小池都知事は豊洲問題を政争の具とするな
今回の問題が、実に複雑怪奇に見えてしまうのは、いくつか原因があります。
時系列で見てみましょう。
まず、この豊洲移転問題を政治化したいと考えて、先手を打ったのは共産党でした。
共産党の思惑はいうまでもなく、先日の都知事選で一敗地にまみれた失地回復です。
いくら赤旗で「勝った、勝った」と叫んでみても、これでは盛り下がる一方で、来年7月の都議会選も危なくなってしまいます。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2016/08/post-9bb1-1.html
そのためには是が非でも、最大与党の自民党都連を追い落として、一挙に「首都共産党ここにあり」を、都民のみならず国民全体に見せつけねばなりません。
地下施設の水が強アルカリだと「衝撃」の発表をする共産党都議団
そしてここまで共産党が独自調査を急いだのは、当時小池都知事が豊洲移転について明確な答えを出していなかったからです。
小池氏は都知事就任と同時の8月31日、「築地市場の移転延期」とぶち上げたのはいいのですが、なにが延期の理由なのか、いつどこまでをめどにして移転を完了させるのか、そのためにどうしていくのかなど、一切明らかにしていませんでした。
というか、小池さんも聞かれてもわかんなかったんでしょうね。
なにせ、豊洲新市場は既に完成していて、これ以上の移転の遅滞が続けば、経済的損失だけではなく社会問題化する事態になることは見えていました。
しかし小池知事は、都知事選で事実上の公約として築地移転延期を掲げていました。
それは豊洲伏魔殿に切り込むことで、内田氏たち自民党都連の利権構造のあぶり出しに利用したかったわけです。
しかし、その知事の思惑の鼻面を、漁夫の利よろしく共産党がおいしいところだけ取ろうとしたのを、知事サイドが嗅ぎつけたのが、9月7日頃だったといわれています。
http://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20160910-00000004-wordleaf-pol
9月10日、この共産党の動きを知った小池都知事は緊急記者会見を行い、その場で「盛り土がなくコンクリートに覆われた地下空間があった」という事実を発表します。
この時点で地下施設の環境測定値を公表しなかったのは、公式の測定が出揃っていなかったからでしょう。
惜しいことをしました。ここで公式測定値を出していれば、完全に共産党のそれは二番煎じに終わったのですが。
替わって小池氏は、「盛り土」に焦点を当てます。
小池氏は都の説明文書にある盛り土がなく、代わりに地下空間があったという建設仕様の変更があったことを公表し、「都政は信頼を失った」として「説明責任を果たせぬ都庁官僚」を、テレビカメラの前に集めてさらし者にします。
都官僚出身の安藤副知事が、深々と頭を下げたシーンは、記憶に残っているでしょう。
やれやれ、よーやるね、この人。
この小泉首相直伝のパーフォーマンスのエグイまで冴えと、対応の素早さが小池百合子という政治家の真骨頂なのでしょうね。
優秀な人なんだろうが、どうにも好きになれないなぁ。
だって、これって批判が小池氏に来ないようにと狙った、ただの保身じゃないですか。
というのは小池さんが今、行政官という立場で求められているのは、今さら都官僚をつるし上げることではないはずだからです。
舛添前知事の放漫な金の使い方を放置し、それどころか豪華大名旅行にお相伴していたような都庁役人が腐敗していないはずがありません。
腐敗していて当然。
しかし、それがただ今現在のメーンテーマではないでしょう。
記者会見で小池さんが口走った「粛清」(おいおい)は、後でゆっくりおやんなさい。
知事が今なすべきテーマははっきりしています。
東京都の台所移転を、いかに速やかに移転させるかです。
移転をめぐる騒ぎとは別に、築地市場の老朽化は誰しも認めるところです。
寄る年波。築75年。
※コメントで「終戦後というのは誤り」というご指摘をいただき、当該部分を削除しました。
ですから、築地市場は生鮮市場にもかかわらず冷房設備すらなく、下水処理設備も老朽化し大雨のたびに下水が溢れ、開放構造のために外部の廃気ガスが場内に侵入してくる有り様です。
そして築地市場の地盤沈下は激しく、往年の圧倒的シェアは崩壊し、いまや水産2割、青果に至っては1割といったのが現状です。
