首相はなぜ謝罪したのか
昨日の記事の捕捉をします。
謝罪する必要などないという意見を多く頂戴しました。
おっしゃることは理解できます。あの事件を一種の冤罪事件と考えている国民にとってはすべきでなかったと考えるのは、当然のことです。
私もそう思っています。8秒間も頭を下げる必要は、論理的にはありません。
では、そこまでしてなぜ首相は謝罪・反省をしたのでしょうか。
その理由は、舛添前知事のケースと比較してみるとわかります。
舛添氏もメディアの格好のオモチャにされて、週刊誌やワイドショーで連日面白おかしく、「子供の絵本を公費で買った」「公費で旅館に行った」ていどのネタで蜂の巣にされていました。
舛添氏には特に政策的にミスがあったわけではなく、辞任せねばならないような理由はなかったはずです。しかし、 舛添氏に対する批判は、公私混同から始まって、「結局あんた、自治体外交とかにうかれて、なにも都民のために働いていないじゃないか」と思われたことです。
まともに汗をかいていれば、政治資金の使い方に多少の公私混同があっても有権者は気にしなかったでしょう。
ここが、嫌われ度からいえばダントツの石原氏との大きな差で、石原氏はさぼっていようと、傲慢だろうとやるべきことはしていました。
ところが舛添氏は初動対応を間違ってしまったために、「もっと大きな疑惑を隠している」という疑念を国民に植えつけてしまいました。
「疑念」とは不定形です。形がある物証があって、違法行為だとされるようなものではないから、逆に晴らすのが難しいのです。
もちろん、そう印象誘導したのはメディアです。しかし、そんなことを言っても仕方がないと思います。
メディアの正常化は絶対に必要ですが、今、可能でしょうか。はっきり言って、現時点では彼らの情報独占を崩すことは不可能です。
今はメディアのあり方についての世論の構築を急いでいる初歩的段階で、ファクトチェック機関も立ち上がったばかりです。
このようなメディアのあり方を問い、メディアによる情報独占を変えていくムーブメントがもっと成熟をしないと「正常化」は無理です。
今ここで、メディアの正しいあり方が前提条件になると、いわば百年河清を待つことになりかねません。
舛添氏もメディアが狡猾に仕掛けた蟻地獄にスッポリ入って、言い訳をするたびに、みずから墓穴を掘っているような状況でした。
そして追い詰められて第三者委員会もどきを作ったのですが、裏目に出ました。
私はあのときに弁護士ではなく、危機管理の専門家に相談すべきと思って見ていました。
弁護士は法律屋ですから、違法があるのかないのかに焦点をあてます。国民というか、この場合は視聴者ですが、彼らにそんなことは関係ないのです。
関心は、一に「おい、舛添、このもやもやした公私混同問題を晴らせ」ということです。
一方、危機管理の目的は法的な対処ではありません。危機的状況の拡大を止めることです。
そのために法的対応もする場合があるのであって、それ自体が目的ではないのです。
さて安倍氏も、舛添氏と似たような蟻地獄的状況に陥っていました。
同じような初動ミスをして、同じような危機対応の失敗を連発しました。
危機管理が得意なはずの安倍氏とも思えない硬直した対応ぶりで、おそらく身に覚えのないことを一方的に言われ続けたために、その不条理に内心怒り心頭だったのでしょう。
つまり途中まで、安倍氏と舛添氏は同じ対応をしてしまっていたのです。
おそらく謝罪しないで推移した場合、支持率は下降を続け安倍政権は年内に終了する可能性すらありました。
まさに朝日・文春・TBS・NHKの思うツボです。
単に一政権の命脈に止まらず、北朝鮮の弾道ミサイル発射が連続して日本を見舞っても、このモリカケ疑惑から国民の視点は動かなかったでしょう。
この愚民政治の饗宴を、誰かがどこかで止めねばなりませんでした。
ここで首相がとった手法が、思い切った謝罪とテレビ行脚です。特に8秒間にわたって頭を下げた映像をお茶の間に送り込んだのは効果的でした。
首相のメッセージは、ここで愚民政治の祭を断ち切るということです。
そのためになんでここまでするんだ、ということをする必要があったのです。肉を切らせて、骨を絶つという格言そのままです。
危機管理としては、これ以上ないくらいに見事なパーフォーマンスだったと私は評価します。
当然のこととして、朝日はなにをしようと言い続けるでしょう。
