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2015年9月26日 (土)

わかりやすい移設問題その2 ナイ発言は米国の本音の一部だが

081
この「わかりやすい移転問題」はシリーズ化して、5回くらいで完結させるつもりでいましたが、HNある沖縄人さんの質問に先にお答えして進めることにします。 

頂戴したコメントです。 

「①ジョセフ・ナイ元米国防次官補の「ハフィントン・ポスト」での発言、「中国のミサイル技術が発展し、沖縄の米軍基地は脆弱になった」
②中谷・防衛相の以前の発言「沖縄の基地を分散しようと思えば九州でも分散できるが、抵抗が大きくてできない」「理解してくれる自治体があれば移転できるが『米軍反対』という所が多くて進まないことが、沖縄に(基地が)集中している現実だ」
③森本防衛大臣の発言「軍事的には沖縄でなくても良いが、政治的に考えると沖縄が最適の地域である」

 なるほどね。翁長氏も菅氏との会談でもまったく同じことを言っていますね。このナイ発言のソースは、この琉球新報記事です。 

「在沖基地は脆弱」 ナイ氏寄稿 日米同盟再考求める」(2014年9月1日)
http://ryukyushimpo.jp/news/storyid-230915-storytopic-3.html 

Photo
ジョセフ・ナイは、クリントン政権で国務省のジャパン・ハンドラーをしたことで有名になりました。 

ジャパン・ハンドラーというのは、対日戦略担当という意味です。立場としては、米国のリベラル派に属する人物です。 

ハーバート大の教授(ハーバートはリべラルの牙城ですが)でもあり、著書の『国際紛争 理論と歴史』(有斐閣)は、国際関係論を学ぼうとする人間の必読書になっています。

この業界で知らない人はいないんじゃない、という人物です。 私もかつてヒーヒー泣きながら、読まさせていただきました(笑)。 

さてこのナイの論文は、米国において英文で発表されたのですが、いち早く琉新のワシントン特派員が待ってましたとばかりに和訳して伝えたために、大騒ぎになったものです。 

いまや移設反対派の定番の論拠になっています。できるだけかみ砕いて解説します。 

まぁナイなら言いかねんな、という内容で、特に驚くほどの内容ではありません。 

まずはナイのスタンスを知らないと、始まりません。知らないままで、この部分だけ抜き出すと、まるでナイが急にオリバー・ストーンになっちゃったように聞こえてしまいます(笑)。
オリバー・ストーン監督講演 「戦争終わっていない」 - 琉球新報 -

ナイがこう言った、ああ言ったではなく、ここではナイたちのような傾向を持つ人たちの戦略をお話しすることにします。

さて、ナイは米国民主党系リベラル派らしく、やや孤立主義的趣きをもっています。

もちろん、クリントン時代に米国のアジア外交を預かった国務省高官としてリアリズムは忘れてはいませんが、中国に対して融和的で、わが国に対しては逆に手厳しいという傾向があります。

孤立主義傾向とは、オバマ政権にみえる、「世界の警官なんて損ばかりだから早く辞めたい。できたらボク、お家に引きこもりたい」というストーブさんのようなかんじを思い浮かべれば、近いと思います。

この孤立主義傾向は、共和党系にも根強く、米国が海外の戦場で沢山の戦死者をだすたびに登場します。

米国は、イラク戦争の戦後のテロによって実に4000名以上もの若者を失っています。
イラク戦争における犠牲者数 - econ.keio.ac.jp - Keio University

