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NHKスペシャル『沖縄と核』のヨタ

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先日のNHKスペシャル『沖縄と核』(9月10日)は、逆説的な意味で「タイムリー」なものでした。
http://toyokeizai.net/articles/-/187336 

もし、NHKが北朝鮮の弾道ミサイルが頭上を通過する時期に合わせたかのように放映しなければ、また意味も違ったでしょう。 

しかしあいにく、首都圏に鳥越氏の表現を借りれば「空襲警報」が鳴り響いた後に出してしまっては、お笑い草になってしまいました。 

Photo_2

 内容については、沖タイが放送直後の9月12日に、「ミサイル、沖縄で1959年誤発射「爆発なら那覇は吹き飛んでいた」という記事にしています。

「米軍統治下時代に核ミサイル「ナイキ・ハーキュリーズ」が配備されていた米軍那覇サイト(現・那覇空港)で、1959年6月19日、核弾頭を搭載したミサイルが誤って発射されていたとNHKが10日、報じた。
爆発はせず、那覇沖合に着水したミサイルは米軍が回収したという。沖縄タイムスは事故発生翌日の紙面に、米軍発表として「ミサイル発射寸前に発火」と誤発射を報じているが、米軍から「核弾頭搭載」との広報はなかったとみられる。「NHKスペシャル 沖縄と核」では、当時、整備担当の元米兵の証言として「核弾頭は搭載されていた」「発射に備える訓練中に兵士が操作を誤り、ブースターが点火した」「核爆発を起こしていたら那覇が吹き飛んでいた」との内容を放送。」
http://www.okinawatimes.co.jp/articles/-/140986

『沖縄と核」は副題に、仰々しく『沖縄と「核」の知られざる歴史』とありますが、ほとんど知られていることばかりです。 

強いて言えば、核弾頭装備のナイキ・ミサイルが事故を起こしていたということくらいなものですが、このスクープがヨタです。

まず、NHKは「核爆発をしていたら那覇が吹き飛んでいた」などと言っていますが、燃えたくらいでは核爆発はしません。 

NHKには科学記者がいないのでしょうか。初歩的誤りです。 

こんなていどのことは別に科学専門家ではなくとも、少しネットを調べればわかることなのに、NHKは意図的に「那覇が核爆発で壊滅するところだった」などという流言蜚語を拡散したいとみえます。

核爆弾を蹴っても叩いても、はたまた弾頭を爆発させても、核爆発が起きる可能性はありません。 

なぜなら、極初期の広島型(ガンバレル方式)を除いては、インプロージョン(爆縮)方式と言って爆縮で起爆する方式だからです。 

Photo_4原子爆弾 - Wikipedia

マンハッタン計画の頃から、原爆の起爆方法には悩みがつきまといました。 

広島型の原爆の起爆方法は実に単純で、ウランを火薬でドカーンとぶつけるので、ガンバレル(銃身)方式と呼ばれていました。 

この方式はすぐに廃れました。なぜなら、危ないからです。

「ガンバレル型では元々臨界量を超える核物質が組み込まれており、核爆発事故の阻止のためには核物質の厳重な隔離が安全性につながるが、これは核物質を衝突させるという基本原理に反している。
このため、核物質の厳重な隔離構造とすることが容易ではない。事故や墜落などにより爆弾に衝撃が加わり、核物質同士が衝突・近接した場合に核爆発事故の可能性はあり、洋上に墜落し爆弾内部に海水が浸入した場合でも、
中性子の減速により臨界に達する可能性がある」
ガンバレル型 - Wikipedia

ね、大きなショックで核爆発をするようなものは怖くて使えません。そもそも運搬すら命がけなんですからね。 

ですから、極初期を除いて米軍はガンバレル式を採用しなくなりました。

「装置の大きさ・重量や核反応の効率、安全性の問題などにより、ガンバレル型の核兵器は初期の核兵器に用いられたのみであり、以降はインプロージョン型が用いられるようになった。アメリカ合衆国の核兵器では1950年代を最後にそれ以降実用化されていない」(同上)

一方、インプロージョン方式は、起爆コントロールが高度なために、仮に迎撃ミサイルで撃ち落とした場合ですら、起爆装置も破壊されてしまうために起爆しません。 

よく北の核ミサイルを迎撃すれば、核爆発が起きてチュドーンだという馬鹿なことを言う人がいますが、そんなことはありえないのです。 

もちろん、Nスペで言っていた1959年頃の核弾頭には、ガンバレル方式といった旧式の起爆装置は使っていませんから、海中に落ちようが、ブースターに点火しようが、火にくべようが、なんの関係もありません。 

