北朝鮮農業 人災としての飢餓と水害多発
ムン・ジェインが当選したそうです。韓国国民は、北朝鮮の脅威が現実に頭上にある時に、「当選したらピョンヤンに駆けつける」という男を選んだわけです。
ぜひ、盧武鉉師匠がやり残した「夢」を実現してください。
願いましては、 戦時統制権返還、 在韓米軍追放、 財閥解体・財閥資産の国有化、 「高麗連邦」、そしてなにより日韓条約廃棄と、国交斬絶 。
韓国国民の皆さん、たいしたものです。首吊りの木の台を自分で蹴飛ばしてしまったのですから。まぁ、半年間は気がつかないのでしょうね。
北朝鮮と米国の秘密交渉が始まったという噂もありますから、これに親北派のムンが絡んで核実験さえしなければいい、弾道ミサイルも米国に届く長距離さえ撃たねばいいというような、妙に腰折れした妥協点が出てくる可能性が浮上してきたのが気がかりです。
いずれにしても軍事オプションは、ほぼなくなったとみるべきでしょう。
さて、本題に入ります。
先日来、北朝鮮を農業の眼で眺めてきました。北朝鮮でなにを注目すべきなのかと問われれば、私はためらいもなく農業だと答えるでしょう。
農業とひとことで言っても、食料生産高や輸入量も大事ですが、それ以上にこの国の為政者がなにをしたかったのか、なにに躓いたのかの足跡がはっきり残っているのが、北朝鮮農業だからです。
農業をただの食料生産部門として考えると、そこで止まってしまいます。
もう一歩深堀して、北朝鮮農業がどんな国土の形を作ってしまったのかを見れば、色々なことが見えてくるはずです。
北朝鮮の抱える内政上の病気はふたつあります。
慢性的な食糧難と水害です。
国民を食わせられない、天災から守れない、つまりは 国家が国家であるための基礎の基礎の部分が崩れているのです。
共に重病で、国民は常に飢餓線上、そして年中行事で「建国以来最大の水害」が見舞います。
上の写真は去年の大水害のものですが、8月29日から2日間の豪雨で、咸鏡北道一帯の洪水状況は、死者138人、行方不明400人、倒壊、流出家屋2万9800戸、被災者延べ14万人に登りました。
また破損した公共施設900棟、道路180か所、崩壊した橋60本以上、そして2万7440町歩(1町歩=約3000坪)の農耕地に浸水などの被害が出たといわれています。
これは特に例外的なことではありません。水害を年譜で追ってみましょう。
・2015年・・・経済特区の咸鏡北道・羅先市で洪水が発生。死者40人、被災者1万1000人を出し、公共施設99棟、鉄橋51か所が倒壊、流出、破損。
・2012年・・・6月から8月にかけて長期の水害が発生。死者300人、行方不明者600人、被災者29万8050人。倒壊、浸水した家屋は8万7280戸。※2016年水害より大型。
・2007年・・・8月から9月と連続して水害被害。8月中旬に平壌市、黄海北道、平安南道、江原道を中心に、死者・行方不明者600人。倒壊、浸水家屋24万戸、被災民は90万人。9月中旬の3日間の豪雨で家屋1万4000戸が浸水、13万町歩の農耕地が浸水。
平壌の浸水
・2005年・・・解放60周年記念。6月から8月の豪雨により死者・行方不明者500人。浸水家屋1万4千戸の被害。
・1995年・・・7月末から8月中旬の全国規模の豪雨と洪水により最大最悪の被害。農産物の被害約190万トン。国連機関に食糧支援を緊急要請。
日本は95年水害に際して、日本はコメ50万トン(無償15万、有償35万トン)と医療品50万ドルの緊急支援を行い、翌年から2年間で合計で8万2千トンのコメを援助しました。
また、2000年にもコメ60万トンを支援しています。総額約300億円を越える大型支援でしたが、未だ感謝の言葉のひとこともありません。
おっと、丁寧にテポドンでお礼がありましたっけね。 すごいね、コメのお礼の代わりにミサイルか(苦笑)。さすがだぞ、北朝鮮。
