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大津地裁運転差し止め判決 その4 法衣を着た放射脳オバさんと化した山本裁判官

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「安易な再稼働」という人が、マスコミを中心にしてよくいます。 

再稼働というと、対語のように「安易」をかぶせないと気が済まないようです。

東京新聞(2015年9月20日)は世論調査の形を借りて、この3ツを「安易な再稼働」の原因だとしています。

①原発の安全対策、とくに事故時の原発の安全対策、事故時の住民避難などの防災対策が不十分
②原発から出る核のごみの処分方法が決まっていない
③福島第一原発事故が収束していない

さて問題は、①の原発の安全対策ですが、山本判事がもっとも力点を置いたのは地震対策でした。 

山本裁判官は判決の「争点3」でこう述べています。
※http://www.nonukesshiga.jp/wp-content/uploads/b6c5742c4f89061d95ceb8a0675877e2.pdf 

「基準地震動Ss-1の水平加速度700ガルをもって十分な基準地震動としてよいのか、十分な説明及び疎明がされたとは認められない」(50頁) 

Ssと書いてあるのが基準地震動のことです。

まずは、用語から押えておきましょう。基準地震動の定義は以下です。

「原発の設計の前提となる地震の揺れで、原発ごとに異なる。周辺の活断層などで起こりうる大地震を想定して、地盤の状態を加味し、原発直下の最大の揺れを見積もる。
これをもとに原子炉、建屋、配管などの構造や強度を決める。単位はガルで、1ガルは1秒ごとに1
センチずつ加速すること。地球上で物が落ちる時の加速度(重力加速度)は980ガルで1Gともいう」  (2011年6月14日  朝日新聞)    

つまり、原発施設によって異なる地盤を考慮して、起こりうる大地震の最大の揺れの基準値のことです。

え、全国一律ではないのって。はい、そりゃそうでしょう。原発建屋が立っている場所の地層は、場所により異なっています。  

地層が軟弱な場所では、地震の揺れは大きいでしょうし、岩盤の上に立てられれば地震には強いでしょう。  

ですから、個別の原発によって想定される最大震度は違っています。  

この基準地震動は、2006年の耐震設計審査指針改定から適用されており、原発の耐震性能を評価する揺れの大きさを加速度で表現したものです。

Photo入倉孝次郎京都大学名誉教授http://www.seis.nagoya-u.ac.jp/taisaku/katsudo.html

原子炉の耐震工学が専門の入倉孝次郎京都大学名誉教授は、『原子力発電所の耐震設計の中でこう述べています。
原子力発電所の耐震設計のための基準地震動 - 入倉孝次郎研究所

「地震動の策定については、「『施設の供用期間中に極めてまれではあるが発生する可能性があり、施設に大きな影響を与えるおそれがあると想定することが適切な地震動』を適切に策定し、地震動を前提とした耐震設計を行うことにより、地震に起因する外乱によって周辺公衆に対し、著しい放射線被爆のリスクを与えないようにすることを基本とするべきである」としている。
さらに、「残余のリスク」の存在について、「地震学的見地からは、上記のように策定された地震動を上回る強さの地震動が生起する可能性は否定できない。このことは、耐震設計用の地震動策定において、『残余のリスク』が存在することを意味する」と記されている」 (1頁)
 

例によって、専門家の技術論文は、私たち一般ピープルには暗号ですが、この部分は明解です。 

ここで、入倉教授が言っていることはこうです。 

「仮に基準地震動を策定しても、それを上回る強さの限界的地震動が来る可能性は否定できない。だから、そのような『残余のリスク』を想定して耐震設計している。」 

つまり、基準値地震動=耐震限界値ではありません。かならず倍数の安全率をかけて耐震設計されています。  

これを知らない山本裁判官や樋口裁判官などは、「基準地震動にあってはならない地震が来たらどうするんだ。だから、新安全基準は緩すぎる」と言い出しています。 

まったくの素人考えにすぎません。入倉氏はこう答えています。

「基準地震動は計算で出た一番大きな揺れの値のように思われることがあるが、そうではない」
「平均からずれた地震はいくらでもあり、観測そのものが間違っていることもある」
(福井新聞2015年4月15日)

事実、4つの原発に5回にわたり想定した地震動を超える地震が、2005年以後10年足らずの間に到来しています。  

福島第1原発においても、基準地震動を越える揺れが襲いました。 

001 図 宮野廣法政大学教授による 単位ガル クリックすると大きくなりますhttp://www.gepr.org/ja/contents/20140630-02/

