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2015年8月27日 (木)

天津事故のモラルハザードとは

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天津爆発事故は、突然に起きたものではありません。

それは、いままでの中国の公害・環境問題の矛盾が、一度にここ天津で爆発炎上しただけのことです。

ですから、背景にある公害問題をみなければ、天津事故の本質には迫れません。

さて、公害対策で世界最先端に立つ日本人には意外に思われるかもしれませんが、中国には環境保護法はあります。

というか、世界的に見ても「先進的」ですらある法律や規制は立派に存在します。

「中国環境問題」(井村秀文 勝原健)には、わが国より「ある意味ではもっとも先進的」とすら讃えられています。

このくだりは、中国の当局者がいたくお気に入りの一文で、なにかとアチラでは引用され、地方政府が日本企業を誘致する時の甘い言葉によく引用されるフレーズだそうです。

Yjimage (写真 天津爆発の跡)

まぁ、中国にはなにかとわが国と比較したいという気持ちがある上に、環境先進国であるわが国の環境法体系より「先進的だ」とまで書かれたらうれしいのはわかります。

もちろん、中国の環境問題研究者はおめでたくこんなことを信じているわけではありません。

そりゃそうでしょう。今の中国は、たぶん人類が到達しえた「極北の環境地獄」、これ以上この状況が進むなら、中国大陸は遠からず人が住めなくなるとまで言われる国であることは間違いないわけからですから。

000002191_640(写真 汚染物質でどきつく染まった河)

ではなぜ、こんな「立派な」環境法がありながら、現実にはなぜこんな悲惨の極みなのでしょうか。理由は簡単です。法はあっても執行されないからです。

日本の環境研究者の片岡直樹氏は、「中国環境汚染防止法の研究」のなかで、「完備された法と執行されていない現実」という観点で、今の中国環境問題を分析しています。

片岡氏によれば「法」はあっても、その根拠となる適切な法令が整備されていないからだと考えています。

つまり、基本法はあっても、それを具体化する法令がないためにザル法 になっているのだというわけです。

法令がないために執行段階で、当局の恣意が入ってしまう余地が多くあるということのようです。

1979年に中国では環境保護法ができ、2002年に環境アセスメント(影響評価)が制度としては出来ています。

2005年には国家環境保護総局の音頭取りで、マスコミとNPOが中心となって「アセスメントの嵐」という大規模キャンペーンまで行われました。

ここまでは大変に結構で、私自身も関わった霞ヶ浦浄化運動でも環境NPOと行政、マスコミが互いに補完しながら問題解決にあたってきた歴史があります。

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しかし中国ではこのアセスメントの実施段階で問題が露になります。「環境アセスメントを誰がするのか」という根本問題につきあたってしまったのです。

「中国汚染」の著者である相川泰氏によれば、中国の場合、アセスメントは地方政府の下部機関が行っていて、そこに問題があるとしています。

この地方政府下部機関は、アセスメントの合格証を書くと企業から多額の賄賂を得ることが出来る仕組みになっていました。

また、評価に誤りや不備があっても、責任を追及されることもないようになっていました。

しかも、組織としてしっかりと取り締まりをして公害が出なくなってしまえば、予算がとれなくなってしまいます。

ならば、いいかげんなアセスメントを出して企業から賄賂をもらい、来年度も予算を多く取ったほうがいいということになったようです。

このようにして環境法は骨抜きになり、環境アセスメントも「本来は環境汚染を防ぐ為に作られたはずが、かえって助長すらする制度」(「中国汚染」)になってしまいました。

Yjimage_3(写真 夕陽ではなく、昼間から煤煙で赤く染まった中国の都市。日本以上の規制があるはずだが)

ここでもう一度モラルハザードの定義を押えましょう。

「規律の喪失、倫理観の欠如した状態のこと。
危険回避のための手段や仕組みを整備することにより、かえって人々の注意が散漫になり、危険や事故の発生確率が高まって規律が失われることを指す。」
(現代政治用語辞典による)

