「南京アトロシティ」の挙証責任は中国にある
私は南京事件を考える時、あえて単純化の方法をとる事にしています。
というのは、細部に渡る論争はいままでもさんざんなされてきており、やれ南京には20万人いたのいないのといった議論になっています。
ここまで長期間に渡って膠着した議論が続くと、素人が付け加えるべき新事実などないに等しいし、正直言ってどちらでも同じだと私は思っています。
もっと俯瞰してみないと、本質が見えてこないんじゃないでしょうか。
残念ですが、日本側の反論が40年遅かったと思います。
朝日新聞に連載された本多勝一『中国の旅』が出た後の数年で、政府レベルで徹底的な反論をしておくべきでした。
私は連載当時高校生でしたが、強烈なショックを受けて学校に切り抜きを持っていって読書会など開いたものです。
私が若くして左翼面に転がり落ちた暗黒図書を一冊上げろといわれたら、迷わずこの本でしょう。
朝日に「青春を返せ訴訟」でも起こしたいくらいです。本多の顔をみるだけでムカつきます。
それはさておき、南京事件についての私のアプローチの方法は、「大虐殺」の概念規定をする中から、何が「南京大虐殺」説を成立させるパラメータなのかを探っていきたいと思っています。
さて日本語では一種類しかないのでただ「虐殺」と言っていますが、横文字にすると多種多様あります。
昨日は「ジェノサイド」を見てみました。
似た概念に「ホロコースト(holocaust)」がありますが、共にユダヤ人の虐殺、あるいは、ユダヤ教への弾圧において使われます。
ただし、日本ではレッキとした学者が、「南京ホロコースト」とか、果ては「織田信長ホロコースト」のような使い方を平気でしています。
こういう言葉遣いをする学者の本は、それだけで読む価値がないと思って下さい。
私は南京事件はユダヤ人となんの関係もないので、この用語を使うこと自体間違いであるし、物理的にも30万人を殺すことは無理であると昨日書きました。
今日は別の概念をみてみます。
ヨーロッパは歴史的に国家間のみならず、民族間、宗教間、革命・反革命とあらゆるバージョンで大殺戮を繰り返してきましたから、「虐殺」を現す言葉の宝庫です。
「虐殺」を現す概念用語に、「アトロシティ(Atrocity)」という言葉もあります。
これは「衝撃的なほど残虐な民間人虐殺」を現します。
近代では「国家による民間人の大規模虐殺」というニュアンスで使われています。
軍事目標を狙った爆弾がたまたま住宅地に落ちたというのでは、アトロシティは成立しません。
あくまでも国家意志に基づく、一般市民の大量虐殺でなければならないからです。
肝は「国家意志」の有無なのです。
ですから、出先のサイコの兵隊が、個人の意志で一般市民を銃撃して大量殺害しても、それをアトロシティとは呼べません。
近代において国家によるアトロシティを防止するために作られた国際法が、ハーグ陸戦条約ですが、この条約の中には国家による民間人大量殺害の禁止が盛り込まれています。
現代史で文句なしにアトロシティに指定できる事件は、東京大空襲、広島・長崎への核攻撃です。
米国の場合、長い時間をかけて組織的に日本の住宅の燃やし方を研究し、どこにどう焼夷弾を落せばどのように燃え広がるのかを研究し尽くした上で、都市夜間爆撃のプランを立てました。
後に国防長官になるマクナマラが、これに関わっていこたとは書きましたね。
たとえば、東京大空襲では風上から焼夷弾を落とし、風下に逃げる市民の前方を焼夷弾で閉じて包囲して、10万人を生きたまま焼き殺しました。
この研究プランも爆撃計画チームの存在も明らかですから、「国家が計画的にアトロシティを働いた」と断じることが可能です。
日本人は米兵の顔や姿が見えずB-29という機械しか見えなかったために、なにかピンとこないようですが、あれはまがうことなく現代におけるアトロシティの代表例なのです。
南京事件の場合、欧米では、”Nanking Atrocities”(南京アトロシティ)で定着しているようです。
つまり、この言葉はそれ自体で、「国家意思に基づいて日本軍が、南京市民を大量虐殺した」という意味になります。
これに対して「マサカー(masscre)」という用語は、「相手に軍事的目的以外で苦痛を与えて殺害する」というニュアンスで使われます。
よく引き合いにだされるのがダムダム弾です。これは体内で旋回して苦しんで死ぬ残虐な兵器です。
軍事合理性がないのに、あえてこんなものを使う必要はないから国際法上マサカーとして禁止対象になっています。
え、ならば普通の弾丸でも苦しむだろうと思いますが、代替がないので仕方がないとされています。
