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2015年12月17日 (木)

中国大気汚染黙示録 その3 驀進する巨大複合汚染体

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コメントでいくつか、「中国に、かつての日本の公害が激甚だった頃を学んでほしい」というご意見を頂きました。お気持ちはよく分かりますが、正確ではありません。 

今回の中国のPM2.5などがあると、よく年配の日本人は、40年ほど前の日本を思い出して、「ああ、昔はうちの国もこうだったよ」などと言いますが、そんな生やさしいものではありません。

現在中国で発生している公害は、かつて日本人が段階的に約120年間かけて経験した様々なタイプの公害が、一挙に絡まり合って数十年のスパンで凝縮して、一挙に大爆発しているのです。

青年期の頃、私は宇井純先生の「公害原論」の講座の聴講生でした。 

ちょうど重慶の視察から帰られた先生の第一声を,今でもはっきり覚えています。 

「君たち、中国で今後、膨大な数の水俣病が生まれるかもしれない。いや、もう多数の患者がいるはずだ。ありとあらゆる化学廃液がなんの処理もされないまま川に捨てられている。有機水銀、カドミウム、六価クロム、鉛・・・。
市当局に忠告したが、まったく聞いてもらえなかった。今、中国は公害を止めないと大変なことになるぞ」

 宇井氏は、中国において、すべての分野の公害が同時に発生し、複雑に絡まりながら相乗していると語りました。 

中国の公害が解決困難なのは、公害がひとつひとつのカテゴリーの中で解決されることなく、放置され続けた結果、積み重なってもつれあ合い、手がつけられなくなっているからです。 

さて公害病はその原因により、いくつかのタイプに分類されます。 

足尾鉱毒型(鉱山産廃型)日本でもっとも古いタイプに属するのは、鉱山の廃液などによる重金属汚染です。 

たとえば日本での代表例は、日本が19世紀に経験した栃木県足尾銅山で発生した鉱毒事件です。 

「精錬時の燃料による排煙や、精製時に発生する鉱毒ガス(主成分は二酸化硫黄)、排水に含まれる鉱毒(主成分はイオンなどの金属イオン)は、付近の環境に多大な被害をもたらすこととなる」(Wikipedia下写真も同じ) 

Photo_2

 中国においては、たとえば広西チワン族自治区陽朔県興坪鎮思的村や、広東省大宝山鉱山周辺で発生したガンの多発などは、まさに足尾鉱毒そのものです。 

Photo_2

  (Google Earth 広西チワン族自治区陽朔県興坪鎮思的村)

 思的村は険しい山あいの村で、流れが急な思的河が流れています。この村の水田は思的河を水源としていますが、村の上流15キロメートルに鉛・亜鉛鉱山と加工工場があり、これが汚染源です。  

同工場の規模は大きなものではないのですが、1950年代に採掘を開始した頃にはほとんど環境浄化施設がなく、カドミウムを含んだ鉱山廃水を思的河に垂れ流しました。  

それを知らずに下流の思的村が灌漑用水としたことで、土壌にカドミウムが蓄積されていきました。 

因果関係は明白です。この村では確実にイタイイタイ病が大量に発生しているはずです。 

中国内部情報紙サーチナ(2011年10月14日)はこう伝えています。 

「湖南省国土資源規画院基礎科研部の張建新主任によると、同省住民7万人の25年間にわたる健康記録を調べたところ、1965年から2005年にかけて、骨癌や骨に関係する病気の発生率が上昇傾向にあった。重金属が深刻な株洲地区住民の血液や尿に含まれるカドミウムは通常の2-5倍に達した。」(同)

水俣病型(工場排水型) 加工工場の排水や産業廃棄物からの重金属汚染です。

Photo_4

わが国の1950年代から19760年代前半の4大公害病は、すべてこのタイプ゚に属します。

・熊本水俣病(1956年・水質汚染 有機水銀)
・新潟水俣病(1964年・水質汚染 有機水銀〕
・四日市ぜんそく(1960年~1972年 大気汚染 亜硫酸ガス)
・イタイイタイ病(1910年代~1970年代前半 水質汚染 カドミウム)

