政府は水や食料と共に、「情報」を被災現地に送らねばならない [付録]激甚災害指定についての河野大臣の解説
今回、私は政府の対応は、初動における救援リソースの集中投入、支援物資の搬送など、いちおうの合格点だと評価しますが、大きく欠落している点があります。
それは、リスクコミュニケーションの不足です。
東日本大震災・福島事故において、救援と復興をもっとも遅らせた最大原因のひとつは「風聞」です。 つまり「デマ」の拡散です。
風聞は形がなく、誰が発したのかさえ判らないまま、いかにももっともらしい顔をしてSNS経由で瞬く間に拡散していきます。
いわく、「東日本はもう住めない」。
いわく、「外国のエライ学者が40万人ガンで死ぬって言ってたよ」。
いわく、「東日本の食品を食べたら死にます」。
いわく、「奇形が出たそうだ」。
被災者は先が見えない状況に置かれています。
自宅から、職場に勤めに出て、子供を学校や保育施設に送り出し、スーパーに夕餉の買い物に行く、そういう「日常生活」が根こそぎ奪われた状況に、突如放り出されたわけです。
そして避難生活で、もっとも飢えているのは「情報」です。
この「情報」を政府がしっかりと発信しないと、今後、政府情報を一切信じない、まだなにか隠しているに違いない、という国民の不信が生まれます。
水や食料と同じくらい重要なものは、「情報」なのです。
この緊急時情報発信とそれを共有するシステムのことを、リスクコミュニケーションと呼んでいるわけです。
今の熊本地震のような大規模災害に対して、特にその初動期に、政府が分かりやすく、ありえるリスクを明らかにして、それに対して政府がどのような対応をとっているか、被災者はどのようにしたらいいのかについて、明確な情報を伝えねばなりません。
政府は水や食料と共に、「情報」を被災現地に送らねばならないのです。
福島事故後は、民主党政府がこれに失敗したために、なにを言おうと政府の言うことは一切信じない層が生まれてしまいました。
リスクコミュニケーションを、押さえておきましょう。
「リスクコミュニケーション (Risk Communication) とは社会を取り巻くリスクに関する正確な情報を、行政、専門家、企業、市民などのステークホルダーである関係主体間で共有し、相互に意思疎通を図ることをいう。合意形成のひとつ。
リスクコミュニケーションが必要とされる場面とは、主に災害や環境問題、原子力施設に対する住民理解の醸成などといった一定のリスクが伴い、なおかつ関係者間での意識共有が必要とされる問題につき、安全対策に対する認識や協力関係の共有を図ることが必要とされる場合である。」(Wikipedia)
今回の熊本地震においては、以下の3つが重要なリスクコミュニケーションの指標だと思われます。
①現在の被害状況はどの程度か。どこまで被害が拡がっているのか。
②避難所はどこにあるのか。どこに行ったら支援物資が受けられるのか。
③誘発されるかもしれない周辺の危険情報。
いずれも現在の初動時期のみのもので、この先状況が安定すれば、当然、復旧・復興についての展望も示さねばなりません。
激甚災害指定については、熊本県知事からは要請があったようです。
左翼は、「激甚に指定しないのはオスプレイを活躍させたいからだ」という定番的タコ発言をしていますが、それは無視するとしても、未だ群発的状況が続き、被害規模が確定できない以上算定が難しく、政府も出したくても出せないようです。
現在集計されている被害状況は、朝日新聞(4月21日)によれば、20日午後6時現在:このような規模です。
■熊本地震被害被害状況(4月20日現在)
・建物の被害・・・全壊1454棟、半壊1324棟
・益城町役場、、宇土(うと)、八代(やつしろ)両市役所は崩壊の恐れがあり使用不能
・死亡者数・・・59名(関連死を含む)
・避難者数・・・前震後は約4万4千人、本震後急増
・17日午前9時半時点で、熊本県内で18万人超→20日午後1時半現在、約9万2千人
・車中泊を続ける避難者も多い。
・20日午後7時までに震度1以上を観測した地震は707回。うち震度4以上が90回
■ライフライン状況
・断水・・・9万戸以上
・電気・・・16日の本震後、熊本県内だけで一時、18万戸以上が停電
・阿蘇市などへの送電線が土砂崩れで使用不可能となるが、20日までに九州電力は阿蘇市と南阿蘇村の計約2700戸の復旧作業を行い、全て復旧
・水道・・・配水管の破損、地下水の汚濁で飲料水に適さなくなったりする水道が増えて、最大で39万戸が断水
・九州各県の自治体、自衛隊、海上保安部などが給水車で、給水支援中
