ドイツの移民・難民問題という病の深さ
日の丸・君が代反対運動というのは、一種の懐かしの昭和回帰運動みたいなものです。
かつての若かりし日の戦後左翼全盛期を懐かしみ、その価値観をなんとか握りしめたまま墓場に行きたいというノスタルジー運動にすぎませんから、今さら社会を動かす力などぜんぜんありません。
ただし私は、今後、<日の丸・君が代問題>が一定の条件下で、まったく違った形をとって蘇る可能性があるかもしれないと思っています。
今日はそのことを、別の角度から考えてみます。
さて、そう思ったのは、先日ドイツ在住の女性からコメントを頂戴したからです。
ヨーロッパが抱え込んでいる問題は多数ありますが、その中でももっとも解決困難な問題が、難民・移民問題です。
ある意味、ギリシャ、ウクライナ問題よりタチが悪いのです。なぜなら、国の内部に「国内問題」として抱え込んでしまった病だからです。
全人口の既に約19.5%、数にして、全人口8213万5000人のうち1556万7000人(2008年)、実に、5人に1人が移民、ないしはその子孫たちです。
サッカーW杯で優勝したドイツ・ナショナルチーム23人の選手のうち、6人が移民の子孫でした。
それだけでも充分に大変だと思われるのに、毎年難民だけで20万人以上がドイツ国内に流入してきます。
それも、30万人に達したら大変なことになるといわれながら、とうとうそれすら突破して40万人、いやいやもう50万人に達したぞ、という悲鳴すら上がっています。
上図をみると、ドイツが日本に対して、「お前らはぜんぜん難民問題に力を注いでいない」と説教を垂れられそうですが、その原因はもちろん硬直した我が国の難民政策にもあることは事実ですが、それ以上にドイツが置かれた地理的位置にも決定されています。
これらの難民の多くは、95年のユーゴ内戦による難民からの流れで、約74万人いたと国連は推定しています。
ドイツはヨーロッパ中央に位置するために、バルカン半島から至って近距離にあります。彼らがもっとも至近距離で流れ込める先進国は、ドイツかイタリアだったのです。
今はバルカン半島方面ばかりではなく、中東・アフリカ難民がイタリアに漂着し、イタリア経由でドイツに入って来るケースも目立っています。
これらをすべてドイツは受け入れているわけではありませんが、その難民認定審査の期間にも、衣食住を保障せねばなりません。
古い工場を改造して、そこに三段ベッドを入れて、古着を与えてといった手当てをしてもまったく追いつきません。
いまやドイツの都市郊外には、難民バラックが立ち並ぶという状況があたりまえになりつつあるといいます。
それらはドイツ地方政府の負担になるために、それでなくてもきつい地方財政が更に圧迫されることになります。
そしてこれら難民は、特殊技能を持っているわけではない貧困階層が多いために、働くにしてもいわゆる3K労働しかなく、多くが国のごやっかいになることになります。
これに対して、「従来どおり受け入れるべきだ」という教会を中心とする人道派と、「もう限界はとっくに突破している。社会がメチャクチャになる」とする受け入れ反対派との対立が鋭さを増してきています。
(漫画 政治家は難民、移民に対して「歓迎、歓迎」と呼びかけて、ドイツ住民が「僕はどうなるの」と言っている。政治家が背中に隠して持っているのは、社会福祉、公営住宅、子供手当ての申請書、職場の付与誓約書、選挙権と市民権の公約など。これらを全部隠して゛いい顔をしやがってという風刺画)
また、このようなニューカマーとは別に、ドイツは戦後の高度成長期の労働者不足を補うために、積極的にガストアルバイター(お客さん労働者)を受け入れてきた歴史があります。
これは1961年にベルリンの壁ができて、東ドイツや東欧からの出稼ぎ労働者が遮断されたためです。
当初の移民の多くはドイツ語を話すドイツ系の人たちでした。彼らが初めてフランクフルト駅に到着した時には、市長が歓迎の花束を持って出迎えたというエピソードすら残っています。
今とは大違いですが、これが変化し始めたのがトルコからの大量移民を受け入れた時からでした。
そのトルコ人移民は、国から家族を呼び寄せて、既に2世3世の世代になってきています。
彼ら移民労働者の多くはイスラム教徒で、ドイツ人がやりたがらない下層労働に従事しています。
ドイツ人の少子化が進む一方で、イスラム系は子だくさんで増加の一方ですから、これで社会紛争にならないほうが不思議です。
このオールドカマーの上に、EU統合によるシェンゲン条約によってヒト・モノ・カネの移動が自由になったために、南欧からイタリア人、ギリシャ人が流入し、さらにはEUが東欧圏までも拡大した後は、ポーランドからもドドっと来るという状況になってしまいました。
整理すれば、ドイツの移民構造は三層です。
①戦後すぐの東ドイツ、東欧からの引揚者によるドイツ系
②60年代からのトルコ系
③90年代のEU統合以降の南欧移民
さて、これだけで十分に複雑ですが、移民は自業自得といってしまえばそれまでですが、さちにこれをこじらせたのが冒頭に紹介した難民問題でした。
というのは、EUというのはひとことで言えば、「ヨーロッパだけで栄えようぜ」というエゴ丸出しの仕組みのことです。
域内をブロック化して、その中のヒト・モノ・カネの往来に制限をはずして、ヨーロッパの白人だけでウマくやりたい、というのが本来の主旨でした。
その中心に居て、その恩恵をもっとも被ったのがドイツです。最近バレてしまいましたが、EUに入れてやる替わりに、ギリシャなどの南欧を食い物にしてきたのは、他ならぬドイツでした。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/07/post-42f1.html
