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センカクをめぐる米政府の現在地

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仮にヒラリーが大統領になった場合、どのような尖閣への対応があるでしょうか。

まずは、2010年ヒラリーが国務長官の初期に日本を訪問した際の、米軍のとある司令官のインタビューです。 

実名、階級、職名などはわかりませんが、おそらく海兵隊の高位の司令官と思われます。 

インタビュアー、「中国が尖閣を侵略した場合、第3海兵遠征軍はなにをするのでしょうか?」 

「わかりません。それは政府が決めることです」

さらにインタビューアーはこう追及します。 

「尖閣は日本の領土ですよ」 

「うーん、それはアメリカ政府にとって議論の余地あるところです。そうとはいわないまでも、すくなくとも明確になっていません」 

「司令官は、自衛隊が尖閣を守るのを、第3海兵遠征軍を支援するかどうか分からないということでしょうか」

「そのように命令されれば、第3海兵遠征軍は必ずそうします」 

軍の司令官に聞くのが間違っているのです。

このインタビューも、実際はもっと長いもので、途中で司令官の苦慮を見かねた国務省のスタッフが助け船を出しています。

とまれこれでわかることは、「センカク」対応はイエスかノーかと簡単に答えられるようなシンプルなことではなく、デリケートな問題だと米政府も軍も考えているということです。

では、尖閣諸島について、米国政府の見解の変遷を追ってみましょう。 

さきほどの米軍司令官のインタビューより10年ほど前の1990年代、クリントン政権時の駐日大使ウォルター・モンデール(元副大統領)の発言です。 

「尖閣諸島が第三国に攻撃を受けても、米軍は防衛には当たらない」 

ほぼ同時期の、マイケル・グリーン元大統領補佐官の発言。 

「同盟国間であっても領土紛争には不介入・中立の立場をとる」

 2008年から国務長官を務めた、ヒラリーの側近である、カート・キャンベルの発言。

「日本の施政権下にある領域(=尖閣諸島)で、いずれか一方に対する武力攻撃があった場合、共通の危険に対処するように行動することを宣言する」

2010年9月23日、訪米した前原外務大臣に対する、ヒラリー国務長官の発言。

「(尖閣諸島)は明らかに日米安保条約(第5条)が適用される」

安心してはいけません。

これはあくまでも条約解釈上はそうだと言っているだけで、米政府が想定しているのは「いずれか一方に攻撃があった場合」です。

つまり尖閣周辺で、米国艦艇ないしは自衛隊に対して先制攻撃があった場合の話です。

それがわかるのは2012年9月、野田政権の尖閣国有化後の日中冷戦についてのヒラリー国務長官の2014年6月の発言です。

センカクの自衛のために、なにが必要なのかということについて、検討を進める際には、「もし我々がこのように行動したら、結果はどうなるのか」とか、「どのようなメッセージを送ることになるのか」と絶えず自問してほしい

この発言は野田首相の国有化に対しての、強い不快感の表明と取られています。

これは野田首相が胡錦濤に事前通告した際に強い拒否があったことを無視して国有化を進めたこと、そして米国になんの事前の相談もなかったことに対してです。

米国と中国から見れば、尖閣問題の微妙なバランスを破壊する徴発行為が、日本側からあったと理解したようです。

民進党さん、あなた方の政権が日中関係を冷え込ませ、さらには中国の尖閣海域への進出を合理化したのですからね。お忘れなく。

それはさておき、2012年12月2日。ヒラリーの個人用アドレスから流出したメールにあった、カート・キャンベルとのやりとり。

「日中は摩擦が長引けば、地域の安定を損なうとわかっていながら態度を硬化させている。(日中間の緊張を緩和させるために)双方の顔の立つ繊細な外交が必要だ」

それに対してのヒラリーの返信。

「(日中調停交渉を)前に進めて下さい」

そして2012年10月、現実にリチャード・アミテージ元国務副長官、ヒラリーが駐日大使に推したジョセフ・ナイ元国防次官などで構成される派遣団が、東京と北京を往復するシャトル外交を展開しました。

