1ミリシーベルトに根拠があるのか? その2 わかりやすく語ろう放射能
この「1ミリシーベルト」問題はわかりにくいので、できるだけ平明にお話していきたいと思います。
まず単位となっている「シーベルト」からいきましょう。略称はSvです。
放射線防護で大きな足跡を残したロルフ・マキシミリアン・シーベルトさんというスウェーデン人物理学者の名を取っています。
日本人だったなら、1ミリスズキと言われていたでしょうね。
よく、聞く放射能(正確には放射線量ですが、一般呼称を用います)の単位にベクレル(Bq)もありますが、どう違うのでしょうか。
ベクレルのほうは、主に食品や水・土壌の中に含まれる放射能の総量を表す場合に使われます。
ちなみに、ベクレルは、フランス人のウランからの放射能を研究したアンリ・ベクレルさんの名を取っています。
ですから、食品の放射能規制値で、「1キログラムあたり500ベクレルとする」というような使い方をします。
一方、シーベルトのほうは、外部被曝や内部被曝で実際に人体が影響を受ける放射線量を表す単位として、「1時間あたり1ミリシーベルト」のような形で用います。
つまり、ベクレルは本来持っている放射線量の量であることに対して、シーベルトはそれかどれだけ人体に影響のあるのかを示した数値を表しています。
下の写真は、私たちの地域での放射能測定の様子です。この場合、土壌が計測対象なので単位はベクレルです。
※関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/06/post-c07b.html
さて、丸川大臣は「1ミリシーベルトには科学的根拠がない」と発言したわけですが、いちおうこの単位も押さえておきましょう。
これは1シーベルトの1000分の1です。
ではこの1シーベルトはどのていどに危険な数値かといえば、急性被曝による吐き気などの症状がではじめる数値です。
この倍の2シーベルトになると、5割の人が死亡します。
雄山が福島から逃げろと言っていますが、確かに2シーベルト以上なら正しいのですが、あいにく単位はその1000分の1でした。
関係ないけど、栗田さんの人形のような無表情な顔がコワイ。犬猿の仲の亭主と姑の気色悪い接近ぶりがたまらないのか。
思うに、山岡の鼻血は、雄山と親密にしすぎたせいだね。
えー、それはともかく、逆に半分の500ミリシーベルトでは、リンパ球の減少が見られ、100ミリシーベルトあたりからグラデーションのように、喫煙・暴飲暴食などの生活習慣による健康被害と混じり合って、これが放射能被害だと言えなくなります。
放射線防護ではこの100ミリシーベルト以下を、「わからなく」なるが、「ないともいえない」ということで、そのまま「いちおうあるかもね」ていどのニュアンスで考えています。
というのは、100ミリシーベルト以上までは、鉄板の臨床記録があるのです。
放射能障害が分かっているというのは、悲しいことですが、わが国は広島・長崎の被爆という悲劇を通じて大規模疫学調査である寿命調査(LSS・Life Span Study)がなされたからです。
これはいわば被曝の巨大データ・バンクで、責任ある広島大学医学部研究機関による、実に20万人以上の、しかも40年間という被曝者の終生に渡る追跡調査です。
これは被爆者手帳によって、その方が亡くなられるまで健康状況を追跡したもので、世界でこれを凌ぐ疫学記録は存在しません。
この広島・長崎LSSの調査の結果、以下のような放射能の影響があることがわかっています。
障害は被曝後数週間で発生する急性障害と、数か月から数十年の潜伏期間を経て発症する後障害(晩発障害)に分けられます。
これは受けた放射線量によります。
・100ミリシーベルト ・・・・吐き気、倦怠感、リンパ球の激減
・250ミリシーベルト以下 ・・・・臨床症状が出ないが、後障害
・250ミリシーベルトを短時間に受けた場合・・・・早期に影響が出る
・500ミリシーベルト ・・・・リンパ球の一時的減少
・1500ミリシーベルト ・・・・半数の人が放射線宿酔(頭痛、吐き気など)
・2000ミリシーベルト ・・・・長期的なは血球の減少(白血病)
・3000ミリシーベルト ・・・・一時的な脱毛
・4000ミリシーベルト ・・・・30日以内に半数の人が死亡
(「放射能と人体」1999年による)
広島・長崎では500ミリシーベルト以上被曝した場合、その線量によってガン発生率が増大することがわかっています。
1時間に年間許容限度の放射能を浴びてしまうと、人体はDNA損傷を修復できなくなってしまいます。それがガンなどの原因になる可能性があります。
またもや「美味しんぼ」で恐縮ですが、福島で山岡こと雁屋氏は「たまらない倦怠と鼻血が出た」といっていましたが、これは100ミリシーベルト以上を一気に浴びた急性被曝症状です。ホントなら、死ぬか、高い確率でガンを発症します。
