常総水害 わかっていた浸水範囲と行政の失敗
常総水害はわが茨城県に、局地的ですが、東日本大震災に匹敵するような大きな爪痕を残しました。
●犠牲者
・死者 ・・・宮城県2人、茨城県2人、栃木県3人 計7人
・行方不明・・・茨城県15名
・けが人 ・・・宮城県2人、栃木県2人、茨城県22人
・住宅被害・・・1万5754棟
今、ネットやマスコミで一斉に様々な情報が出ていて、その中にはあらかじめ結論を定めてしまい、攻撃対象を政治的にしたいという思惑があります。
私はこれには賛成できません。まだ、遺体のすべてが発見されてもおらず、調査は始まったばかりです。結論めいたことを言う段階ではありません。
私はできるだけ、客観情報の積み重ねをして行きたいと思います。
では最大の疑問である、なぜ堤防がこの地点で崩壊したかから考えていきましょう。
知られているように、確かにこの地点はかねがね国交省も鬼怒川の危険地域としてマークしていた場所です。
国交省の水害推定マップをもとにした常総市ハザードマップは、皮肉にも今回の水害とほぼ重なります。
※常総市洪水ハザードマップ(鬼怒川)
この推定浸水地域によれば、「100年に一度」の大水が来襲した場合、常総市鬼怒川左岸(東側)はほぼ完全に冠水することは分かっていました。
※国土交通省関東地方整備局
(図 常総市の推定浸水範囲(左)と常総市洪水ハザードマップ 産経新聞9月13日より)
しかし、この常総市自身が作ったハザードマップは、なんの役にも立っていませんでした。
冠水範囲は、八間堀川沿いを中心に、2~5mに浸水深と予測され、市役所の周辺でも1~2mの浸水深と予測されていました。
もし、このハザードマップを役立てたいのなら、そもそも水没推定地域に市役所を建設するはずがありません。
(写真 NHKニュース12日7時より。以下8枚同じ)
もはや笑うべきことに、常総市役所は市民の避難場所として指定されていたにかかわらずあえなく浸水し使用不可能となりってしまい、庁舎電源が1.5mの位置にあったためにこれも停電。
玄関も水圧で開かず、駐車場にあった市の車両がすべて水没したために、わずか数キロ先の距離の高台の施設にまで自衛隊に非常食を取りにいってもらうというみっともなさをさらしました。
朝日新聞(9月11日)は常総市役所のうろたえぶりを、こう伝えています。
「避難場所となった茨城県常総市の本庁舎と隣接した議会棟も10日夜から、氾濫(はんらん)した泥水に囲まれた。
11日朝の段階で停電や断水が続き、食料を届けるのも難しい状況だ。避難した住民約400人や職員、自衛隊員、消防署員、報道関係者ら計1千人近くが夜を明かした。
市職員らは10日夕に持ち込んだ発電機で携帯電話を充電しながら、情報を集めている。11日朝になっても、建物玄関付近の水かさは大人の腰あたりまであった。扉には「2人がかりでやっと」(自衛隊員)という水圧がかかっており、出入りもままならない。
建物は昨年11月に完成したばかりの鉄筋3階建て。1階を避難所としたが、水かさが増したため2階に移した。近くから避難した会社員新井慎也さん(46)は「市役所は安全だろうと判断して避難してきた。もっと早く市役所が水につかりつつあると知らせてもらえれば、遠くに逃げられたのに」と話した」
思わず、原発でなくてよかったね、と言いたくなります。ちなみに、どうでももいいですが、高杉徹市長は脱原発をめざす首長会議とやらのメンバーです。
高杉市長は福島原発の「100年に一度」は許せなくとも、自分の足元の「100年に一度」はまったく見なかったようです。
※脱原発をめざす首長会議
市役所の無能ぶりは光っており、避難指示が遅れただけにとどまらず、あろうことか「西に向っての鬼怒川を渡って避難しろ」という、危険極まりない指示まで出す始末でした。(9月13日NHKスペシャルによる)
この避難指示の失敗により、破堤した三坂町付近の住民は、瞬時に濁流に呑まれて避難する余裕さえありませんでした。