いまや大手量販店の築地市場をバイパスする流れは、主流となりかかってきています。
このまま築地市場が手をこまねいていれば、延命が難しいのはわかりきっています。
それにもかわらず小池氏は、共産党に主導権を奪われまいと、まず「疑惑」の断罪から入ってしまいました。
盛り土と地下施設(ピット)については別稿に譲りますが、冷静に小池氏が判断すれば、冒頭にブチ上げて、ここから始めるような問題ではなかったはずです。
なぜなら、盛り土ではなく地下ピットであったとしても、その下の土壌はきれいな土壌との入れ換えが完了しているからです。
ですから、共産党が煽るように、地下施設の床からフツフツと大量の「猛毒」が染みだして来るような状況ではないのです。
地下水環境調査は7回とも基準値以下。空気も同じく基準値以下。
コンクリート床がなく、採石層がむき出しになっているためにもっとも危険だとされた青果棟地下ですら、基準値の4分の1に止まります。
一部で基準値を上回る数値が出ましたが、深刻になる必要もない量で、その原因を特定し、浄化装置に回すか、それでも足りないならばブルを入れて持ち出せばいいだけです。
そもそも地下ピットの天井があそこまで高いのは、ブルを動かす空間を想定していて設計したからではないですか。
書類上の不備を断罪し、都官僚に頭を下げさせるのは、もっとずっと後でよかったのです。
小池知事は、自らの責任に降りかからないように、都官僚をバッシングの生贄として差し出したことになります。
この手法は翁長氏が承認取り消しの時に、部下の県担当者をつるし上げたやり方に似て、うんざりさせられます。
左右の違いはあれど、圧倒的支持率に支えられた政治家出身の知事は、人気こそが権力の源泉です。
だからかえって官僚出身の知事より、人気取りに走りがちです。
小池さん、こういう巨額の税金を使うインフラ整備を政争の具にしてはいけません。
普天間移転もそうでしたが、本来シンプルであるべき移転問題に、べっとりと政治の垢をなすりつけてしまうと、身動きがとれなくなりますよ。
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おはようございます。
管理人さん、来年7月の都議会選が、都知事選になってますよ。
投稿: 三毛猫 | 2016年10月 3日 (月) 07時22分
三毛猫さん、ありがとう。直しました。来年も都知事選やったらえらいこっちゃ(笑い)。
投稿: 管理人 | 2016年10月 3日 (月) 07時28分
何故か昨今の報道で触れられませんが、小池さんは共産党より早い8月16日に豊洲を視察してるんですよね
その時自分が指摘出来なかった(知らされなかった?)地下施設を共産党の議員には見せたことが都庁職員に対する不信感を強くしてるのではないかと考えるのは穿ち過ぎでしょうか?
投稿: 須山 | 2016年10月 3日 (月) 08時07分
>須山 さん
多分、小池都知事は地下ピットを見ても、問題になるようなことだと思わなかったんじゃないでしょうかね。
水が溜まっている所を見たとしても、この地が「雨が降れば沼になる」ほど水捌けが悪いという事は、汚染対策について言ってきた都知事なら知っているはず。
そもそも豊洲の汚染対策が、周りを遮水壁で囲み、排水ポンプで地下水の上昇を抑える方法ですから、排水施設が稼動していなければ、地下水の上昇によって水は溜まるのです。
職員が「排水施設が完成すれば水は無くなる」と説明していれば、そんなものかと思うだけでしょうね。
まあ、地下ピットについて、地下水管理システムの一環で地下水を採取・対策する場所、と最初に説明していない以上、小池都知事が「なんにも知らなかった」可能性もあるんですが。
>共産党が煽るように、地下施設の床からフツフツと大量の「猛毒」が染みだして来るような状況
これは、汚染対策をしていない(土の入れ替えをしていない)深度地下から染み出してきた地下水なら、可能性は有ります。
しかし、実際は排水システムによって(染み出してきた水を捨てるのではなく)地下水が上昇する前に汲み上げて排水することで、都の説明図にある「環境基準を超える汚染物質は確実に除去する」方法なのですから、この煽りは全くの妄言です。
しかし、仮に福島原発のように、地下水対策が出来なかったとしたら、それは一転して彼らの言うとおりになってしまう可能性もある。