雁屋氏が死んだとか、ガンになったという噂は聞かないので、こういう類の話は、世間では「幽霊は見たがる人にのみに見える」と言っています。
放射線はその量と時間によって、大量に一時期に被曝すれば活性酸素を発生させてDNAに損傷を与えます。
逆に言えば、少量の放射線を浴びても、人体はよくできているもので、切断されたDNAを自己修復してしまいます。
これをグラフで表したのが、福島事故以来一躍有名になったLNT仮説(閾値なし仮説・Linear-No-Threshold )というものです。
100ミリシーベルト(mSv)以上の被曝についてはAのライン(赤実線)のように、被曝線量に比例して発がん率が上昇しました。
ここまでは、さきほどお話したように広島・長崎の鉄板記録があって「美味しんぼ」のようなヨタではなく事実です。
しかし、100ミリシーベルト以下については、疫学データーが存在ません。
しかし、リスク評価としては「ないとも言い切れない」ということで、このグラフでは点線で描いていますが、「100ミリシーベルト以下も線量に比例する」と叫びたい人たちは、実線で書いています。
しかし、立ち止まって考えてみましょう。
放射性物質という目に見えない無味無臭の物質だから、恐怖心が募りますが、これが私も好きなアルコールだったらどうでしょうか。
アルコールによる健康被害が、このLNT仮説だとすると血中アルコール濃度が0.4%を越えると、約50%が死亡するから0.04%を越えると、約5%が死亡する恐れがあるということになります。
0.04%とは、ビール1本分ていどです。
わきゃないでしょう。だって常識的に考えて、大量摂取すれば危険ですが、少量摂取すれば百薬の長になるかもしれないわけです。
ちなみに酒には強い弱いの体質がありますが、放射能に強い体質などはありません。
ただし、80ミリシーベルトあたりで健康になるというホルミシス効果説もあります。
ラドン温泉の薬効というやつですね。ただし、科学的に解明されておらず、いまのところは異端の説となっています。
このLNT仮説の危なさは、このような大量摂取した時の危険性を、そのまま比例して見積もったことにあります。
ただし、ビール1本をゲコが宴会で、無理やり一気飲みさせられたというケースもあることを考えて、ICRP(国際放射線防護委員会)は、このLNT仮説を否定していません。
おそらく現実にはあえて100ミリシーベルト以下を書くとすると、開米瑞浩氏によればこんな感じではないかとのことです。
しかし、この科学者がデータがないから「わからない」と言っていることを逆手にとって、「わからないから判明していないだけで、ほんとうは危ないのだ」という人がゴッソリ発生しました。
科学者が言う「わからない」は、一般人が使う「わからない」とは意味が違います。
先ほど漫画の中で雄山は、「知見がないことはわからないことだ」なんてバカを言っていますが、知見はありますが、疫学的に他の健康障害の中に紛れ込んでしまって「わからない」のです。
したがって、1ミリシーベルトていどの低線量被曝の健康被害は、「疫学データがないために科学的根拠がない」という意味てのです。
その意味では丸川大臣の言い方は、誤りではありません。
ではまったく低線量被曝の疫学データが「ない」のかといえば、そんなことはありません。
南相馬病院の坪倉正治医師と、東京大学の早野龍五氏によるホールボディカウンター(WBC)の測定と分析結果かあります。
南相馬で測定した約9500人のうち、数人を除いた全員の体内におけるセシウム137の量が100ベクレル/kgを大きく下回るという結果が出ました。これは測定した医療関係者からも驚きをもって受け入れられたそうです。
この調査の時にも実は4名の高齢者が1万ベクレルという高い線量を持っていました。この原因もわかっています。
この方たちは、自分の土地で育てた野菜を食べていたこと、特に浪江町から持ってきたシイタケの原木から成ったキノコ類を食べていたということです。
原因がわかると防ぐこともできるので、この分析は有益なものだと思います。
なおこのキノコによる放射性物質の過剰摂取は、ベラルーシでも観測されています。
ベラルーシで長年被曝に対しての研究と指導を続けている、ベルラルド放射能安全研究所のウラジミール・バベンコ氏は、「基準値の100~200倍あった」と話しています。
おそらくこの被曝原因物質が、乾燥きのこだとすると、25万bqから50万bqという気が遠くなるような線量です。これを5bqですら恐怖する方々はなんと評するでしょうか。
このきのこ類による子供たちの被曝は深刻でした。下図がベラルーシ児童の被曝数グラフです。
ベルラルド放射能安全研究所による
これを見ると、白くハイライトした部分が飛び抜けて高いのが分かります。2003年11月、2004年11月、2006年11月・・・すべて秋のきのこ収穫期にあたっています。
