日曜雑感 NATOは遠すぎる
「アジアでの集団的安保体制ではなく、日本もNATOのオブザーバーを抜けて正式加入では、だめですか?」とのことです。
メルケルさんが前回来た時に、安倍さんに「入んない」と言ったことで日本とNATOなんて組み合わせを、つい真剣に考えた人もいたかと思います。
すいません。結論から言いますと、意味がありません。
日本がNATOに加入することによるベネフィト(利益)はミニマムで、加盟することによる脅威はないでしょうが、「やりにくさ」は非常に増えてしまいます。
なんといっても致命的に、遠いのです。
安全保障の方程式というのを小川和久氏が唱えていて、<脅威=能力+意志>というものです。
<攻撃能力+攻撃意志>と言ったほうがいいかな。
これに<距離>を加えたらいかがでしょうか、と言うのが私の考えです。
<脅威=攻撃能力+攻撃意志+距離>です。
ちなみに、核保有国同士だとこれが、< 脅威=核報復能力+核報復意志>となりますので、距離は関係なくなります。ICBMは地球の裏側まで届きますからね。
仮にNATOに加盟しても、NATO軍が来援に来てくれるかどうか、怪しいものです。
NATO理事国で、尖閣諸島を知っているものなどゼロでしょう。
日本代表がいくら力説しても、「そんな岩礁をめぐって、中国と局地戦争をしたがるお前が悪い」と言われて、逆に「東アジアの緊張を増すつもりか」と怒られたりします(涙)。
つまり、日本を防衛する<意志>なんかミジンもないのです。
これが冒頭で書いた「やりにくさ」です。
なんやかんや言っても、ヨーロッパよりはるかにアジア情勢に精通している米国なら了解してくれることを、NATO理事会のお歴々が納得してくれるか、はなはだ怪しいもんです。
特に中国には英仏独が経済的利害関係を強く持っていますから、日本の立場なんて斟酌してくれそうにありません。
かつてのように植民地利害が絡まれば、がぜん関心を持つようになりますが、その海外植民地を根こそぎ「解放」してしまって、いまでも恨みを買っているのは、かく言うわが日本です。
大英帝国の崩壊も、フランス共和国の没落も、小規模植民地国家だったオランダの没落も、すべてやったのはうちの国ですよ。日本人は都合よく忘れているけど。
ドイツは、戦前、中国大陸に食い込む戦略を持って、蒋介石に入れ込んだ時期がありました。
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その時の中独の仮想敵国は、もちろん日本です。
その後には、ヒトラーが日独伊三国同盟などという黒魔術で日本をたらしこんで、戦争に引きずり込もうとしました。
ヒトラーはウルトラ・レイシストですが、ありがたくも名誉白人として、ロシアと沿海州で戦端を開いてくれることを期待していたのです。
結局、日独同盟は、あまりに遠すぎて、潜水艦で行き交うだけがやっとで、まったく軍事的には無意味で、米国と緊張関係をつくっただけに終わりました。
というか、そんなこと初めからわかりきったことだろうって。
ドイツにだまされて日独同盟作った中心人物の板垣陸軍大臣、外務省を飛び越して駐日ドイツ大使館と直接連絡をしていた大島駐独大使(陸軍少将)、民間ではドイツの提灯記事を書き続けて煽りまくった朝日新聞などの頭の中には、絶対にオガクズが詰まっています。
それはさておき、第2の<能力>ですが、NATOには限定的な戦力投射能力しかありません。
NATOにおいて、英仏のみが空母や強襲揚陸艦などの戦力投射能力をもっていますが、あれは日本防衛に使うためのもんじゃありません。
ありていに言えば、彼らの残り少ない海外領土の防衛のために備えているだけで、米国に比較すれば大人と子供ていどの能力しか持ちません。
3番目に<距離>です。NATOには、能力と意志がないのは見た通りですが、それは<距離>によって絶対的に規定されているからです。
ヨーロッパ.は地球の反対側といっていい距離にあります。
ですから、日本はヨーロッパ諸国と彼らのお宝だった植民地をめぐって英仏蘭と戦争をしましたが、本国間の戦争は起きていませんね。
