「オール沖縄」は終わりました
あさって19日、うるま市女性殺人事件に抗議して県民集会が開かれるそうです。
今回の県民大会が成功するかどうかの焦点は、自民党と公明党の県連が参加するかでした。
自民はかつての知事選前後のグラつきから解き放たれ、県議選での事実上の勝利に近い踏ん張りで自信がついたようです。
前々から、実行委の「オール沖縄会議」がこんな時期にする抗議集会を批判してきたようですが、ぎりきりになって不参加を決定ましました。
「会見で(自民)県連の照屋守之副会長は、大会を主催するオール沖縄会議から正式な協力依頼がないとして「開催や大会決議を決める前の段階で、超党派の取り組みを模索すべきだった」と批判。「県民大会を選挙の最中に行うことにも一つの疑問を感じる」などと超党派での取り組みを求めた。」(琉新2016年6月15日)
そして次いで公明党も不参加を表明します。「オール沖縄会議」は、自民はともかくとして、公明不参加は痛かったはずです。
「オール沖縄会議」は、公明県連くらいは引き込めると目算していたはずです。公明さえ引き込めれば、自民の孤立を浮き彫りにできたでしょう。
「公明は同県民大会に参加せず、18日に別で追悼集会を開くことを決め、自民も別の大会開催を検討しており、超党派による大会開催はなくなった。」
(琉球新6月16日)
保守の自民と中道の公明が揃って参加しなとなると、「全県民」という建前が消滅します。
ここに翁長氏が参加するか否かが、次の焦点でした。
もし保守・中道不在の集会に参加すれば、彼は従来翁長氏が自身のスタンスとしてきたはずの、「沖縄の保守が革新を包む」(※)というスタンスは崩壊することになります。
※朝日新聞2012年12月14日翁長雄志さんに聞く沖縄の保守が突きつけるもの
公明不参加を聞いた翁長氏の下した結論はこうです。
「翁長雄志知事は16日、県庁で会見し、米軍属女性暴行殺人事件を受けて19日に開催される県民大会への参加を正式に表明した。翁長知事は「参加する方がより多くの県民の期待に応えられる」(琉新6月17日)
これで決まりました。翁長氏はみずからの手で「オール沖縄」を分解させたのです。
私には翁長氏が、たぶん3カ所で開かれることになる追悼集会のひとつひとつに顔を出して、演説をぶつのかと、心のどこかで期待していた部分もありましたが、無駄だったようです。
翁長氏がしたたかな政治家ならば、メーンを「オール沖縄会議」主催の抗議集会に置いた上で、自民、公明の集会でも演説のひとつくらいはできたはずでした。
そのほうが、よほど自民県連はイヤだったことでしょうに。なにせ、自分たちの集会で翁長氏の政府批判演説を聞くはめになるのですから。
状況は非常にクリアになってきました。
「オール沖縄」はこの時点で消滅したのです。自滅したと言い換えてもいいかもしれません。
翁長氏のスタンスの妙はひとえに、「保守がいて、革新もいて、その真ん中に知事がいる」という「あいまい」戦術にありました。
この翁長氏の立場の微妙さは、仮に翁長氏の代わりに伊波洋一氏が知事だったならばと考えれば分かりやすくなります。
「伊波知事」ならばストレートに持論の、「移転阻止・全基地撤去・海兵隊全面撤退・安保廃棄」を叫ぶでしょう。
これに県内の保守層が乗れますか?
