北朝鮮に対する軍事オプションは中国の思うつぼなのか?
ぜんぜんコメントが入らない不人気なシリーズですが、山路さんのご意見を参考に、朝鮮半島情勢について、もう少し考え続けてみます。(われながらしつこい)
まず山路さんの、「中共こそが、ほぼ全ての国際問題の中心的根源地である、という共通認識を世界が持たない限り、あらゆる問題の解決はこの先もないかも知れません」、という情勢認識は同意します。
「ほぼすべて」というのがどこまで指すのかわかりませんが、アジアでは特に顕著であり、アフリカも各地の大虐殺の素地を与えたのがかの国であり、南米においてもその醜悪な足跡は残っています。
また朝鮮半島情勢が残念ながら、「現在のところ有利に事態を迎えているのは日米では当然ないし、北朝鮮でもなく、正に中露なんです」という指摘も、中国という部分は正しいと思います。
露となるとわかりません。ロシアは北朝鮮自体を作った創造主であり、毛に習って核を欲しがった金日成に核とミサイル技術を教え、プルトニウムすら与えた形跡があるという過去の因縁絡みです。
しかし現在どのていどの影響力が北朝鮮に残っているのかは不明ですし、プーチンの大国気取りは極東でも発揮されるでしょうが、なにぶん中国との国力の差が比較になりません。
おそらくプーチンは、口先介入しかできないでしょう。
さて悩ましいのは、次のことです。
「もとより正恩は速やかに除かれるべきだし、正直言って米軍による軍事攻撃に期待するのが私の本心ですが、それはそれで中共の思うツボだと思うわけです」
私は米国の軍事オプションを、出来るできないという次元ではなく、強く期待していません。
というか、私はむしろ米国の軍事行動には反対です。
それはえてして、日本人の他力本願の北朝鮮に対する懲罰願望でしかありません。
というのは、米国が北朝鮮に対して軍事攻撃をした場合、そのことによって本来はるかに大きい危機のはずの、中国との対峙関係が影に隠れてしまう可能性が高いからです。
ロイターhttp://jp.reuters.com/article/china-trump-idJPKBN1...
簡単に言えば、この間の「トランプ100日の空白」に現されているように、米国が北朝鮮を攻撃しようとすると、必ず中国の「承認」が前提となることです。
このことが多くの日本の論評では度外視されているために、安易に「さぁ、米空母が来たから開戦だ」といった浮ついた見方に繋がっています。
先日紹介しましたが、現在、中国はこういっています。
関連記事http://arinkurin.cocolog-nifty.com/blog/2017/08/post-6b5b.html
「しかし、米国と韓国の軍隊が北朝鮮の政権を壊滅させる直接的な目的で非武装地帯(DMZ)を地上から侵略するならば、中国は警鐘を鳴らし、直ちに軍隊を増強するだろう。中国は、外国の軍隊が北朝鮮の政権を転覆させるのを座視することは決してない」 (環球時報4月22日)
これを額面どおりに受けとめれば、
①米国が北朝鮮の核ミサイル関連施設を攻撃することは容認する。
②北朝鮮への地上部隊の侵攻や、北朝鮮政権の転覆は容認しない。
問題は②の「地上部隊の侵攻」という部分です。これは、米国が北朝鮮に対しての核施設を攻撃した場合、空爆だけにしろと言っていることになります。
お恥ずかしい話ですが、 実は私もダマされました。これを中国の攻撃容認と捉えてしまったのです。
しかしよく考えてみれば、それでは地上部だけの攻撃に終わり、地下深く設置されている核ミサイル貯蔵施設や、製造施設、そして司令部を破壊できません。
北朝鮮はかつての朝鮮戦争の折りに、米空軍の空爆の恐ろしさが身に沁みているために、祖父の代から重要軍事施設はほぼすべて地中深くに設置しています。
よく安易に米軍はバンカーバスター(地中貫通爆弾)を持っているから大丈夫だというひとがいますが、ナンセンスです。
地中貫通爆弾 - Wikipedia
バンカーバスター GBU-28は上図のように60m地下を破壊すると言われていますが、ではその目標地点を誰が指示するのでしょうか。
