シュワブ・ハンセン陸上案の可能性はまだ残っている
昨日の米国監査院(GAO)辺野古移設問題報告書について続けます。
残念ですが、小川和久氏も指摘するようにこの問題は日本政府、自民党、そして現地沖縄においてもほとんど理解されていません。
もちろん、「新基地の機能強化反対」などといっている反基地派は論外です。
移設された施設はシュワブの拡張であって、都市部の基地を過疎地域に移して、安全化を図り、同時に縮小しようという計画であって、あくまで代替施設にすぎません。
代替とはひとつを消滅させ、新たにその替わりのものを作ることであって、1のものを2にすることではなく、あくまでも1は1なのです。
いや1ではなく、代替施設は普天間の38%だそうですから0.38ですか。
http://asiareaction.com/blog-entry-2061.html
このての言葉遊びを得意とする反基地勢力と長年に渡って争ってきたために、本質が忘れ去られています。
普天間移設計画とは切り分けすれば、要は3つに尽きます。
①危険性を持った都市部の密集地から、海に面した過疎地域に移動させ、万が一の航空機事故に対しての安全性を向上させる。
②そのことを通じて、沖縄の米軍基地縮小計画を進めて、県民の基地負担を軽減する。
③緊迫する東アジア情勢に対応している、在沖米軍基地の機能を落さないで移設する。
①②については、政府も再三に渡って力説していますが、③の米軍基地機能についての言及はありません。
というのは、③は前提であって当然だという先入観がある上に、また今、それを口にすることで無用に県民を刺激したくないという気持ちが、政府関係者の中に濃厚に存在するからでしょう。
だからかえって、反基地派の「新基地の機能強化反対」という妄説が一人歩きすることになります。
「機能強化」されたのは、たかだか一部の通信施設や、海からのアプローチ道路を作ったていどのことで、基地全体の面積が大幅に減少した結果として、軍用基地としてたいへんに問題がある計画案になってしまっています。
小川氏はこう述べています。(国際変動研究所『NEWSを疑え!』第611号 2017年8月24日号)
「①辺野古は普天間の38%の広さしかない。
②辺野古は滑走路が短すぎて、輸送機や戦闘機が飛べず、運用できるのはオスプレイとヘリコプターだけである。つまり、平時から使いものにならず、海外災害派遣にも使えない。
③有事には、滑走路が短いことだけでなく、全体が狭すぎることが問題となる。有事には米本土などから海兵隊の航空機が沖縄に集結し、たとえば普天間関係だけでも300機といった数を収容しなければならない。(略)
辺野古は膨れあがる航空機を受け入れることも、兵員や物資を集積させておくこともできない。つまり、有事にも使いものにならない。」(太字は小川氏による)
東アジア有事において、米軍はグアム、ハワイあるいは米本土から、航空機、兵員、艦船の増援計画を発動します。
その時、航空機の受け入れ場所となるのが、在沖米軍基地です。空軍の航空機は嘉手納、海兵隊航空機は普天間に集結します。
1996年7月、在日米軍作戦部は嘉手納統合案の研究に絡めて、普天間の固定翼機を含めた基地機能の移設を目標に据えた技術評価を実施しています。
その結果、このような規模の収容能力が必要だという結論が出て、日本側に通知されています。
・普天間・・・平時71機 有事最大230機
・嘉手納・・・平時113機 有事最大390機
・嘉手納+普天間の有事の機数計・・・620機
※機数はあくまで目安で、増減はありえます。
民主党政権が出した嘉手納統合案が拒否されたのは、嘉手納に統合すると有事には実に5倍もの620機もの航空機を収容せねばならないことになり、物理的に不可能だからです。
ではこの普天間代替施設が、有事に来援を引き受けられないとなったらどうするのでしょうか。
上の代替施設の計画をみると、河走路が短いのが致命的であるだけではなく、航空基地としては大変に手狭なことがわかります。
来援機は機体だけで飛んでくるわけではありません。
航空機は精密機械なために、多くの整備スタップが必要です。それだけでは足りず、機体に武器・弾薬を搭載したり、燃料を入れたりする関係スタッフや資材まで派遣されてきます。
1999年に、沖縄から米軍のF-15が6機トルコに派遣されたときは、100人の整備要員が一緒に派遣されたそうです。
単純計算で一機あたり16名です。
この16人は機付整備員だけの数か、それ以外の要員も含めたものかわかりませんが、とまれ1機につき10名前後の要員も共に移動ししてくるわけです。
最大で仮に600機が増援されたとした場合、在沖米軍基地には実に約1万名の将兵と彼らが持ち込む資材が溢れるわけです。
うち海兵隊だけで3600名です。これだけの将兵をどこに収容するのでしょうか?
