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2016年4月11日 (月)

トランプ 不都合な大統領候補その5 日米同盟の本質を知らない男

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私はトランプの「暴言」は、米国内部にある「気分」の現れだと思っています。 

それは、なんというのか、「オレらは世界の警官やってきてくたびれたんだ。勝手なことばかりほざきやがって、だから自分の国のことだけに専念させてもらうぜ」という感じでしょうか。 

先日のトランプ・インタビューの日本に対する部分だけを要約すれば、この3点です。

1、日米安保条約は、米国が攻撃されても、日本は米国を守る義務がない片務的な取り決めである。
2、日本が米軍駐留費用を大幅に増やさなければ、米軍を撤退させる。
3、日本が北朝鮮などの脅威から自国を守るために、核保有を容認する。

これに対して、候補者の発言に対して異例の反論がホワイトハウスからなされています。

「【3月31日 時事通信社】アーネスト米大統領報道官は30日の記者会見で、大統領選の共和党候補指名争いの首位に立つ不動産王ドナルド・トランプ氏(69)が日韓両国の核武装容認を主張していることについて、「信じられないほど(地域情勢が)不安定化する」と批判した。その上で「自分の言葉と政策決定から生じる結果を理解できる最高司令官」を選出するよう、国民に訴えた。
 アーネスト氏は「トランプ氏の主張は、米国が長い間追求し、国際社会が支持してきた政策と正反対だ」と指摘。「核兵器計画を加速させる言い訳と動機を北朝鮮に与えるのが、なぜいい考えなのか、想像しがたい」と語った。」

まぁ、ホワイトハウスが言うのは正論ですね。 

北朝鮮がおそくら早ければ4月中に行うとされる大陸間弾道ミサイルの再突入実験の前に、こんなことを言えば正恩坊やは、手を打って喜ぶでしょう。 

なぜなら、トランプが言うように、日米安保を消滅させ、仮に日韓が「核保有」しようとしても、それは10年以上先のことです。 

では、この10年間の「空白」はどうするのでしょうか。もちろん、東アジアで2カ国しかない核保有国の北朝鮮が圧倒的に主導権を握ることになります。 

つまり、トランプ「放言」は、事実上、米国が北朝鮮の核保有を認めて、北朝鮮の支配下に入れというに等しいことなのです。 

その上、トランプがただの損得勘定でしゃべっている日米同盟が、このアジア地域でどのような働きをしているのか、彼はまったく知りません。 

アジアにおける安全保障システムは、「ハブ&スポーク」と呼ばれてきました。今日はこれを考えていきましょう。 

Photo上図は国際宅配便のフェデックスの物流モデルです。 

左に見えるバラバラな配送拠点を、現状のような右上のようなネットワーク型にするか、右下のように一カ所の発送拠点からバーっと放射状に延びる路線に変えていこうかということを考えたモデルです。

3種類あります。

・Ⅰ型・・・分散ドット型
・Ⅱ型・・・ネットワーク型
・Ⅲ型・・・ハブ&スポーク型

これを安全保障に置き換えてみましょう。

左のⅠ型分散ドット型が個別的自衛権による「専守防衛」タイプです。日本の野党が「平和国家」の礎くらいに思って、称賛しているものです。 

このモデルの最大の欠陥は、「自分の平和は自分で守る」というと聞こえはいいのですが、結局、自分の国の内部だけで戦争が決意して準備できてしまうということです。

ヤバくありませんか、これって。 

専守防衛という世界にない表現でなんとなく9条していますが、これは他国から見れば、いつ何どき気が変わるかわかったもんじゃない、という不安がつきまといます。 

つまり、戦争についての意思決定の透明性が担保されていないのです。 

これに対して右上のⅡ型ネットワーク型モデルは、NATO型です。

個別的自衛権なんて危ないものは完全に放棄してしまい、条約で結ばれた地域の安全保障システムに供託してしまいます。 

そして一国への侵略は、システム内すべての国に対する侵略と見なすと宣言します。

逆に、一国が隣国を侵略しようとすると、全体から制裁に合います。

非常によく出来た安全保障システムで、これなら偶発戦争や二国間戦争などは起こりようがありません。

最後に右下が、Ⅲ型ハブ&スポークと呼ばれるアジアの安全保障のモデルです。

ハブとスポークとは自転車の車輪に模しています。ハブとなる中心国がいて、その国が地域全体に対して安全保障の基盤を提供し、各国はそれぞれこのハブとなる国との同盟によって自分の国の安全を支えています。