南京事件の場合”Nanking Masscre”という言い方も流布しています。※流布していないと書きましたが違うとのご指摘を頂戴しましたので訂正します。
このように日本語でひとことで「虐殺」と言っても、多種多様あるのに驚かれただろうと思います。
「虐殺」を概念規定して使えば、そうとうに何が決定的に重要なのかが自ずとわかってくるでしょう。
「大虐殺」派の人たちの欠陥は、日本語のあいまいさに隠れて「南京ジェノサイド」とか「南京ホロコースト」だのと煽った表現を使うことです。
「南京ジェノサイド」「南京ホロコースト」という表現を使うのは、ナチスのユダヤ人虐殺と並ぶ人類史的悪行と言いたいからでしょうが、それがとんだ的外れなことは昨日書いたとおりです。
一回キッチリ概念規定してから使って下さい。
中国が日本を「南京アトロシティ」と呼びたいのなら、あくまで「国家意思」の存在を明示する挙証責任があります。
昨日も書きましたが、南京一般市民を全員殺戮することを命じた大本営の命令書、あるいはその議事録、それを受けた中支派遣軍から師団への命令書、師団司令部から連隊司令部への命令書、現場指揮官への命令書などなど大量になければなりません。
慰安婦問題もそうでしたが、軍というのは巨大な官僚機構ですから、上から下まで各級で文書が大量に残っていなければなりません。
よく敗戦時燃やしたからないのだと言いますが、あれだけ膨大な文書体系において1枚も見つからないことはありえません。
また、現場部隊は戦闘詳報を上げますので、そのための陣中日記がなければなりません。
陣中日記は南京事件研究でよく提出されますが、ただ敵兵や市民を何十人殺したでは無意味です。
必要なことは、上級司令部から南京市民を全員殺害するようにとの命令を受領したでなければなりません。
日本の「大虐殺」派の学者の皆さんが、深く勘違いしているのは、この日本軍側記録に何千人の捕虜、あるいは便衣兵を処断した記録があっただけでは意味がないのです。
「南京アトロシティ」と言うには、あくまでも計画的に大量殺害を命じられたという証拠がなければなりません。
この挙証責任は、中国と日本の「大虐殺」派にあります。
長くなりそうなので、明日に続けますが、南京事件においてもっとも解釈に苦しむのはこの捕虜と便衣兵の殺害です。
これについては事実関係も含めて検証してみます。
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記事の前半部分は、英語が苦手で翻訳時にニュアンスを変えてしまう悪癖のある私は、語る口がありません。
また、日本語でさえ長文を省略する時に意味を変えられた言葉も平気で使っていますから……。
(戦争法案ではない!と怒られた)
後半に関しては、必ず
数が少なければいいのか! 命令文がなければ殺していないことになるのか!
……など、こちらの言葉を全く聞かない馬鹿者がいるため、困ります。
其処を問題としているのではないと言っても、聞こえないんだよな。
数や証拠の前に、まずは虐殺の定義からと言っても、文字通り話にならない。
愚痴になるので、明日まで黙ってます。
投稿: お金が無い! | 2017年2月 3日 (金) 07時51分
3つの殺しの英単語の和訳の出典を教えていただけますか?
検証責任は中国にあるというのは同意です。
投稿: ふゆみ | 2017年2月 3日 (金) 07時55分
お金がないさん。まぁ、だよな(苦笑)。
私も改めて南京本の山(けっこうコレクションしていますが)をあたったが、「外国でひとり殺しても虐殺だ」なんてものまであるしね。
議論にならないのは百も承知で、むしろこちらが何を立論の基礎にするのかを考えています。
投稿: 管理人 | 2017年2月 3日 (金) 07時57分
南京事件について、「法」で中共が日本の「国家責任」として裁く事が出来ないのは、
≫「国家意思に基づいて日本軍が、南京市民を大量虐殺した」
という「事実」は無いからで、
日本の「国家責任」を問うなら、それを証明する事のできる
≫「上級司令部から南京市民を全員殺害するようにとの命令書」様の物が必ず残っているバズなんです。
しかし、そのようモノは影もかたちもありません。
まず、「法的責任はない」。
この事をキチンと理解しておく事が非常に重要です。
そしてこのような場合、韓国や中共が取る手段は「慰安婦問題」同様、「人権問題」にすり替える事です。
そこから最終的に「国家責任」を認めさせる事が目標と言っていいでしょう。
慰安婦問題では、世界から「不可逆的な合意」に達した事が賞賛されましたが、その理解は「国家賠償した」→「日本が国家責任を認めた」→「だから性奴隷だったのだ」→「やはり20万人の強制連行はあったらしい」と、このようなものかと思います。
