マクマスター トランプ政権の良識派となるか
たぶん何かのトラップに引っかかったと思われるマイケル・フリンに替わって、国家安全保障担当大統領補佐官にあのハーバート・マクマスター陸軍中将を当てました。
ハーバート・マクマスター - Wikipedia
フリンは軍事の現場に関わったことがない上に、陰謀論に傾斜するきらいもあって、危惧する声も上がっていたため、マクマスターの登用は珍しくも民主・共和双方から歓迎されているようです。
さきほど私は、「あの」と冠せましたが、今の米国軍人良識派を代表する高名な軍人です。
彼の経歴については後述しますが、トランプの布陣の特徴は過激なシビリアンを、極めてクールな「学者軍人」がバランスするという方法です。
軍人と聞いただけでジンマシンを起こすリベラル左派に勘違いされているようですが、軍人はただの戦争好きだと務まりません。
マティス国防長官の時ですが、軍人が閣内に入っただけで沖タイはこの調子です。といっても、あちらのリベラル・メディアを丸写しですが。
「文民統制(シビリアン・コントロール)を重視してきた歴代政権とは対照的に、安全保障面を担う要職に次々と軍人を起用している。米紙ワシントンポストは「元軍高官が国防長官に起用されたケースはほとんどない」と指摘し、「トランプ氏は周囲を軍人で固めている。これは危険な兆候だ」との識者らの見解も併せて報じた。」(2016年12月25日)
書いたのは、オスプレイ・デマをせっせと米国から流し続けているヘンな記者の平安名純代氏です。
タイトルからして「トランプ政権、タカ派色鮮明 要職に米軍元高官3人目」ときていますから、彼女の脳内では軍人というだけタカ派となってしまうようです。
沖タイにとって軍人はレイプ魔か殺人鬼ですから、軍人をベタ一色でとらえているようです。
この人は保守だ左翼だという以前に、自分で調べて書かないからダメです。もう少し調べてから書きなさいな、ヘンナさん。
ではこのツルツル頭が可愛いいマクマスターの経歴を当たってみましょう。ヘンナさんがバブロフの犬的反応を示したようなタカ派なのでしょうか。
マクマスターのキャリアを劈頭を飾るのは、1991年湾岸戦争での「73イースティングの戦い」でした。
73イースティングの戦い - Wikipedia
当時大尉だった、自身が搭乗するM1A1戦車と9両で、4倍のイラク最強と言われた共和国防衛隊と真正面からぶつかり、一方的勝利をおさめました。
この経歴だけ聞くとやる気満々の闘士型軍人を思い浮かべるでしょうが、マクマスターを有名にしたのは、むしろ2005年のシリアのことでした。
その時彼は、シリア国境の人口25万のイラク・タル・アファー市内で対ゲリラ戦を指揮していました。階級は既に中佐で、第三装甲騎兵連隊長でした。
この街でゲリラは、対米協力者と見なしたイラク市民を斬首するという、無差別殺戮をしており、完全な無法が支配する地域と化していました。
このゲリラはイスラム過激派で、サウジ、リビア、シリアから流入していました。
警察はとうに機能せず、警察署長以下制服を脱いで隠れている有り様だったそうです。
マクマスターは住民すべてをゲリラ勢力と見なさずに、住民保護を徹底し、むしろ住民サイドからゲリラ情報が入ってくるコミュニケーションを確立しました。
これは当時イラクで米軍がとっていた、ムスリムをすべて敵対視し、モスクにまで軍用犬を入れるといった「文明の対決」型姿勢と対照的でした。
この地道な住民保護とイスラムを敵にしないという方針が実って、タル・アファー市は解放されます。
なお、米軍はこの解放作戦により、150名の死傷者を出しています。
そしてその後のイラク駐留軍の連隊長時に、彼はこのような命令を発します。
ひとつ、抑留した敵戦闘員は人道的に処遇する。
二つ、ムスリムを侮辱した言動を吐いた者は厳罰に処する。
三つ、イラク人とムスリムは味方である。
ジェームス・マティス
実はこの姿勢は、ジェームス・マティス国防長官(元海兵隊大将)とまったく同じです。
マティスも同時期イラクにいましたが、このようなことを兵士に命じています。
ジェームズ・マティス - Wikipedia
「第1海兵師団の将兵に「君たちがイラク市民に対して怒りや嫌悪を示すことが、即ち、アルカーイダや他のならず者たちの勝利となってしまうことを忘れるな。"whenever you show anger or disgust toward civilians, it's a victory for al-Qaeda and other insurgents"」
実は、このマティスとマクマスターのイスラム教徒に対する姿勢は、SIG(戦略イニシアチブ・グループ)の首席戦略官のステーブン・バノン氏やゴルカ次席補佐官の思想とはまったく異質です。
