口蹄疫対処 英国の叡知 日本の無能
前川喜平氏が言いたかったことは「行政が歪められた」ということです。あと色々と言っていますが、無視してかまいません。
前川氏の怨念は、官僚主権で取り仕切ってきた行政が、政治家によって「歪められた」という一点から発しています。
前川氏自身、朝日のように「首相がお友達を優遇した」とは思っていないはずです。
ただ、そう言っておけば俗耳に入りやすいので、メディアがヨダレを流して飛びつくと思って言っただけです。
この記者会見を聞いた竹中平蔵氏の発言です。
「最初から最後まで極めて違和感がある。今回の決定プロセスには1点の曇りもない」「『行政がゆがめられた』と言っているが、『あなたたちが52年間も獣医学部の設置申請さえも認めず行政をゆがめてきたのでしょう』と言いたい。それを国家戦略特区という枠組みで正したのだ。
2016年3月までに結論を出すと約束したのに約束を果たさず、『早くしろ』と申し上げたことを『圧力だ』というのは違う」
同じく特区諮問会議の座長を務めた、大阪大学名誉教授・八田達夫氏もこう述べています。
「獣医学部の規制は既得権による岩盤規制の見本のようなものであり、どこかでやらなければいけないと思っていた。『1つやればあとはいくつもできる』というのが特区の原理で、1校目は非常に早くできることが必要だった」
まぁ、今回の獣医学部新設についてはそのとおりですが、私はひとつひとつ吟味していかねばならないと思っています。
200を越える規制改革メニューにも必要なものと、やっては危険なものが混在しているはずですから、是々非々て見ていかねばなりません。
さて、規制緩和は利権の温床となっている旧態依然とした制度を、より柔軟に変えていこうとするものですから、当然「壊した後」のことも考えていかねばなりません。
ではなんでも規制緩和してしまって、民間の市場原理に任せればいいのかといえば、私はまったく違うと思っています。
民間ではできないこと、地方自治体では力量不足なことを、国が国家的リソースを注いで対処していくべき案件も多いはずです。
その代表的事例が、口蹄疫やトリインフルエンザなどにみられる新型感染症や国境を越えて侵入してくる伝染病なのです。
国が越境型伝染病や新型感染症を徹底して「国の仕事」と認識して、そのシステムを作り上げた国があります。それが英国です。
NHKクローズアップ現代2010年6月7日放映より引用(以下同じ)
英国の口蹄疫対策が日本と決定的に違うのは、これを安全保障上の問題として認識していることです。
上の写真は英国の口蹄疫対処マニュアルですが、この冊子の中で英国は口蹄疫と確認された後のフローを明確にしています。
まず通報を受けた英国農務省(デフラ/DEFRA/英国環境・食糧・農村地域省)は、関係省庁である家畜衛生局、保健省、外務省、そして首相官邸など30箇所以上の組織に電話で連絡をとります。
農務省が保健省を呼ぶのは、新型感染症においては人間にも健康被害がでる可能性かあるので分かりますが、官邸と外務省までもが招集されていることに注目してください。
また当然、国防省や警察も連絡官を派遣していると思われます。
これを見ると、英国はしょせん家畜のことだと見くびらずに、国の安全保障上の<脅威>だと認識しています。
つまり英国は越境型伝染病は、「外敵の侵略」だと考えているわけです。
だからこそ、国家が自らのリソースを全力動員して、初期に制圧しようとしているわけです。
一方、日本の宮崎口蹄疫事件においては、動物衛生研究所で口蹄疫が確認された段階で、通報を受けたのは県と農水省消費・安全局のふたつだけです。
もちろん首相官邸にも、ましてや厚労省や防衛省、警察庁などは初めからカヤの外でした。
ハト首相などは「県外」で頭が一杯でまったくの無関心、農水大臣は赤松氏というゴチック活字の無能な人物だったせいもありますが、後に30万頭を殺すことになる口蹄疫対策の初動としては、お粗末を通り越して絶望の一語に尽きました。
ちなみに公平を期すために言い添えますが、同じ民主党政権でも赤松氏の後任の山田正彦氏や篠原孝副大臣は極めて優秀な人材で、彼らがいなければ制圧ははるか後までズレ込んだはずです。
それはさておき、ここでも農水官僚たちはセクト主義をいかんなく発揮します。
口蹄疫は農水事案だから、当然のこととしてオレら農水が権限を持っている、他の省庁などにクチバシを突っ込ませるものか、ということです。
だから情報をひとつの省で抱え込んで平気なのです。
そして官僚からすれば、大臣など「腰掛けでいるお客」にすぎませんから、4月20日に口蹄疫を確認しておきながら、なんとその8日後の28日には赤松大臣は半分レジャーのカリブ海外遊に出発してしまっています(苦笑)。
特に英国を引き合いに出すまでもなく、行く大臣も大臣ですが、行かせた農水官僚も官僚です。彼らの脳味噌には腐ったヘドロが詰まっているようです。
かくして、口蹄疫を封じ込めるための国道や空港の消毒体制作りなどの管理統制の権限を持つ国交省は、「オレの権限事案じゃないもんね」と知らぬ顔を決め込んでいたようです。
ましてや、後に殺処分で動員される自衛隊など、カヤの外も外でした。
その上に、当時の家畜伝染予防法(家伝法)では、防疫の要となる殺処分の権限は県知事にあって、東国原知事は頑としてその権限を握って離さずに国と張り合って遅らせる始末ですから、目も当てられません。
このような状況を、国家の機能不全と呼びます。
昨日私は「防疫軍」と書いて驚かせてしまったようですが、英国の対処方法はまさに「軍事行動」を彷彿とさせるものです。
長くなりますので、次回に続けます。
最近のコメント