特に最近は、集中豪雨によって雨水があふれ出す事例が散々報告されていますから、埋立地で排水能力が限界を超えれば……と考えてしまうのも事実です。
話は変わりますが。
知っているかもしれませんが、googleマップでは、工事中の豊洲の様子を知ることが出来ます。これを見ると、どの辺が盛り土なのさって思うこと請け合いです。
投稿: 青竹ふみ | 2016年10月 3日 (月) 11時12分
>青竹ふみ さん
ご丁寧な返信ありがとうございます
なるほど、その可能性もありますね
会見で粛正等の厳しい言葉も出ていたので少々邪推してしまったようです
或いは8月16日の視察の結果については管理人さんがおっしゃるようにまだデータが揃っていなかったので公表してなかっただけなのかもしれませんね
投稿: 須山 | 2016年10月 3日 (月) 12時37分
私は一連の流れから、都知事選挙前公約「1度立ち止まる」の時にはブレインから「豊洲の地下問題」について既に聞いていたのだと思いますね。
で、共産党の調査の動きを知って急遽動いたのだろうと。
だから、豊洲問題を政争の「出汁」に使うな!と申し上げました。。
あとは、いかに安全に早くに豊洲移転を実現させるかという技術的な問題ですね。
ここに共産党に乗せられて騒ぐマスコミ人気に乗っかろうといった政治問題化に進んでしまえば、何年も収拾がつかなくなる恐れがあります。
時を待たずに、ボロボロな築地の老朽化は進み続けます。
投稿: 山形 | 2016年10月 3日 (月) 13時09分
書き忘れたので連投失礼!
はい、大手流通企業(AEONとか)は船上丸ごと買い上げや各地に大型物流センターを整備していて、築地の地位は既に下がっています。魚河岸の聖地ではありますが、全国からのトラック輸送が主力なんですから、極端な話ベイサイドである必要すらありません。内陸(東京都内は無理でも埼玉や千葉)に持って行ってしまえば圧倒的に利便性が高くなります。
が、あくまで東京都の事業ですから初めから選外でしたがね。で、都市計画として「豊洲移転しかない」でやってきたわけですから、速やかな移転を進める(もちろん土壌汚染対策には配慮)べきだと思います。
オマケの話ですが、新潟県寺泊漁港前市場(現長岡市)には90年代にはお年寄りを中心とした隣県からの日帰りバスツアーが盛んでした。弥彦神社参拝とセットで。
巻町(現新潟市)が五ヶ浜原発の賛否で大荒れの中、風光明媚なドライブコースにのトンネル工事ですでに周辺道路の整備してました。あの住民運動(ヘリパッド程度で犯罪者集団が跋扈するとことは違い)では怪文書が回ったり町議にカネが流れたといったスキャンダルがありましたが「良識ある一般市民?がロープで確保されたぁ」なんて記事は地元メディアは報じませんでしたね。巻原発計画は当時は画期的だったけど最終的に政治的効力の無い「住民投票」の結果を受けて東北電力が建設断念しました。
と、思いっきり脱線しましたが、日本海の海の幸の寺泊市場、一部の地魚以外の9割が築地経由でした。
当時の毎日新聞が「山形からのツアーでの主婦にインタビューして『安くて新鮮!たくさん買いました!』という声を聞いて無知を嘆いてました」
そりゃ遠くから丸一日の旅行ですからなにも知らない先入観と高揚感のオバチャンに聞いたらそうもなりますわな…。
投稿: 山形 | 2016年10月 3日 (月) 13時54分
いつもは専ら読む側ですが、はじめて投稿させていただきます。
>築75年。アメ横などといい勝負の終戦直後建てられたものです。
細かなこととは思いますが、築75年だと昭和16年頃となり、戦前の建物となるのではないでしょうか。
>東京都の台所移転を、いかに速やかに移転させるかです。
報道を見るにつけ都職員のバッシングに終始して、移転という本質の問題がぼやけてきた気がします(その方が視聴率はとれるのかもしれませんが)。私は今回の政争は(都職員の対応に全く問題がないとは思いませんが)むしろ権力争いと移転で利益を得る人と不利益を受ける人との足の引っ張り合いでしかないと思っておりましたので、都民そっちのけで争う様とそれを煽る連中を見るにつけ不愉快極まりないですね。
投稿: 隅の人 | 2016年10月 3日 (月) 13時59分
震災以降戦前ですね、築地市場。
よく焼けなかったなあと思います。
山形さんはじめ多くの方が書かれているように、築地市場自体が衰退(個人的には淋しいですが)してきているという点。現市場が明らかに古くて構造上・衛生上問題がある点。(大体これを解決する為に移転するのですからあって当然なんですが)