さらに、人口密集地帯の水海道駅周辺の地域でも、事前シミュレーションでは、濁流に呑まれると分かっていながら避難呼びかけすらなかったようです。
そのために千人ちかい住民が被災することになりました。避難指示の失敗については、高杉市長も謝罪しています。
ではなぜ、この地点であったのか、ここが特別弱い箇所だったのかということですが、後述する土木学会調査団の山田正教授は、そういうわけではないと述べています。
さて、まず13日、山田正中大教授を代表とする土木学会調査団が現地入りし、調査を開始しました。
まだ現地の状況を視察した初歩的調査の状況のようですが、いろいろなことが分かり始めています。
※土木学会 - Facebook
「関東・東北水害で、土木学会の専門家や国土交通省関東地方整備局の調査委員会が13日、大規模な被害が出た茨城県常総市を訪れ、鬼怒川の堤防が決壊した現場を調査した。
同学会の山田正中央大教授は取材に、増水した川の水が堤防を越えてあふれ、外側の土手を削り取って決壊に至る「越水破堤」の可能性が高いとの見方を示した。
(略)となった。
山田教授によると、周辺の木に付着した泥が堤防の高さを超えていたため、越水した後に決壊したと判断。「あふれた水が非常に速いスピードで堤防を下って浸食したのだろう」と話している。この地点から決壊した理由については、さらなる調査が必要との認識を示した」(日経新聞9月13日)
ここで、調査団の山田教授(中大理工学部河川・水文研究室)が示した見解は、堤防の越水破壊の可能性です。
この越水破壊とは、増水した川の水が堤防を越えてあふれ、内側(※)の土手を削り取って決壊に至るものです。※間違って「外側」と書いてしまいました。ご指摘を頂戴してわかりました。もちろん内側です。
この越水破壊のメカニズムを見ておきましょう。NHKニュース13日7時のニュースは詳細にその経過を報じています。
上の写真は山田教授が、現地でメモ書きしたものですが、堤防破壊はこのようなプロセスで発生します。
①堤防に河川の水が満水近くまて押し寄せます。
②一部の水が堤防の先端を乗り越えて溢れだします。これが越水現象です。
③さらに越水が増して、堤防は役割を果たさなくなります。越水した高速の濁流は堤防の内側の基盤を崩し始めます。
④越水した水のエネルギーによって、堤防は内側から崩壊を開始します。
⑤堤防は内側からの崩壊により薄くなりもはや、外から流れ込む水のエネルギーに耐えられず、全面崩壊します。
このように、今回の常総水害は、「100年に一度」といわれた大災害が、100年どころかひんぱんに襲来するものであり、その備えがまったく出来ていないという意味で、人災の側面もあることを教えました。
次回に続けます。
■扉写真 大雨後のわが村の湖畔の水。冠水したために稲穂が水についてしまっている。稲刈り直前で、商品にならない稲も多く出た。
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コメント
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越水から始まる堤防決壊は、防ぐ事がある程度可能です。
それは、越水が始まったら、人海戦術で土嚢を積むのです。実際、常総市の下流では、越水が始まった瞬間から土嚢を積み始め、難を逃れました。(TVで放映)鬼怒川越水の最初の映像がここでしたが、堤防決壊を免れたのです。
こことは対照的なのが、常総市(旧石下町)です。常総市の市民は、越水しても土嚢を積まず、呑気にビデオ撮影をしていたのです。
しかも、チャンスは何時間もありました。越水が午前6時30分。決壊が午後0時50分ですから、6時間20分の長時間に及ぶチャンスがあったのです。
ところが、住民は何もしなかった。これが、堤防決壊の真相です。市長の無為無策は勿論ですが、実際に被害を受けるであろう住民すらも、何もしていなかったのです。
