大乱の一年が始まった
中東においては、サウジとスンニ派諸国がイランと外交的断絶関係に入り、一触即発の様相を呈しています。
一方アジアにおいては、上海総合指数は絶望的落下を再度開始し、それをあざ笑うかのように北朝鮮が核実験を行いました。
(写真 平壌で昨年10月撮影(2016年 ロイター/Damir Sagolj)
この核実験の第一報は、中国の地震観測当局からの発表でした。中国への事前通知もなかったようです。
中国と北朝鮮は、去年暮れ12月にモランボン楽団が公演を急遽中止した時から、危険ゾーンに入っていました。
「【北京=城内康伸】北朝鮮の金正恩(キムジョンウン)第一書記の指示で結成された女性音楽グループ「牡丹峰(モランボン)楽団」と朝鮮人民軍の「功勲(コンフン)国家合唱団」が十二日、同日夜に予定していた中国・北京での公演を急きょ中止し、メンバーの一部は空路、帰国の途についた。理由は不明だが、両団体が北京入りした十日、北朝鮮のメディアは第一書記の水素爆弾関連発言を伝えており、中止との関係を指摘する声がある。中朝関係修復を象徴する公演が土壇場で水泡に帰し、中朝関係には再び暗雲が立ち込めそうだ」(東京新聞 2015年12月13日)
金正恩はモランボン楽団が北京に到着したその日を狙って、朝鮮中央通信を使ってこう述べています。
「わが国は今日、自衛の核爆弾、水素爆弾の巨大な爆音を響かせることができる強大な核保有国になった」
これに怒った中国共産党指導部は、幹部の公演参観中止を決定し、それに北朝鮮が反発した形で楽団撤収という報復に出たようです。
そしてそれからわずか1か月もたたぬ内に、北朝鮮はこれ見よがしに、事前通告なし、無警告で核実験をしたわけです。
このような行為を、ツラ当てと言います。
その中国の驚きぶりを、毎日新聞(1月6日)はこう伝えています。
「【北京・井出晋平】中国外務省の華春瑩副報道局長は6日の記者会見で「情勢を悪化させるいかなる行動も停止するよう求める」と北朝鮮に自制を求めた。また、在北京の北朝鮮大使を呼んで抗議する方針も明らかにし、強い不満を示した。だが、踏み込んだ制裁措置については明言せず、「(朝鮮半島の安定は)6カ国協議が唯一実現可能で有効な道筋だ」と従来の方針を繰り返した。
中朝関係は北朝鮮の3回目の核実験(2013年2月)で急速に悪化したものの、昨年10月の朝鮮労働党創建70周年には中国共産党の劉雲山政治局常務委員(序列5位)が訪朝。金正恩(キム・ジョンウン)第1書記の初訪中に向けた調整が水面下で進むなど、関係改善の兆しが見えていた。習近平指導部は、弱まっていた北朝鮮への影響力を取り戻す思惑があったとみられるが、今回の核実験も中国側は事前に知らされておらず、メンツをつぶされた形だ。」
中国はなにひとつ制裁措置をとることなく、「(朝鮮半島の安定は)6カ国協議が唯一実現可能で有効な道筋だ」と言っていますが、北朝鮮がこの枠組みに復帰することは、いまの段階では相当に高いハードルとなりました。
日本国内にも従来から漫然とあった、中国だけが北朝鮮に物資を供与しているパトロンだから、中国の言うことだけは聞くはずだと思う錯覚は、この際きっぱりと捨てたほうがいいようです。
そして、北朝鮮軟化による日朝国交正常化という淡い期待も、一瞬で吹き飛びました。
非常に悔しい思いで一杯ですが、拉致被害者奪還交渉は、ここで事実上終了したと見るべきでしょう。
さて、北朝鮮は水爆といっていますが、正体は不明です。もしほんとうならば、いままでと違って強力な核爆弾を得たことになります。
「北朝鮮が初の水爆実験を行ったとの発表は驚きをもって迎えられたが、韓国の国防省次官は6日、北朝鮮の核実験について、水爆を使用したとは考え難い、との認識を示した。同省のキム・ミンソク報道官も記者団に対し、「詳細に分析した後に判明するだろうが、われわれは4回目の核実験で(デバイスに)少量の水素が加えられた可能性があると理解している」と述べた。」(ロイター1月6日)
また、真相は分かっていませんが、北朝鮮は既に核爆弾の小型化と、海中発射型ミサイルの実験も行っています。
下はそれを伝えるCNN(2015年5月9日) ですが、ただしご安心下さい。これはそうとうに眉唾モノだと言われています。
(写真 出所不明)
とはいえ、彼らが指向しているものははっきりと分るでしょう。
実戦的な核武装能力の獲得による、独裁体制の維持を目的とした、日本、韓国そして中国といった周辺国に対する核による軍事的恫喝です。
これは北朝鮮の立場に身を置けば、分かりやすいはずです。
北朝鮮という新興宗教国家にとってもっとも怖いのは、人民が餓死することでも、凶作になることでもありません。人民の代わりはいくらでもいるし、食料や燃料などは中国が渋々分けてくれるに決まっているからです。
彼らがもっとも恐れるのは、金一族による支配体制の変革です。
しかし、核保有国が「お前の国の独裁体制、なんとかなんねぇの」とスゴまれたら、なすすべがありません。
核を保有していなければ、当然やられっぱなしであり、反撃の余地はありません。
そこで、毛沢東よろしく「パンツを履かないでも原爆を作る」というのが、金日成以来の国家的悲願でした。
そして人民などいくら飢えて死のうと、河が年中氾濫しようと知ったことかと作ったのが、有名なノドンやムスダンなどの核爆弾を搭載できる弾道ミサイルでした。
(写真 2012年4月に打ち上げられ、失敗した人工衛星(事実上の弾道ミサイルjp.wsj.com)