というか、遠すぎて戦争にならないんですよ。
逆に言えば、攻守同盟をNATOと作っても、遠すぎて機能しません。これは先に述べたドイツの例でわかるでしょう。
もしNATO諸国がインド亜大陸当たりにあったら、一も二もなく、「いれてくれぇ」でしょう。
というか、そんな近距離に西欧があったら、日本の歴史が変わっちゃいますがね。(笑)。
安全保障において、距離とは最大の物理力なのですよ。
日本がヨーロッパの難民問題や、クリミア問題にどこか他人ごとなように、ヨーロッパ人はアジアでなにがあろうと、知ったことではないのです。
上図は中国の貿易関係ですが、中国を最大の貿易相手国とする国が124、米国を最大の貿易相手国とする国が56です。
特に中国がヨーロッパと、強い貿易関係で結ばれているのがわかるでしょう。
ヨーロッパにとって、日本はなまじ同じ先進工業国であるだけに、多くの工業製品でバッティングする憎い競争相手であっても、いい顧客とはいえないのです。
一方、中国は気前のいい買い手であり、かつ安価な工業製品ですから競合関係になりにくい輸出国です。
フランスは中国にレーダーなどの武器を売り、イギリスはシティの利益のために、AIIBに真っ先には飛び込むわけです。
メルケルは中国にいれあげていて、何回訪中したかわからないほどです。
VWも危なくなると、中国が買うという話がすぐにささやかれるほどです。
どの国も自分の財布しか考えていない、そんなもんなのです。国際社会とは。
今月のサミットでも、ヨーロッパ勢にとって、南シナ海には上品に「懸念」を表明すしてくれるでしょうか、名指しはしないはずです。
ああ、夢がないが、仕方がない。
NATOは集団安全保障体制のモデルとして実に興味深いものですが、加盟などはできないし、しても意味がありません。
日本という国家の永年の悩みは、アジアに同盟国足り得る独立国がなかったことです。いまもそれは変わりません。
だから、戦前はロシアに対抗するために日英同盟を作り、戦後はソ連、いまは中国と対峙するために日米同盟を結ばざるをえませんでした。
かつての英国、そして現代の米国、共に時代の覇権国でした。
覇権国とハブ&ホイールの関係を結ぶことで、なんとか凌いできたわけです。
いま、その米国が大きなセットバック(後退)時期に差しかかっています。
さぁ、どうしたもんでしょうか。皆さんと一緒に考えていきましょう。
長くなりそうなので、今朝はこのていどで。
それにしてもこの間、ワタシのブログ、安全保障問題のブログみたいですね(苦笑)。特にそういうわけじゃないんですが。
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NATOに加盟してもイイのではないでしょうか。しかし、イメ-ジとしてはまだ茫洋としております。日英同盟もあったし日独の同盟もあったのですから、同盟自体は可能でしょう。そして、古来、戦略としては遠交近攻の考えもあるわけですから。
アジア版NATOも可能だと思います。アジア版にはアメリカも一緒だろうと思っております。それから、ロシアとの連携は是非模索したいものですが、これが、一番、有効かもしれないと思っております。さらに、インドとの連携も模索したいですね。
投稿: ueyonabaru | 2016年5月 8日 (日) 09時53分
人間も国も自己の利益を最大化するために動く。これは洋の東西を問わず、歴史のどの時点を取っても変わりません。人間も国も利己的な存在なのです。
憲法条文は実に耳障り良くできています。憲法では人間も国もいずれも善良であるからそれを信じましょうと言う教条主義です。正に美辞麗句を散りばめた聖書を片手に植民地化を進めた西洋人の発想ですね。
ところが日本人は博愛主義的で美しい言葉が大好きです。人を見たら泥棒と思え、などと言っていたら人格を疑われます。
しかしそんな日本でも、地域の防犯のために自警団を組織したり、集団登下校で子供を守ったりと言う活動には疑問を感じずに積極的に参加しています。正に、集団的防衛体制と同じですね。