Photo_5NHKスペシャルより

またこの番組で出てくる「核ミサイル」は、ナイキ・ミサイルといって迎撃ミサイルです。

確かにこの冷戦期には核弾頭を装備したナイキ・ミサイルも用意されていたのは事実です。(自衛隊も同型のナイキを使っていますが、とうぜん通常弾頭です)

これは原子力戦略爆撃機などという仰天兵器まで作っていた、アトミックエイジの産物でした。 

戦車には核地雷、兵隊の持つ大砲にも核砲弾、潜水艦にも核爆雷、飛んで来る敵爆撃機にも核迎撃ミサイル・・・、とこんな原爆花盛りの時代の産物にすぎません。

こんなことになったのは、今と違ってピンポイント誘導技術が幼稚だったために、まったくミサイルが当たらなかったからです。

ならば、そこらじゅうまとめて原爆でドーンだという、実にアバウトな発想から生れた時代の産物なのです。

ちなみに、北朝鮮が開発したと自称している「水爆」は、1950年代当時のやたら威力を大きくして悦に入る旧式の発想で、今このような発想を取る国は皆無に等しい状況です。

それはさておき、施政権が返還される前の沖縄には、一説で1300発の核爆弾が弾薬庫に眠っていたと言われています。

これもまた、哀しいことですが、時代の産物としか言いようがありません。

というのは、米国は現在、既に迎撃ミサイルはおろか、地上配備型および水上艦艇装備型の核兵器を米本土のICBMを除いてすべて廃止してしまったからです。

今、米国に残された核兵器は、海中からの戦略原潜搭載のSLBMと、空中からの戦略爆撃機搭載のものに限定されています。

つまり、半世紀も前の米国の核戦略を今思い出したように「暴露」(といっても知られたことばかりでしたが)してどんな意味があるのか、私には理解しかねます。

なお、当時、沖縄に配備されていた核兵器は、日本政府の沖縄返還の実施と共に撤去されました。

しかし、米国は欄外資料のように有事においては「持ち込ませる」ことを認めるようにという密約を日本政府に要求し、佐藤首相もそれに合意していたようです。

佐藤首相はこのように合意しています。

「極めて重大な緊急事態の際の米国政府の諸要件を理解して、かかる事前協議が行われた場合には、遅滞なくそれらの要件を満たすであろう」

一定時期まで(たぶん冷戦終了まで)この密約合意は有効だったようですが、皮肉にもそれは、今、日本で湧き起こりつつある非核三原則への懐疑を先取りしていたことになります。

先日書いたように、米国はすでに日本に核を「持ち込む」軍事的合理性を失っています。

一方、現在の日本の政治状況は、石破氏が述べるような議論があたりまえになりつつあります。

「北朝鮮による6回目の核実験を踏まえ、日米同盟の抑止力向上のため、日本国内への米軍核兵器配備の是非を議論すべきだ。
米国の核で守ってもらうと言いながら、日本国内に置かないというのは議論として本当に正しいのか。
(日本の非核三原則を踏まえ核兵器を)『持ち込ませず』というのと、拡大抑止力の維持は、本当に矛盾しないのか。そういう状況に日本は置かれているのではないか」
(日本による核兵器保有は)唯一の戦争被爆国である日本が持てば、世界のどこが持ってもいいという話になる」

石破氏はどうにも好きになれない政治家ですが、この問題ではほぼ同意見です。

ただし、それは半世紀前への逆行ですから、力のある政治家が与党内をまとめきり、さらに国民に納得のいく説明をし、それを背景にして米国とネゴシエーションできる実力がないと無理ですよ、自民党内からも信用されていないあなたにできますか、と申し上げておきます。

                  ~~~~~~~~

■[文書名] 一九六九年十一月二十一日発表のニクソン米合衆国大統領と佐藤日本国総理大臣による共同声明に関する合意議事録http://worldjpn.grips.ac.jp/documents/texts/JPUS/19691119.O2J.html

[場所] ワシントンDC
[年月日] 1969年11月19日
[出典] 外務省,いわゆる「密約」問題に関する有識者委員会報告書,74-75頁.米合衆国大統領

 われわれが共同声明で述べたとおりて、米国政府の意図は、実際に沖縄の施政権が日本に返還されるときまでに、沖縄からすべての核兵器を撤去することである。そして、それ以降は、共同声明で述べたとおり、日米安全保障条約と関連する諸取決めが沖縄に適用される。

 しかしながら、日本を含む極東諸国の防衛のため米国が負っている国際的義務を効果的に遂行するために、米国政府は、極めて重大な緊急事態が生じた際、日本政府との事前協議を経て、核兵器の沖縄への再持ち込みと、沖縄を通過させる権利を必要とするであろう。米国政府は、その場合に好意的な回答を期待する。米国政府は、沖縄に現存する核兵器貯蔵地である、嘉手納、那覇、辺野古、並びにナイキ・ハーキュリーズ基地を、何時でも使用できる状態に維持しておき、極めて重大な緊急事態が生じた時には活用できるよう求める。