この2つを出すとただでさえ移転停滞パンチで参っている卸業者の今の魚まで売れなくなってしまう。結果会見でもテレビでも後ろに伏せて話す事になり、大声祭りの共産党のアピールが消費者にきらめいて見えるのでしょう。
私的には共産党祭りに小池氏が粛清祭りで対抗するんではなく、横にらみで「バッカじゃないヒソヒソって!」とクラッシャーさんの最近の決めゼリフ風にやっちゃって欲しいところです。
投稿: ふゆみ | 2016年10月 3日 (月) 15時19分
もともと小池氏は自民都連・内田茂氏と戦う者として都知事に就任しました。
そもそも自民都連や内田氏がメディアに引っ張り出されたのは、小池氏と増田氏の推薦問題を巡ってひと悶着あったからです。
この頃から、安倍氏と密接に連携がとれていたのだと考えています。
中田宏氏も「小池さんと電話で話したけど、戦う(内田と)言ってました」と発言していましたし。
多くの方が理解していると思いますが、小池都知事が豊洲移転延期を決定した理由は、豊洲利権を洗い出すためです。
内田茂氏が汚染された東京ガス跡地を法外な価格で買い入れているので、豊洲利権というのは内田茂氏の利権です。
要するに彼女のメインテーマです。
小池氏の発言に「何があったのか、誰がどこで何を決めたのかを明確にしたい」とあります。
彼女は単に安全面・経済面・技術面だけではなく、東京都政の闇を明らかにすることを前提に、移転の延期を決めたのです。
何も解決しないまま移転するというのは、戦いに負けたということでしょう。
また、内田茂氏は東京五輪の利権も持っているので、この豊洲問題は豊洲利権だけの問題ではないでしょう。
投稿: さいにゃー | 2016年10月 3日 (月) 21時45分
小池知事は、政策実現の為には都政運営を専ら自身の主導権のもとにする事が必要で、そのためには議会構成を刷新する必要があると考えた。
そこで来夏の都議選で自民会派に互して戦う事が出来るようにするため、あるいは自民会派の早期の屈服(知事与党化)を目的として「豊洲問題」に切り込んだ事は明らか。
しかし出馬の経緯などから後に引けない都議会自民党の結束はむしろ堅固になり、事態を静観。
司直の手が入るような事態にならない限りは崩せそうにない。
そうこうして深みに嵌りつつあったところに、あらゆる闘争に寄生し、それを奇貨とする独特の生態を有する共産党が、またしてもいかがわしい「正義」を振りかざして跋扈し始めた。
どっちにしても「豊洲問題」とは「政局」であって、都民の生活に直結する実質的問題としては些事にすぎない。
早期に手仕舞いして移転時期を言明する為に必要な人身御供になったのは、くだんの都庁幹部。
しかし「粛清」などというおどろおどろしい言葉をもってした事も手伝って、今度は都庁内部から、保身の為に共産党やマスコミに対しての告発的リークも出始めた。
かくして、
>こういう巨額の税金を使うインフラ整備を政争の具にしてはいけません。
本来シンプルであるべき移転問題に、べっとりと政治の垢をなすりつけてしまうと、身動きがとれなくなりますよ。
という、この言葉そのままの事態になってしまったのですね。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2016年10月 3日 (月) 21時47分
小池都知事、もしかすると環境問題やエコロジーに「妙な」興味や関心を持っているのかも。
わざわざ豊洲の件を扱わなくても、政局にするなら他のネタがいくらでもあると思うのですが。
可能性は低いとは思いますが、今後「食の安全性」をめぐってトンデモなことを言い出さないか、若干気がかりです。
都議との関係や利権への斬り込みといった背景を抜きにして、見えている事柄だけを単純に追っていると、エコおばさんが過剰反応しているように見えなくもないので。
投稿: 元大阪府民からの伝言 | 2016年10月 4日 (火) 01時39分
築地は時代遅れ。卸 仲卸 客 この古き流れに執着して時代に取り残された結果 殆どの仲卸は債務超過。豊洲に再度出店営業する力などない。力のある一部の卸が権利枠を買い占める。ある意味当たり前の経済原理を築地の旧態業者の淘汰。だから移転反対。安くただ同然のポンコツ市場を動きたくない。みんな民商加盟だらけだから共産党が出てくる。
投稿: 流通業者 | 2016年10月 4日 (火) 19時47分