倒産寸前のギリシャに食い込む中露の企み
明日、ギリシャの国民投票が行なわれます。こまで煮詰まると、そんなにたくさんの選択肢があってたまるものではありません。
ひとつは、チプラス首相が呼びかけている「ノー」です。チプラスさんは、例によってすこぶる強気で、「これで信任が得られれば、ユーロの債権鬼と十分に戦えるぜ」と言っていますが、根拠は不明です。
(写真 応援に手を振るチプラス首相。チプラスは高校生時代から一貫して頑固な過激左翼活動家だった。欧米帝国主義からの解放という信念は一貫している。それ故、中露と相性がいい。こういう時期には、必ず左右の極端な政治家か登場する)
常識的に考えれば、これは自殺行為です。今までも再三煮え湯を呑まされている債権団は、これで「終わった」と考えて、その次のステップに行くはずです。
「ECB(欧州中央銀行)が、たっぷりと保有するギリシャ国債がデフォルト(債務不履行)に陥り、ECBはギリシャの銀行が支払い能力を失ったと判断するだろう。そうなると、銀行再開の道は2つしかない。旧通貨ドラクマの復活か、預金者の資金を一部没収して銀行資本に転換することだ。
その結果、銀行は閉鎖されたままになる。現時点で預金者は1日に60ユーロの引き出しを許されているが、あと1週間もすれば現金は完全に底を突くだろう。
現実的には、政府は恐らくドラクマ路線を選ぶだろう。状況は混迷し、何年にも及ぶ法廷手続きを要するだろう。
経済は崩壊する。店頭では資金不足が露わになるだろう。だれもが現金での支払いを要求し、手に入れた現金は蓄えこむ。消費は急減する。企業は納入業者への支払いに行き詰まり、破綻する。ギリシャの最も重要な産業である観光業は、外国人のキャンセルが相次ぎ打撃を被る」(ロイター7月3日)
まぁ、以上が平均的な欧州各国の見方です。
EUの「気分」を思い出して下さい。くたくたなんです。「もう一ユーロも出したくない、いい加減にせぇや、国民にこれ以上の負担を頼めるかって。自分の政権が倒れるわ」、これかECの空気です。
ECにできるとすれば、ドラクマに戻ってグチャグチャになったギリシャに対する「人道援助」くらいでしょうね。
いいですか、EUが抱えている難題はギリシャだけではないのです。
ウクライナを忘れてはいませんか。最近、停戦合意ができて少し内戦が鎮静化したので多くの日本人は一件落着か、と思っているようてす。
とんでもありません。2月に結ばれた停戦合意の前に、ロシア軍と東ウクライナのカイライ軍はドネツク州の要衝デバリツェボを軍事的に征服してしまいました。
(写真 デバリツェボウを制圧した東ウクライナ民兵。ロイー2月18日)
「[キエフ 17日 ロイター] - ウクライナ国防省は17日、東部ドネツク州デバリツェボの一部地域を親ロシア派が政府軍から奪ったと明らかにした。双方の間で市街戦が行われているとも説明した」(ロイター2月18日)
これで、ウクライナは事実上、西を実効支配するウクライナ政府と、東部を実効支配する親ロシア勢力によって二分されたまま、固定化されようとしています。
プーチンの狙いは明確です。しょぼい東ウクライナなんかを領有したいからではなく、ましてや反露派の巣である西ウクライナを欲しいわけではありません。
ウクライナを分断して不安定化させて゛絶対にEU加盟をさせないことです。
ウクライナがそれで経済がよくなった、西側の企業もどんどん来たね、ではプーチンのメンツが立ちません。
ロシアかさんざん今まで金を貸したり、天然ガスをタダ同然でくれてやったり(実際には大量に盗まれていましたが)した恩を仇で返しやがって、ふざけるな、このファシスト野郎、というのがプーチンの本音です。
ロシアは大国であることが出来なくなってしまいます。ですから、常に軍事的に揺さぶりをかけて、ウクライナが常に不安定化していることが大事なのです。
だから、プーチンさんは平気で他国に軍を浸透させて、そこにカイライ政府を樹立させる工作をします。
ですから、先日の記事で述べたように、これに危機感を持ったメルケルさんが、わざわざ日本に来て安倍さんから支援を取り付けたのです。
安倍さんは1500億円の支援を約束し、ウクライナ現地に飛んで、そこからG7に向うというパーフォーマンスまで演じて見せました。
ここまでやってくれれば、メルケルさんとしても本心はイヤなはずですが、日本の「特殊事情」を認めないわけにはいきませんでした。
