
snsnさんの3回目です。
内閣府から新しい経済統計が公表されました。
「ことし4月から6月までのGDP=国内総生産は、物価の変動を除いた実質の成長率が前の3か月と比べてプラス1.0%、年率に換算してプラス4.0%となりました。GDPがプラスとなるのは6期連続で、個人消費や企業の設備投資が全体を押し上げる形となりました。
内閣府が発表したことし4月から6月までのGDPの速報値は、物価の変動を除いた実質で前の3か月と比べてプラス1.0%となりました。この伸びが1年間続いた場合の年率に換算した成長率はプラス4.0%となりました。GDPのプラスは6期、1年半にわたって続いていることになり、6期連続となるのは11年ぶりです。
主な項目では、GDPの半分以上を占める「個人消費」が、雇用や所得の改善を背景に新車や家電製品などの販売が好調だったことから、前の3か月と比べて0.9%のプラスとなりました」(NHK8月14日)http://www3.nhk.or.jp/news/html/20170814/k10011099011000.html
http://www.nikkei.com/article/DGXLASFL14HTO_U7A810C1000000/
これ自体は、たいへんに素晴らしいことで、日本も数キロ先にデフレの長いトンネルの出口が見えたことは、素直に嬉しく思います。
とくに、実質国内総生産が前期比1%増、年率換算4%増になった原因として、長年懸案となっていた個人消費や設備投資などの内需に活発な動きが復活したことです。
その一方で、政府内部ではまたぞろ、この堅調な景気に乗じてプライマリーバランス黒字論=財政健全化方向を加速しようという動きもみられます。
とんでもないことであって、デフレ脱却の崖からようやく指がかかったにすぎない状況で、財政拡大=大型補正予算を回避すれば、元の木阿弥になるのは明らかです。
というのは、実質成長3%と名目成長4%は、GDPデフレーター(物価指数)1%増が、政府目標だったはずで、デフレーター変化率は前期比0.2%、前年比-0.4%と決して改善していません。
GDPデフレーター - Wikipedia
反アベノミクス論者が、デフレの加速によってデフレーター(物価指数)が下がり、実質賃金を押し上げただけだ、つまりはデフレ脱却したのではなく加速したのだ、という論法も部分的には正しいといえます。
長くなりそうなので、ここで止めますが、今、プラマリーパランス(※)黒字論=財政健全化論に騙されて、アベノミクスの前進を止めてはなりません。
※プラマリーパランス・財政収支において、 借入金を除く税収などの歳入と過去の借入に対する元利払いを除いた歳出の差のこと。
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■今、これからのアベノミクスに必要なこと その3 規制緩和
snsn
承前
3.規制緩和
本稿の最後はアベノミクス3本の矢③成長戦略→規制緩和です。これについては官邸のHPに成長戦略の資料がアップされていますね。http://www.kantei.go.jp/jp/headline/seicho_senryaku2013.html
この分野は経済思想史上の混乱があり、少し回り道ですが整理したいと思います。
(1)規制緩和に関する経済思想的なごちゃごちゃの整理
アベノミクスにおいて
①金融緩和、②財政出動が<需要>刺激策であるのに対し、③規制緩和は<供給>側の効率化であると言う性質の違い があります。
従って、①金融緩和②財政出動とは独立事象として実行することができます。
一部にはリフレ派は規制緩和を否定しているような見られ方もしますが、そんなことはありません。
マクロ経済学の野口旭教授は、「エコノミストの歪んだ水晶玉」(2006年)で、規制緩和を含む構造改革について必要なことであり賛同するとし、しかしそれでデフレを脱却できるわけではなく規制緩和は中長期的な成長ドライバーであると述べています。
かつてリフレ派が、小泉ー竹中構造改革を批判したのは、それだけで景気を回復させようとしたからであって”必要”な構造改革はやれば良いのです。
この規制緩和については市場の効率性を重視し、小さな政府を志向する、いわゆる”新自由主義”的な経済思想が背景にありますが、この”新自由主義”という言葉は相当不毛なレッテル貼り攻撃を受けてきたと言えます。
新自由主義の理論的な支柱であるミルトン・フリードマンについては、小さな政府、市場原理主義、人種差別主義者、保守派のナショナリストという イメージがこびりついており正しく理解されていません。
ミルトン・フリードマン - Wikipedia
シカゴ学派 (経済学) - Wikipedia
ミルトン・フリードマン
田中秀臣氏、若田部昌澄氏の考証によって明らかになって いますが、日本では宇沢弘文氏や内橋克人氏がフリードマンの悪評を流し人種差別主義者と断定したり、アメリカでも ナオミ・クラインが独裁者ピノチェトの顧問をしたと悪評を書いていますが、いずれもデマや誇張、曲解に基づくものです。
私の考えでは、左派知識人はケインズ型の大きな政府を志向する傾向にあるため、小さな政府を志向する市場原理は右派だという短絡的な認定に基づいているのでしょう。
経済学説の対立はあってしかるべきですが、デマはいけません。
経済理論的にみてフリードマンは”なんでも市場原理主義”ではなく、大恐慌の分析においては金融緩和と財政出動を主張しています(「米国金融史」)し、上で説明したような社会保障と税の統合を構想しましたのでケインズ的な側面を持っていた人物でもあります。
このような金融緩和を主張するフリードマンはマネタリストと呼ばれ、これまた変なレッテルが長きに渡り貼られることになりました。
単純な語感からは お金の亡者的なイメージもありましたが、マネタリストが主張しているのはアベノミクスの金融緩和と同じことですからなんら特異な思想ではないのですが・・・。
