大津地裁運転差し止め判決 その2 電力会社は今後の抑止のために損害賠償訴訟をすべきだ
一昨日の記事に対して、名無し氏からもらったコメントは、このようなものでした。
「立法も行政もあまりにもめちゃくちゃだから仕方なく司法がとりあえずなんとかしてやった、というが正確です。」
まぁ、こういうコメントが来るだろうとは思っていました。たぶん反原発派の方でしょうが、私の言ったことが、この人たちの祝杯に墨汁を垂らしてしまったようです。
ならば大津地裁は「とりあえずなんとかして」くれたわけですが、それはあくまで「とりあえず」なんで、次の審理で覆えるまでの一時の「意趣返し」ってわけですか。
しかしその代償は大きいですよ。関西電力の原発停止による1日5億5千万円(九電)といわれる損害と、それによる管内の電気料金値下げの中止です。
私は、このような「基準外的圧力」による原発停止に対しては、電力会社はその失われた損失の対価を原告団に請求すべきだと思っています。
これはたんなるシッペ返しではありません。「仮処分」は本来、このような時に使用されるべき民法上の概念ではないからです。
「仮処分とは、債権者からの申立てにより、民事保全法に基づいて裁判所 が決定する暫定的処置である。」(Wikipedia)
つまり、「仮処分」とは、民法上の権利に関する紛争のことで、金銭債権者が倒産しそうな債務者の財産を、急いで差し押さえる時になど使われる法律です。
なんだ仮処分というから仰々しいですが、なんのことはない、倒産、夜逃げ、ローン破産などで使ってきた法律なのですよ。
しかも正式な判決による強制執行(差し押さえ)が行われるまでの、緊急、かつ暫定的なもので、正式なものが出たら消滅します。
だから「仮」という字が被っているわけですね。これが一義的な仮処分です。
かつてサラ金などが乱発していた法律です。こんなものを公共エネルギーの運転の中止に使おうという根性がまちがっています。
もうひとつ二義的意味に、「紛争によって債権者に生じる現在の危険や不安を取り除くための、仮の地位を定める仮処分」(知恵蔵)があります。
どうやら、今回の市民団体は後者の「債権者に生じる危険や不安の除去」を使ったようです。
福井から原発を止める裁判の会サイトより http://adieunpp.com/
いずれにしても、仮処分の法の本旨から大きくはずれた拡大解釈です。
もし、このような恣意的な拡大解釈による仮処分で、政府、あるいは行政機関の行政判断や執行に横やりを入れられるなら、なんでもできちゃいます。
たとえば、辺野古移設工事停止仮処分なんかやればできそうですし、なんなら沖縄米軍基地使用差し止め仮処分、安倍首相執務執行差し止め仮処分なんかも可能かもしれません。
もっとも、カウンターで政府から、翁長知事執務停止仮処分とか、共産党活動差し止め仮処分なんかでてくるかもしれませんが(冗談)。
沖縄地裁に、山本氏や樋口氏みたいな法匪判事がいさえすれば、案外、仮処分がもらえるかもしれませんからやってみたらいかがでしょか。
誰が地裁の人事権者かしりませんが、お願いですから、こういうトンデモ裁判官を、原発や米軍基地がある県に派遣しないで下さい。
なにせ原告らが、自分の脳内地獄によって「生じる危険や不安の除去せよ」って言い出せば、人権保護を理由に差し止めが可能かもしれないのですから、ある意味、超法規的です。
「オレがコワイから人格権を認めろ。差し止めだ」では、なんのために膨大な時間をかけた安全基準審査があったのか、そもそもなんで規制委員会が存在し、安全基準ができたのか、まったく無意味になります。
こういう人たちが、今回の大津地裁判決で味をしめてしまったのですから、ひじょうにコワイ。
ですから、ぜひ関西電力はこの原告団に対して、断固として損害賠償請求をするべきなのです。
この「市民」グループは、十数人らしいですから、ひとりほんの数千万ていど払えばいいだけですよ。
これは、今後同じ「法の名の下の無法」を封じる抑止として有効になります。
全国の原発訴訟をまとめた脱原発弁護団全国連絡会という組織がありますが、それによれば、福島事故の後に39の訴訟が提訴されています。
内容的には大同小異で、以下の3点です。
①基準地震動を超える振動はあってはならないが、東日本大震災ではあったから安全性に疑問があるという基準地震動論。
②冷却装置の破損の可能性。壊れないとはいえないというゼロロリスク論。
③「原発は危険だから怖い」という感情論。個人利益の保護の観点から裁判所は直接的に危険性の有無を判断できるという「人格権」。
以上ですが、どれもこれもうりふたつ。まるで金太郎飴のようにどこを切っても同じ論理がでてきます。
それもそのはず。出所はメディアにひんぱんに登場する左翼文化人、マスコミ左翼、自称研究者、脱原発弁護団の弁護士などで、彼らはどこの裁判にも登場します。
この人たちがいわばイデオロギー装置で、同じことを発信して各地に原告団を作っているようです。
だから異様に同じ内容の原告の訴訟内容と、これまたそれに対応したかのような異様に同じ判決文が出てくることになります。