上図は、宮野廣法政大学教授『福島原発は地震で壊れたのか』から引用したものですが、最大の加速度は、いずれも基準値地震動の平均460ガルを超えています。 

最大に超えたものは、2号機で南西方向に550ガル、3号機で507ガル、5号機で548ガルです。

さらに震源域に近かった女川では基準値580に対して636ガルで、ここも実測値が基準地震動を上回っています。

実は東日本大震災以上の大きな振動が発電所を襲ったケースに、2007年の中越沖地震動があります。

東電は地層の褶曲構造によって、施設内に大きな影響が出たと説明しています。

Photo_2 地質調査と基準地震動|柏崎刈羽原子力発電所|東京電力

実際に柏崎刈羽原発を襲った実測震度です。カッコ内が基準地震動です。比較してみてください。

002_3 宮野教授による 前掲

 

Photo_3 東電資料 前掲

いずれの原子炉も基準地震動に対して約50%、最大の2号炉では273ガルの基準値に対して、実に3倍の680ガルが襲っています。

この激震に対して、各原子炉は正常にスクラム(緊急運転停止)しています。後の配管の調査でも破断は認められていません。

しかし公平にみれば、東電はこの柏崎刈羽の教訓にもっと学ぶべきでした。

柏崎刈羽では、2700カ所以上の機器類の破損があり、3号機の起動変圧器は炎上し、外部電源も一時的に失われています。

ただし、非常用ディーゼル発電機が正常に起動したために、事なきを得ています。 

しかし起動後も電力不足状態が続き、タービン駆動給水ポンプを動かすために補助ボイラーが起動しましたが、1から5号機と6,7号機でそれぞれ一台しか使用できないようなシビアな状況でした。

そのため4号機の冷温停止には、丸2日かかっています。

東電はこの柏崎刈羽で経験した地震による全交流電源の停止(ステーション・ブラックアウト) という事態を、もっとシビアに総括して、今後に生かすべきでした。

そうしていれば、福島第1で簡単に水没する場所に予備電源エンジンを置くなどという失態をせずに済み、福島事故は起きなかったことでしょう。

このように、柏崎刈羽の例をみればわかるように、原発施設自体は基準地震動の3倍の振動にも耐える能力で設計されているのです。

原因はひとえに、外部電源の停止と、予備電源の水没による全交流電源喪失です。

福島第1原発の調査報告はこう記しています。

① 政府事故調報告書では、原子炉圧力容器、格納容器、非常用復水器(IC)、原子炉隔離時冷却系、高圧注入系等の主要設備被害状況を検討している。津波到達前には停止機能は動作し、主要設備の閉じ込め機能、冷却機能を損なうような損傷はなかったとしている。

② 民間事故調報告書では、津波来襲前に関して、地震により自動停止し未臨界を維持したこと、外部電源を喪失したが非常用ディーゼル発電機(EDG)により電源は回復したこと、その間にフェールセーフ(安全装置)が働きMSIV(非常用炉心冷却装置)が閉止したこと等、正常であったことが述べられている。

③東電最終報告書では、1号機~3号機について地震による自動停止と、自動停止から津波来襲までの動きに分けて評価している。前者は各プラントとも地震により正常にスクラムしたこと、外部電源喪失したがEDGにより電圧を回復したこと、EDG起動までの間に原子炉保護系電源喪失しMSIVが自動閉したこと等の結論を得ている。(宮野論文前掲)

 唯一、反原発派が主導権を握った国会事故調のみが、「配管の損傷に起因すると考えられる直接的なデータは認められないものの、可能性はないとはいえない」という文学的なことを言っています。