こうして日本は、北方四島返還交渉をするために、プーチンさんを日本に呼ぶことを、国際社会に認めさせたのです。
外交にフリーライド(ただ乗り)なしとはよく言ったものです。国際社会では、常に貸し借りをしながら安定を保っているのです。
さて、話を戻してギリシャです。実はここにもロシアと中国の触手が伸びていました。
ロシアは、チプラス首相をペテルスブルクに呼んで、下にもおかないおもてなしをしました。
そして渡した玉手箱には天然ガスのパイプライン計画が入っていました。これはかつてウクライナに対してとった手段とまったく同じで、ロシアは市場価格より安く提供することで、援助とします。
逆に、ギリシャがナマを言えば、さっさとコックを締めてしまうことができるという、大変に使い勝手のいい「武器」なのです。
(写真 ペテルスブルク会談。まるで兄弟仁義みたい。チプラスかどこまでも着いていくぜ、と言ってそう)
一方、ロシアと「世界嫌われ者兄弟」の固い契りを結んだ中国も、しっかりとギリシャに食い込んでいます。
「【北京=矢板明夫】欧州を訪問中の中国の李克強首相は29日、ブリュッセルで記者会見し、ギリシャ財政危機について、「ギリシャがユーロ圏に留まることができるか否かは、国際金融の安定と経済復興に関わる問題だ。中国は建設的な役割を果たす用意がある」と述べ、ギリシャ問題に積極的に関与する姿勢を示した。中国は、ギリシャを手がかりに欧州での存在感の拡大を狙っている」(産経6月30日)
2014年6月19日に、李克強がギリシャを電撃訪問しました。
だいたいあの男が行くのは不純な動機です(笑)。李は、習政権のビジネス担当のような役割をしています。
中国の武器を売るか、そこに商売の拠点を作るか、エネルギーや資源を買い占めるか、が目的です。
ギリシャに対しては、約50億ドル規模の貿易・投資協定を締結することに合意しました。
一時、ギリシャ政府が今回の2000億円をポンっと建て替えてやるぜ、と言ったとか言わないとかで、ギリシャ政府と中国政府の発表が食い違いましたが、いちおう中国は否定しています。
「[北京 11日 ロイター] - 中国外務省は11日、同国がギリシャに支援を申し出たとするギリシャ政府高官発言について、支援の話は知らない、と述べた。(ロイター6月11日)
しかしまぁ、たぶんそれに近いことを中国は言ったんでしょう。
中国は、約1カ月後の7月13日に、習近平がギリシャ訪問し、さらに両国は15年を「海洋協力年」と決め、今春、北京とアテネで祝賀イベントを同時開催するそうです。
このように中国の首脳があいついで訪問するのは、大変に異例なことです。
ここで中国が、「海洋協力年」と言っていることにご注意ください。
(写真 ピレウス港。大規模なコンテナ埠頭基地であり、エーゲ海クルーズの拠点でもある)
ギリシャの二大産業は観光と海運です。今のケネディ大使の母親の夫になったオナシスなんて大富豪かいたでしょう。
海運をのぞいたら、パルテノン神殿しか残らないというのが、今のギリシャです。
そしてこの海運だけが、ギリシャで唯一の成長産業です。その中心地がピレウス港で、そして李が訪問したのもこのピレウス港です。
(写真 新華社アテネ6月21日 ギリシャ訪問中の中國の李克強総理は現地時間20日午前、同國のサマラス首相と共にピレウス港の中國遠洋運輸集団(コスコ)が運営するコンテナふ頭を視察した)
ここに既に中国は、専用コンテナ埠頭を持っています。
コンテナの取扱量で世界6位を誇る中国営コスコ・グループ(中国遠洋運輸集団)は、2008年に49億ユーロを投資して35年の運営権を獲得して、さらに資本も51%所有していますから、いわば現代版の租借地といえるかもしれません。
ピレウス港は今や観光が落ち込んで火の消えたようなアテネと違って、活況を呈しているそうです。
中国はここに物流拠点を構えることで、中国との海運輸送を、今のオランダ・ロッテルダム港、ドイツ・ハンブルク港経由より10日間以上短縮できるとみています。
また、ピレウス港だけでは止まらず、アテネ国際空港、鉄道網、クレタ島の空港などの国有財産にも眼をつけています。
チプラス首相は、今後国有財産の投げ売りを始める予定でいますから、中国がギリシャの港湾、鉄道、空港などを爆買いするとみられています。