それは、潜入した特殊部隊が受け持ちます。彼らが場所を特定し、なんらかの方法で航空機に指示しなければどこに落したらいいのかわかりません。
また成果確認と残った施設の破壊を兼ねて、多数の特殊部隊を投入しなければ、ミッションは終了しないのです。
これはかつて、英米の特殊部隊を多く投入した、湾岸戦争時の「スカッド狩り」の時からなにも変わっていない現実です。
つまり、空爆と地上部隊侵攻(ないしは浸透)はワンセットであり、中国が言う「地上部隊の投入は認めない」とは、一見米国に妥協して、北を締め上げているように見えますが、実は「なにもするな」というに等しいことになります。
米国としては、中国に対して経済制裁の強化のみならず、一定規模の地上部隊の投入を容認するように頼まねばならないわけです。
さて、このように中国に頭を下げ続けているということが、いかなる結果になるのかは、「トランプ100日の空白」でわかりました。
米国は中国に対して制裁をしてもらうために、南シナ海において「航行の自由作戦」を手控えたのです。再開したのは、習が嘘をついてだましたことが発覚した後の話です。
このように考えてくると、北朝鮮に対する軍事オプションは、中国に対する力関係を弱める結果を招きかねない危険な誘惑だとわかります。
まさに山路さんの言うとおり、「中共の思うつぼ」なのです。
まずは地道に、今、安倍氏が言っているような石油の完全停止を徹底追及することが、急がば回れなのではないでしょうか。
なお、HN「通りすがり」氏のコメントに、「中朝は一枚岩」というコメントがありましたが、間違っています。
祖父の代から北朝鮮は、「大国の干渉をはねのける」ということを国是としてきました。
金日生の生涯は、延安派(中国派)との熾烈な内部闘争であり、援助は貰うが、干渉はさせない、というのが一貫した北朝鮮の外交姿勢でした。
それは3代目になると、いっそうプラグマチックなまでに鮮明になりました。
祖父の代にあった中国コンプレックスは消滅し、正恩は就任してから一回も外国に出たことのない特異な指導者となりました。
そしてあろうことか彼は、中国型改革開放経済を求めた叔父の張成沢を殺しました。兄の正男も張との関わりを疑って殺したのです。
そんな正恩が、「中国との一枚岩」を外交方針とするはずがありませんし、中国もまた、この夜郎自大の肥満児を忌み嫌っていることは有名な話です。
ですから、「北朝鮮の裏に中国あり。糸を引いているのは中国だ」と短絡して考えないほうがいいと思います。
正恩は中国も含めて大国に対抗できる核戦力を持つことを願望し、一方中国はそれが日米同盟を分断し、米国に対する「鋭いナイフ」の範囲で北朝鮮を利用しているにすぎないのです。
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イルソン爺ちゃんの時代は冷戦で中ソとも上手くやってたし、暮らしもまだマシだった。
ジョンイル父ちゃんの頃には冷戦崩壊してロシアはそれどころでは無くなり、ついでに親露派を粛清。国力を急速に高めた中国を警戒しながらもなんとかバランスとりつつ、一方でミサイル発射で激しく威嚇を始めた。(某新聞社による韓国の反日感情の高まりも利用)
さて、3代目の坊や。若くてやんちゃすぎて手に負えない。親中派の長老や身内まで手にかけて、中国ですら手を焼いてるって感じですかね。
中国としても、北朝鮮は「緩衝地帯」として、無くなっては困るわけで。。
で、肝心のアメリカの「震撼寒からしめた」かというと、実はアメリカ国民はハリケーン被害でそれどころでは無い。
もちろん軍や情報機関は備えて動いてるでしょうけど。
そういえば、独裁者の最も恐れるのが「暗殺」ですが、最近「斬首作戦」に備えてロシアから元KGBのプロを16人雇ったとかいう情報もありました。
投稿: 山形 | 2017年9月 3日 (日) 07時04分
中国は、北朝鮮を騒がせておいて、米国の関心をそちらにそらし、その隙に南シナ海や他地域で伸長しようとしているかに思えます。
素人考えですが、中国が裏で北朝鮮を援助しているとの共通認識を持ちつつ、北朝鮮は、世界に対する脅威だとして、多国籍軍で北朝鮮を取り囲んだらどうでしょうか?
