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「管理された戦前」の開始と辺野古移設問題

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辺野古で工事が再開されました。 

まるでこの日を狙ったようにして、米国の「航行の自由作戦」(Freedom Of Navigation OPeration・ FONOP)が実施されました。 

マスコミは例によってシュアブ・ゲート前の「市民の声」ばかりを取り上げて、あくまでも視野を沖縄と本土政府に限定したいようです。

私は、辺野古移転問題が、単なる移転問題にとどまらず、米軍基地全体の意味を問われる時代に入ったと考えています。

つまり、今、南シナ海で始まろうとしている事態との関連で見なければわからなくなる時代に入ったのではないでしょうか。

フィナンシャル・タイムスはこう伝えています。

Photo_4(写真 ファイアリークロス礁での基地施設建設状況。大型機が発着できる3千m級軍用滑走路が見える。JBpress)

Photo_2写真 ファイアリークロス礁の中国軍事基地。もう完成寸言で、滑走路は舗装され、標識まで記されている。おそらく年内に完成し、戦闘機部隊が移駐すると言われている)

「ラッセンによる作戦行動は、米国海軍が2012年以降、中国が領有権を主張する島の周辺12カイリ内を航行する初めてのケースとなる。狙いは、米国政府は南シナ海の人工島に対する領有権は一切認めないということを示すことにある。
国際海洋法は、国が自然な島の周囲12カイリ内の領有権を主張することを認めているが、人間の建設活動によって海面上に持ち上げられた暗礁周辺の領海を主張することは認めていない。
中国は過去2年間で、岩礁や環礁の周辺数千エーカーを浚渫することで、南シナ海に5つの人工島を建設した。
1つの人工島――ファイアリークロスと呼ばれる岩礁――では、アナリストらが軍用機を扱えると見る長さ3キロの滑走路を建設した。中国は海軍と沿岸警備隊を増強するに従い、南シナ海での巡視活動について強硬になっていった。南シナ海の海上交通路は世界の貿易のざっと30%を扱っている。」
(フィナンシャル・タイムス10月26日)

今回の「航行の自由作戦」は、半年以上前から米海軍はホワイトハウスに実施を要請してきましたが、すげなく却下されてきました。 

その理由は、習近平との米中会談において直接にオバマが習を説得する前に、海軍を動かしたくないという、オバマの気持ちがあったと言われています。 

例によって例のごとく、腰が引けて、状況がいっそう悪化するまで動けない人です。この人物のおかげで、どれほど世界が不安定化したことか。

それはさておき、このオバマの期待は空振りに終わったようで、オバマは習との会談が決裂した直後に、ホワイトハウスから直接、米太平洋軍司令官に作戦の許可を電話したと言われています。

これによって、南シナ海の情勢は、外交的ペンディング状態から、一気にエンジンがかかった「管理された戦前」へと突入したことになります。

ただし、このエンジンは全開ではなく、いわばアイドリング状態にすぎません。それが軍事的に「管理された」と呼ばれる状況で、外交と軍事力行使の中間線だということです。 

現時点では米海軍の狙いは、国際法に則って、国際法を無視し続ける中国に対して、航行の自由を確保することにあって、戦争そのものではありません。 

それは、投入した艦船が、アーレイ・バーク級駆逐艦「ラッセン」であったことでわかります。
アーレイバーク級ミサイル駆逐艦 - Wikipedia  

Photo_3(写真 米海軍イージス艦ラッセン)

産経はフライングぎみに、「日米共同パトロール」とか、「新安保法制の適用」などと言い始めましたが、あまり煽らないで頂きたいものです。 

米国にも日本政府にも、そこまで突っ込んだ軍事行動をする意志はないのですから。 

もし今回、米国が中国の海洋膨張を、軍事的に潰す狙いがあったのなら、初めから空母ロナルド・レーガンを中心とした空母打撃群を使います。 

ただし、シンガポール港には中東から帰還した空母「セオドア・ルーズベルト」が寄港しており、万が一に備えていたようです。

また、「ラッセン」の上空には、P-8ポセイドン哨戒機が飛行して、警戒活動を実施していました。

今回もし、ただの意志表示に終わらせる気ならば、イージス艦を使わずにドック級の輸送揚陸艦でも済んだはずです。 

どちらも使わずに、トマホーク巡航ミサイルを装備し、いつでも地上目標を攻撃できる能力をもったイージス艦を投入したのは、この南シナ海の無秩序をコントロールするのが目的だからです。 

つまり、「空母未満・輸送艦以上」という米国のメッセージは、市民語にすれば、おそらくこのようなものだったはずです。 

「中国さん、オレのほうから攻撃する意志はないが、出方によってはそれなりの対応をするぞ。この海域はいろいろな国が領有権を主張し、シーレーンも通っているデリケートな海域なんだ。だから、お前の好き勝手にはさせないぜ。国際法は米海軍が保証する」 

これを裏付けるように、米国は今回の作戦を周辺国に事前通告してから実施しています。 

フィリピン、ベトナム、マレーシア、日本などの国は、事前に実施を通告を受けいます。

米国は日本と協力して、来月に控えるG20首脳会議と、アジア太平洋経済協力会議(APEC)首脳会議で、この作戦を担保にして、中国を完全に封じ込めることを狙っています。