今まで自民県連の幹事長までやって、大田革新知事から知事の座を奪還して稲嶺知事を作り、さらには仲井真知事を作った実績を持つ翁長氏だからこそ、保守層は彼を知事の座につけたのです。
オナガなら、基地交渉の裏表に精通しているから、任せられるさぁ、と。
さきほどの朝日のインタビューは、知事就任直前のものですが、こんなことを翁長氏は言っています。
朝日新聞2012年12月14日翁長雄志さんに聞く沖縄の保守が突きつけるもの
「革新勢力は、全身全霊を運動に費やせば満足できる。でも政治は結果だ。嫌だ嫌だで押し切られちゃったではすまない。稲嶺恵一知事はかつて普天間の県内移設を認めたうえで『代替施設の使用は15年間に限る』と知事選の公約に掲げた。
あれを入れさせたのは僕だ。防衛省の守屋武昌さんらに『そうでないと選挙に勝てません』と。こちらが食い下がるから、向こうは腹の中は違ったかもしれないけれど承諾した」
私は正直、ホーと思いました。
このインタビューは、知事になる前だったので、就任後の多弁にして無内容な発言とは違って、いい意味でも悪い意味でも泥臭い島の保守政治家らしさが残っています。
翁長氏が言っているのを、超訳すればこうです。
「オレは、安保も集団的自衛権も認めている保守政治家なんだよ。だから基地があるのは分かる。だが、沖縄だけにそれを押しつけるのはおかしいだろう。本土がなぜ引き受けないんだ。
しかし、基地はもう既に島に根を張っているのもホントだ。
革新の連中みたいに建前だけで運動してもなんにもならない。ひとつひとつ苦渋の選択をして、条件闘争をして島に有利なことを引っ張ってこなきゃダメなんだ。政治は建前じゃなくて、結果なんだよ」
これは実は、島の保守層の最大公約数的意見なのです。
知事選で、翁長氏に入れた相当部分は沖縄保守層の人たちでした。
「ぼくは非武装中立では、やっていけないと思っている。集団的自衛権だって認める。しかしそれと、沖縄に過重な基地負担をおわせるのは別の話だ」という、自称「ゴリゴリの保守政治家」に、なんか担保を得たような気分を持って県政を預けたのです。
「オナガなら、悪いようにはしないさぁ。なにかいい折り合いを見つけてくれて、島人の気持ちをうまく本土政府に伝えてくれる」、そんな気分ではなかっでしょうか。
http://www.jcp.or.jp/akahata/aik14/2014-12-11/2014...
しかし、その期待はもろくも裏切られました。彼は左翼陣営に取り込まれ、今やおそらく島人の9割が望んでいるはずもない「民族自決」、すなわち「琉球独立」につながるようなことまで国連でしゃべってくる始末です。
今、中国海軍が連日のように沖縄県の領海侵犯を繰り返すような状況で、「民族自決」などしたら自立経済を持たない沖縄は、瞬く間に中国に呑み込まれてしまうことでしょう。
これが「保守政治家」のいうことですか。
上の写真は共産党赤嶺候補の宣伝カーの写真ですが、この絵は今の「オール沖縄」を象徴しています。
この共産党の宣伝カーには、中央に、主人公ヅラをした志位氏が陣取り、地元共産党議員たちがしもべのようにつき従い、その共産党員に手を差し上げられた翁長氏がぎこちない笑顔を作って、所在なさげに手を握っているのが、これまた妙に嬉しげな社大党の糸数女史です。
共産党と社大党に手を握られた翁長氏は、今や「左翼の囚われ人」となってしまいました。
翁長氏が知事就任直前に豪語した、「保守で革新を包む」ところか、ミイラ取りがミイラになって干からびた姿です。
これが共産党を中心とした現実の「オール沖縄」の姿なのです。
さて今回、翁長氏が「オール沖縄」として県民集会にするならば、方法はひとつしかありませんでした。
保守・革新の政治主張を一切排除して、徹底した追悼集会にすることです。
今がどんな時期か、翁長氏が知らないはずがありません。
集会のわずか2日後の6月22日は、参院選公示です。もう既に選挙戦は裏で進行しています。
この時期にこのような集会をやると「オール沖縄会議」は述べています。
「米軍属女性暴行殺人事件に抗議する19日の県民大会に向け、主催のオール沖縄会議の県議会与党4会派などによる会合が12日に那覇市内で開かれた。決議案に「米軍普天間飛行場の閉鎖・撤去と県内移設断念」を盛り込むことを確認した。
決議案は5月の県議会の抗議決議を基にし、ほかに(1)日米両政府が遺族と県民への謝罪と完全な補償(2)在沖米海兵隊の撤退と米軍基地の大幅な整理・縮小(3)日米地位協定の抜本改定―を盛り込む予定。」(琉新6月13日)
