要注意 5月15日から北朝鮮の「田植え戦闘」が始まります。
北朝鮮について書かれているのを読むと、なんだかなぁと思うことがいくつもありますが、そのひとつに、北朝鮮農業について触れられた論考がほぼ皆無に等しいことです。
ほとんど日本では省みられていないことで、デーリーNKなどが現地からの声を細々と伝えるに止まっています。
私は自分の専門柄、どうしても 農業に眼が行きます。私はその国の農業を見れば、国柄が分かるというのが持論なのです。
特に今の田植えシーズンに北朝鮮農民諸君はどうしているのか、と複雑な心境になることもままあります。
前にも一度書きましたが、この5月の田植えシーズンと8月の稲刈りシーズンに政治的緊張を高めてしまうと、食物生産がフイになります。
それは北朝鮮が「田植え戦闘」というヘンなことを兵隊にやらしているからで、お前らのメシは自分でまかなえやということのようです。
なんせ、兵隊だけで137万9千人もいますからね。わずか2516万人の人口の国ですから、うちの国の比率に換算するとなんと自衛隊員が650万もいる勘定となります。
正恩、あんたは馬鹿か。 そんなに大量の若い労働者を生産部門から奪ったら、国はどうなるんです。
もちろんこんな馬鹿げたまねができるのは、17歳から30歳までを徴兵で取るからです。
「北朝鮮がまもなく改正発表する予定の「軍事服務法」には、女性の義務兵役制の導入だけでなく、軍服務期間を男性は10年から11年に、女性は6年から7年にそれぞれ増やす内容も含まれているという。」(東亜日報2014年9月20日)http://japanese.donga.com/List/3/all/27/426058/1
有事ではなく、平時にこのような動員をかければ、大戦中の日本のように農村や工場から青年が姿を消します。
もっとも馬力があり、将来の技能を蓄積すべき年代を奪うことが、いかにその国の力を削ぐのかは、先の大戦末期にイヤというほど日本人は身に沁みています。
日本が野党の皆さんの期待も虚しく徴兵制をとらないのは、兵器システムの高度化だけではなく、この一生のうちでもっとも有為な年代をゴッソリ奪うということが国力を削ぐことを知っているからです。
逆に言えば、130万もの青年層を、国民が食糧生産から引き離しているわけですから、罪が深い。
おそらく機械化が極度に遅れている北朝鮮の農業現場では、深刻な労働力不足が恒常化しているはずです。
それは翻って兵士層の飢えも深刻化しています。
「金正日政権は、軍隊を最優先にし、軍隊を中心に体制運営をして行こうという「先軍政治」を掲げていた。金正恩氏を後継者に決めた新体制も、この「先軍路線」の継承をするとしているが、肝心の兵士たちが飢えに苦しんでいる。軍隊に栄養失調が蔓延しているというのは20年以上も前から指摘されてきたことであり、その証言と報告は枚挙にいとまがない。北朝鮮では「軍に入隊することは飢えること」というのが社会常識になっている。(略)
人民軍兵士たちを撮った写真を見ていただきたい。窪んだ目は虚ろで、焦点も定まらないように見える。頬骨は浮き出て、細い首で何とか支えている頭は、彼らには重過ぎるように見える。軍服はぶかぶかだ。何人かはすっかり虚脱してしまい、うつむいたまま全く動かない者もいる」(アジアプレス・ネットワーク 下写真も)http://www.asiapress.org/apn/author-list/ishimaru-jiro/1_85/
ですから、軍内部で畑や養豚をしたり、田植えや稲刈りには総出でゴッソリと「支援」にかけつけます。
これが世に名高い「田植え戦闘」という奴です。
上の「田植え戦闘」の写真を見ると、ものすごい人力動員ですね。信じられないくらいに労働力を突っ込んでいます。
日本で1mに3人入って、横一列で植えるなどということをプロ農家はぜったいにしません。
まぁ、学童の田植え体験ならするかもな。
「田植え戦闘」とやらの写真を見ると、腰つき手つきまったくズブの素人です。たぶん都市の事務職の動員でしょうね。
日本なら産直交流のひとこまで、夕方うまいビールを飲もうで済みますが、この人たちにとって田植えはなにぶん「戦闘」ですから・・・。
日本の学童が食育でするようなことを、彼らは「苦難の行軍」とか、「田植え戦闘」とか言って1カ月間もしているのですから、痛ましいというか馬鹿馬鹿しいというか。
