よく冗談半分で思うのですが、このブログは、いわば「ひとり新聞社」です。
社主・編集局長・論説主幹、全部私です。わ、はは。
このところ論説副主幹が多く生まれてきたので、ほんとうに嬉しいかぎりです。
さて、つい先日ある知人からも、「きみのところはいつから防衛ブログになったの」と言われてしまいました。
まったくそのとおりで、その危惧を実は私がいちばん感じています。
尖閣問題に関心があっても、米国の世界戦略なんてものに関心ある人は、百人のうち1人いるかいないかです。
だだっ広い話をいつまでつづけるんだという声が聞こえて来そうです。
今日はなぜ、私がこのテーマにこだわっているかについて、少しお話することにします。
日本人で直接中国の脅威に面しているはずの人たちは、沖縄県民です。
毎日のように県の水域に大量の中国海上民兵を乗せた漁船と海警が侵入しています。
下の中国通信社の発信した写真をみると、いつの時期か不明ですが、漁船群は漁が目的ではなく、統率された「軍隊」のようです。
また後方には海警の艦艇が控えて、指揮しているのが誰かよくわかります。
今回海保は、海警の船舶から自称「漁船」に乗り移っている要員を撮影しています。
間違ってコラージュした画像をアップしてしましたので、差し替えました。ふゆみさん、ありがとう。
これに対して、ヤバイと思う危機感を覚えない人はいないでしょう。
ここまでは県民の8割は共通だと思います。
あとの2割は「あるものを見ない」人たちだけです。
目の前に空飛ぶ円盤が降りてきても、それは「あってはならないから見えない」のです。
信じがたいことですが、イデオロギーの色眼鏡とはそれほどまでに強力なものなのです。
この人たちにとって、「敵はあくまでも米軍であって、中国の脅威はない」のです。
沖縄地元2紙がこの希少な類型に属するのが、沖縄県民の不幸ですが、今回は触れません。
さてここからです。
この8割の「あるものはある」のだから見えている人たちも、その内実は多様に分かれます。
ある人は自衛隊を出して海上警備行動で打ち払えと言い、ある人は外交的な厳しい対応が必要だと言い、またある人は核武装しろと言います。
すべてが正しく、すべてが少しずつ間違っています。
核武装は現時点では、思考実験の範疇を抜けません。
ただし、独自核武装についての議論は、それ自体が抑止効果を持つので、大いにするべきです。
外交的交渉を厳しくするのは当然ですが、それだけではなんともなりません。
いくど強く抗議しても、カエルの面にションベンだからです。
一番リアリティがあるのは、自衛隊の海上警備行動の発令です。
では、いまの状況で自衛隊は出すべきでしょうか?
自衛隊は中国の不法な公船や武装漁船を排除する能力をもっていますから、「出せ」というのも理解できますが、今はその段階ではありません。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2016/08/post-961f.html
いま、自衛隊を出せば、それは中国の思う壺だからです。
日本が「紛争地に先に軍隊を出した」という印象は、国際社会に強く刻印されるからです。
中国が狙っている絵図は、日本を挑発し、日本自らにエスカレーションの階段を登らせて、彼らの軍事力行使の妥当性に道を拓くことです。
日本人からすれば、尖閣は固有の領土であって「紛争地」でもなく、さらにいえば自衛隊は専守防衛のための存在なのだ、という思いがあります。
両方とも国内向けの言い分です。国際社会では通用しません。
そもそも「専守」などという言葉は英語にもフランス語にもない、日本だけでしか通用しない特殊用語にすぎないからです。
そして残念ですが、尖閣はいまや「紛争地」なのです。
一点の揺るぎもない固有の領土であって、「紛争地」ではないという公式見解は、もう止めたほうがいいと私は思います。
その原則主義を貫くと、「中国さん、なんなら国際仲介裁判所に出ますか」という外交的選択肢を、自ら奪う結果になってしまっています。
そして自衛隊は、憲法がどうであろうと、ドメテスィック(国内的)な憲法など知るはずもない諸外国にとって紛うことなき「軍隊」にしか見えません。
それも世界最優秀な。
あいにく国際社会は、自衛隊の偏った能力を知りませんし、彼らが「警察的軍隊」であるとは思いもしないでしょう。
米国民の9割9分すら知らないのです。
いや尖閣は日本が中国から強奪したのだ、というのが米国知識人の一般的な認識なのです。
今や日本人好みの<あいまい>語でごまかし切れる時期ではなくなったことを、他ならぬ日本人自身が、特に沖縄県民は当事者として知るべき時です。
軍隊をこの「紛争地」水域に投入すべきかどうか、そのためにはどのような法的措置が必要か、国際社会にどう説明をするべきか、どのような装備が必要なのかなど明確に考えるべき時なのです。
今はその時期でなくとも、この赤い奔流が止まらなければやがて遅かれ早かれその時期は到来します。
しかし残念ですが、日本人はまたもやわが民族特有の<あいまいさ>に逃げ込もうとしています。
沖縄県民の一部にいたっては、宮古・石垣が取られるまで気がつかないようです。
尖閣の次は先島なのはわかりきっているのに。
そして当然のこととして、その<あいまいさ>がもたらす結果について、冷厳に見ようとしていません。
この<あいまいさ>の根幹には、日米同盟があります。
冷戦期に作られた日米同盟は、明確に敵が設定できるうちは極めて有効な装置でした。
旧ソ連は共産主義国家群を率いた明確な「敵」の盟主として想定されました。
そしてこの期間は、実に半世紀という長期間に及びました。
この間、わが国民を支配したのが、「なんとなく 米国に守られている」という<あいまい>な意識でした。
「全基地撤去」を叫ぶ反基地運動家ですら、心のどこかでは「基地はこのままずっとある」ということを無意識に前提にしています。
では、冷戦が終わった後に勃興した中国はどうでしょうか?