別のテーマなので詳述しませんが、北朝鮮はこの洪水被害まで外交カードに使います。
2007年には、核開発の査察を巡って米朝緊張が高まると、査察を受け入れるふりをしながら結局はチャブ台返しをしてみせました。
この時に使ったのが水害被害です。緊張を高めながら、一転して宥和のふりをしてみせ、テーブルにつくやいなや同情カードを出してきます。
<緊張⇒宥和⇒同情⇒うやむや>、このサイクルが北朝鮮の常套手段であることをお忘れなく。
おそらく今回も似たことを、考えていると思ったほうが無難です。
ムンはたぶん6カ国協議の再開と、北朝鮮への経済支援を率先して言い出すでしょう。
それはさておき、かつて10年ていどの間隔だった大水害が10年間隔からいまや3年にまで短縮されてきているのがわかります。
最大の原因は、金日成から始まる水利事業を放棄したまま、耕作地を無計画に拡げようとしたことにあります。
日本統治時代に作られた水豊ダムのような多目的ダムを継承しておきながら、北朝鮮は毎年恒例のようにして大水害を引き起こします。
この現地報告書があります。現地指導に入った在日農業技術者である李佑弘氏が著わした『暗愚の共和国』です。
この本は北朝鮮礼賛の空気が支配していた70年代に登場し、衝撃を与えました。
昨日の記事タイトルは、この勇気ある本を書かれた李氏へのリスペクトでつけさせて頂いたものです。
金日成は主食をコメの慢性的不作に業を煮やし、トウモロコシの大規模作付けを命じました。
北朝鮮で作付けされている品種は「平南6号」「キョンセン4号」「鴻恩11号」「銀千」「銀山5号」などですが、いずれも 私たちが食べるような甘いものではなく、飼料用トウモロコシのような食味を無視した品種です。
これを粉にして食べるわけですが、固めて米粒のようにしたオクサルのようなものまで、北朝鮮にはあります。
農業に無知な金日成が忘れていたことは、トウモロコシが痩せた荒れ地に向いていると思う勘違いをしたことです。もちろん素人にありがちな大間違いです。
トウモロコシは実は大飯ぐらいです。
世界最大のトウモロコシ産地の米国穀倉地帯は、もともと地下数mに及ぶ表土層と、地下に世界最大のオガララ帯水層を併せ持つという理想的条件を有していました。
オガララ帯水層 - Wikipedia
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2012/08/post-cccb.html
またトウモロコシは横に根を張らずに、垂直に下に根を伸ばします。
その結果、トウモロコシを連作すると、土壌の地味を吸いつくし、根が浅いために表土を保持する力がないので表土の流出を招きます。
つまりは金日成は、よりによって砂漠化に最適品種を選んでしまったということになります。
その上に金日成は生産量を急激に増やしたいために、ありとあらゆる土地にトウモロコシを植えるように命じました。
そもそもトウモロコシに手を伸ばしたのは、水利・灌漑の失敗によって水田が満足にできなかったからですが、それを解決せずにトウモロコシで食料危機を手当てしようとしたのです。
命じられた側はいわれる通りに、山の上までトウモロコシ畑を作って「ご覧ください、首領様。この壮大な風景を。人民は耕して天に昇るのでございます」みたいなことを言ったのでしょう。
下の写真がその典型例です。
土留めが不完全なまま開発されたトウモロコシ畑http://ameblo.jp/major-kim/theme2-10000059649.html
その上に生産量増大のために山間地の河川斜面にまでトウモロコシを植えたために、河岸が崩壊していきました。
その理由は簡単。段々畑は土留めせにゃならんのです。だから一気に段々畑はできんのですよ、首領様。
下の写真をよく見ると、なんの土留め措置もしていないまま川べりまで植えているのがわかります。
大雨が降った場合どのようなことになるのか容易に想像がつきます。
