今回の中国情報船の領海侵犯は無害通航権に当たらない
今日は書くことより修復のほうが時間がかかってしまいました(泣く)。
国民が舛添氏の失脚に眼を奪われている隙を縫うように、15日午前3時半頃、またもや中国軍艦が鹿児島県・口永良部島の領海に侵入し、その後にご丁寧にも北大東島の接続水域に侵入しました。
事実関係からです。ご承知の方は引用から下に飛んで下さい。
「防衛省は15日、中国海軍の艦艇が鹿児島県の口永良部島周辺の領海に入ったと発表した。同海域の領海に中国艦が入るのは初めて。(産経6月15日)http://www.sankei.com/politics/news/160615/plt1606150027-n1.html
「防衛省は16日、沖縄県の北大東島の北側の接続水域に入る中国海軍のドンディアオ級情報収集艦1隻を、同日午後3時5分ごろ、海上自衛隊の護衛艦「ひゅうが」が確認したと発表した。この軍艦は午後4時ごろ、北大東島の北北西の接続水域から出て北に向かったという。
防衛省によると、この情報収集艦は、15日に鹿児島県沖の領海に侵入した軍艦と同一のもの。外務省は16日午後7時5分、金杉憲治アジア大洋州局長が、在日中国大使館の劉少賓次席公使に電話で懸念を申し入れた。
接続水域は領海の外側に設けられ、沿岸国に一定の管理が認められているが、主権は及ばず、他国にも航行の自由が確保されている。外務省幹部は「今回の行動が国際法違反になるわけではないが、中国の行動がエスカレートしており懸念を表明した」と話している。」(朝日6月16日)
今回、政府は前回と異なって、クールな対応をしています。抗議したのは次官級ではなく局長級で、深夜呼び出しではなく電話です。
中国大使館側は次席公使で、お互いにひどく自制している印象を受けます。
なぜ、こんな対応になったのか考えてみましょう。
まず、領海に侵入した中国軍艦ですが、「情報収集艦」という素人受けしない地味な艦種です。中国海軍 東調級(ドンディアオ)情報収集艦
今回、侵入したのは、中国海軍所属「855天狼星号」で、2015年就役している新鋭艦で、日本近海ウロチョロしてスパイ活動に勤しんでいます。
スパイ活動と言いましたが、冗談ではありません。
この情報収集艦(インテリジェンス・シップ)は、外国のレーダーサイトや艦船の波長を調べたりするのが第1の任務です。
これはもし戦闘になった場合、電子戦といって、相手側のレーダーを目潰しするための資料となります。
第2の任務は、ミサイル追尾です。写真の艦中央に見える大、中2個のパラボナアンテナを備えており、ブリッジ(艦橋)近辺には光学追尾用と見られるドームも装備しています。
これは、中国海軍の長距離対艦ミサイルの試験発射を追尾することが目的だと見られています。
おそらく近々、中国は長距離対艦ミサイルの試験運用を開始するはずで、そうなった場合、東シナ海と南シナ海の軍事的緊張はいっそう増すことになります。
第3に、潜水艦航行のための海底地形図の作成にも力を入れています。
これは中国海軍の潜水艦が第1列島線から第2列島線へ自由に航行するには、詳細な海底地形図が必要だからです。
つまり、前回接続水域に侵入したフリゲート艦のような、ダンビラをチラつかせた派手さはありませんが、立派に軍事目的を持つ危ない奴なのです。
さてこのスパイ船の「犯行履歴」は以下です。
もちろん、軍事行動自体は犯罪ではないのですが、この中国海軍の傍若無人ぶりをみていると、ついそう呼びたくなります。
・2015年11月11日17時から12日19時にかけては、尖閣諸島南方の接続水域の外側を、東西に反復航行。
・2015年12月23~26日千葉県房総半島南東沖の接続水域を反復航行。
・[今回]2016年6月15日未明3時半頃~5時頃まで 、鹿児島県口永久良部島沖領海内を事前通告なしに航行。
首都東京のすぐ側で、スパイ活動をするとはいい度胸です。
こんな場所に来るのは、日本をナメているのもさることながら、この近辺が中国がたかってに定めた「第2列島線」(外側の赤線)こそが、彼らが突破したい「太平洋進出の扉」だからです。
実際、2006年6月25日午前6時頃に、中国海軍所属の5隻の艦隊が沖縄県宮古沖を通過して、沖ノ鳥島近辺で演習しているのが、海自によって観測されています。(下写真)
まぁ、もし海自や米海軍が北方艦隊のある渤海の接続水域を航行したり、南シナ海の人工島のすぐ近辺でこんな演習をしたら、たちどころに雨あられとミサイルが飛んでくるでしょう。
自分にやられたくないことだけを他人にするのが、チャイナの流儀です。
ところで、今回問題となったのはこの領海侵犯を「無害通航権」で済ましていいのかという問題でした。
今回は、日、米、インドの共同軍事演習「マラバール」のインド海軍艦艇を追尾して、しつこく情報収集をしていて、その時に偶然にわが国領海に侵入してしまったと見る向きもあります。