敵ですか、友人ですか?
この答えに簡単に答えられる人は、あんがい少ないはずです。
中国との経済的相互依存関係が、旧ソ連とは比較にならないほど生じたからです。
http://news.mynavi.jp/articles/2015/09/16/niwachina/
民主党政権が任命した伊藤忠出身の丹羽宇一郎元在中国大使など、「日本は中国経済圏に入るべきだ。属国として生き残ればいい。それが日本が幸福かつ安全に生きる道だ」(※)と公言していたほどです。※ソース 深田祐介のインタビューによる。
ちなみに丹羽氏を任命したのは:鳩山由紀夫首相でした。
それはともかく、おそらく財界のかなりの部分が、同意見だったはずです。
そしてもうひとつは、米国の目を覆うばかりの弱体化です。
21世紀初頭、このふたつの現象が同時に起きました。
そこから生まれたのが、日本国民の日米同盟へのあいまいな不信感と、それと裏腹の中国に対する融和的な空気です。
米国がほんとうは何を考えているのか分からない、ほんとうにいざとなったら日米安保は発動しされるのだろうか、この疑問は保守、左翼問わずに引っかかっている問いだったはずです。
中国は、こんなに経済関係がしっかり出来上がっているのに攻めてくるはずがない、と無意識に多くの国民が思うようになりました。
http://gigazine.net/news/20160208-naha-dragon-pillar/
ある県の知事などに至っては、中国マネー欲しさに3億円も一括交付金をかけて龍柱を作って媚びるあさましさでした。
ちなみに龍は中国皇帝のシンボルで、宗主国への恋慕の情をあからさまにしています。
マーライオン効果を狙ったようですが、残念ながら中国人観光客にすら相手にされていないようです(苦笑)。
中国という奇妙な国が、政治と経済がまったく別の論理で動いていることを知ろうはもしませんでした。
そしてこの間、日米安保についての議論は、昨年解凍されるまで凍結したままだったのです。
去年の安保法案は、日本人の安全保障意識がいかに国際状況からズレまくっているのかを満天下にさらしました。
保守派の多くはその議論の前提であるはずの日米同盟が、実はあいまいだということに気がついていませんでした。
ほんとうに尖閣や先島に中国が侵攻した場合、第3海兵遠征軍が出動するのかどうかという肝心要なことを、米国相手に詰めきっていなかったことがバレてしまいました。
沖縄海兵隊が、宮古に侵攻されるのを傍観しているようなら、そんな安保条約は紙くずだというのに。
出典不明
一方、左翼は笑うべきことに、日米同盟があって初めて9条が成立している事実すら知らなかったようです。
彼らのメーンスローガンである「安保粉砕・全基地撤去」を本気で実行すれば、「平和憲法」が成り立たないことをがわかっていなかったようです。
驚くべき幼稚さです。9条は日米安保が作り、維持したというのに。
半世紀も口先で「平和」を唱えさえすれば平和が到来する、という宗教じみた信念でやってきたからです。
私たちは、米国が何を考えて日米同盟という歴史上最長にして堅牢といわれる<同盟>を築いたのか、思いを致すべきでした。
彼ら米国人の意志を知り、米国がどこに向かおうとしているのか、ほんとうに日本の「友人」なのか、あり続ける意志があるのか、知るべき時です。
それがわからないと、米国が尖閣、いや宮古、石垣にまで手を伸ばした時に、在沖海兵隊が私たちの<友人>でありえるのかどうか、予測がつかないのです。
結論めいたことは言いません。
私もわからないからです。一緒に考えていきませんか。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2016/08/post-0178.html
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