正しく怖がろう、 北朝鮮のミサイル実験
北朝鮮が「事実上のミサイル」である、「光明星4号」という人工衛星を打ち上げました。
米国も確認していますから、今回は成功したようです。
いままで、2012年の光明星3号1号機が失敗、光明星3号2号機が成功でしたので、3機目2度目の成功です。
「【ソウル=藤本欣也】北朝鮮は7日正午(日本時間同日午後零時半)、国営メディアを通じて特別重大報道を行い、事実上の長距離弾道ミサイルである地球観測衛星「光明星4号」が同日午前9時(同9時半)に北西部・東倉里(トンチャンリ)の「西海衛星発射場」から打ち上げられ、午前9時9分(同9時39分)、「軌道進入に完全に成功した」と発表した。
金正恩(キム・ジョンウン)第1書記が6日に「打ち上げ」の命令を下したという。発射の映像は報じなかった。」(産経2月7日)
http://news.twoeggz.com/guoji/2016-02-07/1203239.html
上の北朝鮮配信の写真で、金正恩がタヌキ腹を突き出して眺めているロケットが、軍事用のサイルになると「テポドン」となり、人工衛星になると「銀河○○」となります。
しかし、この男、いっそうヘンな髪形になったものよな。ひと頃のテクノカットみたい(笑)。
中身はどっちも同じです。弾頭に人工衛星のようなものを積んでいるか、原爆を積んでいるかの差です。多少違う点が一点ありますので、その説明は後ほど。
テポドンの場合、射程は6000キロといわれ、米国のハワイ、アラスカ、西海岸の一部が射程に入ります。今回はもっと長射程です。
北朝鮮が人工衛星だといおうと、国際機関に事前通告しようと、国際的には一括して「弾道ミサイル実験」として非難されることになります。
というのは北朝鮮には、この平和利用と軍事目的の境がないからです。
北朝鮮は、かつて2006年7月にスカッド、ノドン、テポドンの計7発の弾道ミサイルを日本海に向けて発射しました。
もちろん完全な軍事目的で、イランなどへも既に輸出もされたという説もあります。
この国の数少ない輸出品は軍事製品とマツタケで、特に同じく国際的に制裁を受けているイランは上得意でした。
マツタケは冗談ですが、恐喝用品の製造販売が生業というのが、この北朝鮮なのです。
そのことによって、国連はミサイル技術に関する活動を制限するために国連安全保障理事会決議1695、1718、1874(※)を決議し、一切のロケット発射は、この決議3本の違反となります。
※外務省HP訳文
つまり北朝鮮は、いままでの掟破りの所業によって、いかなる形での弾道ミサイル実験も、やろうと思った瞬間に国連決議3本に対する違反となってしまうわけです。
さて正しく怖がるために、もう少し詳しく検証してみましょう。
今回打ち上げた「光明4号」ことテポドンは、基本的には一緒ですが、唯一軍用と違うのは人工衛星は再突入を考えないために、大気圏に突入する際のさまざまな高度技術を必要としないことです。
この再突入の技術があって、初めて軍用の大陸間弾道ミサイル(ICBM)になります。
ですから、この「光明星4号」は、いままでの彼らの技術を一歩進めてはみたものの、本格的なICBMのひとつ前の段階の技術だと分かります。
「光明星4号」のYouTubeの動画をご覧いただければ、それがお分かりになると思います。https://www.youtube.com/watch?v=LCG9j37BQx0
https://www.youtube.com/watch?v=LCG9j37BQx0
打ち上げられた「光明星4号」は、徐々に水平に近い軌道をとります。
1段目のロケットを切り離しました。
1段目は朝鮮半島西側の海面に落下して、四散しましたが、そのまま高度約500kmの太陽同期軌道へと飛行を続け、衛星を分離し、軌道に投入することに成功ました。
とまぁ、ここまでは北朝鮮ができたということですが、実はここからがけっこう大変で、再度大気圏内に再突入させねば晴れて弾道ミサイルにはなりません。
考えてみればあたりまえで、もう一回地球に落とさねば、そりゃ武器じゃないよね。
ところがこれは、宇宙技術先進国である日本ですら、まだ成功していない高度な技術です。
というのは、大気圏再突入には適正な角度で再突入を誘導する技術と、「再突入体」(RV)という、弾道を保護する耐熱タイルのカバーが必要です。
その際の温度は、「標準大気でマッハ3の突入速度の場合、理論値でよどみ点温度350℃を超える」(Wikipedia)とされています。
この再突入技術が確立されていないと、せっかく小型化に成功して積み込んだ核弾頭も、燃えて半球状になってオシャカになったり、誤作動したりしてしまって使い物になりませんから、北朝鮮はICBMを持ったと宣言できないわけです。
ちなみに、日本がこの再突入技術を持っていないのは、純粋に政治的理由で弾道ミサイル開発という疑惑を避けるためでした。
脱線しますが、日本が有人宇宙技術を持っていない理由は、金がかかりすぎるというのもありますが、この再突入技術が確立していない(※)ためもあります。(※日本は再突入技術の一部は保有しています)
ここにも哀しい日本の敗戦国症候群がありますね。
それはさておき、今回の実験で、北朝鮮はICBM保有への道の一歩手前まで来たと評価できます。
今後、これに載せる核爆弾の小型化と、再突入を実験すると思われます。
金正恩の脳味噌には、「国際社会」という概念自体がありませんから、性懲りもなく宮古と石垣島の上空を今後も何度となく襲って、実験をくりかえすでしょう。
それについては次回に。
※参考資料http://www3.nhk.or.jp/news/liveblog/northkorea/index.html
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コメント
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>(スカッド、ノドン、テポドンは)イランなどへも既に輸出もされたという説もあります。
そうでなければ開発資金をどう捻出したか、説明がつかないですからね。
金日成が持っていた思想性は皆無ですが、金正日のビジネスセンスは受け継いでいるようで。
それにしても中共は舐められっぱなしで、これからどう出るんだろう?
