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2015年10月12日 (月)

TPP交渉大筋合意 「完全敗北」だって?

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まぁ、予想どおりの農業界と野党の反応がきています。 

10月6日付のJA準機関紙である日本農業新聞の1面トップは「『聖域』大開放」の大見出しですが、この見出しは、予定原稿かと思うくらい、記事の中身はボルテージは存外低いものです。
http://www.agrinews.co.jp/modules/pico/index.php?content_id=34918 

気を吐くべき解説では。「まさかここまではと思っていなかったろう」と書きながら、かんじんの個別具体的分析には至らず、「相応の需要を奪われる可能性を否定できない」と書くに止まっています。 

あとは、「重要5品目の聖域の約束に違約しただろう」というものですが、これは建前であることは、とっくにJA自身もわかっていたはずです。 

1800品目12ヶ国の多国間協議を2年間やってきて、日本の要求だけが満額で通る道理がないことなど、子供じゃないんだから分かりそうなものです。 

Photo (写真 WEDGE Infinityより)

民主党はこんなことを言っています。
 

「今回の『大筋合意』なるものは、とうてい国益にかなっているとは思えない」民主党の玉木雄一郎衆院議員がこう述べている。衆院農水委員会理事を務める玉木氏は、10月1日にはアトランタに立ち寄り、会合の様子を観察してきた。「この時、日本の代表団はとてもヒマそうにしていた。すでに“闘い”を放棄しているように見えた。守るべきところを守らず、攻めるべきところは攻め切れていない」。確かにその内容を見ると、「完全な敗北」といっていい」(東経10月12日)
」※http://toyokeizai.net/articles/-/87681 

「完全敗北」ですか。責任がなければ、なんでも言えますね。

TPP交渉参加国で、自分の要求だけを完全に勝ち取った国はありません。

あの米国ですら、「歴史的功績」といわれる反面、ヒラリーやトランプに叩かれています。他国において、おやです。

玉木氏が、10月頃に訪米した時に日本代表団が「とてもヒマそうに見えた」のは、日米で合意の筋道ができてしまい、あとは米国vsオージー+NZとの協議が最後まで残ったからにすぎません。

そこに至るまで、フロマンUSTR代表は、米韓FTAを引き合いにして、自動車の安全基準や環境基準を引き下げようとし、怒った甘利氏が「日本は属国ではない」と机を叩く場面もあったといいます。(産経2014年12月14日)

これが国益をかけた交渉なのです。戦時における「完全勝利」のゼロサムゲームがない代わりに、「完全敗北」もまたないのです。

妥協と折り合いをどこでつけるのか、という利害のせめぎ合いの産物なのです。

ですから、今回の結果を「大勝利」という奴がいたら馬鹿ですが、一方「大敗北」という人がいたら、それもまたプロパガンダなのです。

Photo_4(写真 2010APEC横浜会議でTPP参加を対外公約してしまった菅首相。国内はおろか、与党内部でさえまったく議論がない独走だった) 

民主党は、共産党と「反自民民主統一政府」でも作りたいようですから、思い出させてあげましょう。

TPP協議参加へと舵を切った張本人は、他ならぬ民主党政権ですよ。もう忘れましたか。 

2010年11月、APEC横浜会議で、「日本は鎖国している。第3の開国だ」とぶち上げたのは、民主党菅政権です。

菅氏は、東日本大震災や福島事故がなければ、やる気満々でした。

「焦点となっているTPPへの交渉参加に向けて「国内の環境整備を早急に進めるとともに、関係国との協議を開始する」と表明し、「自由貿易を進めるとともに、農業改革を進める」と語った。農業については「このままの状態では将来の展望が開けない。質の高い食品を海外に輸出することができる競争力のある農業をめざして改革を進めていく」との考えを示した」(ロイター 2010年11月13日)
TPP「協議開始」を表明、「平成の開国」めざす=菅首相| Reuters 

