甘利事件とTPPはなんの関係もない
さて、この本来なんの関係もない事象ふたつを強引に接着する奴が出てくるだろうな、とは思っていましたが、いきなり民主党の岡田氏がかましました。
まぁ、こんな調子です。
「岡田氏が「甘利氏はグレーだ。甘利氏が、大きな権限を持ってアベノミクスの司令塔、環太平洋戦略的経済連携協定(TPP)の最終交渉をした。きちんと検証すべきだ」と迫ると、首相はさらにボルテージを上げた。
首相は「週刊誌報道がTPP交渉や経済財政政策に影響するのか。するはずないじゃないですか」と身ぶり手ぶりを交えて大声でまくしたてた。
岡田氏は「TPPは農家に死活問題だ。週刊誌報道ではなく、こうしたお金にルーズな事務所、あるいは本人が大きな権限を持っていたことに、危機感を持つべきだ」と再反論。
首相はたまりかねたのか、「公党の代表として嫌疑をかけるなら、具体的にどの品目に影響を与えたかいわないと、ただの誹謗中傷だ。週刊誌報道に頼らず、具体的な案件をいってほしい。ないものをないと証明するのは悪魔の証明だ」とまくしたて、「交渉をけがすのはやめてほしい。甘利氏は命がけでがんばった」と甘利氏をかばった。
岡田氏は「ない、と言ったのはあなただ。説明する責任がある」と応戦した。」(産経2月3日)
こういう岡田氏のような、まったく関係のないことを、つなぎ合わせてあらかじめ自分がもっていきたい「印象」を作ることを、「印象操作」といいます。
これはやっちゃいけない詭弁論理といわれています。
印象操作とはこういうことを指します。
「印象操作は、第三者に対して任意の人や物事に関して自分の都合のいい印象を与え ようとする事。 」
この岡田氏の追及は、まさにこの印象操作そのものです。
まず、岡田氏の脳内に存在する週刊誌で得た「甘利はグレーだ」から、「TPP疑獄」に直結するという考えを示します。
「甘利氏が大きな権限を持ってTPPの責任者としていろいろなことをやっている。ちゃんと検証すべきだ。TPPは業界や農業に携わる人達にとって死活問題だ。生産者から見ると巨大な権限を持った人が疑いをかけられていることについて疑惑を持つべきだ。甘利氏に確認する必要がある」
(産経2月4日 TPPの協定文に署名し、記念撮影する高鳥修一内閣府副大臣(左から5人目)ら各国代表=4日、ニュージーランド・オークランド 共同)
そもそも、岡田氏はTPPというものを分かっていません。
TPP条約はその中身は24分野の作業部会があって、それがまた多くのテーマに枝分かれしています。
それを一括して「これがTPPだ」という言い方は、「日本の高い山は全部富士山だ」というようなものです。
ですから、「TPP」という巨大で複合的な条約を、まるで一個の存在のように考えてはダメなのです。
よく、政府側が農業でウン兆円損して、貿易で製造業がウン兆円得してうんぬんと言っていますが、バカ言ってると思って下さい。
あんな足し算引き算には、なんの意味もありません。
個別の分野について、TPPがどのような影響を与えるのか、丹念にバラして見ていかねばならないので、異なった分野を比較してみても無意味です。
JA兵庫より引用https://ja-grp-hyogo.ja-hyoinf.jp/news/news/post_25.html
反対の急先鋒のJAも、農業組合協同新聞(2016年2月5日)でこう書いています。
※http://www.jacom.or.jp/column/2015/11/151130-28681.php
「豚肉と薬を考える。豚肉が安くなって、薬価が大幅に高くなった場合である。薬価が高くなった場合でなく、医療費が高くなった場合と考えてもいい、TPPで、そうなることは、充分に予想できる。
この場合、薬価が高くなっても、健康を維持するために、いままで通りの薬を買って飲む。薬の代金が大幅に不足するから、豚肉を買う量を減らし、我慢して豚肉代金を節約し、薬代金の不足分に当てる。このように、TPPの結果として、消費生活の全体を考えると苦しくなる。消費者は、TPPでソンをする。
TPPで消費者がトクをする、と主張するなら、このことを否定しなければならない。だが、そのことに無頓着な議論が横行している。政策論は結果の全てに責任を持っている。だから、想定外などという無責任な言い訳けは許されない。」
間違っています。
豚肉が安くなるというのは関税が下がるからですが、医療費や薬価が高くなるという根拠が示されていません。
「充分に予想できる」という根拠こそが重要なのですが、それが示されないまま「豚肉を節約して医療費に当てる」みたいな短絡をしてはダメです。
関係のない豚肉生産と医療費を個別にきちんと分析しないで論理展開するから、こういう無茶な論理展開になります。
政府側は「TPP推進」という立場でウン兆円の得といい、反対する側は、「TPP反対」という大前提があって、そこから演繹してくるので、これではまともな実態分析にはたどり着きません。
ましてや岡田氏の場合、週刊誌を読んだていどの知識で「TPP疑獄」にしたいと考えています。