通常、米軍は戦時に際して航空基地に仮設住居を設営します。下の写真は湾岸戦争中、バーレーンのイサ空軍基地の一角に米軍が設営した仮設の居住エリアです。
このようなものを作る余分なスペースが、辺野古の代替施設にあるかどうか、よく計画概念図をご覧になって下さい。
まったくありません。通常運用だけでギチギチです。
普天間基地に着陸した大型輸送機C17 中型輸送機C130も見える
代替施設は、有事において来援する200機の航空機も、3600人のスタッフも受け入れる余地がないものです。
つまり、計画案では、有事は想定されておらず、しかもC-17やC-130といった中・大型輸送機も運用できない、ヘリやオスプレイの平時運用「だけ」のものなのです。
GAOは、3000人のスタッフを擁する世界最大の会計検査院です。
GAOは、高い専門性を持ち、議会の眼として厳しい監査をおこなっています。
「かつてGAOは、米海軍が29隻の建造を予定していたシーウルフ級攻撃型原潜を、あまりに高価で、冷戦終結後のニーズからして過剰性能と指摘。結局、3隻調達しただけで建造は終了しました。
GAOは、米空軍が1996年から最終的に750機の配備を予定していたF-22戦闘機についてもコストが高すぎると指摘。結局、製造されたのは試作機を含め197機でした」(同上)
日本のように専門性が欠落した馬鹿丸出しのメディアや野党が煽るのではなく、その使用目的と価格のバランスを掘り下げて検証するGAOは、米議会だけではなく政府にも強い影響力を持っています。
海兵隊トップ゚だったマティス国防長官は、当然、このGAO報告書を読んでいます。そして、代替施設が日米政府の政治的妥協の産物であることも理解しているはずです。
マティスの米軍随一といわれた頭脳が、どのような判断を持っているか知りたいものです。
まだ再検討のチャンスは残っています。
それは名護市長選において保守系候補がGAO報告書に基づいて、代替施設を海上にではなく、シュワブ・ハンセンの施設内に移転することを主張することです。
このことによって美しい海が守れるばかりではなく、名護市民・沖縄県民にとっても最善な選択だと訴えることです。
老婆心ながら、「全基地撤去」の現職・稲嶺候補に勝利するには、ただの政府案の現状肯定だけではかなわないと、私は思います。
政府は、辺野古再工事にめどがついた以上、正直言ってこの移設問題にはこれ以上関わりたくないと思っているはずです。
またそれを政府自らが言ってきたことの自己否定につながりかねないために、絶対に政府からは見直しを言い出せないのです。
沖縄現地、しかも建設予定地自治体からではなければ、政府は聞く耳を持たないでしょう。
今日の記事は保守の人たちに評判が悪いと思いますが、あえて書くことにしました。
それは、おそらく陸上案を再浮上させるためには、今度の名護市長選がほんとうのデッド゙エンドであって、次の知事選の時期には埋立工事がそうとうに進行しているとおもわれるからです。
願わくば、いったんいままでの経緯やしがらみを離れて、10年、20年先のことを考えて代替施設のことをかんがえられんことを。
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久しぶりにオジャマします。
前から感じている事ですが、、、
辺野古基地は将来「日本の基地になる」という観点も必要かと思います、、、必要なら後で「情勢にあわせて伸ばす」のも、戦略上重要かと思われますが、、、
投稿: | 2017年8月26日 (土) 10時28分
名無しさん(HN入れてね)、今のところそれはないでしょうね。
軍民共用は裁判所も言っていることですから、大いにありえるとは思います。
自衛隊もなにかしらの形で共用することはありえますが、在沖米軍が撤収でもしないかぎり残念ですが「日本の基地となる」ことはありえないと思います。
そしてそれが日本の安全保障にとって、いいことか悪いことかはまた別の問題です。
投稿: 管理人 | 2017年8月26日 (土) 17時17分
ありんくりん さん、陸上案にご執心のようですね。おっしゃるとおり、それが理想的なんだと私も思っておりました。過去形にしましたが、今は辺野古案でともかく完成してもらいたいと切に思っているのですよ。