しかし、これには致命的欠点がありました。地上固定型といって、核ミサイルの発射台があり、そこからしか核ミサイルが発射できないのです。
しかも液体燃料式です。
もし、仮に本気で北朝鮮が核ミサイルを発射したいと考えても、お宝のノドンミサイルは液体燃料方式といって、燃料には腐食性があって、ミサイル内に注入したまま長時間保存できません。
撃とうと思ったら、延々と燃料タンク車からミサイル内に注入する必要があります。これではすぐに米国の偵察衛星に発見されて、巡航ミサイルで簡単に叩きつぶされてしまいます。
そこで考えられたのが、旧ソ連から導入したR-27弾道ミサイルを使うことです。これは固形式ロケット燃料で飛びます。
北朝鮮はこれに「北極星-1」というロマンチックな名前をつけて実験しています。
ミサイルを拡大すると、確かにR-27のように見えます。
http://aviation-space-business.blogspot.jp/2015/05/slbm.html#!/2015/05/slbm.html
これはムスダンといううまそうな朝鮮料理もどきの名前をつけられて、既に彼らはなんどか実験しています。
「北朝鮮は1991年ソ連崩壊後の経済混乱期に本ミサイル開発関係者を招聘して、本弾道弾をベースに同一射程の移動式中距離弾道ミサイルを開発した。2007年4月の北朝鮮軍創設75周年記念パレードで配備が確認されている。(ムスダンと呼ばれる。イランへも輸出されている)。これまでの固定式テポドン1号から続く、北朝鮮の対米大陸間弾道ミサイルは、衛星での監視・先制攻撃による破壊が可能な旧式の固定式が想定されていただけに、北朝鮮が射程9,100kmのR-29の1代手前のR-27を、射程4,000kmの中距離「移動式」弾道ミサイルに仕立て上げたことは驚きを呼んだ」Wikipedia
個体燃料型ミサイルですから、実用的であり、おまけに潜水艦からを運用可能です。
これを水中に隠して、下の写真でさわやかな笑いを見せている世界一危ない少年が、「ボクを怒らせると、ほんとうに撃っちゃうからね」と言えば、そうそう簡単に他国は、核ミサイルを背景にした脅しができなくなるという寸法です。
この水中発射型ミサイル実験に「成功」したことは、日本ではほとんど報道されませんでしたが、東アジアのパワーバランスを大きく変化させました。
北朝鮮は、私たちには出来の悪いマンガのように見えるのですが、いたって正気です。いや正確にいえば、狂って正気です。
このR-27弾道ミサイルを使用し、彼らが保有していることが確認されているゴルフ級潜水艦に、たぶん1発だけ積んでぶっ放すということを考えているようです。
(図 ゴルフ級潜水艦 出典不明)
「ソ連では1990年までに全艦退役したが、1993年に10隻が北朝鮮に解体するために売却されており、北朝鮮はこれらを運用したことはないが、艦の弾道ミサイル発射システムなどを学習した可能性がある」Wikipedia
実は、ミサイルと潜水艦だけあってもダメで、それに付随する発射技術は山ほどあるのですが、とりあえず、北朝鮮は発射することだけはできたと考えるべきです。
北朝鮮は、中国と違って米国を標的にしていません。実力的に1光年ほど追いついていないからです。
彼らが現実にやるとしても、中国がさせないでしょうし、日米は阻止するでしょう。
ですから、とりうる手段は北朝鮮領海内から、一発勝負で発射する自殺攻撃です。
撃った瞬間に米海軍によって撃沈されることを覚悟で、日本、あるいは韓国の米軍基地ddaitoshiめがけて発射することです。
いまや彼らの選択肢の中には、中国の北海艦隊の司令部もあるかもしれません。
これなら一発芸ですから、あるいは可能かもしれません。ISの自爆攻撃の潜水艦版だと思えばいいでしょう。
そして今回、再び核実験を行いました。
北朝鮮にとって、合理的な兵器運用などできなくていいのです。
「核爆弾とその投射手段を持っている」「ヤケのやんぱちになると核爆弾を持った自殺攻撃をするかもしれない」というだけで、充分な恫喝になるのです。
かくしてわが国は、中国による尖閣から南シナ海方面にかけての圧力だけではなく、日本海側からの圧力も受けることになり、日本は2方向からの軍事的脅威にさらされることになりました。
厳重な備えをする必要が生れたわけですが、別稿に回しますが、海自にはそれだけの対応能力はありません。
このような時期に、韓国と冷戦などという悠長なことをしていることができないのはわかりきった話です。
民主党と共産党が狙っている、安保法制の廃案など話の外です。
日本人は「嫌韓」というカタルシスではなく、現実の脅威を見つめねばなりません。
なぜ、安倍氏がこれらを急いで仕上げたのか、それは国内政治だけ見ていても到底理解できないのです。
これらの忌まわしい出来事はわずか数日のうちに、ほぼ時を同じくして起きた出来事です。
大乱の一年が始まりました。
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山形様には、しびれるあこがれる思いです。
かつて中国に対して核抑止力は無効だと思っていました。日中戦争の時のように大陸の奥に篭もれば殲滅は不可能だからです。
しかし今の中国「政府」なら、一発撃ち込んだだけで威信→経済→国家分裂と崩壊しそうです。
上海株は月曜に続き暴落で取引停止です。
今度ばかりは本気でしょうか。
投稿: プー | 2016年1月 7日 (木) 11時41分