北朝鮮ミサイル発射 なぜ、米中首脳会議の直前に撃ったのか?
「北朝鮮は、本日6時42分頃、北朝鮮東岸の新浦(シンポ)付近から、1発の弾道ミサイルを北東方向に発射した模様です。発射された弾道ミサイルは、約60㎞飛翔し、北朝鮮の東岸沖に落下したものと推定されます」
防衛省北朝鮮による弾道ミサイルの発射について(第2報)4月5日
技術的解説が面倒な方は、3枚下の写真の下からお読みください。
ミサイルは米太平洋軍によればKN-15・「北極星2号」中距離弾道ミサイル(MRBM)で、水中発射型弾道ミサイルを陸上配備型に転用したものです。
”Initial assessments indicate that the type of missile was a KN-15 medium-range ballistic missile (MRBM)”.
U.S. Pacific Command Detects, Tracks North Korean Missile Launch
スカッドERとの説もあります。※追記 米国防総省は、スカッドERの失敗と発表しました。
今回の特徴は、ほぼ垂直に打ち上げられていてロフテッド軌道を使用しています。
迂遠なようですが、まずはロフテッド軌道を押さえておきます。
「弾道ミサイルの打ち上げ方法のうち、通常よりも角度を上げて高く打ち上げる方法。
ロフテッド軌道で打ち上げられるミサイルは高高度に到達してから落下するように着弾する。飛行距離は通常ほど延びない代わりに着弾間際の速度が速く迎撃されにくいとされる」
ロフテッド軌道とは - 新語時事用語辞典 Weblio辞書
ロフテッド軌道
韓国・聯合ニュースによると、ミサイルは9分間飛翔し、60km先の日本海へ落下、最高高度は189kmだと推定されています。
ロフテッド軌道によってあえて高く打ち上げて飛距離を減じた代わりに、迎撃しにくい発射方法を選んだことになります。
昨日のテレビでは武貞氏が例によって、今日の米中首脳会談を牽制したとの見方を語っていましたが、半分は当たっていますが、半分は違うと思います。
そもそもこの北極星2号の技術を供与したのは、他ならぬ中国です。
短期間に新型ロケットエンジンを完成させ、「重ICBM」と呼ばれる米国攻撃の手段を与えた背景にも中国がいます。
そうでなくては、どうしてあれだけ短期間に極めて困難だとされる大陸間弾道ミサイルが完成できるのか、説明がつきません。
重ICBMとは、日本のH2に等しいロケットなのです。しかも再突入技術の部分だけとれば、わが国より「進歩」しています。
いいですか。日本ですらH2の打ち上げを失敗して、数年に渡る苦汁を呑んだのです。
「下町ロケット」でも描かれていたような、膨大な部品のひとつひとつに徹底した品質管理が要求される、それが重ICBM(※)なのです。
※重ミサイル(heavy missile): 大型ペイロードを持つミサイルの分類で、SALT-II条約では 旧ソ連のSS-19よりも大きいペイロードを持つミサイルと定義された。現在まで重 ミサイル(重ICBM)に指定されたのはロシアのSS-18のみ。
ミサイルは多くの軍事技術がそうであるように、現代科学技術の粋です。
全体のシステム設計、部品設計、冶金技術、エンジン設計、そして精密加工技術などあまりに越えねばならないハードルが高いので、世界でそれを製造できる国は米露中ユーロ、そしてわが国しかありません。
どのように考えても、満足な車一台も国産できないような北朝鮮に可能だとは思えません。
先だっても書きましたが、私はかねては北朝鮮が初代の遺訓に沿って「主体思想」で動いていると見ていましたが、今は大きく変質したと考えています。
主体思想とは、要は大国の意志には左右されない主体性を持った国家づくりという理念で、キムイルソンは中ソを手玉に取るようにして国際政治を泳ぎ渡りました。
三代目は、中国と強い繋がりを持つことによって、一種の「共犯関係」にあると考えています。
北朝鮮と中国が、実は共犯関係ではないかという見方が、私の中で確信に近いものに変わったのは、金正男暗殺から4発同時発射までの、北朝鮮と中国の蜜月ぶりを見たからです。
金正男暗殺直後、2月28日から3月4日まで北朝鮮の外交トップである李吉聖が北京を訪問し王毅外相と会談しました。
李の帰国後わずか2日後に、北朝鮮は「日本の米軍基地を標的とする」と公言して、4発のミサイルを日本へ向けて同時発射をしました。