「甘利氏はグレーだ」→「甘利氏はTPP交渉で巨大な権限をもっていた」→「だから疑惑がある」というわけですが、岡田氏が「疑惑」であって欲しいという気持ちはよく分かりますが、フツーこういうのは、ただの妄想と呼びます。
まぁ、こういう追及をしたいのなら、岡田さんは週刊誌ネタ以上の独自調査をすべきでしたね。
ですから、首相にこう逆襲されてしまいます。
「交渉そのものを汚すようなことを言うのはやめるべきだ。甘利大臣は命がけでTPP交渉を頑張って、結果を出してきた。いきなりそういう言いがかりをされても答えようがない」。
岡田氏はたじたじとなって、こう切り返すのがやっとでした。
「ない、と言ったのはあなただ。本会議で断言した以上、その根拠を示す責任がある」
すると首相は待ってましたとばかりに、こう述べています。
「私はないと言いきった。ないことをないと説明することは悪魔の証明だ。あると主張する方が立証責任がある」
スピリッツ2014年5月19日発売号より引用
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/05/post-d21b.html
ああ、やっぱり出ましたね。ないことを証明せよ、というのは首相も言うようにあの悪名高き「悪魔の証明」というやつです。
例によって「悪魔の証明」の意味も押さえておきましょう。
「悪魔の証明 「ある事実・現象が『全くない(なかった)』」というような、それを証明することが非常に困難な命題を証明すること。」
たとえば、沖縄の先島には島ひとつごとにハブがいるといわれていますが、「いる」ことを証明するのは簡単です。一匹確認すればいいだけですから。
しかし、「いない」というのを証明するのは難儀です。全島くまなく探し回らねばなりませんし、検証の時にいたらアウトだからです。
私たち「被曝地」の住民は、この4年間、さんざんこれをやられました。
この漫画の中で雁屋哲氏は、こう主人公に言わせています。
同上
「低線量被爆の影響がないというなら、ないという証拠をみせろ」と雄山は言っています。
これが「悪魔の証明」です。低線量の影響は、雄山がいうような「わからない」のではなく、わからないほど(無視できるほど)かぎりなく「ない」のです。
雄山こと雁屋氏は、自分たちの主張によっても「ある」ことを説明できないので、お前らが「ない」ことを説明しろと、逆切れしているだけです。
おそらく、こういう書き方をされたら、多くの国民には「福島は未だ危険な土地である」という印象が強く刻印されたはずです。
すさまじいばかりの福島差別ですが、このように:「悪魔の証明」は、往々にして印象操作とワンセットで使われます。
(安保関連法案に反対する大規模集会で、手を取り合い野党共闘をアピールする党首。(左から)生活の党の小沢共同代表、民主党の岡田代表、共産党の志位委員長ら=30日午後、国会前 産経2015年8月31日)
これとまったく同じ論法をとったのが、今回の岡田氏でした。
岡田氏たち野党は、去年の安保法制の時も、まともな安全保障論議を回避して、「戦争法案」「徴兵制が来る」「憲法違反」という3本立てプロパガンダだけで、政府を追い詰めたというおいしい記憶があります。
民主党はこれに気を良くして、甘利事件で二匹目のドジョウを狙ったようです。
岡田氏は視聴者に対して、「TPP絡みでも贈収賄があった」という風評が立つように誘導しています。
今回の甘利秘書をめぐる疑惑は、民主党の大西健介議員が質問で述べているように、環状道路をさえぎるように薩摩興業が建物を立てて、「ゴネ得を狙ったことに清原秘書が加担した」ところにあります。
恐喝常習犯の「一色」がゴネ得がうまくいかなかったために、文春に駆け込みました。
なんのことはない、恐喝犯と汚れた秘書の揉め事を、ゲスな週刊誌がスクープしたというだけの話です。
いうまでもなく甘利氏がわずか100万の金であったとしても、無造作にもらってしまったという倫理的批判は可能です。
また清原秘書への監督が杜撰の極みだったのも事実です。
今後、議員と議員秘書の口利きについては、さらにきっちりと議論を煮詰めていく必要があります。
しかし、それとTPP交渉とはなんの関係もありません。
いいかげんこういう低レベルな「追及」に、甘利事件やTPPを持ち出さないで欲しいものです。
« 福岡高裁那覇支部の30年間延長和解案 | トップページ | TPP 兼業を守ることが農業保護ではない »
昨年党首に再登板してから岡田さんはずいぶんと「古きよき批判するだけの野党」らしくなり、どんどんガンコになっていきましたが…。
とうとうここまでポンコツになってしまったかと。
小泉政権時代の対抗野党の頃はけっこう好きだったんですがね。。
JAのような批判のパターンってよくありますね。ちょっと見れば全く関係が無いけど、印象で一瞬騙されちゃいやすい。
そんなこと言ってたら消費者にとっては現在の原油安に野田政権の超円高のコンボがベストになっちゃいます。とんでもないデフレスパイラルになりそうですが…。
関係無い話の組み合わせについて以下はネタです。
平成元年、批判の大合唱の中で消費税が導入されました。空前の好景気でしたが金額計算が大変だとか、便乗値上げだとか言われてました。