農業じゃありませんね。こんなもの。
下が日本の田植え風景ですので、比べて見てください。日本では手植えはもはや消費者交流で一部残るのみで、ゼロといっていいでしょう。
おそらく北朝鮮数十人分の仕事を、日本の田植機は半日でしてみせるでしょう。
例年この時期になると、北朝鮮は都市部の青年にも動員をかけます。
「北朝鮮で「田植え戦闘」の季節がやってきた。田植え戦闘とは、北朝鮮国民が、農業生産量を高めるために農作業に総動員される毎年恒例の行事だが、住民にとっては非常に厄介な行事の一つだ。(略)
北朝鮮当局は、5月15日からの1ヶ月間を「農村支援戦闘期間」に定め、全国の高等中学校(高校)と大学を休校とし、学生を農村支援に向かわせている。」(デイリーNK2016年05月29日)http://dailynk.jp/archives/67769
5月15日から1カ月間というと、さぁそろそろですね。
デイリーNKの編集長の高英起氏によれば、2013年の緊張の時も、5月15日に田植え戦闘の開始が報じられると、ほっとした空気が韓国民に流れたそうです。
北朝鮮は、日本のよう稚苗を機械植えしているわけではなく、機械化の極度の遅れもさることながら、今も北朝鮮が使っているコメの品種が日本の置き土産だからです。
戦前の北部朝鮮地域では、日本の農事試験場が作った冷害に強い品種「陸羽132号」を使っていました。
当時の日本でも「陸羽132号」はもっとも冷害に強く美味な品種でした。これを惜しげもなく、日本は朝鮮に投入していたことがわかります。
「「陸羽132号」は、「亀の尾」よりも冷害に強く、1934、35年(昭和9、10年)の東北地方の大凶作を救いました。その後、作付面積を急速に伸ばし、東北6県を含めた全国16の県で奨励品種に指定され、1929年から52年までの24年間、東北地方で作付面積1位の座を保ち続けました。」(「陸羽132号の子供たち」)rikuu132.pdf
台湾における八田与一技師は、水利灌漑システムを整備し、常に安定した収穫ができる基盤を作っています。
このように日本はその「植民地」経営においてヨーロッパ型の収奪経営ではなく、日本農業の最良の技術を持ち込んで生産インフラづくりから始めています。
なお、日本においては「陸羽132号」はこしひかり、ササニシキ、ひとめぼれなどに受け継がれて、今なお品種改良が続けられていきました。
一方、北朝鮮においては、愚かな農業知らずの指導者のためにその進化の歩みは戦前のままのようです。
「陸羽132号」は稚苗では冷害に弱いために、成苗植えを奨励していたといいます。
戦後「主体農業」がこれを一新したとは思えない以上、連綿と日本の70年前の遺産を食い潰していると思われます。
田植え時期をトウモロコシとズラしたりする改革は行われたと聞きますが、コメの品種改良がされたという情報は寡聞にして聞きません。
成苗を機械植えすることは、できなくもありませんが、日本においても特殊な田植機が必要です。
ですから、北朝鮮は根が切れないようにそっと苗床から取り、手作業で田植えをせねばならなくなります。
これがこの田植え時期に、全国の労働力を農村に集中せねばならない理由です。
さぁ、再来週からの北朝鮮中央通信が、例年のように元気よく「田植え戦闘」を報じるか注意しましょう。
それが報じられれば、なんらかの妥協が計られた可能性も浮上します。
いずれにしても、この国を農業の眼じ判定すれば、「絶望国家」という以外ありません。
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北朝鮮は「共産主義の本義」すら、失ってしまって久しいですね。
「サイン」は見逃さないようにしましょう。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2017年5月 6日 (土) 07時45分
「田植戦闘」から状況を推察するという手法、とても有効な手法だと思います。マスコミは見逃しているのかもしれません。
防衛省出身の平松という軍事評論家でしたか、定点観測のような手法で情勢分析をして評価されている方がおりますが、それに似たものだと思います。
投稿: ueyonabaru | 2017年5月 6日 (土) 08時35分
陸羽132号とは、ササニシキの親ですね?