投稿: アミノ酸 | 2017年9月 3日 (日) 09時07分
≫「まずは地道に、安倍氏が言っているような石油の完全停止を徹底追及することが、急がば回れ」
そのとおりなのでしょうが、そうしたものは「お題目限り」で、安倍総理あるいは日本外交には「それしか成すすべがない」と言った方が適切ではないですか。
誤解をおそれずに言えば今回の事態は日本にとって「好機」でもあるし、国際社会にその存在感を試されるケースにもなってます。
にもかかわらず、お茶を濁した程度の防衛費増額のみで、わずかな憲法改正論議すら温まってこない。
このような危機の中、日本が能動的にとるべき道は「核所有論議」を大っぴらに始める事しかないのではないでしょうか。
これは何も即座に「核武装せよ」と言っているのではなくて、もっとも嫌がる事をカードに使う事でもなければ中共は石油なんか絶対に止めません。
米国が実は、「中共の承諾なくして軍事行動に出れない」と言う見立てはその通りと思います。
そうであれば、米国の軍事行動はまさに「米中共同作戦的意味」を含む事になり、対峙関係どころか再接着を促す事にもなりかねません。
それは結果的に中共念願の「G2」を完成させる事にもなりかねないワケですが、そもそも何故米国が「中共の承認が必要」と考えるか? って事に問題の本質は帰着するのではないですかね。
その点、朝鮮戦争を始めとする歴史的背景を理由にする識者が結構多いのですが、そんなものは著しく中共寄りの考え方をしているか分別臭い年寄りのそれで、つまるところ米国は人命をカサに着て日中重要視する天秤にかける度合いが大きすぎるのではないか。
米国からみれば、要は日本は安倍政権下でも「米国の望むパワー」に近づいていない、という判断に寄っているのではないですかね。
現に日本の上空をミサイルは飛び交っており、いつ地上に落ちてもおかしくないです。
さらに正恩はこれからも、これを「やり続ける」と言っているわけです。
これを米国が看過するならば日米同盟の価値は相当薄まらざるを得ないし、そこにも中共の利益がある。
さらに今後、宮古海峡であろうが津軽海峡であろうが、中国戦艦や戦闘機が航行するくらいの事は日本は「もう慣れました!」と言って手もみする事しかなくなります。
話はかわりますが、考えてみれば北朝鮮と日本は重大に利害が一致するところもあるんですよね。
まさに「米中近接」は日朝の共通して忌避したい事柄です。
そこに活路があるのではないか? などとは言えませんが、着眼点としては面白いものです。
投稿: 山路 敬介(宮古) | 2017年9月 3日 (日) 09時54分
いえいえw不人気どころか、結構念入りに読んでいます。今回の北シリーズ。
管理人さんの本記事、山路さんやさや猫さんその他のコメントを読みながらあれこれぐぐっているので、自分のコメントする時間が無いだけです^^;
わたしも素人考えですが、大まかにいって北と中国はお互い利用しあっている関係だと見ています。
北は核戦略を持つことと、今の体制維持が主な目的、中国はアメリカ・日本その他の資本主義国家と直接対峙はしたくないだろうから、その間の「緩衝地帯」としての朝鮮半島が必要ですし。
あと、山路さんの、「中共こそが、ほぼ全ての国際問題の中心的根源地である、という共通認識を世界が持たない限り、あらゆる問題の解決はこの先もないかも知れません」。の部分は私も同じ認識です。
投稿: やもり | 2017年9月 3日 (日) 09時55分
うえの山路さんの
> 話はかわりますが、考えてみれば北朝鮮と日本は重大に利害が一致するところもあるんですよね←←←これ。
かんがえてみれば確かにそうだ。着眼点が面白いですw
投稿: やもり | 2017年9月 3日 (日) 09時59分
北朝鮮が6回目の核実験。
これでも各国は何も出来ず見ているだけで終わる。
国々の思惑はそれぞれ、制裁だ対話だとやってるのを横目に実験や開発は進む。
先日のように日本上空をミサイルが幾度も飛び、ICBMが完成してしまうのか。
我々は無力ですね。
投稿: 多摩っこ | 2017年9月 3日 (日) 14時42分
先日投稿させていただきました通りすがりです。
私の個人的主観に基づく意見で管理人さまの説を否定するものではありませんでした。しかしながら中国が日韓離間工作をする必要性の一つには、統一朝鮮と中国が核保有ともなれば日本は当然のこと、アメリカや潜在的に目の上のたんこぶであるロシアも抑えつけることができるでしょう。中国が北朝鮮の核保有を認めないという姿勢は建て前でアジア?世界?の覇権を握るために中国と北朝鮮は一枚岩と思います。中国が実は北朝鮮の核保有に賛成していると考えた場合、内政干渉にならないのでは。と個人的には思いますが管理人さまの分析もいつも興味深く拝見させていただいております。
投稿: 通りすがり | 2017年9月 3日 (日) 14時42分