これはなにを意味するのでしょうか。
中国は正男を保護する意志はとうにない、むしろ消えてくれたほうがよかった、なぜならもう北朝鮮の内政に介入する意志はないからです。
そして対外的には北朝鮮を慰撫できる唯一の存在として、中国は自らを「高く売れる」と考えているからです。
北朝鮮が暴れれば暴れるほど、中国にとっては自らの価値が光るという思惑です。
おそらく、中国にとっての最良のモデルは、かつての6カ国協議の枠組みの再現です。
六者会合 - Wikipedia
中国は自国が強いイニシアチブを持つ6カ国協議の構図を再現することで、トランプ政権の軍事オプションを抑え、かつ北朝鮮を自らのコントロール下に置くことを考えています。
6カ国協議が破綻して後、その再現のためには、あえて北朝鮮の暴走を止めるどころか、技術供与し、より「高く売る」必要があったのです。
そのために最後の切り札である、重ICBMの技術まであえて供与をしたのではないでしょうか。
今回も私の推測が当たっているなら、あえて米中首脳会談前に「撃たせた」のです。
中国は米国が軍事オプションを取りたくない腹を読んでいますが、同時にトランプなら分からないという一抹の不安は残っているはずです。
だから、ここで北朝鮮にダメを押させたのです。
習は会談でトランプに、北朝鮮が攻撃を受けた場合に起こり得る反撃の規模と内容を知らせるでしょう。
日韓に対する核攻撃、ソウル炎上、毒ガス散布、テロリストによる原発・石油ターミナルの破壊、サイバー攻撃などなど・・・、地獄の釜の蓋を開けたようなメニューが並んでいるはずです。
だから、習さんがうまくやるからまぁまぁ、ということです。
というわけで、習の腹はなんとなくわかるのですが、同盟国たるトランプ米国の意志がわかりません(苦笑)。
いずれにせよ、今日の米中会談は「新6カ国協議」の場に持ち込もうとする中国と、そうはさせまいとする米国との綱引きになるような気がします。
とまれ、朝鮮戦争集結後、最大の危機が訪れようとしています。
« 北朝鮮危機 大陸間弾道ミサイルに大手をかけた金正恩 | トップページ | 北朝鮮危機 正恩の恐怖を凍結してやるための交渉 »
コメント
« 北朝鮮危機 大陸間弾道ミサイルに大手をかけた金正恩 | トップページ | 北朝鮮危機 正恩の恐怖を凍結してやるための交渉 »
大量破壊兵器が使われる朝鮮戦争の再開が止まれば良いですね。しかし、中国の海洋進出問題に加えて、この先永遠に北朝鮮の核の威嚇と共生していかないといけない社会は日本にはストレスです。このストレスは日々の報道を通じて多くの国民に直接的にストレスを与え続けています。過度の煽り報道は控えるか、根本処置を断行するかしなければ国民の精神に害が蓄積するので共生ではなく解決したい問題ではあります。
習近平の狙いは、北朝鮮を使って自国の存在価値を高めるステージから一歩模索を進めた気がします。今回の会談で習近平の出方次第ではトランプは刀を抜かざるを得ない状況に追い込む事が容易に出来る状況です。北朝鮮攻撃で一番のテーマになるのはその後始末ではないでしょうか。
中国は海洋進出の一環として北朝鮮を自国の自治区のような曖昧な場所にしてしまおうとしているのでは無いでしょうか。
トランプは拙速さが強みでもあり弱みでもあるのでまんまと中国4千年の策にハマってしまう気がします。長文となってしまいましたが、容赦ください。
投稿: イチロー | 2017年4月 6日 (木) 06時53分
正恩が正男を殺害する事を中共は「容認」したのでしたね。
しかし、その前にそもそも中共が弾道ミサイル技術の供与をしている事は明らか。
石平氏は、「正男殺害容認」は正恩氏への中共の「正式な地位承認」行為であり、李次官の訪中と4発同時発射の関係は明白で、その意味は中共側からすれば「中共会談の早期の実現をうながすため」と解説してました。
そのとおり、その後速やかに会談日程が発表されました。
どっちにしても中朝関係は一種の「共犯関係」であるとのブログ主様の見立てで、これからの事実も追うべきのようです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2017年4月 6日 (木) 08時11分
上でイチローさんが言うように、トランプ政権の欠点である「拙速さ」を引き出すべく中共は動いている感じもします。
現在でもまだトランプ政権の移行はうまく行っておらず、国務省職員の欠員が1000人以上だとか。