いうまでもなく、このハブ(車軸)に当たる国は米国です。これを覇権国家(ヘゲモニック・ステート)と呼びます。

一見「帝国主義」みたいな、「横暴な強国」のように見えますし、実際に反米の人たちはそういうニュアンスで言いますが、国際関係論でよく使われる概念です。

例によって、概念規定をしておきましょう。

「他からの挑戦を退けるほどの、もしくは挑戦しようという気を起こさせないほどの圧倒的な力を持つスーパーパワーを持つ国のこと」

ハブ&スポーク型安全保障モデルは、かつて冷戦期におけるソ連の軍事侵攻に対処するためにできましたが、冷戦後は別の進化をとげてきました。

①地域紛争の抑止・対処の機能を提供する
②それによって、各国は不安定要因に対する米国の関与を想定できる
③ある程度の軍事ドクトリン・軍事力に対する透明性が増す
④その前提の下で、地域的安全保障対話が強化される

そしてこのハブの車軸を支えているのが、トランプが「金がかかるからいらねぇ」と言っている日米安保条約です。

日米安保は単にトランプがいうような「オレ様はお前を守っているが、ジャップ、お前らはオレがヤバくても助ける義務はねぇ。とんでもねぇこった」でというほど単純なものではないのです。

たしかに片務的なことはたしかですが、それは、米国が覇権国家である以上、何をいまさらです。

日米安保は、トランプが言うような「オレとお前」といった狭い意味では語ることのできない、アジア全域の安全保障インフラそのものに成長しています。

1996年の日米安全保障共同宣言が、「アジア太平洋の安定に資する同盟」という表現を用いたのは、こうしたアジア地域全体の安定化機能に着目したからだといえるでしょう。

そしてさらに、アジア太平洋の多国間安全保障は、ひと昔前のような話すだけで終わる段階から、だんだんと制度化された予防外交・紛争解決にむけたメカニズムとして進化しつつあります。

その最大の成果が、ASEAN地域フォーラム(ARF)です。

神保謙・慶応大学准教授『アジア太平洋の安全保障アーキテクチャ・地域安全保障の三層構造』によれば、ARFは3ツの段階を想定して作られています。

①第1段階・信頼醸成
②)第2段階・予防外交
③第3段階・紛争解決へのメカニズムづくり

このARFの母体となったASEANは、NATOのようにキリスト教を共通の宗教としておらず、イスラム教から仏教、ヒンドゥまで抱えており、国力にも大きな差があります。

哨戒艇が数隻のフィリピンから、軽空母まで持つタイまで千差万別です。

対中脅威度にも温度差があります。フィリピンやベトナムにとって、中国は直接的脅威ですが、領土問題を抱えないタイやインドネシアは日和見、ラオスなどは親中です。

ですから、ARFはまずは信頼醸成から初めて、予防外交に進化する初期段階だと見られています。

そしてこのARFが依拠しているのが、米国という覇権国家であり、それにパワープロジェクション・プラットフォーム(戦略投射)する基地群を提供しているのが、他ならぬ日米同盟なのです。

トランプにしても、日本の自主防衛派にしても同じですが、日米安保をなくすということは、このようなアジア全域の安全保障の背骨をへし折ってしまうことと同義なのです。

このような人たちは、現実のアジア全域に拡がる日米同盟の進化を知らないで、ただ「オレとお前」の狭い二カ国関係だけで見ようとする視野狭窄です。

長くなりましたので、今日はこのくらいに。 

 