傾斜地に降った雨は急流となって、段々畑を崩壊させながら土砂流となって川に流れ込むことでしょう。
日本のミカン農家の段々畑を見ていただきましょう。
段々畑とはこういうふうに作るのです。畑の石を取り除きながら、それを石壁に積み上げて土留めとしていくという気の長い作業を日本の農家はしてきました。
ですから、日本の段々畑は大雨でも崩壊することはありません。農業にとって時間は友なのです。
こうやってガッチリと石壁を作るようにして、日本農家は傾斜地を耕地に変えていったのです。
それを省いて、金日成がやったような「全国土の段々畑化の速度戦」をしたために、国土は砂漠化し、いまや世界に冠たる「水害強国」となったのでした。
河川は川底が浅くなったために急流化し、元々治水など頭にない国土設計をしたために、ちょとした大雨でも堤が簡単に決壊し、田畑や人家を押し流します。
おまけに燃料のために「日帝国」時代の遺産だった山の木を乱伐したために裸山ばかりでしたから、もう目も当てられません。
わが国ならよくある程度の大雨のたびに大水害です。
まさに人災という以外、言いようがありません。
食料危機は旧ソ連圏からの石油無償援助という延命治療のチューブが切れたと同時に顕在化しました。
当時、同じように延命チューブを切られたキューバは、サトウキビの単品栽培から多品種の有機農業へと国策転換をしていきます。
私もキューバは訪れましたが、様々な問題は抱えていても「食う」ことは手離していないカリブの民は強かに生きていました。
しかしこれとてもフィデルが自らを神格化された一人独裁体制を作らなかったからこそ可能だったわけです。
北朝鮮は金一族が自らを「白頭山の血」として神格化することを国の基石に置いている以上、金日成が敷いた「暗愚の共和国」の道はどこまでも続くのでしょう。
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主要穀物の中でもトウモロコシの生産には特に多くの水が必要です。
原産地のアンデス山脈は極端な乾燥地ですが、主体農法のような密植をしてるわけではありません。
しかもろくに土留めもせずにぎっしりと。。上手くいくわけありません。
それにしても家畜用デントコーンばっかりですね。
試しに普通に茹でて食ってみたことがありますけど、私たちが普段食べているトウモロコシ(スウィートコーン)を想像してると『物凄く不味いです』。
投稿: 山形 | 2017年5月10日 (水) 07時28分
スウィートコーンは保存しづらいから乾燥させれば保存がきく品種にしてると思う。
投稿: さばっち | 2017年5月10日 (水) 09時01分
日本は生食やゆでて食べるスィートコーンがトウモロコシになっちゃったので、もう穀物というよりトマトやキュウリの様な仲間と考えるべきでしょうね。夜明け前に取らないと味が落ちるんですよ。
昔はトウモロコシを干して、挽いて使うので、軒先に保したりしてましたが、今は冷蔵や冷凍ですし。
原産地から、痩せた土地向きかと思いがちで、自分も誤解してました。
まあ、社会主義は農業を滅ぼすという管理人さんの指摘はまさにその通りです。
投稿: ednakano | 2017年5月10日 (水) 09時26分
>わが国ならよくある程度の大雨のたびに大水害です。
クラクラするようなトウモロコシ畑の写真ですね…。
日本の一気に降る際の降雨量も増えてはいますが、木が生えていても土砂崩れはあり、山や森の木がなかったらどうなるのか、こうなるんですね。
スイートコーンは水と肥料っ食いだと父も言っていました。我が家は父の作るもちきびが大好きで、甘くはないけれどもちもちした食感と、ご飯と炊き込んだ際の香りなども素晴らしいです。
あれは密植しなければ荒地にも強いのでしょうか?アンデス原産です。
投稿: ふゆみ | 2017年5月10日 (水) 10時38分
さばっちさん。久々っす!
