日曜雑感 日本には他国への「侵攻能力」などない
コメント欄の議論について、いちおう私の意見も書き添えておきます。
結論から言えば、現在の自衛隊には他国への侵攻能力はありません。それは、戦力を外国に投入する能力がないからです。
その能力のことを専門用語で、戦力投射能力といいますが、戦力投射能力(パワープロジェクション)とは、俗に言う他国への「攻撃能力」、あるいは外征能力のことです。
もっとあからさまに言えば、他国への侵略能力のことです。
侵攻する国に、多数の兵員と武器弾薬を送り込む能力、あるいは、核ミサイルを撃ち込む能力です。
細かく見ていきましょう。「侵攻」兵器として、国際的に認知されている兵器は以下です。
●戦力投射能力として、国際常識上分類される兵器
①原子力空母とイージス艦、攻撃型原潜によって作られている空母打撃群
②戦略ミサイル原潜。核ミサイル登載
③C17やC5など戦略大型輸送機
④強襲揚陸艦
⑤大陸間弾道弾(ICBM)・長距離大型爆撃機(共に核兵器登載可能)
⑥海兵隊
⑦空軍の攻撃機、電子戦機、空中警戒管制機などで作る打撃群(ストライクパッケージ)①を有しているのは、米国、フランス、英国。中国、インドは保有しているが能力不足。ロシアも同じ。日本と韓国、ヨーロッパ諸国などはイージスのみ。
②を有しているのは、米国、フランス、英、中国、ロシア
③を有しているのは、米国、ロシア
④を有しているのは、米国、フランス
⑤を有しているのは、米国、ロシア、中国、英国、フランス
⑥は多くの国で持つが、本格的な遠征打撃群は、米国のみ。近いものはロシア、中国、海兵隊の元祖英国。
⑦を有するのは、米国、英国、NATO。他の国も個別には保有するが能力不足
すべてがP5(常任理事5ヶ国)で、いずれも外征型軍隊です。それ故、彼ら同士の衝突で国連が機能しなくなっています。
ただし、山形さんが言っているように、①~⑦までのいずれか一隻だけもっている、一発だけある、オレは一機買ったというのでは、「戦力」としては国際的には認知されません。
戦力はあくまで一定数なければ、現実に機能しないのです。
たとえば空母打撃群なら3セット必要です。作戦航海-休養・修理-訓練航海と3ツのフェーズで回転させないと、艦も乗員ももたないからです。
したがって、中国のなんちゃって空母・遼寧は、今のところ、打撃群もどきにすぎません。
また、すべての兵器に言えることですが、これが攻撃用、これが防衛用という区分けはナンセンスです。
たとえばもっとも普遍的な武器であるライフル銃は、攻撃にも防衛にも使えます。
なんのことはない、武器はつまるところ、使う政治家の問題で、どちらにも使えてしまうのです。
ただし一般的に見て、①②⑤⑦は「攻撃力」に強く傾いていて、他には使い道がないとは言えるでしょう。
(写真 米海軍空母打撃群。こういうのを言葉の正確な意味で「空母」と呼ぶ。いかに多くの艦船群によってなりたつのかわかる。人員も約7000人に登る。米国はこれをなんと12セット持っているのだから、むしろ呆れる。ただし予算不足で、稼働しているのは3セット)
日本の場合、①から⑦まで、その全部に欠けていますし、その意志も能力もありません。持っているのはイージスだけです。
頂いたコメントに、「侵略に転用できる兵器には抵抗感がある」とのことでしたが、そういう言い方をするなら、先にも言いましたが、小銃も侵略に転用できます。
要は、運用思想(ドクトリン)、すなわち政治の問題なのです。
もし本気で外征型軍隊を作る気なら、改憲して、国防予算を今の5倍ていどにするしかありません。
当然、そのための財政的手当てのために、増税を図らねばなりませんから、消費税を20%、30%にして、またデフレに戻りたい人だけが夢想してください。
かつての帝国海軍は、国家予算の6割をつぎ込んでいました。予算を独り占めにしたために、国民は貧しく、陸軍は常に海軍を憎悪していました。
現代において、そのような「攻撃力」を持つ意味はまったくありませんし、そもそもこんなことをしないために、日米同盟があるのです。
ですから、日米安保フンサイなどという共産党は、実は隠れ軍国主義者なのではないかと、私はにらんでいます(笑)。
どうもこの全通甲板があるだけで、右も左も幻想を持つよう ですが、単に離島防衛と対潜水艦作戦用に特化した艦種にすぎません。
三橋貴明氏は戦艦大和より大きいと喜んでいましたが、艦艇は長さではなく、排水量で比較するのです。
