北朝鮮危機 とりあえず「休戦」か?
北朝鮮をめぐって、色々な動きが一斉に起きています。
まず大枠から捉えていきましょう。
現在、米国と中国は、互いに政府声明という抜きさしならない形を避けて、一見非公式に見える媒体を通じた意思表明をし合っています。
いわば、米中が「文通」をしているようなものです。
まずは中国の立場からいきましょう。なかなか興味深いものがあります。
共産党外交機関紙「環球時報」社説(4月22日)です。
「今が中国政府にとって、戦争が起こった際に中国が取る、事前に確立された立場を米国に説明しておく良い時期だろう。北朝鮮政府が断固として核プログラムの開発を続け、その結果として米国が北朝鮮の核施設を軍事攻撃した場合、中国はこの動きに外交チャンネルでは反対するが、軍事行動には関与しない」
続いてもうひとつ。
「しかし、米国と韓国の軍隊が北朝鮮の政権を壊滅させる直接的な目的で非武装地帯(DMZ)を地上から侵略するならば、中国は警鐘を鳴らし、直ちに軍隊を増強するだろう。中国は、外国の軍隊が北朝鮮の政権を転覆させるのを座視することは決してない」
中国は自分の意志を、新聞を介して伝えることをよくするのですが、額面どおりに受けとめれば、こう言っていることになります。
①米国が北朝鮮の核ミサイル関連施設を攻撃することは容認する。
②北朝鮮への地上部隊の侵攻や、北朝鮮政権の転覆は容認しない。
そして米国の立場です。
「マティス氏は国防総省で開いた記者会見で、北朝鮮が米国を攻撃すれば「急速に戦争に陥る恐れがある」と述べた」(AFP8月15日)
https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20170815-00000005-jij_afp-int
マティス国防長官はこの発言に先立ち、ティラーソン国務長官との米紙ウォールストリート・ジャーナル(WSJ)への連名寄稿で、こう述べています。
①わが国が平和的に圧力をかける目的は、朝鮮半島の非核化で、米国は体制転換や朝鮮半島統一の加速には関心がないし、米軍が非武装地帯の北側に駐屯するための口実を求めているわけでもない。
②長きにわたって苦しんでいる北朝鮮国民は敵対的な政権とは異なる存在であり、彼らに害を与えるつもりもない。
③北朝鮮の挑発的かつ危険な行動について国際社会の考えが一致しており北朝鮮は止まらなければならない。
④米国は北朝鮮と交渉する意志があり、外交を通して北朝鮮に方針を改めさせることを優先しているが、その外交は軍事的選択肢に裏打ちされている。
⑤北朝鮮は平和への新たな道を選ぶか、さらなる孤立の道を選ぶか選択を迫られている。
つまりは米国は、北朝鮮の体制転換や南北統一の加速化は目指しておらず、北朝鮮の政権転覆には関心がないし、北朝鮮が核実験やミサイル発射などの挑発行為を直ちに停止すれば、北朝鮮と交渉する用意がある、ということです。
トランプ政権はグチャグチャで崩壊寸前だという人がいますが、その論拠はトランプ、ティラーソンとマティスが、勝手にしゃべっているということのようです。
私は違うと思います。彼ら3名は綿密な打ち合わせの下で、どこでなにを言うのかあらかじめ決めてしゃべっています。
勝手なことをしゃべって、追放されたのがバノンです。
たとえばマティスが原潜ケンタッキーの乗員への訓示で、「至急何かをしなければならなくなれば、君たちに頼ることになる」ときついブラフをかけると、直ちにティラーソンが、「米国民は言葉の応酬を心配せずに、安眠していい」とフォローして中和しています。
方や、軍事オプションをちらつかせ、方や平和低外交努力を強調しているというわけですが、この天秤に乗ってトランプがさらにもの騒がせなだめ押しをするという仕掛けです。
これを受けて中国商務省は8月14日の声明で、国連安保理の新たな制裁決議を履行するため、北朝鮮からの鉄鉱石や海産物などの輸入を15日から停止すると発表しました。
北朝鮮の工業基盤はなきに等しく、外国からの輸入で核ミサイルのエンジン部品を買うしかありません。
そして買うためには、あたりまえですが、北朝鮮紙幣を持っていっても「便所紙をもってくるな」と爆笑されるだけです。
必要なものはドルです。この貴重なドルを調達をしている主要相手国が中国です。
いままで米国が今やろうとしてきたのは、直接的なミサイル開発に関わった企業・個人の資金の凍結でした。
今回は核ミサイルに関与していようがいまいが、北朝鮮のドル獲得手段であった貿易そのものを対象としています。
この米国の厳しい対応に、中国が「乗った」ことになります。
さて、米国が朝鮮半島危機において二度と繰り返したくないと考えているのは、かつての朝鮮戦争のパターンです。
朝鮮戦争 - Wikipedia
北朝鮮が戦車を先頭に立てた電撃作戦によって圧倒的優位に立ったのは初期だけのことで、仁川上陸作戦以降、北朝鮮軍は壊滅的な状況に陥りました。
そして国連軍が鴨緑江に達した時点で、毛沢東は義勇軍という名で、78万といわれる膨大な人民解放軍を投入します。
こうして米軍は38度線付近に押し戻されたまま膠着状態を迎えて、現在「休戦」状態となっているのは、ご承知の通りです。
米国がもっとも恐れる事態は、ソウルが火の海になることではなく、中国が北朝鮮有事に軍事介入してくることです。
