トランプはバノン尊師の催眠術からいつ醒めるのか
堤堯氏がトランプを評して、「ノーコン豪腕投手」と評していて笑いました。
なるほど言い得て妙です。ズバッズバッと160キロを投げ込むのですが、とんでもない危険球だったかと思うと、見事なストライク。
確かにこんなに投球がブレまくる大統領は初めてです。
なんでこんなふうになるのかと思いますが、その最大の原因が懐刀としてトランプが連れてきたスティーブン・バノンのせいです。
スティーブン・バノン - Wikipedia
トランプは選挙戦の時にさんざん極端なことを言って大向こう受けしていましたが、その台本を書いたのがこのバノンです。
ハリーポッターのマッドアイ・ムーディーみたいですね。ね、雰囲気まで似ているでしょう。
「俺は国粋主義者、それも経済国粋主義者だ。グローバリストらのせいで、米国の労働階級が骨抜きにされ、代わりにアジアで中流階級を生み出した」
「トランプは、60%の白人、40%の黒人とヒスパニック層から支持を得た。今後、50年にわたって統治する」
「われわれは、トランプムーブメントを始める。共和党のエスタブリッシュメントも撃ち倒す」「1兆ドルのインフラ事業を推進するのは、俺だ」
この台詞は一見トランプのもののように聞こえますが、彼のものではありません。バノンが選挙戦の時に言っていたものです。
バノンの経歴は海軍の水兵から始まり、ハーバート大学でMBAを取得し、ゴールドマン・サックスに勤め、独立して投資会社を設立し、最後に悪名を轟かせたのがブライトバート・ニュースでした。
メディアを手にしたバノンは、米国に鬱積したダークサイドの空気をパンパンに吸い込んで、ついたニックネームが有名な「極右の火炎放射器」です。スゴイね、こりゃ。
バノンは昨年8月にトランプの選対本部長に就任し、彼のイデオロギーの家庭教師となりました。
聴衆の前でこうしゃべれ、メディアにはこのようにふるまえというトランプの踊りの仕付けはバノンがしたのです。
そして勝利をおさめました。
トランプ自身よもや勝てるとは思っていなかった選挙戦が勝てたということで、バノンにひとかたならぬ恩義を感じたわけです。
ある意味で、当初からトランプ政権は、「バノン政権」のような性格を帯びて誕生したのです。
今、トランプが激しくメディアと衝突しているのも、このバノンの進言によるものです。
まぁ、進言も何もバノンは主席戦略官・上級顧問と言う新しいポストに就いていて、いつでも大統領執務室に入る権限を持っています。
というか、この「首席戦略官」というわかったようなわからないポスト自体が、バノンのために新たに創設したものです。
いつでも大統領の耳に知恵を授けている側近中の側近という位置づけでしょうが、首席補佐官という伝統的なポストとかぶってしまっています。
首席補佐官も同じように大統領を補佐し、長期的ビジョンや再選戦略や議会対策を進言する役割ですからまさに屋上屋ですが、いかにバノンが特殊な地位にいるのか分かります。
その上、バノンはNSC(国家安全保障会議)の常任メンバーという国家中枢機関の常任メンバーの地位まで要求しました。
ニューヨークタイムズはこう評しています。
「スティーブン・バノンほど、自身の権力基盤を厚かましく強化した側近は、これまでいなかった。そして、ボスの名声や評価をこれほど早く傷つけた人物も、かつて見当たらなかった。」
あつかましくポストを要求しただけではなく、バノンは目の上たんこぶを潰します。
意見があわず体質が違う国家安全保障担当のマイケル・フリンを失脚に追い詰めたのです。
マイケル・フリン - Wikipedia
アメリカ国防情報局 - Wikipedia
フリンはDIA(国防情報部)長官でしたが、バノンがライバルの成長を恐れるCIAを使って陰で画策したのは事実のようです。
このまま推移すればバノンは、ロシア帝国崩壊の遠因を作った怪僧ラスプーチンの再来となったでしょうが、幸いにもそうはなりそうにもありません。
トランプ政権に、しごくまっとうなバランス感覚に富む人材が登場したからです。
いわばホワイトナイトとでも呼んだらいいのでしょうか。4名います。
ジェームス・マティス国防長官、レックス・ティラーソン国務長官、そして今回フリンの後任となったハーバート・マクマスター安全保障担当補佐官、ジョン・ケリー国土安全保障長官です。
レックス・ティラーソン - Wikipedia
ちなみにティラーソン国務長官は、就任前の記者とのインタビューに答えて、こんなこんなことを述べています。
「難しい問題で、アメリカが介入することはできないかもしれない。だが、私はする。(国務長官になったら)慰安婦問題でもめる日韓では日本を支持する。韓国が誠実な対応をしなければ貿易停止などの経済制裁を必ず行う。これで解決しなかったらさらに措置を検討する」