バノンは「極右の火炎放射器」というオドロオドロしたニックネームで有名ですが、私からみてもこりゃ極右の差別主義者だというお人柄です。
トランプという人物がよく分からないのは、このようなイスラム・テロリストとの実際の戦闘を熟知した良識派軍人を一方で要職に据え、一方でハチャメチャな極右を側近に置くことです。
不思議なバランス感覚としかいいようがありませんが、マクマスターが補佐官として大統領に意見を具申するには、このバノンと一戦を交えつつ、NSC(国家安全保障会議)の事務局を押さえねばなりません。
おそらくマクマスターにとって、イラクの戦場よりも熾烈な戦いになると思われます。
なお、マクマスターは歴史学博士のタイトルを持っており、"Dereliction of Duty"(責任放棄)という著作もあります。
菊地茂雄「「アドバイザー」としての軍人」(防衛省防衛研究所)によれば、この本の中でマクマスターはベトナム戦争の敗北原因に、軍人が適格な進言をせず「もの言わぬ軍人」となってしまっていたことを上げています。
「ベトナムの複雑な状況にジョンソン政権が十分対処できなかった原因は、大統領による短期的な国内政治上の目標の追求、大統領の人柄、大統領の相談相手のシビリアンと軍人の性格にある。
ジョンソン大統領が助言を得るためのシステムは、合意の形成と、不利なリークの防止を目的として組織されていた。
大統領はきわめて自信に欠け、側近のシビリアンしか信用しなかったので、(略)国の『第一の軍事顧問』と法律で定められている組織(訳注・統合参謀本部)の有効な軍事的助言を得ることなく、国が戦争へ向かうという、奇妙な状況が生じた」
(静岡県立大学グローバル地域センター特任助教・西恭之氏による)
この一文の中のジョンソン大統領を、トランプに読み替えてみるといいでしょう。
トランプはかつての副大統領から急遽大統領職に就いたジョンソン同様、強気の後ろに自身のなさを隠しています。
それは過剰ともみえる安倍氏への歓待にもかいま見られます。
そしてバノンのような、危険な民間人を側近に置いています。
またトランプは既成の情報機関と対立しており、耳を傾けようとしないとも聞きます。
今のトランプを落ち着かせ、穏健な軌道に乗せるにはマティスやマクマスター、あるいは「第一の軍事顧問」(統合幕僚本部)の「もの言う軍人」たちが絶対的に必要なのです。
なお統合幕僚本部議長のダイフォードもまた、バランスの取れた良識派だとされています。
マクマスターがこのしんどい職を受諾したのは、かつて自分が指摘したジョンソン大統領の政策決定プロセスの欠陥と同様の兆候がトランプ政権に現れていることを見てとったからでしょう。
マクマスターは、大統領には「もの言う軍人」の正確な助言が必要で、嘘を聞きたいために軍人を側近にするなと書いています。
また、トランプはイヤな顔をするでしょうが、大統領は政策の失敗の責任をマスコミに転嫁するなとも書いています。
もし、マクマスターが今までの剛直な生き方をホワイトハウスで貫くならば、大変にまともなトランプ政権の良識的頭脳が誕生したと評価できるのではないでしょうか。
ぜひ「もの言う軍人」となっていただきたいものです。
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コメント
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軍人というだけでアレルギーが出るのは記事を書く人次第ですが、軍人=戦争屋というステレオタイプでしか見られない人は哀れに思います。
日本にだって「反戦自衛官」の肩書きで極左のスターになった(その後左翼の内ゲバで命狙われたとか)人もいたくらいなのに、何でそんなことくらいわからんのかねえ。私には意図的な歪曲にしか見えません。
軍人(特に将官)ってのは、イザとなったらどう勝つかだけど、まずは「いかにして戦闘突入を避けるか」があくまで第一義です。
むしろ、軍出身ではないアメリカ大統領が近代にどれほどいるのかという・・・
トランプさんは不動産屋さんですから、当然軍人上がりを重鎮に多く据えるのは当然かと。
投稿: 山形 | 2017年2月25日 (土) 07時06分
追記失礼。
リンデン・ジョンソンはJFKがおっ始めたベトナム戦争最中に暗殺されてイキナリ引き継ぎになった上に、助言者があくまで商人であり経営者の軍事音痴マクナマラだったというのが悲劇だったと思います。
投稿: 山形 | 2017年2月25日 (土) 07時14分
なにを言ってるのか全くわからん。 なんとなくあっち系の人とはわかる。
投稿: イミフ | 2017年2月25日 (土) 11時47分
どうしてベトナム戦争の話が出てくるの?