バイトしていたスーパーでも対応にてんてこ舞いしておらました。
その時近所の蕎麦屋の大将「ああ、値上げ?やらねーったな。オレ禁煙すっとトントンだぁ。」と笑っていましたわ。
投稿: 山形 | 2016年2月 5日 (金) 06時54分
私はTPPには反対でした。
日本の農業を「産業」とする事、農生産物を「商品」と規定してしまう事に危惧を持っているからです。
農協のあり方にしても、現在までの農業経営形態には則してあるもので悪い事ばかりじゃない。
しかし、そうした私の考えは情緒的なもので、忸怩たるものは残るにしても容認せざるを得ないと言えます。
農業だけを資本主義経済の枠外に置くという状態は、現状の維持すらも難しくするでしょう。
なにより次世代の農業経営者に対して「価値の再創造」に向けて期するべき、という考えを持つようになりました。
賛成にしても反対にしても、良い面悪い面は双方にあるのはあたりまえ。
国会においては、深みのある議論を経たうえで、自らの判断を変更する事に躊躇せず、最後は一致する民主主義を見たいものです。
だいいち、民主党政権がもし続いていた場合でもTPPは必ず推進していたハズ。
それをキチンと認識し直したうえで、内容の精査に時間を使うべきでしょう。
かかる時期に差し掛かっているにもかかわらず、党首自ら「狂い」を露呈する。
嫌疑をかけた側に挙証責任があるのは当然で、見ているのが本当につらかった。
岡田民主党には解党する事もできず、このまま「静かな死」を迎える事だけが望みと見えます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2016年2月 5日 (金) 09時53分
豚肉の議論なら自分は黙るしかありませんが、
JAさんも、薬価に言及するなら少しは勉強してもらわないと。
下がりこそすれ上がることは有り得ません。
医療費は高齢化によって増える一方で、伸びを如何に抑制するかが最重要課題です。
最近のターゲットは薬価です。
只でさえ下落圧力に晒されていますが、酷いと思うのは「特例拡大再算定」。
4月の改定で、たくさん売れた薬は一気に3-5割も値下げになります。
TPPでは、特許切れが早くなる→ジェネリック推進なので、やはり薬価下げ圧力です。
「医療費が上がる」のは、完全な間違いではありませんが、それは国民皆保険が崩壊した時です。
アメリカの保険会社の利益のために日本の医療市場を開放した場合には起こるかも知れませんが、
それは将来アメポチ政権が成立したらの話で、今の安倍政権では有り得ないでしょう。
テレビを見ていても、日本の医療が諸外国に比べて悪いという話は最近聞かなくなりました。
そういう世論誘導は現在行われていない、ということです。
投稿: プー | 2016年2月 5日 (金) 11時07分
私も山路さんのスタンスに近いと思います。
これでもかつて農業経済を専攻し、「赤い先生達」に指導を受けたものですから。
TPPには当初は大反対でした。大震災があって、特にアメリカが乱入してきた時には「これはヤバイだろ!と」
民主政権が交渉していたら…それこそ寒気がしますね。12年暮れの選挙後には散々「自民の公約破り」と農協系団体やサヨクさんが騒いでいましたが。民主がやってたら、相当に酷いことになってたでしょう。
甘利だからあのフロマン相手にあそこまでタフな交渉ができたのだと思います。養豚業者さんには申し訳ないが、ほぼ完全勝利!
となったら、文書にサインするのはハッキリ言って誰でもいいのです。石原ノビテルは不安ですが。
後は米大統領選と議会次第ですね。あっちがコケたらボロボロになります。
その間に日本もタイに参加を持ち掛けたりとしっかり動いています。
プーさん。
お医者様からみた薬価情報。分かりやすくてたすかります!
おまけに話題の「民主党が嫌いでも、民主主義は守りたい」のポスター、岡田さんが「国民の声に椅子から立ち上がるCM」で『郵政選挙』に惨敗したのを思い出します。オレ、嫌いじゃなかった。
民主主義を守る?はぁ。それなら、
『自由民主党』に任せれば済む話なのではないかど(笑)
投稿: 山形 | 2016年2月 5日 (金) 11時36分
プーさんの説得力あるお話、勉強になります。アメリカ医療費の件もその通りだと思います。
岡田氏も、わーわー言うならせめて「TPPで国内の様々な生産者がコストダウン値下げ圧力にさらされ消費も生産も滞り国民の生活を不幸にする」位にしておけば私も聞く気になるものを。
小泉新次郎氏が今JAに農業コストについて肥料その他細かい事をチェックしているそうです。
ビジネスとしての農業を再構築する為に現実に沿ったビジョンを見られる人物なのか、いかにも壊せそうなワンフレーズのネタを拾いたくて報告書を上げさせているのか。父とは違う活躍を望みたいです。
太平物産(でしたっけ、有機肥料で潰れたところです)の有機成分もJAの研究室で見つけたものですし、何もかもが腐敗利権している訳じゃないのですが、縛りがきつく象のような遅さは変わらないと今後益々厳しいですね。
投稿: ふゆみ | 2016年2月 5日 (金) 22時24分