まことにしびれるほどまっとうなご意見です。日本贔屓だから喜ぶのではなく、バランスが取れた視点を持っているのが分かります。
こらコリア、よく耳をかっぽじって傾聴するように(笑)。
それはさておき、バノンがトランプに入れ知恵した「トランプ3バカセット」というものがあります。
「メキシコ国境の長城建設」「金出さなければ在日米軍引き揚げ」「NATOは古くさい」というもので、私は大統領選の折にこれを聞いて、コイツは真正のバカだと思ったことがあります。
米国がNAFTAを破壊し、「壁」を作って隣国メキシコや中南米と紛争状態になり、かつ日米同盟を廃棄し、その上に米欧同盟まで破壊したら、米国はその瞬間に国家としてジ・エンドです。
日米同盟と米欧同盟を破壊すれば、米国の対中、対北、対露、対中東戦略のすべてが根底から崩壊します。
ジェームス・マティス国防長官
迅速に同盟関係を正常化させねば大変になると考えたマティス国防長官とティラーソン国務長官、そしてジョン・ケリー国土安全保障長官3人は、それぞれ日本、欧州、メキシコに飛びます。
マティスは日米同盟を安定させるべく最初の訪問国に日本を選び、「日米同盟は他国のモデルだ」という言葉まで使って日本政府をホっとさせました。
訪日の時の稲田氏との記者会見時の発言です。
http://www.sankei.com/premium/news/170204/prm1702040031-n1.html
「コスト負担ということでは、日本は本当にモデルだと思っている。われわれは常に対話をこの件についてやっています。詳細についても常に話をしています。
そして日本と米国で経費の負担分担が行われているのは、他の国にとってモデルになると思っております。お手本になると思っております。(略)
現段階において別に何か劇的に軍事的な動きをする必要は感じておりません。まったくないです」
一方ティラーソン国務長官は、真っ先にNATOに飛び、「安心してくれ米国がNATOを去ることは絶対にない」と力説し関係を修復しました。
前後してマティスも訪欧し、「北大西洋条約機構(NATO)が「時代遅れ」などということは全くない」と強調して、トランプが繰り返してきた言い回しを真っ向から否定しました。
ケリーもまたメキシコを訪問し、ペニャニエト大統領、外相、内務、国防相ら複数の関係閣僚と会談します。
おそらく「まぁまぁびっくりしないで、米国は壁を作ってメキシコと敵対したいわけではない」くらいは言ったと思われます。
しかし、NAFTAを壊されされそうになり、壁を作られ、不法移民対策に名を借りた「壁」までつくられていますから、メキシコ政府の怒りは簡単には納まらないでしょうがね。
また「ひとつの中国」見直しは、保守で喜ぶ人が多いのですが、台湾にとってきわめて危険な政策でした。
今のガラス細工のような台湾の地位が変更されるならば、中国は一気に軍事的侵攻のシナリオに手を出しかねないからです。
これもティラーソンが諭して止めさせています。
続いて現在進行形の中東7カ国移民差し止めですが、これも間違いなくバノン臭がプンプンする政策です。
イラク駐留の指揮官だったマティスは一貫して、「ムスリムは敵ではない。侮辱したり、怒りを示したりするな。彼らを敵にすればよろこぶのはテロリストだ」と言い続けてきただけに、腹が煮えくり返っていたことでしょう。
これによって、行政は大混乱、司法は違憲と判断して大統領令を差止め、西欧諸国まで怒り出すという事態にまでなっています。
まったくやれやれですが、このティラーソン、マティス、マクマスター、ケリーという「ホワイトハウス正気4人衆」はいつまでもバノンの尻拭いに甘んじているいるようなタマではありません。
しつこいようですが、沖タイは軍人が多数入閣したことをとらえて、「極右タカ派政権の誕生」と書きたてましたが、お門違いもいいところです。
トランプ政権を極右に走るのをくい止めている「ホワイトハウス正気4人衆」のうち実に3人までもが、軍人出身なのですからね。
もうしばらく時間はかかるでしょうが、トランプもそろそろバノン尊師の催眠術から覚醒する時期のようにみえます。
このままバノンに任せていたら再選はおろか、国際秩序は崩壊し、米国自らも没落するのは必至だからです。
バノンが失脚すれば、米国に大変にまともな保守政権が誕生したことになります。
■間違って扉写真を消してしまいましたので差し替えます(涙)。
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