ゴールデンウィークで東北は桜に青葉に春スキーとか各種イベントが全国放送で流れてますけど、県内だと早めの庄内平野では一家総出で田植えの真っ最中です。
投稿: 山形 | 2017年5月 6日 (土) 09時15分
たしかコシヒカリの親では。まあコシとササもまたイトコ位の親戚筋?
この手植えは厳しすぎますね…そして日本の水田のようにどれもがたわわに実った緑の絨毯のようにはならないような気がします。
ともかく今年も田植え戦線異常なしで植えるのか、注視ですね。
農民国民が飢えるのは可哀想なのですが、たとえ人道支援したとしても一切その者たちに還元されないのが分かっているだけに、古いトラクターとか新しい品種や技術支援などもためらわれます。
投稿: ふゆみ | 2017年5月 6日 (土) 09時33分
改めてちょっと見てみたら、偉大なる「亀の尾」の品種改良型でササニシキのひい爺ちゃんでコシヒカリの爺ちゃんですね!
今でも酒米に使われてます。
当時日本支配下の朝鮮にそんな最新品種を持ち込んでいたのですから、いかに当時の日本政府が「対中国・対ロシア・対欧米」に対して本気だったのかが想われますね。
そして戦後全く進歩のないまま真っ暗な北朝鮮に、フィリピンで反収500キロを達成して「我々がアジアの飢餓を救った」等と記事にする南朝鮮メディアとか・・・タメ息しか出ませんね。
投稿: 山形 | 2017年5月 6日 (土) 09時42分
なんか連投になってしまいすいません。
ふゆみさん。それね。
直接支援しようが間接的な支援をしようが、連中は特別階級と軍にしかブツを回しませんし、灌漑設備管理や森林保全なんか全くしませんから、庶民には全く恩恵がありません。
確実に末端に行き渡るのならば、耐冷害品種で多収で食味抜群の「はえぬき」を是非とも進呈したいくらいですよ。。
学生時代にササニシキの田植えやりましたけど、トラクターと六条植え田植え機があれば1時間で済む面積で、30人がかりで半日かかりましたわ!
投稿: 山形 | 2017年5月 6日 (土) 09時54分
今日は、管理人さんの本記事に画像と図解、山形さんのコメント説明で一粒で二度おいしい気分になりました^^。
投稿: やもり | 2017年5月 6日 (土) 18時48分
八田与一は台湾でダムをつくったことでも有名ですよね。最近台湾で八田与一の像が破壊されたのは日本人として悲しかったです。蒋介石の像も破壊されたというので大陸から来た観光客でしょうね
投稿: 中華三振 | 2017年5月 6日 (土) 21時24分
内地のスーパーでニンニクを買おうとしたところ
青森産は1塊190円で
スペイン産は1塊120円
中国産は3塊ネットに入って100円弱でした。
今回のコメの記事は日本の農業って進んでるなと思いつつ、それでも海外の輸入ニンニクより高いってどうなの?って思った次第です。
コメは主食だから、コメだけ効率よくやってるって事なんでしょうかね?
