ホストクラブに初めて行ったオバさんのようにみえる。メルケルさん、ごめんなさい)

この最大の恩恵を受けるのは、メルケル・ドイツです。 

こんなユーロ危機すら、ドイツに有利に働くのですから、そもそもユーロ・システムは、ドイツにとってもっとも都合よく作られたシステムでした。 

ギリシャがなぜこんなに大枚の借金を作ってしまったのかといえは、もちろん「エーゲ海の愚者の天国」といった自業自得の部分が多いのですが、それだけでは理解は半分です。 

では、なぜ「働かない」のに、どこから食料や工業製品が来るのかと言えば、これまた考えるまでもなく地域最大の工業国にして、世界有数の輸出国&地域覇権国のドイツからです。  

つまりヨーロッパでは、「ボク作る国・キミ買う国」と、きれいに二分解してしまいました。

ドイツの貿易のプラスは、そのままギリシャのマイナスという、分かりやすい凸凹構造が成立していたのです。 

経常赤字国の場合、支出が収入を超えているので、支払いは海外から借り入れるなどして資金を調達する必要があります。  

なぜ、ギリシャが輸入超過になっていても平気だったのかといえば、ギリシャ国民の面の皮が厚かっただけではなく、ユーロ内の外国が国債を買い続けてくれる限り、貿易赤字がどんなに膨らもうと「大丈夫」というカラクリがあったからです。

ギリシャはユーロ各国の銀行などから借りた金で、就業人口の6割もいる公務員の賃金を払ったり、ドイツより高いと言われる年金の55歳支給などしていたわけてす(笑)。

かくしてギリシャは、ヨーロッパでは「最後のソ連型国家」と皮肉られています。

これが、「エーゲ海の与太郎」と呼ばれる(私が呼んでいるだけですが)ギリシャの秘密でした。

当然のこととして、ギリシャ国債の所有者は、独仏などのユーロ諸国が金融機関が70%を占めています。 

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ところで、こんなギリシャみたいな「永遠のキリギリス」などは、通常の2国間貿易ではありえません。  

それは為替レートという、国際金融経済の自動調整メカニズムが作動するからです。  

共通通貨でなければ、一方の国の経常収支の黒字がひたすら積みあがって行く場合、その国の通貨の価値はどんどん上がっていきます。  

それは、貿易黒字国の通貨のほうが安定していて信用できるからね、と国際為替相場は考えるからです。 

だから買われて、高くなるというふうに為替は動きます。マルクなどは典型的にこういう「信用できる通貨」の筆頭でした。 

するとどうなるかといえば、はい、そのとおり、マルク高でドイツ製品は競争力を失ってしまいました。 

これは最近までの日本の円高を思い出せば、おわかりでしょう。いくら性能が良くても、他国製品より2割3割高いと勝負になりません。

トヨタがあろうことかヒョンダイに負けるという、ありえない逆転現象が起きるわけです。

また、国内で作るより、通貨が安い国で作って輸出するほうが安く販売できるので有利になります。すると、起きるのが、外国への工場移転です。

企業は単に安い賃金を求めて外国に工場移転するのではなく、為替レートが安い国の製品で輸出したほうが、競争力が上がると考えたのです。

すると、国内の工場は閉鎖されてぺんぺん草が生えるようになります。日本はこの地獄を15年間もイヤというほど経験しました。 

このような現象は、ドイツも一緒でした。ドイツは人口が8千万人程度で内需の引きが弱いので、貿易の対GDP比率は40%という馬鹿な依存率になっていました。

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(図 2007年のGDPに対する貿易依存度)

ですから、ドイツが独自通貨を維持していた頃には、マルク高は常態化して、ドイツの悩みでした。

逆の現象は、ドイツの輸出の受信装置と化していたギリシャで起きました。

ギリシアはドラクマだった時代には、貿易収支・経常収支赤字が積み上がっていくために、通貨の価値が下がっていってき、ドラクマ安になりました。

と、まぁこのようなマルク高、ドラクマ安によって、ドラクマは国際競争力を次第に回復して、黒字化することが可能でした。  

ところがユーロは、あくまでも「みんなの通貨」(共通通貨)ですから、ギリシア一国の経済に関係なく、他国の貿易収支を加えてガラガラポンにする仕組みです。  

これはマルクでいるよりも、ドイツにとって圧倒的に有利なシステムでした。慢性リウマチのように、ドイツを苦しめていたマルク高が治ってしまったのです。

Img_6bb5bc55738573c41a0af5f70c8d680(写真 ユーロ紙幣を燃やすギリシャ国民。まぁ、ドラクマに戻るというのも手ですが、この人はそんな痛そうな解決を求めていないと思うぞ。こういうすねて暴れて、反独を叫んで、支援をとりつけるというのがエーゲ海の与太郎の常道でした。ちょっとコリアに似ていないこともない)

しかも、ユーロ圏を「ひとつの国」として見立てたために、国境がなくりなりました。

ヒト、・モノ・カネが自由に往来するというグローバリズムの天国ができたのです。

ユーロにより、各国の自主関税という障壁がなくなりましたから、ドイツは嬉し涙にかき暮れたことでしょう。 

このようにドイツは、自らが作ったユーロ・システムによって、ユーロ安、無関税という利点を最大限浴びて、南欧圏、特にギリシャへの怒濤の輸出ができたうま味を存分に味わってきたわけです。 

それが、上の図でわかる異常なまでの輸出依存度です。 

2013年度はドイツは40.%。同じユーロ圏でもフランスが、その半分の21%にすぎないことを考えると、いかにドイツが内需ではなく、輸出にだけに頼った国なのかわかるでしょう。 

ちなみに日本は、14.5%です。よく日本の貿易収支が赤字になった、日本経済崩壊が始まったという人がいましたが、貿易の占める対GDP比率はそんなていどなのです。 

赤字になったのは、原発を止めているためにエネルギー輸入の過剰という現象が起きたからにすぎません。 

わが国の強みは、内需と輸出のバランスが取れていることです。それを忘れて、バニくらないように。

14354349660001_2(写真 ないカネは払わないぞぉ、と気勢を上げるチプラス・ギリシア首相。うそ。しかし、ほんとうに潰すなら潰してみやがれと意気軒昂) 

それはともかく、この輸出依存大国・ドイツにとって非常に都合がいいシステムこそが、ユーロ・システムだったいうわけてす。 

それもとうぜん、ドイツがドイツのために作ったんだもん(笑)。

これが、ドイツがギリシアを甘やかし続けてきた、他人には言えないお家の事情だったというわけです。

ドイツにはギリシャが必要であって、それはユーロを維持するために必須条件だと考えているはずです。

だから、ギリシャはそのドイツの腹を読んで、グダグダと「解決をしないという解決法」を選んでいるわけです。

結果、ユーロは不安定になり、いっそうユーロ安は進行するでしょうが、これはドイツにとって願ったり叶ったりです。またまたドイツ製品は安くなるぞ、というわけです。

ユーロは、このような強い相互依存が制度化したものですから、こんな状況はとうぶん続くように見えます。

次回も続けます。 

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