「可能性はないとはいえない」ですか、笑っては悪いが、工学系の論文が書くこっちゃないね(笑)。まるで不可知論だ。

そりゃ確かに、リスク評価において0はありえないから「可能性はないとはいえない」ですが、それ以上に大きな原因があったでしょう。

そう、デーゼル予備電源の水没です。とくに配電盤がやられて、全交流電源がオシャカになったのです。

この反原発志向の人たちはどうしていつまでも、未練がましく地震説をとるつもりなのでしょうか。

そもそもこの基準地震動など、しょせんは人間が定めたひとつの「数字」にすぎません。

斑目さんが安全委員会の委員長だった時に、国会で「いちおうの目安で決めた」といっているくらいに腰だめな数字です。

しかし、これがないと設計ができないので、とりあえず設定しているていどのニュアンスの基準値です。

ですから当然のこととして、人間の知見という狭い幅で決めたのですから、山本判事がいうように「超える場合もある」でしょう。そんなことは、あたりまえです。

超えるから、安全率をかけて設計されているのです。  

だからこそ、原子炉の格納容器、配管などが現に基準地震動を超える地震に耐えたのか、耐えなかったのか、という事実認定のほうが重いのです。

何度言っても、反原発原理主義者の硬化した頭脳には分からないようですが、福島事故の原因はあくまでも津波による予備電源の水没です。  

それは4つある事故調報告書が、国会事故調を除くすべてで一致して出した結論です。

なにが「原因究明は道半ば」だってーの。読んでから言え。  

この山本裁判官は、法衣を着た放射脳オバさんにすぎません。

けっきょく、彼が仰々しく書いている判決文など、こんなていどのものでしかないからです。

「うわー、また地震か来るゾォ!700ガルなんかぬるい。いや1250ガル超が来るかもしれないんだ。それに耐えるゲンパツなんかありっこない。だから全部止めろ。いや、このオレが止めてみせるゾ!」  

リスクは常にあります。すべての事象には、何事につけ「想定外」はつきものです。

入倉さんが「残余のリスク」といっているのがそれで、耐震設計などはまさに、この「残余のリスク」をいかに管理するかの設計哲学によって作られているといって過言ではありません。

だからこそその「残余のリスク」をいかにして減らしていくか、「想定外」が来た場合それをどのようにして極小化できるのか、というリスク管理が大事なのです。

これが工学系の考える万が一事故が起きても、さまざまな方法でシビアアクシデントにならないようにブロックする深層防御です。

この方法は今回の安全基準に盛り込まれています。 

一方、山本判事のような「ゼロリスク論」は、津波だろうと、地震だろうと、はたまた人為的ミスであろうと、初めから「危険性が万が一でもある」からダメだ、ダメだからダメだ、という循環論法的な考え方をします。 

「ダメだからダメ」という全否定の考え方に立つ限り、現実に原子炉を運営する立場の専門家や、電力会社とは「会話」そのものが成立しないでしょう。

だからいくら電力会社が何万ページもの文書で説明しようとも、「説明及び疎明は不十分」で終わってしまうのです。

そもそも、山本さんは、聞く耳をがないんですから無駄です。

こんな判決によっては、日本の原発の安全性は一歩も進化しません。

それは、かつてあった「原発は絶対に事故を起さない」という原発安全神話の、単純な裏返しとしての「原発絶対危険神話」でしかないからです。

 

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コメント

これらの裁判官さん達ってクルマやヒコーキなんか(自転車なども)絶対に乗らず、家電製品も使わないんですかね?
もちろん建物なんて危ないから野外生活必須ですよね。。

全て耐用年数や安全率の計算の上に出来ていることくらい分かってそうなもんですが…。なーんて皮肉の1つも言いたくなります。

投稿: 山形 | 2016年3月16日 (水) 07時01分

ダブダブ法衣で喝を入れる根拠が気持ちだけでいいならマツコとかわりないですね。
高浜でもっと問題視されていいのは、注目の再稼働なのになぜ人為的なミスをおかしたのか、ダブルチェックが効いているのか、人手が足りているのかだと思っています。
関西人はドイツで言う所の「ohne mich」的な無責任さが放置されがちなので、

投稿: ふゆみ | 2016年3月16日 (水) 09時09分

すみません、指が勝手に途中送信f^_^;)
…放置されがちなので、関電には一応全国採用とはいえ個人的に危険視しています。

投稿: ふゆみ | 2016年3月16日 (水) 09時11分

山形氏の仰ることもあながち冗談ではないのかもしれませんね。この手合は、原始主義や原始共産制が理想的だとする傾向が強いですので。完全自給自足生活をしたいのなら、是非ともやってみたらとは思いますが、個人のイデオロギーを裁判に持ち出しちゃだめでしょうに。

投稿: Q州 | 2016年3月16日 (水) 09時40分

一言で言えば絶対安全主義つまり「ゼロリスク論」とどのように対峙するかなのでしょう。かつて朝日新聞は福島原発事故前は「核の平和利用」として原発を許容していました。事故後に早期の脱原発を掲げましたが、ドイツにならって一定の期間は許容する姿勢でした。それがいつの間にか一切の再稼働をも認めない原発=絶対悪の姿勢になっていきました。

何を優先するか、何が悪なのかの順序が変わったのだと思います。私はこの世で最悪なのは戦争だと思っています。だから戦争を避けるため国民を食わせること、つまり経済を安定させる必要があります。戦争を避けるため、相手に思い止めさせるため一定の軍備も必要となります。そして戦争を避けるためエネルギーの自前調達が必要であり、だからこそ限りなく自前調達である原発も当面我が国には必要だと考えています。