お恥ずかしながら、私自身若い頃は宇沢弘文ファンだったこともあり、フリードマンを批判する文章も読み、フリードマン=悪の権化というイメージ を持っていました。
しかしその後自分でいろいろ調べて実態がわかってきました。自戒を込めて言いますが、レッテル貼りには注意深くありたいものです。
(2)藤井聡・三橋貴明グループについて
自民党の若手議員の研究会で講師を務めるなど藤井聡グループ(青木泰樹、三橋貴明等)の存在感が増していますね。
特に三橋氏はネットなどで活発に情報発信していますね。
私は三橋氏の主張で、公共投資をもっとやれ、国の借金は問題ない、財政ファイナンスをやれなどについては全く同意見です。
というよりこれらはリフレ派が15年前から主張していたことであり、リフレ派にとっては馴染み深い政策パッケージになります。
しかしながら三橋氏の政策の底流に流れる思想面には非常に危ういものがあり、我々読者はそこに自覚的に彼の説を読むべきだと考えています。
このブログでも三橋氏の名前をよく聞くようになったので、一度私見ではありますが整理させてください。まず三橋氏は3本の矢のうち、公共投資にもっとも力点をおいています。
一方で金融政策については、やってもいいけど効果は薄いとし、規制緩和については完全否定です。
また注目すべきは、彼の言う公共投資は60ー70年代によく見られた旧自民党的公共投資型ケインズ主義であり、かなり古いタイプの経済思想が今蘇って きていることに驚きを禁じ得ません。
ここからわかることは、三橋氏は徹底的に統制経済型なのです。市場の機能をできるだけ排除したがるのです。
それがよくわかるのが金融緩和政策の評価です。
金利をコントロールするために日銀は国債を市場を通じて買っていますが、三橋氏はこれに反対であり日銀はダイレクトに国債を買えと言っています。
つまり、財政ファイナンスです。この財政ファイナンス自体は私も賛成なのですが、三橋氏の世界観が市場を通すことを徹底的に嫌うことがわかる事例でしょう。
この三橋氏の考え方を延長するとモロに社会主義になります。
政治信条としては、天皇を「国体」と認識しており、また強硬な反グローバリズム、対米独立論を主張します。
穏健派の中道右派とは言い難い極右思想の持ち主です。フリードマンを徹底的に嫌うのも、その考え方と整合します。
ただここは、三橋氏も意図的な(?)誤解があり、上で述べた通りフリードマンとケインズにはそれほど違いは ありません。(市場の歪みを”短い短期”で見るか、”長い短期”で見るかの違いがありますがそれはまたいつかお話ししましょう)
極右思想と社会主義というセットは、意外感がありますでしょうか?
いえ、実は戦前で岸信介とヒトラーが推進した政治経済モデルであり、珍しいことではないのです。
現在三橋氏に勢いがあるのは、批判勢力だからだと思います。
批判する人間は常に強い立場にいられる。しかし将来三橋的な世界観の政権ができた場合は、まず日本が社会主義になることを受け入れる覚悟がいります。
このような国家像は、私個人としては受け入れがたい。
従って現時点での三橋評価は、批判者としての論点は正しいが三橋政権になることは到底受け入れられないということになります。
(2)今後の規制緩和分野
今後巨大な産業になると想定されるのが人工知能(AI)です。
特に汎用型AIの分野は、第四次産業革命と言われており、ビッグバンになる可能性があります。
これについては゛人工知能研究者から経済学者に転じた井上智洋氏の著作が参考になります。
2030年ごろにはシンギュラリティと言われる技術的特異点に到達し、汎用型人工知能が商用稼働すると言われています。
これに向けて科学技術の投資を増加させる必要があるのですが、同時にいくつかの規制緩和あるいは規制の強化が必要となるのです。
まず、汎用型AIが自動車や列車、航空機の運転をできるようにする必要がある。
また介護や医療、手術などの分野も同様な検討が必要です。
それ以外にも要するに、人間の免許が必要な分野についても、汎用型AIで代替できるような規制緩和が必要になります。
一方で汎用型AIのリスクを鑑みた規制の強化、ルールづくりも必要でしょう。
汎用型AIが人間に対抗してきた場合の対応や個人情報の保護、汎用型AI間での対立などのリスク回避です。
遠い未来のことではありません。私も個人的にあるセミナーに出ましたが、法律家やエンジニアが真剣に議論しており、その時代の到来を リアルに予感させました。
重要な問題としては、相当数の失業者が出るということです。
「少子化が進むので深刻な労働力不足がー」といっている人がいますが、おそらく将来の事態は全く逆で、日本には労働力はなくともモノやサービスを自動的に生産し続けるような環境になるということです。
この極端な供給過剰の時代には、低金利、円安など大規模金融緩和が必要となるでしょうし、政府紙幣によるベーシックインカムも必要でしょう。
ベーシックインカム - Wikipedia
こう書くとSF的になりますが、その時代には汎用型AIがほとんどの生産をするので国民はアーティストのような人間ならではの仕事についたり消費をすればいいような時代になるかもしれません。
私が最後に汎用型AIを持ってきたのには意図があります。
汎用型AIについて読んでいただければお分かりの通り、ここでは金融緩和(円安、低金利)、財政政策(ベーシックインカム、科学技術投資)、 規制緩和(ルール緩和と強化)という3本の矢がバランスよく必要なのです。
言い換えると汎用型AIのような巨大産業の推進において3本の矢は互いに矛盾せず、排除し合う関係でもない、むしろ協力し合う関係性なのです。
3本の矢をめぐる無用な対立は終わりにして、新しい時代に向けた制度設計を考えたいものです。
以上最後は夢みたいな話になりましたが、このような前向きな話題で終わりたいと思います。長文読んでいただきありがとうございました。
(了)
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