かつて朴クネさんが急激に中国寄りになった背景には中共主導による半島統一の可能性が一因と思いますが、ここまで無軌道な事をやられたんじゃ、中共のメンツもまるつぶれ。
昨年の秋、朴大統領いわく「来年は統一があるかも知れない」と言い得た事情はいまでも有効なんだろうか。
それにしても、「恫喝一本」で国際社会の主要なプレイヤーとなり得ている主体思想は恐るべし。
我が国こそ迎撃ミサイルの独自開発をやらなければならないと思うが、弾道ミサイル技術がないのにそれは無理な話。
翁長知事じゃないが、PAC3はどこまで信頼性があるのか疑義がある。
せめてTHAADでも早急に配備してくれないと宮古島市民としては頭上が寒くて凍えそう。
県内マスコミはこうした案件での報道がにぶく、それがさらに不安を加速する。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2016年2月 8日 (月) 08時54分
毎回不思議に思うのが、中国やロシアが(インドとかパキスタンも)新しいSLBMやICBMの発射実験やっても全然ニュースになった試しがないのに、あくまで"事実上の長距離弾道ミサイル"であって、一度も「これは軍事目的だ!」とは言っていない北朝鮮のロケット発射にだけは大騒ぎ。
日本と韓国だけが非常に怖がっているのだが、日本や韓国を攻撃するに際しては別にICBMなんてこんな大仰なものは必要ない。直接的な脅威は別にあるので。
やれ失敗して落ちてくるだとか、冷静に考えれば天文学的な確率なのに。実際そんな事は全く起きてないし。
アメリカさんも淡々と事実を述べるだけで特別大きなニュースとして扱っておらず、まだ他人事の雰囲気で、いずれワシントンD.C.やN.Y.にまで到達可能になれば事情は変わるだろうけど…。
あれが実戦用のICBMなら、TELに載せて移動するか秘密の地下サイロに隠してあるはずで、あの地上丸見えの東倉里の発射台は軍用というよりは種子島宇宙センターと同じく衛星打ち上げのための施設と見るほうが自然。軍事パレードでお披露目したKN-08とかいうミサイルが本命でしょう。
もちろん、決議違反行為は大問題ですが。だんだん技術も上がっているようですから、いつかは本当の長距離弾道ミサイルになるんでしょう。銀河3号は人工衛星打ち上げ用ロケット兼ICBM開発のプロトタイプ、だから"事実上の長距離弾道ミサイル"か。まあ、表現としては合ってますね。言葉ってややこしいな。
弾頭の大気圏再突入に関しては、このクラスのロケットだとやってませんが、実戦用の火星だか木星だか(いわゆるノドン)では成功させてますよね?