ただし、お気の毒なことには、モリカケは弾切れです。今は、首相の便宜供与なんかどこかに吹っ飛んで、加計の粗捜しに終始しているようです。バカか。
謝罪にによって、局面は変わりました。
今後すべきは事実の検証による、被害の極小化です。
私は昨日書いたように、第三者委員会を作り、報告書を出すべきだとかんがえています。
このような客観的なたたき台かあれば、朝日・文春が「前川氏がぁ」と言おうどうしようと、その時は報告書○○頁を見てください、根拠のない噂はやめろで、一蹴できます。
実は、政府も答えていますし、公開された諮問会議議事録もあって、その上に閉会中審査の葉梨氏、小野寺氏、青山氏、そしてなにより当事者である加戸・前愛媛県知事自身の決定的ともいえる証言まで出揃っているのです。
しかし、メディアが「報道しない自由」、言い換えれば隠蔽をした結果、国民は知らないだけです。
一般社団法人日本平和学研究所によるhttp://housouhou.com/2017/08/06/1666/
上図のようなメディアによる悪辣な情報隠蔽があった場合、客観的叩き台がいるのです。
私がイメージしているのは福島第1事故の事故調報告書のようなものです。
あのようなものが出てこないと、噂の再生産になってしまって収拾がつきません。
福島事故の時は、政府事故調報告書が出て、ほんとうに討論しやすくなりました。私は当時、渦中にいたので、実感でわかります。
今回は福島事故よりはるかにシンプルですから、それほど時間はかからないでしょう。
日報に関しては、自衛隊という国防上の特殊性は大いに考慮すべきで、山形さんの危惧も大いに理解できます。(当初私は山形氏の意見と同じでしたもんで)
本来、まともな「軍隊」ならば、軍法会議で処理されるべき案件なのです。
さもないと防衛機密や、隊員の安全などが担保されません。
しかし、「軍隊」ならざる自衛隊にも、今できる事故発生時の情報開示はあるはずで、それを私は問うています。
他の第三者委員会と違って、セキュリティ・クリアランス(特定秘密取り扱い資格)の導入や特定秘密保護法の法的縛りが必要でしょう。
とまぁ、このような議論ができるのも、首相の謝罪という名の仕切り直しが効いたからです。
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前川氏の"内部告発"から始まったこの騒動。なぜこのような事態になったのか?この分析を謙虚にすべきと思います。第三者委員会やファクトチェックなど先走った対策ではなく、原因分析こそ重要です。
言うまでもなく、つまらない前川氏の告発ネタに食いつき、火に油を注ぎ込んだのは新聞,TV、そして週刊誌の全メディアでした。しかも全方位からの一斉攻撃でした。
一番の原因は安倍一強が、それぞれのメディアに生き苦しさを与えていたのではないでしょうか?そう、左から右まで内容やレベルは異なるものの、安倍一強を変えたい"共通の"空気があったのではないかと思うのです。
生き苦しさのレベル
レベル1・・・メディア対応が粗雑:横柄、傲慢 「読売」
レベル2・・・憲法9条改正に着手:平和主義の危機だ「NHK」「公明党」「自民党リベラル」
レベル3・・・立憲主義に黄信号:法治国家の危機だ 「朝日新聞」
レベル4・・・ネトウヨが支持母体の極右政権だ 「東京新聞」
レベル5・・・独裁者だ〜「共産党,社民党など左翼政党」
このような意味において、レベル1の傲慢さを解消する謝罪は必要なことだと思います。
投稿: 九州M | 2017年8月10日 (木) 15時01分
九州Mさん。今日はあまりコメントが来ないので、私から。
「先走った対策」といわれてしまった(苦笑)。
たしかにそういう側面もあるのですが、ちょっとかんがえてみて下さい。
政治というのは、宿命的に「走りながら考える」ことをせねばなりません。
だから今回の「危機管理としての謝罪」であったと思っています。
仮にいきなり故無く、ペンキをかけられたとします。
それを巡っての対応です。
①ペンキをかけられた理由はないとはねつける。
②ペンキを汚染をできるだけ少なくする対処をする。
今回の安倍氏の謝罪は②です。
一強は息苦しいといわれますが、かねがね日本政治は「強い政治」を望んできたフシがあります。
逆にそういう人にお聞きしたのですが、「一強」のどこが問題なのでしょうか?