・20日午後3時現在、被害の激しい熊本市や宇城(うき)市、益城町などで約9万8400戸が断水中
・ガス・・・西部ガスは本震後、火災などの二次被害を防止のため、熊本市や益城町など2市5町の計約10万5千戸への供給を停止。
・20日正午までに東京ガスや大阪ガスなど全国から1200人が応援に入って復旧作業を始め、計488戸のガス栓が回復。完全復旧の見通しは立ず
以上が被害の概括的状況ですが、いまだに状況は進行中です。
このような中で予算規模のフレームを作れば後に、またここでもあそこでも地震がとなった場合、先走ったことになってしまいます。
現時点では首相が「前向き」ということで知事には言質を与えて安心してもらい、地震の収束を待っているようです。
※追記 欄外に河野太郎防災大臣の見解を添付しました。bdp様に感謝します。
補正予算枠ではどうにもならないのは分かっていますので、思い切った復興国債などを出して財源を確保するのも選択肢でしょう。今は、マスナス金利ですから。
それはさておき、簡単に①から③をまで見ていきます。
①ですが、地震がいっかな収束せずに、600回におよぶ群発地震によっていっそう拡大する状況が、避難者の不安を煽っています。
これについては、行政やNHKから出されていると思います。
むしろ、一部のメディアやネット情報のように、「南海トラフ地震になるおそれ」「活断層がある場所、すべて地震予定地」のような根拠のない流言蜚語こそ慎むべきです。
正直、今の初動期に彼らメディアにやって欲しいのは、くだらない報道ではなくむしろ「沈黙」です。
②は、行政は想定をはるかに超える避難者に対応が遅れており、避難所の数が足りていません。
未だ自動車の中で生活する人が大勢いるように、決定的に対策が不十分です。
支援物資も、行政職員の不足とボランティアが限定的なために、集積場所で放置されて被災者の手に渡らないケースが多発しています。
これも早晩解消されることを期待しますが、現状が長引けば避難者にストレスが蓄積し、健康被害が多発することは経験が教えています。
「東日本大震災・福島事故においては、避難先で体調を崩して亡くなる「震災関連死」は増え続け、県のまとめによると11日現在 、2016人に上っている。」
(福島民報2016年4月21日)http://www.minpo.jp/pub/topics/jishin2011/2016/02/post_13207.html
最大の犠牲者は、直接の被害よりむしろ避難後に出るのです。
②において、行政のリスクコミュニケーションが万全だとはとうてい思えません。
とはいえ、これも一部メディアのように、「被災者に怒りと失望」のようなことばかり一面的に報じてみても無意味です。
むしろ、被災者の不安を煽るのは止めていただきたいものです。
では、③の周辺の危険情報はどうでしょうか。
これはどうしたことか、まったく手つかずに等しい状況です。
最大の「周辺の脅威」は川内原発です。
政府は原子力規制委員会が、以下のような無味乾燥な情報をピラっと一枚出したきりです。
https://www.nsr.go.jp/news/20160415_01.html
■熊本県で発生した地震による原子力施設への影響について
16日 16時2分頃に熊本県で発生した地震(余震)による原子力施設への影響について、お知らせします。(16時23分現在)(現在、各施設ともに異常情報は入っていません。)
原子力発電所
<九州電・川内(PWR)>鹿児島県:最大震度3
薩摩川内市:震度3
1・2号機:運転継続中
プラントの状態に異常なし。
排気筒モニタ、モニタリングポストに異常なし。
地震計の指示値(1号機で代表)
広報用地震計の指示値(下記設定値の参考値。)
(補助建屋最下階 1.2gal
(補助建屋1階) 2.2gal原子炉自動停止設定値
(補助建屋最下階)水平方向160gal、鉛直方向80gal
(補助建屋1階) 水平方向260gal
はい、これだけです。いくらなんでも、これはひどい。あまりに官僚的にすぎます。
読む人が読めば、1.2~2.2ガルですから、まったく問題にならないのことは理解できますが、被災者、いや国民の多くはなんのこっちゃとなるはずです。
この隙間に、歪曲情報が忍び込む余地が生まれます。
内閣府原子力防災に至っては、未だ一行の情報もアップれされていない状況です。http://www8.cao.go.jp/genshiryoku_bousai/index.html
丸川珠代さん、あなたの「1ミリシーベルトは科学的根拠がない」発言を私は支持しましたが、今回はいただけません。ちゃんと自分の仕事をしなさい。