そのような場合、米中は相互に到達できる核ミサイルを持っているが故に、地域紛争から核を含む米中全面戦争にエスカレートする可能性があります。
このような事態は、両国共に回避したいことは確かです。
つまり、中国は北朝鮮の政体変更をしない、地上進攻はしないという2点で妥協して、北朝鮮に対する限定的軍事オプションは容認するとしたわけです。
これを聞いた正恩の顔をみたいものです。酒量が増えたという話もありますから、健康にはご注意ください。酒は持病の通風によくないですよ。
そして出てきたのが、この8月14日の発表です。
「朝鮮半島での軍事的衝突を防ぐためには、アメリカが先に正しい選択をして行動で示すべきだ。悲惨な運命のつらい時間を過ごしているアメリカの行動をもう少し見守る」
いつものように無意味にエラソーにしている態度は無視して、要は「休戦だ」と言っているようです。
これが一定期間の凍結にすぎず、本格的核武装の解除へと向かう一里塚になるとは思えません。当面のグアムなどに対する攻撃を控えさせたに止まるでしょう。
しかし、この「休戦」期間をフル活用して、様々な水面下での接触が続けられるはずです。
このような時期において、わが国ができることは限られています。
北朝鮮にグアム攻撃や、核実験をさせないような日米同盟の強固さを正恩にわからせることです。
また佐藤副大臣の、グアムに向かう核ミサイルはわれわれが落すという台詞はグッドジョブでした。
技術的には佐藤氏もよく知っているように、小笠原にでもPAC-3を持って行かねば不可能ですが、そういうひとことが米国民にアッピールします。
今は、そういうあいまいな「休戦」時期なのです。
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トランプ政権から影の大統領とも呼ばれたバノンが放逐されたことは歓迎することだと思います。
白豪主義に関する問題が噴出した今となっては遅きに失した感がありますが今までの中東諸国の人々の閉め出し問題などの多くの批判を受けた政策はバノンが中心となったものです。
北朝鮮問題に対応する上でも政権基盤が安定した方がよいわけですし
投稿: 中華三振 | 2017年8月22日 (火) 09時42分
第3次世界大戦は、ぜったいにはじまないでと願っています。今日の管理人さんの記事を読んで、最前線で、戦争を回避するためにがんばっているトランプ政権をはじめとする各国のリーダーたちの姿を感じることができました。
投稿: 那覇市民 | 2017年8月22日 (火) 10時35分
>必要なものはドルです。この貴重なドルを調達をしている主要相手国が中国です。
このところを見て思い出したのですが、昔、中国は年中ピーピー言う赤貧洗うが如き国でした。
それが今のような金満大国になれたのはニクソン元アメリカ大統領が中国を国際社会に招き入れ、焦った田中角栄が中国になびきヨーロッパがそれに続いていったためです。これら西側の資金と技術がなければ今でも中国はピーピー言っていることでしょう。
後にニクソンは「フランケンシュタインをつくったかもしれない」と言ったそうです。
結局アメリカが中国を育て、その資金が回って北の核・ミサイル開発になって日米(と世界)の安全保障を揺るがしている訳で、ニクソンにしても田中角栄にしても馬鹿なことをしたものだという気がします。
言っても詮無いことですが。
投稿: 駄馬 | 2017年8月22日 (火) 15時00分
独裁者は弱気になれません。弱気な独裁者は必ず見放さ
れ、裏切りを生むからです。常にゴリラ状態で胸をボンボン
と叩いていないと、ある時殺されるのです。
今回、めだか師匠のように「今日はこれぐらいにしといたる
わ」的な首領様ですが、このままでは国内に対して示しが
つきません。次は「おら、いてもうたろかー」のモードになる
のは間違いないと思います。
投稿: アホンダラ1号 | 2017年8月22日 (火) 17時29分
アホンダラ1号さん
「おら、いてもうたろかー」の意味はなんなんでしょうか?
独裁者は自分の性により、やはり暴発するのでしょか。考えられないことではありませんね。
アメリカが不意打ちをしそうなことも考えたりしていて・・・・・
投稿: ueyonabaru | 2017年8月22日 (火) 21時43分
私は関西人ではないのですが、吉本新喜劇ビイキなもん
で、つい関西弁を使ってしまいます(使いたい)。
だだし、正式には船場コトバなど関西弁も多種多様です
ので、本場ではネイティブに「お前、何処のモンや?」と
言われてしまいます。
【おら】
こら!
【いてもうたろかー】
「いてまう」は、ひどく痛めつけることを意味する関西
の言葉。「いってしまう」が元とされる。痛い目にあ
わせてやろうか?といった意味合いの、凄味を利か
せる表現。
「weblio 実用日本語表現辞典」より
独裁者の母親は大阪の在日でしたから、マジ「いてもう
たろかー」はそのまま通用するかも知れません。
投稿: | 2017年8月22日 (火) 22時17分
今回、北がグアム近海へのミサイル発射を実行しなかった理由について、様々な解説があり随分読みましたが、本記事が一番納得性が高いと思います。
今後、事態が長引けば長引くほど日本の戦力強化がポイントになって来るだろうし、期待されるものと思われます。
投稿: 山路 敬介 | 2017年8月22日 (火) 23時00分