 日本国総理大臣

 日本国政府は、大統領が述べた前記の極めて重大な緊急事態の際の米国政府の諸要件を理解して、かかる事前協議が行われた場合には、遅滞なくそれらの要件を満たすであろう。 

  

 

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コメント

当時の米軍兵の証言を切り刻んで証拠のごとく紹介した危険さを煽ったり、海兵隊の本土からの移駐をごった混ぜにして日本政府批判してみたりと・・・また酷い番組でしたね。

投稿: 山形 | 2017年9月14日 (木) 05時53分

確かに。
かつて7,80年代の日テレ森口豁ドキュメンタリー路線の焼き直しと見紛うくらい陳腐で時代錯誤な内容をこの時期に垂れ流すNHKの劣化にはもう歯止めが効かない。

投稿: 典助 | 2017年9月14日 (木) 08時23分

NHKのこういうひどい番組も、大衆に与える洗脳力はまた格段に大きいのです。

沖縄の「反米」精神を本当にどうにかしないと、台風まで「米国がつくった」と言う始末ですから。

投稿: かつて… | 2017年9月14日 (木) 08時42分

本当に中身も新味もないつまらない番組でしたね。

典助さん。
70~80年代なら日テレも「木曜スペシャル」で「零戦特集」やフィリピンのジャングルから「彗星」を持ち帰って組み立てたり(いろいろ問題あれど、靖国にあるやつ)、「中島飛行機・富嶽の夢」とか安っぽいなりに相当なもんやってました。当時T-38だったサンダーバーズの新人4番機だったパイロットと家族の密着取材とか・・・まさか放送1ヶ月後にダイヤモンド編隊が接触して墜落全滅するとは・・・

かつて…さん。
それね。今更馬鹿馬鹿しいような内容でも、こういう時だけ「あのNHKが特集した!」と利用する連中。どうにかならんのかと。
今回のNスペは数年前にTBSだかテレ朝だったかが8月に組んだスペシャル番組(あれも酷かったけど)の劣化版でしたね。。

投稿: 山形 | 2017年9月14日 (木) 09時16分

管理人さま、ありがとうございます。核爆弾が簡単には爆発しないように設計されていることがわかり、私のもやもやが晴れました。

投稿: 那覇市民 | 2017年9月14日 (木) 12時48分

私は物理学にもドシロートですが、帰納法的に現在の状況
を見て、もし簡単に核分裂反応を起こせるのなら、もう世界
じゅうのアチコチでテロリスト達がドッカンバッカンと核爆発
させているし、どこかの国の軍の核兵器庫で誤爆事故が起
こっているハズだ、と想像していました。それなのに沖縄で
核爆発事故かも?とは、NHKはバカか嘘つきに違いないと
ハッキリしました。

今日の記事を読んで、珍しく私の推理が合っていたので
嬉しくなると同時に、増々NHKが嫌いになり、払ったお金
返して!と悲しくなりました。

投稿: アホンダラ1号 | 2017年9月14日 (木) 22時21分

 ブルムバ-グが下記の情報を4時間ほど前に流したそうです。

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 北朝鮮が核兵器を使用して日本列島を沈めるとの声明を発表した。
核・ミサイル開発による東アジアの緊張をさらに高めることになり、日本政府は反発している。

朝鮮中央通信(KCNA)は14日、「日本列島は核爆弾により海に沈められなければならない。
日本はもはやわが国の近くに存在する必要はない」とする北朝鮮の朝鮮アジア太平洋平和委員会による報道官声明を伝えた。

 菅義偉官房長官は同日午前の記者会見で、北朝鮮の対応について「極めて挑発的な内容で言語道断であって、地域の緊張を著しく高めるもので断じて容認することはできない」と批判。国連安全保障理事会による制裁決議の履行により、「国際社会全体で最大限の圧力をかけて北朝鮮の政策を変えなければならない」と訴えた。

北朝鮮は8月28日、日本上空を通過する弾道ミサイルを発射。9月3日には6回目の核実験を強行している。報道官声明は「日本列島をわが国のICBM(大陸間弾道ミサイル)が飛び越えても正気に返らない日本人に有効な一撃を加える必要がある」と威嚇した。

一方、聯合ニュースは、韓国統一省が国際機関を通じて北朝鮮に800万ドル相当の人道支援を行うことを検討していると同省の情報を基に報じた。21日に南北協力を巡る会合を開き、決定するという。

投稿: | 2017年9月14日 (木) 23時14分

 上はueyonabaruです

投稿: ueyonabaru | 2017年9月14日 (木) 23時15分

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