中国海軍 尖閣接続水域侵入事件 ロシアは共犯関係ではない
今回の中国海軍の尖閣接続水域侵入事件を複雑にしたのは、ご承知のとおり、ロシア海軍がほぼ同時にこの狭い尖閣諸島を南側から突っ切ったことです。
これには私もビックリしましたね。
事実関係を押さえておきましょう。防衛省による、時系列でこうなります。
久場島と大正島の間はかなり開いているので、ロシア海軍はよくインド洋で演習をやると、その帰りにここを通過しています。
宮古・八重山諸島は、太平洋の扉に位置していて、中国大陸から太平洋に出る場合も、逆のコースの場合にもひんぱんに利用されています。
こういう場所のことを、軍事用語でチョーク・ポイントと呼びます。チョーク、つまり締める場所のことで、ここを押さえられると太平洋の扉を閉ざされたことになります。
ちなみに、歴史トリビアですが、ここはバルチック艦隊が対馬に向かって抜けた場所として有名で、どちらに来るのかやきもきしていた日本海軍に、対馬海峡側に抜けたという決定的報告を上げたのが、宮古のウミンチュでした。
http://yaeyamanow.nanpusya.com/history25.html
現代に話を戻します。
今回も実はロシア海軍は、3月28日にウダロイ級駆逐艦「アドミラル・ヴィノグラドフ」、ドゥブナ級補給艦「イルクート」、バグラザン級救難曳船「フォーチィ・クリロフ」の3隻が、対馬海峡を南下していることが防衛省幕僚監部より発表されています。
旗艦となっている「アドミラル・ヴィノグラドフ」は、下の写真にもあるようになかなかゴツイ。
ロシア艦らしく、ゴテゴテと.砲熕兵器(大砲のこと)やミサイルをこれでもかと積みまくって、いかにもトップヘビーですから、外洋での乗り心地が悪そうですね。
かつて舞鶴で一般公開されたこともあります。
ロシア海軍の分類で、「一等大型対潜艦」という艦種で、8500tあります。
ウダロイ級駆逐艦 - Wikipedia
艦名の公表はありませんが、同じ3隻の陣容ですから、尖閣諸島の接続海域を抜けたのはこの3月にインド洋に出て行った艦隊と同一だと見られています。
3隻のうち戦闘艦は「アドミラル・ヴィノグラドフ一隻だけで、残りはタンカーとタグボートです。
推測ですが、このロシア艦隊は救難曳船を従えているところから、デルタⅢ級戦略原潜の救難訓練をしていたと思われます。
またロシア側の発表では、
http://jp.sputniknews.com/opinion/20160609/2280207.html
「船団が軍事ミッションで太平洋へと漕ぎ出したのは3月28日にさかのぼる。4月にはインドネシアを訪れ、国際演習「コモド2016」に参加し、5月にもさらにアジア太平洋地域の30カ国が参加する多方面的な対テロ演習『ADMMプラス-2016』に参加したほか、シンガポール、ブルネイで表敬訪問を行っている。」 (スプートニク6月9日)
発表を信じるなら、訓練が無事に終わり、尖閣諸島の南側から接続水域に入り、大隅海峡を抜けて母港のウラジオストク港に帰還する途中だったようです。
一方、中国は、偶然か意図的にか分かりませんが、9日夜に尖閣諸島周辺を通過することを狙って、東海艦隊所属の駆逐艦を待機させていたと思われます。
ロシア通信社スプートニクは、「尖閣で露中の船が同時出現は偶然の産物」と題して、ロシア人軍事専門家のヴァシーリー・カーシン氏がこう述べています。
長文ですが、引用します。
「尖閣諸島という係争水域に同時に中国のフリゲート艦とロシア太平洋艦隊の3隻の船隊が航行した事実は日本国内に政治的な反応を呼び、この2国はそろって日本に反対することを示したという論議を呼んでしまった。
ロシアと中国は今に至るまで、日本との係争水域でのそれぞれのポジションを通報しあってきてはいない。
もう数十年も変わらないこうした基本的アプローチはどう変化しても、 地域の政治により大きな影響を与えるはずだ。
事件を正しく理解するためにはまず、ロシアのどういった船が諸島付近に入ったかに注意を払う必要がある。西側のマスコミは「軍艦3隻」と書きたてたが、これは事実に反している。ロシアの船団のうち軍艦は対潜艦「アドミラル・ヴィノグラードフ」プロジェクト1155、1隻だけで、他はそれに随伴するタンカー「イルクート」とタグボート「フォーチイ・クルィロフ」だった。
なぜロシアの船団がこの海域にいたのか?