投稿: miwa | 2017年2月25日 (土) 12時24分
リンクにあるマクちゃんの来歴とか読んでみると山形さんのコメントも合わせてわかりますよ。
投稿: ふゆみ | 2017年2月25日 (土) 12時37分
マクマスターのWikiからマクナマラの来歴にも飛べますので、世代も信条も違うWマクちゃんを両方ざっと読めます。
米国の戦略パターンをざっとおさらいしながら今朝の記事を読むと、何が良識なのか、ウチらが米国、米軍、と聞いてホワホワ思い浮かべる時の実像とのギャップチェックもできて大変勉強になります。
投稿: ふゆみ | 2017年2月25日 (土) 12時44分
イミフさん。
なんとなくあっち系という定義を詳しく教えて下さい。自ら全くわからんと言いながらそれはどういうことなのでしょうか?
miwaさん。
記事本文のトランプとジョンソン政権時代の比較の例として挙げただけですが、歴史に学ぶということを知らずにわざわざそんな茶々入れ一行を書き込んでおられるのでしょうか。お相手いたしかねます。悪い言葉使いだと、一昨日きやがれ!?ですよ。
投稿: 山形 | 2017年2月25日 (土) 13時17分
miwaとイミフは同一人物です。二重のHNを使っていますが「山本」のIPに似ています。
この多重HNの書き方も「山本」の一行ディスと同じでうんざりします。
自分の読解力がないのを棚に上げてけちつけしているだけで、そうとうにはずかしい。
いちおう答えておくと、ベトナムがでてくるのはマクマスターの著作にあるからです。
その本については、記事に書きましたが、大統領の意志決定構造と民間人側近、そして軍人との関係が大事だとマクマスターは考えているのです。
このジョンソンの図式は今のトランプが抱えている図式と酷似していることを指摘しました。
投稿: 管理人 | 2017年2月25日 (土) 16時02分
宗教と同じくらい意味がわからない、別に茶々を入れる気はないがわからないものはわからない、
箇条書きにしてくれたほうがわかるかも
投稿: miwa | 2017年2月25日 (土) 19時05分
WSJの2/22付けの記事によれば、スパイサー報道官の談話として、
「国家安全保障補佐官が、スティーブ・バノン主席戦略官を国家安全保障会議(NSC)の主要メンバーから外す事を希望すれば、大統領は「真剣に検討する」意向を示している」との事です。
このような大統領の大きな変化は、米大手マスコミではWSJ以外からでは伺い知れません。
日本国内の未熟な報道からでは、なおさらの事ですね。
山形さんのベトナム戦争時のロバート・マクナマラ氏を取り上げた例示は、分かりやすく極めて適切なものと思いますね。
私は山形氏のコメントにより詳らかに思い出しましたし、膝を打って得心しましたね。
当時ベトナムでの戦線を拡大した張本人はマクナマラ氏であり、一般論としても軍人よりもシビリアン(文官)の決定こそが開戦を決断し、戦線を拡大して来た事例が多い事は既に証明されているのではないでしょうか。
山形氏の言説は(賛否関係なく)記事の趣旨にも合致しており、記事内容をさらに分かりやすく補強するものだったと思います。
イミフ氏や miwa氏のように、文意をあえて理解しようとしない姿勢は、この場にそぐわず好ましくないと考えます。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2017年2月25日 (土) 19時09分
>文官)の決定こそが開戦を決断し、戦線を拡大して来た事例が
ベトナム戦争は文民の反戦運動が影響してるんだよ。
投稿: miwa | 2017年2月25日 (土) 19時31分
理解しようとしない輩は放っときましょう( ̄▽ ̄)
投稿: やもり | 2017年2月25日 (土) 20時46分
トランプ大統領は理想を追い求めています。
リーダーはそれでいいと思います。別に綺麗な言葉を使う必要もない。確固たる信念があれば良い。
私は滝沢馬琴の南総里見八犬伝が好きです。幼いころ、そうですね日本にテレビが普及し始めた頃、街頭テレビで見たと思います。信念のリーダーの下に8人の個性のある男たちが居ればことは成し遂げることができます。
トランプ大統領の下に、何人かはいますがまだ8人はいません。ですからまだ危うさは感じます。
8人が揃い踏みしたとき、アメリカは再び世界のリーダーになりえますね。その点安倍内閣は近年にない優れた人材が揃ったと思います。
追伸です。
私が幼いころ見たテレビは見るものがありました。
少年探偵団、七色仮面、怪傑ハリマオ、笛吹童子などなど。おかげで私たちは日本人らしい道徳観を養いました。でも今のテレビは見るものが無いですね。テレビがその役目を放棄したと私は思っています。
投稿: karakuchi | 2017年2月26日 (日) 01時02分