このていどの常識しかない人に、「空母が欲しい」などと言ってほしくはありません。
また朝日は「大戦中の空母より大きい」と書いて、「軍国主義の足音」を聞いたようですが、現代の艦上機は、当時のものよりはるかに大きいので比較すること自体がナンセンスです。
「いずも」がヘリ空母だろうと、F35Bが運用できる可能性があろうと、本質的にこの戦力投射能力として見た場合、まったく無意味です。
「いずも」、「ひゅうが」、「いせ」などの全通甲板を持つ艦は、あくまで対潜水艦作戦と、離島防衛にのみ特化した艦種にすぎません。
全通甲板というのは聞き慣れない言葉ですが、、艦艇の上が真っ平な飛行甲板を持つ艦艇のことで、航空機やヘリが離発着できます。
今、建設中の水陸機動団も、離島防衛以外に考えていませんし、それ以上の能力もありません。
第一、たった3000~4000人の規模で、侵略しにいったら100%返り討ちに合います(苦笑)。
そもそも、航空優勢(制空権)がない地域に、「海兵隊」という軽武装の軍を送り込んでも、フルボッコにされるだけです。
ですから、米海兵隊は、電子戦機を含む航空機、強襲揚陸艦、オスプレイなどというフルセットを独自に保有しています。
ややっこしく見えるのは、外見的には自衛隊に、空母、海兵隊、強襲揚陸艦という、「戦力投射能力」セットがあるように見える装備が一部にあることです。
繰り返しますが、わが国には、他国に侵攻する能力は皆無です。「侵略」にはまったく役不足で、せいぜい離島防衛ていどに限定的に使える程度の能力です。
仮に「いずも」にF35Bを登載してもせいぜい数機ですから、そのようなものは離島防衛の時の、警戒・支援任務ていどに使えるだけにすぎません。
アジア諸国の専門家は、それを理解しています。自衛隊も「いずも」と命名した時に、「かが」「あかぎ」などを選ばなかったのは、他の艦種からの転用空母という誤解を与えたくなかったからと言われています。
そのくらい、自衛隊は慎重にしているのです。海上自衛隊は、対潜水艦能力・潜水艦戦、そして掃海だけが世界一で、あとはないに等しい片務的構成になっています。
これは、米第7艦隊とセットになって、機能するのが前提だからです。
全自衛隊でみると、空自も防空だけに特化し、陸自は今まで離島防衛能力すら遠征能力と批判されるのをおそれて、有していませんでした。
これが原因で、悪く言いたい人には右も左も揃って「米国に従属的」と批判しますが、他国への攻撃能力など持たないのが国是ですから、当然のことです。
憲法うんぬんの前に、私はそれでいいと思っています。
といっても中韓はうるさいことこの上もありません。韓国など自衛艦旗をナチスの旗と同じと、もう天文学的にパーなことを言う始末です(爆)。
そういいながら、自分は北朝鮮に対する防衛にはいらない強襲揚陸艦の「独島」(なんつう挑発的ネーミング)を保有しているのですから、笑ってしまいます。
財政破綻しているのに空母も欲しいそうです。何に使うつもりでしょう。大丈夫ですか、この国の脳味噌。そうとうに腐っています。
中韓とも、自分のことは棚に上げて、日本を「軍国主義」呼ばわりするのは止めてほしいものですが、中国は分かっていて騒いでおり、韓国は分からないで騒いでいるみたいです。
国内の左の人も中韓に呼応して、「いずも」などの「空母」を持って軍国主義に戻ろうとしているとプロパガンダしています。
それも同じく、日米安保体制下でわが国だけが、特出して「侵略」が可能だという幻想があるからですが、先日書いたように、集団的自衛権下では政治的にも、物理的にも不可能なことを勉強していないから言えることにすぎません。
もっと勉強してください。
あ~、軍事ブログみたいになってきたぁ(悲鳴)。
※お断り 当初、タイトルに「攻撃力」という表現を使いましたが、やや漠然としているので、「他国への侵攻能力」と書き直しました。
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自衛隊はやはり自衛隊なんですね、米軍とセットで初めて有効な装備であり単独じゃ力不足、少しは抑止力になる程度、そのように規制されている。
海洋進出の著しい中国は試験・訓練空母のデータを基に空母2隻、強襲揚陸艦、大型の巡視船の建造などしてます。
これに煽られて自衛隊では潜水艦やイージス艦の新造から強襲揚陸艦の検討も始めているとか。
年間の人件費や維持管理費が増え増税か国債による借金、また新造艦の乗組員が集まるのか心配なところです。