政治主導は橋本氏が主導した行革から一貫して言っていますし、民主党はマミュフェストの一丁目一番地でした。
つまり、日本政党政治の「見果てぬ夢」だったわけです。
それがやっと実現してみれば、今度は息苦しいはないでしょう、と私は思います。
それができたのが、第2次安倍内閣内閣で人事局で政治任用を増やしたことです。
霞が関をコントロールすることに対しての反乱」が、「前川の乱」です。
投稿: 管理人 | 2017年8月10日 (木) 17時16分
安倍さんは、腹の中では「オイオイ、俺りゃあ何もして
ないんよ、謝ろうたって謝ることが無いんだよ」と思ってる。
でも、ここんところのポピュリズムを観て、「まっ、大人
の対応しないとしゃーないわ、政治家は人気商売だか
らな」「じゃ、こう頭を垂れて、シオらしく、じーと不動で
だなー、俺も役者やのぉ」
管理人さんが先日書いていたように、内閣が進化したので
はないでしょうか?真面目に現実的に実務をこなす今まで
のスタイルに、あまり賢くない(ズバリ馬鹿)大衆の心理にも
溶け込むスタイルを身につけようとするような。
私は一日に、「こんなヘマをして、俺はなんてアホなんだ」と、
3回はごちます。そんな私でも、今回のワイドショー化して
自殺したメディアのアホタレと、それをそのまま信じる目出
度いアホタレには参りました。
何故、ヒロシマ・ナガサキまで行かねばならなかったのか?
というナゾについて、今回の騒ぎで日本人の深層というもの
が少し理解できました。何のことは無い、感情が全てに優先
するのです。お隣には負けるけど。
投稿: アホンダラ1号 | 2017年8月10日 (木) 22時32分
珍しい日ですね。こんなにコメントがない日は。この妙な暑さ、梅雨が戻ったような天気のせいでしょうか。
と、いうことでもう一言。先には申し上げますが、私は安倍内閣で行われてきた秘密保護法や一連の安保法制、そして慰安婦合意など、ほとんどすべての政策を支持します。よく仕事をする内閣だと思います。
逆に言えば、仕事を一人でやり過ぎているのかもしれません。なにせ保守派の長年の夢であった、9条改正に手が届きそうなくらいなのですからね。
できる人に対するやっかみなのかもしれませんね。この空気の正体は。ただ慰安婦合意の時に言われていたことを思い出すべきでしょう。「右派の安倍氏だからこそ合意ができた」ことです。この論理で言えば、9条改正は左派・リベラルの立場の人にこそ、主導すべきこと(とっておくべきこと)なのかもしれません。
それから、もう一つ。小泉さんの時のことも思い出すべきでしょう。小泉さんはもう少し長く出来た人です。それなのに力を残しながら辞められたのです。引き時、辞め時はとても難しいことです。
私は安倍首相と同じような世代です。だからなのかもしれません。彼をとてもみじかに感じているのです。そう、なんでもかんでも一人でやるもんじゃないよ。ひとこと彼に言いたいのです。
投稿: 九州M | 2017年8月10日 (木) 22時46分