そしてこの調停は不調に終わります。

その後にヒラリーは、オバマ政権発足当初の中国への楽観的・融和的なものから、慎重かつ、警戒的なものに変化します。

その胸の内をキャンベルはこう代弁しています。

「中国がこの案件(尖閣についての領土主張)から下りないことがはっきりわかってから我々が(この問題に)出ていくべきだと思った。だからヒラリーも不快感を示し、センカク周辺での『力(軍事力)の表現と敵対的な行動』を心配している」

そして近年もっとも明確に、尖閣が日米安保の範囲内であることを言明したのは、2014年4月のオバマ訪日時の発言でした。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2014/04/post-e0a4.html

日本の安全保障に対する米国のコミットメントは絶対的であり、(日米安保条約)第5条は尖閣諸島を含む日本の施政権下にあるすべての領域を対象としている。」

とりあえずこれが、ヒラリーの現在地です。

この文言をそのまま信じるかどうかは、お任せします。

このように米国の「センカク」への対応は、揺れ動いているからです。

尖閣への米政府の発言も、どの時代に誰が言ったのか、その背景を見て判断してください。

よくテレビのコメンテーターで、「アメリカは尖閣について領土紛争には介入しない原則なので、手をだしませんよ」と言っている人を見ます。

確かに、1990年代から2010年前後の第1期オバマ政権までの米政府要人はそう言っていました。

しかし今まだそうか、と問われれは、違うと思います。そんなに単純ではありません。

逆に、絶対的に在日米軍が、自衛隊と肩を並べて戦ってくれるかと言われれば、それほど楽天的になれる日本人は少ないでしょう。

要は米国の尖閣への関与は、状況次第なのです。

米国政府は、中国の出方、日本の対応、南シナ海情勢、アジア諸国、インド、そして米中間の状況などという多くの変数を考慮してセンカク対応を決しています。

日本政府が、「もし我々がこのように行動したら、結果はどうなるのか」「どのようなメッセージを送ることになるのか」を考えず、自国の論理だけで動いた場合は、在日米軍が動いてくれると思わないことです。

ひとことで言えば、米国は揺れ動いているのです。

もし日本が中国の暴虐に対して軍事的反撃を試みようと考えて、なおかつ在日米軍の力を頼りにするなら、米国にとってウムを言えぬ状況を作りだすことです。

それしかありません。米国にとっての尖閣紛争介入の大義が必要です。それがないと、大統領は議会を説得できません。

そのために法整備などやることが山積しているはずです。

ですから、単純に米国は尖閣に介入しない、あるいは必ずオバマ訪日時の「第5条の範囲内」という言葉を信じるのではなく、あくまでも私たち日本次第なのです。

原則に忠実に、ただし慎重に。

■お断り 大幅に加筆しました。午後6時

■参考文献 春原剛
・『ヒラリー・クリントン-その政策・信条・人脈-』
・冒頭の米軍ンインタビューのソース ロバート・D・エルドリッジ
『誰が沖縄を殺すのか』

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コメント

>単純に米国は尖閣に介入しない、あるいは必ずオバマ訪日時の「第5条の範囲内」という言葉を信じるのではなく、あくまでも私たち日本次第なのです。

この意味が示す先は、
1、日本国として、尖閣をはじめ領土領海を 守り抜くという強い決意と行動を内外に示す事。
2、日米同盟の絶えざる深化に常に意を用いる事。
と言う事になりましょう。

さらに、ASEANの中国傾斜に歯止めをかける事も日本外交に出来うる行動です。

ともすれば日本の保守派にしても、過去の歴史が示すところや、オバマ政権の外交のありかたから、米国への不信をあげつらう傾向にあります。
まァ私自身としてもそうなのですが、それは知識として収めるべきものであるか、同盟国として外交的に箴言するべきものであって、感情に支配されるべきではありません。
日米の感情的なすれ違いは米側の立場に立ってみれば、(日本側に言い分があったとしても)経済摩擦が声高に言われた時代があり、民主党政権時代の愚かな政府による対日不信の増大も長く尾を引きました。