モラルハザードの意味が、単に道徳的欠落ではないことにご注意ください。

法秩序やシステムがあることで「かえって安心してしまって規律が崩壊する状態」のことです。まさに、今回の天津事故の原因です。

私たち日本人は、環境法があると聞いただけで安心してしまいます。私たちにとって、それを遵守するのはあたりまえである「法秩序の国」に住んでいるからです。

しかし、ここには世界第2位という経済的モンスターになりながらも、統治において権力者の恣意がはびこる一党独裁、すなわち「人治の国」なのです。

中国において法とは破るためにあるものでしかありません。上は賄賂をもらって骨抜きにし、下は賄賂を贈って大きな利益を貪ります。

利益の配分を決めるのは権力者であり、その権力は共産党が握っています。

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北京五輪の時に空気が余りに汚いために、周辺の工場を操業停止にしたり、疎開させたりしました。

本来 はちゃんとした脱硫装置をつければいいのに、決してそんなことをしないのが中国です。

権力にとって不都合で目障りなものは、いったん他国の人の目に止まらない場所に移せばよいとする「権力者の都合」が優先されたわけです。

結果、五輪から急速度で北京の大気は悪化し、冬にでもなると金星のような分厚いスモッグの雲の下に、人々は住むようになってしまいました。

実は、これは開放改革経済が始まってからのものではありません。

鄧小平の「南巡講和」を号砲とする中国のイカサマ資本主義は、その前段の社会主義経済の悪しき遺産を百万倍に拡大しただけにすぎなかったのです。

長くなりましたので、次回に続けます。

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コメント

モラルハザードは日本でも交通安全・アスベスト問題・労働現場・粉飾決算などで言われて久しいのですが、彼の国の場合、桁違いというか学習しないというかもう酷いもんですね。
10年ほど前に「毒菜」問題が報じられて外食や冷凍食品でちょっとしたパニックになったり、その頃から「爆弾以外はよく爆発する国だな!石油タンクとかマンホールとかスイカとか…」なんて話していました。
SARSや鳥インフルエンザの防疫でも全て不透明で出鱈目。

全てに於いて
『問題は、問題にしなければ問題ではない』
を、地でいっています。

日本であっても高度成長期に散々公害問題や交通戦争やらを乗り越えて今があるわけで、成長期に入った中国はなぜ「隣の反面教師」に習わないのか?必ず痛い目に会うのにと…。
様々な社会問題が噴出しても利益優先で、あとは誤魔化し続ける。揉み消す。賄賂でOK。
何故そんな歪んだ社会になっているのかというと、全てにおいて突き詰めてしまえば絶対に逆らえない共産党の1党支配による悪癖に行き着きます。
これは発展前の毛沢東の「大躍進」「文化大革命」と大変な出血をして失敗した時代から変わらないのです。
現在は流石に人民も政府機関を信用していないだろうけど、だからといってどうにもならないから今を生きるしかないのでしょう。


まるで日本の原発事故の解説のような(苦笑)皮肉はともかく、管理人さんが提起している課題は日中共通ですね。

APECブルー・世陸ブルー・パレードブルー・・・酷いスモッグの北京の空があっという間に冴えた青空に…
つまり、それだけ周辺の工場や発電所が普段からろくな対策も無しに操業してるということが年中丸わかりということです。

冗談で「北京は年中イベントをやってればいいんじゃねぇの(笑)」なんて言ってたら、昨日のニュースでの北京市内のオバチャンがTVインタビューで全く同じことを話してて苦笑。


今朝のNHK、秋の名月に向けてかつて話題になったけど最近下火だった、トリュフやアワビを使った「超高級月餅」が企業向けに売れてるとか。
堂々と「官公庁への贈答用に最適です!」なんてカタログに書いちゃてたりするところが、うわぁ~、ですね。
社会の腐敗が当たり前になってるんだとよく解ります。

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