ところが、最悪なものとして放射能=核と定義してしまうと、原発は絶対悪の存在になります。あの漫画家小林よしのり氏さえ、朝日新聞では現在”識者”として登場し、反原発の論壇の一翼を担っています。連載の「プロメテウスの罠」では原発に関わったあらゆる分野の人が悪の存在であり、逆に原発に疑問を持つ人すべてが善の存在として紹介されています。朝日新聞の基準が変わったのです。まさに一神教の世界です。

絶対悪の存在は宗教の世界の論理です。戦争(人殺し)さえ宗教の名のもとに肯定されているのが現実です。しかも、日本のような相手を認める多神教でなく、他の存在を一切否定する一神教の世界です。

管理人さんが言われるように、私も今回の裁判はとんでもない裁判だと思います。しかしその背景が”絶対悪としての放射能=原発”との考えであるとするならば、議論はどこまでもかみ合わないような気がしてきます。

それから長くなりますが、もうひとつ。「可能性はないとはいえない」の言葉で思い出すのが統計学という数学の仮設検定(統計的検定)の世界の話です。例の低線量被ばく(100㎜㏜未満)の影響の解釈です。広島・長崎のデータから導かれた結論の解釈ですが、厳密に言うと、この仮設検定(おそらくχ(カイ)二乗検定だと思います)で有意差が出なかった時にどのように表現するかです。

仮設検定とは、二つ(以上)のデータの差を統計学的にみて、差があるか否か(有意差)を判断するためのものです。その原理から差があることは結論として導かれますが”同じ”ことの証明はできません。よく言われる悪魔の証明です。

しかし、例えばある薬が効くか否かの臨床データを検定した場合、薬を使った場合でも有意差が出なかった場合、統計学的には”差が無いとは言えない”との結論になりますが、一般にはその薬は効かない(薬を使わなかった場合と差がない)と解釈します。つまり低線量被ばくの問題を言葉で言うならば、”影響はない”となります。

このように、仮設検定という科学的判断ツールは世の中で広く使われているにも関わらず、低線量被ばくの問題に対して、その数学の専門家からの発言がほとんどみられないことが、混乱の一因だと思います。

今回の裁判で「・・・ないとはいえない」との表現は100%ではないだろう=ゼロリスク論ではあると同時に、論理的な言葉を装っており注意する必要があると思います。

「保育園落ちた、日本死ね」のブログに対して、散々ヘイトスピーチを批判していた朝日新聞は、なんと市民権を与えてしまいました。安部政権批判であれば何でも許されるんですね。彼らにとって安部政権は絶対悪の存在のようです。しかし3月の朝日新聞の世論調査によれば安部内閣支持率は44%に4%も上昇しています。なんだかわけがわからん世の中です。

投稿: 九州M | 2016年3月16日 (水) 14時24分

反原発を主張する方々に「それなら車も飛行機も乗れないね」と言うと、「原発は事故が起きたら影響範囲がうんぬん、人が住めなくなるうんぬん、それと車や飛行機を比べるのはうんぬん」という回答が返ってきますね。
車や飛行機は目に見える形で恩恵がありますが、電気は目に見えないから恩恵として感じられないのでしょう。
実際は車も飛行機も、電気がなければただの無機物の塊でしかないんですけどね。

それはそうと、今回の大津地裁判決の異議審を山本裁判官が再び担当することになったそうですね。
これで関電の異議審が通らない確率が上がり、通らなければ関電は控訴するでしょうから、裁判の長期化を懸念しています。


投稿: エントランス | 2016年3月17日 (木) 08時13分

エントランスさん。

いやいや、カーボンボディの高級車やボーイング787なら立派な有機物だぞ!
なんて冗談はおいといて、全くあなたのおっしゃる通りです。
電気は見えませんから、その受益は分かりにくいんですよねぇ。だから高浜停止の仮処分が下ったら電力値下げ断念したという関電に対しては非難轟々という。
「推進派ならテメエの庭に原発作ればいいだろ」
「いや、そうなるとセキュリティとか色々と…」
なんて先週の下らない「朝ナマ」の何十周遅れなんだという堂々巡りになります。

Q州さんがおっしゃるような薪や松明だけの原始的生活を世界70数億人がやったら…地球環境壊滅でしょう。
安全面から原始的をさらに遡って「火は火事になるかもしれないので危ないから使わない」レベルまで行けば、まあ疫病やら感染症で大変なことになるでしょうね。

投稿: 山形 | 2016年3月17日 (木) 08時34分

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