死滅に向う中国大陸 その2 想像を絶するカドミウム汚染の進行
早く出来ればいい、大量に取れればいい、金にさえなればなにをしてもかまわない、そういう拝金主義が農業全体を覆い尽くしました。
そしてその手段としてもっとも手っとり早かったのが、化学農薬と化学肥料の過剰投入です。
農民にとって化学農薬・肥料は、当時中国政府が力を入れていた重化学工業の副産物としてかつてなく安価に入手できるようになっていました。
他の諸国の農業のように、基本の土づくりを積み上げた上で、補完的に使用するのではなく、無原則無制約に大量投入されました。
14億の人口の大半を占めるといわれる農民の化学農法への驀進は、いままでいかなる時代の、いかなる国も経験したことのない想像を絶する環境公害をもたらしました。
(図 中国の国土への窒素の流入と環境への流出量の経年変化 農業環境技術研究所 スケールが日本の10倍となっている※http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/Rres_CH_K(3).html)
そしてそれは長年、中国政府の情報統制主義によって、完全に闇の中に消えていたのですが、突然に明るみに出ます。
※http://www.recordchina.co.jp/group.php?groupid=69668&type=
それは2013年のことで、レコードチャイナ(2013年2月21日)が、BBC中国語サイトの情報として間接ながら初めての内部情報を明るみに出します。
「中国には環境汚染が原因でがん患者が多発する「がん村」が100カ所以上存在している。
中国環境保護部が発表した「化学品による環境リスク防止・制御に関する第12次5カ年計画」(計画)によると、中国政府は第12次5カ年計画(2011~2015年)中に人体や生態環境に深刻な影響を及ぼす化学・工業汚染物質3000種以上に対し、全面的な防止・改善措置を施す予定だ。中国には生産過程で使用する化学物質が登録されているだけでも4万種以上あり、うち3000種余りが危険な化学品として今回リストアップされた」
この「ガン村」というのは、かねがね中国環境問題の研究者にはその存在があると言われていた存在でした。
これはかなりの数あると思われていましたが、中国環境保護部自らが「100箇所以上ある」ことを認めたのです。
まず公害は、日本の代表的公害病の水俣病がそうであるように、公害発生点の農漁村に現れます。
それは水俣のように工場廃液の場合もあったり、農業自らの化学汚染もあります。
公害物質は静かに土壌や水に蓄積され、連鎖し濃度を高めながら水系に沿って汚染を拡大していきます。
水俣病の場合は、 最初に猫や犬が狂い、村で正体不明の病人や死人がポツリポツリと出はじめます。その時には土も、水も、食べ物も一切が汚染されており、その汚染は胎児にまで拡がっています。
そして米や野菜、あるいは水を通じて、都市住民にも黒い影を伸ばして行くようになります。
やがて、地方都市が変色した川とスモッグで覆われ、首都すらも金星のような有毒ガスの濃霧で覆われる頃には、実は全土が公害で覆い尽くされており、この汚染連鎖の最終局面なのです。
(写真 2013年2月撮影のNASA衛星写真。画面中央右の白いスモッグ帯に小さな白字でBeijingとあるのが北京。スモッグの海底に完全に沈んでいるのが分かる)
首都北京のPM2.5汚染は中国の公害の始まりではなく、その汚染の鎖の最終部分にすぎません。
さて、まずはこの表から御覧ください。中国の重金属汚染データです。
これは中国長江河口付近で採取された検出データです。
残念ながら、採取採取地点、日時、採取者が明らかになってません。明らかになれば、いっそう信憑性が高まるのですが、具体数値に乏しい中で貴重なデータだとはいえます。
というのは、中国政府は一貫してこのような土壌汚染を隠匿し、いっさい公表してきませんでした。
長江河口と言うことですから、上海近辺の長粒米を作る産地のものだと思われます。長粒米は昨今の経済成長で、従来のものよりおいしいということで生産が増えています。
河口付近は、河から流れて来た汚染と沿岸からの汚染がクロスする場所で、高度な汚染が出やすい場所です。
さて、この表の右端が我が国の環境基準値(02年制定)です。我が国の基準値と比較してみます。
・水銀 ・・・244倍
・鉛 ・・・3500倍
・ヒ素・・・1495倍
・カドミウム・・・4.2倍
・BHC ・・・59倍(※DDTと並んで国際的に検出されてはならない使用禁止農薬)
このような地域で生活すれば、水銀を原因とする水俣病が、確実に発生しているはずです。
(図 中国の河川水窒素濃度分布の推定結果 農業環境技術研究所 約50kmメッシュごとに推定 長江デルタなどの河川周辺の汚染のすさまじさがわかる。隣に日本列島が同一縮尺であるので、較べていただきたい。我が国の半分以上に等しい面積が汚染されてしまっている。この最終年が12年前なので、今はもっと進行していると考えられる。※http://home.hiroshima-u.ac.jp/er/Rres_CH_K(3).html)
水俣病は、感覚障害、運動失調、視野狭窄、聴力障害などが発症し、重度の場合は脳障害や、死に至るケースが多発します。
カドミウムを原因とするイタイイタイ病も間違いなく発生しているはずです。この症状は、骨の強度が極度に弱くなるために、わずかに身体を動かしたりしただけで骨折します。
くしゃみや医師が検診のために腕を持ち上げた抱けて骨折する場合もあり、身体を動かすことすら出来ず寝たきりとなります。
(写真 イタイイタイ病の除去の完了を伝える2012年の地元紙。実に発生から40年以上かかっている。いかに公害汚染の除去が時間とコストがかかることなのかわかる。中国人は、今後一世紀以上かけても現在の国土汚染をぬぐい去ることはできないだろうと研究者は言う)
イタイイタイ病は、神通川下流域の富山県婦中町(現・富山市婦中町)で1910年から1970年にかけて多発した公害病で、患者が骨の痛みに耐えかねて「痛い、痛い」と泣き叫んだことから命名されたものです。なんと哀しい病名でしょうか。
この原因は、神通川上流にある岐阜県飛騨市にある三井金属鉱業神岡鉱山亜鉛精錬所から、精錬工程で出た廃液中のカドミウムが、下流の富山県婦中町周辺の土壌を汚染したために起きました。
カドミウムは米に濃縮されるために、米を通して水系周辺のみならず広くカドミウム汚染を拡げます。
富山県イタイイタイ病の場合、基準値を超えた米、野菜を食べ、地下水を飲んだ住民にカドミウム蓄積により発生しました。
魚介と違って主食の米や野菜を媒介とするので、販路も広く有機水銀より複雑な汚染経路を辿ります。
規模的にも、日本の場合は水俣病はチッソ水俣工場と昭和電工鹿瀬工場、そしてイタイイタイ病は三井金属工業神岡事業所と特定できる数の工場廃液が原因でした。
それに対して「中国水俣病」と「中国イタイイタイ病」の原因となる水銀やカドミウムは、いまの時点では見当すらつかないほど多種多数の工場、鉱山から排出されていると考えられます。
それを考えると、中国の報道による09年の湖南省カドミウム汚染米事件で2名死亡、500人余りがカドミウム中毒などはほんのわずかな露顕した事例にすぎないと思われます。
長くなりましたので、中国国内のカドミウム汚染は次回に続けます。
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