ブログの主は集団的防衛体制について地理的な要因が重要であると述べていますが、確かにその通りです。自警団を組織して隣町をパトロールする馬鹿はいません。あくまでも自己の利益になるから自警団に参加するのです。
地域に物凄く恐ろしい反社会勢力がいたらどうでしょう。警察に相談しましたが、ことなかれ主義の警察も予算が無いとか何とか言って及び腰です。自警団を組織しても簡単にひねり潰されてしまうのは明らかです。
今の日本の状況は正にそんな感じでは無いでしょうか。
ここで憲法絶対の教条主義の出番です。反社会勢力と言っても元は善良な市民でしょう。話し合いすれば分かり合えます。下手に自警団など組織すると、かえって睨まれてしまうからそんな恐ろしいことは止めるべきです。警察に行けば報復されます。酒でも酌み交わしながら、なあなあで行くのが一番です。反社会勢力が街を支配しても、平穏な日々が保障されるならそれはそれで良いのではないでしょうか。
トランプ大統領の可能性が出てきてから、中国の動きが活発化しているようです。熊本の震災に祭しても中国は活動を活発化させました。外務省のチャイナスクール売国官僚や自民党の同じく親中派売国議員にそそのかされて訪中した岸田外務大臣も、大いに舐められて帰って来ました。このような事実を見て、今の日本が崖っぷちに立っていると言う認識をどれだけの人が認識しているのでしょうか。
日本を守るにはどうすれば良いのか。美辞麗句に惑わされず、そろそろ真剣に考えるべき時に来ています。現実路線はコストを度外視しても日米安保の深化を図り、その他のオプションとしての集団的地域安全保障体制を同時に進めるべきでしょう。
投稿: 愛国命 | 2016年5月 8日 (日) 09時57分
メルケルのNATOへの誘いは、第一次安倍政権時代から軍事交流を続けてきたことへのリップサービスの面がありました。
ただ、それだけじゃないですね。
メルケルには、「9条を遵守する日本」をNATOに入れたいという思いがほんとにあったんでしょう。
それが日本と中国の、引いてはそれに起因する国際紛争の未然の防止に役立つと考えた。
その意味は、日米の関係性を薄める事だと考えたでしょうから。
それだけじゃありません。
米国抜きでNATOは存在し得ないにもかかわらず、かつての米国の戦争や地域外戦略において、米国とNATOとはずいぶん前から秋風が吹いているんですね。
だから、あながちリップサービスだけでなく、堅固な日米同盟へのくさびを打ち込む狙いもあったんでしょう。
我々日本人自身が考えるよりも、もっとずっと日本は軍事的にも経済的にも大国なんですね。
日本が米国から距離をとれば、米国の発言力は減殺され、NATO内でのEUの勢力の発言件は高まる事になります。
南シナ海問題にしても、EUは「航行の自由」、「中共の軍事的侵攻」への懸念という観点においてのみ日米側を支持しています。
(米国内の約半分もそうでしょうが)
地域の事は地域で解決すべき、というのがNATO内のEU勢力の基本姿勢です。
これは二度の世界大戦への反省という面と、(表向き)利害を乗り越えてEUという共同体を作った基本姿勢にもあらわれています。
「アジアの問題はアジアで解決すべきであって、米国は一線を画すべき」の結果、だれが利を取るかは明かです。
EUは中共がアジアの覇権国になるのは自然だ、と容認しているフシもあります。
NATOの潜在的仮想敵国はロシアで、EUにとって中共は経済的な友人です。
中共の本質が善であれ悪であれ、地域の安全保障を脅かさないかぎり関係ありません。
それでありながら、ウクライナから核をとりあげNATOやEUへの加入希望も受け入れず、見殺しにしましたね。
世間ではオバマの逃げ腰のせいにされていますが、多くはNATO内EU派に原因があります。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2016年5月 8日 (日) 11時16分
せっかくの周一の休みを、すいません。
そうですか、あまり意味がないですか!
