山路敬介氏寄稿 沖縄県の政治状況と翁長知事の実相その3 「新風会」の凋落と、伸長する共産党の思惑
中国が東シナ海に600隻もの大漁船団を出したようです。
それを伝えるFNN(8月16日)です。
https://headlines.yahoo.co.jp/videonews/fnn?a=20170816-00000457-fnn-int
「沖縄県の尖閣諸島周辺へ向けて出港する、中国の大漁船団。武装した漁師が乗っている可能性もあり、尖閣の海が、再び緊迫している。
日本時間の16日午後1時、中国政府は東シナ海での漁を解禁。
この港を拠点としている、およそ600隻の漁船のうち、およそ半分が、沖縄県の尖閣諸島周辺に向かうという。
尖閣諸島周辺は、日本の領海の外なら、中国漁船による操業が認められている。
ところが、2016年は、200隻から300隻の中国漁船が押し寄せ、漁船とともに中国海警局の船も領海侵犯を繰り返す事態となり、当時の岸田外相が駐日中国大使を呼び、抗議した。
あれから、およそ1年。
2017年も、尖閣諸島周辺に向け出港した、中国漁船。
この映像を見た、東海大学の山田吉彦教授は「この船団はしっかりコントロールされた、統率した動きをとるものである。後ろに見える指示船と思われる船には、日本製のかなり高精度のレーダーが積まれていることがわかる。大きな規模の船団なので、滞在期間が長く取れる。中国の海域なんだということを定着させる思惑がある」と話した。
漁民によれば、距離や船の大きさに応じて、中国政府から補助金が出ていて、福建省から遠い尖閣諸島にも行きやすいという。
また、漁船には、「海上民兵」と呼ばれる武装した漁師が乗っていることがあるという。
漁民は「民兵か? いるよ。釣魚島(尖閣諸島)に行けば、あちこちにいるよ」と話した」
中国の「侵攻」の手法は、このような手順を踏むことは、いまや軍事要塞化されてしまった南シナ海でわかっています。
①少数の漁船による領海侵犯
②侵犯漁船数の増加とその恒常化
③中国公船の領海侵犯
④公船と指揮船に統率された大漁船団の領海付近の侵犯
⑤④の領海内侵入
⑥海上民兵の「遭難」名目の尖閣上陸
⑦中国と公船の「救助」
⑧日本海保との衝突
⑨中国軍艦の出動
現在は④と⑤の間のレベルにあります。
書きませんでしたが、⑩になれば、もはや海保では対応不能で、海自が海上警備行動をとらねばなりません。
このような漁船団と中国公船による実効支配を固めつつ、中国はこれまでも並行して進めていた軍事侵犯を行うことでしょう。
今さらいうまでもありませんが、尖閣諸島は「沖縄県石垣市登野城2390-94」という地番を持つ沖縄県です。
言い換えれば、この中国漁船団の「侵攻」は、沖縄県が管理する水域への「侵攻」でもあるといえます。
しかし、そのようなことはどこ吹く風とばかりなのが翁長知事なようです。
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■沖縄県の政治状況と翁長知事の実相 その3
山路敬介
承前
■ 翁長氏の支持母体「新風会」の凋落と、伸長する共産党の思惑
三回連続で敗退した首長選挙は「オール沖縄」の衰退を示し報道と異なるその実態を顕著にあらわしたましたが、去年の県議選と先月の那覇市議選の方は「オール沖縄」内の知事支持母体である「新風会」の壊滅的状況を明らかにしました。
つまり、全体的に「オール沖縄」は退潮し、オール沖縄内の共産党が伸びて新風会が著しく後退したという図式です。
新風会退潮の原因は明らかで、若手を中心とした多数派中堅以下の経済人の支持を失ったからです。
新風会は表向き、報道等により「辺野古に基地をつくらせない」としていたとされる仲井眞前知事の翻意・変節への反発から、県内保守勢力(主に自民党離反組)が分離・結集して成立したものと喧伝されて来ました。
ですがその実態は、かねてから水面下で小異な対立点をまさぐりつつ「仲井眞VS翁長」の絵図を欲した翁長知事実現に向けた実行部隊でした。
このようなハンパな保守勢力が共産党と組む場合、結果がどうなるか本ブログでは民進党への懸念を例に論じられて来たところですが、新風会はその典型的な失敗例となりました。
先月の那覇市議選におけるある新風会候補など悲惨なもので、後援会は「共産党と共闘するならば応援出来ない」とし、後援会は解散。とうとう出馬そのものが出来なくなり引退しました。
今や、会派としての那覇市議会新風会は消滅し、社・社・民に合流という憂き目となったのです。
まさに「内側から食い破る」、共産党の面目躍如と言ったところです。
共産党は公明党とは違うのです。そこに「話し合い」や「妥協」といった、緩いメンタリィーは存在しません。
選挙協力欲しさに、政策的妥協が成立する事のない共産党と共闘を欲したすえの結果は明らかで、積極的な自由主義的経済政策は打てませんし、国からの正当な補助金を要請をする事もままなりません。
翁長氏は経済政策について当初、「仲井眞知事方針の踏襲」というカタチで共産党にも一応これをのませましたが、続いて新規の色を出す事は困難な状況に追い込まれています。
さらに安慶田前副知事の失脚があり、憶測もありましたが断片的にも明らかになった事実からその経緯が語られる中で、深刻なオール沖縄内の確執の存在も浮かび上がりました。
県の経済政策が先行き左傾化・硬直化する見通しを懸念し、知事に失望もし、革新化する新風会にも見切りをつけた中堅経済人の不満があり、県を通さない「国との直接的なパイプ」を希求・要望して設立されたのが、安慶田シンクタンク「沖縄経済懇談会」設立の本当の趣旨です。
