プーチンはつらいよ
この間の撃墜事件についての状況については、池内恵氏のまとめがあります。(欄外参照)
※BBCアップデートhttp://www.bbc.com/news/world-middle-east-34912581
プーチンはあいかわらず、口では既に戦争を始めたいような口ぶりです。
トルコを「テロの擁護者」と呼んだかと思えば、「テロの共犯者による背後からの攻撃でロシア兵の命が失われた」と、もう言いたい放題のように聞こえます。
このへんの言い回しは、計算された罵倒だから、割り引いて6掛くらいで聞いて下さい。
日本人は思ったことの6掛にして控えめにするのが美徳ですが、ロシア人は4割増していどで叫ぶのが流儀です。
ですから、プーチンはパイロットを殺害した、トルクメン・ゲリラと、それを支援するトルコまでも一括して「テロリストとその共犯者」で括ってみせます。
もちろん、プーチンはトルクメン人ゲリラが、ISと戦っているのは百も承知ですし、そもそも、彼らの頭上に執拗に爆弾を降らせて虐殺行為を続けてきたのは、他ならぬロシアでした。
一方的な加害者でありながら、何か不都合なことか起きれば、直ちに無辜の被害者ヅラができるところが、さすがに元KGBです。
トルクメン・ゲリラのロシア軍に対する尋常ならざる憎悪は、降下してきたパイロット2名にぶつけられました。
上の映像は、撮影された一連の映像から切り取ったものです。
ふたつのパラシュートが見えますので、脱出には成功していましたが、待ち構えていたのが、常日頃彼らが爆撃を続けていたトルクメン系住民だったのが、彼らの悲劇でした。
とまれ、結果として、この2名のパイロットは殺害とみられますが、このあたりの任侠映画もどきのセリフを、この顔で言う凄味が、プーチンという人物の真骨頂です。
任侠映画と言いましたが、あながち冗談ではなく、プーチンの政治手法はすべてに芝居がかっています。
たとえば、ロシア旅客機テロ事件後に、IS掃討を発表したのはロシア国家防衛指揮センター(NDCC)と呼ばれる、中央作戦室でした。
ここは、米国との全面核戦争用に設けられた中央指揮所で、こういう言い方はナンですがIS如きテロリスト相手に持ち出す場所ではありません。
中国新華社は、このNDCCについて、さすがはプー大人とばかりに、こう報じています。
「戦時の政府」と呼ばれるロシア国家防衛指揮センター(NDCC)は12月1日に作戦当番状態に入っている。国家安全への威嚇の対処を担当するNDCCは有事になると、国家を接収管理する。ロシア国防省が昨年5月に、プーチン大統領の設立決定を発表し、今年1月に工事開始し、一年未満で完成して発足した。
NDCCには、ロシア全国の最優秀の指揮官が集まり、最先端のデータ処理システムを採用され、核爆弾発射命令を下す権力も与えられる」(2014年12月3日)
この出来て1年足らずのNDCCのスーパーオーロラビジョンには、海軍のスラブァ旧巡洋艦や戦略爆撃機から発射される巡航ミサイルを映し出しています。ああ、くどい。ウォトカの一気飲みだ(苦笑)。
使用された爆撃機も、実に芝居がかったものでした。
有志連合軍が使うような小型戦闘爆撃機ではなく、すべてが核戦争用の戦略爆撃機だったのですから、世界は唖然としましたが、多くのロシア国民はその凛々しさにかつてのソ連時代を思い出して胸を熱くさせたことでしょう。
上の写真は、核爆発に対応するために白色塗装された「白鳥」ことTu-160から、ISの「首都」ラッカに発射される巡航ミサイルですが、こんな戦略爆撃機はこのような時に使うものではありません。それを百も承知で、オバマだったら無人攻撃機など使ってしまうところを一大政治ショーとしてIS攻撃を開始しました。
ちなみに、このカスピ海から発射された巡航ミサイルは、イラン領を通過しています。
これは事前にイランの了承なくしてはできないことです。イランは、憎きスンニ派テロリストの根絶を目指しているので、まぁ当然のことだと言えるでしょう。
また米国にも、大量の戦略爆撃機を動かすことについて、事前通告しています。この辺は国際社会のしきたりを知らない中国と違って、スマートです。
さてところが、実はプーチンは内心、ISとこのようなガチンコ勝負をしたくはありませんでした。
