中国大気汚染は、根深い構造上の問題だ
毎年恒例の中国の大気汚染について、NHKニュース(12月9日)はこう伝えています。
「国営メディアは、3億人以上が影響を受けていると伝えているほか、「大気汚染の主な原因は、冬の暖房のために石炭が各地の農村で燃やされているためだ」と指摘し、根本的な解決には時間がかかるという見通しを示しています」
では、どうしてこの初冬という時期になると、かならず極度の大気汚染が始まるのでしょうか。
日本で冬になると、特に大気汚染がひどくなることはありません。しかし、中国の場合、季節の便りよろしく大気汚染が到来するわけです。
原因は、たぶん、お考えになっているとおりです。寒くなって、家庭がガンガンとストーブを燃やすからです。
それが、通年ある自動車の排気ガス、工場の煤煙の上にオンされるわけです。
それを13億だか、14億だか知らないが、政府が自分の国の正確な人口数さえ把握できていない数の国民が吐き出すのですから、たまったものじゃありません。
しかも北京は、緯度が日本の東北と同じくらいにある上に、冬は乾燥しきった天気が続きます。さぞかし身体に悪いでしょうね。
実際に、中国では障害児の出生率が2001年以来40%も上昇しています。明らかに開放改革路線による無計画な工業化が背景にあるのは明らかです。
http://tekuteku-beijing.seesaa.net/article/409982078.html
上の写真は、中国の家庭で使っている石炭です。粉にして丸く巣型にすると練炭になります。
これをボイラーで燃やして、煙突で室内に引き込んで温めるのですが、工事がいいかげんで、よく一酸化炭素中毒を起こすそうです。
ただし、庶民の家は穴だらけなので、そう簡単に死なないそうでよかってですね。
価格は粗悪な代わりに安価だから、ガンガン燃やします。
石炭は、中国の主エネルギー源です。理由は簡単。国内で大量に採れるからです。
石炭は中国にとって、自給可能な貴重なエネルギー源なのです。
石油は世界の原油をガブ飲みしていますし、今、南シナ海を要塞化しているのも、彼らのオイルレーンがここを通過しているためでもあります。
こんな苦労をしてまで手に入れている原油に較べ、石炭ははるかに容易に入手できるエネルギー源です。
ですから、中国の石炭に対しての強依存体質は半永久的に治癒することはないでしょう。
http://www.garbagenews.net/archives/1967000.html
数字を押えておくと、上のグラフの緑色が石炭です。
おわかりのように、各国の中で群を抜いて高い依存度です。中国は石炭に、エネルギー源の66%(2014年現在)を依存しています。
これでもずいぶんと発電や製造業は、石油や天然ガスシフトが進んでいるので、2年前までは石炭の依存度は8割を越えていました。
http://www.garbagenews.net/archives/1872203.html
中国は世界最大の石炭生産国(2011年度)であり、同年の石炭 生産量は35億トンを越えました。
これは世界総生産量の46%あたり、輸入量も世界一ですから世界総消費量のほぼ半分は中国が消費していることになります。 と
はいえ、現在中国は資源枯渇の悩みと、さらなる採掘の深度化という難問に直面しており、輸入を増大させています。
http://www.brain-c-jcoal.info/worldcoalreport/S01-01-03.html
「2004年以降輸出抑制策が取られ、輸出量は2003年をピークに減少する一方、輸入はベトナム炭を中心に増加している。輸出石炭の品質については、輸出管理制度問題と共に異物混入などの問題も指摘されている」
(ワールドコールレポートvol11)また中国の工場や火力発電所は、甘い環境基準の上に排ガス対策装置が不十分です。我が国ならば稼働すら許可されない施設ばかりだと言われています。
その上、仮に装置がついていても経済効率優先で、浄化装置を止めて操業するケースが多く共産党機関紙・人民日報ですらこう書かざるを得ないようです。
「不純物を多く含む石炭を燃やしている。この時に煙を浄化する装置の稼働率が低い。この煙には毒性がある」
また中国国内の主な産地は陝西省、山西省、内蒙古自治区などで、この地域の名物は炭鉱のガス爆発と、石炭成金だといわれているそうです。
あ、もうひとつ大事なものを忘れていました。炭鉱暴動です。