特にきのこに大きく食生活を依存する貧しい家庭では小児ガンなどが多発したようです。
秋のきのこを食べたこと、これがベラルーシの児童被曝が今に至るも続く最大の原因です。
このベラルーシ特有の原因を押えることなく、「ベラルーシでは、事故後10年、25年経つ今でも小児ガンなどが発症している」ということを平気で書く人がいるので困ります。
では福島に戻って、事故後の子供の被曝状況はどうでしょうか。
坪倉先生のチームでは、これまでに、いわき市、相馬市、南相馬、平田地区で子供6000人にWBCによる内部被ばくの測定をしました。親御さんの心配もあり、この地域に住む子供の内部被ばく測定の多くをカバーしています。(一番多い南相馬市で50%強です。)
6人から基準値以上の値が出ています。6000人に対して6人というのは全体の0.1%で、この6人のうち3人は兄弟です。
基本的には食事が原因に挙げられるでしょうが、それ以外にもあるかもしれないそうです。
子供の線量について、坪倉先生はこう分析します。
「子供は大人に比べて新陳代謝が活発で、放射性物質の体内半減期が大人の約半分ということがわかっています。ですから、子供の場合は例え放射性物質が体内に入ったとしても、排出されるのも早いです。」
このように福島事故の後も、放射能による有意な健康障害は確認されていません。
1ミリシーベルトという民主党の規制値がいかに現実ばなれしているか、おわかりになったでしょうか。
民主党政権は原発事故終息に失敗し、その反動で起きた国民の放射能パニックを、本来ならば正しい情報を与えて、「冷静になれ」とクルーダウンすべきなのを、逆に煽ってしまったのです。
■参考資料 LNT理論に関する論争 原子力技術研究所 放射線安全研究センター
http://criepi.denken.or.jp/jp/ldrc/study/topics/20080604.html
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コメント
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一昨年の段階で世界放射線研究者の権威団体が調査結論として 1ミリシーベルトの規制撤廃を勧告してるが無視してきている。実はこの規制値問題は利権問題でもある 規制値を支持しているのは反原発派よりもスーゼネ企業体勢力の方が強大。年間数兆円の推進関連予算を失い窮地に陥った解決策がなんと除染事業。今後も巨額の予算が投入されていく受け入れ先がスーゼネ談合企業体。この不思議。スーゼネ自体は除染の技術はないに関わらずに 巨大なピラミッド型JVを構築している。効果など問題ではない。金が全て。とてつもない損失補填を国会事業 安全を御旗に続けていく。民主党から自民党に変わっても見直しはしない。利権が巨大複雑すぎて誰も触れない。守る住民がいなくなっても建設は止まらない巨大堤防と同様に。もはや建設の意義さえも疑問。なぜかマスコミも沈黙。
投稿: 追加事実 | 2016年2月18日 (木) 11時05分
民主党時代の誤った政策を自民党政権になっても是正出来なかった、加えて丸川大臣にも正確な知識が不足していた事に起因する騒動だった、という事ですね。
それにしても細野氏が、知ったか坊主よろしくあのようなカタチで質問する姿は人を食ってましたね。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2016年2月18日 (木) 18時47分
放射線を使う仕事をしていました。以前の「被曝した広島市民は世界一の長寿をまっとうした」を読んで、内容が学校で習った知識と一致していたので、管理人さんの考え方に共鳴してそれ以後毎日見ています。 1ミリシーベルトは宇宙飛行士が一日で被曝する程度の線量です。 こんなに少ない値を1年間の規制値としているのには怒りさえ感じています。 このために、避難させられ、住んでいた環境と異なり病気になったり、町そのものが荒廃して戻るに戻れなくなっています。 放射線量を異常に低く設定した規制がむしろ人間の健康を害している。 100ミリシーベルトも他の生活での危険に隠れて、何も起こらない量だと認識しています。 管理人さんのおっしゃる通りです。 放射線をまるで怨霊のように考えている人たちを何とか目覚めさせられないでしょうか。
投稿: 透過光 | 2016年2月18日 (木) 22時46分
こんばんは
印刷してじっくり読ませていただきました
この地にも原発避難の方々がたくさん移住して来られて
啓発運動を熱心にされています
何かちがう・・と思いつつ私自身に知識が無いので
まずは勉強しなければ、と思っていました
大変分かりやすく、納得の行く文章でした
ありがとうございました
投稿: 石垣おばちゃん | 2016年2月18日 (木) 22時49分