これまで多くの国費を投入してまいりました。また、環境影響評価調査という難問も乗り越えてきました。これって、大変なエネルギ-がいるのですよ。ハンセンやシュワッブに変更すると、また振出しの環境影響調査から始めねばなりません。もう、ウンザリです。
辺野古に関しては、漁業権消滅のための膨大な補償費も個々の漁民に支払ってしまっているのです。これの返還の問題も起こりかねません。ですから、もう政府は後には引けないのです。
ただし、県民世論がまとまり陸上案で行こうとなるのであれば事情は違っても来るでしょう。しかし、これは可能性としては薄いと思います。左翼はどんな名案であっても、ただ米軍基地反対を唱え政府に対抗してくるばかりです。
政治的決着が辺野古案であり、これを完工するしかないのだと私は思います。
北朝鮮情勢を非常に心配しております。これの帰趨によっては政治状況はガラリと変わるでしょう。これはまた、将来において情勢が変わるというのではなくて、近いうちに何らかの大きな暴発的な変化が起こると予想しております。
その時には、まだ普天間基地が使えるわけで、対応は可能です。もう少し、情勢の変化を見てゆきたいと思います。それよりも、有事の際の日本側の対応を、法律で取り決めることが肝要だと思いますね。
投稿: ueyonabaru | 2017年8月26日 (土) 19時14分
稲嶺市長は、翁長知事のように元々の極左思想の持ち主では無いと、辺野古移設の一番の当事者である辺野古区の大城康雅前区長は言っています。稲嶺氏は名護市教育長時代から旧知の仲で、一緒に辺野古埋め立ての事業計画を練り、辺野古の発展を計画した「基地容認派」だった稲嶺市長は、陸上案が海上案に変わった経緯について誰より詳しいでしょうが、口が裂けても賛成はし無いし、ムシのいい話 振興費の活用でも20年間あまり生活が変わらない多数の名護市民では、ただ1つブレずに「新基地は造らせ無い」と言い続ける稲嶺市長三期目確定と見ます。
投稿: 宜野湾市民 | 2017年8月27日 (日) 08時30分
宜野湾市民さん。そうですね。稲嶺氏は久志の出身ですから東海岸の過疎・貧困状況をよく知っていました。
だから大城さんがいうように策定計画にも関わり、陸上案が海上案になったいきさつが、もっぱら県内の土木業者の利害に関わっていたこともよく知っているはずです。
岸本市長時代は教育長でしたから、なぜ容認したのかも熟知していたはずです。
だからこそ、こういう裏の裏まで知り尽くしていて、が故に共産党と組んで反対に回るという人がもっとも困るのです。
そして、おしゃる「名護市民多数派」は、過疎に悩む東海岸ではなく、市の中心で山ひとつ隔てられて基地からの影響とは無縁な西海岸の人々です。
神奈川県でいえば、横須賀と葉山の地理関係で、葉山に市の中心市街地があって、葉山住民が横須賀基地反対というようなものです。
ただ稲嶺さんも、翁長氏に負けないくらいの経済オンチですから、3期めが確定するとすれば名護市の経済的凋落は決定的となります。
なお蛇足ですが、翁長氏を極左というのは買いかぶりではないでしょうか。左翼でないのはむろんのこと、保守ですらありません。ただの無思想、無節操な人にすぎません。
私は翁長氏なら、真正の極左の山城氏や大田元知事のほうがよほど分かりやすくて、好ましいと思っています。
投稿: 管理人 | 2017年8月27日 (日) 08時54分
以前から管理人さんが訴えている陸上案についてこちらのタイトルを見てワクワクしながら読ませて頂きました。
現実的にあり得ないと思われる過去に出た案ですが私も個人的には僅かな希望を持っています。
昨日も辺野古から大浦湾をぐるりとシュワブ沖を眺めてきましたがフロートで囲われどの規模で埋め立てが行われるのかを計り知る事が出来ます。
しかし今、フロートを取り除けば元の大浦湾の風景に戻りますので後戻りは可能のように見えるからです。
市長が変わり現行案が見直されるといいなと思います。政治的問題に詳しくありませんし発言力もありませんが一県民として個人的意見を述べさせてもらいました。
投稿: ナビー@沖縄市 | 2017年8月27日 (日) 10時22分