最後に、笑える内容を報告しましょう。常総市の防災センターとして作られた建物を検索してみて下さい。何と!お城の格好をしているのです。(ここも周囲が水没)現在の建築技術では、最も効率が良いのが箱型です。ところが、常総市の防災センターは、最も効率が悪く、金がかかる、”お城”、なのです。
この様に、無駄な所に金をつぎ込み、肝心な堤防工事をやらない。それが常総市だったのです。
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しかし、驚いたのは、国土交通省の洪水シミュレーション技術です。決壊と同時に”何時間後にはこうなる”という精密洪水予測が出されたのです。実は、これ、ブログ主さんも指摘していますが、決壊場所がシミュレーション通りの場所だったので、シミュレーション資料をそのまま掲載した訳です。決壊場所の地図には、×印が2点ありますが、赤のマジックで書いた場所が決壊場所。印刷の×印がシミュレーション予測の場所。誤差は僅かでした。
実は、同様の事が和歌山県水害で起きた深層崩壊でも言えます。21世紀に入って、台湾で豪雨による深層崩壊が起きました。これを受けて、日本全国の地形を調査し、深層崩壊の危険箇所を地図上に記入しました。この作業、地形を考え、地図を見ながらの作業です。はっきり言って気が遠くなります。5年かかって、この作業が終わった矢先に、和歌山の水害が起きたのです。正に、地図通りの場所で深層崩壊が起きました。
国土交通省、汚職の温床ですが、それは”上の人間”の話。現場の人間は、信頼できる仕事をコツコツやっている様です。
ただ、疑問なのは、
雨が降る⇒下流が溢れる
という簡単な図式から、上流の豪雨から下流の水害は容易に予測できた筈です。
何故、それができないのか? 答えは簡単。雨量計測は気象庁。川の氾濫は国土交通省で、
”部署が違うから”
です。最近は、アメリカもそうなっていると聞き及びますが。(笑)頭のいい人がトップに立たないと、ダメですねえ。
投稿: PAL | 2015年9月14日 (月) 22時26分
堤防の内側と外側について、守るべきものがある方が内側です。住宅などがある方が内側で川がある方が外側になります。勘違いしている人が多いと思いますが自分もそうでした。
投稿: さばっち | 2015年9月16日 (水) 06時12分
PALさん、勉強と笑いをありがとうございます。
堅牢であるべき防災センターがガラス張りなんて愚かですね。
安藤先生のデザインだったりして。
一方で話題のヘーベルハウスは完璧に「箱」でしたね。
上に余計なものを付けずに基礎に金を掛けたのですから慧眼です。
しかしそのように新旧の住宅が混在していると自治会や消防団が機能しないという弱点はありそうです。
投稿: プー | 2015年9月16日 (水) 08時46分
まさに河川の氾濫原な地形。堤防の強化、地域の嵩上げ、道路の土盛り。やらないと。また来ると思う。那須の水害の時にも下流で溢れる直前までいった。
投稿: あ | 2015年12月11日 (金) 23時33分
百年ぐらい前常総線ができて,ある程度人が集まり小さな街ができた。
それがこの地域の取り残される原因になった。また災害に弱い地域になった。
これからは豊岡地域(台地になっている)に公共施設,また住宅を誘導していけば百年後は安全な街になるでしょう。
投稿: | 2020年10月 9日 (金) 20時55分
その通りです。
投稿: 佐久間 一夫 | 2021年10月21日 (木) 22時08分
客観的にみて、小貝川と鬼怒川の間は住宅地、工業用地としては適していません。
農業、道路として利用すべきです。
ましてや市役所の立地場所は豊岡などの台地に移転すべきです。
投稿: 佐久間 一夫 | 2024年4月16日 (火) 21時52分