knorimotoさんにお答えして 東アジアの緊張と「沖縄の反乱」
昨日アップし、ボツにしましたが、改題して再載しておきます。後半の移転問題は割愛しました。
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knorimotoさんのコメントにお答えする形で、書いていきます。
沖縄県人が「オール沖縄」という、皆んなで渡れば怖くないとばかりにやっていることは、他国なら「隣国との緊張した国境地帯における、地方政府の反乱」と理解されてしかるべき行動です。
これを軽く考えるべきではありません。
翁長氏を国内政治の、ましてや県内政治というドメスティックな縮尺で見るのを、止める必要があります。
本来、国際問題であることを、国内政治の、しかも目先の政局に矮小化してしまうのはわが国の悪しき伝統です。この勘違いは、右にも左にもあります。
今回の移転問題でも、本来、国際問題であるはずの事案が、いつのまにか島の土建業者と政治家の利害対立の場になってしまいました。
翁長「反乱政府」は、単純な国内の有象無象の平和和運動の延長上にはありません。
まったく次元の違う、きわめて危険な段階に突入していると理解すべきです。
翁長氏がやっていることは、明確に中央政府に対する「地方政府の反乱」であって、しかも重大な安全保障上の利敵行為です。
この重さを、県民は分かっていません。それは翁長イズムのイデオロギー装置と化した沖縄タイムスと琉球新報という地元紙が、県民の唯一の情報源だからです。
では私の危機感を理解していただくためには、やや迂遠ですが、沖縄の地理的位置を知ってもらう必要があります。
沖縄が仮に沖縄が岐阜県の場所にあったなら、何をやってもかまいません。
岐阜県が安保粉砕と言おう言うまいと、一国の安全保障上にとって、なんの意味もないからです。
http://www.pref.toyama.jp/cms_sec/1510/kj00000275.htmlより転載
上の奇妙な地図をご覧ください。
これは国土地理院が出しているもので、俗に「逆さ地図」と呼ばれ、正式には「環日本海・東アジア諸国図」と言われているものです。
一般の地図だと、なんとなく日本側からだけ見てしまいますが、中国から見ると日本列島はこう見えるというのを知るにはうってつけの一枚です。
画面中央やや右の、朝鮮半島と山東半島に囲まれた大きな内海が渤海です。
ここを母港として、中国東海艦隊は作戦行動をしています。
その中国海軍から見れば、大陸に面した海が意外に狭く、しかも大陸棚のために浅く、目の前に日本列島が封をしているように立ちふさがって見えるのが分るでしょう。
日本列島というより、琉球諸島といったほうか正確でしょう。
上図は近年の中国海軍の動向を、この逆さ地図に重ねたものです。
西に東に四方八方に、中国海軍が近隣諸国に軍事的圧力をかけて、膨張している様子がお分かりになるだろうと思います。
南シナ海での人工島という領土拡張は有名ですが、実はその影で進められているのが、中国軍による東シナ海から太平洋に抜けるルート作りです。
上図中央の黄色の矢印がその、中国海軍が太平洋に抜けようとしているルートです。
ここが宮古海峡です。Google Earthでみると、この宮古海峡を通過すると、一気に水深が深くなるのがわかります。
中国海軍からすれば、この関所のようになっている宮古海峡を抜ければ、あとは深くて広大な太平洋にたどり着けるわけです。
何をって?もちろんミサイル原潜を、です。
そうなれば、浅い「大陸棚海軍」だった中国は、一気に米国に対して大きな政治的カードを握ることになります。
それは米国に対しての潜水艦発射弾道ミサイル(SLBM)を発射できる、戦略原潜の潜むことが可能な広く深い海域を得られたからです。
しかし、中国にとって目障りなことには、この太平洋方向に出ようとすると、どうしても沖縄諸島の間を縫って通過していかねばなりません。