中国はこのタイプの公害も、現在進行形で多数発生しています。 

沙瑣頴河(さえいが)流域河南省周口市沈丘県の農村部で見られた、消化器系のガン、死産や乳幼児死亡率の急増し、先天性進退障害などは、工場排水による4大公害病の水俣病やイタイイタイ病に酷似しています。 

Photo_3Major rivers and counties with cancer villages, China, 2009 「主な河川に沿ったガン村および郡」) 

上図は、セントラル・ミズーリ大学のリー・リウ(Lee Liu)氏の2010年論文「Made in China: Cancer Villages」が作成した中国のガン村」の地図です。 

右端の凡例には、公式に政府が認めたものであり、下の紫色のグラデーションが、非公認の「ガン村」です。 

中国における7割以上の河川、湖沼などに「ガン村」が発生しているのが分かります。

確認できるだけで459箇所、重工業化が進んだ東部の河北省から湖南省までの地帯だけで396カ所存在します。

患者は行政や企業によって門前払いを受け、沈黙を余儀なくされています。村民や家族も、農産物が売れなくなるので、外部に患者が出たことすら隠蔽しています。 

おそらく中国全土の「ガン村」は、まともな調査をすれば天文学的数に登るはずてす。

化学農業型 化学農薬や化学肥料の過剰投入による土壌・水質汚染です。 

下図は、上海の揚子江河口付近の米の土壌の分析データです。 

Photo

  (「週刊文春」による。データの採取方法、場所などは不明) 

上図の右端が我が国の環境基準値(02年制定)です。我が国の基準値と比較してみます。

●揚子江河口土壌は日本の基準値の何倍か
・水銀 ・・・244倍
・鉛   ・・・3500倍
・ヒ素・・・1495倍
・カドニウム・・・4.2倍
・BHC   ・・・59倍(※DDTと並んで国際的に検出されてはならない使用禁止農薬)

とんでもないケタのDDT、BHCです。これは農業が出所です。日本では1970年代に禁止されています。

さらに農業のみならず、工場由来だと思われる水銀、鉛、カドミウムもすさまじいケタで検出されています。

典型的な工業と農業の複合タイプです。

このような地域で生活したり、農業をすれば、水銀を原因とする水俣病や、カドミウムを原因とするイタイイタイ病が、高率かつ、大量に発生しているはずです。 

Photo_5

大気汚染型 今、騒がれているPM2.5のケースです。 

日本においては、四日市ぜんそくや川崎病などの形で現れました。

これはディーゼル車などの自動車排気ガス、石炭火力の煤塵が原因である四日市ぜんそくと、都市公害の複合汚染です。

中国との関連でいえばこの川崎病は現在の我が国でも小児を中心に多く発症しています。

ちなみに川崎病の名称は、地名ではなく、この呼吸器病と取り組んだ川崎医師の名です。

Photo_6http://blogs.scientificamerican.com/より)

五本木クリニックの桑満医師(※)は、川崎病についてこう述べています。
※間違って表記していたので訂正します。もうしわけありません。

「この川崎病ですが、原因物質は特定されていませんが、世界中に拡散する経路として日本からアメリカにまで広がっているために風の流れ(対流圏)などの調査をした場合、その流れと川崎病の発症数が強い関連性があることは以前から指摘されていました。
今回の論文は原因となる物質があるのなら、原因物質が発生する場所があるはずであるとう仮定から川崎病の発症データと気流のデータを分析したことによって、ついに発生源を突き止めました。それがやはり以前から噂されていた中国の北東部の穀倉地帯だったのです」

川崎病については別途記事にする予定ですので、 しばらくお待ちを。

それに加えて、近年のダム建設や道路建設による開発公害、リゾート建設公害、14億を越える人口爆発による砂漠化、草原破壊、そして地球規模の気候変動まで加わっています。