これは翁長氏が主唱して設立されたものではなく、しかし経済人の新風会からの離反や、「自民党への鞍替え」を最小限に食い止める意味で事後的に了承したもののようですが、これでも新風会の没落は食い止められませんでした。
鶴保前大臣の後援会設立なども同様、この流れにあります。
新風会から距離をおく支持者は経済人以外にもなお多く、現在新たに「おきなわ新風会」なる政策集団を設立などとの報道を目にしますが、長期に新風会が存続し続ける事は難しいと言わざるを得ません。
もっとも、元々「辺野古移設」以外は自民党と差異はなく、辺野古問題が収束すればその存在意味もありませんので当然です。
そこをわかって自民党との「色合い」をかえ、ゆえに「辺野古反対」に固執もするし、手元の一票をかき集めんとし、生き残るために新風会そのものが非自民的左傾化をしていく「悪循環のループ」は目も当てられません。
翁長知事は翁長知事で、新風会の退潮と比例して、その分を共産党をはじめとする革新系に支持基盤の埋め合わせを頼る以外にない状態に陥っており、それゆえ革新の主張を最大限とり入れた政策に傾くしかなくなっています。
革新系のうち特に共産党の目指すところは明確に「即時全基地撤去」であり、「日米同盟の撤廃」です。
共産党にとって、それらの主張を具現化させる為の第一歩としてのみ「辺野古新基地阻止」があるのであり、県が「辺野古反対」の主張を同じくするのであれば、当然に「本土からの金の流れ」を県みずからが遮断して主張に臨むべきである、というのが県民に隠されたその主張です。
これは、「やがて新風会勢力の伸長とともに、共闘しても共産党等を押さえ込めるだろう」とか、「共産党ともイーブンの話し合いや妥協が可能だろう」と考えた翁長知事の誤算です。
「腹八分、腹六分」のごとき甘っちょろい呼びかけは共産党には通用しません。
国を相手にした執拗なファイティングポーズは革新系支持者へ向けたご「機嫌取り」の演技ですが、強い指導力を演出する事で支持者や事情を知らない県民へアピールという意味合いもあります。
しかし、後者においては、もはや「国」との対決気分に嫌気がさした正常な一般県民に対してはモロに逆に作用してしまい、同時に「共産党」という沖縄政治の最もタチ悪い部分のみ引き出してしまう事になりました。
それに引きずられる形での、「現在の沖縄政治の混迷」がある、と見るべきです。
(続く)
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3回にわたる翁長知事の考察記事、興味深く拝見させていただきました。
今にして思うと潮目が変わり始めたのは宮古市長選挙で、あそこで候補者を一本化できれば革新候補が間違いなく当選していたでしょう。その後の副知事辞任も無かったでしょうし、浦添、うるま市長選挙もどうなっていたかわかりません。
知事の一番の問題点は自身の都合の悪い事に関しては相手に責任を丸投げして自身の責任を無かった事にしようとする政治姿勢です。
基地問題に関しては渡米までして積極的活動を行う一方、中国の領海侵犯に関しては「ないもの」として姿勢を貫き、那覇軍港移設も「あとは受け入れた浦添市で解決すること」として受け入れた側の浦添市長にゴタゴタを丸投げしました。
この言い分がまかり通るのであれば前名護市長や久志地区の区長が受け入れを容認したのだから辺野古移設はまったく問題が無いという事にもなるのですが…
「基地反対」と頑なに主張するだけでは前には進まないというのを大田元知事が身をもって証明したはずなのにそれと同じ道を歩もうとしているというか、主義主張と実行動がブレている分、比較するのも失礼ですね。
投稿: しゅりんちゅ | 2017年8月19日 (土) 09時54分
山路さんの分析は興味深くわかりやすいです。しゅりんちゅさんの意見にも同意。
何が嫌いって、私は翁長知事と新風会と民進党が大嫌いなので崩壊してくれるのは喜ばしいかぎりです。
那覇市議選では翁長知事の次男雄治氏が票を取り過ぎましたね。共産党みたいにうまく分配すれば、新風会の議席ももう少し増やせたでしょうに。翁長知事のために実働部隊として働いてきたのに落選の憂き目を見た方々の心境たるやどんなものでしょう。
昨年の県議選までは「翁長知事と共に」を全面に押し出して活動していた仲松寛氏、那覇市議選では翁長知事の気配を消したような活動を展開して那覇市議に復帰しました。
現職復帰した仲松氏や落選したもしくは立候補すらできなかった新風会元市議達は今後も「翁長知事のために」活動を続けるのでしょうか。
投稿: クラッシャー | 2017年8月19日 (土) 12時25分
しゅりんちゅ さん
「抵抗」と言う観点からすると、太田元知事の方が一本背骨が通ってましたね。
革新でも筋金入りの者たちはその点良くわかっていて、すでに翁長知事を見切っています。
ただそれは、極左は「翁長氏を支持しない」という事には結びつかず、「翁長知事はシュチエーションを盛り上げ、我々が実力行使に出る機会を作ってくれさえすればよい」と嘯く人間が多くなりました。
まだヤマは来ると思います。
投稿: 山路 敬介 | 2017年8月19日 (土) 23時08分
クラッシャーさん
落選した市議たちの動向は私が知る限りですが、自民党と近付いている人もいる一方、逆に革新側との接着を試みている人も多いようです。
どうも後者の方が多いような感じがします。
投稿: 山路 敬介 | 2017年8月19日 (土) 23時16分