今はそのひきこもり期にあたっていて、もう海外の紛争に関わるのはごめんだという「空気」が米国内に濃厚にあります。

ナイも、この米国の「空気」の中でしゃべっていることを忘れないでください。

ただし、ナイはティパーティのようなど素人ではありませんから、現実を見据えながら戦略化しています。 

ナイなどの考え方は、外国の「前方展開基地」を段階的に引き払って、米国領のグアム基地に集中させて、ここから米軍機や艦船で対応したらどうかというものです。 

「前方展開基地」とは聞き慣れない言葉ですが、米軍の手足の筋肉のような部分だと思えばいいでしょう。 

在日米軍に対する小川和久氏のうまい例えですが、米軍本社は米国内、大阪本社は横田と横須賀。筋肉に当たるのが沖縄基地。韓国基地などはただの出張所です。 

ナイなどの論者は、米軍の経費が米国財政悪化の大きな原因になっているし、「悪意に囲まれた海外基地は機能が発揮できない」ので、スリム化したいと思っています。 

ですから、出先の「筋肉」部分はどんどんカットして、グアムや米本国に引き上げて、それもやがては大幅に縮小すべきだと思っています。 

この流れが、世界規模の米軍再編です。伊波洋一前宜野湾市長などや社民党が唱えた「普天間基地グアム撤退説」は、これの早トチリです。

これは米軍が21世紀になってやった、「軍事における革命」(RMA)が背景にあります。 

RMAとは、ざっくり言えば、情報ネットワークを高度化して、部隊間の情報の共有を進めて、より高度でより効率的な部隊運用ができるというすぐれものです。 

これによって、脅威の対象の近くにいなくても、遠くからビュンと戦闘機を飛ばしたり、艦船からのトマホーク巡航ミサイルでやっつけることができるというわけです。 

すると、必要なのはミサイルと、それを発射する米軍機、そしてそれを乗せて世界のどこにでも運べる空母ていどじゃないか、こりゃいいわ、ということになります。 

これが空軍=エアと海軍=シーを主力とした、エアシーバトル(空と海からの戦争)という概念です。 

ひと頃の米国の安全保障のトレンドで、最終的には軍事衛星と無人機ドローンだけあればいいんだという極論すら登場しました。 

Photo_2(写真 無人機プレデター)

米国人という人種は、こういうハイテクが大好きなんですよ。

これならややっこしいイラクやアフガンに兵隊を送らずに済むし、上空のドローンでテロリストを仕留めることができるぜ、特殊部隊だけで十分だ、というのが流行でした。 

しかし、現場を預かる米陸軍はこれに反対しました。ロボット戦争など夢想だと知っていたからです。 

実際にドローンは誤爆が日常茶飯事。落ちればハイテクの固まりなので、ゲリラに持っていかれる前に回収しに命がけで行くのは兵隊たちです。たまったもんじゃありません。 

いつの時代でも、地道に地に足をつてけてその紛争地域に丁寧に対応せにゃならん、それが軍の現場の考え方でした。 

一方、現場を知らないナイなどの学者文官はこういう考え方をしがちです。 

琉新の先の9月の記事の、翁長氏がお好みの部分です。

「中国軍が米軍のアキレス腱として捉えているのは、米軍の兵力展開の基盤となる前方展開基地及び航空母艦、そしてRMA(軍事作戦の大変革)によってもたらされた米軍の戦闘基盤であるC4ISR機能(軍隊の作戦指揮における情報処理システム)である」と分析。650㌔の距離にある沖縄に到達可能な弾道ミサイルが80基、巡航ミサイルが350基との表を掲載している。中国軍の動向に関する分析は米国と共有するものだ」

分かりにくい記事だなぁ。たぶん書いた記者が理解して書いていませんね。要するに、沖縄が中国ミサイルの射程にあるというだけの話です。

なにを今さら。 そんなことは、東風21の実戦配備が確認されたのが1990年代中期ですから、20年以上前から分かりきっていました
DF-21 (ミサイル) - Wikipedia

先日の抗日70周年ナンジャラのバレードで登場した下の写真の「東風21」(DF21)は、確かに沖縄を射程に入れています。 

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 中国がこれ見よがしにパレードで出したのには理由があります。これは対日本向け弾道ミサイルだからです。

東風21(DF21)の射程は1750㎞以上で、沖縄だけではなく、日本列島まですっぽりと射程に納めています。 

下の地図の右端の赤線でDF21と記された不定形の円が、その射程範囲です。 

配備数は、2000年代の配備数は60~80発、発射基数は70~90基と推測されていますが、いまはさらに増加しているはずです。 

400pxpla_ballistic_missiles_range

 この東風21は、米議会年次報告書によれば、その攻撃対象を、韓国の烏山、群山、日本の嘉手納、三沢、横田と第7艦隊空母です。 

そうです。沖縄だけじゃないのです。横田、横須賀、佐世保などすべての在日米軍基地が東風21の射程に入っているのです。

もちろん東京、大阪もです。中国はこの軍事パレードで、「オレはボタンひとつでお前の国の政治経済、軍事的心臓部を破壊できるぜ」、とスゴんでいるわけです。 

では、琉新記事のように、この東風21の射程に入っているから、米軍を沖縄のみならず、日本本土の横須賀から逃がしてグアムや米本国に撤収させますか? 