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コメント

インターネットのようだ、と思いました。

インターナショナル(国際)が、国と国との間の事項であるように、インターネットは言わば「ネット際」、ネットワークとネットワークの間の事項と言えます。
我々が接続しているプロバイダーのネットワークは、国内の IX(インターネットエクスチェンジ)という巨大なネットワーク集約点に繋がっています。
これがまさに、ハブ&スポーク構造の「ハブ」にあたります。
そして、日本と米国の間には、IX 同士を接続する海底ケーブルが敷設されています。

この記事を読んで、トランプが日米安保を放棄することは、海底ケーブルを切断しようとするようなことなのだな、と感じました。

中国が華僑と武力を使って構築しようとしている自国を中心としたハブ&スポークと今までの米国中心のそれが、win-winはありえない事が、ようやく米国知識層で認識され始めている…かな?まだ認識甘いかな。
トランプ支持層のブルーカラー達は、安全保障とか米国の役割とか実は同盟がお得とか、おそらく一切理解できないです。そもそもトランプが言ってる事もわかってないのでは。興味がないのです。
・どんどん入ってくる移民共が俺たちの食い扶持を奪う、
・弱い奴らばかり守って俺たちが落ちぶれても知らんぷりだ。守るのをやめろ。
・何でもいいからIT土地バブルの時のような好景気をよこせ。
これが彼等のリクエストであり本音だと思います。
9.11の際、クイーンズから北に架かる橋を「アフガンからもう戦車が向かってるんだ急げ!」とか叫んで逃げたといわれる人達です。どうやって戦車が海をわたるんだか。逃げた後に地図で調べる事もないです。
そんなはっきり言って阿呆な連中へのリップサービスで大損害を食う訳にはいかないと米軍も国務相も慌てて声明出しているので、ホントこれを機会に日本人も無駄に勇ましくなるのではなく冷静に国防を練らないとですね。

とても分かりやすい解説、ありがとうございました。

左翼の人たちが日米同盟や集団的自衛権にひたすら反対するのは、将来権力を握ったときに中国側に寝返ることを考えてそうしているようにしか思えません。だからあえて軍事同盟を否定して孤立したがるのではないでしょうか。政権交代のたびに米中どちら側の陣営に着くかがふらつくのでは、危なっかしくて政権交代させるわけにはいきません。左翼が9条死守、個別的自衛権一本槍、非同盟主義、非武装中立を叫べば叫ぶほど政権交代から遠ざかる結果になっているように見えます。

軍事同盟の機能は敵に共同対処することにあるのはもちろんですが、もう一つ、味方の裏切りや暴走を抑制することにあることを忘れてはいけないと思います。日米同盟についても「日本が居るから米国は無茶しない、だから日本のイラク駐留に感謝する」という声があったのを記憶しています。

NATO型の軍事同盟の強みは味方の裏切りや暴走を抑制する力が強いことで、もし日米豪印の4か国で軍事同盟を結成できた暁には、日米ともに簡単に足抜け出来なくなるため、政権交代してもそうそう外交と防衛の軸足がぶれることがなくなるでしょうから、自民党以外の政党にも政権を渡してもよいかも、という気になります。昔、前原氏が民主党の党首になった時、「外交と防衛は自民党と同じでいい」と言ったように記憶していますが、外交と防衛が右派政権と左派政権でも大枠では変わらない、というのがNATO諸国の強みになっているはずです。

NATO型の集団的自衛権一本槍の方が結局は安上がりかつ安定的なのに気づかないふりをしてる人が多いのは、戦争を引き起こしたい、あるいは中国側に寝返りたいという野望の裏返しのように見えてしまうのは穿ち過ぎなのでしょうか。

というわけで、政治的困難はあるものの、理想としてはネットワーク型の安全保障体制を希求してほしいと願うところです。その前に何とかしないといけないものが多すぎるのが困ったところですが。

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