また、共産党は表立って出てきませんが、これらの人の多くはその支持者です。
こうした反原発訴訟に対して、九州電力は去年4月に結果が出た川内原発をめぐる訴訟において、申立人23人に本訴で原告の市民団体側が敗訴した場合に、再稼働が遅れたことで「1日5億5400万円の損害を被る」として、地裁に申立人に賠償に備えた「妥当な金額」の担保金を積み立てることを求めました。
それを警戒し、訴訟から下りる人が10名出ました。この人たちは、「意趣返し」はタダではないことに、やっと気がついたようです。
個人の安全・安心を言い立てるのは自由ですが、政府や規制委員会のような行政、あるいは電力会社のような公共事業体の役割は、社会の最大限利益を守ることであって、個々人の安全・安心ではありません。
経済的に巨大な損害を被る電力会社にとって、規制委員会の安全基準に合格していた原発を動かすのは、公共事業体として当然の社会的責務であり、通常の経済行為です。
しかも扱うものが公共エネルギーであるために、今回のように停止させられた場合の損害は、管内の電力消費者すべてが被ってしまいます。
この春に予定されていた関西電力の電気料金値下げも、中止に追い込まれました。管内の事業者や市民は、この原告団に対して損害賠償請求したらいかがですか。
ですから、個人の安全・安心を対置して妨害する勢力からの救済を求めて、電力会社が裁判制度を利用するのもまた、あたりまえなのです。
裁判制度を使って「実力阻止」を試みる以上、電力会社が同じく裁判制度を使ってそれを阻止するのは、当然のカウンターなのです。
関西電力は、今回も多くの不手際を残して裁判所の心証を悪くしています。少しは罪滅ぼしとして、今後同じ手口を使われないような法的措置を取るべきです。
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コメント
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全面的に同意です。
関電は私企業なので、公的基準を満たす範囲において経済的活動を行う自由・権利を有している事は言うまでもない。
しかし、世の中には障害はつきもので、中には偏頗な考えの判事も時たま現れる。
ケースは違うが、どんな商売をしていても付きまとうリスクとも言える。
そうであるなら、勇気をもって今後のための矜持とし、同様の濫訴というリスクから会社を守るために損害賠償訴訟を積極的におこすべき。
真正面から正しく問題の根本に向き合って行かないと、会社はそのうち潰れる。
かつての鋭い労使対決を経験していない経営者は非常に、ひよわに見える。
一方、稼動を止められた関電が料金値下げを延期する旨を発表し、これに大阪府知事らが噛み付いた。
また、タイムリーに(詳細がまだ不明)川内原発での線量計の性能不足が報じられた。
これらは何を意味するのか。
前者は原発停止に伴う経済的損失分の安易な価額転嫁とみられ、知事らの反発はある意味当然。
関電のやり方にスジが通っていないし、対処方針が180度間違っている。
(どうも関電は、世論に喚起する安易な手法をとった気もするが)
しかし、反発をするだけでは本質は見えないのであって、関電の悲痛な叫びはまたもや消費者に届かないどころか批判を受ける事になってしまった。
関電は狂った反原発派と真っ向勝負、対立を避けているようで、これでは根本的な問題解決にはならない。
こうした本筋を外した生ぬるい対処のウラには、関電社内の労働組合側からの横槍が必ずある。
後者はもう何おか言わんやで、早速いつもの反原発派応援団のマスコミが大津判決への支援シフトを敷いている気配濃厚。
こうして非理論的なウソや世の中の基準からはみ出したデマを好んで用いる反体制的な人々、もともと資本主義や我が国の自由主義経済体制が気に入らない人々が跋扈することになる。
問題はこれらの人々が、民主主義の名のもとに自由主義を枯渇させてしまう事に執心している事だろう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2016年3月14日 (月) 08時53分
今回の裁判で「仮処分」なるものの法律の適用に問題があることがよくわかりました。では、なぜこのような裁定が朝日新聞をはじめ、多くのメディアで支持されるのか冷静に考えてみる必要があると思います。
私はかつて左翼・マルクス主義思想に感化され様々な住民運動に関わってきました。今振り返ればその根底にあるのは悪と戦う純粋な正義感です。簡単に言えば悪とは強者であり、その反対の弱者を善とします。
弱者たる農民の土地を無理やり奪い成田空港を作ろうとした国が悪の存在でした。大企業経営者に対する非正規労働者、日本国に対する一地方としての沖縄辺野古、旧日本軍に対する朝鮮半島の慰安婦、大企業東電に対する福島、イスラエルに対するパレスチナ・・・すべて弱者視点、つまり下から目線での正義感です。