ありえません。そんなことをしたら、日本としては米国が同盟の義務を放棄したと考えざるをえなくなります。

つまり、共産党が熱望する安保廃棄が現実になります。

そして日本は日米安保の代わりに,独自防衛の道を選択せざるをえなくなります。

それは、GDPの3~4%を消費し、消費税を20%以上に吊り上げ、核武装まで視野に入れたものになります。

いうまでもありませんが、これは米国までも仮想敵とする、危険きわまる路線です。

一方、米国の立場からすれば、世界戦略が根底から崩壊してしまいます。 

そのようて危険性を度外視して、グアムにまで逃げたとしても、上図でわかるようにもっと長射程のDF4、DF31、DF31C、あるいはDF5Aなどの射程範囲に入ってしまいます。 

つまり、どこまで逃げても、中国のミサイルの「長い腕」から逃げられないのです。 

ナイは、別のインタビューでこう語っています。

「2010年6月19日で新日米安保条約が自然承認されて50年となることを受け、クリントン米政権の国防次官補などを務めた知日派のジョセフ・ナイ米ハーバード大教授が毎日新聞と単独会見し、日米同盟の将来像などについて語った。
ナイ氏は、「米軍地上部隊の日本駐留が拡大抑止に不可欠」と、海兵隊などの在日米軍が日本防衛に果たす意義を強調。一方で、将来、東アジアの安全保障環境が激変した場合、米軍駐留については日本国民が決めるべきだとの認識を示した」(毎日新聞6月20日)

また、移設問題についても、こう述べています。

「米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の移設問題をめぐり、日米関係がぎくしゃくしたことについては、「困難な時期だったが、学習の時期だった。両国が日米同盟の重要性について再認識し、この時期を経て同盟関係は弱くなるどころか、強化されたと考えている」と述べた」(同)

さぁ、ナイが真逆なことを言っていますよ、どっちか正しいんでしょう、琉新さん。

ナイは、2007年にアミテージと一緒に出した、「第2次アミテージ報告」で膨張する中国を世界秩序の中で穏健に位置づけるためには、日本と米国の同盟関係が決定的に重要であって、在沖海兵隊は抑止力として不可欠だと言っています。

だからこそ、日米同盟のトゲになりかっている移設問題をさっさと片づけてくれ、さもないと大変なことになるぞ、と言っているのです。

ここには、何度か私も書いてきた普天間から動きたくないという米軍の本音が見え隠れしています。

狭くなる、滑走路は短くなる、普天間からの移動が大変だ、米軍にとって移設計画はなにひとついいことがないのです。

だから、移設案自体は潰れてくれてもかまわないが、かといってがんばっているパートナーの日本政府のメンツを潰したくない、そんなジレンマが、米国側にもあるのてす。

ナイが現役の国務省高官ならば、こんな琉新記事のような無責任なことは言わなかったはずです。

辞めて久しいから、米軍の本音の一部を言ったというだけです。

そして、その本音も、彼一流のバイアスがかかっているということです。

森本氏などの発言については、来週に続けます。

 

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コメント

おはようございます。
(おなじみの)移設反対論に丁寧に解説していただきありがとうございます。圧倒的な知識量に敬服します。ここより詳しい解説はなさそうです。
そして、ペースを乱してしまい申訳ありません。しばらくあまりコメントは差し挟まずに読ませていただこうと思っています。
「沖縄だけじゃないのです。横田、横須賀、佐世保などすべての在日米軍基地が東風21の射程に入っているのです。」については、そうなのだろうなあ、という感想です。今朝、訪米した習近平が旅客機300機を爆買したというニュースを観て呆れています。

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