そうすると、中共は米側の専制攻撃をむしろ誘発させるように仕向けていて、トランプは攻撃自体には成功しても、その後の処理に支障を来す事になるとの見方多く、中共はそこを狙っているかも知れませんね。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2017年4月 6日 (木) 08時44分
中国が頑なになれば、アメリカ単独のミサイル基地攻撃+斬首作戦の可能性が上がるでしょうね。
アメリカにとって、北朝鮮にICBM持たせること自体は何があっても許せないという安全保障面と、トランプ政権の内政面での停滞の打開という内政面の動機が高まるからです。
しかも大統領の意志というより、アメリカという軍産共同体国家にとって、オバマ政権の8年は抑圧されていたので、たまった不満が爆発する可能性もあります。
駐韓大使の帰任もそういうリスクの高まりに対応したものでしょう。安倍政権は日本の政権にめずらしく、邦人保護に積極的ですし、一部不評なものでも必要と判断すれば断乎として実行します。
半島有事は起きてほしくはないのですが、さすがに危険な挑発行為が止まない以上、リスクはどんどん上がっていると考えておくべきで、巻き添えでミサイル飽和攻撃が来る可能性もそれほど低くないでしょう。やけくそになった時の攻撃は、韓国じゃなく日本に向けられるでしょうから。
投稿: ednakano | 2017年4月 6日 (木) 08時47分
日本が受けている隣国ストレスのうち5割以上は自衛できないという日本国憲法の問題です。
改憲重武装しても侵略しないという実績を何年も経る事で、受け身である故のストレスから解放されます。自分達が引いた国境ラインの外側には利害も価値観の違う者が住み続けて当然なのですから。
今のミサイル危機で戦闘が起こらなかったとして、半島は南の大統領が就任した頃電撃統一もありそうです。実際は北による乗っ取りに近い形で中共の傘下に入り米軍は日本まで引く。
私はトランプと米軍は日韓どちらかに北の攻撃がない限り攻撃はしないと予想しています。
でも、高い確率で攻撃があると思っています。
米軍にとって日本の基地はなくてはならないメンテナンス場ですが、激動の末に日本がたまさか中共側に今のポテンシャルのまま寝返る事があるくらいなら日本の何箇所かが火の海になる方がマシだと思うはずです。
ednakanoさんが近いことを書いておられると思うのですが、今回米軍は戦争をしようとしているという事が、これまでの半島危機と違うのだと私も思います。
管理人さんや皆さんのように上手く書けないのですが、先制攻撃を米軍が担当するのか、中共が北にやらせるのか、会談後には見えてくるはずですね。実は1番何もしてないのは日本人!
投稿: ふゆみ | 2017年4月 6日 (木) 12時43分
ブログ主さんのおっしゃる通り中国との共犯関係…確かに納得です。
金正恩が就任早々幹部の粛清を行って中国とのパイプが無くなったかに思えましたが、やはり中国はしたたかで対米になると独裁者とも手を結ぶということでしょうか。
これだけ緊張しているのに政情不安な韓国も、情報を遮断して引きこもる北朝鮮も結局は大国の思惑に利用されているのですね。国連の意義も甚だ疑問です。
トランプ政権は支持率が低下して、フリン氏の対ロシア関係の情報が世に広まれば一気に軍事へ舵をとる可能性も否定できないと考えます。事実在韓米軍の家族が避難を始めたという話も聞きます。
それだけ各国の情勢が絡みあっているので一国の猶予も許されない中で日本はどうすれば良いのか。
ミサイル防衛は脆弱で仮に米国が軍事行動を起こした際の難民が大挙する可能性など、たらればを言ってもしょうがありませんが、やはりもっと早く国策を練る必要があったのではないでしょうか。
そもそも国民自身が危機感を共有できていない現状にウンザリします。
イチローさんや山路さんの言うように刻々と変わる情勢を追いかける必要があると思います。
投稿: cyzer | 2017年4月 6日 (木) 13時02分
今日の記事、大変に説得性があります。
日本も先端軍事技術への投資を急ぐべきだと思います。中国や北朝鮮ごときに遅れをとってはいけませんよ。国防費の大幅な増額をしなければいけませんね。
中国と北朝鮮はやはり裏で繋がっていたんだ。
投稿: ueyonabaru | 2017年4月 6日 (木) 14時19分