今、環境相としてするべきは、川内原発の安全性に対しての情報発信です。
あなたの所轄である原子力規制庁に、もっとしっかりとした広報活動をするように命じなさい。
いや、あなた自身がメディアの前で説明してもいい。テレ朝の女子アナだった経験を活かすのは、今だと心得なさい。
こういう初動時に、デマや風評を的確に潰しておかないから、デマは地下で繁茂し、増殖し、やがて手に負えなくなるのです。
情報の世界においては、悪貨が良貨を駆逐するのが真実です。悪貨が制圧してからでは遅いのですよ。
面白半分のデマは、常識の天秤を破壊し、歪ませます。
歪んだ天秤を国民が信じるようになれば、それに便乗した政治家が点数稼ぎのポピュリズムに走ります。
「1ミリシーベルト」は不必要な除染と避難を強いて、復興をおそらく5、6年単位で遅らせました。
そしてデマの発信者は顔がないためにいつの間にか消え失せ、結局、代償を払ったのは被災者でした。
この東日本大震災・福島事故の苦い経験を思い出して下さい。
私たちブロガーもデマ退治をしていますが、本来このような仕事は、政府の仕事です。
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災害救助法と激甚災害熊本地震に関して
河野太郎
「激甚災害指定」と「災害救助法の指定」が話題になっています。
「災害救助法の指定」を受けると避難所、応急仮設住宅の設置、食品、飲料水の給与、医療、被災者の救出などにかかる費用について市町村の負担がなくなります。
熊本地震では、地震の翌朝に指定されました。
一方、「激甚災害制度」は、国民経済に著しい影響を与えるような激甚な災害から復旧するにあたり、自治体の財政負担を軽減するために、公共土木施設や農地等の災害復旧に必要な費用に関して国庫補助の嵩上げを行うものです。
被災したり、避難所に避難したりしている人には今すぐ直接、関係はありません。
激甚災害の指定は、復旧費用がその自治体の財政力の一定割合を超えるかどうかで、機械的に決まります。
その為、指定にあたっては、災害復旧に必要な金額の査定がまず必要です。
激甚災害の指定には、全国的に大きな被害をもたらした災害を指定するいわゆる「本激」と呼ばれるものと、局地的な災害によって大きな復旧費用が必要になった市町村を指定する、「局激」の二つがあります。
全国的に大規模な災害が生じた場合は、例えば公共土木施設等による全国の災害復旧の査定見込額が約1785億円を超えれば本激の指定(本激A基準)が可能になります。
また、全国の災害復旧の査定見込額が約714億円を超える被害があり、都道府県の標準税収入に対する査定見込額の割合が25%を超える都道府県が一つ以上あるか、 一つの都道府県内の市町村の標準税収入総額に対する査定見込額総額の割合が5%を超える都道府県があるとB基準による指定が可能になります。
こうしてまず全国的に指定された上で、各自治体が国庫補助の上積みを受けるためには、1年間の激甚災害に係る災害復旧事業費等の自治体の自己負担額がその都道府県の標準税収入の10%、市町村ならば5%を超えることが必要になります。
「局激」とは、市町村単位で激甚災害の指定を行う場合の基準です。その市町村の標準税収入に対する公共土木施設等の災害復旧の査定事業費の割合が1/2を超えた場合に可能になります。
激甚災害に指定されるかどうかは、その災害からの復旧にいくらぐらい必要になるのか、そしてその金額がその自治体の財政力と比べてどの程度になるかによります。
大きな災害であっても被害を受けた自治体の財政力が非常に大きければ指定されないこともあります。
災害復旧の金額の査定に時間がかかることもありますが、今回の熊本地震では、激甚災害指定に必要な被害額の把握を特にスピードアップするよう総理から指示が出されていますので、自治体の皆さんに安心して復興に取り組んでいただけるよう、手続きを速やかに進めていきます。
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コメント
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こんにちは。
私が一つ気になるのは、激甚災害の指定についてです。
管理人さんと同じで、私も、今回の政府の対応は悪くないものだと思います。
が、民主党政権下では、震災の翌日に激甚災害指定が行われているのに対し
今回の対応は遅過ぎるとの批判があります。
管理人さんはそれについて、どう思いますか?