しかし、ヨーロッパの周りに高い塀を作って、その中で栄えていたら、塀の外の人達はどう感じるでしょうか。
「冗談じゃねぇや。自分たちだけで楽園きどりかよ。けっ、オレらも入れろや」となりますね。こういう人たちは、自分の国を家族を連れて脱出してくるわけです。
これは幸福を求める、いわば本源的な人の性みたいなものですから、止めようがありません。
平時ですらそうですから、これが内戦ともなると、命懸けで先進国に逃げ込もうとします。
たとえば、今年の4月には、リビアからマルタ島に向けた難民を乗せた貨物船が沈没しました。
そして痛ましいことには、その船倉に閉じ込められていた数百人が溺死したことが判りました。船と行き違う時に、片方に寄ってしまって、船のバランスがくずれたからだそうです。
そんなていどのことで簡単に貨物船が沈むはずがありませんから、原因は鈴なりになるほど密航者を積んでいた船主と密航業者の責任です。
彼らは、中国でいう蛇頭のような密航業者に5000ユーロから8000ユーロ(1ユーロ130円として約65万から104万円)を渡して密航してくるのです。
当然彼らにはそんな金はないために、悪質な人身売買がなされています。
まるで、現代の奴隷船ですが、いまや地中海は、毎月1500人の密航者が溺死する海と化しています。
これらの奴隷船と遭遇しても、一般の船はせいぜい食料と水をゴムボートで渡してやる程度で立ち去ってしまいます。
妙な仏心を出すと、自分の船に救助せねばならず、その後までのその国に保護義務が発生するからです。
ひと頃ドイツ政府は、「難民救助をすると、かえって難民を食い物にする悪徳業者を増やすことになる」として、救助に否定的だった時期すらありますが、今はその数の激増に見ぬふりもできなくなり、対処を迫られています。
これが、日本が朝日新聞が唱えてきた「多文化共生」の現実の姿なのです。
長くなりましたので、明日に続けます。
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日本で移民を始めたら朝鮮からは勿論、世界中から待ってましたとばかりに押し寄せてくるのは明白ですよね
ぶっちゃけ欧州の移民政策は実験台として良いですね
投稿: アウターヘブン | 2015年8月10日 (月) 09時42分
そいえば、フィナンシャルタイムズの記事で、「難民急増に悩むドイツ、襲撃事件が続発」というのがありましたね(JB pressの日本語訳で読みました)。
ドイツで難民収容施設への襲撃事件が続いているというものでした。
ドイツ国民の不満も蓄積してるのでしょうね。
投稿: 山口 | 2015年8月10日 (月) 10時35分
もう20年も前の辺見庸「もの食う人々」あたりでは、すでにネオナチの台頭とトルコ系移民の屋台襲撃とかが出てきます。
当時から、日本は移民を積極的に受け入れて労働力の確保を!という経済学者の意見が盛んに出てましたが、そんな簡単なもんじゃ無いだろう。というのが私の率直な感想です。
もう、当時からパキスタン移民の中古車シンジケートとか、新潟新港周辺で目の当たりにしてましたしね。
と言っても、かつて人口ボーナスで高度成長を遂げた日本経済が、今後どうして行くのか?
私にも答えが見つかりません。
投稿: 山形 | 2015年8月10日 (月) 11時37分
ドイツ移民問題のまとめありがとうございます。めっちゃ詳しい!流石ですね、データ収集お時間かかったのでは…。
このデータと考察の上に、今後の日本人のボリュームとバラエティーをどうコントロール出来るかが私達に試されていますね。難しい。
個人的に減りすぎてから入れるのは最悪だと思います。
人道的に受け入れるとか言ってドイツに入れたエスニックな人々が着く低賃金の労働は、
例えばドイツ自慢のリサイクル分別作業の手作業部分ープラスチックと紙パックと金属が混じった回収ゴミを機械で分けるのだが機械が洩らした物を分ける
ドイツ自慢の白アスパラを日の出前の午前3時前から日が当たらないように土を盛ったり収穫する
春だけの季節労働
ボス達は厳しいです。とても。
日本でも低所得移民が着く職は同じような待遇を強いられるのだと想像します。
オリンピック前ならば土木工事と清掃、警備、廃棄物処理あたりでしょうか。寝床付きが多いこれらの職が閉会後にどーんと減り、上記の重労働に耐える一世の家庭に二世が育ち始める頃、団塊の世代は何歳位でしょうか。一世が甘んじた環境を二世は受け入れ難い。
移民を受け入れるならエスニック化を極力させない、というご意見をここでかつて読んだ記憶があり賛成です。
他民族多文化を束ねる国旗と国歌と天皇、これにポジティブイメージが持てるような議論を重ねる事ができない国は移民と共存は難しいので本気で大人達が粘り強く話をするべきです。グタグタ長くなり失礼しました!
投稿: ふゆみ | 2015年8月10日 (月) 19時03分
ふゆみさん。コメントありがとうございます。ドイツは嫌いで好きというか、好きとは絶対にいえないが気になるというか、なんかアンビバレンツなところがこちらにもあるせいか、興味があります。
今後ともいろいろ教えて下さい。よろしくお願いします。
投稿: 管理人 | 2015年8月11日 (火) 03時37分
管理人さん、返礼恐縮です。こちら残念ながら相方の仕事が終わって帰国となります。たった3年弱で観たものは限られているのですが、事あるごとにショックをうける日々でした。アメリカには4年住みましたので備えてない箇所に打撃を食らう感じのカルチャーギャップは覚悟していたのですが、真面目で勝手な相手って正直きついです!ただ勝手な方が楽ですよー。
投稿: ふゆみ | 2015年8月11日 (火) 22時04分