「戦略」とは、現在の危機を一歩一歩どう乗り越えるかに心を砕くべきもの。
今でも適切だったかどうか疑いはしますが、慰安婦の日韓合意についても、そういう意味の延長線上で、安倍政権には一貫性があったと言えます。

それにしても結局のところ、相互不信を乗り越えてお互いがめざす戦略を最終的に確固たるものにしているのは、現場の自衛隊と米軍であるといえましょう。


投稿: 山路 敬介(宮古) | 2016年8月18日 (木) 07時26分

 記事ありがとうございます。

 また、昨日から続く(ふゆみさんコメント→山路さんコメント→本日記事→山路さんコメント)流れの記事・コメントは、狭窄的な視野しか持たずに反対しか言わない左翼や外交音痴の民進は記事・コメントにどんな意見や政策があるのか聞いてみたいですね。

 中国の力による現状変更に対しては、日本政府としては現場の支援や補強や法整備に加え、外交や経済で中国の孤立化を進める事も大きなリスクなくできる有効な手段ですよね。
 欧州やインドネシアの中国離れは、中国経済の傾きや中国の対外投資などの約束に疑念を持つようになった事が大きいと思っています。
 ただ独だけは、中国に入れ込みすぎて簡単に手を引けないのが実情で、さてどうするのでしょうか。

 日本政府としては、中国と競合する他国での事業(インドネシア・米の新幹線など)の受注を後押しして、日本が獲得したケースは勿論、負けたケースでも中国が無理をした事で中国の計画が頓挫して中国と関わる事のリスクの暴露させ、中国離れに繋げられていると思います。

 IMFは中国の企業債務(国内債務)状況などに警告を出すようになっています。また、実は中国の外貨準備が外国からの借金を下回っているのではか(対外債務超過)とも言われています。
 鳴り物入りのAIIBは資金がなくADBから借金をして運営しているようです。この情報には、「なぜ?敵に塩」と思いました。しかし、穿った見方をすればAIIBが破綻するように仕向けているのでは?とも考えられます。
 中国は普通の国ではないので、国が債務で破綻する事はないように思います。ソ連は崩壊しましたが。

 印度とは原子力協定(原発輸出)を締結する方向で進んでいるようで、印度との関係強化は是非とも進めて安全保障関係まで繋がるような展開を期待します。

 私は民進は経済音痴でもあると思ってますが、安部首相になって外交・経済で中国を包囲する策略は確実に効果を上げていると思います。
 さらに防衛装備の開発を進めて、その装備や維持などのソフト・システムを周辺国へ輸出して、それによる協力関係強化を進めて貰いたいです。
 核兵器については、米国も含めた周辺国に対して関係強化よりも逆に警戒を受ける事になりかねないので現状では反対です。

投稿: ume | 2016年8月18日 (木) 14時49分

一番現実的なシナリオは・・

じわじわと既成事実を積み上げた中共が、台風にまみれ
て尖閣に強行上陸し、領土の奪取を宣言。日本側は直ち
に自衛隊を向かわせるが、攻撃出来ない。

「あのー米軍様、出番ですよ!」「アホ!お前等が先に
行くんだよ」「ええ?安保は?」「このアンポンタン!義務
やないぞ、なんでお前んとこのシマを守るのに、本家の
若い衆が先に突撃せなアカンのや?」

核保有国どうしの戦闘は慎重が第一。他国の小島に、超
大国の利害を賭けるのは、期待値が小さ過ぎる。

抵抗しない(出来ない)自衛隊が、中共軍にいいように叩
かれる画像が公開され、米国世論を動かさない限り米国
は動かないのでは?

これが、自衛隊の仕事はなぶり殺しされる事、とも言われ
る所以で、涙が出る。サヨクは喜ぶのだろうか?