スカッドも、弾頭は分離しないで本体ごと突っ込んでますけど一応、宇宙に飛び出してから大気圏再突入して戻ってきます。
投稿: unitedstatesofkorea | 2016年2月 8日 (月) 09時24分
HNunitedstatesofkorea(「コリア合衆国」?なんじゃ、こりゃ?) とやら。何がいいたいのかさっぱりわかりません。
ただの知ったかぶりで、一般国民を下に見て「馬鹿者が騒いでおるな」と言っているようです。
はっきり言ってあげましょう。バカは君のほうです。
日本が射程内にあるノドンは既に300発持っていますよ。だから、なんなのです。
今回の光明星なんじゃらは、北朝鮮が新たな国際社会を脅迫するステージに入ったから、国際社会が制裁を叫んでいるのです。
再突入ですが、ノドンのような比較的低高度から落下してくる中距離弾道ミサイルと、ICBM級の大きさで大気圏外から再突入してくるものをゴッチャにしています。
インドとパキスタンでは騒がなかったのに、ですって。
これが2国間の対抗核武装だったからです。この2国が当該2カ国以外を核攻撃する理由は希薄です。
あえて言えば、中国にインドが核攻撃されたケースしか思いつきません。
したがって、この2国の核武装は、核拡散の上では大いに問題ですが、国際社会を挑発する性格ではありませんでした。
だから騒がなかったのです。
ちゃんと個別事例を検証してから、モノを言いなさいね。
今回も、国際社会が騒いでいないですって?国連安保理にただちに付託されたし、欧米の主要紙の多くでは一面報道ですよ。
それとは別に、確かに欧州は「騒がない」でしょう。そりゃ、遠いからね。
飛んでくるはずがないから、騒がない。
EUは北朝鮮とも国交が正式にあります。これも理由は同じ。遠くて自分達には関係ないからです。
フランスは中国に武器を売りまくっています。これも同じ理由です。
それを見習えとでも?
日本は、たくさんの国民が住む自国領土上空にミサイルを飛ばされました。
これで怒らなかったら、それは自国民を守る気もないフヌケ国家ということだと、国際社会に触れ回っているようなものです。
無関係なアチラの国とわが国を一緒にしないように。
今の光明星なんじゃらが、限定つきなのは書いています。
ですからタイトルからして「正しく怖がろう」です。
実戦用なわきゃないでしょう。だから「一歩手前の段階」と書いておいたのです。どこ読んでいるの。
本命じゃない?そりゃ潜水艦発射型弾道ミサイル・R-27から発達したムスダンに決まっています。
光明なんじゃらなんか、核弾頭をつけたと分かれば確実にそれ以前に空から米国によって破壊されます。
にもかかわらず、ワシントンに到達できるできないと関係なく、米国が「騒ぐ」のは、核開発を進めている(あるいは「いた」)イランに彼らが弾道ミサイルを売っているからです。
国際ルールに従う様子がない国が2国揃って、弾道ミサイルと核兵器のセットをもたれたら、大変なことになりますからね。
あなたがいいたいのが、要するに日本人は騒ぎすぎであるということなら、そもそも、私は正確な知識をもったうえで、今回のような事態に対しては大いに「騒ぐ」べきだとおもっていますので、あしからず。
ただし、いたずらに騒ぐのではなく、相手を良く知ろうねということです。
投稿: 管理人 | 2016年2月 8日 (月) 10時52分
ちなみにCNNやBBCではトップニュースで報じられていました。
投稿: 山口 | 2016年2月 8日 (月) 13時40分
90年代末のインドやパキスタンの核実験・ミサイル実験競争の時には、NPT加盟問題も含めて連日大きく報道されていましたよ。
シャヒーンミサイルとか聞いたことありませんかね。かなりお若い方でしょうか?
国内で北朝鮮関連の報道が大きいのは当然です。すぐ隣で敵対的行動を度々見せる国が過去にも頭越しに発射しているのですから。
今回の大型ロケットではなく日本にとってはノドンやKN-08が遥かに脅威なのは当たり前。理由は上で管理人さんが書いている通りです。
北朝鮮がなぜこうまでして大型ロケットに拘るのかは不思議な気もしますが、純粋に射程の長さを見せ付けることでアメリカ(もしくは全世界)を威嚇すること以外にないでしょう。
アメリカは即座に本土防空ミサイルの増備を決めていますし、SLBMの方が脅威度が高いという見方も含めて大きく報道されています。
おそらくTHE PAGE等に昨日載った記事を拾い読みされたのでしょうが、一面的で浅いです。
投稿: 山形 | 2016年2月 8日 (月) 17時24分
unitedstatesofkoreaさんって、琉球新報か沖縄タイムスからやって来た人みたいですね。(笑)
文章は良く読んで、しっかり主旨を理解してからコメするようにして下さい。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2016年2月 8日 (月) 22時47分
確かに印パキの時は隣同士で近年中に打ち合いそうな切迫感で報道されていた記憶があります。
あれに比べればずっと冷静なのでは。当時より衛星画像や情報がネットにもメディアにも溢れているのですが、それはミサイル問題に限ったことではないですね。
投稿: ふゆみ | 2016年2月 9日 (火) 09時25分
ちょっと話がそれますけど今度、H2Aロケットの打ち上げがあるんですが、自称「平和を愛する市民」逹がまた文句を言うのかと・・・
こういう人たちって相手のいう事全部聞けば平和になると思ってるんですかね?只の卑怯者だと思うのですが?
投稿: umigarsu | 2016年2月10日 (水) 12時38分