まず第1に、ロシアにとってISとは、ある意味で大変に都合の良い存在だったからです。
ISは、ロシアが目指すアサド政権の安定にとってジャマな反政府ゲリラを叩く絶好の口実を与えてくれていました。
ロシアはIS掃討に名を借りて、もっぱら反政府勢力の自由シリア軍や、トルクメンゲリラを集中的に攻撃してきたのです。
しかも、その爆撃方法が、西側と違って民間人ごと市街地を吹き飛ばすという粗暴なものでしたから、住民側に強い恨みが生れました。
一方、親の心子知らずというか、ISも頭上を飛び交うロシア軍機に恨みを募らせていたらしく、ここで起きたのがロシア旅客機テロ事件でした。
「ロシア連邦保安局(FSB)のボルトニコフ長官は11月17日、10月31日にエジプト東部のシナイ半島で起きたロシア機の墜落について「間違いなくテロだった」と断定した。残骸の調査の結果、最大でTNT火薬1キロ相当の手製の爆発物が機体に積まれていたことが分かったという」(朝日11月17日)
ここで注目願いたいのは、ロシア連邦保安局が、テロから17日間もたってから、渋々とテロだと認めていることです。
プーチンが、「地球のどこにいようと彼らを見つけ、処罰する」と息巻いたのが、事件後17日も後では、224名も自国民を殺された事件にしては、あまりに遅すぎます。
これは、疾風雷神を好むプーチンらしくありませんね。
第2の理由として、実はこの同時期に、ロシアは赤恥をかかされていました。例の8月から続いていたロシア陸連ぐるみのドーピング問題が起きていたのです。
「11月9日、スイスのジュネーブで行われた記者会見で、第三者委員会の責任者を務めたWADAのリチャード・パウンド元会長は険しい表情で調査を振り返り、ロシアの陸上界での組織的なドーピングを認定しました」(NHKニュース11月11日)※http://www3.nhk.or.jp/news/web_tokushu/2015_1111.html)
日本ではあまり大きく報道されていませんでしたが、このドイツのテレビ局が暴露したロシアのドーピング疑惑の破壊力は、ソ連時代から国際競技大会を国威発揚の場として堅持してきたロシアを直撃しました。
つまり、ロシアの場合、ひとりの不心得者の仕業ではありえずに、競技者の背後に陸連、すなわち国家そのものが絡んでいたからです。
この問題で窮地に立たされていたプーチンにとって、旅客機テロはできれば事故であったほうが嬉しかったのです。
(写真 墜落したロシア旅客機の残骸。ハフィントン・ポスト11月4日より)
そうすれば、この旅客機を作ったフランスのエアバスのせいに出来ますし、変に真相が分かってしまえば、ロシア空港職員が手先だなどとばれて、恥の上塗りになってしまいます。(実際、真相は内部の手引きのようですが)
ところが、なんとご親切にも、英国が爆弾テロですと明言してしまいます。
「ハモンド英外相は4日、キャメロン首相が開いた治安対策会合の後、機内の爆発物が墜落の原因になった可能性が「かなり高い」との結論に達したと述べた」(ハフィントンポスト11月4日)
※http://www.huffingtonpost.jp/2015/11/04/story_17366_n_8475472.html次いで濡れ衣を着せられかかったフランス当局も、同じくテロと断定します。
まったく余計なお世話を、とプーチンは内心舌打ちしたことでしょうが、ここまで証拠が上がってはもう逃げられません。
かくして、プーチンは内心は渋々と、しかし見た目には凛々しくISとの「全面戦争」に突入したわけでした。
そしてその鼻柱を叩き潰すように起きたのが、このトルコ空軍機による撃墜事件だったわけです。
このようにプーチンの心理を、この間起きた出来事と絡めてみれば、到底彼がトルコと全面戦争などできるわけがないのがわかるでしょう。
プーチンはつらいよ。
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■資料 池内恵フォーサイト 11月22日
「ロシアは領空侵犯の期間が9時24分からの17秒であるといった事実について争っていない。
また、トルコ軍機がシリア領に一瞬たりとも越境せず追尾できたとは信じがたい。