菅政権がやれば、「完全勝利」だったとでも(笑)。馬鹿いっちゃいけない。もっと惨憺たるものになったはずです。 

そもそも民主党には、自民党に輪をかけて農業政策そのものが欠落しています。 

政権時にやったことと言えば、「農家戸別所得補償政策」という税金のバラ撒きだけでした。それも内実は財政的裏付けがなかったために、ただの旧態依然たる減反奨励金の復活に終わりました。 

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一方、自民党農水族はこんな状態のようです。 

「農村に地盤を持ち、来年改選を迎える自民党の参院議員からは、「これでは選挙は戦えない」との悲鳴が聞こえている。
「大筋合意」に関しては、野党は秋の臨時国会での審議を求めているが、これには与党は消極的で、11月9日から11日までの閉会中審査のみを提案している。これはゆゆしき国会軽視、日本国民軽視だと玉木氏は主張する」(東経同じ)
 

自民党農水族、つまりは事実上のJA農水族のことですが、今のままの農業でやっていけると本気で思っているなら、どこかがおかしいと思います。

日本農業=JAではないのです。JAは確かに日本農業の背骨のひとつですが、すべてではありません。

JAが大量に抱え込んでいる兼業農家(※)を保護することが、日本農業を守る唯一の道ではないのです。自民党農水族は、いつもその混同をしています。
※JA単協により、兼業農家の比率は大きく異なります。ここでは一般論で書いています。

とっくの昔に無関税でやってきた養鶏家の私など、輸入枠が5.6万トン(13年目以降は0.84万トン上乗せ)増えた程度で、何をこうまで騒ぐのかと思いますね。 

おそらく、とうに無関税同然で元気な野菜や果樹農家も同じ意見でしょう。 

この民主党農水族玉木氏は、こう言っています。

「いまは日本の食用米が余っている。農家に1アールあたり10万5000円の補助金を出して、わざわざエサ米を作らせている状況だ。これ以上外国から食用米を輸入すれば、備蓄バランスが大きく崩れ、最終的にはコメを安価に大量放出しなくてはならず、その差額は税で埋めることになる。これではかつての食糧管理制度に逆戻りになってしまう」

私は、こういう玉木氏のような農水族の、「日本農業壊滅論」は聞き飽きました。 

エサ米なんていう転作奨励をしたために、かえって地域の米のブランド゙力が落ち、今まで味と品質にこだわってきたものが、エサ米で捨て作りまがいに転落したとも聞きます。

こんなものは、時間と金をかけた日本農業の自殺、いや安楽死です。 

米玉木氏のように「食用米が余っているから、エサ米に」という発想そのものがダメです。

こんな姑息な彌縫策でなんとかなるほど、日本の米作りが抱えた矛盾は小さくはないし、これではただの兼業農家維持政策でしかありません。

農水省は、兼業農家の自然減を待っているのですよ。 

そもそも、今のようなコメの高関税は、国が生産カルテルを結んで事実上の減反政策を続行しているから生れたのです。 

こんな米だけ馬鹿げた高関税にしておくから、日本農業全体までもが鎖国していると見られて、経団連から邪魔者扱いされたり、外国からの攻撃対象になってしまいました。まったく迷惑な話です。 

その上、中途半端に食管制度をハズしたために、本来、関税に代わって別の支持制度を作らねばならないはずなのに、肝心なそこがおろそかになりました。 

このような「日本農業壊滅論」は、農業界の永遠の繰り言のようなもので、今まで繰り返し何かの節目には登場します。 

91年の牛肉自由化、94年のガット・ウルグァイ・ラウンド交渉から明らかなように、農産物は何度も自由化を経験してきていますが、政府がなんの手も打たなかったことはこれまで一度もありませんでした。 

ウルグアイラウンドはその象徴です。その時に、農業界を黙らせるために投じられたのが、実に6兆100億円です。 

日本の国防予算が単年度で4兆9801億円ですから、いかに馬鹿げた巨額な税金を「農家なため」に使ったのかわかります。 

ここまでして結局、農業は強くなったのかといえば、ノーです。これは農水省も認めるでしょう。

農家数を見れば分かるように農家数は減少に歯止めがかかるどころか、いっそう激しくなっています。

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(図 農水省農業経営動向)