現時点までに出された発表を見ると、船団は国際演習に参加し、東南アジア諸国に立ち寄る遠洋航海から太平洋艦隊基地に戻る途中だった。
ロシアは外国のように補給や修理のための発達した軍事基地網がないことから、これだけの遠洋航海ともなると貨物補給と救難用にタグボートを引き連れている。(同上)
駐日ロシア大使館によるツイッターは、以下の通り共謀説を全否定しています。(現在は削除)
「今日ロシア海軍の駆逐艦が尖閣諸島接続水域に入ったのに関して誤解があり、コメントします。当海域では中国と関係なくロシア海軍が定例の演習を行い日本の領海に入ることは当然ない。 他の諸国とならびに日本も米国も主張する「航海の自由」原則通りで、ご心配不要 。」
ロシアは、「信用出来ないことだけが信用できる国」ですから、「ご心配不要」と言われて、「ハイそうですか」となりにくいのですが、今回に関しては、信じてあげてもよいでしょう。
knorimotoのコメントにお答えすれば、私も「ロシアの動きを中華人民共和国が利用して両国が共謀しているように見せかけた」という説を支持します。
というのは、ロシアには中国と一緒になって日本を脅迫する理由が、現時点ではないからです。
ロシアは徹底して国益だけが大事なジコチュー国家ですから、この時期に中国と連帯する意味がありません。
中国は、米中戦略会話を不調のまま終わり、G7でも名指しこそされないものの強い非難を浴び、さらにはインドのモディ首相は議会演説で、航行の自由作戦への支持と協力を表明しました。
日米印の海軍共同訓練「マラバール2016」まで実施されようとしています。
身から出たサビとはいえ、今の状況は中国から見れば、ギシギシと東西から締めつけられているという気分になっていることでしょう。
ロシアは、中露同盟など本気で作る気はありません。
陸続きの大国同士で、しかも互いに相手を壊滅することが可能な核兵器を持った国同士が同盟を結ぶことなどありえません。
米国という共通の敵に対して、敵の敵は味方だというだけの話です。
またロシア領沿海州には、中国人労働者が激増しており、地域によって地元ロシア人との逆転現象すら起きたといわれています。
中国にとってはロシア領沿海州など、かつて愛琿条約で奪われた「神聖な中国領」なのですから、当然です。
ですから、ロシアは中国が日本に対して常に歴史カードを切ることを、内心面白く思っていていないはずです。
ウクライナ問題でG8を追放された反動で、「なら、チャイナと仲よくするもんね」程度のニュアンスにすぎません。
本質的に、ロシアはコウモリ作戦が得意なのです。
現在のロシアのプーチン体制は支持率こそ異様に高いものの(90%超!)、ウクライナ紛争で経済制裁を食らった上に、泣き面にハチなことに、唯一頼みの輸出品である原油価格の急落に苦しめられています。
そのため、国庫の外貨が払底しかかっており、最悪の場合、デフォールトさえささやかれる始末です。
出所:ブルームバーグのデータを使用しピクテ投信投資顧問作成https://www.pictet.co.jp/archives/57302
外貨不足のために輸入食料品のチーズやバターが店舗から消え始めていて、なんとか国際社会との折り合いをつけたいというのが本音でしょう。
G7先進諸国で唯一対話の可能性が残されている日本とは、良好な関係を持ちたいはずです。
プーチンとしては、口ではあいかわらず元気がよいことを言っています。
Sputnik(スプートニク)日本版では、あいかわらずこの調子で、元気一杯です。http://jp.sputniknews.com/politics/20160521/2173844.html
Sputnikより引用
「ロシアは、クリルの島々を高く売るために日本との取引を欲しているのではないか」との記者の質問に、次のように答えた―
ロシア政府は、平和条約締結を目指し日本との対話を目指している。そして、このコンテキストの中において、クリル問題の討議を目指している。
我々と日本の関係と、何かを高く売りつけるための貴方の考え方に関していえば、我々は、なにも売るつもりなどない。我々は、多くのものを買う用意ができているが、なにも売るつもりはない。」
なんと、北海道も買うぞとまで言っているそうです(爆)。どこに今のロシアにそんな金があるんだつうの。
国内向けビッグマウスはさておき、一方スプートニクの論説員は、ロシア側の原則をこう伝えています。http://jp.sputniknews.com/opinion/20160523/2183066.html
「菅官房長官はこれより前、露日両首脳は領土問題、平和条約に関しては古い解決構想に拘泥せず、双方が受け入れ可能な解決を模索する方向での新たな発想での交渉継続を続けることを明らかにしている。
ところが日本の要求は最初に領土論争を解決し、それから平和条約を締結しようというもので、新たなものはなにもない。ここでは双方に満足のいく新たな発想を見つけることは容易ではなさそうだ。
これについてがっかりする必要はひょっとしてないのではないか。模索し、考え、その間に経済協力を積極的に発展させるほうが、ロシア経済が強化され、アジア太平洋地域でのロシアの積極性が強化されているという条件下では特にロジカルではないだろうか。」(2016年05月23日)
市民語訳すれば、こういうことになります。
「シベリアや沿海州、千島列島の経済開発に協力すれば、日本にもいい話じゃないか。平和条約を結び、ついでにG8に復帰させてくんないかな」
はいはい、全部自分の都合ですが、それがかの国なのです。
ただし、日本は中露同盟という最悪シナリオを回避するためにも、ロシアとの中長期的な信頼関係が構築するのは有効な手段です。
領土問題をいったん脇に置いても、ロシアとの国家間連携は乗ってもいい話だと私は思っています。
もちろん領土問題は言い続けねばなりませんが、従来のように、それがすべてのロシアとの国家間関係の大前提ではないということです。
また、日露間でもより効果的な通報メカニズムが必要だと先程のカーシン氏は唱えていますが、まったくそのとおりです。
特に、必ずしも上級司令部の命令ではなく、艦長の勝手気ままに日本を挑発して喜んでいるフシのある中国とも同様に、偶発的な戦争を防止する通報メカニズムが必要です。
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接続水域に侵入したという事実は、中国もロシアも同じだと思うのですが、あなたはどうして扱いを変えられるのでしょうか。
投稿: | 2016年6月11日 (土) 12時22分
名無しさん。
じゃああなたはなぜ同じだと考えるのですか?説明は今日の記事にすべて書いてありますが…。
で、せめてまともなHNくらい名乗れんのかね?