このように、中国はギリシャ危機につけ込んで、「21世紀の海のシルクロード」構想における、ヨーロッパ側ターミナルを作ろうとしていると考えられています。
しかし、かつてのシルクロードが香料と共に火薬の原料を運んでいたように、中国の意図は軍事進出も視野に入っています。
大航海時代のスペイン・ポルトガルよろしく、中国の算盤は後ろからの軍事展開が追いかけてきます。
おそらく、中国海軍はスプラトリー諸島の要塞化が終われば、宿敵のインドを海から包囲し、さらにアフリカ東海岸から、中東、地中海へと覇権を拡大していくのでしょう。
その終点が、このギリシャなのです。そして、ここを拠点として、ロシア黒海艦隊と合流し、地中海へと触手を伸ばす、これが習近平のいう「中国の夢」なのです。
長くなりましたので、今回はこれまでにしましょう。
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ウクライナ、ギリシャもそうですけど、露中からしたら日本(あと韓国)も地政学的な重要さは同じくらいですよね。露中を背後から襲えるアメリカの一大前進基地なわけですから。対ヨーロッパを固めたら次はこっちな気がする。北方領土返還に関してプーチンさんは何を要求してくるのでしょうか……
投稿: 教師志望 | 2015年7月 4日 (土) 09時16分
教師志願さん。ロシアは 日本と東アジアでことを構える気はないと思います。
その理由は第1に、そんな体力がないことです。プーチンはウクライナにてこずっています。
クリミアは思いのほかの金食い虫で、地形的に孤立しているために生活物資の搬入までもロシアが面倒をみねばならなくなりました。
その上に生活インフラは老朽化していて、農業も盛んではありません。ですからこの再建と維持に大変な金がかかりそうなのです。
また東ウクライナ2州は実効支配したものの、思いの外にウクライナ政府軍が強力な上に、投入したロシア軍の弱さが目立っていて、戦線維持で精一杯な状況です。
このような状況ではとてもじゃありませんが、東アジアに戦線拡大して2正面作戦をする余裕はありません。
まして相手には、ウクライナではなく、日米です。
プーチンは日本の資本と技術を導入してシベリア開発をしたいというのが本音でしょう。そのための喉に刺さったトゲの北方4島問題を抜くために今回来るのです。
ケンカを売りに来るのではないのです。
中国に対しては、プーチンは日本以上に警戒心を持っています。
中国の軍事膨張は、等しくロシアに対しても向けられていて、清朝から奪った愛琿条約の沿海州を、いつ返せと言ってくるのか警戒しているはずです。
いまの中国の旧清朝版図は神聖なる領土という考えからいえば、ここもそうだからです。、
また、その地域には、いまでも膨大な数の中国人労働者がいて、ロシア系住民より多い地域もザラです。
いったんことあれば、彼らがどのような分離独立要求を掲げてくるのか、ロシア政府は自分もウクライナでやっているだけに、潜在的脅威と認識しているはずです。
そして、中国の核ミサイルは、極東ロシア全域と、モスクワを射程に収めています。,つまり、中国には核の恫喝は効かないのです。
ですから、私はこの中露同盟は一時なプラグマチックな野合だと思っています。
したがって、いまの中国に本質的意味での「同盟国」や「友好国」は存在しません。なぜなら世界一危険で身勝手な国だからです。
投稿: 管理人 | 2015年7月 4日 (土) 10時00分
時々思うことだけど、中国の長い長い歴史で、
せいぜい後漢や隋・唐時代のスケールで進んでたら…
ウイグル・チベット問題なんか、軽微なもので、もっとましな中国になってたんじゃないかと。
まあ、当時は王朝が変わると大政変が起こったり、周辺民族に怯えたり、後には金や蒙古に侵略されたりでしたから、複雑ですね。
投稿: 山形 | 2015年7月 4日 (土) 11時52分
管理人さん
わざわざありがとうございます。とても参考になりました。露中の友好関係は一種の呉越同舟で、いずれ破綻するというのは同意です。ロシアのユーラシア連合構想と中華大帝国構想は相容れないものだと思うからです。なので、その破綻の日まで日本が日本として残っているか、それが自分の目下の気がかりでありますが、数年単位で変事が起きるというのは無さそうというのはよく分かりました
投稿: 教師志望 | 2015年7月 4日 (土) 23時38分