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日本の核保有論争の背景

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まずは、広島・長崎への核攻撃で犠牲になられた方々へ、心から黙祷を捧げます。 

さて、広島市・長崎市の市長が「絶対悪としての核兵器」を批判し、ついで核兵器禁止条約を批准しない方針の日本政府を批判しました。
核兵器禁止条約 - Wikipedia

「松井市長は政府に対し、条約の締結促進を目指し「核保有国と非保有国との橋渡しに本気で取り組むよう」に要求。「絶対悪」である核兵器の使用は人類として決して許されない行為と断じた。
 安倍首相は式典で、核廃絶のためには核保有国と非保有国の参画が必要とし「わが国は双方に働き掛け、国際社会を主導する決意だ」と強調。面会では、被爆者団体の批判に対し「非核三原則を堅持し、核廃絶の努力を続ける」とだけ述べ、条約不参加への直接の回答を避けた」(中日新聞8月7日)

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ではなぜ、日本政府が批准しないのでしょうか。 

理由は簡単です。世界の核保有国は一カ国たりともこの条約に加盟していません。下図の青色が加盟国です。

 

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核兵器保有国、別名・核クラブが加盟しない核兵器禁止条約など、たまに見かける「核兵器廃絶平和都市宣言」と一緒で、現実の有効性は皆無に等しいのです。 

ただし、ここで首相が「言及しなかった」という意味を考えて下さい。 

つまり、日本は外交カードとして、「核廃絶提唱国」というプラチナカードを手放す気はないですよ、ただし、今日本を守っている米国の核の傘まで否定する気はありませんよ、という微妙な表現なのです。 

「うんにゃ、奥歯に者のはさまった言い方をすんじゃねぇ、白黒はっきりしろ」とおっしゃるなら、日本は核兵器禁止条約に加盟するから、米国に対して核の傘をはずしてくれ、と要求しますか。 

中国や北朝鮮、そしてロシアもたいへんに喜ぶでしょうね。日本に対して核ミサイルをいつでも自由に撃てる権利を確保したも同然だからです。 

「いや待てよ、ほんとうに米国の核戦力は抑止力になっているのかわかんねぇぞ」とおっしゃるあなた、そう分からないのです。 

ある核戦略専門家が自嘲的に言ったように、「撃たれていないからあるのだ」としかいいようのない政治的・心理的なウェポンが、核兵器だからです。 

ですから日本は外交カードとして、「核廃絶」を叫びつづけ、いかに核攻撃後の広島・長崎が悲惨であったのか世界の人に知ってもらわねばなりません。 

こういうとなにか被爆者の悲劇を利用するように聞こえるかもしれませんが、日本が現時点で立てるスタンスがこれ以外ない以上、いかしかたがありません。 

一方日本も、自主核武装すべきだという意見もあります。純軍事的に見れば、核兵器を抑止できるのは、皮肉にも核兵器しかないのは事実です。 

ある国が核ミサイルで「日本を焦土化するぞ」と脅せば、一方も「ならばこちらも核で報復するぞ。死ぬ気でやれ」と答えるというのが、恐怖の均衡です。

こういう状態を相互確証破壊と呼びます。なんども書いてきましたね。これが米露、米中、中露、印パの間には成立しています。
相互確証破壊 - Wikipedia
 

この関係に米国を持ち込みたいのが、北朝鮮だということは先日書きました。 

広島・長崎市長は共に、この相互確証破壊のロジックを一回勉強してから、核兵器禁止条約うんぬんを言うことをお勧めします。現実を見ないでは平和はきませんから。 

北朝鮮がグアムを標的に核ミサイルを発射してやると息巻いています。

「朝鮮人民軍が発射する『火星12』は日本の 島根県、広島県、高知県の上空を通過する」「1065秒で3356.7キロ飛行し、グアム沖30─40キロの海域に着弾する」(8月9日国営朝鮮中央通信)http://www.sankei.com/world/news/170809/wor1708090021-n1.html

ブラックジョークの極みです。

両市長におかれましては、首相を批判する前に、北朝鮮に強く抗議してからにしてほしいと思います。

それはさておき、この両市長の対局にいるのが、自主核武装論者の皆さんです。 

米国頼みは不安だ、日本は独自核兵器を開発する技術力も財力もあるのだから、核兵器を保有しろ、と言っています。 

日本の核兵器についての法解釈をみてみましょう。 

政府は1954年12月22日の衆院予算委で、「自衛のための任務を有し、かつその目的のため必要相当な範囲の実力部隊を設けることは、何ら憲法に違反するものではない」(大村清一防衛庁長官の答弁)としました。 