こういう狭い地点のことをチョークポイントと呼びます。チョークとはプロレスの反則技で聞いたことはありませんか、締めつけて窒息させることもできる急所のことです。
世界的には、海上交通の多い狭隘な海峡のような場所のことで、有名な地点としては、マラッカ海峡、ホルムズ海峡、スエズ運河、パナマ運河、マゼラン海峡、ジブラルタル海峡、ダーダネルス海峡などがあります。
これらすべては軍事的・政治的に、列強によって取ったり取られたりする緊張したポイントです。
わが国は地理上、幸か不幸か、たくさんのチョークポイントを持っています。一国でこれだけ多数のチョークポイントを持つ国は稀です。
北から宗谷海峡、津軽海峡、対馬海峡があり、これらの3地点だけで、何としてでも太平洋に出たいロシア艦隊にとって痛い急所になります。
これはかつての日露戦争の日本海海戦を思い起こしていただければ、分かるはずです。
ちなみに、ロシアが北方領土を返さない軍事的理由は、千島列島がロシア戦略原潜の太平洋への扉に位置しているからです。
そして南には大隅海峡、宮古海峡というチョークポイントが、中国艦隊にとって関所になっています。
図 2012年12月11日サーチナ
上の写真と解説図は、宮古海峡を通過する中国艦隊です。
平時の国際法的には宮古海峡は国際海峡ですから問題はありませんが、彼ら中国が何をデモンストレーションしたいのかがよく分かる一枚です。
刺激的表現を許してもらえば、中国からすれば宮古島を征することは宮古海峡を征することであり、ここを征すれば中国は米国に対して強い軍事的圧力をかけることが可能となります。
つまり、中国にとって日本はそもそもそこにあるだけで目障りな上に、経済的にも巨大で、最先端のハイテク兵器を国産し、兵員数や武器の数は少ないながらも高度な訓練が行き届いた自衛隊を持っているといういまいましい存在なのです。
そしてさらに、これが決定的でしょうが、米国のアジア太平洋地域の最大の軍事的拠点は日本本土と、そして沖縄にあります。
長々と軍事的解説をしてしまいましたが、このような緊張した国境地帯において誕生したのが翁長県政です。
翁長県政が意図したことは、ただの移転反対ではありません。この米軍がいる根拠である日米同盟そのものを倒すことです。
かつての鳩山氏の「国外、最低でも県外」というバカ特有の愚行であるチャブ台返しによって、日本が受けた被害は日米同盟そのものが揺らぐという事態でした。
つまり、一国が基地移動ひとつ満足にできないのかという、日本政府の国内政治のハンドリングに対しての米国の深い失望、いや侮蔑でした。
鳩山氏は、沖縄に後遺症を置いていきました。それが「米軍基地のない沖縄」という、それ自体はまっとうな県民の「気分」でした。
ひょっとして、米軍基地がなくなるのは可能ではないか、とする「気分」です。
これは「気分」だけに、真の実態を持ちません。具体的道筋もなければ、将来の展望もありません。
しかし、逆にただの「気分」だけに、様々な県民の本土に対する「やられた」感情と混ざり合って増幅されていきました。
それをひとつひとつ解いていきたいと思って書いたのが、この「島の異物としての米軍基地」という記事でした。
ここで私は、米軍基地、なかでも地上兵員が1万名以上いる海兵隊の、一定期間内の自国領内への退去を書きました。
保守の方には何を血迷っているのか、と言われることを覚悟の上です。
何度もお断りしているように、それは「今」ではありません。今、海兵隊の削減などしたら、狂喜するのが誰かよく分かっているつもりです。
同時に私は、米軍はいつまでも居ると思わないほうがいいと思っています。
これについてもそのうち詳述しますが、米軍は沖縄海兵隊の削減計画を持っています。
というか、海兵隊自体の大幅削減を何度も検討しています。
もちろん、それは常に米国の中に強くあり続ける一国孤立主義的な「気分」によります。
不幸にしてドナルド・トランプが大統領になれば、その傾向は間違いなく加速されるでしょう。