もう一点は、作戦実施範囲が予想以上に大きいことです。

当初の予想では、中国が20年前頃より不法占拠しているミスチーフ礁に対して行なうと見られていましたが、暗礁の上に構造物を乗せた人工島のファイアリークロス礁とスービ礁に対しても行なわれています。

Photo_5

上図は韓国の離於島の概念図ですが、水面下に満潮時でも、岩礁が潜っているのが「暗礁」です。

この上にいくら構造物を乗せたり、埋め立てても、とうぜんのことながら国際海洋条約では違法建造物にすぎず、もちろん「領土」とは見なされません。

暗礁の定義です。

「暗礁(あんしょう、sunken rock)とは、水面下に隠れる岩礁のこと。(略)
海図では、岩礁を潮の干満を基準に「水上岩」「干出岩」「洗岩」「暗岩」と区別し記号や数字で表す。この内、水上岩を除くものが暗礁である。暗礁は島ではないため、国際法上国の領有権は主張できない」(Wikipedia)

中国は、スビ礁、ミスチーフ礁などの暗礁の上をコンクリートで固めて、これを「神聖な領土」として半径12海里を「領海」として勝手に定めてしまいました。

そして他国がこの海域に進入するに際しては、中国当局の許可が必要だと宣言しています。

言ってみれば、勝手に他国の敷地に強引に入り込み、コーンをポンポンと置いてロープを張り、これがオレの海だ、と宣言したわけです。

あんた、ジャイアンかって。

Photo_11
中国側にもとりあえず法的根拠があって、それが1992年2月に制定したいわゆる「領海法」です。

この中国領海法第2条にはこうあります。

「中華人民共和国の領海は、中華人民共和国陸地領土と内水(内海)に隣接する一帯の海域である。
中華人民共和国の陸地領土は、中華人民共和国の大陸およびその沿海島嶼を含み、台湾および釣魚島(尖閣諸島)を含む附属各島、澎湖列島、東沙群島、西沙群島、中沙群島、南沙群島および中華人民共和国に所属する一切の島嶼を包含するものとする。
中華人民共和国の領海基線は陸地に沿った水域をすべからく中華人民共和国の内水(内海)とする」
(主席令7期第55号」「中華人民共和国領海および毘連区法)

おいおい。勝手に他人様の領土に線を引いておいて、全部オレ様のものだと宣言するなよ、と周辺国のすべてが思いました。

しかし、猛烈な周辺国の抗議にもかかわらす、軍隊を派遣して勝手に「実効支配」してしまったわけです。

Photo_8(写真 「神聖な領土」の岩礁の上でイチビっている中国軍。どんなに悪いことをした兵隊なんだろうね。この上に兵舎を作り、ブイを周囲に回し、やがてコンクリート工場まで備えた「島」にしてしまった)

この領海法条文に書いてある島嶼と岩礁、暗礁を繋いでいったのが、悪名高き「中国の赤い舌」と呼ばれる南シナ海の海域です。

ちなみにこの海域を通過して、我が国のシーレーンが走っています。

このような水域を国際法を無視する中国に握られることが、一体なにを意味することになるのか、考えるまでもないことです。

Photo_6(図 中国九段線。別名中国の赤い舌。この赤線内はすべて中国領海だと主張している)

まったく無茶ぶりも極まれりですが、仮に百歩譲ってそれを中国の「神聖な領土・領海」と認めたとしても、そこの無害通航権はすべての国に対して与えられています。

国際海洋条約第19条-2は、その領海を民間船は言うに及ばず、軍艦(潜水した状態を除く)すら航行する権利を、無害通航権として認めています。
海洋法に関する国際連合条約

ただし、領空は別で、領空に軍用機は無断で侵入することはできません。

しかし今回は、イージス艦上空を哨戒機が飛行していますから、米国は徹底してこんな自称「領土」は認めないということです。

長々と説明してしまいましたが、これは米国と中国との「新冷戦」の開始を意味します。

「冷戦」である以上、周辺国には中立という選択肢は存在しないことになります。

このような情勢下で、翁長氏の移転反対闘争が繰り広げられているということを、しっかりと私たちは押えておいたほうがいいでしょう。

翁長氏の今後の行動が、中国側についているのか、それとも日本の政治家のものなのか、鋭く問われる時代が目の前にまで来ています。

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コメント

米軍が「Freedom Of~」という作戦名を付ける時はかなり本気度が高いです。

今のところ駆逐艦1隻での様子見ですが、中国の出方次第では荒事に発展しないとも限りません。
ちょうどたまたまローテーションでペルシャ湾から本国に帰る途中だった空母セオドア・ルーズベルトがシンガポールで待機していますし、一方では演習中だった第7艦隊のロナルド・レーガンにはロシアの哨戒機が異常接近したり。
そのようなキナ臭い地域に日本も存在しているということを考えて俯瞰して見なければなりません。
日本の立場は確定してますが(もちろんイキナリ共同作戦とか言うのは極端すぎる)、韓国さんはどうするつもりなのやら。

おそらくは経済的悪影響が大きすぎるので衝突を避けるために米中で落とし所を探っているところでしょうが、どうなっていくのかは注視しなければなりません。


駆逐艦ラッセンっていうから、舷側や艦橋をド派手な色彩のイルカの絵でも描いたらいいのに…。

投稿: 山形 | 2015年10月30日 (金) 07時39分

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