強くなるどころ4兆円かけて、弱くかっているのです。

こしかし、これは農家数にのみ着目した数字で、農業を年に2週間ほどやっているにすぎないパートタイム農家、つまり兼業農家が減っただけなのです。

Photo_2(図 福井県大野市HPより)

上図は米所の福井県の1970年と2010年の専業農家と兼業農家の推移を比較したものですが、専業農家は1970年と比較して約2倍に増えていますが、兼業は激減しています。
  

全国的にも、専業数は維持されており、一方兼業は急減しています。これがよく「日本農業壊滅論」者が言う、農家数3分の1以下になったと言う根拠です。 

つまり、兼業は激減しましたが、日本農業の中核部隊である専業農家は少しずつですが増えているのです。 

これを「農家数の激減」と言いくるめるほうが、現状の農業を知らなさすぎます。 

あえて言いますが、サラリーマンが片手間でやる米作りが減ったから潰れるというような日本農業ならば、そのようなものに生き残る価値はありません。 

村のしがらみでイヤイヤやっているような今の兼業農家ではなく、今後10年先までしっかりと後継者が継げる農家経営こそ大事にすべきなのです。 

彼らに対しての支援は、惜しんではなりません。それが直接支払い制度です。

今までのように薄く広くパートタイム農家までにバラ撒くのではなく、重点的に支出せねば死に金になります。 

ヨーロッパや米国はとうの昔からこの直接支払い制度で鎧おっています。日本だけが「皆んなで渡れば怖くない」という<高関税-減反-兼業農家依存>というぬるま湯を続けてきたのです。 

玉木氏は「差額を税金で埋める」と言いますが、財政負担と直接支払いのどちらが税負担が大きいのでしょうか。 

有力なTPP反対論者の鈴木宣弘東大教授は、TPPによって巨額な財政負担が生じ、農業全体で4兆円、米だけで1兆7000億円必要となる、と主張しています。 

一方、農水省はTPP反対の根拠数字として、関税が撤廃されると、農業全体の生産額は4.1兆円減少すると試算しています。 

農水省が言う4.1兆円の生産額減少分を維持するために、鈴木教授は4.兆円の財政負担となると言っているのです。

私は思わず、笑ってしまいました。 

つまり、農水と鈴木教授の言うとおりなら、差額0.1兆円で売り買いできる農産品を、4兆円もかけて税金で維持している、ということになります(苦笑)。 

こういう言い方を、再び農水族はTPP以後の農業補償要求で出して来ると思われますが、悪いことは言わないからお止めなさい。 

「守るべきは守る」というならば、むしろ政府支援の重点を、既存の兼業農家から、経営感覚をもった専業農家に重点配分した農業改革を進めるべき時なのです。

「守れ、守れ」の籠城戦で、守れたためしはありません。 

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コメント

北海道の農家数41.9千戸の内、専業農家26.4千戸(63%)、第1種兼業11.1千戸(26%)、第2種兼業4.4千戸(11%)となっており、全国的或は記事にある福井県の状況とは大きく違っています。
温暖化か品種改良の賜物か、北海道米の評価も高まって来ている事は事実で、石狩・空知(札幌近郊)や上川(旭川近郊)では稲作が盛んです。
以前は十勝にも田んぼが沢山ありましたが、今は「減反政策」により一部が残るのみです。
減反奨励金の権利を持ったまま、畑は賃貸し本人は公営住宅で悠々自適な人も存在しました。(減反奨励金が見直されたのは賛成です)
農業に対してお金を使うのは良いのですが、使い方は本当にやる気のある農家に支援した方が効果的ですし、新規参入も期待でき、農家戸数の減少も防げるのではないでしょうか?
TPPによる外圧で固い殻を破る事が出来れば、ピンチをチャンスに出来るのでは?

コメント、ありがとうございます(涙)。
おっしゃるとおり、北海道は本土とは構造が違います。北海道で兼業がすくないのは、いいことです。

農業をやる気がある人の手にというのが、私のかんがえです。理念や国の方針でやるのではなく、「いい金を儲けようぜ」で良いのです。
「やるな,作るな」、でどうして農業が伸びて行きますか。やる気の出る農政が必要なのです。

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