これは日本のメディアはほとんど伝えないのですが、劣悪な労働環境に怒った炭鉱労働者が暴動を起こすもので、毎日のように国のどこかで起きているとさえいわれています。
上の写真は2015年4月6日に起きた、黒竜江省鶴崗市七台河市の炭鉱企業・龍煤集団の数千人のストライキです。
デモ行進で市政府を取り囲み、未払い賃金の支払いなどを要求しました。
武装警察の激しい弾圧にあって多くが逮捕されましたが、翌7日にも再びデモに立ち、市政府を包囲して周辺の交通を遮断する暴動にまで発展しました。
同じような炭鉱暴動は 同時期の4月8日に、やはり黒龍江省鶴崗市で同じ龍煤集団の1万を超えるクビになった炭鉱労働者が、正規の退職金の支払いなどを求めてデモを行い、これも暴動にまで発展したようです。
この労働争議の数字は中国は公表していませんが、表面に出ただけで下図のように激増しています。
もちろん、これは氷山の一角にすぎず、地方人民政府が争議として認定するのはごくわずかでしかありません。
西側マスメディアの無関心によって、世界に報じられることもほとんどありません。中国政府にとって、自由主義諸国に知られさえしなければ「なかった」ことなのです。
http://www.meti.go.jp/report/tsuhaku2006/2006honbun/html/i2318000.html
さてここで掘り出された石炭は、良質なものは輸出に、悪いものは国内向けになります。
中国国内で使われる質の悪い石炭には硫黄分が多く、PM2.5が国産か中国から飛来した物質には、分析すると石炭由来の硫黄分が多く含まれています。
庶民に回って来るのは、この中国でも最低ランクの低品位炭だと思われます。
この粗悪石炭を、中国東北部の黒竜江省、吉林省、遼寧省、華北の北京や天津などまで一斉に、10月の国慶節前後から使い始めるのですから、どうなるのかはご想像どおりです。
国民は、働きに出ないわけにはいきませんから、防衛方法としてはN95マスクを着ける以外身を守る方法がありません。
しかし、例によって例の如く、中国の乳児用粉ミルクのような品切れと偽造品騒ぎが起きているようです。
日本に爆買いにやって来る中国人観光客は、今頃N95マスクを大量に買い占めていることでしょう。
もちろん転売して儲けるためにですが。
このように中国の大気汚染は、極めて根深い構造上の問題です。したがって、解決することは、相当に難しいというしかありません。
北京で大気汚染に対する赤色警報が出て、外出が規制され、車での移動も禁止される事態になっています。
大都市周辺の工場などは操業の短縮に入っています。この方法でしか、抗日70周年軍事パレードを挙行することすらできませんでした。
もちろん、こんな対処療法とも言えぬ、供騙しの方法が、長続きするはずがありません。
そうこうしている間に空気のみならず、北京郊外数十キロまでゴビ砂漠の端が迫っています。砂漠化もすさまじい勢いで進展しているのです。
この解決には、抜本的な公害対策が必要です。
そのためには、まずは現状の公害排出工場を操業停止にすることです。そして、厳重な罰則規定つきの環境規制法を実施し、過去に環境汚染をした当該企業に浄化を命じることです。
しかし、中国にはできません。
理由は、金にならないからです。そうでなくても、ダブついた供給能力を持て余し、在庫の山を作っている中国経済に、この抜本策は不可能です。
共産党の唯一の存在理由であった、「経済成長」神話が根底から崩壊してしまうからです。
もし、そのような環境政策をしたら、企業は軒並み倒産し、大量の失業者を吐き出し、流民が巷に溢れ、彼らは政府に牙をむくことでしょう。
かくして、中国の役人たちは、今日もはげ山に緑色のペンキを吹きかけて、それを環境政策と呼ぶのです。
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今朝のTV番組でマスクを爆買いする中国人観光客が出てました。
N95マスクではありませんでしたが。
私は仕事の関係でN95マスクを時に使用しますが、きちんと装着するとかなり息苦しく、20~30分が限界です。
N95マスクを装着して長時間の労働や通勤など考えられません。
中国に生まれなくて良かった・・・
(と言っても中国から飛んでくるわけですが)
投稿: 山口 | 2015年12月10日 (木) 23時48分