私は、今なお朝日新聞の読者ですが、この新聞の論調で「弱者に寄り添う」があり、いつの間にはその弱者が善の存在として扱われています。本ブログの管理人さんが言われるように、左翼(共産党など)が意識的に仕掛けている部分があることは事実だと思いますが、そうでない人もこの弱者=下から目線に容易に感化されます。
いうまでもなく、会社ひとつとってもそれを運営する経営者そして管理職がいなければ始らないように、社会全体のことを考える上から目線が必要不可欠です。
私は会社で管理職を任されるようになり、多くのことを学びました。そして、かつての自分の狭いものの考え方を恥じるようになりました。
私は原発を推進すべきとは思っていません。日本は豊富な水資源を活用し、農業用水路など小水力にこそが未来のエネルギーではないかと考えています。しかし、工業国たる現在の日本では、少なくとも当分の間、原発は欠かせない存在だということも理解しています。
世界全体を見渡しても、福島原発事故の後もなお原発頼りが現実の姿です。日本の原発技術は世界最高レベルのものです。事故を起こしたからこそ世界の原発をリードする責任もまたあると思います。
本ブログが、イデオロギー論争でなく、さらに現実的な議論の場としてが深化することを期待しながら、毎日目を通しています。
投稿: 九州M | 2016年3月14日 (月) 16時23分
調子に乗って書きます。日本の元凶「官」の事です。
独断と偏見から言えば、毛利・島津藩が関ヶ原の意趣
返しに成功して、彼等の傀儡となるように天皇陛下を
利用した伝統的手法で作ったのが、近代明治政府でし
た。当然、平民の為の政府ではありません。
平民は歴代中国王朝式に、管理される者、皇帝に隷属
する者でした。敗戦後も、彼等霞が関はGHQにうまく
取り入って生き残っていきます。
私は高校生の頃に星新一のショートショートと勘違い
して、同氏の「人民は弱し 官吏は強し」を読んでしま
い、それ以来のヤクニン嫌いです。氏の父が作った星
製薬が、監督省庁により無茶苦茶にされてツブれてし
まいます。社長だった氏もグチャグチャにされたので
した。本田宗一郎は、四輪車(クルマ)を作るな、と言
われた。クロネコの小倉昌男は、散々とイヤがらせを
された。他人に損させて自分は得する孫(マゴ)さんは、
ヨイショをしまくって利権を得て、大金を儲けた。
今回も、関電を責めるのは酷です。どうせ霞が関の複
数の省庁から、アーダコーダと言われているのですから。
「どないせいっちゅうんや?!」と吠えている?
少なくともガチンコ勝負の裁判沙汰をするうちに最適
解が得られるという、自由社会の常識は無い。諸省庁
のナワバリ争いやメンツや責任逃れがあるだけ。
霞が関はいらんわ。そういや福島の全電源を喪失した
施設に「合格」を与えたお上はハラを切ったのかな?
島津藩なら、間違いなくハラを(自発的に)切ってる。
平成の官吏は、逃げてヘラヘラしてるだけ。私もやり
直せるなら、役人になりたい、木っ端でも。
投稿: アホンダラ1号 | 2016年3月14日 (月) 22時42分
なんか、他所と比してここのコメ欄非常にレベル高いですね。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2016年3月14日 (月) 23時09分
皆さんのレベルが高すぎて、いつもコメントを書くべきか躊躇しています(笑)。
九州M さんの仰ってること、非常によくわかります。
私は左翼まで行きませんが、朝日の弱者に寄り添う姿勢に共感し、リベラル思想にどっぷりとつかっていた時期がありました。
根底にあったのは、まさに仰るように「正義感」です。
しかし、人生経験を積むうちに、世の中、「正義」と「悪」の二元論では割り切れないということに気づき、徐々に多様な価値観を認める保守寄りの考えにシフトしていきました。
(リベラルと保守の思想については、以前、管理人さんがブログ記事で分析されていたように記憶してます)
今でも朝日を購読しているのは、ただ単に私の単身赴任中に妻が勝手に5年契約してしまったからです(笑)。
裁判官の皆さんが独善的な正義感から目覚め、公正な判決をして頂けることを祈りたいと思います。
投稿: 山口 | 2016年3月14日 (月) 23時37分
山路さん。それが自慢です。いつも教えられたり、アホンダラ1号さんのコメに大笑いしています。
投稿: 管理人 | 2016年3月15日 (火) 05時47分
日本人には圧倒的な強者よりもそれに抗う弱者を応援したがる傾向が強いのでしょう。
平家に抗う源義経しかり、家康に抗う真田幸村しかり、中国は嫌いでも三国志や水滸伝が好きな人も多いですね。
かならずしも弱者が正義のはずはないのですし声が大きい少数派が正義な訳でもないのですが。
私は現況を一気に変える時に起こるリスクをは避けてリスクを探りながら少しずつ改善していくのが良いと考えてます。
原発にしても、基地問題にしても
法を恣意的に解釈して一足飛びに変えようとするなど法の番人としての適正を疑います
投稿: 種子 | 2016年3月15日 (火) 07時56分