正直に言うと、私は、激甚災害の制度に関して
あまり理解していませんので
その辺も含めて教えて頂けると嬉しいです。
時間があればで構いません。宜しくお願いします。
投稿: むらぴー | 2016年4月21日 (木) 11時07分
激甚災害指定、書類を読むだけでくらっときそうな難解さでしたf^_^;)
指定したとしても補助金交付は年度末以降のようです。即日指定しようがしまいが被害の査定は今後まとまるので、前向き検討で算出しながら今後に備えるしかないのではと思いました。同時期でも別要因であれば別立てしないといけないなど複雑なようです。下手に囲って指定してしまうとまとめて復興予算をつける時に煩雑になるのでは?
なるだけ正確で有益な情報を被災地に送る、というのは本当に大切だと思います。出版放送メディアは被災情報を全国に発信するべく被災地に集結するだけでなく、インタビューに出向いた先で被災者に有益な情報を伝える時間もモニタも電源もあり、③に関しては何か手伝える事があるはずです。今のコメント漁り逃げして角度付けてひろめる式ではなく、ね。うーんでも無理かな。正義や手柄とは無縁の行為ですので(u_u)
投稿: ふゆみ | 2016年4月21日 (木) 13時57分
災害救助法と激甚災害 河野太郎
ttp://blogos.com/article/172598/
投稿: bdp | 2016年4月21日 (木) 14時05分
bdpさん、分かりやすいリンクありがとうございます。
投稿: ふゆみ | 2016年4月21日 (木) 15時13分
bdpさんありがとう。河野大臣の説明を、付録として欄外に転載いたします。
おおよそ記事中の私の説明でまちがっていないようです。
要は、被害を受けた自治体の財政力に対して、どのていどの被害かということのようです。
現状は被害がまだ続いている状況で、全容が分かっていません。
河野大臣は「激甚災害指定に必要な被害額の把握を特にスピードアップするよう総理から指示が出されています」と書いています。
まぁ、そのとおりだと思います。
むらびーさん、明日の記事でもう一回まとめますね。
投稿: 管理人 | 2016年4月21日 (木) 16時45分
>①ですが、地震がいっかな収束せずに、600回におよぶ群発地震によっていっそう拡大する状況が、避難者の不安を煽っています。
>これについては、行政やNHKから出されていると思います。
>むしろ、一部のメディアやネット情報のように、「南海トラフ地震になるおそれ」「活断層がある場所、すべて地震予定地」のような根拠のない流言蜚語こそ慎むべきです。
>正直、今の初動期に彼らメディアにやって欲しいのは、くだらない報道ではなくむしろ「沈黙」です。
私は、熊本地震の被災者ですが、報道に対して「怒り」を感じています。
彼らは、被災者の不安を煽ることばかりしています。
そのために、多くの避難者を創出しています。
震度7クラスの地震が2度来ましたが、3度目もくる可能性があると気象庁は言っています。
気象庁からの情報によると、次にM7.4の地震がくると言う噂が広まりました。おかげで、夜も安心して眠れません。また、報道の自粛もなく、不安を煽るだけです。彼らには「沈黙」が必要だと思います。
オスプレイの活動に対しては、熊本県民は感謝しています。阿蘇地方への救援物資は急務です。オスプレイの優れた性能に感謝しています。
投稿: 三四郎 | 2016年4月21日 (木) 22時36分
激甚災害指定の記事が楽しみです。
ある人が言うには、熊本県知事は今回の地震翌日には指定の希望を総理に伝えている…費用負担を考え安心したいからだ。
安倍内閣は忙しくなるので指定を先延ばししていると。
民進党がいう俺達は直ぐ指定したとは
菅政権は東日本大震災の翌日の12日夜に激甚災害指定の「閣議決定」、13日に「公布」。
その後動きなく(得意の放置プレイ)、自民党の指摘を受け4/27に「中央防災会議」第1回を開催…例の如く議事録など無し。
調査による災害実態の認定作業が始まったのはいつ頃が不明、序盤はこんな流れのようですね。
岡田さんは河野さんに災害救助法と混同してないかと言われ静かになったと思えます。
がんばれ熊本!!
投稿: 多摩っこ | 2016年4月22日 (金) 02時11分
三四郎さん。がんばって下さい。鹿児島本線も回復しました。ボランティアも解禁となって、一斉に復興に進むでしょう。
おっしゃるように、私はいままでマスゴミという言い方はしてなかったのですが、人命救助している南阿蘇上空を何機も飛ぶマスコミのヘリを見ると、まさにマスゴミとしか言いようがありません。
今日の雨が心配ですが、ご注意ください。私は母が熊本の人吉出身なので、我が身を切られるようです。
がんばれ、熊本!がんばれ、火の国の民!
投稿: 管理人 | 2016年4月22日 (金) 04時17分