茶々入れや嫌がらせにしても幼稚すぎますな。問題に成らない。論外です。
中国海警が連日「接続水域」に浸入を続けている中でフリゲート艦を持ってきた。やはり主張も相変わらず。
さあ、ロシアの艦船の通過とどう関係あるのか、理由を立てて分かるように説明してください。
あなたのやってる短文だけでは(頭悪そうだ)、管理人への中傷でしかありませんね。
異論があるならちゃんと主張しなさい!
投稿: 山形 | 2016年6月11日 (土) 12時50分
名無しさん。HNをつけて下さい。必須です。
あなたの質問は、なぜ黒と白は違うの?と聞いているようなもんです。
常識で判断しなさい、でおしまいですが、簡単に答えます。
まず前提として、接続水域を航行する自由はどの国にもあります。
問題は、中国がこの水域を自国領だと主張しており、彼らの認識では、日本こそ中国の接続水域を違法に侵犯しているということになります。
一方ロシアは、尖閣の領有権を主張していません。尖閣に関しては第三者です。
これを領有権を主張するのみならず、国内ではかん官製の反日暴動すら演じみせ、公船を数百回侵入させるような国と比較すること自体が愚かです。
ロシアが通過したのは、単にインド洋の訓練帰りだっただけで、接続水域に入っても無害通行権があります。
中国はといえば、この周辺海域に多数の公船や軍艦を配置し、挑発を続けて、とうとう接続水域に侵入したのです。
中国海軍軍艦が侵入したのは偶然ではなく、日本に対して戦争挑発を仕掛けかたからです。
ですから、ロシア艦がはいったのは偶然で済ましてかまいませんが、中国は意図的、かつ悪質です。
当然、日本は対応を変えて当然です。
投稿: 管理人 | 2016年6月11日 (土) 13時02分
ロシア艦は演習の帰りに接続水域を通っただけ。
中国は、そこは彼らが領有権を主張している海域だから、実効支配のアピールのためロシア艦をインターセプトした。
と考えると両者の扱いは異なって当然かと。
投稿: やす | 2016年6月11日 (土) 16時18分
幕末に『ロシア軍艦対馬占領事件』がありました。
ロシアと中共はクセ者ですから、裏のウラまで読ま
ないと、マジ占領されてしまいます。幕末の日本には
鎖国してたのに何故か優秀な人が多くて、対馬を英国
とロシアの天秤にかけて、結果的に両国共追っ払って
しまいました。
この時も、ロシアは婦女にちょっかいを出すなど対馬
藩や幕府を挑発したのですが、そのテには乗らずに、
敵の敵と交渉して難を逃れました。先に攻撃すれば、
防衛を口実にロシアは対馬占領を正当化したハズです。
現在の日本には、彼らのような人材は見当たらないよう
な気がします。東京ハゲを外交担当にすれば、なかなか
タフな交渉人として活躍できそうですけど・・
しか~し、せこいワイロでコロッで、ダメですね。
投稿: アホンダラ1号 | 2016年6月11日 (土) 23時52分
ロシア艦もわざわざこの航路を選んで不審な動きもしています。
http://mainichi.jp/articles/20160611/k00/00m/010/161000c
投稿: 不審な動き | 2016年6月21日 (火) 13時59分
「不審な動き」さん。う~ん、私も大いに悩んだのですよ。
しかし、3カ月前に出航して、タッグボートとタンカーというドン速な船を引き連れて共同作戦をしますかねぇ。無理だと思います。
だいたい中露はこんな深夜に、共同作戦するほどこなれた関係じゃありません。
可能性ゼロではないと思いますが、ないと思います。
投稿: 管理人 | 2016年6月21日 (火) 16時22分