北朝鮮の食糧事情は食糧事情として興味深いですが、日本の農業の未来についても考えさせられました。
投稿: かつて(以下略)… | 2017年5月 7日 (日) 02時55分
かつて(以下略)…さん。
日本農業の高コスト体質や関税問題、MA米等々こちらのブログでの「日本の農業問題」カテゴリーからかなり沢山読めます。
ブログ主さんが何故TPP反対から転向したのかもよく解ります。
それにしても本来が農業ブログだったはずが・・・震災と原発事故ですっかり様変わりしてしまって、同カテゴリー記事が極めて少なくなってしまいましたねぇ。。
投稿: 山形 | 2017年5月 7日 (日) 06時12分
山形さん、韓国を南朝鮮と呼ぶのはやめたほうがいいと思いますよ。韓国が嫌いな気持ちはよーくわかりますが笑 東アジアで韓国を南朝鮮と呼んでいるのは北朝鮮とネトウヨとかつての日本共産党ぐらいかと
投稿: 中華三振 | 2017年5月 7日 (日) 09時29分
中華三振さん。
失礼、失礼。
私が言ってたのは単純に38度線で分けた地理的なことです。
確かに印象悪かったですね。すいません。
私は右翼も左翼も大嫌いですけれども、さて、
韓国の大統領選挙どうなるやら・・・。
投稿: 山形 | 2017年5月 7日 (日) 10時12分
中華三振さん。
今更ですが、あなたの仰った
>韓国が嫌いな気持ちはよーくわかりますが笑
これはいったいなんですか?
私はそんなことを書いていませんけど。あちらのメディアにはイラッとさせられることはありますが。
韓国人の知り合いや、80年代に農家の嫁不足で韓国から迎えた人もたくさんいます。だからなんなんですかね?
貴方のような典型的な「レッテル貼り」をしては軽く「笑」などと付けるのはあまりにも失礼ではありませんでしょうかね。どうですか?
投稿: 山形 | 2017年5月 8日 (月) 08時47分
すみません。ここにいる人の多くは韓国が嫌いだと思っていたもんですから
投稿: 中華三振 | 2017年5月 8日 (月) 11時06分
中華三振さん、他の方はどうかわかりませんが、私はそんな風に「国」を嫌ったり好いたりましてやそれを発露したりしないです。
その国の政府の体制や動態、歴史背景による文化の違い、そしてその国のマジョリティの思考パターン。色々ありますし、価値観の共有は10%できたら十分近づけてる位。
距離感だけみてれば良いのにと、思うことしきりです。
投稿: ふゆみ | 2017年5月 8日 (月) 14時31分
中華三振さん。是々非々ですよ。
私は学生の時に在日の友人が2名いましたし、在日に関してはまさにその人を見るしかないでしょうね。
ただ国としての韓国となると国家間関係、民族間関係ですから、個人とは同列には扱えません。
それにしても、よくもまぁこれだけ嫌われることをするものであることよ、と感心はしますし、個人としては馬鹿じゃないかと思うこともしばしばあります。
しかし分析にさいしては感情を入れないことにしています。
あらかじめ「好き嫌い」で見ると、眼が曇りますからね。
といってもよもや「共通の脅威」である北朝鮮の暴走に際しても、あちらを向かずに、日本に悪罵ばかり投げるのを見ると、なんだかなぁ、です。
昨今は突き放しているってところでしょうか。勝手にしたらというのが、いまの私です。
ですから明日ムンが大統領になったら、かの国に対していっそう冷やかになることでしょうな。
といっても38度線を玄界灘にもってくるのは国益上願い下げですから、韓国の保守派に期待するしかないわけです。
ですから、いわゆる在特会系諸君のように、頭から韓国や在日を嫌悪する立場に私は立ちません。
むしろ彼らの差別的態度がいかに国益を損なっているか、いちどまじめに考えるべきでしょうね。
濃淡はありますが、ここの常連さんにはいわゆるネトウヨ的な人はいません。山形さんは口が悪いいだけです。
ふゆみさんがおっしゃったように、「(日韓の)価値観の共有1割。距離感を見よう」(うまい表現)あたりが平均値ではないでしょうか。
あ、そうそう。この投稿欄に民族差別的言辞を書き込むと一発レッドです。私は民族差別は大嫌いですから。
投稿: 管理人 | 2017年5月 8日 (月) 17時06分