抑止力ぐらいには、なると思ったのですが。
やはり全額、米軍駐留費用出さないと、駄目ですかねー。
都合よく9条押し付け、此まで金出せ、金出せ
で、自立出来ない様にして、今頃になって自立しろだと言い出すし。
さて何時まで駐留費用出すのでしょうか?
ま〜振興予算たんまり貰ってる
県出身者が言うことでは、ありませんが(-.-)y-~
投稿: 元本部町民 | 2016年5月 8日 (日) 15時26分
そうだ、メルケル誘ってましたね忘れてました。名誉白人にしてやるからお金出してよと私には聞こえていました。
遠交近攻の遠交分くらいの友好関係はもう欧州とは築けているのでNATO分を積むほどの意義がないように私は感じます。
近攻に関しては、ASEANはもたれかかって頼る先ではないですが、南側が中共側に付かれては困るのです。タイとベトナム以外うちらの真南にある国々の親中路線をいかに食い止め削いでいくか。
記事中にあるアジア古地図にあるASEANの戦後独立した所が皆んな中国の子分になるとマジで日本とタイはヤバイ。中国へ寄るASEANを説得し続ける必要があります。
日本が解放した国々には華僑が地位を築きフィリピンでも親中大統領候補が優勢です。ASEANの微妙な国々こそ上に愛国命さんが書かれたような、親分が何者でも平穏なら良いじゃないのと思っています。
山路さんが書かれたEUは中国がアジア覇者で問題ないと思っているのに私も同意します。
私達も王様の首を差し出して平穏を請いますか。それでもたらさせる暮らしは間違いなく今よりずっと不自由で危険で人々の信頼関係を壊し、天災を乗り越える地力を私達から奪います。
私達は当たり前のように行動していますが、何千本も活断層がある火山国に1億人も安全に暮らし焼け野原にビルを建て、津波の塩害を清め、暴動を起こさずに厄災を毎回乗り越える日本は外人から見たら異能で異常な存在です。でも何故私達がそう振る舞えるかと言うと、ちゃんとしないと天災で死ぬからで。そこを崩しかねない国体の変化には断固反対です。でも他国に同じレベルの振る舞いを求めるのは土台無理だと理解する必要があります。
こういう話は書ききれないというか、難しいですね。
投稿: ふゆみ | 2016年5月 8日 (日) 16時35分
> EUは中共がアジアの覇権国になるのは自然だ、と容認しているフシもあります。
EU諸国は日本人のようには中国の脅威は感じないのですかね。ウイグルやチベットの人権問題にも鈍感でいられるのでしょうか?
> NATOの潜在的仮想敵国はロシアで、EUにとって中共は経済的な友人です。
ロシアはヨ-ロッパの国々にとっては歴史的に脅威の対象なのでしょうか。今のロシアは日本にとっては手を組むことはできないでしょうかね。中国が核ミサイルを日本に向けて照準を定めている状況では、ロシアと組み中国を牽制できないかといつも思うのです。緊急事態には、ロシアから核兵器を購入することも考えられるでしょうし。
> それでありながら、ウクライナから核をとりあげNATOやEUへの加入希望も受け入れず、見殺しにしましたね。 世間ではオバマの逃げ腰のせいにされていますが、多くはNATO内EU派に原因があります。
EU諸国のウクライナへの態度は私にはよくわからないところがありますね。
投稿: ueyonabaru | 2016年5月 8日 (日) 18時53分