いや、アンデスの原種に近いトウモロコシも基本的に乾燥保存ですから(アメリカ資本が遺伝子登録で狙ってるとか)、ちょっと違うと思います。カロリーを澱粉か糖のどちらかで保存するかの違いだけですから。。
ednakanoさん。
確かに米作中心の日本ではトウモロコシは夏の「おやつ」感覚になって半世紀以上経ちますけど、世界の「主要穀物」としては「米」「麦」に迫る3大穀物です。
ふゆみさん。
私もこの写真見て頭がクラクラでした。
こんなことやるなら雑穀の「キビ」でも植えた方がよほどマシでしょうに。。
モチキビどころかモチモチの木こと「栃の木」で山を緑化して木の実で手間がかかっても「トチモチ」でも作ったほうがよっぽどよいでしょう。あれは美味いもんです。
手間がかかるといっても「ジャガイモ米」なんかよりずっと簡単です。
そういえば、北朝鮮は栽培が比較的に簡単なジャガイモすら「水害」でまともに採れないようですね。。救いようが無い状況のようです。
投稿: 山形 | 2017年5月10日 (水) 12時56分
ネットの記事だったと思うのですが、日帝統治以前の朝鮮半島の写真が載っていて、そこには、燃料として木材が伐採され尽くして、無残にも裸になった里山の風景が写っていました。そんな山に、木を植えずにトウモロコシを植えたのですね。自分の常識では恐ろしいです。山が壊れるの当たり前ですね。ちなみに、北朝鮮の山並みってどんなかんじなんでしょうか?米軍がオスプレイの飛行訓練区域に指定しる九州や四国中国地方の山並みみたいな感じなのでしょうか。それ思うと自分の近くの山並みが丸裸なのは怖いです。ただ、最近は、木材需要(特にバイオマス関係?)の高まりなのか、結構、丸裸な山々が多くなってる気はします。
投稿: 一宮崎人 | 2017年5月10日 (水) 15時54分
農業や林業の重要性を改めて教えられました。
愚策によって自滅の道を辿る共和国ですね。
日本はハゲ山の逆で、林業管理が放棄され伸び放題の荒れた山林が災害を大きくしていると聞きますけど。
先月でしたか、ブクブク太った体できのこ栽培施設や鯰の養殖施設を視察する映像がテレビで流れてました。
こんなことで国民の食糧難を打開出来るのかと思っておりましたが、昨日今日の記事を読む限り焼け石に水で無理ですね。
植林や治水が最優先でしょうに、海外での出稼ぎ労働の収入などを核やミサイル開発に費やす愚かさに気付かない独裁者かぁ。
投稿: 多摩っこ | 2017年5月11日 (木) 02時50分
それよか、今我が国の地方では例の太陽光発電パネルが里山や斜面を覆い尽くそうとしていますね。当然ながら山の樹木を伐採して稚拙な土台でいい加減に建てられているのが多い訳で、あれが毎年我が国を襲う集中豪雨や台風でパネルごと崩落して付近民家に被害を与えるのかと思うと、とてもじゃないけど北朝鮮を笑えませんね。
投稿: 守口 | 2017年5月11日 (木) 09時38分
守口氏とやら。そのとおりです。太陽光パネルは自然破壊となっています。
それについてはかつて記事にしています。
再エネ法をむりやりとおしたのは民主党政権下の菅直人氏だということをお忘れなく。
そして反原発派の皆さんがそれを応援したこともお忘れなく。
再エネの持つ危険性についての批判はたくさんしていますので、過去ログを検索してください。
「それよか」という言い方ひとつで、なにもかも同列にしてしまう論点そらしは、よくありませんね。
私は我が国の森林政策に問題がないと言っているのではなく、北朝鮮農業政策と環境保護がデタラメだと書いているだけです。
こういう書き方をケチつけとか、論点ズラシと呼びます。
まじめに考えたらいかがですか。
投稿: 管理人 | 2017年5月11日 (木) 09時47分