私は違うと思います。
まず、接続水域の外縁でも電波情報が取れるのに、わざわざ領海に侵入した意味です。
そして第2に、つい先日に、尖閣諸島の接続水域でトラブルを起こした直後というこの時期に再びやったことの意味です。
私は、偶然ではなく、明確な政治的目的があると思います。
つまり日・印・米の共同訓練に対する牽制と、情報収集艦という戦闘目的ではないが、軍事目的の艦艇というグレーゾーンの艦艇をあえて領海に入れて、日本側の反応をみたのでしょう。
中国の目的は、ここで紛争を起こし、日本側が認めていない「係争地」とすることです。
ですから、今回の対応のように実力排除することがしにくくなっています。
これが戦闘艦ならば、海上警備行動の発令もあり得たでしょうが、グレーゾーンの情報収集艦だということで処理したようです。
ここで、外務省が述べている、「今回の行動が国際法違反になるわけではないが、中国の行動がエスカレートしており懸念を表明した」という見解についてですが、ナンセンスだと思います。
たしかに無害通航権は、「海の憲法」と呼ばれる国連海洋法条約第19条で定められた権利です。(第19条全文は欄外参照のこと)
これは一般的には、沿岸国の主権が及ぶ沖合12カイリ(約22キロ)以内の領海でも、平和や安全に害を与えなければ、外国船でも目的地に向かって航行できる権利と解釈されています。
ちなみに中国には国際海洋法を無視して作った領海法で、事前通告なしの無害通航権を認めていません。
ですから、中国のロジックに忠実ならば、今回の中国情報収集船の領海侵犯は、直ちに排除の対象となります。
また、欄外の第19条のc、d、j項をご覧ください。中国の今回の領海侵入はこれに相当すると考えられます。
c.沿岸国の防衛又は安全を害することとなるような情報の収集を目的とする行為
d.沿岸国の防衛又は安全に影響を与えることを目的とする宣伝行為
j.調査活動又は測量活動の実施
~~~~~~~~~~
無害通航の意味1 通航は、沿岸国の平和、秩序又は安全を害しない限り、無害とされる。無害通航は、この条約及び国際法の他の規則に従って行わなければならない。
2 外国船舶の通航は、当該外国船舶が領海において次の活動のいずれかに従事する場合には、沿岸国の平和、秩序又は安全を害するものとされる。
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コメント
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今回の情報収集艦は無害通行じゃないです、ことの重大さをマスコミは舛添問題にかまけて訴えてません。
自分たちの軍艦が他国を航行する時は国際法の世界ルール、自国領海を他国が航行する時は事前通告せよといった自分ルール、都合のいい勝手なやり方。
国際法を無視し造った島の領土領海を主張し、他国の艦船の無断航行を認めない。
こんな蛮行許せません、中国対日米にアジア諸国がどちらに付くのか。
対話などで解決できるとは思えません。
中国との戦火がきって落とされる日が近づいている。
早急な日本の軍備・防衛力の増強が求められ、国内の反対分子は排除せねばならない。
周辺国はクソばかり、あ〜腹が立つ。
投稿: 多摩っこ | 2016年6月17日 (金) 21時31分
こりゃ、そのうち東京湾に入って来ますねぇ。
黒船再来で、関東の3000万人が夜も寝られなくなる。
実は米中間ではハナシがついていて、米軍は静観する。
「オラ!オラ!オラ!オメーら、わし等米軍に出てって
ほしいんだろ?ナンもしねえぞ。どうせワシ等は犯罪者
集団なんだからな」
「ハマ中華街でゴハン食べるアルヨ。同胞達、元気アル
カ?その後アキバへ連れてって欲しいアルヨ」
永田町では「クソ、官僚を呼べ!どーすんだよコレ?」
「センセイの仕事だろ!もう上陸してメシ喰ってるよ!
秋葉原の案内でもしろってーのかよ?」
まさか本当にこうなるとは思わないけど、10%くらいは
あり得ると思う。私は祖国を信用していない悪い子だ。
投稿: アホンダラ1号 | 2016年6月17日 (金) 23時14分
と持論をのべられても 日本が中国を領海侵犯だと訴えて勝てると思います?明確な領海侵犯だという証拠がないと 日本が恥をかくだけ。
感情論で無害航行権でないと言われてもねぇーという感じ。例えば領海内をグルグルと航行したとか、意味もなく長時間領海内に停泊したとかさー。証拠もないのに領海侵犯などと叫んでも中国に足下をすくわれるだけ
投稿: タンタン | 2016年8月 4日 (木) 17時07分
タンタン氏。増補して記事にします。
投稿: 管理人 | 2016年8月 4日 (木) 18時08分