降下するパラシュートに対してシリアで地上から銃を乱射する様子を撮ったとみられるビデオ映像や、地上でロシアのパイロットらしき遺体を囲む反政府勢力の映像も流通している。シリアのトルクメン人部隊の副司令官とされるアルプアスラン・ジェリク(Alpaslan Celik)という人物がパラシュートの残骸を示し、パイロットは2名とも銃撃で死亡したと言う。
トルクメン人部隊のジャーヘド・アハマド(Jahed Ahmad)は地上に降りる前にパイロット1人は死亡していたという。しかしトルコ政府からは2名とも生きているという情報が出ており、錯綜している」
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組織的ドーピング問題といえば、旧東ドイツが有名でしたが(私、あの美しいカトリン・ドレクスラーのファンでした)、
90年代末中国の『馬軍団』が世界の話題になりましたね。もう、やることがコスイというか露骨に「名声のためには何でもアリ」ってのが目に余ります。
当時、飲み仲間で「別カテゴリーで、ドーピングも遺伝子操作も何でもアリの大会やったらいいんじゃね?」なんてワイワイやってたのが懐かしいです。
投稿: 山形 | 2015年12月 1日 (火) 10時07分
ドーピングと言えば、1980年代の世界的アスリートへの聞き取り調査で「ドーピングで金メダルが保証されるなら5年以内に死んでも良いか」の質問に半数が「イエス」と答えたとか。
バレていないだけで世界的な問題でしょうから、このタイミングでロシア狙い撃ちというのは大いなる作為を感じますね。
投稿: プー | 2015年12月 1日 (火) 12時30分
本日のBBCの報道によると、プーチン大統領は「トルコがロシア機を撃墜したのは、ISからトルコへの石油密売ルートを守りたいからだ」と発言したようです。
実際のところ、どうなのでしょうか?
投稿: 山口 | 2015年12月 1日 (火) 13時13分
アア、やっとテーマのコメントが来たぁ(泣笑)。常連さんたち、ドーピング方向に行っちゃわないでね。
さてHN山口さん。もちろんプーチンのいいがかりですよ。
プーチンはトルコへのミサイル攻撃の代わりに、口撃をしているのです。
ほんとにやったら、NATO+米国を相手にせにゃなりませんからシャレになりません。
だから、もっぱらタダの口撃です。
エルドアン氏は、直ちに「もしトルコが関わっていたなら辞職する」と言い返したそうです。
ただし、これは正確にいえば「トルコ政府が」です。
とうぜん、民間で様々な密売チャンネルはトルコ側にあるのは公然の秘密ですから、広い意味で「関わって」はいるでしょう。
また、トルコがアサド政権憎しのあまり、ISを放置していたのも事実ですし、そのためにシリア国境線を甘い管理に置いていたのもほんとうのことだと思います。
しかしそれをプーチンがいうようなトルコ政府ぐるみで、ISの密輸に絡んでおり、その権益保護のためにロシア機を落したとまで言うのは、完全にオーバーなプロパガンダにすぎません。
それを言い出すと、ロシアが後押ししているアサド側も大量にIS原油を買っているとされており、おあいこです。
さらにそもそも論を言うなら、米国が初期にISを育成したのは事実ですし、その後もしっかりしていないからこうなったので、そういう言い方をすると広義でオバマも「関わって」います。
フランスでさえも、旧宗主国ですから無関係とはいえません。
つまり、関係諸国できれいな手はいなくなります。だから、ISのテロを前にして、こういう暴露合戦は止めるべきなのです。
それにしてもCOPの場でやるというのが、プーチンらしくエグイ。フツーはやらないよね。
投稿: 管理人 | 2015年12月 1日 (火) 15時14分
■皆様。お気づきの方もいらっしゃると思いますが、現在、執拗な荒らしにあっています。
それは機械的に無意味な貼り付けをする方法で、削除しても次々にIPを変えて侵入してきます。
内容はなく、ただヘブライ語の不動産情報だったりします。
朝からすでに20本以上削除しています。
どのような者がそれをしているのかわかりませんが、卑怯卑劣の極みです。
なにが楽しいんだ。馬鹿野郎!