これが「自衛のため必要最小限度の実力」という憲法解釈で、以後この「必要最小限」とはなんだという議論が活発に行われるようになります。 

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岸首相は、参院内閣委・1957年8月16日の藤田進委員長(日本社会党)に対する答弁で、憲法上保有可能な核兵器が存在しうる」と答える一方で、「核兵器は持たないということを明らかにしているのでありますから、その持たないために敗れるというようなことがありましても、それはやむを得ない」とも答えています。 

さすが安倍氏の祖父。どっちなんだ、といいたくなりますが、このどちらにもとれる認識は、日本政府の態度を以後も規定していきます。 

参院予算委、1978年4月3日の矢追秀彦議員(公明党)に対する、真田秀夫内閣法制局長官の答弁で、これが現行の政府解釈です。 

「核兵器であっても仮に右の限度の範囲内にとどまるものがあるとすれば、憲法上その保有が許されることになるというのが法解釈論」であるが、一方、「政策的選択の下に、国是ともいうべき非核三原則を堅持し、更に原子力基本法及び核兵器不拡散条約の規定により一切の核兵器を保有し得ないこととしている」。 

集団的自衛権のように「あるがない」と一緒で、核兵器保有は「出来るが出来ない」ということです。 

日本人だなぁと妙なところに感心してしまいますが、つまりは政府解釈の変更の余地を残しているというのが味噌です。 

これを捉えて、朝日新聞(7月25日)は、この政府見解について「『核保有 否定されず』脈々 政府解釈『必要最小限なら』学者から疑義」という記事を書いていますが、例によってちゃんと勉強していません。 

まず、1950年代の核保有論議の時代背景を考えてみませんか。 

当時は、今考えると空恐ろしいものがありますが、核爆弾を搭載して飛来する戦略爆撃機を落すために、対空ミサイルにも核を積むというトンデモの時代でした。 

同じように、核ミサイルを撃って来る戦略原潜にも、核魚雷や核爆雷で対応しようというぶっ飛んだ時代でした。 

当然のこととして、ウンカのように襲来する戦車軍団にも、地対地核ミサイルで吹き飛ばそうとかんがえていたわけです。

これは米ソが核戦争の恐怖を、日本人のように身を持って知らないということと、兵器の精度が大甘だったためです。 

ちなみに、戦略爆撃機にも原子炉を積んで飛ばすというイカレぶり、これが「アトミック・エイジ」です。 

落ちたらどうするんだァ。正気の沙汰ではありません。 

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このような陽気な狂気に覆われていた時代の産物が、1950年代の日本における核保有論争だったのです。 

ついでにいえば、ドイツなどが持っているニュークリア・シェアリングも、米軍機と同じ基地に核爆弾を貯蔵しておく必要から生れたもので、やはりこのアトミック・エイジの刻印を負っています。

それから半世紀。兵器の精密誘導技術の発達は著しく、もはや核兵器でチュドーンとまとめて吹き飛ばす必要性は消滅しました。

したがって、かつて「必要最小限の実力として」核兵器を考える前提そのものがなくなったのです。

日本の独自核保有については、ほかにも難点が沢山ありますが、今日はとりあえず政府解釈のみで止めます。 

 

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コメント

リアリズムで言えば、中途半端なルールはならず者に有利なだけですものね。心情と政治外交は別物です。

投稿: ednakano | 2017年8月11日 (金) 08時38分

 北朝鮮をアメリカが攻撃するかどうかが今のの関心事です。

 グアムにミサイル4発を発射すると公言した段階で、アメリカは北朝鮮を攻撃すると決心したのではないだろうか。攻撃は近いのかもしれない。

 アメリカが攻撃をしないで済ませば、アメリカは世界のリ-ダ-国家ではもうあり得ないだろう。

 先ほどBSフジのプライムニュ-スを見ていたら、共産党の小池さんは、北朝鮮に経済制裁を加えるべきだと言っていた。共産党は机上の空論(理想論)をいう政党だと言わざるを得ないと思った。北朝鮮への制裁を強くして行くと、北朝鮮は暴発するのかもしれないのだ。暴発とは、隣国中国をも恐喝するような行動に出ることも考えられるということだ。

 石油は中国でも止められないだろう。過度の経済制裁は一種の宣戦布告にも相当すると言えるのだ。だから、中国は北朝鮮を生かしておかざるを得ないのだろうと思う。

 もしかすると、中国は、アメリカが北朝鮮を攻撃することを秘密裏に容認するのかもしれない。そして、ロシアは高みの見物でおればイイ立場にある。

 そんな風なことも考えている。近いうちにアメリカは動くのではないか!

投稿: ueyonabaru | 2017年8月11日 (金) 22時53分

ドイツといった主要国も不参加、賛成している国の多くが核の脅威からは蚊帳の外である南アメリカ・アフリカ諸国であることを考えると日本の対応は相応しいと思います。私からすると中国の脅威を一番感じているはずの東南アジア諸国が賛成に回ったのは失望ですが。

投稿: 中華三振 | 2017年8月12日 (土) 00時00分

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