この決議案に、安保廃棄、安倍政権糺弾が入ればそのまま沖縄左翼の主張そのものです。
まぁ、書き込まなくても、当日の発言者が連呼するでしょうから、結局は同じことですが。
これでは事実上、参院選の革新陣営勝利総決起集会です。左翼勢力の身内の集会にすぎません。
本気で追悼集会をしたいのなら、事件直後にするべきでした。
なぜ参院選公示2日前にするのでしょうか。そこに政治的意図をかんじなかったらおかしなくらいです。
当日は全員が黒い服を着て、揃いのボードをザッと出すそうです。きっとこんなかんじでしょうね。
こんな集会に保守・中道が乗れると、翁長氏は本気で考えているのでしょうか。
ここまで政治臭を強めれば、報道するメディア側も参院選直前なので、手控えたトーンになるでしょう。
TBSの金平さんくらいは、実況中継をしてくれるでしょうがね。
ですから、今回の県民集会は徹底して政治臭をなくさねばならなかったのです。
そもそも行政官としての知事ならば、当座は抗議一辺倒でしかたがないものの、具体策を本土政府と徹底的に詰めねばなりませんでした。
こんな極刑以外にない犯罪が起きた後になって、綱紀粛清だの、再発防止だのと言っていても始まらないのです。
たとえばMPと県警の基地施設内まで含む共同パトロールの実施などを、政府にぶつけてみればよかったと思います。
おそらく米軍とつるんでいると思われたくない県警はイヤがるでしょうし、基地内の県警パトロールはこんどは米軍が拒否するでしょうが、「地位協定の抜本的改正」はすぐにできるはずがないわけですし、その間に再発したらどうするのです。
沖縄県だけの特例でもいいから、地位協定運用の部分改善を進めて、実体を作ってしまうのもひとつの手なのです。
いちばん知事としてダメなのは、美辞麗句の建前ばかりで現実にはなにもしないことです。
私は一国二制度には反対ですが、こと地位協定だけに関しては、「地位協定特別区」として運用の徹底改善を実施するのもあり得ると思っています。
米国が渋るのは、アジア諸国の同じような条約に波及することです。それはないということを、日本側から担保するために「特別区」とするわけです。
こういう具体的な提案がないところで、単調にスローガン的な「移設反対」ばかり言っているのですから、翁長氏の政治手腕とバランス感覚に期待していた保守層は離反していくことになります。
ところで今から7カ月ほど前に私は、「翁長氏を乗せた「オール沖縄」の神輿は左に傾き、そして転倒する」(2015年11月15日)という長ったらしいタイトルの記事を書いたことがあります。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2015/11/post-e327.html
そのとき予想した状況が、まさに今現在進行形で進んでいます。
この記事で、私は吉川由紀枝前沖縄県知事公室長のこの言葉を引用しました。※http://business.nikkeibp.co.jp/article/person/20150514/281135/
「特に現実的な妥協ラインはどこか?という話になると、「オール沖縄」では一切の合意はない。この可動範囲をちょっとでも越えれば、知事の支持基盤は分裂する。」
本来、保守と革新の調停役となり、中央にいて踏ん張っていなければならないはずの翁長氏が左に傾いて、左翼勢力と合体してしまえば、「オール沖縄」は自己解体を迎えるしかないのです。
そしてそのようになったようです。「オール沖縄」は分解しました。
それも私の予想よりずっと早い時期に、速い速度で。
※他のサイトに同名のものがあったので、加筆し改題しました。(午後5時45分)
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前知事仲井眞氏が翁長氏を自身の後継者としなかったことが、翁長氏の反乱につながったと思いますね。仲井眞氏は副知事の高良倉吉氏を後継者として見ていたのではないか。ここから、嫉妬心が彼に芽生えたのでしょう。嫉妬心が世の歴史を左右してしまうのは、世界史の中でいつも起こっていること。
まだ那覇市長の時代から、彼の心の変化はありました。数年前に天皇皇后両陛下が沖縄に来られた時に、彼は奉迎委員会の共催者に名を連ねることを拒否しました。反日の具体的な動きを示したのです。
そして、彼の親中感情は増してゆきます。時系列で示すことはできませんが、彼の心は親中意識が占めるようになっていくのですね。沖縄人に一定の割合で存在する親中意識でしょう。廃藩置県時の支配層の一部にあったものですね。