誇張でもなんでもなく、日本がこの百数十年で経験した、ありとあらゆる公害のすべてが、一国で爆発的に進行しているのです。 

これが公害専門家をして、「中国は公害のデパート」、あるいは「公害の生きた博物館」といわれるゆえんです。 

このような、足尾などの古典的公害、水俣、イタイタイ病などの工業が原因の公害に加えて、都市公害、気候変動までが同時噴出するのが、「中国の公害」です。

一口で「中国の公害」と一括りにできないことや、日本の公害経験と安直に重ね合わせられないことが、お分かりいただけたでしょうか。

日本においては、公害列島と言われながら、ひとつひとつの公害病を解決をしてきました。

不十分であるにせよ、患者を調査し、救済し、公害工場を操業停止させて、長い時間かけて破壊された環境を再生した歴史があります。 

その積み重ねによって、皮肉にも、日本は世界一の公害処理技術を有しています。

中国では、解決なきままに放置され地下に潜り、積み重なり、絡まりあって更に巨大な複合汚染体を作り出してしまったのです。 

なお、中国政府は、公式には水俣病やイタイイタイ病は「ない」ものとして扱っています。 

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コメント

初めてコメントさせて頂きます。

この、中国の国土の重度の汚染と密接に繋がるのが、日本の「食」です。

食糧の多岐に渡って、中韓産で溢れかえっているのが日本の実情です。

政治的事情があるのでしょうが、食と生命は直結する問題ですから、
このような国から大量の農作物や魚介類、またその加工品を輸入する日本は、どうなんでしょうか?

改めて恐怖が湧いてきました。
いつも、的を得た記事を感謝致しております。

 宇井先生 懐かしいですね。先生は東大講師時代に駒場で自主講座を開いていまして、なんどかお邪魔したことがあります。その後沖縄大学教授でしたか。ご健在であればどのようにおっしゃるでしょうね。

中国産業構造の深い闇に暗澹とした気持ちになります。
多少の景気減速はあっても、環境を守る大切さはかつての日本が「悪い例」としてよく分かってるはずなのに、「目の前の利益と一党独裁賄賂経済」ではどうにもならないのでしょうか。

一介の人さん。
外食や中食なんかそれこそ中国野菜や加工食品だらけですし、
特にピーナッツなんか…最近は目に見えて品質劣化が激しいですが、要は日本の相対的な地位低下による買い負けと生産サイドの増長です。この辺は公には言えない事情が色々とあるのですが…。
それ以前からもう農薬大量投入なんて常識だったんてすけれども、内々で揉み消されていたのですわ。お察し下さい。国内でも価格競走でしたから。

規模の大きさとスピードがちがいすぎて昔の日本やどこの国とも重ねきれない、と昨日コメント入れようとしていましたが、わたしが書くと1行足らずで終わってしまうf^_^;)記事を読みながら考え直す事ができ今朝も感謝しております。
中国北部と内陸部は乾燥した気候で雨も少なく、重金属の問題は今工場をストップしても既に取り返しつかない量がその場にずっととどまる事になります。土地を100年単位で放棄するしか解決策はないように思います。
大陸の河川は日本の川のように豊かな降雨で地下水や土壌を洗い流してくれないですね。日本が公害苦から救われたのは努力研究プラス気候の恵みなのだと、大陸に住むとしみじみ思いました。多摩川にはアユが跳ねていますがライン川の貝や小魚は食べる気しないです。

山形さま

わざわざ、ありがとうございます。

事は単純ではありませんね。

とりあえず、
家族の食は、出来る限り守らねばなりませんから、
産地、原産地を確認の上確認して、買い物しております。

ピーナッツ…
山形さまの仰る通り!
しかも国内産は異常に高値です。おいしいのに…

管理人さま、横道逸れたコメント、失礼致しました。

皆様のお邪魔にならないように、たまにコメントさせてくださいませ。

管理人さま、皆様、宜しくお願い致します。

こんにちは。
久々にコメントさせていただきます。

公害問題はいずれ政府も認めざるを得なくなると思いますが、認めたところで解決は難しいでしょうね。
どんなに立派な法律や規制を作っても、守らないのが中国ですから。
政府主導で地道な調査と対策を施さない限り解決できないでしょうが、国民を使い捨てのようにしか考えていない中国政府には不可能な芸当でしょう。

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