投稿: アホンダラ1号 | 2016年8月18日 (木) 15時58分

夕刻加筆された部分ですっきり論旨明快になり、まさにその通りだと思います。
民主党政権下ではかなり日本も中国的な振る舞いっぷりでしたので、外からはアジア人は力を持つと結局全員こうかよ!にしか見えなかったかもしれませんね。クリントンの流出メールからも醸されてます。

軌道修正は一応出来て、中国悪者状態に持ち込みながら今現在の位置・つまり国有地である領土尖閣を防衛する大義名分が出来始めています。
ギリシャ船衝突の漁船を助けたのも有効です。
でもここまでで手詰まりですよね。

法改正で何とか自衛隊や海保がなぶり殺しにあう前に火器の使用を認められないのでしょうか。
これから侵略する為ではなく、侵略されない為の貴重な人材を、塀や供物のように前線に放り込むのは心が痛みます。
中国的には、自分たちの圧を理由に日本がどんどん解釈拡大でシールドを上げていくのは、嫌だと思います。改憲だったら隙ができるし。私はひどい人間なので、こういう時は筋より効力が吉とつい考えてしまいます。
迎撃ミサイル開発も発表するだけでも良い事です。
あちらのサラミとは違いますが、コツコツ当てて嫌〜なダメージで引かせて攻め所を無くす位、自分たちでしないと。
これも米軍の後ろ盾あっての事ですが。

アホンダラ1号さんの絵図で、自衛隊がなぶり殺しになる手前で「これのどこが漁民っすか武装海賊かゲリラ部隊っすよ」の良い絵が撮れたら良いのだけれど。ずっと、この部分が噂の域というかまことしやかなお話として、左翼の拠り所になってるんですよね。産経やサピオの記事とかでは、弱いです。プロパガンダは嫌いですが、それが撮れたら身動き取れなくなるのではと思います。

投稿: ふゆみ | 2016年8月18日 (木) 19時05分

早急に自衛隊の交戦規定を見直すべきでしょう。インドネシアは既に60隻近くの中国漁船を拿捕し爆破処理しています。

インドネシアにできて日本にできないわけがありません。日本も排他的経済水域の不法操業漁船には断固とした姿勢で臨むべきでしょう。

それとも中国に進出している日本企業が嫌がらせされるのが怖いのでしょうか。日本も経済制裁という手があるのですが、失うものの方が大きいとでも考えているのでしょうか。

日本政府も目先の得失だけから事態を放置することが将来に大きなツケを残すことに気づくべきでしょう。

投稿: 愛国命 | 2016年8月18日 (木) 19時58分

管理人様

本日の記事とは関係ありませんが、先日の沖縄振興予算の件で、私の無知で管理人様、そして読者の皆様に不愉快な思いをさせましたことをお詫びいたします。
そして、振興予算について改めて勉強する機会を与えていただき感謝いたします。

投稿: karakuchi | 2016年8月18日 (木) 20時11分

karakuchiさん、私が返事するのは変なのですがこちらこそ勉強になりました。
一年前にもたしか多摩っこさんご質問で沖縄予算の内訳の謎?について記事があったのですが、今回よりグレーな感じで正直わからない混ざり方だ、これをキチキチと分けるのは一旦止め。みたいに終えたはずです。今年の夏は少し深く掘れたかもです。

投稿: ふゆみ | 2016年8月18日 (木) 20時34分

憲法改正、どうなるんでしょうかね?

一応、政府は目に見えにくい部分で憲法改正に持って行きやすい環境作りもしていますが、肝心の有権者がまだこのところの急激な世界情勢の変化にも気づいていない層が多いって感じですね。

投稿: やもり | 2016年8月18日 (木) 20時38分

karakuchiさん、私のほうからもお礼を^^。
いつもぼわ~んとしか物事を考えないので、こないだのコメント論戦はいい勉強になりました。

投稿: やもり | 2016年8月18日 (木) 20時47分

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