国防とはいえ最終的には国民にしわ寄せがきてしまう、困りものです。
韓国は排他的経済水域もかなり狭く、深度も浅い海なのに何故か外洋艦隊や大型潜水艦を…日本が仮想敵国で間違いないです。
投稿: 多摩っこ | 2015年7月20日 (月) 01時16分
多摩っこさん。お返事は本日の記事のほうで。
写真の花はペゴニアです。ちょうど午前の散水直後に撮れました。水も滴る、ですね。
投稿: 管理人 | 2015年7月20日 (月) 02時34分
前記事のほうでストップがかかりましたので、こちらに失礼します。
わざわざ纏め記事書いていただいてありがとうございます。
これはすごい分かりやすい!簡潔に纏まっていて、はっきり結論も出してる。
とくに「全通甲板なら空母!」だから「攻撃兵器だ」「侵略目的だ!」などと騒ぎ立てる、頭がお花畑の人達に見せてやりたいもんです。
戦力投射と補給という概念と、エアカバーとの連係ありきが前提になるという常識が、あの人達は決定的に欠けています。まるで精神論を語る戦前の軍人のようですね。
補給軽視は旧海軍からの伝統か(苦笑)。右寄りの人も逆に酷いもんですが。フジテレビのスーパーニュースでもいずも進水で『全長が戦艦大和並みです!』なんて言ってて、観ててゲッソリ。
おおすみ級輸送艦だって、今時のウェルドック装備のヘリ運用強化型揚陸艦スタイルになっただけで、元々は旧態依然のLST型だったみうら級(あれだって揚陸艦ともいいます)の代替艦でしかないのに…。しかもたった2隻しか無い。
教師志望(そのHNマジっすか!)さんなんか、酷い間違いを指摘しただけだったんだが、いずもは容易に転用できる(どこの誰から聞いたのかしらんけど、あまりにも見え透いた嘘)。名前なんかどうでもいいんだと丁寧に説明したら、今度は何故か鸚鵡返ししてきておいては、名前に食い付き続けてきて、こちらの明確かつやんわりとした質問には一切答えられずに偉そうに屁理屈並べ立てて必死の質問返し。そんなんで自分が優位に立った気分ですか?「意地悪でいってるんじゃないですよ」とかわざわざ予防線(らしきもの)を張ってみたり、もう、その程度の頭で大丈夫か?と。いくら口が立っても中身が空っぽというのは、福島瑞穂さんあたりとよく似てるなあと。そういうのこそ「上から目線」と言います。バカ丸出しすぎてウンザリします。
じゃあ自動車運搬船なんか、ちょちょいのちょいで転用可能ですな(笑)
教師にもいろんなのいるけど、いずもを「普遍的だから使った」とか、実に見苦しい。日本語すら怪しいレベル。
DDHいずもとその2番艦、DDHいせとひゅうが、それにおおすみ級輸送艦2隻。あり得ないけど仮に全部がオンステーションだったとしても、これだけでいったいどこを侵略できるんだと…。尖閣や先島諸島の離島が侵略された時にはどうにか奪還するのがせいぜい。外征なんか無理無理。
あわよくば西普連の精鋭を運良く外国(提示もされていないので何処かは知らんけど)に上陸させられても、管理人さんの仰るようにあっという間にフルボッコにされて全滅です。またそれこそ国際社会が許しません。
ちなみに中国海軍は空母建造以外に強襲揚陸プラットホームという、アメリカでさえ漸く戦力化されつつあるものを、早くも試験段階に入っています。運用経験の積み上げに時間のかかる空母ほど高度なシステムではないので、近いうちに投入可能になるでしょう。一般のLo-Lo船をピストル輸送で横付けすれば、強襲揚陸艦の数倍のペースで揚陸が可能になります。本命は台湾でしょうが、尖閣とか与那国の防衛を考えたらかなりの脅威になり得ます。
カウンターメジャーとしては、空対艦・地対艦ミサイルの強化と潜水艦でしょうね。
ちなみに核ミサイル搭載ではない一般的潜水艦を軍事一般では「攻撃型潜水艦」というのですが、この名前が敵地攻撃だ!なんていうバカはいません。
とまあ、昨日の延長やってると管理人さんにまた怒られちゃうから…、ここで小ネタを一発。
いずもの前に就役したいせとひゅうが。
もともと旧海軍の戦艦の名前。
じゃあ、一回り大きな次のDDHは「ながと」か?と、BBSでは噂が出てました。たまたま阿倍総理の地元だし。全長だけならほぼ「赤城」ですが。
進水式前の防衛省公式の案内PDFで、公報担当者が艦名を入力したあとにマスキングしただけだったので、フリックすると「いずも」だと、既にバレていました!数時間後に指摘を受けて修正されましたが。オイオイしっかりしてくれよ(笑)って話。
投稿: 山形 | 2015年7月20日 (月) 08時14分