その後の韓国の政治的混乱が日本に有利に働いたようにも見えますが、これでは在米・在欧日本人子弟への「イジメ」は無くなるハズがありませんね。
そして、慰安婦問題の処理の仕方が「南京問題」への悪しき先鞭を付けてしまったのではないか? と憂慮してしまいます。
それにしても、「南京事件問題」ほど馬鹿げた国際間問題はありません。
たぶん明日の記事になるのかと思いますが、「いわゆる南京事件」の最大の責任者は国民党であり、蒋介石その人だからです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2017年2月 3日 (金) 08時18分
>南京事件の場合、欧米では、”Nanking Atrocities”(南京アトロシティ)で定着しているようです。
>南京事件の場合”Nanking Masscre”という言い方はあまり流布していないのではないでしょうか。
いや、少なくとも2000年以降、違うと思います。
massacreが流布され、その理由に「赤ん坊を突き刺す、腹を裂く」といったひどい殺し方をした話が盛られて定着しています。
投稿: ふゆみ | 2017年2月 3日 (金) 08時37分
実際に"Nanking Atrocity"で検索をかけてみて下さい。リストはmassacreでどんどん上がってきます。Nanking massacreはひどいこんなこんなこんなatrocityでした、という感じの使い方を英語圏ではされています。
投稿: ふゆみ | 2017年2月 3日 (金) 09時08分
>「南京アトロシティ」の挙証責任は中国にある
損害賠償の立証責任が被害者にあるように、基本的には中国側が立証すべきだろう。個人の賠償問題とは異なると言うのなら、こちらも協力していい。日中で証拠を探そう。
> もっと俯瞰してみないと、本質が見えてこないんじゃないでしょうか。
そうだと思います。本件の場合は状況証拠の積み重ねが大事でしょうね。
> 朝日新聞に連載された本多勝一『中国の旅』が出た後の数年で、政府レベルで徹底的な反論をしておくべきでした。
本多勝一を野放しにしておりました。当時は、政治家もマスコミも真面目に考えませんでしたね。左翼知識人たちは即座に反応したのですが。
> 私が若くして左翼面に転がり落ちた暗黒図書を一冊上げろといわれたら、迷わずこの本でしょう。
真面目に受け取ったのですね。こちらは、そんなに真面目な学生ではなかったですね。
> 肝は「国家意志」の有無なのです。
ですから、出先のサイコの兵隊が、個人の意志で一般市民を銃撃して大量殺害しても、それをアトロシティとは呼べません。
これは大事なご指摘です。
>「大虐殺」派の人たちの欠陥は、日本語のあいまいさに隠れて「南京ジェノサイド」とか「南京ホロコースト」だのと煽った表現を使うことです。
言葉の定義がなかったのですね。反省です。
> 長くなりそうなので、明日に続けますが、南京事件においてもっとも解釈に苦しむのはこの捕虜と便衣兵の殺害です。
これについては事実関係も含めて検証してみます。
興味があります。
投稿: ueyonabaru | 2017年2月 3日 (金) 09時38分
ふゆみさん。ひどいものだな。そんて殺し方は通州でかれらがやったものですよ。日本にはそんな殺し方はない。
中国のプロパガンダがまるのまま定着したわけですか。
わかりました。訂正します。
いつもながらキツイが(たまには褒めてね)、欧米事情に暗い私なので、勉強になります。
投稿: 管理人 | 2017年2月 3日 (金) 09時48分
たかが言葉の手荻というかもしれませんが、言葉は民族性とか文化の根源ですからね。
大陸では、異民族が来襲するので、都市も城塞国家が多く、市民ごと籠城する問うのがふつうですから、攻城戦の後は虐殺と略奪が普通に行われていました。
日本は山城にしろ平城にしろ、戦争する城郭と庶民の住居は分離していました。だから戦争の多くは庶民にとって見物の対象だったりします。
アメリカ本土では卑怯なだまし討ちとされている真珠湾攻撃でも、安倍首相が訪れた真珠湾の戦争記念館では日本の攻撃が民間をまったく巻き添えにせず、民間の被害は”Friendly Fire"(味方の誤射)だったと展示してるわけです。
日本の軍というのはそういう意味で全く違う戦い方してきたわけで、南京でだけそういう戦いをするというのはちょっと違うのではないかと思います。
科学的に実証されたわけではないと思いますが、欧米で日本語を習うと人間的にやさしくなるという話を聞いたこともあるし、評論家の石平氏は、前の中国人の妻と、県下の時は中国語(罵る言葉がほぼ無尽蔵にある)、仲のいい時は日本語(季節や風景、心情を表す言葉が豊富)で話していたと言います。