このような荒らしは沖縄問題に限って生じています。
正直申し上げて、基地反対派によるものとしか考えようがありません。
こんなことをする人間は、すればするほど、私がファイトを燃やすのが分からないのでしょうか。
この人物は、人間をみくびっています。
投稿される皆様にご迷惑がかからないようにするつもりですが、あまりひどい荒らしがあった場合、その日のコメント欄を閉鎖する場合がありますのでご承知おき下さい。
投稿: 管理人 | 2015年12月 1日 (火) 16時50分
エルドアン氏も有る事無い事言ってくるロシアに言い返しながら別所で撃墜を悲劇と表現したりと、頑張ってますね。
日本や欧米からの感覚ではトルコの政教分離がもう今にもスタンダードになるかなるべきだと思ってしまうのですが、実はイスラム社会では西の端っこの少数派。中東の産油国に比べるとお金もないけれど、イスタンブールの文明交差点力(変な命名ですみません)は伊達ではないはずと期待しています。
朝生でそもそも誰が悪いかネタを出し合ってましたが、ホント不毛です。
投稿: ふゆみ | 2015年12月 1日 (火) 17時25分
ふ、ファイトを燃やすってウケました(^^)が、目ですよ目!休めてくださいね!まだ全然術後養生期ですよ!
投稿: ふゆみ | 2015年12月 1日 (火) 17時28分
トルコもやり返しているようですね。ボスポラス海峡とダーダネルス海峡を封鎖するとかなんとか。艦船だけで民間までブロックするわけではなさそうですが。
https://twitter.com/dovernjtaurus/status/671266360962523136
落としどころはどうなるのでしょうか。
管理人さん、いつも御苦労さまです。反戦平和主義者(ではないかもしれませんが)好戦的な人が多いですね。
投稿: クラッシャー | 2015年12月 1日 (火) 17時54分
管理人さま。目のほうは大丈夫なのでしょうか?
クラッシャーさん。その通りですよ。彼らは平和平和と叫ぶ時、必ず「闘うぞー。勝ち取るぞー。」と連呼してますものね。戦う事がお好きな方々だとつくづく思います。
この場所はおばぁにとって素晴らしい勉強の場として活用させて頂いております。
管理人さま。
あまりご無理なさらないように。
投稿: 沖縄のおばぁ | 2015年12月 1日 (火) 23時19分
冒頭のススキの写真、ぐっときました。
光が透き通る感じがすごくいいです。
荒らしが多いのは、このブログの論旨がしっかりしており、容易に反論できないからでしょうね。
一部左翼の幼児性を見る思いです。
お身体を大切に。
投稿: エラエラ | 2015年12月 3日 (木) 13時22分
エラエラさん。ほんとうにススキって難しい!
どうやって撮ったらいいんでしょうね。まだ迷っています。
荒らしについてご心配おかけしています。心底張り倒したくなります(笑)。
正々堂々とくれば、いくらでもお相手するのに、無言電話みたいで、ほんとうに卑劣極まります。
そういえば、かつて放射能騒ぎの時に、ほんとうに荒らしまくられましたっけね。
あれで、私はすっかり左翼に懐疑的になってしまいました。不毛なことです。
投稿: 管理人 | 2015年12月 4日 (金) 16時38分