翁長氏には知性が若干欠落していると見ます。彼には、国家の構図も見えず、沖縄県の構図も冷静に描くことはできないのでしょう。冷静に世の中を見れば、中国へすり寄ることは普通はしないものです。沖縄独立も言わないでしょう。
彼は冷静な知性には欠けますが、彼の特長は、感性、感情なのです。彼は、県民の感情に訴えるのです。知性、理性は二の次でしょう。前知事が知性のあるかたでしたが、この方は正反対です。双方が合わないのは当然でしたね。
こんな感情的な知事が、沖縄をどこへ持って行こうとするのかが大変な気がかりですね。
投稿: ueyonabaru | 2016年6月18日 (土) 11時39分
今、オール革新団体と一部企業に抱き
込まれ、保守層を排除した翁長に、も
はやオール沖縄を名乗る資格があるで
しょうか。
今日の新報朝刊に、与那原町 東浜の
商業用地金秀建設が購入との記事が、
小さく載っていました。
投稿: 宜野湾市民 | 2016年6月18日 (土) 12時44分
県内メディアは県議選で与党の大勝利みたいな大本営発表していました。観光業界は「かりゆしvsその他」、建築・流通は「金秀vsその他」の争いとなり、結果は新風会・かりゆし・金秀連合の敗北です。この連合体が既に集票力を失っていることが証明されてしまいました。少なくとも前回の県知事選のようにオール沖縄が大勝することはないと思います。
投稿: クラッシャー | 2016年6月18日 (土) 15時02分
現実を見ましょうよ
自民党や公明党は、党本部の意向により、翁長知事誕生から辺野古容認派として袂を分かち、選挙では辛酸を舐めている
この状況は、以前から
それでいて翁長知事は県民に支持されている
それは県議会議員選挙みてもわかるでしょう
都民から総スカンされた都知事とは違う
今更、自民党や公明党が県民大会に参加を表明する方が驚くよ
まあ、他県に住んでいる人や否定的な人にとっては、沖縄の空気を感じられないのは仕方ない
投稿: | 2016年6月18日 (土) 21時33分
沖縄の空気で気になっているのは、
このところの中国船の接続水域の進入に対する翁長さんのコメントが表に出ていないことに関しての
沖縄の空気はどのような感じなのでしょうか?
私が知らないだけで何か発言されているのでしょうか。
投稿: ささ | 2016年6月19日 (日) 00時57分
名無しさんへ
沖縄知事、国を提訴せず 辺野古移設、係争委審査受け
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160618-00000034-asahi-pol
これはどういう事ですかね?
投稿: umigarsu | 2016年6月19日 (日) 06時28分
左巻きの名無しの方はどうしてこう「他人の話をちゃんと聞かない」のでしょうか。
私なら例え自分と違う意見だったとしても、今目の前にある文章だけでなく「何故そう言ってるのか」と、経緯を知ってから決め付けでなく質問や反論をします。
さて、父の日の今日、高校野球の会場だったはずのセルラースタジアムに、公安監視対象の共産党率いるオール沖縄会議が陣取り、女性惨殺事件を政治利用する集会が行われました。琉球放送では生中継までも。
そんな似非追悼式に参加するより、父の日に家族と過ごしている父親母親こそ尊敬すべきです。
投稿: ナビー@沖縄市 | 2016年6月19日 (日) 16時26分
さきさん
翁長知事が領海侵犯に対しなにか反応したということは聞きません。推量ですが、領海侵犯はけしからんとは言いたくないし、話せばわかるという話し合い論も無効な状況ですから、何も言えないのではないでしょうか。
この方に、ホントの保守主義の信条があれば、今のような行動はしなかったはずです。共産党と組むことはあり得ない。ですから、彼は保守主義者ではありません。
国を困らせることに熱心ですが、これはなにも良い成果は生まないと思いますよ。知事を早く辞めることが一番です。ご本人は、知事になってよかったと今でも思っているのだろうかと私は疑っております。
仮に辺野古移設を阻止しできても、普天間基地がそのまま残るかもしれません。
投稿: ueyonabaru | 2016年6月19日 (日) 21時00分
ueyonabaruさん
ありがとうございます。
報道が無いだけなのかとも思い検索などもしてみましたが、本当に何もないとは…。
支持をしている方でも不安を感じている方はいらっしゃると思うのですが、なかなかそういう意見は目に触れる機会がないですね。
投稿: ささ | 2016年6月20日 (月) 23時29分