また現状でも、日本側にも誤解があるようですが、中東戦争などの実績から見て、増援の海兵隊は2~3日で紛争地域に到着することが可能です。
それは米国において、有事における民間航空機の利用が可能だからで、軍事技術的には誤解をおそれずにいえば、「沖縄にいてもらう必要はない」のです。
ですから、海兵隊が沖縄にいる理由の大部分は、台湾有事と朝鮮有事に対応したものです。
したがって、わが国の防衛のためではありません。
えっと思われるかもしれませんが、沖縄海兵隊が日本防衛のためにいるのではないことは、安全保障専門家共通の常識です。
ただ、米軍のいることによる「重さ」(ビヘイビアー)に、沖縄防衛のみならず日本全体、いやアジア全体が寄り掛かっている部分があるのは確かです。
そういった「大きな意味で」、居てもらっているだけです。
knorimotoさんはこう書いています。
「一つには日米同盟の不対称性を解消して日米同盟を真っ当な軍事同盟にするには、自衛隊を普通の国と同じような軍事組織に増強することが不可欠ということがあります。防衛費はNATO諸国並みのGDP比1.5~2.0%にしないといけないでしょうし、若年者を中心に人員も増強することになるでしょう。」
その通りです。日本は時間をかけて、段階的にNATO諸国の水準に、法的にもコスト的にも近づけるべきです。
私はとくに自主防衛派ではありませんが、一定時間かけてヨーロッパ諸国に近づくのは必然だと思っています。
また米国とイコール・パートナーになるのはとうてい不可能ですし、なる必要もありませんが、少なくとも今のような自国民を犯した米兵の裁判権すら持たないような従属的立場からは前進すべきだと思っています。
海兵隊に代わって、自衛隊が代置することを現実問題として展望するべき時期に来ています。
そのための離島防衛のための部隊も自衛隊にはあります。練成過程にあり、まだほんのヒヨコですが水陸機動団です。
今は長崎県大浦にいますが、これが海兵隊に代わって、キャンプハンセン改め宜野座駐屯地に入ることは、将来的には可能です。
しかし、これがまともに戦える部隊となるまで、おそらく最低であと5年以上、できるなら10年は欲しいところです。
また規模も今予定されているのは、3連隊規模で、この広大な琉球諸島を守るには小さすぎます。
この間は、好むと好まざるとに関わらず、海兵隊に居て貰わねば困ります。
なお、この方が心配されているかもしれない、若年の人員補強に徴兵制などはまったく不要ですので念のため。
[以下割愛]
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コメント
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拝読いたしました。解説ありがとうございます。
最初の方で管理人さんが仰った、
>沖縄県人が「オール沖縄」という、皆んなで渡れば怖くないとばかりにやっていることは、他国なら「隣国との緊張した国境地帯における、地方政府の反乱」と理解されてしかるべき行動です。
という一節は、重大な指摘だと思います。
沖縄が脆弱化することは少なくとも朝鮮半島、台湾、フィリピンを巻き込む重大事態なのは明らかです。そのあたりを余すところなく詳しく解説してくださってありがとうございました。
「この間は、好むと好まざるとに関わらず、海兵隊に居て貰わねば困ります。」というところまでは完全に納得できました。
ただ、自衛隊の人員構成が高年齢化しており、若い人が足りないのが心配です。しかし、高い練度を要求され、かつそれに応えている現代の自衛隊に徴兵制はかえって邪魔ですので、徴兵制導入はあり得ないと考えています。
むしろ、応募者が居ても、人員確保の面で財務省が邪魔して任期制の(階級でいえば士の)隊員の定員を削って来ないかをむしろ心配しています。
詳細な解説、ありがとうございました。
投稿: knorimoto | 2016年3月28日 (月) 19時33分