投稿: ednakano | 2017年2月 3日 (金) 09時51分
管理人さん、お手間をおかけしてすみません。
こてんぱんにするつもりはないのですが(汗).中国の旅の捏造ぶりその他の貴重な話が書かれている分、それを英語で外地で反論する勇気を持とう、と思うかもしれない留学生などの読者にリスクを与えたくないのです。各単語の意味も、もしも語学堪能な現代の日本人研究者が記事のようにまとめているなら是非読みたいのですが、ウェブリオなどの辞書表記から日本式に純化しないほうが誤解が少ないと思います。
記事にある中で1番問題なのは日本人で南京ジェノサイドとか1人殺しても虐殺とか言い募る人達だと私も思います。これは、国内でどんどん遡って追求しても良いと思います。本多勝一へも全く手遅れではないです。彼まだ生きてますし。
橋を渡る笑顔の婦女子の写真が朝日グラフ出典だというのを認めた話なんて、もっともっと広くぐさぐさと言い広めて他のはどうなんだと中国人ではなく朝日新聞社に抗議するべきです。
投稿: ふゆみ | 2017年2月 3日 (金) 10時27分
映画好きなのでアジアを始めかなりマイナーなのも観るんですけど、中国共産党のプロパガンダとそれに悪乗りしたハチャメチャ作品ではなく、戦中から戦後で取りようによっては「毛沢東時代の乱開発を批判してるんじゃね?」というような地味な作品でも、柱に縛り付けた生きた中国人を非道な日本人が(それ、国民党だろうに)銃剣で突き刺すなんてのが「トラウマシーン」として出てきたりしますね。
おまけに、韓国だと巨匠キム・ギドク作品なんかは、戦争云々抜きで「魂の変遷と苦しみと癒し」を美しい映像ばかりなのですが、韓国映画会からも最近はただの変人扱いされて長いです。
本多勝一・・・
中国の旅の写真の嘘を認めているようですし、あのシリーズ以前の60年代の世界紀行文は極めてまともなんですよね。
ほったらかしていたうちに何故か国内左翼のバイブルになってしまったのが「中国の旅」ですね。
投稿: 山形 | 2017年2月 3日 (金) 12時23分
慰安婦に関してもそうなんですけど、命令書がないと言うと「終戦時に全部燃やしたんだろ。」で返されてしまうんですよね。
悪名高き吉見義明が終戦後に関係ないものも合わせて全部燃やしたと言ってますけど本当なのでしょうか?
『大東亜戦争全史』に「終戦の聖断直後、参謀本部総務課長及び陸軍省高級副官から、前陸軍部隊に対し、機密書類償却の依命通牒が発せられ、市ヶ谷台上における焚書の黒煙は8月14日から16日まで続いた」と書いてあるみたいです。
投稿: 中華三振 | 2017年2月 3日 (金) 16時57分
ednakanoさん
> アメリカ本土では卑怯なだまし討ちとされている真珠湾攻撃でも、安倍首相が訪れた真珠湾の戦争記念館では日本の攻撃が民間をまったく巻き添えにせず、民間の被害は”Friendly Fire"(味方の誤射)だったと展示してるわけです。
日本の軍というのはそういう意味で全く違う戦い方してきたわけで、南京でだけそういう戦いをするというのはちょっと違うのではないかと思います。
日本軍の戦い方にパタ-ンがあり、それは他の戦闘地でも再現されると私も思います。
投稿: ueyonabaru | 2017年2月 3日 (金) 21時55分
職業軍人でない徴兵された一般の旧日本兵にとっては、
旧日本軍は本当に酷い超ブラック軍隊でした。そんな彼
等が進軍した現地の街町での当地人の暮らしぶりは、彼
等の妬み・憎しみを育てるのに十分だったと思います。
「オレ達が死ぬ思いで戦っているのに、コイツ等ときた
ら・・」まあ、略奪・強姦ぐらいする者は居て当然だろう
し、上層部も黙認です。これは旧日本軍だけの話では
なく、人類の一般の軍隊すべてに当てはまります。
南京攻略戦もその一つで、虐殺命令書でも発見されない
限り、ありきたりの人間の殺し合い(サヨク脳が卒倒し
そうなコトバです)があっただけです。
中共や朝鮮の上層部は、当然虐殺など無いと解っていま
す。それだからこそデッチ上げに血眼になっているのだ
から。モンダイは一般の国民です。あの儒教で、宦官達
が、何千年もの間、一般民衆を家畜同然に扱ってきたの
ですから、素朴な一般民衆はそのまま信じてしまいます。
なんとか、中国語や朝鮮語で、素朴な一般民衆に直接に
事実を届けるウェブサイトを作れないものか?爆買いに
来た時にでも、日本国内なら中共の検閲が無いのでチャ
ンスだと思うのですが・・ が、害務省さん!
投稿: アホンダラ1号 | 2017年2月 3日 (金) 23時20分